週刊朝日 2014/1/17

原発ゼロでも石炭火力発電 
 コストが安く、地震に強い・・・ 炭鉱の町に再び灯がともる!

 ほとんどの原発が止まるなかで、石炭を使った発電に注目が集まっている。価格は安<、地震にも強いからだ。環境に悪いイメージもあったが、「世界最高峰」と称されるニッポンの技術力で克服しつつある。「黒いダイヤ」は輝きを増し、そしてそれを生み出す炭鉱の町が再びにぎわいを取り戻せるか---。

 「黒いダイヤ」が復活しそうだ。

 東京電力は昨年11月29日、福島県のいわき市と広野町に世界最新鋭となる石炭火力発電所を1基ずつ建設すると発表した。発電量は合計100万キロワットで、原子力発電所1基にほぼ相当する規模となる。

 この発電所は「石炭ガス化複合発電(IGCC)と呼ばれる仕組みを採り入れる。まず石炭を可燃性ガスに変え、それを燃やしてタービンを回す。さらに、ガスを燃やすことで発生した熱も利用して水を沸騰させ、蒸気で別のタービンを回す。つまり、ガスと蒸気を使って「ダブル発電」をするのだ。通常の石炭火力は蒸気しか使わないので、「IGCC」は発電の効率が高くなる。わかりやすく言えば、非常に燃費がいい車」のようなものだ。

 東電の新しい発電所は、2020年代の初めに運転を始める見込みだ。東電は、建設をはじめ1日あたり最大2千人の雇用が生まれることなどで福島県内の経済効果は1500億円に達するとしている。

 「エネルギー需要や被災地の復興を考えても、着工の前倒しが最大の急務だと思っています」(東電幹部)

 すでに「IGCC」は、国内で1基が商業利用されている。東電や東北電力などが出資する常磐共同火力の勿来発電所(いわき市)にある10号機だ。発電量キロワットで、昨年4月に運転が始まった。その8ヶ月後には、連続運転時間でオランダの発電所の持つ世界記録を大幅に更新する3,917時間を達成した。

 そもそも日本のエネルギー政策は、東日本大震災による福島第一原発の事故以降、見直しを余儀なくされた。原発の代替エネルギーとして、まず白羽の矢が立ったのは天然ガスを使った火力発電だ。いまでは、発電量全体に占める割合はほぼ半分にも及ぶ。

 しかし、この状況はあまり歓迎できない事態も招いている。

 「天然ガスの割合が5割にも達しているのは問題だと思います。ガスの産出国は天然ガスに頼っている日本の足元そ見て高値で売りつけている。価格を下げるためにも、石炭火力にも力を入れてエネルギー源を分散化させたほうがいいでしょう」(エネルギー・環境問題研究所の石井彰代表)
 なにしろ、石炭火力には、天然ガス火力よりも優れた点がいくつもあるのだ。

 政府の試算によれば、毎時1キロワットを発電するコストは2030年時点で天然ガス(設備利用率50%)が 11.7〜12.3円なのに対して石炭は10.3〜10.6円と割安だ。石炭は天然ガスよりも安く買えることが大きい。

 このとおりに発電コストを抑えれば、電気料金も安くできるわけだ。消費者としても、電気代の負担が減るのは助かる。

 一般に石炭火力といえば、黒い煙が出て環境に悪影響を与えるイメージが強いだろう。 しかし、日本の石炭火力は世界最高レベルの優れた技術を誇る。

 グラフ1 をご覧いただぎたい。これば、各国の石炭火力の発電効率を調べたものだ。数字が高いほど燃費がいい。ドイツや英国、米国と比べても、日本の技術力は突出している。

 有毒な物質を取り除く技術も他国とは比較にならない。グラフ2 のように、大気汚染の原因となる硫黄酸化物や 窒素酸化物の排出量も非常に少ないのだ。

 石炭の燃えかすがセメントや肥料などに再利用できる点も、環境に優しい。

グラフ1   グラフ2
 



天然ガスよりも燃えにくく 安全

 それに加えて、防災面でもいいという。『石炭火力が日本を救う』の著者、木本協司氏は「天然ガスの発電所に比べて、 地震に強い」と指摘する。

 「天然ガスのタンクは津波や地盤の液状化で倒壊や破損をすれば、大火災を起こす危険性が大きい。それに対して石炭を 保管する貯炭場やサイロは、石炭がなかなか発火しないことから、火災の可能性は少ないでしょう」

 これだけメリットがあれば、今後の基幹エネルギーとして、石炭火力の存在感が大きくなっていくのは間違いないだろう。

 東京工業大学の久保田宏名誉教授は、「原発が止まっている状況で、基幹エネルギーとなるのは石炭火力しかありえません」と断言する。そのわけは、
太陽光をはじめ再生可能エネルギーは実用化に費用も時間もかかります。しかも、発電効率が悪く、電気代に大きく跳ね返ってくる。技術が確立している石炭火力を有効活用すべきです」

 実は東日本大震災の直後、東電も石炭火力の増設を検討したことがある。だか、このときは実現に至らなかった。石炭は、天然ガスに比べると地球温暖化の原因とされ、二酸化炭素(CO2)をより多く排出してしまうからだ。

 霞ヶ関では、CO2の排出に歯止めをかけたい環境省と、エネルギー産業を所管する経済産業省との間で「深刻な対立」が起きた。

 「昨年1月から4月まで両省の間で激しい議論があった。そもそも立場が違いますから。それでも議論を重ねて、合意しました。石炭火力の環境影響評価の基準を見直すことで、新設や建て直しができるようにしたのです」(環境省の担当者)

 政府は昨年4月、その新たな基準を発表した。現在、商業用として運転する最新鋭の設備を「最低ライン」と位置づけ、その性能を上回ることを求めるようにした。東電の例のように、それまで事実上建設できなかったことに比べれば、「規制緩和」といえる。

 「最低ライン」とは横浜市にある電源開発の磯子火力発電所を示している。磯子火力は、前述した「IGCC」ではない。従来のタイプよりも石炭を高温・高圧力で燃やし、そこで発生した蒸気でタービンを効率よく回して発電力を高めている。燃やす石炭を少なくすることで、CO2も約2割減らした。CO2の排出問題は、「石炭火力の最大の弱点」と言われているが、技術力でカバーしつつあるのだ。

 では、肝心の石炭はどこから手に入れるのか。

 現在、国内で使われる石炭の大半がオーストラリアやインドネシアからの輸入だ。原油は政情不安を抱える中東からの輸入に多くを頼っているが、それに比べれば石炭の輸入元は安定している。日本から近いという地理的な条件は輸送料の安さにつながる。

 だが、石炭は国内にも多く埋蔵されている。石炭エネルギーセンターによると、現時点では経済的に採掘できる埋蔵量はほぼゼロだ。しかし、技術的に採掘できる可能性がある「残存埋蔵量」であれば約200億トンある。これは年間消費量の約100年分に達する。

 北海道では石狩地方、九州では筑豊地方などに多く埋まっていると推定される。もっとも、全国的な埋蔵量は56年以降、調査されていない。石炭会社が把握する埋蔵量を計算に含めれば、もっと増える可能性もある。

国内産の石炭に電力会社も注目

 この背景には、国内産石炭の「凋落」がある。安い海外産に押されて、国内の石炭産業は衰退した。生産量は戦後、1961年度の5,541万トンをピークに下降線をたどり、12年度は実に125万トンまで落ち込んだ。自給率はO.7%しかない。国内の石炭は残ったのだ。

 実際に、技術力をてこに国内の石炭産業が息を吹き返す「萌芽」も見えている。

 非鉄金属大手の三菱マテリアルの取り組みは、その好例だろう。子会社の北菱産業埠頭が北海道美唄市の炭鉱で採掘している。

 この炭鉱は、「露天掘り」と呼ばれるタイプで、地表に露出する石炭をショベルカーで掘っている。年間10万トンを生産し、石炭火力などで使われている。
 三菱マテリアルの担当者はこう話す。

 「大型重機によって採掘技術が進歩したので、露天掘りがしやすくなりました。当面は生産量を維持しますが、今後は隣接する鉱区も開発することを検討中です。採掘技術を絶やさぬように若手を育成しています」

 やっぱり気になるのはコストだが、海外産とほぼ互角だという。

 電力会社側も、国産の石炭に注目している。前出の東電幹部は新しい発電所で、「国内産の使用も視野に入れる」と明言して、こう続ける。

 「これまでは良質な石炭でないと、発電効率がよくありませんでした。しかし、今回建設する最新鋭の設備であれば、石炭をガス化するので質が少々劣っていても使えます」

 石炭火力発電の技術が向上した結果、「国産回帰」の動きも盛り上がりつつあるのだ。このままいけば、廃れた「炭鉱城下町」に再び灯がともるだろう。北海道や九州など地域経済の活性化においても朗報といえる。

 そしてエネルギーを自国で産出することは、海外で有事があっても影響を受けにくくする。エネルギー安全保障の面からも国産石炭は期待されている。

 安倍政権は原発の再稼働や輸出にご執心だが、もっと重視すべきは、世界に冠たるニッポンの石炭火力ではないだろうか。