2006/5-3

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp


2016/10/1   米同時テロ遺族のサウジ提訴法案、大統領拒否権を覆し成立
 

米同時テロに関与した外国政府への損害賠償請求を可能にする法案にオバマ大統領が拒否権を発動したことを受け、米上下院は9月28日、上院は 97対1、下院は 348 対77 の賛成多数で再可決し、拒否権を覆して法案は成立した。

拒否権が覆されるのはオバマ政権下で初めてとなる。

法案提案議員の一人は、「こうした状況下で分かったのは、ホワイトハウスと行政は外交の方がずっと気になっているということだ。われわれは家族や正義の方に関心がある。政権はこの問題について完全に間違っていると思う」と述べた。

ーーー

911同時テロではテロ実行犯19人のうち15人がサウジ国籍だった。
同時テロの遺族はサウジ政府を連邦裁判所に提訴したが、外国政府の免責特権を理由に審理されなかった。

このため、同時テロに関与した外国政府への損害賠償請求を可能にする法案「テロ支援者制裁法(Justice Against Sponsors of Terrorism Act (JASTA)」(通称 Sept. 11 lawsuit bill)が提出され、上院は5月17日に全会一致で、下院は9/11 直前の9月9日に賛成多数で可決した。

テロリストグループに関与した疑いのあるサウジアラビアおよびその他の国が、アメリカの裁判所で法的免除を行使することを禁じる内容で、テロリズム支援国以外には法的免除を与えた1976年の外国主権免責法(Foreign Sovereign Immunities ActFSIA)を超越する法案である。Hillary Clinton とDonald Trump の両大統領候補もこれを支持した。

サウジアラビアは、全面的に同時多発テロへの関与を否定しており、法案に激しく反発している。

New York Timesによると、サウジのジュベイル外相は、
裁判で多額の賠償を命じられて在米資産が接収されるのを防ぐためには米国債その他のドル建て資産を売却せざるを得なくなる、と米議会に警告した。法案が成立すれば、サウジは最大で7500億ドルのドル建て資産を手放すことを余儀なくされるという。

米財務省は5月16日、サウジアラビアによる米国債保有額を初めて公表した。それによると、サウジの2016年3月時点の米国債保有は1,168億ドルであった。
(これに対し中国は1兆2000億ドル、日本は1兆1000億ドル台である。)

オバマ大統領は9月23日、サウジアラビアとの関係を損なうおそれがあるなどとして、拒否権を行使した。

しかし、上下両院は28日、それぞれ拒否権を覆すのに必要な「両院で3分の2以上の賛成」をクリアし、圧倒的賛成多数で法案を再可決した。

イラン核合意で悪化した米サウジの関係が、今回の法案成立でさらに深刻化するのは避けられない。

オバマ大統領は、これを「過ち」とし、海外にいる外交官や米兵などは今は国家主権による免責特権で守られているが、今回の法成立を受けて、彼らの行動について外国の市民が米国に法的責任を問うようになるかもしれないと指摘した。

CIA長官は、これにより最も失うのは米国であり、CIA が最大のリスクを負うと述べた。また、サウジはテロ攻撃を防ぐための情報を最も提供している国であり、この法律がテロ対策での米国との関係に悪影響を与えるのは"absolute shame"であると述べた。

国防長官も、外国が仕返しとして米国の免責特権を制限した場合の影響を警告し、アメリカ人が訴訟される可能性や、米軍基地を含めた在外の米国政府の資産へのリスクがあると述べた。

これを受け、 下院議長は「米兵が海外で法的問題を抱えないように修正を検討したい」と述べた。大統領報道官は、「知らなかったというのは言い訳にならない」と皮肉った。

サウジは「強い懸念」を表明、国際規範に反するとして「米議会が是正のための必要な措置を取ることを望む」と強調した。


2016/10/3 トクヤマ、マレーシアの多結晶シリコン事業を売却

トクヤマは多結晶シリコンを生産する Tokuyama Malaysia を韓国のOCI Company に売却すると発表した。

Tokuyama Malaysia はサラワク州のサマラジュ工業団地に第一期(半導体用)、第二期(太陽電池用)の多結晶シリコンプラントを持つが、下記の通り、前者は品質問題で出荷不能、後者は大幅値下がりで、ほぼ簿価全額の2千億円の減損損失を計上している。

その後、事業継続に向け、設備の改良や生産性向上の努力を重ねるとともに、他社との提携も視野に入れ、あらゆる検討を行ってきたが、多結晶シリコン製造を含めた太陽電池事業をグローバルに展開している韓国の OCI に譲渡することが最善の選択であるとの結論に至った。

売却は下記の手続きで行う。トクヤマの売却額は98百万ドルで、OCI は 、増資引き受けを含め、建設費約 2千億円のプラントを約 1割の価格で取得することとなる。

時期   出資比率 金額
2016年10月7日 増資引き受け  17% 24百万ドル
2017年3月31日 増資引き受け 51% 78百万ドル
売買 100% 98百万ドル
合計   100% 200百万ドル

付記  各国競争当局の許認可取得で遅れたが、2017年4月に完了し、新たな譲渡予定日を2017年5月末とした。

付記  2017年5月31日付で2回目の第三者割当増資とトクヤマが保有する全株式の譲渡を完了した。

韓国のOCI Companyは1959年に東洋化学工業 (Oriental Chemical Industry) として設立された。(2009年に改称)
ソーダ灰からスタート、2000年には石炭化学に進出、2008年にポリシリコンの生産を開始した。

群山工場で年間5万2000トンのポリシリコンを生産しており、ポリシリコン生産量では韓国で最大で世界3位。

世界3位を維持するためにグローバル生産基地を追加で確保する必要があった。

OCI は「工場近隣の大型水力発電所から安く電気が供給されるうえ、工場が貿易紛争の第3地隊であるアジアにあり、中国や米国などに輸出する場合に規制が少ないという長所を考慮し、株式取得を決めた」と説明した。

ーーー

トクヤマは徳山製造所に半導体用途を中心に年産 8,200トンの多結晶シリコン設備を持っていたが、2009年8月に太陽電池用途の増産対応とリスク分担の面から、マレーシアのサラワク州のサマラジュ工業団地に総工費約800億円をかけて太陽電池向け多結晶シリコンの年産 6,000トンの大型プラント建設を決めた。

2008/12/5 トクヤマ、マレーシアに多結晶シリコン第二製造拠点

しかし、同社は2012年11月に、これを主として半導体向けグレードを生産・販売する計画に変更、2013年2月に一部設備を除き建設が完了、その後試運転を開始した。

更に、2011年には第二期として太陽電池向けに年産13,800トンの建設を決めた。合わせて徳山製造所の能力を11,000トンとした。

全て完成後は、日本11,000トン、マレーシア20,000トンで合計31,000トンとなるが、同社はこれにより、半導体用途は世界シェア20%を維持し、太陽電池用途では5%程度のシェアを10%程度に引き上げるとしていた。

ーーー

半導体向けグレードは、非常に高い純度をはじめとする高品質が求められる。

第一期プラント(太陽電池向けから途中で半導体用に変更)については試運転を行ってきたが、品質・生産安定性が達成出来ず、更に、析出装置に関する問題が存在し、当面顧客認定用サンプルの出荷が事実上不可能であると判断した。

トクヤマは2014年10月31日、第一期プラントの製造設備に関して、減損損失 748億20百万円と事業計画の見直しに伴う関連費用 112億7百万円の合計 860億27百万円の減損損失を計上した。

2014/11/3 トクヤマ、マレーシアの多結晶シリコン計画で特別損失計上 
 

第二期プラントは、2014年10月に営業運転を開始し、太陽電池向けグレードの生産を行ってきたが、世界的な供給過剰を背景とした販売価格の著しい下落が続き、今後の価格見通しが事業計画における想定を大きく下回ることとなった。

このためトクヤマは、将来の投資回収可能性を検討した結果、1,234億86百万円の減損損失を計上すると発表した。

2016/2/3 トクヤマ、マレーシアの多結晶シリコン事業で再度、減損損失を計上 

まとめると下記のとおりとなる。徳山工場についても2013年度に減損処理をしている。

  用途 能力 状況 減損
マレーシア1期 当初、太陽電池用
その後、
半導体用に変更
 
6,200トン 品質問題で出荷不能 2014年度 減損損失             748億20百万円
関連費用             112億 7百万円
   合計                   860億27百万円
マレーシア2期 太陽電池用 13,800トン 価格の大幅下落 2015年度  減損損失        1,234億86百万円
参考
徳山工場 半導体用、太陽電池用 11,000トン   2013年度 設備全額減損処理  275億円
原材料評価損    20億円

 


2016/10/3 ロッテ会長の逮捕状請求棄却と高高度防衛ミサイル(THAAD)配置 

韓国ロッテグループの辛東彬(重光昭夫)会長(創業者の次男)は9月20日午前、背任や横領の疑惑に絡む事情聴取を受けるため、ソウル中央地検に出頭、約18時間にわたる事情聴取を受けた。

朝鮮日報は、辛東彬(重光昭夫)会長が逮捕、起訴された場合、同氏が経営の一線を追われる可能性があると指摘し、その場合、「韓国 5位の財閥が日本の経営陣数人に左右されるという、あきれた状況が現実になるかもしれない」と伝えた。 

2016/9/23 ロッテグループの危機
 

ソウル中央地検は9月26日、背任・横領の容疑で、辛東彬(重光昭夫)韓国ロッテグループ会長の逮捕状を請求した。

しかし、ソウル中央地裁は9月29日、逮捕状請求を棄却した。

逮捕状交付の必要性を判断する令状実質審査を行う令状実質審査で、検察側は、辛東彬会長がロッテグループのオーナー一族を系列企業の形式的な役員に就かせ、給与として総額500億ウォンを支払ったのは明らかに横領だと主張、また会長一族が個人的に保有する会社に集中して発注を行ったり、系列会社間の株式取引を指示したりして、総額1250億ウォンの損失を出した疑いもあると指摘した。

これに対し、会長側は「給与500億ウォンは辛東彬会長が受け取ったものではなく、集中発注は辛格浩総括会長が指示したものであり、辛東彬会長とは無関係だ」と反論。系列会社間の株式取引も経営上の判断によるもので、損失が出たか否かを現時点では判断できないと主張した。

中央地裁は、「捜査の進行内容と経過、主要犯罪容疑に対する争いの余地などを考慮すると、拘束の必要性、相当性を認め難い」と判断した。

検察側は在宅起訴の方針とされる。

付記

ソウル中央地検は10月19日、創業者の重光武雄(辛格浩)、長男の重光宏之(辛東主)、次男の昭夫(辛東彬)の各氏を脱税や背任などの罪で一括して在宅起訴 した。
重光昭夫会長の出国禁止は解除された。

ーーー

しかし、この決定には裏があるのでは、との報道がなされている。

北朝鮮が核実験や弾頭ミサイル発射実験を相次いで実施したことを受け、米国と韓国は、北朝鮮のミサイルに対応するため、米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配置を決めた。

中国はこれに猛反対している。

杭州のG20首脳会議に合わせて、習近平主席と朴槿恵大統領が9月5日に会談したが、厳しいやりとりが交わされた。

習主席は「この問題の処理を間違えば、地域の戦略的安定に助けにならず、紛争を激化させる可能性がある」と憂慮を表明した。

これに対し朴大統領は「北朝鮮のミサイルへの対応手段としてのみ配置するものであり、第三国の安全保障を侵害する理由も、必要もない」と述べ、理解を求めたが、議論は平行線をたどった。

韓国は7月に南東部の慶尚北道星州郡の空軍ホークミサイル基地に配備することで米国と合意した。

しかし、メロン農業が盛んな同地域の住民らは、レーダーの強い電磁波が健康に与える影響への懸念や、戦争になれば報復すると警告する北朝鮮の標的になる可能性などから強く反対、当局は変更を余儀なくされた。

韓国国防省当局者は9月30日、THAADを星州郡のゴルフ場に配備する計画だと明らかにした。

同当局者は、新たな配備先は、ロッテグループが所有するロッテスカイヒル星州カントリークラブであることを明らかにした。
高い標高(当初案の基地は標高383m、ゴルフ場は標高 680m)と軍用車のアクセスが良いことから、選ばれたという。


 

韓国内には、逮捕状請求却下とこれを結びつける意見もある。

ロッテスカイヒル星州カントリークラブ は以前から候補地となっていたが、ロッテグループには、敷地に決定された場合、中国の経済報復を受け、中国人観光客の購買額が売り上げの78%を占めるロッテ免税店や中国現地での事業などに少なくない被害が発生することに対する懸念もあった。

そのなかで裁判所が令状を発給し、総帥空白などグループの存立に深刻な状況が現実化した場合、ロッテがこれを受け入れるかどうか、疑問視された。

ソウル中央地裁 が逮捕状請求を棄却した9月29日の翌日、本ゴルフ場への配備計画が発表された。

ロッテ・カントリークラブの場合、単独地主なので政府が国有地と対等交換すれば6か月以内に簡単な手続きで終えることができる。
現在、京畿道一帯の国防部所有の敷地との交換が有力であると伝えられる。

付記

中国当局は11月29日からロッテ系列の会社や工場などに突然調査や点検に入った。上海の中国ロッテ本部は税務調査を受けているが、通常とは異なり市が直接調査に入ったという。

ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161204/k00/00m/030/036000c#csidx65ea422a3b38c57864d5c26b0521157
Copyright 毎日新聞
中国当局は11月29日からロッテ系列の会社や工場などに突然調査や点検に入った。上海の中国ロッテ本部は税務調査を受けているが、通常とは異なり市が直接調査に入ったという。

ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161204/k00/00m/030/036000c#csidx65ea422a3b38c57864d5c26b0521157
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中国当局は11月29日からロッテ系列の会社や工場などに突然調査や点検に入った。上海の中国ロッテ本部は税務調査を受けているが、通常とは異なり市が直接調査に入ったという。

ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161204/k00/00m/030/036000c#csidx09a7bfa2709dc8e9bb56dfd8cfb6f6b
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中国の関係各部門は11月29日以降、ロッテ系列の上海市や四川省成都市などのロッテグループ拠点150カ所に対し、消防や安全、衛生、税務調査に入った。上海の中国ロッテ本部は税務調査を受けているが、通常とは異なり市が直接調査に入ったという。

韓国政府関係者は「ゴルフ場が基地になるのと関係があると思う」と話す。

今回の調査はTHAAD問題での報復措置と指摘する声も出ている。

中国外務省の耿爽(こう・そう)副報道局長は1日の定例会見で「状況を承知していない」と述べる一方、ミサイル配備に反対する立場を改めて繰り返した。

ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161204/k00/00m/030/036000c#csidxed13e215c8238ef997a612dc89404b9
Copyright 毎日新聞

中国外務省の副報道局長は定例会見で「状況を承知していない」と述べる一方、ミサイル配備に反対する立場を改めて繰り返した。

付記

2017年2月8日、ロッテグループが中国瀋陽で推進中のロッテワールドタウン・プロジェクトの核心であるロッテワールドの造成工事が昨年12月から中断されたままだと報じられた。

中国側は消防点検上の問題を指摘した。

ロッテは瀋陽で3兆ウォン(約2900億円)を投資して大型ショッピングモール、テーマパーク、ホテル、住居団地などを建設している。現在、デパートとヤングプラザは開館して運営中しているが、テーマパークやアパートなどは2018年の完工を目指して工事が進められていた。

付記

同ゴルフ場を運営するロッテ商事が2017年2月27日、国防省と土地交換契約を結ぶことを取締役会を開いて決議した。28日にも同省と契約を結ぶ。
ロッテ商事はゴルフ場を提供する代わりに、等価の土地を同省から譲り受ける。同省は2016年9月、星州を候補地に選定していた。

国営新華社通信は2月19日、ロッテが敷地を提供した場合、「中国の顧客と市場を失うことになる」と警告しており、中国当局が本格的な報復措置を取る可能性が高まった。
 


2016/10/4  Pfizer、会社分割を見送り 

Pfizerは9月26日、2012年から検討してきた会社分割を見送ると発表した。

検討の結果、現状の姿が将来の株主価値創造に最も適しており、特許で保護された製品を扱うPfizer Innovative Health と、低成長のジェネリック製品を扱うPfizer Essential Health を分割して別々の企業として上場する案を撤回する。

同社の現在の体制は下記の通り。

Pfizer Essential Health Global Established Products (GEP)
Pfizer Innovative Health  Global Innovation Products (GIP)
Vaccines Oncology and Consumer healthcare (VOC)

同社は5〜6年前から、この2つの事業を1つの会社で運営するよりも、別々の会社で運営するほうがよいのではないかという “Trapped value” 問題を検討してきた。

しかし、検討の結果、現時点で2社に分割しても、収入や競争力を高めず、逆に分離のコストが増え、税務上のメリットも期待できないことから、分割は価値損失の方向であるとの結論に達した。

2つの事業は従来どおり、Pfizerのなかの別の事業として運営される。

この結果、会社分割の場合と同様に
事業の力、効率、資金面でのフレキシビリティを維持し、分離の場合のメリット、即ち、焦点を絞り、責任感を増し、緊急性を意識するということを確保できるとしている。

今後、両事業を業界のリーダーにするとしている。

ーーー

Pfizer は2012年にリストラ計画を開始し、基本事業以外を順次売却してきた。

2012年11月にNutrition事業をNestle に11,850百万ドルで売却し、48億ドルの売却益を計上した。

2013年6月にAnimal healthのZoetis 部門をIPOで分離し、103億ドルの税引き後利益を計上した。

それ以前の2011年8月にCapsugel 事業(Hard capsule とDrug-delivery system)をKKRに2,375百万ドルで売却し、約13億ドルの売却益を上げている。

その一方で、基本事業の成長を図るため、事業買収を計画した。(最初の2つのビッグな買収は失敗)

2014年にAstraZenecaの買収を提案した。しかし、AstraZenecaはこれに反対し、下記の問題も発生したため、Phizer は断念した。

Pfizerの経営幹部が、買収目的の一つを「効果的な租税負担を構築する」こととした。買収後は英国に多くの利益を留保・移転し、米国の高い税を回避するというもので、これに対し米国議会が反発、課税逃れ阻止の法案提出の動きも出てきた。

2014/5/12   Pfizer が AstraZenecaに買収提案

2015年11月にアイルランドに拠点を置く同業のAllergan の合併を決めた。
本社移転による米国の課税回避という目的もあるが、ジェネリックを扱う
Pfizer Essential Healthの事業の強化の目的もあった。

2015/11/26    Pfizer、アイルランドのAllerganを買収

しかし、米財務省が2016年4月に、税率の低い国へ本社を移転する税逃れ行為「インバージョン」をめぐり追加措置を発表したため、本社移転による恩恵がなくなり、買収を撤回した。

2016/4/7 Pfizer とAllergan、合併計画断念

ーーー

2015年2月にジェネリック注射剤やバイオ後続品を扱うHospira, Inc.を170億ドルで買収した。

2015/2/11   Pfizer、米製薬会社 Hospira, Inc. を買収 

2016年5月には、アトピー性皮膚炎に有効な新たな非ステロイド系薬のcrisaborole を持つAnacor Pharmaceuticals, Inc.を52億ドルで買収した。

2016年8月にバイオファーマのMedivation, Inc. を140億ドルで買収する契約を締結した。

2016/8/24    Pfizer、Medivation を買収

同じく8月にAstraZeneca から複数の抗感染症薬の権利を最大15億7500万ドルで取得すると発表した。

2016/8/31  Pfizer、AstraZeneca から抗感染症薬買収

今後も、買収により、Innovative Health とEssential Health の両事業の強化を図ると思われる。

同社の歴史については下記参照

2016/6/8 欧米の医薬業界の変遷 -1 


2016/10/5 米国、2017会計年度も暫定予算でスタート 

10月1日から始まる2017会計年度の予算について、12月9日までの暫定予算が決まり、オバマ米大統領は9月29日に署名し、成立した。

予算案を巡る与野党の対立は数週間続いていた。通年予算の成立は無理で、暫定予算となるが、共和党の一部は来年3月までの長期の暫定予算を要求した。

オバマ大統領は11月8日の大統領選後に、予算協議と合わせてTPPの承認を求める意向だが、来年3月までの暫定の場合、大統領の任期中に審議ができない可能性があった。今回の暫定予算決定で、大統領は任期中のTPP承認を目指す。

なお、TPPには反対が強い。上院でTPPを所管する財政委員会の委員長は、バイオ新薬のデータ保護期間を、大筋合意した8年から12年に延ばすよう強硬に主張している。TPPの修正には再交渉が必要だが、他の参加国全体が絶対反対の立場である。

最終的に12月9日までの暫定予算で妥協に達し、米上院は9月28日に可決、下院も同日可決した。

これにより大統領選挙の前の政府機関の一部閉鎖などは回避される。

米議会は休会に入り、大統領戦後の11月半ばに再開する。

ーーー

米国の予算の問題には、「予算案」そのものと「債務上限問題」がある。

オバマ政権では、予算については、与党民主党が少数のため、野党共和党の反対によりこれまで全ての年度で年度前に予算が成立せず、暫定予算でスタートした。

2014年度の2013年10月1日には暫定予算も成立せず、政府機関が一部閉鎖された。

2013/10/1   米国、予算成立せず、政府機関を一部閉鎖

2012年12月には、「財政管理法による政府支出の強制削減」と「大型減税期限切れ」による 「財政の崖」問題が発生したが、同年12月31日に当面の回避案で合意
している。

     2013/1/4   米国、「財政の崖」問題を当面回避

直近の2会計年度の動きは次の通り。

2015
年度
2014/10 2014/12/11までの暫定予算
2014/12 総額1兆1000億ドルの包括的歳出法案を可決、但し、国土安全保障省は2015年2月までの暫定予算
 
2014/12/18 米国、包括的歳出法案が可決するも、問題を残す
2015/3/4  2015/3/6 米、国土安保省の予算可決
2016
年度
2015/9/30  
 
12月11日までの暫定予算
 
2015/10/15 米国、2016会計年度予算も暫定予算でスタート
2015/10/26 2年間の予算案の概要で合意(但し、細目決まらず)
 2015/11/4 米議会、債務上限引き上げと予算案を承認
2015/12/11 期限切れで短期暫定予算
2015/12/18 予算案可決
 2015/12/21 米議会、予算案を可決、原油輸出解禁、IMF出資比率見直しも 

 

債務上限問題(2012/10/8 米国経済の問題点 参照)では、「上限の引き上げ」や、「債務上限の適用の凍結」で対応しているが、与野党の協議が不調に終わり、上限に達したため、長期間、つなぎの資金繰りで対応したこともある。

現在は、2015年10月に債務上限凍結を2017年3月15日まで再び延長して、乗り切っている。

過去の経緯:

  債務上限  
2012/11/5 14.29兆ドル 上限到達。
2012/11/7 16.4兆ドル 上限引き上げ
  
2011/8/3  米国、債務上限引き上げ、デフォルト回避
2013/2 16.7兆ドル 上限引き上げ
2013/5 16.7兆ドル 上限到達、以降、つなぎの資金繰りで対応
  
2013/8/29 米国債、再びデフォルト懸念
2013/10/16   2014/2/7まで上限以上の国債発行を認める。
  
2013/10/17 米国、政府デフォルトを直前に回避
2014/2/7 17.2兆ドル 上限以上の国債発行の期限到来
2014/2/12   債務上限の適用を2015年3月まで凍結
    2014/2/14 
米債務上限上げ法案可決 デフォルト回避確定
2015/3/16 18.1兆ドル 凍結期間終了、以降、つなぎの資金繰りで対応
2015/10/26   債務上限凍結を2017年3月15日まで再び延長
   
2015/11/4 米議会、債務上限引き上げと予算案を承認、大統領署名 

 


2016/10/5 福島原発の費用負担 

既報のとおり、経産省は9月20日、原発費用の負担に関連する二つの委員会の設置を決めた。

 「東京電力改革・1F 問題委員会」 東電の経営問題福島第一原発(1F)の廃炉費用の負担を議論

 「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」 卸電力市場活性化や全国の原発の廃炉費用負担を検討

エネ庁は福島第一の賠償額、廃炉費用、および他の原発の廃炉費用の引当不足分を8.3兆円と見込み、電力自由化で大手電力から新電力に契約を切り替える消費者が増えた場合、原発を持つ電力会社だけでは巨額の費用を賄えなくなる可能性があるとし、この8.3兆円を、全国の送電線の使用料金に上乗せする形で、太陽光発電などすべての電力会社の電力料に上乗せして回収しようという案を考えた。

二つの委員会はこれを検討するものである。化学業界からは前者には小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長、後者には石村和彦・旭硝子会長がメンバーに入っている。

2016/9/21 原発コストを新電力も負担、政府案 

 

毎日新聞(10月5日付け)によると、電力業界団体の電気事業連合会(電事連)が、東京電力福島第1原発事故の損害賠償・除染費用について、大手電力各社の負担額が当初計画を約8兆円上回ると試算し、国費での負担を政府に非公式に要望していることが分かった。

電事連は、賠償費用のほか、上記のエネ庁案には入っていない除染費用を対象とした。

賠償費用は、東電を含む原子力事業者が負担するが、2013年に想定した5.4兆円に対し、2.6兆円増えて8兆円になると予想する。(エネ庁試算では3兆円増)

除染費用は機構が保有する東電株式の売却益で賄う予定であった。

除染費用は2013年の予想の2.5兆円に対し、4.5兆円増えて7兆円になる見込みで、更に、東電株の下落を受けて、除染費用に充てる将来の売却益も1兆円減ると想定した。

この結果、差引合計で8.1兆円が不足することとなり、これを国庫で負担するよう求めている。

福島第一の廃炉費用については東電負担となっているが、2兆円の想定から大幅に膨らむ見通しで、東電は政府支援を要請している。

ーーー

エネ庁と電事連の計算には互いに含まれていないものがある。

エネ庁計算には、除染費用超過分と東電株の値下がりが入っていない。どうする積もりなのか?

電事連の計算には、東電独自のマターである福島第一の廃炉費用と、(公式には自らは言えない)他原発の廃炉費用引当不足分が入っていない。

これを総合すると、エネ庁と電事連と東電が政府支援(=国民負担)を考えているのは、下記のように 14兆円程度にもなる。

   

電事連及び東電要請

エネ庁案

金額 不足額 処理 不足額
除染費用 当初 2.5兆円   機構の東電株式売却益    
予想 7.0兆円 4.5兆円   (含まず)  
東電株売却益 当初 2.5兆円        
予想 1.5兆円 1.0兆円 株価値下がり) (含まず)  
賠償費用 当初 5.4兆円   電力会社負担金    
予想 8.0兆円 2.6兆円   3兆円  
不足額合計(国庫負担要請) 8.1兆円 費用増 7.1兆円
収入減 1兆円
   
福島第一
 廃炉費用
当初 2兆円   東電負担    
予想 大幅増 全額? 東電、政府に支援要請 4兆円  
他原発
 廃炉費用
      1.3兆円  
総額 8.3兆円 関東需要家 5.4兆円 180円/月
他需要家  2.9兆円  60円/月
エネ庁案に電事連の除染費用増、東電株売却益減を加算(5.5兆円) 13.8兆円  

原発は「安全」で、「コストは一番安い」として推進してきた筈である。


付記

河野太郎衆院議員の「ごまめの歯ぎしり」(2016/10/6) によると、9月末の時点で、東電に対して求償された金額は1兆80億円となっているが、そのうち東電が支払ったのは4874億円、48%にすぎないという。この他に各省が求償する国有財産の除染費用が別途ある。


2016/10/6    OPEC、減産で合意

OPECは9月28日、アルジェリアの首都アルジェで臨時総会を開き、加盟14カ国の原油生産量を日量3250万〜3300万バレルに制限することで合意した。
(当初は非公式会合であったが、加盟国が協調に前向きに傾いたとみて会合を臨時総会に格上げした。)

8月時点の産油量は3,324万バレルであり、減産となる。イランのザンギャネ石油相は、「日量70万バレル程度の減産」が決定されたとしている。

会合前にはイランとサウジの隔たりが大きく、合意は難しいと見られていた。

しかし、会合に参加を予定していた非加盟国のロシアがOPEC内部の足並みの乱れを理由に出席を見送ったことも、加盟国間の結束を後押しした。

OPECは今後、ロシアなど非加盟国と協議し、原油市場の需給の安定に向け協力を求める。

この後、加盟国ごとの生産量の上限を調整し、ことし11月に開く総会で正式に決定する方針だが、各国が実際に折り合えるかどうかが焦点となる。

加盟国の中では、イランが2016年1月の米欧の経済制裁の解除(2015年7月に合意)以降、制裁前の水準に回復するまで増産を続ける方針である。

2015/7/25 イラン、制裁解除で原油の輸出、生産を拡大へ

政情不安によって生産量が一時的に落ち込んだリビアやナイジェリアも生産量の回復を目指している。

今回の合意を巡り、サウジはイランに対し譲歩したとされる。リビアとナイジェリアについても「柔軟に対応する」としており、例外措置を認める模様で、減産のかなりの部分をサウジが担う必要が出てくる。


付記

プーチン大統領は10月10日、イスタンブールでの「世界エネルギー会議」で講演し、「OPECの減産に加わる用意がある」と表明し、ロシアが増産の凍結または減産する可能性があることを示唆した。OPECが11月30日に開く総会で減産について正式に合意することを「期待している」と述べ、「OPECの決定を支援する」と説明した。

ーーー

OPECが減産で合意するのは、2008年12月以来、およそ7年9か月ぶりである。

OPECは2008年12月17日、 「11カ国の9月の生産量 2,904.5万バレルから420万バレル をカットする」と発表した。生産目標は2,484.5万バレルとなる。
(国別の生産枠は明らかでない)

2008/12/18 OPEC 大幅減産決定

その後は、2009年3月15日に、追加減産を見送り、「世界景気低迷に配慮し、生産枠順守を優先」とした。

2011年12月の総会で、2012年1月以降の生産枠を、イラクを含む加盟12カ国の生産枠を日量30,000千バレルとすることで合意した。
ほぼ現状の生産量に即した水準で、サウジアラビアの意向に沿った形となった。

2012/7/2  OPEC、生産枠据え置き

OPEC生産枠の推移は下記の通り。(千バレル/日)

  2007/2 2007/11 2008/1 2008/9 2008/11 2009/1 2012/1
Algeria 794 1,357 1,357 1,357    1,286






Iraq
 含まず

 

 

Iraq含む
Iran 3,788 3,817 3,817 3,817    3,618
Kuwait 2,065 2,531 2,531 2,531    2,399
Libya 1,371 1,712 1,712 1,712    1,623
Nigeria 2,123 2,163 2,163 2,163    2,050
Qatar 663 828 828 828     785
Saudi 8,399 8,943 8,943 8,943    8,477
UAE 2,257 2,567 2,567 2,567    2,433
Venezuela 2,970 2,470 2,470 2,470    2,341
Angola     ー     ー 1,900 1,900    1,801
Equador     ー     ー 520 520     493
Iraq (ー) (ー) (ー) (ー) (ー) (ー)
Indonesia 1,370 865 865

離  脱

Total 25,800 27,253 29,673 28,808   27,300 24,845 30,000
(増減) (-500) (1,450) 2,420 〔-865〕   (-1,500)    

OPECは2014年11月の総会で、北米のシェールオイルに対抗するため、シェア確保を優先する戦略に転換した。

サウジの石油鉱物資源相前回のOPEC総会で、「生産制限はOPECの利益にならない。価格が20ドルになろうが、40ドルで、50ドル、60ドルでも、無関係だ」と述べ、生産量維持を他のメンバーに納得させたという。

インタビューでは、「低コストのメーカーが減産し、高コストのメーカーが増産するというのはリーズナブルでなく、間違った考えだ。サウジが減産すれば、サウジのシェアはどうなる? ロシアやブラジルや米国のシェールオイルがシェアを奪うこととなる」と述べ、OPECのシェアを奪う非OPECの高コスト石油に長期的ダメージを与えるとの考えを示した。

2014/12/27  サウジ Ali al-Naimi 石油鉱物資源相の発言

原油安が響き、サウジの2016年予算では、財政赤字が3262億リアル(日本円で10兆4000億円)を上回った。

しかし、サウジアラビアなどペルシャ湾岸国は、全加盟国に加えOPEC非加盟の産油国の一部も協調しない限り減産を拒む姿勢を示した。

赤字の補填について、サウジアラビア政府は、2016年の歳出の削減と一部国有組織の段階的民営化のほか、下記の諸案を検討している。

1) 国債の発行や対外資産の取り崩し
2) 付加価値税の導入
3) タバコやソフトドリンクへの増税
4) 今後5年間で光熱費や水道料金などに投入されている巨額な補助金の見直し

5) 石油化学原料も12月29日から大幅に値上げされた。

2016/1/4  サウジアラビア 10兆円超の赤字予算、石化原料も値上げ

 

今回の発表を受け、原油価格は上がったが、OPECのシェアが今や下がっていること、米国でシェールが直ちに増産に入ることなどから、大幅な値上げにはならないと見られている。

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なお、2016年7月1日付けで、OPECを離脱していたガボンが再加盟し、OPECメンバーは14カ国となっている。

 

  加   盟

離脱 再加盟
'60 '61 '62 '67 '69 '71 '73 '75 '07
イラク                    
イラン                    
クウェート                    
サウジアラビア                    
ベネズエラ                    
カタール                    
インドネシア                 '09 '15
リビア                    
アラブ首長国連邦                    
アルジェリア                    
ナイジェリア                    
エクアドル                 '93 '07
ガボン                 '94 '16
アンゴラ                    
加盟国 14 -3 +3

 


2016/10/7  三井物産のモザンビークの炭鉱と鉄道・港湾インフラの投融資額変更 

三井物産は2014年12月9日、Vale S.A.がモザンビーク共和国で開発中の Moatize炭鉱、及びナカラ回廊鉄道・港湾インフラ事業(Logistics Nacala Corridor)に出資参画することで同社と合意し、関連契約を締結した。

炭鉱では主に鉄鋼の原料となる良質な石炭を産出する。鉄道で約900キロメートル離れたNacala港に運び日本などに輸出する。鉄道輸送能力の一部を本炭鉱以外で生産される鉱物資源や農産物などの一般貨物輸送や旅客輸送に活用する。

本炭鉱の95%権益を保有するVale社子会社の15%持分、本インフラ事業を推進するVale社子会社の50%持分を取得するもので、投融資額は炭鉱が 450百万米ドル、インフラ事業が 313百万米ドル、合計 763百万ドルとしていた。 他に、炭鉱について今後出資持分に応じて三井物産が今後負担する拡張費用は190百万ドルと見込んでいる。

Moatize炭鉱   年間生産量 22百万トン
     
Nacala回廊鉄道・港湾インフラ事業
  鉄道   総距離: 912km、輸送能力: 22百万トン/年
  石炭ターミナル   積出能力: 18百万トン/年
  一般貨物ターミナル   取扱能力: 4百万トン/年
     
 
出資関係
  従来 今回
Moatize炭鉱 Vale子会社 95% Vale(Vale子会社の85%) 80.75%
三井物産(Vale子会社の15%) 14.25%
モザンビーク鉱物資源公社 5% モザンビーク鉱物資源公社 5.00%
 
Logistics Nacala Corridor Vale子会社 70% Vale(Vale子会社の50%) 35%
三井物産(Vale子会社の50%) 35%
モザンビーク企業、鉄道港湾公社

30%

モザンビーク企業、鉄道港湾公社 30%

付記 2020/2の発表資料では、NacalaのVale子会社の出資比率は略100%(現地少数株主あり)となっている。三井物産出資は略50%となる。

ーーー

経緯は不明だが、Valeは9月29日、新しい契約内容を明らかにした。三井物産の投融資額は下記の通り変更された。

炭鉱については、2014年末から2015年末にかけて原料炭の価格が3割下がっており、この市況低迷を織り込んだ模様。
一方、インフラ事業への投資は、着工遅れによるコスト増で膨らんだとされる。

単位:百万ドル
  当初 今回
支払額 追加* 支払額 追加*
炭鉱 450 +α 255 最大 195
インフラ 313   348  
投資額 763   603  
インフラ長期融資額     165  
合計支払額 763   768  
出資持分での今後の負担(炭鉱) 190    

* 炭鉱については、当初より、今後の操業実績に応じて調整されるため、最終的な投融資金額は契約条件に基づき増減する可能性があるとしていた。

なお、9月30日付 日経は、「取得を決めた約2年前は940百万ドル」としているが、当時の発表は上記の通り763百万ドルである。

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Valeは従来、南部のBeiraまで鉄道輸送していたが、運搬能力は少なく、Beira港は整備されていないため、天然の良港のNacala港のターミナルと鉄道を建設した。

Nacala港は2015年末に商業運用を開始した。

新日住金は、Valeからコークス用高品位強粘結炭を購入しているが、同港を利用する船型としては最大となるケープサイズでの初出荷を行い、2016年6月に君津製鉄所で入港セレモニーを行った。

新日鐵住金は、今回三井物産が参加するMoatize炭鉱に隣接するRevuboe 炭鉱開発プロジェクトに参加している。

豪州 Talbot Group   58.9%    
日鉄商事   10.0%   当初、南ア法人に出資、2004/7 に独占探査権を取得
新日鐵住金   23.3%   2010/12 日鉄商事から取得し、参加
韓国POSCO   7.8%   2010/5 参加

2013/4/9  新日鐵住金のモザンビーク原料炭開発プロジェクトが採掘権を取得 

 


2016/10/8    EUの難民分担を問うハンガリー国民投票、投票率低く成立せず

ハンガリーで10月2日、EUの加盟国が難民を分担して受け入れることの是非を問う国民投票が行われたが、投票率が43%しかなく、国民投票の成立に必要な50%に届か なかったため、無効となった。

国民投票のために多額の税金を投入した政府のキャンペーンが反発を呼び、無党派層は野党による投票ボイコットの呼びかけに応じた。

しかし開票結果は、割り当て反対が98%を超えて賛成を大きく上回った。

国民投票の実施を呼び掛けたオルバン首相は会見で、「勝利宣言」した。
オルバン首相はEUに難民政策の変更を求める方針だが、EU側が譲歩する可能性は低い。

EUは、基本条約「リスボン条約」で首脳会議などでの決定を定めており、個別の課題で加盟国が国民投票をしても覆すことはできない。
ただ、こうした事例が続けば、難民問題に限らず「加盟国の民意無視」というEU批判の火に油を注ぐこととなる。

EUの難民割り当て政策は2015年9月の内相会議で多数決で決まったが、ハンガリーやスロバキアなど4カ国が反対票を投じたことで禍根を残した。

ただ合意に基づく受け入れを進めていないのは他の加盟国も同様で、2年間で16万人の移動を終える計画だったが、合意に基づき移動したのはごく少数に過ぎない。
欧州委員会は、受け入れを拒否した加盟国への罰金を提案しているが、議論は進まない。

ーーー

EUの「ダブリン制度」では、難民の最初の通過国が庇護申請の責任を負うという取り決めになっている。

しかし欧州には昨年、難民100万人以上が流入したため、EUは「玄関口」であるギリシャ、イタリアなどに集まった難民16万人の各国への割り当てを決めた。

欧州委員会は2015年5月、加盟国ごとに経済規模などに応じた義務的な受け入れ枠を配分する割当制度を提案した。しかし、難民の受け入れ実績の少ない東欧やバルト諸国を中心に加盟国の反発が強く、自主的な受け入れに転換 した。

2015年6月のEU首脳会議で、今後2年間でイタリアやギリシャに到着する4万人の難民の受け入れを目指すことで一致した。

しかし、2015年夏以降、さらに難民流入が急増し、問題が深刻化していることから、欧州委は義務的な割当制度を再提案する方向で検討 し、新たにハンガリーに到着する難民の受け入れ分担も加え、受け入れ目標を従来の4倍の16万人に増やすよう追加提案した。

割り当ては、国別の人口比が40%、GDP比が40%、過去の難民申請数比が10%、失業率比が10% で計算された。

具体的には、下記の通り割り当てを決めた。

しかし、チェコやハンガリーなど中東欧諸国の猛反発で最終決定を持ち越した。

中東欧諸国の反対姿勢は覆らず、議長は加盟国の規模などを加味した「特定多数決」(qualified majority voting)で分担案を可決することを決断した。

2015年9月22日、 チェコ、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの4カ国が反対、フィンランドが棄権に回る中、賛成多数で分担案の導入を決めた。

2014年11月1日より、特定多数決は、各国に1票の持票が与えられ、55%の加盟国(かつ、少なくとも15の加盟国)が賛成し、かつ、これらの国の国民が、全EU市民の65%に相当するときに成立する。
各国の持票数が人口に照らして決められていた従来の制度は廃止された。

ハンガリ―は欧州委の難民分担案を受け入れれば、自国領域に流入した54千人の難民らを他国に移せる「受益者」となる予定だったが、反対に回ったことでイタリアやギリシャの負担を分担する側に回ることになった。

表面上は、12万人の受け入れが決まり、事前に合意済みの4万人と合わせ欧州委員会が公約に掲げた「16万人の難民受け入れ分担」は達成されたに見えるが、当初目指した「義務化」は見送り、しかも受け入れ協力を求める具体的人数は下記の通り 106千人(40千人+今回の66千人)にとどまる。

実際に今までに移動した難民は9月28日現在で5,821人に過ぎない。

なお、英国は割り当てに入っていない。
この問題が英国のEU離脱の理由の一つとされているのは誤りである。

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ギリシャ、イタリア、フランス、ポルトガル、キプロス、マルタ、スペインのEUの南欧7カ国の首脳は9月9日、アテネで初の南欧諸国会議(Euro-Med summit)を開き、「アテネ宣言」(Athens Declaration)を採択した。

難民問題では、ギリシャやイタリアに負担が集中している現状を打開するため、EU各国による「責任の共有」を要望し、責任と連帯の原則に立ち、EU の現行の難民政策(Dublin system)を見直すことを求めている。

2016/9/15 EUの南欧7カ国がEU構造改革を求めアテネ宣言採択

 


2016/10/10 AstraZeneca、炎症疾患新薬候補をAllergan に譲渡 

AstraZeneca は10月3日、傘下のバイオ医薬品事業部門のMedImmune がAllergan plc に対し新薬のMEDI2070 のグローバルライセンス権を与える契約を締結したと発表した。

MEDI2070 は抗IL-23モノクローナル抗体で、現在、中等度から重度のクローン病患者を対象とした第2b相試験の段階にある。また、潰瘍性結腸炎を対象とした第2相試験も近々開始される予定となっている。

MEDI2070が治療対象とする病気は、AstraZeneca が中核分野とする3つの分野(呼吸器系、心血管・代謝性疾患、腫瘍分野)から外れているというのが売却の理由。進行中の試験は双方が合意した時期までMedImmuneが実施する。

MedImmune では、Allerganは胃腸病や炎症性疾患の経験が深く、MEDI2070 の開発・販売を進めるには良いパートナーであるとしている。

Allergan は世界全体での開発・販売の独占ライセンスに対し、一時金として250百万ドルを支払う。更に、開発の進展、販売マイルストーンに応じて、15年間で最高1,270百万ドル(開発で最高 435百万ドル、販売で最高 725百万ドルなど)を支払うとともに、販売に対しては売上高に応じたロイヤリティを支払う。

AstraZeneca は2012年にMEDI2070の開発で Amgen Inc. と提携している。このため、AstraZeneca はAmgen に対しAllerganから受け取る技術料、ロイヤリティの1/3 を支払う。
加えて、Amgen は1桁パーセントの発明者としてのロイヤリティを受け取る。

AstraZeneca とAmgen は2012年4月2日、Amgen社が臨床開発中の抗炎症薬ポートフォリオに含まれるモノクローナル抗体5件の開発と製品化に関して、提携することで合意した。提携に伴い、Amgen はAstraZeneca から前払い金5000万ドルを受け取った。

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Allergan は9月20日、バイオ医薬品大手の米Tobira Therapeutics Inc. を最大16億9500万ドルで買収することで合意したと発表している。

TobiraはNASH治療薬として、Cenicriviroc (CVC) とEvogliptin の2剤 を開発しており、これがAllergan の消化器病系のパイプラインに加わる。

2016/9/23 Allergan、バイオ薬大手のTobira Therapeuticsを買収 


2016/10/11 3人の遺伝子を持つ子供が誕生 

米ニューヨークの不妊治療病院の医師らが遺伝的な難病の治療を目的に、3人の遺伝子を持つ子供を誕生させていたことが明らかになった。

 Fertility & Sterility誌(2016年10月号)が研究サマリーを発表した。

First Live Birth Using Human Oocytes Reconstituted by Spindle Nuclear Transfer for Mitochondrial DNA Mutation causing Leigh Syndrome

10月に米ユタ州で開く同学会の会合で治療の詳細を発表する。

New Scientist 誌が9月27日号で最初にこれを報じ、9月28日号で本件についての質疑応答を掲載している。

Exclusive: World’s first baby born with new “3 parent” technique

Everything you wanted to know about '3-parent' babies

担当したのはNew York のNew Hope Fertility Center のJ. Zhang らで、米国では認められていない治療のため、規制が未整備なメキシコで実施した。

法的には英国のみで認められているが、実際に子供が生まれたのは初めてで、米生殖医学会の会長は「生殖医学にとって重要な進展だ」とする声明を発表した。

しかし、今後、生命倫理などを巡って議論を呼ぶとみられる。


付記

FDAは2017年8月4日、ニューヨークの病院の医師らに対し、行為の一部が規制に違反するとして文書で警告した。

FDAは「この手法を使い米国内で遺伝子を改変した受精卵を作り、国外に輸出したことは規制違反に当たる」と認定。医師らに再発防止策を報告するよう求め、安全性の確立しない手法に厳しい姿勢を示した。

FDAはこの手法を認めておらず、米議会はFDAに実験実施の提案を検討することも禁じている。

 

両親はヨルダン人で、母親には「Leigh 症候群」という遺伝する神経系障害があり、これまで流産をくり返していたほか、出産した2人の子供を亡くしていた。

原因遺伝子は細胞の中のミトコンドリアのDNAに存在するため、母親の卵子の核だけを別の女性の核を除いた卵子に移植し、父親の精子と受精させ、母親の体内に戻した。

4月に生まれた男児は、核は両親のDNA、ミトコンドリアは提供者の女性のDNAを受け継いだ。
通常は母親のミトコンドリアのDNAを受け継ぐが、母親の卵子の核だけを移植して受精したため、提供者のDNAを受け継ぐ。

生まれた子供の健康状態は良好という。


付記

New Scientist 誌は10月10日、同じ手術がウクライナのキエフのClinic of Reproductive Medicineで実施されたことを報じた。

米国の場合は、女性のミトコンドリアに遺伝的異常があるためであったが、ウクライナの場合は不妊治療のためである。
世界で唯一、手術を認めている英国の場合は、遺伝的な病気を避けるためのみ、認められている。

体外受精の場合、胚が2細胞期に発達が止まることがある。

Clinic では、卵子の細胞質のなかに異常があると考え、核を他の女性の核と入れ替えることで、問題解決を図った。

2例が成功しており、現在、胎児が26週間目(女の子)と20週目(男の子)に入っている。

今週、New YorkのAmerican Reproductive Technology Congress で発表する。
 

ーーー

ミトコンドリア(mitochondrion、複数形がmitochondria)は真核生物の細胞小器官だが、エネルギーの生産を担当している。

生命体のエネルギーの元は太陽光の光エネルギーである。

植物の葉緑体が光合成により、水+CO2+光エネルギーを、ぶどう糖(化学エネルギー)+O2に変換する。

生物は外部から取り込んだ栄養素のブドウ糖を酸素で二酸化炭素と水に分解し、発生した化学エネルギーをATP(アデノシン3リン酸)に変換、ATPが分解されてADP(アデノシン2リン酸)になるときに生じるエネルギーが生命活動に使われる。

これを行うのがミトコンドリアである。

ミトコンドリアの遺伝子は、核に含まれる遺伝子と全く別ものである。

核のDNAは両親から引き継ぐが、ミトコンドリアのmtDNAは常に母性遺伝する。

このため、上図の通り、核のDNAは母親と父親から引継ぎ、ミトコンドリアのmtDNAは別の女性から引き継ぐため、3人のDNAを持つこととなる。

ーーー

ミトコンドリアの遺伝子が核に含まれる遺伝子とは別であるのは、真核生物の発生期に、ミトコンドリアの祖先となる原核生物が共生したためである。

1967年に ボストン大学の Lynn Margulis が『有糸分裂する真核細胞の起源』(The Origin of Mitosing Eukaryotic Cells)を発表した。

地球に酸素のない時代に DNAを持つ原核生物が誕生した。

原核生物には核がなく、DNAは細胞質のなかにあった。

その後、3つのタイプの原核生物が生まれた。

原始真核生物(下図のA)、葉緑体の祖先となる原核生物(B)、ミトコンドリアの祖先となる原核生物(C)である。

原始真核生物(A)は、細胞を覆う細胞膜を変化させるなどで、核膜をつくり、DNAをそのなかに確保し、真核生物に進化した。

葉緑体の祖先となる原核生物(B)は光合成能力を持ち、二酸化炭素と水と太陽光でブドウ糖と酸素をつくった。

ミトコンドリアの祖先となる原核生物(C)は、発生した酸素を利用し、ブドウ糖を二酸化炭素と水に分解、化学エネルギーをATPの化学エネルギーに変換した。

原核生物は核がなく、DNAを細胞質に持つため、酸素によって DNAが酸化し、ボロボロになる。
このため、元の原核生物は死に絶えるか、酸素の少ない地下へ潜ったとみられる。

ミトコンドリアの祖先となる原核生物(C)にとっても、酸素を利用はするが、活性酸素により細胞質にあるDNA が破壊される危険が生じた。

このためミトコンドリアは、核を持つ原始真核生物(A)に寄生し、遺伝情報の大部分を活性酸素の害が及ばない真核生物の核のなかに避難させた。
(大部分が真核生物のDNAに組み込まれ、一部がmtDNA として残った。両方のDNAが連携して働いている。)

一方、原始真核生物(A)にとっては、ミトコンドリアを取り込むことで、有害な酸素を処理できると同時に、生命エネルギーの生産を行うことで生存が可能となり、 真核生物として進化した。

植物の祖先は、ミトコンドリアとの共生後、光合成をする原核生物 (B)を取り込んで葉緑体とした。葉緑体(Chloroplast)も独自のDNA(cpDNA)を持つ。

    林 純一 「ミトコンドリア・ミステリー」より一部補正

以上により、核に含まれるDNAのほかに、これとは別のミトコンドリアの mtDNA が存在することとなった。

 



2016/10/12 韓国で不正請託禁止法(キムヨンラン法)施行 

韓国で9月28日、「不正請託や金品などの授受の禁止に関する法律」(不正請託禁止法)が施行され た。韓国社会にはびこる賄賂や接待文化を禁止する法律である。

韓国初の女性裁判官で、首相直属機関の国民権益委員会の当時の委員長の金英蘭女史が発案したため、その名前を取って「キムヨンラン法」と呼ばれる。

原案では、規制対象者は中央・地方すべての公職者と公企業、国公立の教職員とされていたが、社会に与える影響力が大きいという点から記者などマスコミに携わる従事者と私立学校教員、その配偶者が追加された。 但し、国会議員が対象から除外されていることで批判がある。(国会議員が除外されたから法律が成立したとの説もある)

公職者やメディア関係者、私立学校職員などで、配偶者も含め、1回100万ウォン、年間計300万ウォンを超える金品を受け取った場合、どんな理由であれ刑事処罰の対象になる。
会食は3万ウォン、贈り物は5万ウォンなどの上限も設けられた。

違反した場合は、3年以下の懲役か3000万ウォン以下の罰金が科せられる。

概要は下記の通り。(1万ウォンは約900円)

1.「公職者等」

国家公務員、地方公務員、公共機関関係者、法律により公務員と認められる者、学校関係者及び報道機関関係者をいう。
国会議員はこれに含まれない。

2.不正請託の禁止

許認可、人事、入札、補助金、徴兵、事件捜査等に関して、公職者等に対し、不正請託(計15 類型)を行ってはならない。
公職者等は、当該不正請託に応じてはならない。

罰則は下記の通り。

 依頼側:1〜3 千万ウォン以下の過料(公職者等が行ったのか否か、第三者のためか第三者を通じてかにより3 段階に区分)
 受ける側:2 年以下の懲役又は2 千万ウォン以下の罰金

3.金品等授受の禁止

公職者等及びその配偶者は、職務との関連とは無関係に、同一人から1 回に100 万ウォン又は1年に300 万ウォンを超える金品等を授受、要求又は授受する約束をしてはならない。
公職者等の配偶者が受け取った金品も、公職本人への金品とみなされる。配偶者が職務に関連して金品などを受け取った事実を知った場合、申告しなければならない。

罰則は下記の通り。

 金品等授受(依頼側、受ける側とも)

  100万ウォン超の場合、3 年以下の懲役又は3 千万ウォン以下の罰金
  100万ウォン以下でも職務関連性がある場合、受領額の2〜5 倍の過料

 配偶者の金品等授受  

  100 万ウォン超で、報告・返還なし:
3 年以下の懲役又は3 千万ウォン以下の罰金
  100 万ウォン以下で職務関連性があり、報告・返還なし:受領額の2〜5 倍の過料

4.飲食、贈答、慶弔費

公職者等は、原則として職務関連者から金品などを受けることができないが、円滑な職務遂行や社交、儀礼、扶助の目的である場合に限り、受け取ることが出来る 。

但し、飲食費は3万ウォン、贈答品は5万ウォン、慶弔費は10万ウォンを超えてはならない。

「職務関連性」の概念が曖昧なため、個別事案が法の適用対象なのか、判断に迷う事例が少なくないが、国民権益委員会はガイドラインを示し、「迷ったら割り勘」などと呼びかけている。「公職者など多くの人が食事をするとき、頭数で割り勘するのが原則だ」としている。

直接の職務関連性があり、公正な職務遂行を阻害する可能性がある場合、価格基準内であっても、飲食・贈答品・慶弔費を受けることができない。

学校の教師は、日常的に提供を受ける食事や贈答品が学生の評価に影響を与える可能性があるため、飲食物・贈答品の提供が基本的に禁止される。

違反の通報第1号は、大学生からの電話で、「同じ講義を聞く他の学生が教授に缶コーヒーをあげるのを見た」というもので、警察は書面で通報するよう案内したという。

5.ゴルフ接待はダメ

職務関係者とのゴルフを一種の接待とみなし、原則的に禁止。

公職者などがゴルフ会員権の所有者とゴルフをしたとき、グリーンフィー優遇などの割引は、金品授受に該当するとして禁止。

6.不正な請託は、最初は拒絶して、2回目は申告する

公職者等が最初に不正な請託を受けた場合、不正な請託だという事実を知らせ、これを拒絶する意思を明確にしなければならない。
それでもまた同じ不正な請託を受けた場合、所属機関長に申告しなければならない。

7. 提供者も法人も処罰される

誰でも公職者等に金品などを提供したり、金品の提供などを約束した場合、罰金または刑事処罰を受ける。

また、法人所属の役職員が、業務に関して不正な請託をした場合、法人も罰金を科されることがある。

8. 外部で講演するときは、あらかじめ申告して、基準額だけ受け取る

公職者などが外部で講演をするときは、講演の要請があったことや明細などを所属機関長にあらかじめ書面で申告しなければならない。

外部講演の報酬上限額は、閣僚以上は1時間あたり50万ウォン、次官級は40万ウォン、上級公務員30万ウォン、それ以外の公務員は20万ウォン。
ただし報酬の総額は講演時間に関係なく、1時間の上限額の150%を超えてはならない。

私立学校の教職員、学校法人の従業員、報道機関の役職員が外部 講演などをした場合の報酬上限額は、1時間当たり100万ウォン 。

公職者等が過剰な報酬を受け取った場合、これを所属機関長に書面で申告して返納する必要がある。
公職者等が申告や返納を履行しなかった場合、500万ウォン以下の罰金。
 

9.不正な請託・金品授受の通報制度

違反行為の通報者には、最大 2億ウォンの褒賞金が与えられる。

超小型カメラや盗聴器を使って違反者を通報し、一攫千金を狙う者を指す “ランパラッチ”( キムヨンラン+パパラッチ) という言葉ができたという。
また、個人の素行調査を目的とした「公益申告専門要員養成」を標榜する私設塾が新しくできたと報じられた。


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2012年8月に国民権益委員会の当時の金英蘭委員長(韓国初の女性裁判官)が韓国社会に根強く残る不正腐敗の根絶のために推進した。

発端は2011年に釜山で起きた「ベンツ女性検事事件」で、ダブル不倫の関係にあった男性弁護士に刑事事件の情報を流し、同僚の検事などに特別の計らいを依頼し便宜を図った女性検事が、見返りとしてベンツやシャネルのバッグを受けとっていたもの。


検察内で特別チームが組まれ捜査されたが、金品の授受は確認されても職務との関連性を立証できないとされ、この女性検事は 最終的に最高裁で「ベンツなどは事件の請託対価ではなく、愛の証である」として無罪放免となったという。

これに世論が激怒し、公職者が職務に関連性がなくとも金品を授受した場合は処罰しようという気運が高まり、金英蘭法が本格的に立法に向けて動き出した。

2015年3月に国会を通過した。

しかし、規制対象者がマスコミ関係者、私立学校教員にまで拡大されるなど国会審議の過程で内容が大幅に変更されたため、弁護士協会、韓国記者協会などが憲法裁判所に違憲の審議を求めた。

本年7月28日、憲法裁判所は、金英蘭法は合憲である旨の判断を下した。
政府や企業とマスコミとの間に、過剰な接待や金品授受が蔓延していると指摘し、「自浄努力には任せられないとする立法者の判断は間違っていない」と断じた。

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韓国経済研究院は2016年6月に、“金英蘭法”によってもたらされる経済的損失について、飲食業、ゴルフ業、消費財、流通業などに直接的な打撃を与え、合わせて 年間 11兆6000億ウォンほどの年間損失になると推定した。

飲食業界は8兆5000億ウォンほどの経済損失が予想されている。

政治家たちも、さっそく会食などを減らしているという。 初日は料理店はどこも開店休業状態であったという。

農林畜産食品部では、贈り物で人気の高級牛や水産物への打撃で年間8000億ウォン〜9000億ウォンの損失が出ると推定している。

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最近の韓国ギャラップの世論調査によると、賛成が71%で、反対の15%を大きく上回った。

 

 


2016/10/13 物言う株主がサムスン電子の事業再編を要求 

Activist(物言う株主)として知られるPaul Singer のヘッジファンド Elliot Management の関連会社のBlake Capital LLC とPotter Capital LLC は10月5日、Samsung Electronics の取締役会に宛てた10ページの公開書簡で、合理化と会社分割を要請するとともに、30兆ウォン(約2兆8000億円)の特別配当支払いやNASDAQ市場への事業会社の二重上場、取締役会に3人の外部メンバーを加えることによるガバナンス改善などを求めた。

公開書簡  http://sevalueproposals.com/assets/downloads/SEC-Press-Release-and-Letter.pdf

Presentation http://sevalueproposals.com/assets/downloads/SEC-Presentation.pdf

サムスン電子が複数の事業を抱えており、不必要に複雑だと指摘した。

また「サムスン電子は先導的な技術企業だが、市場に正しく評価されておらず、類似の他の企業と比較すると、普通株の株価が30-70%低く評価されている」と主張した。

両関連会社はサムスン電子の普通株の約0.62%を保有する。

Samsung が新型スマホ「ギャラクシーノート7」の品質問題に揺れる中、李健熙会長から長男の李在鎔副会長への世代交代が鮮明になるタイミングで新たな要求を突きつけた。

 

要求内容は下記の通り。

Samsung Electronics を持株会社(Samsung Holdco) と事業会社(Samsung Opco) に分割、Samsung Holdco とグループの実質持株会社で総合商社のSamsung C&Tを合併する。
これにより、
組織および税金の両面でプラスの効果が得られるとともに、現在の李一族の複雑な株式保有構造などを簡素化できる。(下記)

NASDAQ市場に事業会社に加え、持株会社を二重上場。
売買高が膨らみ、主力のエレクトロニクス事業に対する海外投資家のエクスポージャーが拡大してサムスン株の上昇につながる。

30兆ウォン(約2兆8000億円)の特別配当支払い

Samsung Electronicsは資産の30%もの現金(80兆ウォン)を持っており、30兆ウォンの配当をしても残り現金50兆ウォンは他社並みの比率で、将来の大きな投資や支出にも十分である。

今後、Free Cash Flow の75%を株主に還元すること

現在は約20%で、Samsungはこれを30〜50%にするとしているが、同業と比べると低過ぎる。

サムスン電子の持ち株会社と事業会社の取締役会に社外取締役3人を追加して企業経営構造を変えること

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2014年12月にSamsung Group の持株会社の第一毛織(Cheil Industries Inc.) が上場した。

旧称 三星エバーランド で、三星グループの創業事業である第一毛織が、ファッション部門を三星エバーランドに譲渡した後、2014年7月にSamsung SDIと合併し、消滅したため、三星エバーランドがグループ創業事業の「第一毛織」の名称を引き継いだ。

これにより、三星グループの構造は下記の通りとなった。

2014/12/2 Samsung Group の持株会社 第一毛織の上場 

2015年9月1日、第一毛織とサムスン物産(Samsung C&T) が合併し、新しいサムスン物産(Samsung C&T) となった。

ヘッジファンドのElliot Managementなどが反対したが、7月18日の臨時株主総会で承認した。

新しいSamsung C&T はSamsungグループ支配構造の事実上の持ち株会社となる。

 

しかし、実際には事業会社間の株式持合いは複雑で、また各社は自社株を多数持っている。

Blake Capital LLC とPotter Capital LLC は今回のPresentationで最新のグループ構造を明らかにしている。

事業会社のなかで、Electronicsが親会社のものと、C&Tが親会社のものがある。

これに対し、今回の提案は、Samsung Electronics を事業会社としてのSamsung Opco と持株会社としての Samsung Holdco に分割し、Samsung Holdco と現在のグループ持株会社のSamsung C&T とを合併させるというもの。

基本構造は次のとおりとなる。Samsung Opco(=Samsung Electronics)は他の事業会社と並列の事業会社となる。

 

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韓国内では、この案は李副会長にとって、経営構造を変える上で手助けになるという見方がある。

円滑に世代交代を進めるためには持ち株会社への移行は好ましい。株主からの異論に対し、今回の提案はある意味で「外圧」となり、資本構造を見直しやすくなる。

30兆ウォン規模の特別配当も、グループ企業やオーナー家が約30%を受け取るため、持ち株会社化の費用に充当できる。

 


2016/10/14 武田薬品、がん治療薬開発で英 Crescendo と提携

武田薬品は10月11日、がん領域における強力で非常に特徴的な抗体薬物複合体のHumabody® 製剤での創出・開発を行うバイオ医薬品会社の英国のCrescendo Biologics Limited との間で、この技術を使ったがん治療薬の創製、開発および販売に関して、グローバルでの戦略的提携およびライセンス契約を締結した。

Crescendoは今後、独自の遺伝子改変プラットフォームと工学的専門性を活かし、武田薬品が選定した複数の標的に対するHumabody抗体薬物複合体およびがん免疫調節薬を創製するとともに、その設計最適化を行う。

武田薬品は契約一時金、出資金、研究費、前臨床開発費として、最大で合計36百万ドルを支払い、本提携に伴うHumabody製剤の開発権と販売権を取得する。
Crescendoは今後、臨床開発、承認申請、販売の各段階において、最大で合計754百万ドルを受け取る権利とともに、武田薬品から売上に応じたロイヤリティを受け取る権利を有する。

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抗体医薬品はがん細胞の抗原にだけ結合し、がん細胞を死滅させる。(正常な細胞にはほとんど影響を与えない。)

一般的な抗体は、2本の軽鎖と2本の重鎖により構成され、軽鎖はVL、CL の2つ、重鎖はVH、CH1、CH2、CH3 の4つのドメインからできている。(下の左図)
(上のマンガでもそうなっている)

重鎖はもう一つの重鎖と一緒になってY字型をした抗体の基幹部分を形成する。これに2つの小さな軽鎖が結合し、各腕の先に抗原結合部位を形成する。
なお、ラクダの抗体の中には、完全に軽鎖を伴わずに抗原結合部位を形成している重鎖抗体(右図の本体)がある。

これに対し、Humabody®(右図の右上)は、分子サイズが極めて小さく活性の高い新規タンパク製剤で、完全ヒト型のVH ドメインをベースにしている。


 

Humabody®は特許取得済の独自の遺伝子改変マウス(TKOマウス)の生体内でヒト型VHドメインをもつ重鎖抗体をつくり、それから作成する。

Humabodyは、モノクローナル抗体と異なり、費用対効果の高い小分子製剤であることのほか、新規の二重/多重特異性製剤を迅速に作製できる利点がある。
他の薬剤や
放射性同位元素との組み合わせもできる。

Humabody抗体薬物複合体は、均一で部位特異的なリンカーと毒性ペイロードを用いて作製されているため、特異性が高く、標準的な抗体薬物複合体と比べて毒性プロファイルが優れている。

分子サイズが非常に小さく、二重/多重特異性を持たせることや半減期を調節することが可能であることから、高用量で短期集中的に治療する“high dose, hit hard and leave”手法により、標準的な抗体薬物複合体よりも優れた治療指数をもたらす。



Crescendoは、独自開発あるいは戦略的パートナーシップにより、Humabody抗体薬物複合体および多重特異性がん免疫調節薬などの新規性の高い特徴的な新薬のパイプラインを構築している。

設計をカスタマイズすることにより、チェックポイント阻害などの複数の機序を標的にし、免疫賦活化経路を活性化するとともに、抗原提示を促進し、免疫抑制的な腫瘍微小環境を解除するような新たな多重特異性がん免疫調節薬の研究開発も行っている。 

 

Crescendoは英国ケンブリッジを拠点とし、Sofinnova Partners、Imperial Innovations、Astellas Venture Management、EMBL Ventures社などの優良投資家からの出資を受けている。

Astellas Venture Managementはアステラス製薬が2006年に、創薬技術、製品種子、技術種子を保有するバイオベンチャーへの投資活動を一元管理する会社として、米国に設立した。

2014年12月にCrescendoに出資した。


2016/10/15    中国による東シナ海での資源開発の状況

外務省は10月12日、「中国による東シナ海での一方的資源開発の現状」を明らかにした。

近年、中国は、東シナ海において資源開発を活発化させており、政府として、日中の地理的中間線の中国側で、これまでに計16基の構造物を確認している。

東シナ海の排他的経済水域及び大陸棚は境界が未画定であり、日本は日中中間線を基にした境界画定を行うべきであるとの立場である。

このように、未だ境界が画定していない状況において、日中中間線の中国側においてとは言え、中国側が一方的な開発行為を進めていることは極めて遺憾である。

中国側に対して、一方的な開発行為を中止するとともに、東シナ海の資源開発に関する日中間の協力について一致した「2008年6月合意」の実施に関する交渉再開に早期に応じるよう、改めて強く求めているところである。

外務省は在日中国大使館に対し、「日中間の海洋の境界が未画定の状況で一方的に開発を進めることは極めて遺憾だ」と抗議した。

これに対し、中国外務省の副報道局長は10月13日、「争いのない中国の管轄海域内で行っており、完全に中国の主権的権利と管轄権の範囲内の出来事だ」と定例会見で反論した。


国連海洋法条約は、排他的経済水域を200カイリと定めているが、東シナ海は海域が狭く日中両国のEEZが重なるため、日本は国際司法裁判所の判例などに照らして「重なる場合は中間線が境界」と主張、一方、中国は、同条約の「大陸棚自然延長論」を主張する。

中国の開発井戸は中間線の中国側にはあるが、白樺、楠では埋蔵地域が日本側海域に掛かっているため、日本側のガスも汲み上げるので問題である。

2008年6月の日中首脳会談で東シナ海のガス田共同開発で一致した。

  白樺ガス田(中国名・春暁)の共同開発は両国の共同投資とし、収益分は先行投資した中国側に重点配分。
  翌檜ガス田(同・龍井)周辺の日中中間線にまたがる海域を共同開発区域とする。(日韓共同開発区域に隣接)
  合意対象外の日中中間線付近のガス田や、周辺海域の取り扱いについては継続協議。

2008/6/20 日中、ガス田開発合意

しかし、その後、中国は一方的に開発を進めている。

日本の場合、中間線の日本側でガスを掘削しても、それを輸送する手段がない。

平湖ガス田は、上海南東沖合に位置しており、約389qの海底パイプラインを通じ、上海の浦東に天然ガスを供給している。



2016年10月時点で確認された14箇所、16基の構造物は次のとおり。(1箇所に別時期に2基がつくられたものが2箇所ある)

今回、新たに「第11基」と「第12基」で天然ガスが燃焼したとみられる炎が出ているのを確認した。
炎を確認した構造物は2015年7月時点の5基から12基に増えた。



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