2006-5-1

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2013/12/16 三菱ケミカルHD、来年4月にヘルスケア新事業会社を設立

三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長は12月12日に開いた事業説明会の中で、新たにヘルスケア事業の新会社を立ち上げ、三菱化学、田辺三菱製薬、三菱樹脂、三菱レイヨンに続く、5番目の基幹事業会社として展開していく構想を明らかにした。

新社は傘下の三菱化学メディエンス、APIコーポレーション、健康ライフコンパス、クリオカプスの4社を統合して2014年4月1日付で発足の予定。

主な事業内容は、
・臨床検査、診断薬・機器(三菱化学メディエンス)、
・医薬原薬・中間体製造受託(APIコーポレーション)、
・簡易血液検査などのトータルヘルスケア事業(健康ライフコンパス)、
・ハードゼラチンカプセルなどカプセルの製造・販売(クリオカプス)と、
医療・健康情報サービスから医療機器、製品までヘルスケアに関するソリューション全般に及ぶ。4社合わせた2013年度売上高は約1,200億円。

三菱化学メディエンスは2007年に三菱化学ビーシーエル(旧 三菱油化ビーシーエル)・三菱化学ヤトロン・三菱化学安全科学研究所の3社の事業を統合した。

APIコーポレーション(旧称 吉富ファインケミカル)は、三菱化学の医薬原体事業及びファインケミカル事業の一部を承継した。

三菱ケミカルホールディングスは2012年12月、医薬品カプセル製造で世界シェア2位の奈良のクオリカプス(Qualicaps)の 全株を取得し、子会社化するための株式売買契約をカーライル・グループとの間で締結したと発表した。

2012/12/26 三菱ケミカルホールディングス、クオリカプスを買収

社名や従業員数などの詳細は今後、詰めていく。

付記  2014年2月6日、概要を発表した。

社名:生命科学インスティテュート (Life Science Institute, Inc.)

下記を統合
@LSIメディエンス(現在の名称は三菱化学メディエンス 2014/4/1 改称
Aエーピーアイコーポラーテョン
Bクオリカプス
C
健康ライフコンパス

付記

三菱ケミカルグループは2023年7月28日、三菱ケミカルが株式100%保有するクオリカプス鰍フ全株式を、フランスのRoquette Frères SAへ譲渡することで同社と合意し、株式譲渡契約を締結した。
 
クオリカプス:奈良県大和郡山市 
      事業内容   ハードゼラチンカプセルおよびHPMCカプセルの製造販売、錠剤印刷機・外観検査機など医薬品関連機器の製造販売
Roquette Frères SA:Lestrem, France
      事業内容   健康・栄養市場向け植物由来成分と医薬品賦形剤のグローバルリーダー
 
クオリカプスが培ってきたハードカプセルおよび医薬品関連機器の事業は今後も一定の需要伸長が期待されており、ベストオーナーのもとで持続的に発展し、事業を成長させていくことが最善であると考え、今般の株式譲渡を決定した。

三菱ケミカルHDは、グループ企業に医薬専門の田辺三菱製薬をはじめ、食品添加物の三菱化学フーズとMRCポリサッカライド、三菱レイヨンの人工炭酸泉、大陽日酸(酸素吸入器)などを持つだけに幅広いシナジーが期待できる。

   三菱ケミカルは9月26日、大陽日酸と資本業務提携契約を締結した。
   合併前の太陽東洋酸素に34.85%出資していたが、大陽日酸となった後、15.12%出資していた。これを27%に増やした。

三菱ケミカルHDの小林社長は「ヘルスケア事業は総じて付加価値が高い。医療情報を中心に独自性のあるビジネスモデルを追求していきたい。売上高は現在は1,200億円程度だが、すぐに5000億円規模になるだろう」と、新事業の立ち上げに意欲を示した。
また、営業利益でも現在の約60億円から、2015年度に100億円まで引き上げる目標を掲げた。


2013/12/17   韓国、豪州とのFTA交渉が妥結 

韓国の産業通商資源部は2013年12月5日、インドネシアのバリ島で開催された韓国と豪州との自由貿易協定(FTA)交渉が実質的に合意したと公表した。

2014年の上半期までに批准したいとしており、発効すれば豪州は韓国と11番目のFTA協定国になる。

付記 2014年4月8日 署名。

韓国は8年以内に全タリフラインの90.8%の品目を関税撤廃し、豪州は8年以内に全タリフラインを撤廃する。

韓国の残りの品目(9.2%)については、コメ、粉乳、果実(リンゴ、梨、柿など)、大豆、ばれいしょ、水産物(カキ、明太子など)など171品目 (1.4%分)は除外、牛肉などの492品目は10年以上かけて撤廃するとした。
また、貿易救済として、韓国の牛肉、精製糖、麦、トウモロコシなどの品目にはセーフガード措置を導入する。

一方、韓国の豪州向け主要輸出品である自動車関連品目については、豪州側が中型車(1500〜3000cc)と小型車(1000〜1500cc)の即時撤廃、自動車部品は3年以内に撤廃する 。
 
韓国の対豪州の貿易額は、2012年の輸出額は9,269百万ドルで第12位、輸入額は22,978百万ドルで第6位となっている。
 

ーーー

韓国は米国、EU、欧州自由貿易連合(EFTA=スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランド)、ASEAN10ヵ国、インド、チリ、ペルー、コロンビアなどの国・地域との間でFTAを締結しており、欧州―東アジア―米国をつなぐ「東アジアのFTAハブ」と自称している。

韓国政府は11月29日、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への「関心」を公式に表明し、事実上、交渉への参加の意思を明らかにした。

今回の豪州を含めると、TPP交渉参加の12か国のうち、8カ国とはFTAを結んでいることとなる。
(非締結は、日本、ニュージーランド、カナダ、メキシコ)
 

日本はFTA締結国の数では韓国より多いが、米国、EU、豪州と締結できていない。

  韓国 (11) 日本 (13) TPP参加国
(日本含め12)
ASEAN 物品貿易 2007年6月1日発効
サービス貿易 2009年5月1日発効
投資分野2009年9月1日発効
2008年12月から順次発効  
  シンガポール 2006年3月2日発効 2002年11月発効
マレーシア 個別には発効していないが、ASEANとして既に発効済み 2006年7月発効
タイ 2007年11月発効  
インドネシア 2008年7月発効  
ブルネイ 2008年7月発効
フィリッピン 2008年12月発効  
ベトナム 2009年10月発効
インド  2010年1月1日発効 2011年8月発効  
オーストラリア 2013/12 実質合意  ---
ニュージーランド  ---  ---
トルコ 2013年5月1日発効  ---  
米国 2012年3月15日発効  ---
カナダ  ---  ---
メキシコ  --- 2005年4月発効
チリ 2004年4月1日発効 2007年9月発効
ペルー 2011年8月1日発効 2012年3月発効
コロンビア 2013年2月21日 正式署名  ---  
EFTA 2006年9月1日発効  ---  
  スイス (EFTAとして締結) 2009年9月発効  
EU 2011年7月1日暫定発効  ---  
 

参考

米通商代表部(USTR) のCutler次席代表代行は12月12日、ワシントンの戦略国際問題研究所で開かれた「韓国のTPP参加」というセミナーで、「韓国はTPP参加に先立ち、韓米自由貿易協定(FTA)履行に関する懸念事項から解決する必要がある」とし「議会と利害当事者が心配している韓米間の懸案」として、▼原産地表示をめぐる論争▼金融サービス分野の資料共有▼自動車分野の非関税障壁▼有機農製品に対する認証−−の4つを列挙した。

「韓国の行き過ぎた原産地認証要求でFTAを締結しても関税による恩恵が減っている。韓国政府が問題を解決することを望む」とし「韓米FTA 2周年の来年3月15日に金融サービス分野に関する合意が発効するだけに、きちんと履行するよう保障しなければならない」と主張した。

また自動車分野に関し、「米国自動車業界は韓国が近く施行するbonus-malus(自動車の二酸化炭素排出量に基づく補助金または過怠金)制度による不利益を懸念している」と指摘した。


2013/12/18  米国、予算案成立の見込み → 成立 

米議会の民主党代表を務めるPatty Murray上院予算委員長と共和党代表のPaul Ryan下院予算委員長は12月10日民主・共和両党の超党派委員会が2015会計年度末(2015年9月末)までの予算案で合意したことを発表した。

財政支出の削減を求める野党・共和党への配慮から、富裕層への増税を避けつつ、連邦職員の退職手当の削減や空港利用料の増額案などを盛り込んだ。
一方、民主党の要求に応じ、3月に始まった歳出の強制削減措置で圧縮するはずだった630億ドル分を復活させた。

期間を2年としたのは、2014年の中間選挙の直前に政府機関が再び閉鎖される事態を避けるためで、選挙が終わるまで対立を棚上げする狙いとされる。

Murray委員長は「非常に長い間、妥協は禁句とされてきた」と述べ、3年間にわたる議会の対立がもたらした不透明感は「米経済の回復に深刻な打撃を与えた」と指摘した。
Ryan委員長は「分裂した政府では望むものを必ずしも得られない」と述べた上で、「合意は現状を明らかに改善するものだ。これにより1月の政府機関閉鎖が確実に回避される。10月に再び閉鎖されるシナリオもなくなる」とした。

これに基づき、下院では12月12日に2014会計年度(2013/10〜2014/9)、2015会計年度(2014/10〜2015/9)の2年分の予算案が通過した。

  賛成 反対 合計
共和党 169 62 231
民主党 163 32 195
合計 332 94 426


民主党のリード上院院内総務は12月13日、超党派委員会がまとめた予算案を12月17日から上院で審議し、週末までの可決を目指す方針を明らかにした。
票読みでは法案は可決される見込み。(12月17日にフィリバスターを止めさせる議案が通ったため、過半数で決まる。)

付記

米上院は12月18日、64対36で法案を通し、大統領に送付した。

これまでは2014年1月15日まで政府を動かせる暫定予算が認められていたが、これにより、2度目の政府閉鎖の危機は、回避される。

ーーー

米与野党は10月から始まる2014会計年度の暫定予算案9月30日夜になってもで合意できず、10月1日、政府は1996年以来、17年ぶりとなる政府機関の一部閉鎖を開始した。

米議会の上・下院は10月16日深夜、米政府の債務上限を来年2月7日まで引き上げ、政府の一部閉鎖も解消する法案を可決した。
米政府の債務不履行(デフォルト)がギリギリで回避された。

法案の骨子は以下の通り。
 ・米政府の国債発行を2014年2月7日まで認める。
   最終的には債務上限の引き上げ期限を3月ごろまで先送りできる可能性がある。
 ・2014年1月15日まで政府を動かせる暫定予算を認め、政府機関の一部閉鎖をすぐに解消する。

  ・「医療保険改革法」(オバマケア)で補助金の受給者の所得確認を厳格化する。

2013/10/17 速報 米国、政府デフォルトを直前に回避 

2010年以降、上下両院でそれぞれ多数派が異なる「ねじれ」状態で、与党・民主党は富裕層向け増税を主張し、野党・共和党は年金や医療といった社会保障費の大幅カットを訴えている。

11月のバージニア州知事選挙で共和党候補が敗北、財政協議での野党・共和党の強硬姿勢が政府機関の閉鎖を招いたと世論が判断した結果とされ、共和党も今回の協議で一定の配慮を示さざるを得なくなった。

但し、2014年2月7日には債務上限引き上げの期限を控えており、当面は綱渡りの財政運営が続く。

ーーー

超党派委員会の合意の概要は以下の通り。

予算規模

今回合意した予算は、政府が政策実行に使う政策的経費と軍事費で、全体の約6割を占める社会保障費など義務的経費は含んでいない。

  軍事費 非軍事の政策的経費 合計
2014年度 520,464百万ドル 491,773百万ドル 1,012,237百万ドル
2015年度 521,272 492,356 1,013,628

民主党が主張する1兆580億ドルと共和党が主張する9670億ドルのなかを取った「妥協の産物」 となった。

歳出の強制削減の縮小

2014会計年度 450億ドル
2015会計年度    180億ドル
2年合計    630億ドル (軍事費、非軍事費で折半)

注. 2013年3月1日に政府予算の強制削減措置が発効した。

2011年7月に国債発行の上限を引き上げた際に、条件として財政削減を義務付け、これが出来ない場合には、強制削減することを決めた。1年半かけても合意できなかった。

2011/8/3  米国、債務上限引き上げ、デフォルト回避

 ・ 米政府の支出を今後10年間で計1兆2千億ドルを強制的に削減
  ・ 2013会計年度(2012/10-2013/9)で850億ドルを削減
      国防費が13%、国防費以外が約9%削減

予算削減

歳出の強制削減の縮小の原資として、10年間で850億ドルの予算カットを行い、差し引きで220億ドルの赤字縮減を図る。

  連邦政府職員の退職プログラム 10年で 60億ドル
  軍事恩給支出 10年で 60億ドル
  乗客が支払う航空機の安全対策費の増額  10年で126億ドル
  その他
  http://budget.house.gov/uploadedfiles/bba2013summary.pdf


問題となる社会保障制度、税制の抜本改革は見送った。


2013/12/19   イタイイタイ病被害者救済で被害者団体と三井金属鉱業が合意 

富山県神通川流域で発生したカドミウム汚染による公害病・イタイイタイ病で、原因企業の三井金属鉱業と地元の被害者住民団体の神通川流域カドミウム被害団体連絡協議会は12月17日、これまで賠償対象でなかった腎臓障害「カドミウム腎症」発症者の救済を盛り込んだ合意書を交わした。

三井金属鉱業発表:

今回の全面解決におきましては、
神通川流域における汚染田復元工事が完了したこと、
現在および将来の認定患者・要観察者に対する賠償を継続すること、
公害防止対策の継続により神通川の現在の水質レベルを維持していくこと、
認定患者・要観察者程度ではないもののカドミウムにより腎機能に一定の影響がある方を対象とした健康管理支援制度を当社が実施すること、
全面解決に当たり当社が被団協に解決金をお支払いすること
を確認しております。

二度とこのような問題を発生させないため、被団協の皆様との「緊張感ある信頼関係」をもって、公害防止対策のさらなる充実を図ってまいる所存であります。

神岡鉱山は2001年に亜鉛、鉛鉱石の採掘を中止、排水処理を徹底し、2012年3月にカドミウムで汚染された農地の復元が完了している。

ーーー

イタイイタイ病は、富山県の神通川流域で1911年ごろ(厚生省推定)から発生した。
神岡鉱山は1905年に亜鉛鉱石の採掘を始めている。

1961年6月に萩野昇医師らがカドミウム原因説を学会で発表した。
体のあちこちが骨折し、患者が「痛い、痛い」と泣き叫んだことから名付けられた。海外でもItai-itai diseaseと呼ばれる。

水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそくと並んで日本の四大公害病の一つ。

患者らは三井金属鉱業を相手取って訴訟を行った。

第一次訴訟では、患者と遺族が、加害責任を明らかにするため提訴し、患者1人につき400万円、死者1人につき500万円の慰謝料を求めた。

1971年6月30日に富山地裁は原告勝訴の判決を出した。

神岡鉱業所からの廃水が神通川上流の高原川に長期間、放流されたことによって起きた、イタイイタイ病の主因はカドミウム、被告側は鉱業法109条により損害賠償責任を有する とし、近年の死者には500万円、それ以前の死者および生存患者には400万円の支払いを命じた。
因果関係の立証には必ずしも科学的な証明が必要ないとした。

控訴審で名古屋高裁は1972年8月9日、慰謝料として死亡患者全員に1000万円、生存患者には800万円の支払いを命じた。

三井金属鉱業は上告を断念、原告勝訴が確定し、8月10日に、イタイイタイ病の賠償に関する誓約書、土壌汚染問題に関する誓約書、公害防止協定が締結された。

第2次〜第7次訴訟は併合されたが、会社側は第1次訴訟と同じ損害賠償の支払を約束したため、原告側の取下げによって終結した。

三井金属鉱業は医療補償協定に基づき、下記の支払いを行う。

  賠償金 治療費・
入通院交通費
介護手当(寝たきり)
月額
温泉療養費
(年額)
認定患者 1000万円 全額 86千円(90千円) 90千円
要観察者(下記) 200万円 全額 56千円(90千円) 90千円

また、患者に認定されると公害医療手帳が支給され、国から医療費・障害補償費・療養手当などが給付される。
(1971年2月からは「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」が施行され、1974年9月からは「公害健康被害補償法」による医療救済等の措置が実施されている。 )

認定患者は2009年3月までに195名となっている。

しかし、問題が残った。

イタイイタイ病の患者の認定は環境省より委託されて富山県が行っているが、認定条件は環境庁の「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法によるイタイイタイ病の認定について」(1972年6月に制定) で下記の通り定められた。

次の1)〜4)のすべての項目に該当する場合には、イタイイタイ病と認定する。    

 1)カドミウム濃厚汚染地に居住し、カドミウムに対する暴露歴があったこと。
 2)次のVおよびWの状態が先天性のものではなく、成年期以降に発現したこと。
 3)尿細管障害が認められること。
 4)X線検査あるいは骨生検によって骨粗鬆症を伴う骨軟化症の所見が認められること。

なお、4)に至らないが、将来イタイイタイ病に発展する可能性を否定できないので経過を観察する必要のあるものを「要観察者」とする。

体内に入ったカドミウムは、腎臓の尿細管機能を低下させ、骨の維持に必要なリン、カルシウムなどが尿から体外に排出される。
カドミウムの蓄積で尿細管障害が起きた状態が「カドミウム腎症」と呼ばれ、重度になると、骨軟化症を起こしイタイイタイ病に至る。

カドミウム腎症だが、骨軟化症に至らない場合は、日常生活に支障がなくただちに健康被害にあたるとは言えないとされ、認定されない。
(三井金属鉱業は上記の通り、要観察者に対しては補償を行っているが、それ以外の患者には行っていない。)

しかし、尿細管障害者の死亡危険度は、障害のない人たちに比べて高いとする研究結果もあ り、研究者からは「国の消極的な立場が救済を妨げてきた」との批判が繰り返されてきた。

ーーー

カドミウム腎症の救済を含めた全面解決に動き出したのは、汚染土壌の復元にめどがつき始めた2009年7月で、神通川流域カドミウム被害団体連絡協議会から申し入れをしたという。交渉は12回に及んだ。

三井金属鉱業は、1975年以前に汚染地域に20年以上住んだことがある人のうち、腎機能悪化の指標であるたんぱく質「β 2ミクログロブリン」の尿中濃度が一定値以上の人を対象に、「健康管理支援」の名目で、1人あたり一時金60万円を支払う。

「補償」という言葉を避け、「健康管理支援」としたのは、国が健康被害として認めていない症状に補償するのは、株主への説明がつかない、との懸念。
腎臓に一定の影響が出た人が保健指導を受けたり、将来イタイイタイ病に発展したりしないよう、健康管理を支援するための一時金なら「株主への説明ができる」としている。

居住歴を満たすのは約8千人で、対象者は数百人程度が見込まれる。来年4月から申請を受け付ける。



2013/12/20 BP、Omanでタイトサンドガス開発 

BPは12月16日、Oman政府との間でBPをオペレーターとするKhazzan タイトサンドガス田開発に関するガス販売契約と改定生産物分与契約を締結した。

BPは2007年1月にOman政府との間で、OmanのBlock 61の Khazzan ガス田とMakaremガス田の探査、開発のための契約を締結し、開発を続けてきた。

Khazzan project の建設は2014年に始まり、2017年後半に最初のガスが期待される。

15年にわたり約300の井戸を掘削し、Block 61に建設する中央処理施設に500kmのパイプラインでつなぎ、日量10億立方フィートのガスと日量25千バレルのガスコンデンセートを生産する。

投資額は、これまでの支出を含め、約160億ドルに達する見込み。

今回、Oman国有の開発会社 Oman Oil Company Exploration & Production (OOCEP)が開発に参加し、40%の権益を取得した。

同時に、BP とOman Oil Company は、Duqm市の Special Economic Zoneに年産100万トンの酢酸プラントを建設するためのFSを共同で実施する覚書を締結した。
実現すれば、BPの新法のSaaBre™ processを使用する世界初のプラントとなる。

BPは2013年11月7日に酢酸とエチレンの新法開発を発表した。

SaaBre process は天然ガス等からの一酸化炭素と水素からの合成ガスを直接、酢酸に変換するもので、COの精製やメタノールを必要としない。

Hummingbird® はエタノールの脱水素でエチレンを製造する方法。

ーーー

タイトサンドガスは非在来型天然ガスの一つ。

Tight sand gas 在来型ガスが貯留している地層よりも稠密な砂岩層に貯留した天然ガス。
Coalbed methane 石炭が生成される過程で発生して、そのまま石炭層に滞留した天然ガス。
Shalegas タイトガスよりも浸透率が2桁以上低い(0.001ミリダルシー未満)泥岩の一種である頁岩(シェール)に含まれる天然ガス

 


 


2013/12/21   韓国、2035年の原発比率 29%に

韓国産業通商資源部は12月10日、第2次国家エネルギー基本計画案(2013〜2035年)を発表した。
電力に占める原子力発電の比率を2035年に29%とした。

2012年末時点の韓国の電源比率は原子力が29.5%で、石炭が39%、LNGが22.4%、太陽光など再生可能エネルギーが2.1%であったが、トラブルや不祥事で停止が相次ぎ、現在の原発比率は26.4% となっている。

ーーー

李明博前大統領は2008年に、産業振興と原発推進を掲げ、2030年の原発比率を41%に高める目標を掲げた。

しかし、福島第一原発の事故や、韓国での原発関連の不祥事が続いたこともあって反原発の世論が強まった。

このため、原子力発電政策を推進から維持へと転換、エネルギー計画を検討する官民合同の作業部会は、2035年の全電源に占める原子力の比率を22〜29%にすると提言した。

今回、この範囲(22〜29%)内で最も高い数値に目標を設定した。

計画案によると、最終エネルギー需要は2011年から年平均 0.9%増加し、2035年には石油換算 2億5410万トンになる見通し。
このうち電力が占める比率は27.6%に抑える。電力需要の年平均増加率は2.5%。
この需要見通しに基づき温室効果ガスの削減やエネルギー安保などを総合的に考慮した結果、原発比率は29%水準を目標とすることにした。

原発業界によると、2035年に原発比率を29%とするには計40〜42基の原発が必要。
現在の韓国の原発は、稼働中が23基(20,716千kw)、建設中が5基(6,600千kw)、計画が6基(7,600千kw)となっており、建設中・計画の11基以外にさらに6〜8基の建設が必要となる。

発電単価の安い原発が、2030年の原発目標比率41%から引き下げられたことで、電気料金が値上げされる可能性も指摘されている。
原発の発電単価は1kw時当たり47.08ウォン(約 4.6円)と、石炭(65.10ウォン)やLNG(125.2ウォン)に比べはるかに安い。

韓国では電気代が安く、日本企業の韓国進出の理由のひとつになっている。
東レは炭素繊維工場建設について、「日本では電気料金がどれだけ上がるか分からないので、積極的に韓国への投資を増やすことにした」と説明した。

電気代の安い第一の理由は、発電単価の安い石炭と原子力で発電電力量の約8割をまかなっていることだが、これに加えて、韓国の電気料金は「政策的料金」という位置づけのもと、料金をコスト以下に設定している。

韓国政府は1960‐70年代から、企業の原価負担を減らして国内の物価を安定させ、輸出競争力を強化する目的で、産業用電気料金をほかの用途(家庭用・商業用)に比べ安くしてきた。

2011/9/28  韓国の電力事情

産業通商資源省は本年11月に、電気料金はガスや灯油などの価格と比べて安すぎるとの認識を表明、「持続的な調整が必要だ」との考えを示した。
同省は11月21日から、産業用電気料金は 6.4%、住宅用は 2.7%、平均電気料金は5.4%引き上げた。
2013年1月には政府は電気料金を4.0%引き上げており、電気料金の引き上げ率は10%に達する。

韓国では現在、原発の停止が相次いで停電の恐れが懸念されているが、今後は電力料金の大幅アップの可能性もある。

ーーー

現在の韓国の原発の状況は以下の通り。

各原発の詳細は 2013/5/31 韓国の原発10基が稼動中断、夏の電力不足憂慮 

 


2013/12/23 Braskem、SolvayからSolvay Indupa を買収

Braskemは12月17日、SolvayからSolvay Indupaの70.59%の持ち株を290百万米ドルで買収する契約を締結したと発表した。

政府の認可を得た後、TOBを行い、一般株主の残り持ち株を買い取り、100%子会社にする。

Solvay Indupa はブラジルのSanto Andre工場とアルゼンチンのBahia Blanca 工場で苛性ソーダとPVCの生産を行っている。

両工場の能力は、PVCが54万トン、苛性ソーダが35万トン。

付記

アルゼンチンの証券取引委員会は2014年1月3日、買取価格が公正な市場価格より低いとして、これを認めないと発表した。

Braskem のオファー価格は1株1.35 ペソだが、2013年下期平均価格は3.92ペソ、最終取引価格は5.70ペソであった としている。

付記

ブラジルの独禁当局は2014年11月12日、これを認めない決定をくだした。
Solvayは売却を諦めず、代替案を検討するとしている。

ーーー

Solvayは2013年5月、INEOSとの間で欧州の塩ビ事業を統合し、50/50JVとする覚書に調印した。現在、独禁当局の審査中。
Solvayは将来、塩ビ事業から撤退することを決めている。

なお、Solvayの統合対象は欧州の塩ビ事業だけであり、アルゼンチンとブラジルに工場を持つ子会社のSolvay Indupa とタイのJVのVinythai はSolvayに残る。

2013/5/15 Solvay、欧州塩ビ事業をINEOSと統合、将来塩ビ事業から撤退 

Solvayは今回の売却発表にあたり、Solvay Indupaは同社にとって2012年第4四半期以降、売却対象資産(“Asset held for sale”)であったとしている。

ーーー

Solvay は2007年12月に、子会社のSolvay Indupa がブラジルのSanto Andre工場の拡張を行なうと発表した。
ビニルチェーンの拡大とともに、サトウキビ原料のエタノールからのエチレン製造プラントを含んでいる。

バイオエチレンの能力は6万トン。
Santo Andre工場の既存能力は苛性ソーダ10万トン、VCMとPVCが各24万トンだが、増設後は苛性ソーダ23.5万トン、エチレンが6万トン、VCMとPVCが各36万トンとなるとしていた。

2007/12/21 ソルベー、ブラジルでバイオベースのエチレン 製造

しかし、2011年の時点で、バイオエチレンは未だ検討中としており、完成したという発表や報道はない。
今回の発表をもとにすると、
Solvay Indupa の能力は下記の通り と思われる。(千トン)

  苛性ソーダ VCM PVC バイオ
エチレン
Santo Andre, Brazil
 
( ) は2007年の計画
100→170
         (235)
240→330
       (360)
240→330
         (360)

0→( 60)
Bahia Blanca, Argentina 180 210 210  
合計 280→350 450→540 450→540  

ブラジルでは三菱化学と日商岩井が参加するPVC/VCM JV のCPCとEDCメーカーのSalgemaが1996年末に合併しTrikemとなったが、2003年にBraskemが買収した。

CPC (PVC/VCM)
 (株主)
 Odebrecht    61.67%
    年金基金  5.00%
 三菱化学 19.04%
 日商岩井 14.29%
1996/末 合併でTrikem に

(株主)
 Odebrecht   69.47%
    年金基金 7.09%
 三菱化学 13.41%
 日商岩井 10.06%


 

2003 買収

Braskem  99.99%

  PVC       514千トン
  VCM  540千トン
  EDC   1,180千トン

Salgema (EDC)
 (株主)
 Odebrecht 95%

BraskemはPVCを戦略製品と見ており、2012年8月にはAlagoas州のMarechal-Deodoroに10億レアル(4億3千万ドル)を投じて200千トンのVCM、PVCプラントを完成させた。 (原料のEDCは現在余剰となり輸出している分を利用)
Solvay Indupaの子会社化により、Braskemの生産能力合計はPVCが125万トン、苛性ソーダが89万トンに達する。

PVC能力(千トン)
    既存 新設 合計
Argentina Solvay Indupa Bahia Blanca     210
Brazil Santo Andre     330
Trikem Alagoas 260 200 460
Camaçari 250   250
合計 510 200 1,250
 
 

2013/12/23 大阪ガス、米のシェールガス開発で減損損失計上 

大阪ガスは12月20日、減損損失290億円の計上を発表した。

同社が参加している米国テキサス州のPearsall Shale ガス・オイル開発プロジェクトが経済性に見合った油・ガスを取り出せず、現時点では生産性の大幅な改善が見込めないため。


大阪ガスは2012年6月22日、Pearsall Shale ガス・オイル開発プロジェクトに参画することを決め、Cabot Oil & Gas Corporationとの間で、権益35%を250百万米ドルで取得すること等を定めた権益売買契約を締結した。

所在地:米国テキサス州南部(Eagle Ford地区)
参加者:Cabot 65%(オペレーター)、大阪ガス 35%
開発対象:ピアソール層
主な産出資源:天然ガス、軽質原油、NGL

これまで累計で330億円を投じたが、地下3300mのやや深いエリアで地層に難があったため、「現在の掘削技術では経済性に見合った量を確保できない」という。ガス・原油の販売高は当初想定の14%程度にとどまっている。

今後も鉱区閉鎖せず、生産販売を続ける。

米国では、 油・ガスが予定通り出た場合でも、天然ガス価格の値下がりで、破産法を申請した企業も出ている。

2013/4/5  米国のシェールガス開発会社が破産法申請


2013/12/24  LG Chem、アクリル酸とSAP増設に3億ドル投資、SK Globalもアクリル酸に進出

LG Chem は12月18日、3億ドルを投資し、2015年9月までに粗アクリル酸と高吸水性樹脂(SAP)を増設すると発表した。

同社の年産能力は、粗アクリル酸が8万トンから51万トンに、SAPが16万トンから36万トンに大きく増加する。

付記 2015年8月 増設完了を発表した。

同社によれば、粗アクリル酸の市場は年率6%の伸びが期待され、2002年の440万トンが2017年には590万トンになると見ている。

ーーー

他方、韓国のSK Global Chemical も蔚山にアクリル酸工場を建設する計画を進めていると報じられている。

報道では、三菱化学がアクリル酸とアクリル酸エステルの生産技術ライセンスをSK Global Chemical に供与することで交渉しているとされる。

三菱化学は2013年3月29日、SAPを製造・販売するサンダイヤポリマーの持株全てを譲渡し、合弁事業を解消すると発表した。
持株40%のうち、30%を豊田通商に、10%を三洋化成に譲渡する。

2013/4/1 三菱化学、高吸水性樹脂事業から撤退 

これにより、三菱化学は特定企業に縛られずに海外でアクリル酸を事業展開できる体制を整えたこととなる。

SK Global Chemical の計画では、蔚山に年産16万トンのアクリル酸のプラントを建設する。
今後、SAPへの進出も検討する。SKでは中国や東南アジアや他の開発途上国でのSAPの需要が高い伸びを示していると述べている。

ーーー

2012年6月の日本触媒の会社説明会資料では、世界のアクリル酸の能力は500万トン超、SAPは200万トン超としているが、その後、各社の増強計画が続いている。


                         付記 日触は2014年7月31日、中国倍増計画中止を発表→2014年末 56万トン

各社の増強計画の詳細については下記を参照。

アクリル酸  2011/4/6 日本触媒、インドネシアでアクリル酸と高吸水性樹脂を増強

SAP         2011/8/4 日本の各社、高吸水性樹脂を増強

 

なお、日本触媒・姫路製造所は2012年9月29日に爆発事故を起こしたが、2013年12月18日に対象168施設のすべてについて、一時使用停止命令が解除され、稼働を再開できることとなった。


2013/12/24 IneosのGrangemouth石化コンプレックス、再建へ 

Ineosは12月20日、労働組合との紛争が続いていたスコットランドのGrangemouthの石油精製・石油化学コンプレックスで、1350人の労働者のほとんど全てが新しい年金制度にサインし、新しい労働条件を受け入れたと発表した。


Ineosは、Grangemouth石化事業は毎月10百万ポンド(約15億円)以上の損失を出しており、年金の赤字は200百万ポンド(約310億円)に達するうえ、
North Sea pipelineで供給を受けている北海の石化原料が減少しており、このままでは原料が枯渇し、遅くとも2017年末までには閉鎖するしかないとし、Survival Plan を作成、労働組合と政府(英国及びスコットランド)に協力を求めた。

 1) 300百万ポンド(468億円)を投資して、事業継続に必須の米国からの輸入エタンのガスターミナルを建設する。

 2) その条件として、労働組合に対し、製油所も含めた人員整理と賃金・年金の改正を要求

同社によると、Grangemouth での基本給は年間 £40,000 〜£43,000、手当やボーナスを入れると £55,000となり、スコットランド平均 の £26,000の2倍以上としている。これに年金が65%上乗せされ、1人当たり労務コストは£90,000 にもなる。

 3) 同時にIneosはスコットランド政府と英国政府に対し、事業をサポートするため、合計150百万ポンドの補助金と借入保証を要求 

これに対し、組合側はストライキで対抗した。

2013/10/10    Ineos、Grangemouthの石化コンプレックス閉鎖か?

工場は閉鎖の危機に陥ったが、政府の介入で組合側は年金改正提案を受け入れた。Ineos は従業員の現在の給与は変更なしとしている。

この結果、労務費の高騰が避けられるため、会社は3億ポンドの投資を実行する。

33千トンを保管できる欧州最大の液化エタンタンクを1.25億ポンドを投じて建設する。2016年に完成する。

米国からシェールガス原料のエタンガス(正確にはシェールガスと同時に出る天然ガス液からのエタン)を輸入する特製の船2艘のための新しいドック設備も建設する。

Ineosは2012年9月、欧州のエチレン原料用にエタンを輸入するため、米国の独立系石油・ガス業者のRange Resourcesとの間で、2015年からエタンを購入する契約を締結した。

老朽設備を廃棄する。

ベンゼンプラントは2014年に、エタンとナフサの両方を原料とする「G4」クラッカー (年産32万トン)とブタジエンは2015年後半に停止する。
エタンを原料とする
「KG」クラッカー(年産70万トン)だけが残ることとなり、誘導品も縮小する。

英国政府はIneosに対し150百万ポンドの債務保証を行い、スコットランド政府も900万ポンド以上の支援を行う。


2013/12/25   回顧と展望の前に アベノミクスの評価

2013/12/26      2013年 回顧と展望




2013/12/27  英国が原発建設再開、
固定価格買取制度導入、東芝と中国企業が計画に参加

東芝はこのたび、スペイン大手電力会社Iberdrola S.A.から、英原子力発電事業会社NewGeneration (NuGen)の株式50%を取得することで合意した。Iberdrolaが23日に発表した。取得価格は8500万ポンド(約140億円) 。

付記

東芝は2014年1月15日、Iberdrolaから同社保有のNuGen社株式50%を、GDF Suez から同社保有のNuGen社株式10%を、それぞれ譲り受けると発表した。取得額は総額で約1億ポンド。

NuGen は仏エネルギー大手GDF Suez とIberdrola の50/50JVで、英中部Sellafieldで合計出力360万キロワットの原発建設を予定している。
Iberdrola はスコットランドのScottish Powerを所有する。

2010年11月にGDF Suez、Iberdrola、Scottish and Southern Energy が夫々37.5%、37.5%、25%出資のJVを設立したが、2011年9月にScottish and Southern が撤退し、両社の50/50JVとなった。

しかし、Iberdrola が2012年に、事業再編と債務削減を進めるためにNuGenの保有株を売却する意向を明らかにしたことで、プロジェクトは頓挫していた。

東芝は子会社Westinghouse Electric の原発設備をNuGen に納入することを狙い、同社への出資を検討していた。

原発設備を納入した後に経営権を売却することを想定しているとされている。

 

付記

東芝は2017年4月4日、同社が60% 所有する英国の原発事業会社 NewGenerationの残り40%をフランスのEngie(2015年4月24日にGDF Suez が改称)から買収すると発表した。

東芝子会社のWestinghouseが米国のChapter 11 を申請したが、これは株主間契約に定められた当社の帰責事由(Event of Default)に該当することと規定されており、この帰責事由が発生した場合、ENGIE
は同社の保有株式全ての買取りを東芝に請求するか、東芝の保有する株式全てを買取る請求を行えることになっている。

ENGIEは当該規定に基づき、買取の請求をしてきたもの。

買取価額は、市場価格又はENGIEのNuGen株式への投資額のいずれか高い方とされており、2017年3月までのENGIEの投資額をベースの約153億円となる。
 

ーーー

日立製作所は2012年10月30日、英国で原子力発電所の建設を計画している原発事業会社Horizon Nuclear Power の全株式を、同社株主のドイツのエネルギー会社 No.1のE.ON及びNo.2のRWEから6億7000万ポンド(約850億円)で買収する契約を締結した。

Horizon
が保有する北ウエールズのAnglesey島のWylfaとSouth GloucestershireのOldburyの2カ所で、1,300メガワット級の原子力発電設備をそれぞれ2〜3基建設する予定で、日立が世界で唯一運転実績を持つ第三世代原子炉である改良型沸騰水型原子炉(ABWR)技術を用いる。

2012/11/1  日立製作所、英の原発会社買収

付記

2016年7月7日の日経は、日本原子力発電が日立の事業に参画する方針を固めたと報じた。

 

ーーー

英国では19基の原発が稼働しているが、英国政府は2009年11月に原発拡大策を発表した。
10か所に原発を新設し、2025年までに全電力の25%を原発で賄う計画(当時は全電力の13%)。

  稼働中 廃止 政府案
Berkeley    2基   
Bradwell    2基 
Calder Hall    4基   
Chapelcross    4基   
Dounreay DFR   2基   
Dungeness  2基   2基   
Hartlepool  2基   
Heysham  4基   
Hinkley Point  2基   2基 
Hunterston  2基   2基   
Oldbury  2基   
Sizewell  1基   2基 
Torness  2基     
Trawsfynydo    2基   
Windscale    1基   
Winfrith SGHWR    1基   
Wylfa  2基   
Braystones    
Sellafield    
Kirksanton    
合計  19基   26基   
 

しかし、福島事故で原発の安全確保のためのコストが見直された結果、2012年以降、ドイツ、英国の企業が原発計画から撤退した。

ドイツのE.ONとRWEは2009年にHorizon Nuclear Power を設立し、英国西部の2カ所に建設用地を購入、原子炉6基(発電容量計6ギガワット以上)の建設を計画していた。
2012年3月に
原発建設計画を断念し、共同出資会社を売却する方針を発表した。(→ 日立が買収)

下記のEDFのHinkley PointとSizewell の計画に英国のCentricaが2008年に20%の出資を決めたが、その後、福島事故による新しい安全対策などのさまざまな理由でコストが跳ね上がり、撤退を決めた。これにより英国企業は全て新規計画から撤退した。

英国政府はこのたび、原発推進のため自然エネルギーの普及に使われている「固定価格買取制度」を原発に導入した。

英国では、再生可能エネルギー、原子力、CCS付火力など低炭素電源へシフトする政策を掲げているが、現行の卸電力取引制度(BETTA)は、このような政策を前提に策定されたものではなく、強力な施策が導入されない限り、開発コストが高いこれら電源は市場から締め出されることになる。

そのため、英国政府は2011年7月、これらの電源の支援を目的とした電力市場改革(EMR: Electricity Market Reform)に着手した。
現行の卸電力取引制度の枠組みはそのまま残すものの、卸電力市場に低炭素電源を導入する強いインセンティブを組み込むべく、以下の4つの施策の導入を掲げている。
これらの制度は2013年以降、順次導入されることになっている。

CO2排出権価格の下限値の設定:火力発電事業者が購入しなければならない排出権の価格を一定以上に保つことで、低炭素電源を相対的に優位に立たせる制度
低炭素電源からの固定価格買取制度の導入:再生可能エネルギーの他、原子力やCCS付火力なども対象とする方針
新設火力のCO2排出基準の設定:石炭火力に対するCCS設置を実質義務化するもの。
キャパシティーペイメント制度の導入:再生可能エネルギーの大量導入によって、設備利用率の低下から投資不足が懸念される一般電源を確保する制度(設備に対する報酬制度)
   
  http://www.jepic.or.jp/data/ele/ele_05.html

ーーー

フランスのEDF と英国政府は2013年10月、2基の原発リアクターの建設で合意した。
英国での原発新設は1995年完成したSizewell B 原発以来となる。2023年の運転開始を目指す。

総額160億英ポンド(うち建設費は140億英ポンド)を投じて、Hinkley Pointに欧州加圧水型原子炉(EPR) 2基(総出力320万kW)を建設する。
これに続いて、Sizewell に2基のEPRの建設を進める。
同型のものを建設することで、設計、購入、建設における経費節減を図る。(“series benefit”)

運営体制としては、機器メーカーのAREVA、提携している中国の中国広核集団(CGN:旧称中国広東核電集団)と核工業集団公司 (CNNC) に加え、他社の参加を交渉している。

EDF Group 45-50%
AREVA 10%
CGN & CNNC 30-40%
その他(15%までの参加を認める)

広核集団はこれを海外原発事業への進出の足掛かりにしようとしている。
同社は
Horizon 買収にも名乗りを上げた。
英国政府は安全保障上、懸念を示しており、Horizon では
少数株主持ち分しか取得できないと主張し、最終的には日立製作所が取得した。

英国政府とEDFは今回、原子力発電での電力の固定価格買取価格(35年間)について、下記の通り合意した。

Sizewell での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合    £92.50/MWh(約14.6円/kWh)

 これは現在の卸価格の約2倍になる。

英国の自然エネルギーの固定費買取価格は以下の通り。(いずれも 2014年)

・陸上風力   £100/MWh
・洋上風力    £155/MWh
・潮力・波浪   £305/MWh 
・バイオマス   £105/MWh
・太陽光   £125/MWh

原発に固定費買取価格制度を適用することに対する反対は強い。

反原発団体 Stop Hinkley は、「原発の固定価格は、現在の市場価格の約2倍と高い。原発にこの制度を導入するのは、事実上の補助金にあたる」と言う。

Hinkley原発での固定価格は、ほかの自然エネルギーより安いが、買い取り期間が通常15〜20年程度の自然エネルギーに比べて、35年とかなり長い のも問題とされる。

これが、競争を阻害する「国家による補助」を禁じるEUの法律に違反しないか、調査が進められる。

これらの批判に対しては、「世界的なエネルギー需要の高まりで化石燃料が高騰するので、今は市場価格の2倍でも将来的には元が取れる」、「原発は60年使うからその6割を保証するだけで、自然エネルギーも運転期間25年に対し15年だから、変わりない」との反論がなされている。

英国の電力価格は、2005年を100として、2012年までに1.7倍、2000年と比較すると2倍以上に高騰しているという。 今後、どこまで上がるのだろうか。

ーーー

米国では、シェールガスの生産増加の影響で天然ガス価格が低くとどまり、発電コストの競争力が低下したことや安全性や信頼性向上のために多額の費用がかかることなどを理由に、既存の原発を停止したり、新設を中止するケースが出ている。(他の問題も絡むが。)

2013/9/2 米・電力大手Entergy、Vermont Yankee原発の廃炉を決定

英国での今回の原発電力の買取価格の高さは驚きである。

まともに対策を取れば、こんな価格でないとやれないのであろうか。


2013/12/27 ガス絶縁開閉装置事業のカルテル制裁金に関する欧州司法裁判所の判決 

欧州司法裁判所は12月19日、欧州のガス絶縁開閉装置(GIS : gas insulated switchgear)市場における欧州競争法違反による制裁金に関し、三菱電機と東芝、及びSiemens(ドイツ) が行っていた上訴を却下した。

これにより、Siemensについては2007年1月の欧州委員会の制裁金が確定した。

三菱電機と東芝については、2011年7月に欧州一般裁判所が計算誤りとして制裁金を無効にしたため、欧州委員会が2012年6月に新しい制裁金の支払いを命じ、両社がこれを不満として欧州一般裁判所に訴えており、これの判決待ちとなっている。

付記 

欧州一般裁判所は2016年1月19日、三菱電機と東芝が算定内容の見直しを求めていた提訴を棄却したと発表した。

この判決により、日本企業が欧州市場で販売をしない約束をすれば、カルテルに参加していると判断され、制裁金を命じられることとなった。

経緯は以下の通り。

(単位:千ユーロ) 2007/1
 制裁金
2011/7
一般裁判所
  2012/6 
 制裁金
2013/12
司法裁判所
制裁金 付記
2016/1
Siemens(ドイツ)   396,563 却下 上訴   却下 2007/1分
確定
 
Siemens(オーストリア) 22,050            
ABB(スイス) 0            
三菱電機 2002/10  JV
 
TMT & D
  118,575

取り消し
(違反有・計算誤り)

上訴 74,817

連帯
  4,650

却下 2012/6分
一般裁判所
審議中
2016/1
却下
東芝 90,900 56,800
Alstom(フランス) 11,475            
Areva/Alstom(フランス) 53,550            
日立製作所 51,750 却下          
Schneider(フランス)    8,100            
富士電機システムズ 3,750 情報提供
減額→3,550
         
日本AEパワーシステムズ
(富士電機システムズ、
日立、明電舎のJV)
1,350            
合計   750,713            
   
1) 2007/1 欧州委、制裁金支払い命令
   
  欧州委員会は2007年1月24日、電力用ガス絶縁開閉装置で国際カルテルを結んでいたとして日欧10社に7億5千万ユーロの制裁金支払いを命じた。

少なくとも1988からカルテルを結んでいたとされる。各社が連絡をとりあって割当数量比率で受注できるよう調整し、最低価格を決めていた。また、日本企業は欧州で販売せず、欧州企業は日本で販売しないことも決めていた。

日本企業は欧州での販売実績はほとんどないが、上記の取り決めに従って欧州で応札せず、直接的に欧州での競争を制限したため制裁金が課せられた。

  2007/1/26 EU、電力用ガス絶縁開閉装置のカルテルで1200億円の制裁金

なお、日本とEUには「独占禁止協力協定」があり、違反行為の調査などを相互に通報する規定が設けられているが、欧州委が通報を忘れたため、公取委は制裁金の発表でカルテルの存在を把握したが、既に時効となっていた。

  2008/4/19 電力用ガス絶縁開閉装置のカルテルの日本での扱い

   
2) 欧州一般裁判所(一審)への提訴
   
  日本企業各社は欧州競争法に違反する行為を行っていないとして提訴。
  Siemensは、「制裁金の額は無茶苦茶で、どうしてこんな額になるのか理解できない」として提訴した。
   
3) 2011/7 欧州一般裁判所
   
  EUの一般裁判所(General Court:第一審裁判所を改称)は2011年7月、東芝と三菱電機への制裁金を無効とし、富士電機への制裁金を減額した。
日立製作所の提訴は却下した。
Siemensの訴えも却下した。

  http://europa.eu/rapid/press-release_CJE-11-70_en.htm

先ず、欧州で販売していない日本企業に制裁金が課せられたことについては、欧州市場は欧州企業に、日本市場は日本企業とという(書類にはない)合意があり、日本側は欧州市場への参入を行わず、欧州側は欧州市場割当の結果を日本側に連絡していること、欧州側は日本市場への不参入を約束するとともに、一部の海外市場に参入しないことを約束していることから、カルテルに参加していると認めた。

制裁金の計算に際し、欧州委員会が三菱電機と東芝には2001年の売上高を使用し、欧州企業には2003年の売上高を使ったことを問題とし、平等な扱いでないとみなし、無効とした。
(東芝と三菱電機は2002年10月に両社の電力系統・変電事業を統合して50/50の合弁会社
TMT & Dを設立したが、カルテルにはJVではなく、東芝と三菱電機として参加していたため、欧州委は、JV設立前の両社の売上高を採用した)

富士グループについては、情報提供による協力があったのに評価しなかったとして、2002年10月以前の分の制裁金を240万ユーロから220万ユーロに減額した。

Siemensの訴えも却下した。

  2011/7/15 欧州一般裁判所、東芝・三菱電機への電力用ガス絶縁開閉装置カルテル制裁金を取り消し

   
4) 司法裁判所への上訴
   
  東芝と三菱電機及びSiemensは判決を不服として司法裁判所に上訴した。
   
5) 2012/6 欧州委員会
   
  欧州委員会は東芝と三菱電機に対し、制裁金の計算をやり直し、新しい制裁金の支払いを命じた。一部は連帯での支払いとなる。
   
6) 一般裁判所への提訴
   
  東芝と三菱電機は新しい制裁金を不満とし、一般裁判所に提訴した。現在、審議中。
   
7) 2013/12 司法裁判所判決

 


2013/12/28   イラクで2つの石油化学計画 

イラクで2つの石油化学計画が検討されている。
一つはShellの計画で、もう一つは韓国のHanwha Chemicalによるものである。

1)Shell

Shellは2012年4月にイラクでの石化コンプレックス建設に関するFS実施の覚書を締結した。
2013年11月12日にShellのCEOのPeter VoserがBaghdadでイラク首相と会談した。
近く、石化計画実施の覚書が締結されるとみられている。

構想では南部イラクに110億ドルを投じて石化コンプレックスを建設する。
Nebras計画
(アラビア語で "beacon of light")と呼ばれ、エタンクラッキングでエチレンを製造する。

ーーー

ShellはイラクでMajnoon油田の開発を行っている。

イラクの石油第二次入札で落札、2010年1月にShell(60%)とPetronas(40%)が20年間の契約を締結した。
国営石油会社Missan Oil が開発に加わり、Shell がオペレーターとなっている。

Shellはまた、三菱商事と組んで、イラク南部での油田ガス回収事業を行っている。

イラク内閣は2010年6月に計画を承認した。
Basra Gas Companyを設立、イラクが51%出資し、シェルが44%、三菱商事が5%出資した。

所要資金は120億ドル(将来170億ドルまで増える可能性あり)で、イラク南部の4つの巨大油田ー RumailaZubairWest Qurna Phase 1Majnoon油田ーでそのまま燃やされている付随ガスを回収、当初はイラクの電力不足解消のため発電に使用、将来は液化設備をつくり、最大日量6億立方フィートの輸出を行う。

2010/7/6 シェルと三菱商事、イラク南部で油田ガス回収事業

2)Hanwha Chemical

韓国のHanwha Chemicalは12月19日、イラク産業省次官との間で、40億ドルを投資し、イラク南部にエチレン生産設備や石油化学製品生産工場などを建設する計画の合弁事業意向書を締結した。

今後、イラク政府と具体的に事業性を検討する。

低コストの原料をほかに先駆けて確保し、原価競争力を得ようという戦略。

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イラン・イラク戦争(1980-88)前にはイラクには2つの石油化学計画があった。

Petrochemical-1 (PC-1)、PC-2と呼ばれ、いずれも国営石油化学企業 State Enterprise for Petrochemicalsが所有、運営するものであった。

PC-1はペルシャ湾近くのKhor Al-Zubair(Basrahの南方)にあり、1970年代後半にLummus と Thyssen Rheinstahが建設した。
PC-2はバグダッド南部のMusayibにあり、イラン・イラク戦争で建設が中断、
1988年の戦争終結で建設を再開した。

1991年にイラクはクウエートに侵攻して湾岸戦争を起こした。PC-1、PC-2 ともに爆撃を受け、大きな被害を受けた。
PC-2は2003年のイラク戦争の後、停止したままとなっている。

現在、PC-1はBasrah petrochemical complex と呼ばれ、State Company For Petrochemical Industries(SCPI)が運営している。
実際の稼働状況は不明だが、公称能力は以下の通り。

Plant Licensor 能力 千トン
エチレン Lummus 132
HDPE Phillips 30
LDPE Equistar 60
VCM Stuffer 66
PVC Stuffer 60
液塩/苛性ソーダ Oxytch/Zarmba 42/84

原料はRumaila油田からパイプラインで受け入れる。
LDPEの農業用フィルムも生産している。