日本経済新聞 2006/5/11

年金の会計処理 三菱レ、再変更も? 経常益、大きく上ぶれ

 三菱レイヨンは10日、2007年3月期の予想連結経常利益が前期比47%増の570億円になりそうだと発表した。年金の運用超過分が利益を150億円も押し上げる。前期から年金運用の利差損益の計上方法を変更したためで、.「経営成績が分かりにくい」との指摘が市場から出る懸念もある。
 年金運用の利差損益は「数理計算上の差異」と呼び、プラスの場合は利益に計上する。三菱レは05年3月期までは5年に分けて損益処理していたが、
前期から翌期の一括処理に変更.した。
 前期は年金の株式運用が好調で、運用収益が期待収益を大幅に上回った。このため年金の利差損益が今期の経常利益を150億円かさ上げする。年金の影響を除いた実質べースの経常利益は6%増にとどまる。
 同日の株式市場では業績予想の発表後に株価が急騰。一時、前日比79円高の千1170円を付け上場来高値を更新した。その後は売りに押され、21円高の1112円で取引を終えた。
 9日に決算発表した旭化成は三菱レとは反対に、利差損益の計上を07年3月期から従来の一括処理から10年間の分割処理に変更した。年金運用に伴う利益の大幅な変動を抑えるため。三菱レの袋谷勝義常務は「差異が予想外に大きくなってしまった。来期以降の処理方法については改めて考えたい」と話した。

三菱レイヨン発表

(会計処理方法の変更)
 退職給付会計における数理計算上の差異について、「発生時の従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(主として5年)による定額法により按分した額をそれぞれ発生の翌連結会計年度から営業外費用処理」する方法から、主として「発生時の翌連結会計年度に
一括して営業費用処理」する方法へ変更し、過年度に発生した未認識数理計算上の差異4,265 百万円を特別損失として当連結会計年度に一括して費用計上しています。
 この変更は、連結財務諸表提出会社が当連結会計年度において、退職年金制度について、適格退職年金制度から規約型企業年金制度の1つであるキャッシュバランス型年金制度へ移行する等、大幅な制度改定を行ったことに伴い、今後、数理計算上の差異が多額に発生することは見込まれないことから、退職給付債務等の状況を適時に連結財務諸表に反映させるとともに、財務体質の一層の健全化を図るために行ったものです。
 この結果、従来の方法によった場合と比較して、営業利益は933百万円減少し、経常利益は2,469百万円増加し、税金等調整前当期純利益は1,796百万円減少しています。

、当期における営業利益の前期比79億64百万円の増益には、退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理方法変更による影響額として9億33百万円の減益要因が含まれています。
 平成19年3月期の連結業績予想においては、退職給付会計における数理計算差異の2005年度発生見込額の償却額として中間期75億円、
通期150億円を営業費用(戻入)に含めて算定しています。
 これは、2005年度における退職給付信託株式の時価上昇、年金資産運用実績の好調等を主要因として発生するものです。

 

日本経済新聞 2006/5/10

年金運用の利差損益計上 旭化成、今期から10年償却 業績への影響平準化

 旭化成は9日、2007年3月期から年金運用の利差損益の計上を10年間の定額計上に変更すると発表した。従来は発生した翌期に一括して計上していたが、年金の運用成績によって毎期の利益額が大きく変動する弊害があった。業績への影響を平準化することで、投資家が誤った判断をするのを防ぐ狙いがある。
 年金運用の利差損益は「数理計算上の差異」といい、プラス(マイナス)の場合は利益(費用)に計上する。
 旭化成は年金資産の5分の1を国内株式で運用している。前期は株式市場の活況で年金の運用収益は期待収益を221億円上回った。これを従来通り翌期に一括計上すると、今期の経常利益を2割程度押し上げてしまう。10年に分けて計上することで影響額を25億円に圧縮できる。
 同社の数理計算上の差異は株式市場の動向によって、決算期ごとに数十億ー200億円規模で変動してきた。「株主などから『経営成績の実態が分かりにくい』と指摘を受けた」(伊藤一郎副社長)といい、処理方式の変更で年金の運用成績の業績への影響を抑える。数
 理計算上の差異は従業員の平均残存勤務年数の範囲内での処理が認められている。通常は5−10年程度で処理する企業が多い。東証上場企業では旭化成のほか東京ガス、大和ハウス工業などが1年で一括処理している。

▼数理計算上の差異
 年金資産の積み立て不足の一部分を指す。年金の運用収益が期待運用収益を下回った場合などに発生する。期待収益を下回ればその分を補う必要があり、それを人件費の一部として費用に計上する。逆に上回れば人件費が減額され、利益が増える。

数理計算上の差異を1年で処理する主な企業(05年3月期)
(単位億円、▲は利益計上。06年3月期も処理年数は変更なし。東ガスは本体の処理年数)

  処理方法 費用
計上額
連結経
常利益

東ガス

発生翌年度

30

1,328

旭化成

同上

▲234

1,128

住友不

同上

1

743

ハウス

発生年度

▲22

742

住生活G

同上

12

502

住友べ

同上

▲31

205

住友林

同上

▲2

186

旭化成発表

 数理計算上の差異は、その発生の翌連結会計年度に1年間で費用処理し、過去勤務債務は、その発生時の従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(主として10 年)による定額法により費用処理している。

 当社グループでは、退職給付会計における数理計算上の差異を、発生の翌期の1年間で営業費用として処理する方法を採用しています。このため、営業利益の「前期比71億円の減益」には、数理計算上の差異償却による影響額(以下「数理計算上の差異」と呼びます。)の差額として162億円の減益要因(当期の数理計算上の差異40億円の益と、前期の数理計算上の差異202億円の益の差額)が含まれています。この数理計算上の差異を除いた連結営業利益は1,047億円で、前期比91億円(9.5%)の増益となりました。


(数理計算上の差異の費用処理方法の変更)
 当社及び一部の国内連結子会社は、従来、退職給付会計における数理計算上の差異をその発生の翌連結会計年度に1年間で費用処理してきた。しかし、当初想定した範囲を上回る国内外の株式市況の高騰、下落などを背景に、毎期多額の年金資産運用の利差損益(数理計算上の差異)が発生した。数理計算上の差異を1年間で費用処理することにより、営業費用に多額の数理計算上の差異に係る費用処理額が含まれることとなった結果、営業利益、経常利益、当期純利益の変動要因の相当部分を数理計算上の差異に係る費用処理額が占める状態になっている。このため、利益水準の変化が必ずしも事業業績の動向・評価を端的に表さないこととなり、表示の明瞭性から望ましくない状況を招いている。
 また、数理計算上の差異を長期間で費用処理する方法を採用することにより、株式市況の高騰、下落に起因する年金資産運用の利差益、利差損を長期的に相殺する効果が生じるが、近年の年金資産運用の利差損益(数理計算上の差異)の発生状況を鑑みると、数理計算上の差異を長期安定的に費用処理していく本来の退職給付会計の考え方に、より適合する経済環境になってきている。
 以上のような状況から、当連結会計年度以降に発生する数理計算上の差異については、発生時の従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(10 年)による定額法によりそれぞれ発生の翌連結会計年度から費用処理する方法に変更することとした。前連結会計年度に発生した数理計算上の差異は、従来どおり、当連結会計年度に1年間で全額を処理しているため、この変更に伴う当連結会計年度の損益に与える影響は無い。
当連結会計年度に発生した数理計算上の差異(益23,604 百万円)は、翌連結会計年度以降、従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(10 年)による定額法により処理するため、従来の1年間で全額を処理する方法によった場合に比較して、翌連結会計年度における退職給付費用は21,244 百万円増加し、経常利益は19,639 百万円減少し税金等調整前当期純利益は19,639百万円減少する予定である。

 前連結会計年度に発生した数理計算上の差異は、従来どおり、当連結会計年度に1年間で全額を処理しているため、この変更に伴う当連結会計年度の損益に与える影響は無い。
 当連結会計年度に発生した数理計算上の差異(益23,607百万円)は、翌連結会計年度以降、従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(10年)による定額法により処理するため、従来の1年間で全額を処理する方法によった場合に比較して、翌連結会計年度における営業費用が「ケミカルズ」では6,064百万円、「ホームズ」では3,097百万円、「ファーマ」では2,830百万円、「せんい」では1,869百万円、「エレクトロニクス」では1,077百万円、「建材」では1,368百万円、「ライフ&リビング」では855百万円、「全社」では2,478百万円それぞれ増加し、営業損益はそれぞれ同額増減する予定である。その結果、連結合計の営業利益が19,639百万円減少する予定である。