2022/7/5

ガス不足の独エネルギー大手 ドイツ政府に1兆円超の金融支援を要請

独エネルギー大手でロシア産ガスの最大輸入業者の1つのユニパー社とドイツ政権は現在、ロシアのガス供給の制限に関係し、90億ユーロ(1兆2600億円)規模の金融支援についての交渉を行っている。

同社の損失額は、2月のウクライナにおけるロシアの特殊軍事作戦の後、ロシアのエネルギー供給への依存を縮小するという独政権の決定の影響を被り、増え続けている。損失額は現時点で試算で毎日、3000万ユーロ(42兆円以上)。これはガス不足とロシア産ガスの供給がない分、他のより高額な代用品で補填を強いられているため。
ユニパー社の株価は28%下落し、時価総額は40億ユーロ(5603億円)に達した。
アナリストの多くは、ドイツ政権はコロナ禍の際にルフトハンザの株式の20%を購入したのと同じモデルに基づいて、ユニパーにも支援を行うと確信している。

 

ドイツ、エネルギー大手救済を承認 ロシアガス遮断備え
ユニパーが救済措置申請、2023年2月頃に貯蔵ゼロのシナリオも

ロシアが天然ガスの供給を絞るなか、ドイツ政府が冬場にガス不足の危機を回避しようと政策を総動員している。独議会は8日、経営不安に陥るエネルギー企業への公的救済に向けた関連法を承認し、独エネルギー大手ユニパー(Uniper)が即日、ドイツ政府に救済措置を求める申請書を提出した。

Germany’s government will have the power to bail out utilities under proposed legislative changes approved by the cabinet on Tuesday, according to the economy ministry.

“The situation on the gas market is tense and unfortunately we cannot rule out a deterioration in the situation,” Economy Minister Robert Habeck said in a statement.

New amendments to the Energy Security Act will give the government additional tools to help utilities if they falter under rising energy prices as Russian gas imports decline.

Under the legislation, the government can take action to stabilise energy companies that are facing financial difficulties and thereby avoid a cascading effects in the energy market that could hit consumers, the ministry said.

It also introduced an alternative mechanism to share the costs of rising gas prices equally among all consumers, in addition to the possibility of triggering a general price adjustment clause if there is a significant disruption to gas imports.

“Both instruments ... are subject to strict conditions and are currently not to be activated,” the ministry said, adding that stabilization options for energy companies will be prioritised over the two price adjustment mechanisms.

ユニパーは8日、資本注入など救済措置などを求める申請を政府に出した。ロシアからのガス供給が6月中旬以降、契約量の約40%に減少し、不足分を割高なスポット市場などから調達している。ユニパーは単価上昇分を販売価格に転嫁できるようにする措置も政府に求めた。

20億ユーロ(約2800億円)分の信用枠の拡大も政府系金融機関に要請した。年末までに100億ユーロのコスト増になると試算するためだ。ドイツ政府が今後、ユニパーに資本注入し、株主になる可能性がある。

連邦ネットワーク庁によると、ガスの貯蔵率は7日時点で最大貯蔵量の63%と平年より2%少ない水準で推移する。暖房などの需要が少ない夏場に確保を進め、貯蔵率を11月までに90%まで引き上げる計画だがロシアから供給が細り、貯蔵量の積み上げは難航している。

ロシア国営ガスプロムは6月中旬以降、ドイツにガスを送る主要パイプライン「ノルドストリーム」の供給量を6割減らす。11日から2週間ほどの「定期検査」を実施するとしており、その間はガス供給が完全に止まる見通しだ。

検査終了後もガス供給が再開されない可能性もある。ロシアはウクライナに重火器を供与するドイツに反発を強めているからだ。ハベック経済・気候相は「ノルドストリーム全体が封鎖される恐れがある」と警戒する。

連邦ネットワーク庁は、目標とする9割の貯蔵率を達成するには「追加の対策が必要」と厳しい見方を示す。ロシアからのガス供給が完全に止まった場合などには、2023年2月頃に貯蔵率がゼロになる最悪のシナリオも想定する。

こうした事態を避けようと、ドイツ政府はガスの安定供給と消費抑制の両面で動く。独議会は8日、ガス価格の高騰で業績が悪化するユニパーへの公的支援を可能にする「エネルギー安全保障法」の改正を承認した。同社への資本注入など90億ユーロ規模の公的支援を視野に、経営と安定供給を下支えする。

公的支援の動きは欧州各国にも広がる。原子力発電が主力のフランスでも仏電力公社EDFの完全国有化が決まった。ロイター通信によると、イタリア政府も国営のエネルギー企業GSEに対してガス購入代金など40億ユーロを融資する方針だ。

イタリア政府は6月30日、国営エネルギー会社GSE(Gestore dei Servizi Energetici GSE S.p.A.)のガス備蓄を支援するために、40億ユーロの政府融資を行うことを決めた。

ドイツ政府はガス消費の抑制も強化する。緊急調達計画では警戒レベル別の政策対応を3段階に分けており、ドイツ政府は6月23日、2段階目の「非常警報」を発令し、3月末に公表した初期段階の「早期警報」から警戒レベルを1段階引き上げた。ガスの代替として石炭火力発電の稼働を一時的に増やす関連法も承認された。

ドイツ政府はガスを安定確保するため、不測の事態に備えた調達計画をすでに策定済み。警戒レベルは@早期警報A非常警報B緊急警報の3段階で、重大な問題が生じる場合に宣言する。

ロシアに代わる調達先をノルウェーなどで模索する。ただ現状ではガスの供給を大きく増やすのは難しい。ノルウェーでは石油・ガス業界で労働組合のストライキが起き混乱が生じた。インフラ面でも制約があり、ドイツで液化天然ガス(LNG)の受け入れ拠点の一部が完成する年末以降にならないと、ノルウェーからのガス調達量を増やすのは難しい。

ガスの調達不安が高まれば、一段と厳しい措置が導入される見通しだ。緊急調達計画の警戒レベル3段階で最も厳しい「緊急事態」になれば、ガスの配給制や価格決定などで政府が直接介入できるようになる。

一般家庭へのガス供給を優先させる方針で、企業を中心に工場の操業停止を迫られる恐れがある。割安なロシア産ガスから価格の高いLNGに切り替えれば家計負担も大幅に増える。ドイツ経済研究所のクラウディア・ケムファート氏は独メディアのインタビューで、ガス価格が「最大400%上がる可能性がある」と指摘した。

ロシアからのガス購入を続ければ経済制裁の効果を弱めかねない。一方、早期に供給が止まれば今冬のガス不足が現実味を帯びる。エネルギー不足による景気悪化の懸念は強まっている。