2011/7/15 日本経済新聞
放射性物質の汚染水、浄化に藻類活用 カネカなど粉末剤 コスト低下、東電が採用検討
カネカ、学校法人北里研究所(東京・港)などの産学グループは放射性物質を含む汚染水を効果的に浄化できる粉末剤を開発した。微細な藻類が主原料で、放射性物質の吸着剤である鉱物ゼオライトなどに比べ浄化能力は5倍以上で、廃棄物の処理コストも下げられるという。東京電力は福島第1原子力発電所の事故で発生した汚染水の浄化システム向けの吸着剤として採用を検討している。
筑波大学発バイオベンチャーの日本バイオマス研究所(千葉県柏市)が発見した藻類「バイノス」を主原料とする。バイノスは汚泥の分解を促進する微生物を活性化するビタミンB類などを豊富に含み、現在は汚泥や家畜のふん尿処理に使われている。
バイノス(Parachlorella sp. binos)は日本バイオマス研究所が発見した新種の微細藻類で、他の微細藻類(クロレラ等)と比べて、葉緑素が多いため光合成能力が非常に高い。
クロレラは厚い細胞壁を持っているがバイノスの細胞壁は薄く、細胞を守るためにアルギン酸を分泌する。アルギン酸は主に褐藻類にしか存在しない多糖類で、緑藻類をはじめとした微細藻類での分泌の事例はない。
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日本バイオマス研 究所が06年に発見した新種の微細藻類。細胞の80%を葉緑体が占めており、二酸化炭素(CO2)を固定する能力がクロレラに比べ5倍と高い上、細胞分裂 が約8時間と速いことから量産が可能。石炭と同等の発熱量を確保できる。アルギン酸様オリゴマーの回収後には損傷なく細胞体を得られることから、同社はこ の副産物を使った固形燃料化の研究に着手。09年8月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のイノベーション推進事業に採択されている。
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鴻池組と日本バイオマス研究所は、簡易な「し尿処理方法」として、新種微細藻類バイノスを増殖して製造された汚泥削減剤「BP2」を消臭や抗菌に用いる用途開発を行った。衛生面で深刻な問題を抱えている東日本大震災の被災地の避難所などに、在庫分1トンを無償提供する予定。
北里研や東邦大学、山梨大学の分析では、バイノスは約20種類の放射性物質を細胞に取り込む性質がある。福島第1原発事故で問題となってい るものと同等の高濃度汚染水1リットルに乾燥させたバイノス5グラムを投入すると、約10分でセシウムやヨウ素を40%、ストロンチウムを80%除去でき る。放射性物質の種類によって、ゼオライトなどの5〜20倍の量を吸着することも判明したという。
取り込んだ放射性物質は細胞外に溶け出さず、浄化後に脱水して水と放射性廃棄物を簡単に分離できる。ゼオライトを使う場合に比べ廃棄物量や処理コストも大幅に減らせる見通し。これらの作用の詳細なメカニズムは今後、解析を進める。
研究成果を受け、カネカはバイノスの培養体制を整備。食品素材メーカーのキミカ(東京・中央)がバイノスを直径3ミリ程度の球体に加工し、汚染水をためるタンクへの投入や回収がしやすいよう製品化した。吸着剤としての生産能力は月間1000トン規模を計画している。
創業は1941年。日本で初めて天然多糖類「アルギン酸」の工業的生産に成功し、以来60余年にわたりアルギン酸の専業メーカーとして、さまざまに変革する社会的二一ズに俊敏に応えつつ品質の向上、安定供給に努力
福島第1原発の汚染水浄化システムの一部にはゼオライトが使われている。産学グループは開発した粉末剤の採用を東電に提案。東電は処理を担当する企業と協議のうえ、実証実験を始めた。
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2011/6/30付 日経産業新聞
キミカ、アルギン酸100%でサプリ 放射性物質、体外排出助ける働き
食品などに添加するアルギン酸の国内最大手、キミカ(東京・中央、笠原文善社長)はアルギン酸を使ったサプリメントを開発した。アルギン酸には 放射性物質の体外排出を助ける働きがあるとされ、定期的に摂取することで、被曝した場合でも体内への残留を防ぐことが期待できるという。東京電 力福島第1原子力発電所の事故による健康への不安の声に対応し、供給体制を整える。
アルギン酸は昆布などの海草から抽出した天然食物繊維で、一般にはパンや麺の食感を良くする増粘剤や保湿剤の原料として使われる。血中コレステロールを低下させ、動脈硬化を予防したり血圧を下げたりする効果があるとされる。
また、アルギン酸には骨などに作用して健康被害をもたらす恐れのある放射性ストロンチウムと結びつきやすい性質もある。放射線医学総合研究所(千葉市)など国内外の研究機関が放射能の除去方法への応用を研究してきた。
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アルギン酸は、昆布やアラメなど褐藻類の「ヌルヌル成分」で、細胞間を充填する粘質多糖であり、沢山の金属と錯体を形成します。
しかもカルシウムよりもストロンチウムに対する親和性が大きく、不溶性の塩を形成するため消化管内の放射性ストロンチウムの吸収抑制剤・除去剤としての研究が行われています。
アルギン酸はカルシウム(Ca)との親和性が高いことが知られているが、カルシウムと似た挙動をとるストロンチウム(Sr)とも同様に錯体をつくり、不溶性の塩となる。 この性質を利用して、消化管内に取り込まれた放射性Srの体外排泄に関する研究が数多く行われ、ヒトでの実験においても、顕著な効果が認められている。
IAEAは緊急時には放射性Sr の排泄促進のために、1日5g/2回、その後1g/4回のアルギン酸ナトリウムの摂取を勧告しています。
化学者が「福島原発の汚染水を浄化できる粉末を開発」
仏原子力大手アレバが福島第1原子力発電所の放射性物質を含む汚染水の処理システムを提供することにな り、これまで復旧作業の妨げとなっていた問題の解消が見込まれる。しかし、ある日本の化学者は、汚染水の除染が可能とされる粉末を1カ月足らずで開発した と発表。この粉末を使った場合、アレバのシステムより20倍早く除染できる可能性があり、そうなれば、最終的な目標である原子炉の安定的冷温停止に向けた 作業が大幅に加速する。
この粉末を開発したのは金沢大学の太田富久教授。同教授によると、天然の鉱物と化学物質を混合した白い粉末は、汚染水に溶けた放射性物質を捕まえて 沈殿させるという。1000トンの汚染水の場合では1時間で処理できる。一方、アレバの処理システムによる放射性物質の除去は1時間当たり50トンの汚染 水。
太田教授は20日のインタビューで、沈殿のスピードが全く違うので、非常に早い処理ができる方法だと語った。この技術は汚染処理を専門とするクマケン工業(秋田県)と共同で開発されたものだ。同社は2008年以来、太田教授の開発した粉末を利用している。
太田教授は1週間ほど前、この放射性物質除去粉末の開発を完了した際、東電と政府に連絡し、現在も協議が続いているという。この件に関して東電と政府のいずれからもコメントは得られなかった。
同教授はアレバのシステムとの差について、化学構造の違いを理由に挙げているが、アレバによる処理について詳細を得ていないことから、それ以上の推測はできないとしている。同教授の技術は実験段階では実証済みであるが、実際に工業応用として利用されたことはない。
太田教授の技術では、汚染水中の放射性物質は粉末に吸着された後に沈殿していく。そして濁った部分の放射性物質は水と分離し、容器の底に堆積する。 分離した上澄み水は透明だ。実験では、放射性ではないセシウムを1~10ppmの濃度で溶かした水100ミリリットルに粉末を1.5グラムを入れた。(福 島第1原発での放射性物質の濃度は約10ppm。太田教授の開発した粉末は100ppmの濃度まで処理可能だという。)同教授によると、この浄化処理は 10分で完了した。さらに数千トンの水を同時に処理する場合でも10分を大幅に超えることはないということだ。
太田教授は、放射物質をほぼ100%除去できると見ている。
太田教授の考えでは、アレバが採用したような汚染水処理施設が数カ所建設され次第、今回開発された粉末はすぐにでも福島原発での汚染水処理に利用で きる可能性がある。実験では放射性物質が使われなかったが、化学的な性質は同じなので、実際に放射性物質の除去に使われた場合でも同じ結果が出ると、同教 授は胸を張る。
この粉末の開発期間は1カ月足らずと非常早かった。ベースとなったのは、通常は工場付近で見つかる産業汚染物や金属汚染物の混じった汚染水を除染す るために開発された類似粉末だ。太田教授はこの凝集剤の考案を6年前に始めた。マグネシウム、鉄、コバルトなどの重金属向けであったため、その化学成分 は、放射性同位体のヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムにも応用できた。そして、同教授はこの凝集剤を微調整して今回発表した粉末を開発し た。同教授は特許を理由に、正確な配合について開示しなかったが、原料は簡単に手に入リ、また供給量も豊富であると述べた。
太田教授はこれまで天然物質と環境汚染を専門に取り組んできたため、開発した製品が原発汚染で活用できるとは思っていなかったと語った。