ウクライナ問題について 2022/3/20
筆者は、プーチン大統領の行動を強く非難し、プーチンの軍事侵攻正当化を完全に否定するものである。
以下は、欧米側のこれまでのやり方にも問題があることを指摘するものである。
・ ロシアは心底、ウクライナ(とジョージア)のNATO加盟を恐れている。越えてはいけないRed Lineとしており、米国でもそれを知る人はいる。
・ NATO側は、本当はウクライナをNATOに入れる気はない。(入れれば、集団防衛義務でロシアとの戦争となり、核戦争になる恐れも多分にある。)
・ しかし米国もNATOも、ロシアによるウクライナの加盟阻止の要求を拒否した。
ロシアは欧米側が越えてはいけないRed lineを越えようとしていると考え、以前から予告していた対応策をとった。・ 欧米側は現時点ではウクライナをNATOに入れないとしている。プーチンの要求時にそうしておれば、ロシアの侵攻はなかったかも分からない。
ロシアは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻に踏み切った。プーチン大統領は「ほかに選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化した。
欧米はこれまで、ウクライナのNATO加盟について曖昧な姿勢を取り続けてきた。
実際にウクライナがNATOに加盟すると、ロシアがウクライナ侵略をした場合に同盟国としてロシアと戦う義務があり、ロシアとの全面戦争の可能性が生じるためである。
北大西洋条約 第5条(集団防衛)
欧州又は北米における一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす。締約国は,武力攻撃が行われたときは,国連憲章の認める個別的又は集団的自衛権を行使して,北大西洋地域の安全を回復し及び維持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び共同して直ちにとることにより,攻撃を受けた締約国を援助する。
それにも関わらず、プーチンのウクライナの加盟排除の要求を拒否した。
バイデン米大統領は2022年1月18日、フィンランドのニーニスト大統領とウクライナ情勢について電話協議したが、バイデン大統領は「欧州各国は安全保障体制を独自に決める権利を持っている」と強調、ロシアの隣国フィンランドがNATOに加盟申請する権利を「保証」した。
NATO事務総長は、「同盟国は、NATOへのドアは開かれていることを確認した。どの国も、歩むべき道はその国が選ぶというのは根本的な権利だ」と述べ、ウクライナがNATOに加盟するかしないかを、他国が強制することはできないという点で、欧米は一致したと述べた。
この理由付けはおかしい。ある国が加盟を希望すれが、どんな国でも(例えばNATO加盟国が非難している国)加盟を認めるのか。
しかし、これを受けてロシアがウクライナに軍事侵攻すると、西側はウクライナのNATO加盟を否定した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月15日、「NATOへの門戸は開かれていると何年も聞いてきたが、加盟できないとも聞いている。これが事実であり、認識しなければならない」と 、不満を表明した。
侵略開始後、ロシアの空爆で市民らの死傷者は増え続けており、ウクライナ政府は同国上空を飛行禁止区域に設定するよう、西側諸国に求めている。しかし、欧米側は、設置すればNATOとロシアの直接的な戦闘が起きかねないとして否定的である。
(NATO加盟を拒否したうえ、ウクライナ上空の飛行禁止区域設定さえも拒否した。)
結局、欧米側はウクライナのNATO加盟を認める気はないのに、加盟があるとの発言を繰り返し、プーチン大統領のウクライナの加盟排除の要求を拒否した。
責められるのは勿論、プーチン大統領であるが、もし欧米側がウクライナをNATOに入れないと明言しておれば、今回のロシアによる侵略はなかったかもしれない。
(その場合でも、ロシア語圏である東部2州への侵略はあったかも分からない。)
ーーー
過去の歴史は次の通り。
1989年のベルリンの壁崩壊から、東欧民主化革命が起こったが、ゴルバチョフ大統領は、この動きを静観した。
さらに1990年になると、「東西ドイツを再統一したい」という動きが加速化した。
米国は、東ドイツの実質的支配国だったソ連の指導者ゴルバチョフに許可を求めた。当時の米大統領はBush (父)であった。
ゴルバチョフは極めて甘く、冷戦終了でNATOは解散するのではと考えたが、それはないため、一つだけ条件をつけた。それは、「NATOを統一ドイツより東に拡大しないこと」で 、米国はこれを約束、1990年10月3日、東西ドイツは統一された。
Baker国務長官が1990年2月9日のフルシチョフとの会談でこれを約束した。
翌日、ドイツの Chancellor Helmut Kohlはフルシチョフに “naturally Nato could not expand its territory to the current territory of the GDR” と述べた。
同年5月17日に Nato secretary generalは演説で、 以下の通り述べた。
"The very fact that we are ready not to deploy NATO troops beyond the territory of the Federal Republic gives the Soviet Union firm security guarantees.",
問題は、これが条約とか覚書ではなく、口頭でなされたことである。Bush大統領はBaker とHelmut Kohl の約束はフルシチョフに甘すぎるとしてこれを無視した。
Clinton大統領時代の1999年3月、チェコ、ポーランド、ハンガリーの旧ソ連圏国がNATOに加わった。
次いでBush(息子)大統領時代の2004年3月には、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニアの旧ソ連圏国に加え、ソ連の一部であったエストニア、ラトビア、リトアニアの3国が加わった。
2008年4月のNATO首脳会議で、Bush米大統領はウクライナとグルジア(ジョージア)の加盟を強く推した。しかし、 ドイツとフランスは、ロシアから無用な反発を買うなどの可能性があるとして、旧ソ連のウクライナ、グルジア両国のNATO加盟には反対する姿勢を示した。最終的に、NATO加盟を申請できる資格があるということで合意した。
ロシアの外務次官は「グルジアとウクライナのNATO加盟は、とてつもない戦略的失敗だ。これは、欧州全体の安全保障に深刻な悪影響を及ぼすだろう」と語った。プーチン大統領も「これはロシアに対する直接の脅威だ」と語り、あるロシアの新聞は「プーチン氏はジョージ・W・ブッシュ米大統領に対して 、もしもウクライナがNATOに加われば、国は消えてなくなるだろう、とはっきり示唆した」と報じた。
当時の米国のWilliam Burns駐露大使(現CIA長官)は本国宛て秘密電報で、「露外務省はNATOをウクライナに延長すれば、露の安全保障に影響を与え深刻な政治・軍事的変化をもたらす、ロシアはしかるべき行動をとらざるを得ないとしている」と警告した。ウクライナ問題は非常にSensitiveで あり、ロシアはクリミヤ、ウクライナに手を出すだろうとした。
*2022年3月18日 BSフジ プライムニュースで手嶋龍一(外交ジャーナリスト:当時NHK ワシントン支局長として取材)、畔蒜泰助(笹川平和財団主任研究員)が解説
William Burnsの著書 The Back Channel: A Memoir of American Diplomacy and the Case for Its Renewal に記載があるとのこと。それから4カ月後の2008年8月、ロシアは「市民を保護する」という名目でグルジアに侵攻した。
William Burnsは現在CIA長官である。なぜ、Biden大統領に、ウクライナのNATO加盟はロシアに今回のような行動をとらすと警告しなかったのだろうか。
2014年にクリミア危機・ウクライナ東部紛争が発生した。
2013年の暮れに親露派のヤヌコーヴィッチ政権の反欧政策に対し、抗議デモ激化した。
2014年2月、大統領はキエフを脱出、ロシア軍はクリミヤに侵攻した。3月に地域独立・ロシア併合の住民投票を行い、約9割の支持でロシアが併合した。
同年6月に親欧派のポロシェンコ政権が発足、東部2州の親露派勢力と対立した。
ドネツク州の親ロシア派は、「ドネツク人民共和国」の建国を宣言(ドネツク州460万人中、約230万人が住む)、ルガンスク州の親ロシア派も「ルガンスク人民共和国」の建国宣言を行った(240万人中、約150万人が住む)
ロシアは2022年2月21日、「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」の独立を承認した。
なお、ウクライナ最高会議は1990年7月に「主権宣言」を採択したが、「対外安全保障」の項は次の通りである。
「将来において恒久的に中立国家となり、軍事ブロックに加わらず、非核三原則――核兵器を受け入れず、使用せず、保持しないという自らの意向を厳に宣言する」。
2019年2月、ウクライナ最高会議は、ポロシェンコ大統領が提出したEUとNATOへのウクライナの加盟路線をウクライナ憲法に明記する憲法改正法案を可決した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2022年2月28日、EUに正式に加盟申請した。通常手続きでなく、「新たな特別手続きによる即時加盟を求める」と訴えた。NATO加盟は当面、諦めた。
EUは特別手続きによる即時加盟には否定的である。
2022/3/7 ウクライナ、EU加盟申請書に署名 、即時加盟を求める
バイデン米大統領は2021年9月1日、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ロシアの侵略に直面するウクライナ支援を明言した。会談冒頭で「ウクライナの主権と領土保全への責務を堅持し続ける」と重ねて表明 した。
ゼレンスキー氏は会談後、記者団に、バイデン氏はウクライナのNATO加盟承認について、個人的見解として支持したと主張した。 しかし、米国はウクライナのNATO加盟には慎重な立場を崩しておらず、サキ大統領報道官は、法の支配の促進や経済成長などを挙げ、「ウクライナが取らねばならない段階がある」と指摘 、加盟は時期尚早との見解を示した。
ウクライナ国防省は2021年11月2日、「ロシアは11月初めの時点で、国境付近とロシアが一時的に占領する地域に総勢9万人を集結させている」と発表した。
ロシア軍が大規模演習を実施後、ウクライナとの国境から約260キロ離れたロシア西部スモレンスク州に部隊を残しているとも指摘。「ロシアは地域の緊張と周辺国への政治的圧力を維持するため、定期的に軍部隊の移動と集結を行っている」と強調した。
12月7日の米ロ首脳協議では、撤退を求めるバイデン米大統領に対し、ロシアの プーチン大統領は自国に対するNATOの脅威を主張、ロシアの安全をめぐる「信頼できる法的な保証」を求めた。
プーチン大統領は11月13日、ロシアが7年前併合したウクライナ南部のクリミアに面した黒海で、アメリカなどNATO加盟国が「計画外の軍事演習を行っている」と非難した。
ロシアは12月17日、NATOに対し、東欧とウクライナでの軍事活動を放棄するとの法的拘束力のある保証を要求すると発表した。「米国とNATOの同盟国は、予定外の演習など、わが国に対する敵対行為を直ちに中止し、ウクライナ領土での軍備増強を即時中止すべきだ」と強調した。
ロシア外務省は2021年12月17日、米露首脳会談でプーチン大統領が提案していた新しい安全保障条約の草案内容を公開した。
NATOに対してウクライナの加盟を拒否、1997年5月以降にNATOに加盟した旧ソ連圏諸国に他のNATO加盟国から兵力や装備を派遣して駐留することを制限するよう求めている。
2021/12/22 ロシアの安全保障条約草案
プーチン大統領は12月23日、年末恒例の記者会見を開き、北大西洋条約機構(NATO)が東方拡大でロシアに与えてきた脅威を強く批判した。NATO側が1990年代の約束に反して東方拡大を続け、ロシアを「騙した」と非難し、ロシアは米国の周辺で軍事的脅威をつくり出していないと訴えた。
2022/1/2 プーチン大統領の怒り
しかし、バイデン大統領は2022年1月18日、フィンランドのニーニスト大統領とウクライナ情勢について電話協議したが、バイデン大統領は「欧州各国は安全保障体制を独自に決める権利を持っている」と強調、ロシアの隣国フィンランドがNATOに加盟申請する権利を「保証」した。
NATO事務総長は、「同盟国は、NATOへのドアは開かれていることを確認した。どの国も、歩むべき道はその国が選ぶというのは根本的な権利だ」と述べ、ウクライナがNATOに加盟するかしないかを、他国が強制することはできないという点で、欧米は一致したと述べた。
ロシアは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻に踏み切った。プーチン大統領は「ほかに選択肢はなかった」と述べ、軍事侵攻を正当化した。
なお、ウクライナのNATO加盟要請をNATO側の理由(集団防衛義務→ロシアとの戦争の可能性)で拒否されたことになる。これはウクライナがロシアに隣接していることによる悲劇である。
ウクライナの希望に反し、中立国にならざるを得ない。
2022/3/11 現代ビジネス
プーチンのウクライナ侵攻、実は25年前から「予言」されていた…!
ロシアは、なぜウクライナに侵攻したのか。「北大西洋条約機構(NATO)が東に拡大して、ロシアを脅かしたからだ」と答えれば、多くの人が「それは、ロシアの言い分」と思うだろう。その通りなのだが、実は、米国有数の識者たちが長年、唱えてきた分析でもあった。その代表的論者は、かつての米ソ冷戦で「ソ連封じ込め政策」を立案した米国の伝説的な外交官、故・ジョージ・ケナンである。今日のロシアとの対立の原点とも言える、米国の対ソ戦略をデザインした当の本人が「NATOは東に拡大すべきではない」と主張していたのだ。
致命的な失敗」と題された論考は、1997年2月5日付のニューヨーク・タイムズに掲載され、NATOの拡大方針を、次のように厳しく批判した。
〈NATO拡大は冷戦終結後の米政策で、もっとも致命的な誤りだ。この決定はロシア世論にナショナリスティックで、反西側の軍事的風潮を燃え上がらせ、ロシアの民主主義発展には逆効果になる。東西冷戦の空気を呼び戻し、ロシアの外交政策を、我々が望まぬ方向に追いやる結果になる〉
〈冷戦終結が大きな希望をもたらしたときに、なぜ、どの国がどの国と同盟を結び、どの国と対決するか、というような事柄が、東西関係の中心的な課題になるのか。それは、どこか空想的で、まったく予知不可能な、ありえない未来の軍事的対決の話ではないか〉
〈ロシアは「NATO拡大に敵対的意図はない」という米国の保障を真面目に受け止めないだろう。彼らは(ロシア人の心理で、もっとも重要な)自分たちの名誉と安全保障が傷つけられたと思うはずだ。彼らは「西側に拒絶された」とみなして、どこか別の場所に自分たちの安全保障と未来を求めていくだろう〉
〈最終決定を下す前に、まだ時間はある。すでにロシアの世論に与えた不幸な効果を和らげるために、拡大方針を見直すべきだ〉
1997年と言えば、第2次世界大戦終了後の49年に12カ国で創設されたNATOが、その後の冷戦中に16カ国に拡大した後、さらにチェコ、ハンガリー、スロバキアの3カ国を加えて、19カ国に拡大しようとしていた時期だ。ケナンは拡大が最終決定される前に、反対の論陣を張って、食い止めようとしていたのである。 この論考をいま読めば、ケナンの懸念が的中したことに、あらためて驚かされる。ケナンは25年前に、まさに「今回の戦争を予言していた」と言っても過言ではない。
ケナンだけではない。ケナンが2005年に101歳で亡くなった後、その主張を受け継いだのは、シカゴ大学の現実主義政治学者であるJohn Mearsheimer教授である。 ミアシャイマー氏は2014年に外交誌「フォーリン・アフェアーズ」に発表した論文で、同年2月に起きた、ロシアによるウクライナ東部のクリミア侵攻について「米国と欧州の同盟国に危機の大きな責任がある」と指摘したうえで、次のように主張した。
〈ウクライナの広大な平原は、ナポレオンやドイツ帝国、ナチスの時代から、ロシア侵攻の舞台になってきた。ロシアにとって、ウクライナは戦略的に非常に重要な緩衝国だった。(そんなウクライナが)つい最近までロシアの敵だった国と軍事同盟を結ぶのは、どんなロシアの指導者も認めないだろう。そればかりか、西側が自分たちとの統合を目指す政府の樹立を画策しているとき、ぼんやり何もせず、見ているはずがない〉
〈強大国は、自分たちの領土近くに迫る潜在的な脅威には、いつもセンシティブである。これは地政学の基本だ。たとえば、中国がカナダやメキシコと軍事同盟を結ぼうとしたときの、ワシントンの怒りを想像してみればいい〉
〈ロシアの指導者は繰り返し「NATOをグルジアとウクライナに拡大して、ロシアに敵対させるのは、けっして容認できない」と西側に明言してきた。このメッセージは、2008年のロシア・グルジア戦争(クリミア侵攻)で完全に明確(crystal clear)になったはずだ〉
〈冷戦時代に、キューバはソ連と軍事同盟を結ぶ権利があったか。米国は明らかに、そうは考えなかった。ロシアもウクライナの西側参加には、同じように考えている。もしも、ウクライナに欧州連合(EU)とNATOへの参加を申請する権利があったとしても、米国と欧州の同盟国に要求を拒絶する権利がある事実は変わらない〉