2006-5-1

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp



2016/2/1    EU、自動車部品カルテルで日本メーカーに制裁金

EUは1月27日、三菱電機と日立に自動車部品のオルタネーター・スターターのカルテルに参加したとして 137,789千ユーロの制裁金を課すと発表した。
デンソーもカルテルに参加したが、カルテルの存在を欧州委員会に通知したため、免責となった。
いずれの会社もカルテルに参加したことを認め、和解に応じた。

発表では「日立」となっているが、日立製作所は、日立製作所と日立オートモティブシステムズが対象であることを明らかにした。

各社は2004年9月から2010年2月までの間、定期的に会合や電話連絡を行い、競争を制限した。

各社別の制裁金は下記の通り。

  Leniencyによる減額 同意決定手続きによる減額 制裁金 
  千ユーロ
デンソー 100% 10% 0
日立 30% 10% 26,860
三菱電機 28% 10% 110,929
合計     137,789

「同意決定手続き」は
2008630日に制定され、同年71日から運用された。

欧州委と企業がカルテルの内容と証拠を協議し、企業がカルテルの存在を認めると制裁金が10%減額される仕組み。
これにより裁判所への控訴による長期の争いを避けることができ、欧州委では要員を他の事件の摘発に向けることが可能となる。

 

自動車部品メーカーは各国でカルテルが摘発されているが、上記3社も米国と日本で摘発されている。

米国  最新リスト

日本   2012/11/24  公取委、自動車メーカー発注の自動車用部品コンペ参加業者に 排除措置命令と課徴金納付命令 

 

2016/2/2 アスベスト訴訟でメーカーに初の賠償命令

建設資材に含まれるアスベスト(石綿)により中皮腫や肺がんになった京都府内の元建設作業員と遺族の27人が建材メーカー32社と国に約10億円の賠償を請求した裁判で、京都地裁は1月29日、国に加えて、建材メーカーに初めて賠償を命じる判決を言い渡した。被害者26名のうち、すでに16名が死亡(提訴後、11名が死亡)している。

裁判官は、国及び建材企業の責任を認め、国に対しては原告15人に総額1億418万円、建材企業9社に対しては原告23人に総額1億1245万円の支払いを命じる原告全面勝訴判決を言い渡した。

付記  2018/9/3  建設石綿訴訟の控訴審、原告全面勝訴

同様の集団訴訟は全国6地裁で起こされ、判決は5件目で、国の違法性を認めたのは2012年の東京、2014年の福岡、本年1月22日の大阪地裁判決に続いて4件目。
メーカーの賠償責任はこれまでは認めておらず、今回が初となる。

2016/1/27 建設アスベスト訴訟で国が3度目の敗訴

国については、
・吹付作業者に対する規制については1972年10月1日以降、
・建設屋内での石綿切断等作業については1974年1月1日以降、
・屋外での石綿切断等作業については2002年1月1日以降、
国が、アスベスト建材について防じんマスクの着用や集じん機つき電動工具の使用、さらには警告表示を義務づけることの規制を怠ったことの違法性を認めた。

本判決は、専ら屋外作業に従事していた屋根工に対する関係でも国の責任を認めた。

いわゆる「一人親方」について、労働安全衛生法の保護対象に含まれないとして救済を否定したものの、「(一人親方を)保護する法律を定めなかった立法府の責任を問うことで解決されるべき問題」と付言した。


 
メーカーについては、
主要なアスベスト建材企業であるエーアンドエーマテリアルやニチアス、ノザワなど9社について、被害者23名との関係で共同不法行為責任(民法719条2項)を肯定し、同種訴訟で初めて企業の賠償責任を認めた。国の賠償の対象とされてこなかった「一人親方」ら個人事業主も含まれる。

建材の種別により1972年と74年、2002年に石綿の危険性をそれぞれ表示する義務が生じたのに販売を続けたと認定した。
そのうえで、「おおむね10%以上のシェアを有するメーカーの建材であれば、労働者が年1回程度はその建材を使用する現場で従事した確率が高く、被害を与えた蓋然性が高い」と判断し、その基準を満たす9社に責任があると結論付けた。

当時のシェアが約10%以上の9社については、販売の時期や地域が各原告らの働いた時期や場所と合うといった条件を満たせば被害との因果関係を推定できるとし、各社はともに原告の被害をつぐなう責任があると判断、各社の「どの建材が被害原因か明らかでない」との主張を退けた。

原告27人のうち20人への賠償を命じられたニチアスは「主張が認められず遺憾」とのコメントを出し、地裁によると、ニチアスを含むメーカー4社が即日控訴した

 

付記 メーカー9社が全て控訴した。

日東紡績、新日鉄住金化学、太平洋セメント、ニチアス、三菱マテリアル建材、エーアンドエー マテリアル、大建工業、ケイミュー、ノザワ

付記

札幌地裁は2017年2月14日、北海道の元建設労働者・遺族が国と建材メーカー41社を相手に訴えた裁判で、国に計1億7600万円の賠償を命じた。
メーカーについては発症原因の企業を特定できないとして退けたが、国と建材メーカーによる損害補償制度の創設の必要性を指摘した。

国は1979年には建設現場での石綿の危険性を認識していたと指摘した。
1979年以前に就労していた元労働者には賠償を認めず、「一人親方」として働いた期間の国の責任も認めなかった。

付記

横浜地裁は2017年10月24日、神奈川県などの建設労働者や遺族61人が国と建材メーカー43社に約16億7千万円の損害賠償を求めた第2陣集団訴訟の判決で、国とメーカー2社 (ニチアスとノザワ) に対し、計約3億円を原告39人に支払うよう命じた。国とメーカーの賠償対象が8人。国のみが29人。メーカーのみが2人。

全国6地裁で起こされた同種の集団訴訟で企業側の責任を認めたのは、2016年1月の京都地裁判決に続き2例目。国の責任認定は6例目。

裁判長は、国は遅くとも1976年までには防じんマスクなどの使用や作業現場への警告表示を義務付けるべきだったとし、メーカーも同時期までにアスベストの危険性を警告する義務があったのに怠ったと認定、発症原因だとほぼ特定できた建材メーカー2社に賠償を命じた。

 


2016/2/3 トクヤマ、マレーシアの多結晶シリコン事業で再度、減損損失を計上 

トクヤマは1月29日、トクヤママレーシアの多結晶シリコンプラントに関して、事業計画の見直しに伴う減損損失1,234億86百万円を計上した と発表した。

本プラント(第二期プラント)は、2014年10月に営業運転を開始し、太陽電池向けグレードの生産を行ってき たが、世界的な供給過剰を背景とした販売価格の著しい下落が続き、今後の価格見通しが事業計画における想定を大きく下回ることとなったもの。
このため、
将来の投資回収可能性を検討した結果、減損損失を計上した。

付記

トクヤマは2016年9月28日、本事業を韓国のOCI に売却すると発表した。第三者増資により、OCIが2016年10月に17%出資、2017年3月末に51%出資する。
トクヤマは同日、残り49%を9800万ドルでOCIに売却する。

事業譲渡損として約80億円を特別損失に計上するが、税金費用80億円の減少を見込む。

OCIにとっては、増資引き受けが1回目 24百万米ドル、2回目 78百万米ドルで合計 102百万ドル、購入が98百万ドルで、総合計 2億ドルでの買収となる。
トクヤマは本事業に約2000億円を投じており(簿価のほぼ全額を既に減損処理している)、建設費の約10%での購入となる。

ーーー

トクヤマは徳山製造所に半導体用途を中心に年産 8,200トンの多結晶シリコン設備を持っていた 。
(当初
年産5,200 トンであったが、半導体用2,500トン、太陽電池用500トンの計3,000トンを増設し、8,200トンになった。)

2009年8月に太陽電池用途の増産対応とリスク分担の面から、マレーシアのサラワク州のサマラジュ工業団地に総工費約800億円をかけて太陽電池向け多結晶シリコンの年産 6,000トンの大型プラント建設を決めた。

2011年初めに着工し、2013年9月の営業運転開始を目指した。

トクヤマは2012年11月に、これを主として半導体向けグレードを生産・販売する計画に変更、2013年2月に一部設備を除き建設が完了、その後試運転を開始した。

更に、2011年には第二期として太陽電池向けに年産13,800トンの建設を決めた。(投資額 1,000億円、累計 1,800億円)

合わせて徳山製造所の能力を11,000トンとした。

2008/12/5 トクヤマ、マレーシアに多結晶シリコン第二製造拠点

全て完成後は、日本11,000トン、マレーシア20,000トンで合計31,000トンとなるが、同社はこれにより、半導体用途は世界シェア20%を維持し、太陽電池用途では5%程度のシェアを10%程度に引き上げるとしていた。


 

ーーー

トクヤマは2014年10月31日、マレーシアの子会社 Tokuyama Malaysia Sdn. Bhd. の多結晶シリコン工場・第一期プラント(年産:6,200トン)の製造設備に関して、860億27百万円の特別損失を計上したと発表した。

マレーシアの多結晶シリコン工場・第一期プラントについては、2013年2月に一部設備を除き建設が完了し、その後、主として半導体向けグレードを生産・販売することを目指し、試運転を行ってきた。

半導体向けグレードは、非常に高い純度をはじめとする高品質が求められるが、当初想定していた品質・生産安定性が達成出来ず、技術的な課題解決を図ってきた。

しかしながら、析出装置に関する問題が存在し、様々な技術的な課題解決を図ったとしても、当面顧客認定用サンプルの出荷が事実上不可能であると判断した。

このため、減損損失 748億20百万円と事業計画の見直しに伴う関連費用 112億7百万円の合計 860億27百万円を計上した。(特別損失計上後の当プラントの簿価は33億円)

同社は2013年3月期にも、市況が急激に悪化し、将来のキャッシュフローが見込めないとして、徳山製造所の多結晶シリコンと併産品の乾式シリカ設備を全額減損処理(275億円)し、合わせて、多結晶シリコン用原材料について20億円の評価損を計上している。

2014/11/3 トクヤマ、マレーシアの多結晶シリコン計画で特別損失計上 

なお、第二期の太陽電池向けグレード生産設備(生産能力:13,800トン、総投資額:1,300億円)については、中国をはじめとする複数の大手ウエハーメーカーと既に契約を締結済みで、2017年3月期における販売計画を約13,000トンとしていた。

しかし、2014年10月の第二期の営業運転開始時の多結晶シリコンの市況は 20$/kg以上であったが、その後暴落を続けた。

同社では中期計画で市況を16〜20 $/kg としていたが、今回、13.5〜15 $/kg に見直した。
販売数量についても、中期計画の12,000トン/年を11,000トン/年に下方修正した。

減損損失1,234億86百万円計上後のプラントの簿価は94億円となった。

同社では2016年度にはコストダウンを実施、2017年度以降は販売数量11,000トンでの通期黒字を見込んでいる。

 

同社の多結晶シリコン事業の状況は下記の通り。

  用途 能力 減損
徳山工場 半導体用、太陽電池用 11,000トン 2013年度  設備全額減損処理  275億円
原材料評価損    20億円
マレーシア1期 半導体用 
出荷不能
有効活用策検討中
6,200トン 2014年度  減損損失             748億20百万円
関連費用             112億 7百万円
   合計                   860億27百万円
マレーシア2期 太陽電池用 13,800トン 2015年度  減損損失        1,234億86百万円

 



2016/2/4 Westlake Chemical、Axiall に14億ドルでの買収を提案、拒否される 

Westlake Chemical は1月29日、Axiall Corporationの全株式を14億ドルで買収する提案をしたと発表した。

1株当たり20ドルの買収で、現金11ドルとWestlakeの株式 0.1967株で支払うもので、1月22日の終値に対し108%のプレミアムとなる。
総額で約29億ドルとなるが、約15億ドルの負債込みとなるため、ネットでは14億ドルでの買収となる。

しかし、Axiallの取締役会はこれを拒否した。
発表でいかの理由を挙げた。

Westlakeの提案は株価の変動を利用するもので、Axiall の資産価値と将来性を著しく低く評価している
Axiall の2015年12月1日の株価は20.18ドルであり、提案価格は高いものではない。
2016年末までにコストダウンと生産性向上での1億ドル達成の目標に進んでおり、Lotteとのエタンクラッカー計画(下記)も順調である。
建材事業の売却も含め、株主価値を高めるための検討を行っている。

WestlakeはAxiall に対し再考を求めている。

付記

Westlakeは4月4日、新提案を行った。

1株当たり23.35ドル(20ドル)の買収で、現金14ドル(11ドル )とWestlakeの株式 0.1967株(同じ)で支払うもので、1月22日の終値に対し143%(108%)のプレミアムとなる。

買収額は約15億ドルの債務込みで31億ドル、ネットで16億ドル(14億ドル )となる。

付記

2016年6月10日、1株当たり現金33ドルでの買収で合意した。負債込みで38億ドル。8月31日取引完了。

ーーー

Axiall Corp.は2013年1月にGeorgia Gulf がPPG Industriesのcommodity chemical divisionと合併したもので、Chlorovinyls 部門(電解〜PVC〜PVC製品)とAromatics部門(フェノール、アセトン、キュメン等)を持っていたが、Aromatics部門はIneosに売却した(下記)。

Axiall と韓国の Lotte Chemicalは2015年6月、年産100万トンのエタンクラッカー をルイジアナ州に建設するJVの設立を発表した。
シェールガスに付随するエタンを分解し、エチレンを生産するもので、 Lotte Chemical が90%、Axiall Corp.が10%出資するが、エチレン引き取りは売買契約を通して50:50とすることとなっており、Axiallは自社のPVC用のエチレンの50%を確保するのが目的としてい る。

Lotteは残りのエチレンを使い、エチレン隣接地でエチレングリコール 70万トンを生産する。

2015/6/22  韓国 Lotte Chemical、米国で石油化学

Axiall は2015年9月30日、Aromatics部門とPasadena 工場をINEOS Americas に売却した。

Aromatics 部門の能力は下記の通り。
  Cumene  90万トン(1/2は販売)
  Phenol     30万トン
  Acetone     18.5 万トン

現在の同社の製品は下記の通り。

Chlor-Alkali & Derivatives Products
  塩素、ソーダ、EDC、VCM、PVC、溶剤、塩酸、
Specialty Products
  塩ビコンパウンド、可塑剤、添加剤、水処理製品
Royal Building Products
  サイディング、窓枠・ドア材、装飾材(Trim and Moulding)、管・継ぎ手

付記

Axiall Corporation は2016年2月25日、Royal Building Productsの事業のうち、窓枠・ドア材部門をOpenGate Capital に売却した。
オンタリオ州Concord のコンパウンド設備(主に窓枠・ドア材部門に供給)も売却対象に含まれる。

北米の能力

ーーー

Westlake Chemicalは台湾でCGPCを設立した故 T.T. Chao が1986年に米国に進出、設立した。

現在の製品は以下の通りで、オレフィン事業(エチレン/PE/SM)とビニル事業(エチレン/塩素/VCM/PVC/塩ビパイプ)からなっている。


2016/2/5 中国化工集団(ChemChina)、スイス農薬のSyngentaを買収 

中国の化学メーカー、中国化工集団(ChemChina)は、スイスの農薬・種子メーカー、Syngentaを430億ドル余りで買収することで合意した。中国企業による過去最大規模の買収となる。

Syngentaは2月3日、ChemChina が同社を買収する提案をしたと発表した。
1株当たり465米ドル+ 5
スイスフラン の特別配当での買収で、480スイスフランに相当する。2月2日の終値は392.30スイス・フラン=385ドル。買収総額は430億ドル余りとなる。

Syngentaの取締役会は満場一致で受け入れを支持した。TOBは数週間のうちに開始され、年末に買収が完了する見込み。

ーーー

Syngentaは2015年5月8日、MonsantoからSyngentaの株式を1株449スイスフラン、総額450億米ドル(うち45%を現金)で買収する提案を受けたが、取締役会はいろいろな観点から十分に検討したうえで 、以下の理由で、満場一致で拒否することを決めたと発表した。

現在のSyngentaの株価は短期的な通貨変動とコモディティの価格変動の影響を受けて下げっているが、売上の50%以上を占める発展途上国市場で事業が好調である。
同社の戦略はこれらの市場で成功し、2014年には5年連続で2桁の伸びを示した。新製品もグローバルに売上が伸びており、開発中の製品も多い。

Monsantoの提案額はSyngenta の価値を過小評価している。また、多くの国で行われる独禁法等によるチェックのリスクを過小評価している。

Monsantoは8月18日にSyngentaに新しい提案をしたが、Syntentaは拒否した。この結果、Monsantoは8月26日、買収を諦めると発表した。

2015/5/12  Syngenta、Monsantoによる買収提案を拒否

今回のドル建て売却総額が前回(スイスフラン建て買収単価が今回より低い)よりも安いのは、レートの差。

参考 Syngenta 株価推移 レート 米ドル/スイスフラン

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発表によれば、ChemChina案ではSyngentaの経営陣は続投し、ChemChinaの任建新会長が率いるメンバー10人の取締役会には現在のSyngenta取締役会から4人が参加する。
グローバル本社は引き続きスイスに置く。

数年内の新規株式公開(IPO)の可能性も検討するという。

Syngentaでは、途上国市場、特に中国でのSyngentaの存在感をさらに高めると期待している。

同社は中国の重要性を下図により示している。

ーーー

Syngentaは2000年にAstraZeneca (ICIから独立したZeneca とスウェーデンのAstra が1999年に合併)の農薬部門と、Novartis(Ciba Geigy とSandozが1997年に合併)の種子部門が2000年に統合してできた会社で、農薬(殺虫剤、除草剤、殺菌剤)と穀物・野菜・花の種子、ローン&ガーデン製品を扱う。

2015年の売上高は下記の通り(百万ドル)。

選択性除草剤 2,894
非選択性除草剤 913
殺菌剤 3,357
殺虫剤 1,705
種子処理 994
その他 142
(農薬合計) (10,005)
種子 2,838
Lawn and Garden 648
内部取引 -80
合計 13,411

ーーー

中国化工集団公司(ChemChina)は2004年5月に国営のChina National Blue Star (Group) (藍星グループ)と China Haohua Chemical Industrial (Group) (昊華化工)を統合して設立された。

同社はこれまでに多数の買収を行ってきた。

ChemChina は、2005年10月に豪州の石化会社Qenosを買収した。

2006年1月にはCVC Capital Partners から子会社で動物用栄養製品メーカーの Adisseoを買収している。

ChemChina の中国藍星は2006年10月26日にフランスのローディアとの間でローディアのシリコーン事業を買収する契約を締結した。

2006/10/30 中国化工集団公司(ChemChina)の海外進出

ChemChinaは2015年3月23日、イタリアのタイヤ大手Pirelli を買収すると発表した。

2015/3/27 ChemChina、伊タイヤ大手ピレリを買収

ChemChina は2016年1月11日、ドイツの射出成型機械メーカーのKraussMaffei をカナダのOnex Corp.から925百万ユーロで買収すると発表した。

2016/1/15 中国化工集団、射出成型機械製造の独KraussMaffei を買収 

Wall Street Journal によれば、今回の買収は中国企業としては最大の買収となる。

買収者 買収相手 金額
2016 ChemChina Syngenta 430億ドル
2012 CNOOC Nexen 182億ドル
2008 Chinalco + Alcoa Rio Tinto (12%) 143億ドル
2009 Sinopecl Addax Petroleum 90億ドル
2015 ChemChina Pirelli 90億ドル
2015 China Cinda Nanyang Bank 88億ドル
2010 Sinopec Repsol のブラジル資産の40% 71億ドル
2013 中国食肉大手
 双匯国際
Smithfield Foods 71億ドル
2014 五砿集団ほか ペルーのLas Bambas 銅鉱山 70億ドル
2013 国家電網 SP AusNet and SPIAA 67億ドル

 


2016/2/6  中国の石油化学製品の輸出入統計 

2015年の中国の石化製品の輸出入統計が発表された。

主な製品の輸入実績は下記の通り。
樹脂については、PVCを除き、日本の存在感はない。

エチレン  関税番号 290121
...
プロピレン  関税番号 290122
...
LDPE  (LDPE+LLDPE)
LDPE 輸入内訳  LDPE:関税番号 39011000、LLDPE:39019020
...
HDPE  関税番号 390120
...
PP 関税番号 390210
...
SM    関税番号 290250
...
PS  関税番号 39031990   変性PS(39031910)を除く
...
ABS    関税番号 390330
...
VCM  関税番号 290321
...
PVC  関税番号 390410 (ペースト塩ビを含む)
...

PVCの輸出は下記の通りで、2015年は輸出と輸入がほぼ同量である。(2014年は輸出が輸入を大きく越えた)

 


2016/2/8 アジアインフラ投資銀行(AIIB)、副総裁人事を発表 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)は2月5日、5人の副総裁を指名した。

AIIBの設立協定では、総裁(元中国財政次官の金立群)が副総裁を選ぶとなっているが、(域内)インド、韓国、インドネシア、(域外)ドイツ、英国から選出された。

そのうち一人はドイツのJoachim von Amsbergで、世界銀行に約25年間勤務し、現在は開発金融担当の副総裁を務めており、世銀から横滑りで就任する。

出資比率3位のロシアからは選ばれなかった。

韓国産業銀行の洪会長は副総裁でChief Risk Officerに選ばれた。投資と財務危険に対する評価・分析の総括役として副総裁5人の中では序列3位に該当する。

韓国人が国際金融機関の副総裁を務めるのは、申明浩氏がアジア開発銀行(ADB)副総裁を務めて以来13年ぶりとなる。

洪会長は投資委員会にも参加する。 投資委員会は総裁とCIO、CRO、中長期政策・戦略担当副総裁の4人で構成する投資決定機構。

副総裁に選ばれたのは次の5人。 

担当 出身国 氏名 経歴
Corporate Secretary 理事会、取締役会、経営陣の調整 英国 Sir Danny Alexander 元 英国予算担当大臣
Chief Risk Officer 投資危険管理 韓国 洪起沢 現 韓国産業銀行会長、CEO
Chief Investment Officer 投資運営管理 インド D.J. Pandian 元 Indian Administrative Services
Policy and Strategy 中長期政策・戦略 ドイツ Joachim von Amsberg 現 世銀開発金融担当の副総裁
Chief Administration Officer 一般行政 インドネシア Luky Eko Wuryanto 元 政府高官

 

   

出資(億ドル)

出資比率
(%)
議決権
(%)
 
域内 域外
1 中国 297.804   30.34 26.06 総裁
2 インド 83.673   8.52 7.50 副総裁
3 ロシア 65.362   6.66 5.93  
4 ドイツ   44.842 4.57 4.15 副総裁
5 韓国 37.388   3.81 3.50 副総裁
6 オーストラリア 36.912   3.76 3.46  
7 フランス   33.756 3.44 3.19  
8 インドネシア 33.607   3.42 3.17 副総裁
9 ブラジル   31.810 3.24 3.02  
10 英国   30.547 3.11 2.91 副総裁

 

AIIBは理事会(Board of governors)と取締役会(Board of directors)と経営陣の三重の構造を持つ。

構成国から1名ずつ派遣される理事で構成される理事会がAIIBを司り、理事会は必要に応じて取締役会に権限を移譲することができる。

取締役は地域内構成国から9名、地域外構成国から3名が選出される。

中国の財務相Lou Jiwei(楼继伟)が理事会(Board of Governors)の理事長に選任された。


2016/2/9 三菱化学、テレフタル酸で減損損失計上

三菱ケミカルホールディングスは2月4日、第3四半期の決算を発表した。

営業利益は2283億円で前年同期比 +83.7% となったが、親会社株主帰属純利益は314億円で -58.4%となった。

これは前年同期の特別損益が+328億円であったのに対し、当期は-651億円となったことによる。

同社は以下の発表を行った。

当社のテレフタル酸事業を運営する連結子会社であるMCC PTA India 及び 寧波三菱化学において、近年の業況の著しい悪化及び将来においても事業環境の回復が見込めないことから、両社が保有する固定資産の回収可能性を検討したところ、両社にて、628億円(MCC PTA Indiaが424億円、寧波三菱化学が204億円)の固定資産減損損失を特別損失に計上しました。

同社は2015年12月9日の事業説明会で、素材分野のアクションプランで「テレフタル酸事業の抜本的対策の実施」 を挙げている。

三菱化学石塚社長の年頭挨拶でも、「テレフタル酸は中国の過剰設備により厳しい状況が続いているが、2016年度中に抜本的な対策を行う」としていた。

ーーー

三菱化学は、国内では黒崎と松山にテレフタル酸の工場を持ち、海外では韓国の三南石油化学とインドネシアのPT. Mitsubishi Chemical Indonesia (旧 バクリー化成)参加していた。

1997年8月にインド計画を発表した。

「3大合成繊維の原料を擁する世界で唯一のメーカーとして、またポリエステル主原料であるPTA・EG (エチレングリコール) 両方を持つメーカーとして、それぞれの戦略と整合性を持ちながら、かつ川下分野においても、その展開を強力に推進することで、世界有数のポリエステルメーカーとしての地位を確固たるものとすべく取り組んでいく。」

「生産設備の需要地立地こそがPTA事業の競争力の基盤であるという考えに立ち、各拠点を核とする需要地域での事業展開を推進していく。
これにより技術のみならず規模のうえでも世界有数のPTA事業会社としての地位を確立することになるものと考えている。」

1999年9月に、黒崎事業所のテレフタル酸製造設備を休止し、テレフタル酸の国内生産を松山工場に集約した。

2004年3月には中国計画を発表した。

「成長市場で立地、製造・販売を行い、収益を確保しながら事業拡大・競争力確保を行うという方針に基づき、日本・韓国・インドネシア・インドの4つの拠点でPTA事業を推進してきた。中国においても、経済急成長の中、ポリエステル繊維等の需要が急速に拡大してきている。その原料として使用されるPTAの需要は、2003年中国全体で約830万トン規模に達しているが、総需要の54%を輸入に依存している現状に加え、今後年10%以上の高い需要の伸びが予想されていることから、三菱化学は、これら旺盛な需要に応えるべく、中国国内での製造設備設置について事業化検討を実施してきた。
その結果、世界でトップクラスの三菱化学独自の製造技術を用いることにより、中国国内においても品質・価格面で競争力のある製品をお客様に提供することが十分可能であると判断し、今回の事業化を決定した。」

QTAは一段酸化PTAで、同社ではPTAは主に非繊維用途、QTAは主に繊維用途としている。

この時点までは、三菱化学はテレフタル酸事業を成長事業とみなし、投資を続けていた。

の後、世界中でPTAの大増設が行われた。

本ブログは2006年に次のとおり書いている。

世界中でPTAの大増設が続いている。筆者のデータベース更新情報では4/13に欧州、ブラジル、中国、タイのPTAの記事が同時に載った。

PTAはポリエステル繊維やペットボトルの原料で、需要は伸びている。中国では年率10%の成長が見込まれている。しかし、こんなに増設して大丈夫であろうか。これもバブルではないのだろうか。

2006/3のMETI「世界の石油化学製品需給動向」では2007年の全世界の需要を3,700万トン、能力を4,400万トンとしており、能力が上回っている。
しかし、この能力は過小とみられており、例えば、中国の能力を1,230万トン(生産836万トン)としているが、中国の情報では1,840万トン(生産1,400万トン)となっており、600万トンの差がある。

2006/4/17 高純度テレフタル酸(PTA)の大増設

三菱化学は2008年12月に2008-10年度の中期経営計画の見直し」を発表したが、そのなかで、テレフタル酸については以下の通りとした。

テレフタル酸は徹底したコスト削減とアライアンスを検討する。
 1) インド、インドネシア、中国では海外企業との提携による販売・生産体制再構築      
 2) コスト競争力(合理化によるコスト削減、不採算工場の撤退検討)
 3) 海外Global Head Quarters による購買/販売/技術面での機動力あるマネジメント

2009年2月にテレフタル酸事業の事業構造改革を発表した。国内生産から撤退、本社機能を海外に移す。

1.松山工場テレフタル酸と水島事業所の原料パラキシレンの停止

松山工場 テレフタル酸(QTA) 能力250千トン 2010年12月停止予定
水島工場 パラキシレン 能力100千トン 2010年5月停止予定

2.テレフタル酸事業の本社機能移転

本社機能 シンガポール 2009年6月
技術に関する本社機能 インド(西ベンガル州ハルディア) 2009年末

2009年5月にシンガポールにMCC PTA Asia Pacific を設立した。

2009/2/24  三菱化学、テレフタル酸事業の事業構造改革

 

三井化学では、中国での新増設で、2013年以降大幅余剰が継続する(供給過剰 1500万トン)と見た。(2014/2)


三菱化学は今回、
近年の業況の著しい悪化及び将来においても事業環境の回復が見込めないことから、インドと中国について減損損失を計上した。
 

同社の拠点は下記のとおり。

  社名 株主 立地 能力 千トン  
韓国 三南石油化学
(Sam Nam
Petrochemical
)
三菱化学 40%
三養社 40%
LGカルテックス 20%
麗川 PTA  300
QTA  1,400
計  1,700
2015/3現在の韓国石化協資料では
能力は1,800千トンとなっている。
インドネシア PT. Mitsubishi
Chemical Indonesia

旧称
バクリー化成
三菱化学 83.3%
日本アジア投資 16.7%
メラク PTA 640
PET 
52
当初
三菱化学 57.4%
日本アジア投資 17.1%
Bakrie & Brothers 2
5.5%
インド MCC PTA India 三菱化学  66%
州産業開発公社 5%
三菱商事 
9%
日商岩井 8%
トーメン
5%
丸紅 5%
住金物産 2%
西ベンガル州ハルディア @  470
A  800
投資額
@400億円
A426億円

三菱化学減損損失
 424億円

中国 寧波三菱化学 寧波PTA投資* 90%
中国中信集団(CITIC)10%      
浙江省
寧波市
600 *三菱化学 61%
 伊藤忠商事 35%
 三菱商事 4%

投資額 333億円

三菱化学減損損失
 204億円

 

三井化学も2014年2月に高純度テレフタル酸(PTA)の再構築を発表している。

2014/2/10 三井化学の事業構造改善計画 

 


2016/2/10   天津爆発事故の調査報告書 

中国国務院の事故調査チームは2月5日、天津市で2015年8月に起きた瑞海公司(RuiHai International Logistics) の化学物質倉庫の爆発に関する調査報告書を発表した。

8月12日の爆発での死者は165名、不明8名、負傷者798名(うち重症 58名)で、死者の内訳は、公安の消防隊員24名、天津港の消防隊員75名、公安警察11名、事故企業および周辺企業と周辺住民55名。不明者は、天津港の消防隊員が5名、その他が3名。

被害を受けた建物は304棟、破損した自動車(販売用)は12,428台、破損コンテナー 7,533個で、直接の経済損失を68億6600万元(約1230億円) としている。
事故で漏れた化学物質が健康に及ぼすリスクは「極めて低い」と結論づけた。
天津港の水質や大気に大きな影響が残っていないとしている。

爆発の原因については、不適切に保管された可燃性の強いニトロセルロースが
保湿剤がなくなったため乾燥し、気温の上昇で自然発火し、近くのコンテナーの硝酸アンモニウムなど 他の物質の爆発を引き起こしたとしている。

爆発当時には消防隊が放水したことが化学物質の大爆発を招いたとの声が相次いだが、放水と爆発の因果関係には直接触れていない。

瑞海公司は、違法に貨物置場をつくったり、違法に危険物を保管したり、不適切な安全管理を行うなど、多くの安全管理違反を行っていた。
「危険物の保管方法など安全管理が極めてずさんだった」と指摘している。

付記

天津市第2中級人民法院は11月9日までに、瑞海国際物流の会長の于学偉被告に対し、不法に危険物質を保管していた罪などで、執行猶予2年付きの死刑と罰金70万元の判決を言い渡した。

于被告以外の同社幹部など23人にも、無期懲役などの刑を言い渡した。
さらに、于被告から賄賂を受け取っていた市の港湾担当幹部を含む25人の当局者には、最高で懲役7年の判決が下った。
 

コンテナーヤードには7類の危険品(第一類の火薬と第七類の放射性物質を除く)合計111種 11,384トン、うち硝酸アンモニウム 800トン、シアン化ナトリウム 681トン、ニトロセルロース類229トンを保管していた。
うち運抵庫(受入倉庫)には72種類、合計4,840トンを保管、うち硝酸アンモニウム800トン、シアン化ナトリウム 360トン、ニトロセルロース類48トンを保管していた。

シアン化ナトリウム681トンは、施設の設計上の保管量を40倍以上も上回る。

下図は当初の報道による。

同社幹部が当時の市幹部に現金や商品券を贈ったり、ゴルフや飲食の接待をしたりして営業に関する許可を得ていた 。

報告書は、施設への監督を怠ったなどとして、副市長2人を含む123人を免職や降格などの処分にするよう求めた 。
このうち74人は共産党の規律などに基づき処分するよう勧告した。

事故について:

2015/8/14   天津で大規模爆発 
2015/8/17   天津大爆発のその後
2015/8/21   天津爆発事故のその後(2)
2015/8/27   天津爆発事故のその後(3)
2015/9/7   天津の爆発事故現場、早くも公園化計画 批判相次ぐ 
2015/9/21   天津爆発現場の現状

 


2016/2/11 環境省、石炭火力発電所の建設を容認 

丸川環境大臣は2月8日、林経済産業大臣と会談し、石炭火力発電所の新設を容認する方針を伝えた。

その理由として、電力業界が新たに協議会を設置して電力事業者の削減計画の進捗をチェックすることを決めたこと(下記)や、経済産業省が発電効率の悪い発電所を建設する事業者に是正勧告や命令を行うことを検討していることなどを挙げた。

環境省と経産省の合意内容は下記の通り。

・火力発電の効率に数値目標を設定、効率の悪い設備や休廃止
・再生可能エネルギーと原発を合わせた非化石電源の利用を合計で原則44%以上にするよう電力会社に求める
・発電所のCO2排出量などの情報の開示
・電力業界は削減計画を誠実に実行

・環境省は電力業界の取り組みを毎年点検し、不十分なら見直しを求める

丸川環境相は2月9日の閣議後の記者会見で、全国で相次ぐ大型石炭火力発電所の新設計画を容認する意向を正式に表明した。

個別案件のアセス審査については国の温暖化ガス削減目標との整合性で判断する。
効率の悪い発電所の新設を認めず、経済産業省や電力業界が進める温暖化ガス削減計画の進捗を環境省が毎年点検することなどを条件にした。
達成が危ぶまれる場合は再び新設に異議を唱え、新たな規制の導入を検討する。

取り組みが不十分な場合について、丸川環境相は合意の見直しに言及。「最終的には炭素税などの導入も排除しないで考えたい」と語った。

ーーー

日本では大型石炭火力発電所の建設計画が続出している。

政府は2015年7月17日、地球温暖化対策推進本部を開き、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を「2030年までに2013年比26%削減」とする目標を正式決定した。

2015/7/18 温室効果ガス 2030年に2013年比 26%減 

環境相は2015年6月12日、山口宇部パワー宇部興産の構内で石炭を燃料とする総出力120万kWの火力発電所を新設する「西沖の山発電所(仮称)」について、「現段階において是認しがたい」との意見書を経産相に提出した。

環境影響評価法及び電気事業法では、出力11.25万kw以上の火力発電所の設置又は変更の工事について、環境相は、提出された計画段階環境配慮書について、経産相からの照会に対して意見を言うことができるとされている。

2013 年4月に関係閣僚会合で承認された「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ」では、電力業界全体で二酸化炭素排出削減に取り組む枠組の存在が不可欠であるが、枠組は構築されておらず、エネルギーミックスに基づく約束草案政府原案の達成に支障を及ぼす懸念があるとした。

電力業界各社は、2015年7月17日、低炭素社会の実現に向けた新たな自主的枠組みを構築するとともに、「電気事業における低炭素社会実行計画」を策定した。

内容は下記のとおりで、2030年度の販売電力量1kWh当たりのCO2排出量を2013年度比約35%減らすというもの。

  2030年度に排出係数 0.37kg-CO2 / kWh 程度(使用端)を目指す。

 2030年度CO2排出量(3.6億トン-CO2) / 電力需要想定(9.808億kWh) = 0.37kg-CO2/kWh
 
  2013年度比 ▲35%程度相当と試算
 

  火力発電所の新設等にあたり、BAT(Best Available Technology) を活用すること等により、最大削減ポテンシャルとして約1,100万トン-CO2の排出削減を見込む。

参加各社はそれぞれの事業形態に応じた取り組みを結集するというだけで、具体的な「実行計画」はない。

環境相は2015年8月14日、中部電力が愛知県武豊町で2022年の運転開始を目指す大型石炭火力発電所(出力107万kw)について、また、8月28日、九州電力・東京ガス・出光興産の3社が設立した「千葉袖ケ浦エナジー」が千葉県袖ケ浦市で計画している大型石炭火力発電所の建設について、「環境影響評価(アセスメント)法に基づき「現段階では是認できない」とする意見書を経済産業相に提出した。

電力業界各社の「電気事業における低炭素社会実行計画」で公表した二酸化炭素削減目標は実効性が不十分なため、CO2排出量を2030年までに2013年比26%減らす政府目標達成に「支障を及ぼしかねない」と判断した。

2015/8/20   環境相、中部電力の石炭火力計画 是認せず 

環境省は2015年11月13日、関西電力などが千葉県市原市と秋田市で計画している2件の石炭火力発電所の建設について「現段階では是認できない」とする環境影響評価(アセスメント)の意見を経済産業省に提出したと発表した。

ーーー

電気事業連合会加盟会社と、電源開発、日本原子力発電、および新電力有志は2016年2月8日、「電気事業における低炭素社会実行計画」で掲げた目標の達成に向けた取り組みを着実に推進するため、「電気事業低炭素社会協議会」を設立した。

今回設立した「協議会」は、目標達成に向けた取り組みが実効性あるものとなるよう、会員事業者がそれぞれの事業形態に応じて策定・実施する取り組みを促進・支援する。

加えて、会員事業者の取り組み状況を適切に確認・評価し、本協議会全体でPDCAサイクルを推進することにより、目標の達成に向けた取り組みの実効性を高める。

協議会はCO2排出削減が進んでいない企業に対し、計画見直しを求める権限をもつ。
目標の厳守に向け、罰則を設けた。
削減努力が十分でない企業について、社名や違反内容の公表や、除名もあり得る。

電気事業連合会の八木会長(関電社長)は、この仕組みにより、2030年度に2013年比35%削減という「目標の達成を確実なものにしていきたい」としている。

今回環境省は、電力業界が協議会を設置して電力事業者の削減計画の進捗をチェックすることを決めたことを石炭火力新設承認の理由の一つとした。

ーーー

OECD作業部会は2015年11月17日、下記を除き、公的金融機関からの融資を制限することで合意した。
   @「超々臨界圧」技術、A低所得国と島嶼国向けに限り、出力50万kw以下の「超臨界圧」や30万kw未満の「亜臨界圧」

米政権の高官が匿名を条件に語ったところでは、石炭プロジェクト全体の85%に当たる案件で今後、金融支援が打ち切られる。
合意によると、融資制限は4年後に再び厳格化される見通し。

 


2016/2/12 中国の「市場経済国」認定問題 

EUは2月2日、中国をWTO協定上の「市場経済国(Market Economy」と認めるかどうかの協議を始めた。

ーーー

中国は2001年12月にWTOに加盟した。

中国は、WTO加盟に伴い、 アンチダンピング(AD)措置及び相殺措置に係る規則・手続をAD協定及び補助金・相殺措置協定に整合化させることを約束している。

他方、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてAD 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国(Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。

WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国で、すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能な価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める」と規定している。

この結果、「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。EUは中国に市場経済国待遇を適用せず、しかも中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。

EUは2006年10月に中国・ベトナム産革靴に対する反ダンピング税徴収法案を僅差で可決し、中国製品には16.5%、ベトナム製品には10%の反ダンピング税が課されたが、中国商務部はこれについて、特にEUが中国を非市場経済国待遇をしていることに猛烈に反発した。

中国政府側は、大々的に中国が不公平は待遇を受けていると宣伝を繰り広げた。

2007年には中国は連続12年、反ダンピング調査を一番多く受けた国家であるとし、2014年には中国は18年間、世界で最も反ダンピング調査を受けた国だとしている。

これまでにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国が中国の市場経済国家の地位を認めた。しかし、米、EU、日本、カナダなどの多くの国々や地域は未だに承認していない。

ーーー

WTOは中国を「非市場経済国」と認定しているが、その根拠となっている条項は15年が経過する2016年12月に失効する。
中国は自動的に「市場経済国」へ移行すると主張しているが、日米欧などは12月までに個別に判断する方針である。

EUは2月2日、加盟28カ国の通商担当相らが参加する非公式理事会を開催し、この問題を初めて取り上げた。

「市場経済国」となった場合、EUは中国からの輸入に対し反ダンピング措置を取りにくくなる。欧州委員会は、何の対応策もとらずに認めれば、安い中国製品が欧州市場に大量流入し、域内で最大21万人強の雇用を失うとの試算を示した。

米シンクタンク EPI は2015年9月に公表した報告書で、中国に「市場経済国」の地位を認めれば、EUは最大350万人の雇用が失われる恐れがあると指摘した。

英国やオランダや北欧諸国などが「市場経済国」認定に理解を示す一方、製造業に占める鉄鋼業の比重が大きいイタリアなどは反対姿勢を示している。
過剰生産の結果、中国からEUへの鉄鋼輸出は過去1年半で2倍に急拡大している。
中国のダンピングに対して反ダンピング税を課すことができにくくなるために、鉄鋼、窯業、紡績などの産業は壊滅的な打撃を受けるだろうとしている。

欧州委は当初、2月にも中国を「市場経済国」として認定するよう加盟国に提案する方針だったが、産業界の猛反発を受けて撤回した。
欧州域内の産業や雇用への本格的な影響を調査し、7月にも欧州委としての方針を再検討する。

マルムストローム欧州委員は、「問題は中国が実際に市場経済国なのかではなく、中国との貿易問題への対応をどう見直すかだ」と強調、市場経済国の認定に理解をみせた一方、ダンピングや政府補助金の乱用などへの対抗措置の強化が欠かせないとの考えをにじませた。

2015年末までのWTOのメンバーは161か国で、もしEU(28カ国)が認めた場合、WTO内部で中国の市場経済国家の地位を認める国が109か国、全体の2/3になる。
このため、
中国はEUの承認を特に重視している。

中国を市場経済国に認定するかどうかの判断は欧州だけでなく、日米も同様に迫られる。

EUは日本に対し、中国の市場経済国の認定問題や過剰生産への対応策を伊勢志摩サミットで主要議題に取り上げるよう求める方針とされる。


2016/2/13 マイナス金利の波紋 

日本銀行は1月29日、政策委員会・金融政策決定会合で、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定した。今後は、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で緩和手段を駆使して、金融緩和を進めることとした。

ーーー

日本銀行は2013年4月4日の政策委員会・金融政策決定会合で、「量的・質的金融緩和」の導入を決めた。

量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、それまでの金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)からマネタリーベース に変更し、マネタリーベースが年間約60〜70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う こととした。

* マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」

長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行うこととし、長期国債の買入れ対象を40年債を含む全ゾーンの国債としたうえで、買入れの平均残存期間を、 それまでの3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長した。

2014年10月31日の政策委員会・金融政策決定会合では、マネタリーベース増加額を拡大し、マネタリーベースが、年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う こととし、資産買入れ額の拡大および長期国債買入れの平均残存年限の長期化を決めた。(賛成 5、反対 4)

今回、引き続きマネタリーベースが年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う とともに、マイナス金利の導入を初めて決めた。
(マイナス金利導入は、賛成 5、反対 4)

これまでの経緯は下記の通り。

  白川・日銀

黒田・日銀

2013/4/4 2014/10/31 2016/1/29
金融市場
調節手段
無担保コール翌日物金利 マネタリーベース
  マイナス金利の導入
マネタリー
ベース
  年間 60〜70兆円増 年間約80兆円増
2012年末 138兆円 2013年末 200兆円
2014年末    270兆円
   
長期国債
買い入れ

 
残高 年間50兆円増
40年債を含む全ゾーン
残高 年間80兆円増  
平均残存 3年弱 7年程度 7年〜10年程度  

付記

日銀は2020年4月27日、金融政策決定会合を開き、現在は年約80兆円としている国債の購入額のめどを撤廃することを決めた。
新型コロナウイルスの感染拡大への対応で政府の財政支出が膨らみ長期金利が上昇する可能性があり、事実上の無制限購入の姿勢を強調することで金利上昇リスクを抑える狙い。

また、企業が資金調達のために発行するコマーシャルペーパー(CP)と社債の購入枠を、計20兆円 (CP 9.5、社債 10.5兆円)に増やす資金繰り支援策も決めた。
2020年3月に、従来の5.4兆円を7.4兆円(CP 3.2、社債4.2兆円)に増やしたが、これを3倍近くに増やす。

マイナス金利の概要は以下の通り。   

金融機関が保有する日本銀行当座預金に▲0.1%のマイナス金利を適用する。 (2月16日から)
今後、必要な場合、さらに金利を引き下げる。

具体的には、日本銀行当座預金を3段階の階層構造に分割し、それぞれの階層に応じてプラス金利、ゼロ金利、マイナス金利を適用する。
発表後、銀行株が急落したため、日銀は2月3日、
銀行収益への影響を見通しやすくするため、当面の処理を発表した。

 

2月3日発表 

金利率
2月残高 年80兆円増
2015年平均残高 210兆円 210兆円 0.1%
これを超えた残高 うち一定割合(下記@+A 40兆円 残り  0%
これを超える分  10兆円 10〜30兆円 -0.1%

@ 所要準備額に相当する残高
A 金融機関が貸出支援基金および被災地金融機関支援オペにより資金供給を受けている場合には、その残高に対応する金額

 

これまでの「量的・質的金融緩和」では、思ったほど銀行貸し出しは増えていない。
このため、日銀はマイナス金利により、金融機関が日銀から預金を引き出し、貸し出しに回すことを期待した。

マイナス金利の導入で円安・株高への期待が高まったが、 その後の国際的な株価下落で状況が一転した。

金融機関が日銀預け分を国債購入にまわすとの思惑と、国際的な株価下落で、比較的安全な日本国債に集中、国債価格が上昇 、2月9日には長期金利の指標となる10年物国債の市場利回りが一時、マイナス 0.005%となった。長期金利のマイナスはスイスに続き2例目。
満期9年以下の国債は既に金利がマイナスとなっている。

長期金利のマイナスは、多額の資金を国債で運用している金融機関の損益に影響を与える こととなる。

今のところ、個人の預金がマイナス金利になることは想定されていない。

欧州では環境対策プロジェクトなどへの融資を専門とするスイスの小銀行 Alternative Bank Schweiz が1月から個人の顧客にマイナス金利を適用した。
当座預金は -0.125%とし、10万スイスフラン(約10万ドル)以上の顧客には -0.75%とする。

株価の下落、円高が続いている。

日銀の黒田総裁は2月12日の衆院財務金融委員会で、急激な円高、株安、金利低下が進む国際金融市場について「日銀のマイナス金利が影響しているとは考えない」と明言し、「投資家のリスク回避姿勢が過度に広まっている」と指摘した。

マイナス金利政策は国債の利回り曲線(イールドカーブ)を押し下げる効果を発揮しており、「今後は効果が実体経済に着実に波及する」とし、「当然2%の物価目標の早期実現に資する」と強調した。「直接国民生活にマイナスになるとは考えられない」との見解を示し、「マイナス金利の趣旨や影響、効果について十分説明していきたい」と述べた。

ーーー

欧州では欧州中央銀行(ECB)やスウェーデン、デンマーク、スイスの中央銀行が既にマイナス金利を導入している。

  導入 現在 付記(追加)
ユーロ圏(ECB)  2014/6   -0.1%  -0.3%

2016/3/10    -0.4%

デンマーク 2012/7   -0.2%  -0.65%  
スイス 2014/12 -0.25% -0.75%  
スウェーデン 2015/2 -0.1% -0.5%  

 

付記 ECBは3月10日、追加緩和で -0.4%に引き下げた。

付記

社会貢献度の高い企業に融資する独自の方針を掲げているスイスの小銀行のAlternative Bank Schweiz は2016年1月1日から預金者金利をマイナスにした。
当座預金について -0.125% とし、10万スイスフラン以上の預金は -0.75% とした。

 


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