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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2019/6/1   フィアット、ルノーに経営統合提案

 Fiat Chrysler Automobiles (FCA) は5月27日、Renaultに経営統合を提案したと発表した。

統合比率は1対1と対等とし、統合による工場閉鎖は行わない。

付記 FCAは6月6日、ルノーとの経営統合提案を撤回した 。5日夜にルノーの取締役会で承認が得られなかったことを受け、ルノーに通知した。
   ルノーの筆頭株主である仏政府の介入により、望んでいた条件での統合は難しいと判断した。

発表:It has become clear that the political conditions in France do not currently exist for such a combination to proceed successfully.

オランダの持株会社(統合会社)の傘下にRenaultとFCAを置く。両社の株主には統合会社の株式が配分される。
統合会社の取締役は計11人で、FCAとルノーから各4人、日産から1人を出す形になる。

統合会社はイタリアやニューヨークの株式市場などに上場する。

以下の点が伝えられている。

フランス政府は現在、ルノー株15%を保有する筆頭株主で、フランスには同国企業の株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与える「フロランジュ法」があるが、オランダに本社を置く統合会社の株式については同法は適用されない。

日産が現在ルノー株15%を保有しているが、統合が実現した場合の日産の持ち分は7.5%になる。

ルノーは現在、日産株の約43%を保有して議決権を持っているため、日産が保有する15%のルノー株には議決権がないが、統合後の新会社では議決権が復活することになる。
(フランス
会社法では、40%以上の出資を受ける企業は出資元の議決権を持てないが、オランダ法にはこの規定はない。)

仏ルノーは5月29日、日産自動車、三菱自動車とトップ会談を開き、統合協議を進めることに賛同を求めた。
日産は「反対ではない」としながらも、日産としてのスタンスを固めるには「まだつめなければならないことが多い」と述べた。

関係者によると、FCAのエルカン会長が日産自動車の西川社長兼最CEO、三菱自動車の益子会長兼CEOに、仏ルノーとの経営統合について直接会って説明したいとの書簡を送った。

 

年間販売台数は、合計870万台になる。ルノーと連合を組む日産と三菱を加えると、年間販売は約1500万台となり、独フォルクスワーゲンやトヨタ自動車の約1千万台を大きく引き離し世界トップとなる。

統合が実現すれば、両社は電気自動車技術や、インターネットとつながるコネクテッドカーなど複数分野で協業を模索する。

ーーー

Fiat Chryslerと、Renaultの歴史は次の通り。

1)Fiat Chryslerは2014年10月12日に、FiatとChrysler が合併して設立された。Fiat 創業者のAgnelli 家の投資会社が、株式の約3割(議決権ベースで4割以上)を保有する。

1-a) Fiat

1899年にトリノで創業

1960s〜1980sに相次ぎ買収を行った。Autobianchi 、Ferrari 、Abarth、Lancia、Alfa Romeoなど。

石油ショックや、その前後の左翼勢力による慢性的な労働争議により経営が不安定化

2000年にGMと提携するが、2005年にGMが一方的に解消、違約金15.5億ドルを受け取る。

2005年頃から業績回復

2009年にChryslerに20%出資(将来的に35%まで引き上げること、米政府の公的資金完済後には最大51%を取得して子会社化できる条項あり)。

その後、持株比率を58.5%に引き上げ、2014年1月に残りのUAWの持株41.5%を買い取り、Chryslerを完全子会社化し、2014年10月に統合

1-b) Chrysler

1925年にWalter ChryslerがChrysler Corporation設立、その後、Big Threeの一つに成長。

1970年代後半には深刻な経営危機、1978年に元Ford Morter社長のLee Iacoccaが社長就任

1985年 三菱自動車と提携し、Diamond Star Mortorsを設立、1988年 イリノイ州新工場で共同生産開始。

その後、1993年に三菱自動車がDiamond Star Mortorsを買い取り、以降は三菱自動車の北米事業部門となる。

1987年、ルノー傘下のAmerican Motorsを買収 (Jeep Cherokeeがヒット)

1998年に、Daimler-Benz AGと合併し、Daimler-Chryslerとなる。事実上Daimler-Benzによる買収

2007年5月、Daimler-Benzとの競業体制解消
 Chrysler部門は「Chrysler LLC」とし、株の80.1%をCerberus Capital Management, L.P.が買収
 Daimler-BenzはDaimlerに改称

2009年4月にDaimlerは残り株式をCernerusに売却

2009年4月30日、Chapter 11 の適用申請

Cerberus の持株は事実上失効
新たに、UAWが55%、Fiatが20%、米国政府が8%、カナダ政府が2% 出資。

同年6月10日法的手続きが完了

2014年1月、Fiatは株式保有率を58.5%にまで引き上げていたが、UAWの医療保険基金が持つ残り41.5%を買い取り、Chryslerを完全子会社化すると発表。

2014年10月12日に統合

2) Renault S.A

1898年にフランス人技術者のLouis Renaultとその兄弟が設立

1979年 に アメリカ第4の自動車会社 American Motors を買収

1987年にAmerican MotorsをChryslerに売却

1993年 - スウェーデンのVolvoとの合併を発表するがその後白紙撤回

1999年、日産自動車を事実上の傘下に収めることを発表。

その後同社と相互に資本提携しRenaultが日産自動車の株を44.4%、日産自動車がRenaultの株の15%を所有する。Renaultが日産自動車に経営陣を送り込む。

2016年、日産自動車が三菱自動車工業の筆頭株主となる。

2010年4月7日、Renault・日産アライアンスとDaimlerは戦略的提携を発表。株式の交換による相互出資も発表。
Renault・日産アライアンスがDaimler株を3.1%、DaimlerがRenault株及び日産株を各3.1%保有する。


付記 

Renaultは2021年3月Dailer株を売却した。日産も同年5月に売却した。

Daimlerは2021年11月、Renault株を売却した。日産株3.1%はまだ保有している。

 


2019/6/1    米政権、メキシコからの全輸入品に関税、移民問題解決まで、毎月税率引き上げ

トランプ米大統領は5月30日、メキシコが米国への不法移民流入を止めるまで同国からの輸入品に関税を課すと表明した。

米国を脅かす非常事態に対応するため、大統領に商業活動を規制する権限を与える「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づき、関税を課するもので、メキシコが対策を取るまで、下記の通り、順次税率を引き上げる。

6月10日から 5%、7月1日に10%、8月1日に15%、9月1日に20%、10月1日に25%とし、問題解決までこれを維持する。

ーーー

付記 大統領は6月7日、メキシコからの全輸入品に対する5%の関税発動を「無期限」で見送るとツイッターで発表した。メキシコが米国への不法移民流入を防ぐための対策を取ることで合意した。

I am pleased to inform you that The United States of America has reached a signed agreement with Mexico.

The Tariffs scheduled to be implemented by the U.S. on Monday, against Mexico, are hereby indefinitely suspended.
Mexico, in turn, has agreed to take strong measures to stem the tide of Migration through Mexico, and to our Southern Border.

This is being done to greatly reduce, or eliminate, Illegal Immigration coming from Mexico and into the United States. Details of the agreement will be released shortly by the State Department. Thank you!

ーーー


大統領は5月30日夜のツイッター投稿で、関税は6月10日に発効し、不法移民がメキシコを通って米国に流入するのが止まるまで続くと述べた。 問題が解決するまで順次税率を引き上げるとした。

On June 10th, the United States will impose a 5% Tariff on all goods coming into our Country from Mexico, until such time as illegal migrants coming through Mexico, and into our Country, STOP.

The Tariff will gradually increase until the Illegal Immigration problem is remedied, at which time the Tariffs will be removed.

Details from the White House to follow.

同日、ホワイトハウスから大統領声明が発表された。
  
Statement from the President Regarding Emergency Measures to Address the Border Crisis

内容は次のとおり。

 状況:

メキシコからの不法移民の大量流入が国民生活のあらゆる面で害を与えている。

メキシコ政府の協力が積極的でなく、米国の安全と経済に脅威を与えている。不法移民の米国流入を止め、出身国に送還できるのに。
米国は何十年も苦しんでいるのに、メキシコは放置している。米国の納税者にとりアンフェアな事態である。

メキシコは対策を取らねばならない。

 対応:

緊急事態への対応のため、「国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)」で与えられた権限を行使する。

メキシコからの全ての輸入品に5%の関税を課する。有効な対策で問題が和らいだと判断すれば(大統領のみの判断)、関税は取りやめる。

問題が続けば、7月1日に10%に引き上げる。同様に毎月引き上げ、10月1日には25%に引き上げる。問題解決までは永久に25%となる。

メキシコが対策を取らなければ、関税は高いままで、メキシコに移った企業は米国に戻り、米国で生産することになる。米国に戻れば関税を払う必要はなくなる。

これまで米国は貯金箱(“piggy bank”)で、みんなが取る一方だった。これからは、米国の利益のために立ち上がる。

米国はこれまでメキシコに親切だった。メキシコにすぐお返しをしてほしい。不法移民を送り込む窓口として国境を使うのをやめて欲しい。

大統領として最大の義務は米国と米国民の防衛である。主権が脅かされるのを黙って見ていない。

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米国のメキシコからの輸入は2018年で3465億ドルで、中国に次ぎ2番目。

米国は中国に対しては現在、2500億ドルの輸入品に25%の追加関税をかけている。(残り約3000億ドルについても6月末以降実施としている)

これを上回る輸入品に、当初は5%に始まり、10月1日からは25%をかけるというもの。しかも全輸入品である。

 
メキシコからの輸入品は、自動車関連や電気製品、食料品が中心で、自動車関連は1281億ドルで4割弱を占める。

トヨタ、日産、ホンダ、マツダは4社で133万台を生産し、69万台を米国に輸出している。高関税が課されると大きな影響を受ける。

  生産 対米輸出
トヨタ  15万台 14万台
ホンダ 21万台 13万台
日産 80万台 35万台
マツダ 18万台 7万台
合計 133万台 69万台

米国とカナダ、メキシコは昨年、NAFTA(North American Free Trade Agreement)の改正で合意し、「USMCA(the United States-Mexico-Canada Agreement)」に変更した。

自動車については、数量規制を導入したが、一応の決着を見ていた。

カナダ、メキシコからの乗用車輸入にそれぞれ年260万台の数量枠を設け、枠内であれば高関税を課さない。
米国で人気が高い小型トラックは輸入制限の対象から外す。

自動車部品でもメキシコに年1080億ドルの輸入枠を設ける。

自動車関税ゼロ  条件

域内部品調達比率 62.5%→75%
時給16ドル以上の地域での生産割合 40-45%

自動車関税ゼロ 限度 乗用車 年260万台
小型トラック 対象外
自動車部品関税ゼロ 年間1080億ドル限度

2018/10/4   NAFTA、3カ国協定を維持、USMCAに改称
 

このUSMCAは、米国では民主党が賛成せず、カナダとメキシコは米国の鉄鉱・アルミ製品への追加関税措置に反対して、批准に至っていない。

米国は5月17日、カナダ、メキシコとの間で、安全保障を理由とした鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税措置を停止することで合意した。
カナダ、メキシコも、米農産物などにかけてきた報復関税を取りやめることで合意した。

これにより、進展するものと思われた。

2019/5/20 米、カナダ・メキシコへの鉄鋼・アルミ関税を撤廃 

今回の米国の一方的な措置により、メキシコが反発するのは必至で、USMCAの批准にも影響を与える。

米政府は、今回の対メキシコ関税計画はUSMCAとは無関係で、貿易紛争の一端ではなく、移民問題に関わるものだ。メキシコから十分な協力が得られたとホワイトハウスが判断すれば、関税は発効しないか、いったん発効後も速やかに撤回されるとしている。

 

メキシコのセアデ外務次官(北米担当)は、次のように述べた。

トランプ大統領の対メキシコ関税発表は予想していなかった。米国は関税についてメキシコ政府に何も伝えてこなかった 。

米国と話し合うまでは報復しないが、関税賦課が現実となれば、極めて深刻なものになろう。

  米国との貿易戦争は望まないが、いつまでも手をこまぬいていない。

 


2019/6/1 メルケル首相のハーバード大卒業式でのスピーチ 

ドイツのメルケル首相は5月30日、アメリカのハーバード大学の卒業式で演説した。

演説はトランプ米大統領の名前に一言も触れずに、大統領と米政権を痛烈に批判する内容だった。通商や移民、気候変動に至るまで、トランプ氏と衝突した政策を列挙し、首相が誰について話しているのか、聴衆は明確に理解し 、拍手喝采した。


同大学ホームページから

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最初に、旧東ドイツで育った自らの体験に触れ「ベルリンの壁が文字どおり目の前に立ちはだかり、私の機会を制限した」と述べた。

それが、1989年にポーランド、ハンガリー、チェコ、東ドイツで人々が立ち上がり、壁を壊した。私を含め誰も可能と思わなかったことが事実となった。

30年前に何事も変わらないことはないということを自身で経験した。「何ごとも変えることができる(nothing has to stay the way it is)」 これをまず、皆さんに伝えたい。

次に、世界に立ちはだかる問題を取り上げた。

「気候変動」は宇宙の自然資源にとり脅威であり、これは人間により引き起こされたものだ。2050年までに気候中立(climate neutrality)を達成するよう全力を尽くす。
しかし、改善はみんなでやって可能になる。皆さんに伝えたい2番目は、我々の行動は一方的でなく多角的、国ごとではなく他国的、孤立主義でなく外に目を向けるということだ。
(Multilateral rather than unilateral.  Global rather than national.  Outward-looking rather than isolationist)

保護主義や貿易摩擦は自由な国際貿易を危険にさらし、我々の繁栄の基礎を台無しにする。

技術は限りない可能性を与えるかもしれない。しかし、技術に対するルールを決めているか? 技術が我々の行動を決めていないだろうか?人間を尊厳ある、多面的な個人として見ているか、それとも単に消費者やデータソース 、監視対象としてしか見ていないのではないか?

もし、他人の目で世界を見れば、難しい問題に答えが見つかる。衝動で行動せず、ちょっと立ち止まって考えるのだ。

最も重要なのは、自分自身に正直であることだ。嘘を事実とし、事実を嘘とすり替えるな。

個人の自由は与えられたものではない。民主主義は当たり前と思うものではない。自由も繁栄も同じだ。
しかし、我々を取り囲む壁を壊し、外に出て、新しいことを取り込む勇気を持つなら、全てが可能だ。
 “But if we break down the walls that hem us in, if we step out into the open and have the courage to embrace new beginnings, everything is possible.”

最後に、この願いを皆さんに残したい。「無知と偏狭の壁をぶち壊せ、何ごとも変えることができる」。
Tear down walls of ignorance and narrow-mindedness, for nothing has to stay as it is.” )

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“Tear down walls” は、彼女自身の経験のほか、1987年6月12日にレーガン大統領がブランデンブルク門でのベルリン750周年記念式典のスピーチで発した言葉 Tear down this wall! に因むもので、この演説の2年後にベルリンの壁は崩壊した。同時にトランプ大統領のメキシコとの壁を皮肉っている。

 

 


2019/6/3   ジャパンディスプレイ、支援が進展

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は5月30日、同社に対する支援策が確定したことを発表した。

同社は4月12日、台湾の電子部品メーカーなど3つのグループで構成する台中連合から800億円の金融支援を受けると発表した。

台中連合のSuwa Investment Holdings, LLCと 、800億円の出資契約を締結する。(出資比率は台湾紙の情報 6/19 JDI)

    出資比率  
台湾 TPK Holding 宸鴻集団 41.8% 250億円 31.25% タッチパネル大手
Cosgrove Global 23.6% 140億円 17.50% 一族富邦金控が運用・管理する投資会社
中国 Harvest Tech Investment Management
嘉実基金管理)
34.5% 410億円 51.25% 中国最大の資産運用会社 Harvestグループ のプライベートエクイティ投資を行う運用会社

普通株式:420億円
新株予約権付社債:180億円+200億円 合計 380億円(うち最後の200億円は資金需要により判断)
総計:800億円

2019/4/15 ジャパンディスプレイ、台湾・中国のグループから金融支援800億円受け入れ 

 

同社は5月15日、2019年3月期の決算を発表したが、最終損益は1,094億円の赤字となり、5年連続赤字となった。この結果、資本勘定は債務超過寸前となった。

2019/5/17 ジャパンディスプレイ、5年連続赤字 

当初予定では6月18日のJDIの定時株主総会で最終的に承認を受ける予定だったが、台中連合が金融支援に必要な機関決定を延期すると相次ぎ表明しており、間に会わず、改めて臨時総会を開く見通し 。

JDIの業績悪化や、米国と中国の紛争による今後の見通しが不透明なことから、仮に台中連合からの資本注入が出来なくなれば、資金繰りが苦しくなると見られた。

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JDIでは台中連合の金融支援を確定させるべく、関係各社に協力を要請し、下記の協力を得た。

1) Apple社(最大需要家で、その受注が死命を決する。多額の前受け金を受領しており、返済義務が重荷)

当面の財務強化に対する協力として、前受金に対する債権相殺金額を、2年間にわたり 、従来の合意条件に対して半額繰り延べる 。

当面の発注の増量についても真摯に協議する

2) 現在の筆頭株主のINCJ(旧 産業革新機構)

750億円の優先株の引き受けで Debt-to-equity  を行う 。
770億円の長期貸付で既存の債務(INCJが債務保証)を返済する。
 以上について、内訳を変更(総額は変わらず、優先株を1020億円に、長期貸付を500億円に)

4月19日に200億円のブリッジローン

当初案では今後も負債で残る予定であった上記ブリッジローン(200億円)全てとINCJからの劣後特約付貸付(300億円)のうちの247億円について、JDIが持つ有機ELディスプレイのJOLEDの株式15%全てで代物弁済する。

この結果、INCJからの長期貸付500億円が追加されるが、これまでの同社の負債合計2020億円のうち、劣後特約付貸付の残り53億円を除く全てが無くなる。

以上の協力を得たのを受け、台中連合は総額800億円の支援について、6月14日に各社の内部機関決定を行う旨、連絡してきた。

JDIの定時株主総会(6月18日)での承認は間に合わないが、年内に行う臨時株主総会で承認を得て、実行する。


変更後の支援の概要は次の通り。

 @ 当初案では今後も残る予定のINCJからの債務447億円をJOLED株式で代物返済

 A INCJの支援1520億円のうち、長期貸付金を270億円減らし、優先株を270億円増やす。

 以上により、負債残は1270億円から553億円に717億円減り、資本増強は最終1550億円から1820億円に270億円増える。
(JOLED持株が無くなる。)

ーーー

とりあえず、台中連合が近く内部機関決定を行うことを決めたが、まだ安心できない。まだ機関決定はしておらず、下記の懸念がある。

・米中摩擦の激化のなか、中国の嘉実基金管理自身がAppleへの供給企業に出資するかどうか。3社社内に反対が出ないか。

・米中摩擦が激化するなか、対米外国投資委員会(CFIUS)がApple への供給元のJDIに中国企業の嘉実基金管理が参加するのを問題にするかどうか。

 逆に中国政府がそのJDIへの嘉実基金管理の出資を認めるか。

・今後のAppleからの発注の見通し、JDIの損益見通しを元に、台中連合が引き続き支援を続けるか。

 

   


2019/6/4 欧州議会選挙の結果と新体制の選出 

欧州議会選挙は5月23日〜26日に行われた。欧州議会議員は任期が5年。総議席は751で、国別に議席数が決まっている。
英国は、本土が70議席、北アイルランドが3議席の合計73議席で、英国は10月末にはEUから離脱するが、規定上、選挙を行った。

英国では5月23日に実施され、Brexit党が29名で最多数となった。与党と労働党は惨敗した。

2019/5/29 欧州議会選挙で英国の与党と最大野党が敗北

欧州議会では、出身国での所属政党ではなく、イデオロギーが近似する議員で会派を作っている。

選挙の結果は下記の通りで、欧州政治の分極化を浮き彫りにした。

これまでの主流の欧州人民党(中道右派)と社会民主進歩同盟(中道左派)が大きく議席を失い、初めて過半数を割り込んだ一方、同じ親EUの欧州自由民主同盟が大きく伸びた。

EU懐疑派では、イタリアの極右「同盟」やフランスの極右「国民連合」、ドイツの極右「ドイツのための選択肢」などの入る、EUとの対峙も辞さない強硬な懐疑派がいずれも伸長した。
しかし、懐疑派の極左は席を失って、全体ではあまり変わらず、EU懐疑派が独り勝ちして欧州統合に強くブレーキがかかる事態はひとまず回避した。

今後は親EU派が結束できるかが焦点となる。

    今回 前回 増減  
欧州人民党(EPP) 中道右派 179 215 -36 戦後欧州の安定を支えてきた。
初めて過半数を割り込んだ。
社会民主進歩同盟(S&D) 中道左派 153 190 -37
欧州自由民主同盟(ALDE&R) 中道 105 70 35 「最も議席数を伸ばしたのは、大衆迎合主義(ポピュリズム)政党でも極右でもなく、われわれ親EUグループだ」
欧州緑グループ・欧州自由同盟
(Greens/EFA)
  69 50 19  
(親EU 合計)   (506) (525) -19  
欧州保守改革G (ECR) EU懐疑派 63 74 -11  
国家と自由のヨーロッパ(ENF) 極右 58 39 19 イタリアの極右「同盟」やフランスの極右「国民連合」
(それぞれ国内で第1党を獲得している。)
自由と直接民主主義のヨーロッパ
(EFDD)
  54 46 8 ドイツの極右「ドイツのための選択肢」、英・独立党、
伊・五つ星等など
欧州統一左派・北方緑の左派同盟
(GUE/NGL)
極左 38 52 -14  
(EU懐疑派 合計)   (213) (211) (2)  
無所属   8 15 -7  
未定(新規当選など)   24 0 24  
合計   751 751 0  

 

今後、 今秋にそろって任期切れを迎える欧州連合(EU)機関トップ(欧州委員長、大統領、欧州議会議長、ECB総裁など)の後任選びが本格化 する。これらを一体で決めるため、各国で綱引きが行われる。

欧州議会選挙を受け、EUは5月28日に非公式首脳会議を開き、10月末に5年の任期が切れるJean-Claude Juncker 欧州委員長の後任選びなどについて協議した。

これまでは欧州議会の第一会派が擁立する「筆頭候補」が選任されたが、今回は従来方法を見直し、筆頭候補が自動的に選ばれる方式を採らないことを確認した。
 

今回の選挙では、親EUの二大会派が議席を減らす一方で、右勢力や「緑の党」が伸長し、多極化が進んだ。
EUの意思決定がより困難になることを懸念し、欧州委員長には、首脳らと欧州議会の双方から幅広い支持を得られる人選が必要との認識で一致した。

今回は特に、フランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相が対抗している。

欧州委員長の候補には、下記の名が挙がっている。

  出身 現職 会派  
Manfred Weber ドイツ 欧州議員 欧州人民党
(中道右派)
組織トップの経験なし

Frans Timmermans

オランダ 欧州委
第一副委員長
欧州社会・進歩連盟
(中道左派)
ユンケル委員長右腕
Margrethe Vestager デンマーク  欧州委員
(競争政策) 
欧州自由民主同盟
(リベラル)
米のIT大手と対決
初の女性委員長狙う
Michel Barnie フランス Brexit
主席交渉官
欧州人民党
(中道右派)
 

メルケル首相は最大会派欧州人民党のWeber欧州議員を推すが、マクロン大統領は、「カリスマ性と経験ある人物がふさわしい」と主張、それを満たす候補として他の3人を挙げている。

 


2019/6/4 ドイツ 社会民主党党首が辞任へ 

メルケル独首相の大連立政権を支える国政第2党、ドイツ社会民主党(SPD)のAndrea Nahles党首が6月2日、党首を辞任する考えを示した。

SPDは欧州議会選で歴史的な大敗を喫した。欧州議会選で過去最低の15.8%の得票にとどまり、緑の党に抜かれて第3党に転落していた。

ナーレス氏は同日朝「職務の執行に必要な支持がもはや得られない」との考えを示した。

大連立を維持する立場を保ってきた同氏の辞任はメルケル政権にとって打撃となる。

欧州議会選挙のドイツの結果

  今回 前回
議席
増減
議席 得票率
キリスト教民主同盟 (CDU) CDU/CSU

下院
連立
与党

23 22.6 29 -6
キリスト教社会同盟 (CSU) 6 6.3 5 1
ドイツ社会民主党(SPD) 16 15.8 27 -11
緑の党 21 20.5 11 10
自由民主党(FDP) 5 5.4 3 2
ドイツのための選択肢(AID) 11 11.0 7 4
左派党 5 5.4 7 -2
その他 9 12.9 7 2
合計 96 100 96 0

ーーー

2017年9月24日の連邦議会(下院)選挙で、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は709議席のうち246議席しか確保できなかった。

自由民主党(FDP)や緑の党と進めていた連立協議が11月19日、決裂し、2018年3月になってようやく、第2党の社会民主党(SPD)と続けてきた大連立交渉がまとまり、メルケル氏はわずかの差で首相に選ばれた。

下院の勢力図は下記の通り。

キリスト教民主同盟 (CDU) キリスト教
民主・社会同盟
(CDU/CSU)
246 連立
与党
399

(首相選出投票)
賛成 364
(過半数 +9)
(与党全数 -35)

反対  315
棄権  9
欠席    21

キリスト教社会同盟 (CSU)
ドイツ社会民主党(SPD) 153
緑の党 67  

野党

 
310
自由民主党(FDP) 80
ドイツのための選択肢(AID) 92
左派党 69
無所属 2
合計 709   計 709
過半数は355

2018/3/17 メルケル首相 再選 

当時、社会民主党では1/3が連立に反対していた。今回、党首が変ると、連立から離脱する動きも出てくると思われ、その場合はメルケル政権の崩壊や議会の解散・総選挙につながる可能性がある。

 

ドイツで2018年10月14日に実施された保守の牙城のバイエルン州(英語ではBavaria州)の議会選挙で、メルケル政権を支える保守与党、キリスト教社会同盟(CSU)が歴史的な大敗を喫した。

CSUの得票率は前回2013年の47.7%から37.7%に下がり、68年ぶりの低さとなった。連邦議会下院で連立を組むドイツ社会民主党も惨敗し、両党を合わせても過半数を下回る。

逆に緑の党と、極右政党ドイツのための選択肢(AfD)が大躍進した。

2018/10/17 独与党、バイエルン州で大敗 メルケル政権に打撃


今後、総選挙となった場合、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が政権を失う可能性もある。


2019/6/4 キャメロンLNG、出荷開始 

千代田化工建設は6月3日、第1系列からLNGの出荷を開始したと発表した。

トランプ大統領はツイッターで自慢した。(2週間前に現場を訪問している。)

BIG NEWS! As I promised two weeks ago, the first shipment of LNG has just left the Cameron LNG Export Facility in Louisiana.
Not only have thousands of JOBS been created in USA, we’re shipping freedom and opportunity abroad!


付記

2020年1月17日 第2系列商業生産開始

2020年8月10日 第3系列商業生産開始  合計能力 年産1,350万トン(450万トン x 3系列)

ーーー

三菱商事は5月14日、キャメロンLNGプロジェクトが現地時間5月14日にLNGの生産を開始したと発表した。

第1系列は4月15日に試運転の最終段階で天然ガスの充填が開始された。

2018/11/14 千代田化工建設、米国LNG計画で850億円の追加工事 

2019/5/9 千代田化工建設、大幅赤字に、三菱商事が支援へ

トランプ大統領は同日、施設を訪問し演説を行った。

大統領は自身が進めてきた税制改革、新たな液化施設建設およびパイプライン敷設に対して許可を出し続けてきたことが、米国がエネルギー面で輸入に依存しない独立的な立場をつくり上げ、雇用を創出したことを強調し、温暖化対策に基づく化石エネルギーの削減は雇用を奪うもので、とりわけオバマ政権下で進められたグリーン・ニューディール政策について否定的な見解を述べた。

日本企業がこのプロジェクトに参加していることは、大統領が登壇する直前にSempra Energy のCEOから紹介された。

同日の大統領のツイッター:

With incredible grit, skill, and pride, the 7,000 workers here at Sempra Energy are helping lead the American Energy Revolution. They are not only making our nation WEALTHIER but they are making America SAFER by building a future of American Energy INDEPENDENCE!

 


2019/6/5    癌ゲノム医療に保険適用決定

厚生労働省は5月29日、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)の総会を開き、癌患者の遺伝情報から最適な治療薬を選ぶ「 癌ゲノム医療」への保険適用を初めて決めた。

癌ゲノム医療とは、癌の組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ(癌遺伝子パネル検査)、遺伝子変異を明らかにすることにより、一人一人の体質や病状に合わせて治療などを行う医療。

イレッサは、当初、全ての手術不能非小細胞肺癌を対象に保険適用が承認された。
その後、
EGFR遺伝子の異常が有る非小細胞肺癌のみに有効であることが証明され、効能効果が変更された。


今回保険診療の対象になるのは「癌遺伝子パネル検査」で、中外製薬とシスメックスがそれぞれ保険適用の希望を申請していた。

@中外製薬 FoundationOne  CDx 癌ゲノムプロファイル

固形癌患者の腫瘍組織検体から抽出したゲノムDNAの遺伝子変異情報を解析するプログラム

主たる機能は、包括的なゲノムプロファイルの提供、すなわち、324のがん関連遺伝子の変異等(塩基置換、挿入/欠失、コピー数異常、再編成)の検出結果、マイクロサテライト不安定性の判定結果、及びTumor Mutational Burdenスコアの情報提供にある。

Aシスメックス OncoGuide NCC オンコパネルシステム (国立癌研究センターとシスメックスが開発)

固形がん患者由来の腫瘍組織及び同一患者由来の非腫瘍細胞成分より抽出されたゲノムDNA を検体として用い、解析プログラムにより、腫瘍組織由来の塩基配列と非腫瘍細胞成分由来の塩基配列とのペア解析を行うことにより、遺伝子異常(変異 SNV、InDel、増幅: CNA、融合: Fusion)の一括検出、及び合計変異出現率(TMB:腫瘍変異負荷)の算出を行なうことで、腫瘍組織の包括的なゲノムプロファイルを取得する。


癌治療では癌の遺伝子変異をもとに薬を選ぶ。これまでは一度の検査で少数の遺伝子しか調べられなかったが、 今回のものはいずれも一度に100種類以上の遺伝子を調べることができる。最適な薬が早く見つかる可能性が高くなる。

厚労省が昨年12月に国内販売を承認した。

薬を選ぶまでの医療費は56万円だが、保険適用で患者の自己負担は1割か3割で済む。高額療養費制度を利用すれば、負担はさらに抑えられる。

対象は固形癌(血液癌以外の癌)のうち、手術や抗癌剤での治療が効かなかった人や、治療法がない希少癌や小児癌などの患者で、ピーク時には年に計約2万6000人が利用し、販売額は年計150億円規模と見込まれる。

 


2019/6/6 中国、米国への反撃開始 

トランプ大統領の攻撃に対する中国の反撃が始まった。

1. 制裁関税

米政権は5月10日午前0時1分、2千億ドル分の中国製品に課す制裁関税を現在の10%から25%に引き上げた。

これを受け、中国は6月1日に 米国からの輸入品に対する税率を引き上げた。

  • 2493品目について関税率を10%から25%に引き上げ。一部機械部品や天然ガス、スキンケア製品など
  • 1078品目については10%から20%に引き上げ。一部機械、光学機器など
  • 974品目については5%から10%に引き上げ。板ガラス、レーザー、制御弁など
  • 595品目については5%の税率を維持。自動車部品は引き続き対象外

これについて、中国国務院関税税則委員会は5月13日に公告を発表している。

2019年6月1日午前0時より、すでに追加関税が実施されている600億ドル分相当のリストに掲載された米国製品の一部について、関税率を25%、20%、10%のいずれかに引き上げることを決定した。
すでに5%の関税が上乗せされている品目については、引き続き5%を上乗せする。

中国が調整を行い追加関税措置を執るのは、米国の一国主義、保護貿易主義への対応だ。中国は、米国が二国間経済貿易交渉の正しい軌道に戻り、中国とともに努力し、中国と向き合って進み、相互尊重を基礎とした互恵ウィンウィンの合意への到達を目指すことを願う。

 2019/5/15    米中、関税引き上げ合戦

トランプ大統領はCameron LNGの出荷開始を祝したが、中国を主たる輸出先の一つとみなしていたLNGの関税も25%に上げられた。

米側は残りの3000億ドル分についても追加関税を課すべく、準備をしている。

しかし、中国の米国からの輸入は残り少しであり、追加関税での報復は出来ない。後述のレアアースや、中国政府が大量に保有する米国債などが噂の対象となっている。

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2.  「信頼できない企業リスト」

中国商務部は5月31日、中国企業の利益を損ねる「信頼できない外国企業等」(不可靠實體のリストを作成する方針を 明らかにした。

現在、世界の経済発展は、不確定要素、不安定要素が増え、一国主義、保護貿易主義が台頭し、多国間貿易体制は深刻な危機に直面しており、正常な国際貿易活動が妨害を受けている。

一部の外国の企業は、非商業的な目的で、正常な市場の規則や契約の精神に反して、中国企業に対して、封じ込み、供給停止及びその他の差別的措置を講じて、中国企業の正当な権益を損ない、中国の国家安全や利益を脅かしているほか、世界の産業チェーン、サプライチェーンの安全をも脅かし、世界経済に打撃をもたらし、関連の企業や消費者の利益を損なっている。

国際貿易規則や多国間貿易体制を守り、一国主義、保護貿易主義に反対し、中国の国家安全、社会の公共利益、企業の合法的権益を守るために、中国政府は「信頼できな い企業リスト」を構築することにした。

非商業目的で、中国の企業等に対して、封じ込みや供給停止またはその他の差別的措置を講じたり、中国企業や関連の産業に対して実質的な損害を与えたり、中国の国家安全を脅かしたり、脅かす可能性のある外国法人、その他の組織、または個人をリストに盛り込む。

リストに載った企業などに対しては必要な措置を取る。詳細は近く発表する。

れについて、商務部安全・管制局は6月1日、「中国政府は、企業等をリストに加えるかどうか決定する際に、4つの要素から総合的に判断する」とした。

(1)企業等が中国の企業等に対する封じ込め、供給停止、およびその他の差別的な措置を講じた行為があったか。
(2)その企業等の行為は非商業的な目的に基づくものか。また、市場規則と契約の精神に反しているか。
(3)その企業等の行為が、中国企業または関連産業に実質的な損害をもたらしているか。
(4)その企業等の行為が中国の国家安全に脅威または潜在的な脅威をもたらしているか。

リストに加えられた企業や個人であっても、リストへの追加後に正当な調査の手続きが実施され、企業や個人には弁明の権利も与えられる。

中国の報道では、リスト作成は5つの意味を持つ。

1) 警告:リストに載った企業は、中国との関係が制限される。

2) 米国への対抗:

米国はHuaweiを対象に、@米国の安全保障にとってリスクのある外国企業の通信機器を米企業が使うことを禁止、AHuaweiに対する米国製ハイテク部品などの事実上の禁輸措置を取った。
米国は他の中国企業も狙っている。これを放置すれば、好き勝手にやられる。米国への対抗策である。
    
    2019/5/16    米国、Huawei を対象に2施策

3) 中国企業の保護

4) 第三国企業への警告:米中企業が自国の法律に従うのはやむをえないがとし、関係ない企業が追随するのを警告 
   これについては、英国企業で日本企業(ソフトバンク)子会社のARMを挙げている。自国の法律で規制されていないのに、何故Huaweiを差別するのかとしている。

5) 放置すれば、外国の企業が中国から全て出てしまう。


中国商務部の報道官は前日の記者会見で、「中国は米アップル社に何らかの規制を加えて、米国が華為技術(Huawei)を攻撃したことへの報復手段とするのか」との 質問に対し、次のように答えた。

中国は、在中国のすべての外資系企業の合法的権利は中国政府によって保護されると繰り返し強調してきた 。中国は揺るぎなく改革を深化させ、開放を拡大し、さまざまなタイプの企業のために安定した、公平で、透明な、予測可能な世界でも一流のビジネス環境を創出するよう引き続き努力していく 。

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3. 「中米経済貿易協議に関する中国側の立場」白書

中国国務院新聞弁公室は6月2日、中米経済貿易協議の基本状況を全面的に紹介し、中国の中米経済貿易協議に対する政策的な立場を明らかにすることを目的とした「中米経済貿易協議に関する中国側の立場」白書を発表した。

中米経済貿易貿易協議の基本的な状況を包括的に紹介し、中米経済貿易貿易協議に対する中国の政策スタンスを明確にするために、中国政府はこの白書を発表した としている。

内容は次の通り。

中米経済貿易関係は、両国間の外交関係の確立、 両国間の経済貿易関係の発展、協力分野の拡大、そして協力のレベルの継続的改善により、両国にとって有益であるだけでなく、世界全体に利益をもたらす相互利益関係が形成される。

発展段階と経済システムの段階が異なるため、両国は必然的に経済協力と貿易協力に違いと摩擦を抱くことになる。
中米経済貿易関係の発展の過程で、多くのねじれや変化、困難があったが、合理的かつ協力的なやり方で、両国は対話と協議を通して問題を解決し、矛盾を解決し、違いを狭め 、より成熟した関係をつくってきた。

現在の米国政府が2017年に就任して以来、関税の適用やその他の手段を脅かし、しばしば主要な貿易相手国との経済的および貿易的摩擦を引き起こしてい る。

2018年3月以降、米国政府が一方的に開始した中米経済と貿易の摩擦に対応して、中国は国と国民の利益を断固として擁護するために効果的な措置を講じなければな らなかった。
同時に、中国は対話と協議を通じて紛争を解決し、米国との経済および貿易に関する複数回の協議を行い、二国間の経済および貿易関係の安定化に努めるという基本的見地を常に遵守してきた。

中国の態度は一貫して明確である。中米の協力は有益であり、戦いは害を及ぼ す。協力は双方にとって唯一の正しい選択だ。

両国間の経済的・貿易的差異および摩擦に関して、中国は相互に有益で双方にとって好都合な合意を解決し促進するために協力的アプローチを採用することをいとわない。
しかし、中国は戦うことを厭わず、戦うことを恐れず、そして必要ならば戦わなければな らない。


米国の財務省とUSTRは6月3日、これについて共同声明を発表した。

米中貿易交渉の性質と歴史を誤って伝え、責任のなすり合いに持ち込もうとしていることに失望した。

中国の交渉担当者は概ね合意がまとまっていた重要項目を「撤回」した。重要項目には合意履行に関する規定が含まれていた。

われわれが中国側からの詳細かつ履行可能な合意を要求するのは、中国の主権に対する脅威には全くなっていない。むしろ、議論された問題は通商協定に共通するもので、維持することのできない根強い貿易赤字につながっているシステミックな問題への対処に必要だ。

(報道によると、米国側は中国に法律の制定を要求し、内政干渉という中国国内の反発で撤回したという。中国側は調印して初めて「合意」であり、それまでのやり取りに過ぎず、修正はあり得ることとしている。)

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4.レアアース

中国商務部の報道官は5月30日の記者会見で、「中国はレアアースの対米輸出の禁止を検討しているのか」との質問に対し、 以下のように答えた。

中国は世界最大のレアアース材料供給国として、これまでずっと開放、協同、共有の方針を堅持しながらレアアース産業の発展を推進してきた。国内需要へのサービス提供を基礎とした上で、中国は世界各国のレアアース資源に対する正当なニーズに対応したいと考えている 。

しかしながら、いかなる国でも中国から輸出されたレアアースを使用して製造した製品で、中国の発展を押さえ込み、圧力をかけようとするなら、感情的にも理屈的にも受け入れることはできない。

ケ小平元国家主席はかつて、「中東には石油があり、中国にはレアアースがある」(中東有石油、中国有稀土)と述べた。

習近平国家主席は5月20日にレアアースの産地にある江西省の会社を訪れ「レアアースは重要な戦略資源だ」と強調した。

国家発展改革委員会は6月4日、レアアースの専門家と会合を開き、専門家は生産から加工、輸出までの全工程を審査するシステムを設けて輸出管理を強化すべきだと提言し、委員会は提言を盛り込んだ措置を早期に打ち出す方針を示したと報道されている。

中国はレアアースの世界の生産の7割を占め、米国は輸入の8割を中国に依存する。

米商務省はこのほどレアアースに関する報告書を発表した。トランプ大統領が2017年12月に出した大統領令を受けて作成したもの

A Federal Strategy to Ensure Secure and Reliable Supplies of Critical Minerals

ウラン、チタン、レアアース各種を含む鉱物35種類を「米経済と国家安全保障にとって決定的に重要」な鉱物に指定。
現代生活に不可欠なもので、米国への供給が途絶えないよう、連邦政府は前例のない措置を講じる。

「同盟諸国との投資・貿易」を通じた供給改善や、連邦政府所有地など国内での採掘許可の円滑化を含めた措置を勧告。さらに、国内での鉱物探査を促進するため、地図
作成やデータ収集の改善計画も挙げている。

下記について大統領に報告することを求めている。

(i) “a strategy to reduce the Nation’s reliance on critical minerals;
(ii) an assessment of progress toward developing critical minerals recycling and reprocessing technologies, and technological alternatives to critical minerals;
(iii) options for accessing and developing critical minerals through investment and trade with our allies and partners;
(iv) a plan to improve the topographic, geologic, and geophysical mapping of the United States and make the resulting data and metadata electronically accessible, to the extent permitted by law and subject to appropriate limitations for purposes of privacy and security, to support private sector mineral exploration of critical minerals; and
(v) recommendations to streamline permitting and review processes related to developing leases; enhancing access to critical mineral resources; and increasing discovery, production, and domestic refining of critical minerals.”


但し、レアアースを貿易紛争の手段として使うのは問題である。

2010〜11年に領土問題で日中関係が悪化した際、中国は日本に対するレアアースの輸出を制限した。日本企業は調達難に見舞われが、日本企業の「脱レアアース」技術の開発が進んだことにより、需要が急減した。

「世界が1年で必要なレアアースの量は12万トンに過ぎず、非常に少ない量であり、多くの国 が低価格で買い入れて大量に備蓄している」と指摘する学者がいる。


2019/6/7 トランプ大統領の英国訪問  

メイ首相は5月24日、6月7日に辞任すると表明した。

直ぐに辞任しなかった理由は、トランプ米大統領の訪英(6月3〜5日)と下院補欠選挙(6月6日)があるためである。

これを終え、6月7日に保守党党首を辞任する。保守党はこの後、新党首を選び、新党首が首相となる。

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トランプ大統領は6月3日から5日まで、国賓として英国を訪問した。訪英前に英国では日本での歓迎の模様が詳しく報じられた。

到着前から、いろいろ物議を醸した。

ロンドンのSadiq Khan市長がトランプ大統領について「丁重に迎えるべきではない」と述べたのに対し、「完全な負け犬」とツイートした。

Sadiq Khan, who by all accounts has done a terrible job as Mayor of London, has been foolishly “nasty” to the visiting President of the United States, by far the most important ally of the United Kingdom.
He is a stone cold loser who should focus on crime in London, not me.
Kahn reminds me very much of our very dumb and incompetent Mayor of NYC, de Blasio, who has also done a terrible job - only half his height.
In any event, I look forward to being a great friend to the United Kingdom, and am looking very much forward to my visit. Landing now!

訪英を前に、英国のBrexit 党首のNigel Farage氏と、離脱強硬派で保守党党首選に立候補するBoris Johnson前外相を「友人」と呼び、両氏を大いに尊敬していると述べた。

記者団とのやり取りのなかで、訪英中に二人に会うのかと聞かれ、「多分ね。二人は友人だ。いい奴だ。面白い奴だ」と述べた。
欧州議会選でのBrexit党の勝利に触れ、「Nigel の大勝利だ。ゼロだったのが32%も取った。よくやった」と付け加えた。
Johnsonについては、「友人だ。しかし党首選での応援はしない。私のすることではない。しかし尊敬しているよ」とした。

元女優で米国出身のメーガン妃は、ヘンリー王子と婚約する以前の2016年の米大統領選では民主党のヒラリー・クリントン候補を支持し、トランプ大統領について「女性差別主義者」などと語 り、もしトランプが大統領になれば、カナダに移住すると述べた。
トランプ大統領は英サン紙のインタビューでメーガン妃について「嫌な人だ(“nasty”)」とコメントした。

記事が掲載された翌日には「嫌な人だとは言ったことはない。フェイクニュース・メディアによるでっち上げだ」などと自らの発言を否定したが、サン紙はインタビューの録音データを公開してトランプ大統領のうそが暴かれた。

5月に第1子アーチーを出産したメーガン妃は「産休のため」として晩さん会には出席しなかった。

6月3日にバッキンガム宮殿で女王と会見し、同日夜、バッキンガム宮殿での晩さん会に出席した。

王室の歓迎に感謝のツイッター、Brexit後の米英FTAに期待を示した。

Could not have been treated more warmly in the United Kingdom by the Royal Family or the people.
Our relationship has never been better, and I see a very big Trade Deal down the road.
“This trip has been an incredible success for the President.” (Laura Ingrahamの発言を引用)

6月4日にメイ首相との首脳会談を行った。

トランプ米大統領はBrexit後の英国に「とてつもない」貿易協定を提供すると約束した。

英国の国民皆医療保険制度の「国民保健サービス(NHS)も含めて「あらゆることが交渉の対象になる」と述べたが、会見後のインタビューで大統領はNHSについては取り消した。「誰かに質問されて、あらゆることが交渉の対象だと答えた。その通りなので。けれどもNHSは貿易の一部だとは思わない。それは貿易じゃない」と述べた。

会談後の記者会見での発言内容:

  • Brexit交渉を現段階まで進めたメイ首相は「とても良くやった」し、「たぶん彼女の方が僕より交渉はうまい」
  • Brexitは「実現するし、たぶん実現すべきだ」。なぜならイギリスは「偉大な、偉大な国で、自分たちならではのアイデンティティーを求めているので」
     
  • Brexit後に米英が締結をめざすFTAについて、「途方もない可能性がある。(両国の貿易が)今の2〜3倍になる可能性がある」
     
  • 米英両国は、「イランが決して核兵器を開発せず、テロ活動の支援と関与を確実にやめるよう」強い意志で関わっていく。
  • 米英は中国の通信機器大手 Huaweiへの姿勢で食い違っているが、両政府間の情報共有手段を保全するため合意に到達するだろう。
     
  • 保守党党首選については、ボリス・ジョンソン前外相は「よくやるだろう」し、ジェレミー・ハント外相も同様だが、自分はマイケル・ゴーヴ環境相のことは「知らない」。

労働党のコービン党首から会談の申し出があったが、断ったことを明らかにし、「僕は物事を実現する人は好きで尊敬するが、それと同じくらい、批判ばかりする人は本当に嫌いだ」と述べた。

一方、滞在先のアメリカ大使公邸で、ブレグジット党のナイジェル・ファラージ党首と会談した。以前から交流があり、訪英直前に「ファラージ氏をBrexit交渉の席に着かせるべきだ 」と発言している。


トランプ米大統領に対し、市民らが大規模な抗議デモを行った。ロンドンでは4日も雨の中、数千人が参加した。

大統領はツイッターで歓迎の群衆だとしている。

I kept hearing that there would be “massive” rallies against me in the UK, but it was quite the opposite.
The big crowds, which the Corrupt Media hates to show, were those that gathered in support of the USA and me. They were big & enthusiastic as opposed to the organized flops!

最終日の6月5日は南部ポーツマスでノルマンディー上陸作戦の75周年記念式典(D-Day 75)に参加 した。エリザベス女王や各国首脳(ドイツのメルケル首相を含む)が出席した。

ツイッター:

As we approach the 75th Anniversary of D-Day, we proudly commemorate those heroic and honorable patriots who gave their all for the cause of freedom during some of history’s darkest hours. #DDay75

 

 


2019/6/7 モザンビークLNG 計画スタート 

千代田化工建設は6月6日、イタリアSaipem S.p.A.及び 米国McDermott International Inc.と 共同で、モザンビーク共和国におけるLNG計画(Anadarkoが主導するモザンビーク・オフショア・エリア1 の共同事業者が計画)EPC(設計・調達・建設工事) 業務を受注したと発表した。

千代田化工は米国のCameron LNGなどで巨額の赤字を計上しており、本年2月に受注した米国のGolden Pass LNG輸出基地の設計・調達・建設業務では千代田の負うスコープは基本的に設計と調達に限定した

今回も、Saipem社およびMcDermott社が実施する設計のレビューを主とする技術的なサポート業務に限っている。

付記 三井物産は6月19日、最終投資決断を行ったと発表した。

ーーー

モザンビークとタンザニアの国境を流れるRovuma川の河口と沖合に世界最大規模のガス田が発見され、開発が始まった。

モザンビークの海底ガス田の開発は6区に分けて行われている。

全体図   Area 1

三井物産は2008年2月、米国大手独立系石油・ガス開発会社 Anadarko Petroleumがモザンビークに保有する石油・天然ガス探鉱鉱区(Area 1)の権益の一部を取得することで同社と合意した。

権益保有者は以下の通りであったが、その後異動があった。

  当初 当時 現在  
Anadarko (オペレーター) 76.5% 36.5% 26.5% ONGCに10% 譲渡
Mitsui E&P 20% 20%  
モザンビーク国営石油会社
ENH Rovuma Área
15% 15% 15%  
ONGC Videsh
  Oil and Natural Gas Corp (インド)
    10%
(+6%)
Anadarkoより
(Beas Rovuma)
Beas Rovuma Energy Mozambique
(ONGC and state-run Oil India )
    10% Videocon より
(ONGC60%、Oil India 40%)
Oil India(インド)     (4%) (Beas Rovuma)
Videocon (インド)   10% Beas Rovumaへ
BPRL Ventures Mozambique(インド)Bharat PetroResources Limited (BPRL) 10% 10%  
Artumas Group(現 Wentworth Resources) 8.5%    
PTTEP Mozambique Area 1
PTT Exploration & Production (タイ)
  8.5% 8.5%  


この鉱区の最大の権益を持ち、オペレーターを務めるAnadarko Petroleumは2012年12月、隣接するArea 4のオペレーターのEni との間で共同開発の覚書を締結したと発表した。両グループは天然ガスの開発は連系はしつつも個別に行なうが、LNG生産設備建設は共同で行う。

  概要
Area 1 海底天然ガス田 推定可採資源量
 17〜30兆立方フィート超
LNGプラント LNG年産2,000万トン
   当初LNG年産500万トン×2系列
   追加2系列
  (Area 4との合計)
生産開始 2018年(予定)

2013/1/10 モザンビークの天然ガス開発 

ーーー

当初、2018年にも生産を開始する予定であったLNGプラントはその後も着工されていなかった。

このたび、Anadarkoは着工を決定した。

Anadarkoは5月8日 次の発表を行った。

資金の目途がつき、販売先が確保され、その他も順調である。モザンビーク大統領とAnadarkoのCEOは、 Mozambique LNG project の最終投資決定を6月18日に発表することとなった。

今回千代田化工等が受託した内容は、LNG設備 2系列 合計能力1288万トンと、用役、インフラ設備となっている。

当初計画では500万トンx2系列とArea 4 分の追加2系列となっていた。今回は、Area 4 分は切り離したとみられる。更に1系列分の能力を500万トンから644万トンに増やしている。

ーーー

 

Anadarkoは2019年2月5日、2つのLNG売買契約を締結したと発表した。

1つ目の売買契約は、2018年6月の基本合意に基づく東京ガスと英国ガス大手 Centricaの共同調達で、LNG生産開始から2040年初頭まで年間260万トンのLNGを供給する。

2つ目の売買契約は、Shellの子会社との間で締結された。13年間にわたり、年間200万トンのLNGが売買されることになる

今回の発表に先立ち、2月1日に、中国海洋石油集団(CNOOC)と、13年間にわたり年間150万トンのLNGを供給する契約を締結している。

2018年2月にはフランス電力会社EDFと年間120万トンを、2018年10月に東北電力とも年間28万トンの売買契約を締結している。

LNG長期契約は年間750万トンに積み上がり、残りのLNG売買契約も近い将来に見込まれているとしている。

 

 

 


 

2019/6/8 中国、独禁法違反で米フォードの合弁会社に制裁金 

中国の国家市場監督管理総局( State Administration for Market Regulation :SAMR) は6月4日、Ford Motorの中国合弁会社の長安フォード(Chongqing Changan Automobile:Changan Ford Motor )が価格つり上げにより独占禁止法に違反したとして、162.8 百万人民元(約2360万ドル)の制裁金支払いを命じた。

2013年以降、重慶市での自動車販売で「最低再販売価格を設定していた」と指摘し、「販売業者の自主的な価格設定を阻み、公平な競争と正当な消費者の利益を害した」と非難した。


従来、中国の独禁法は下記の体制で実施されてきた。

反壟断委員会(国務院直属) 独占禁止政策の調査、市場動向のモニター、執行機関間の政策の調整
実務
機関
発展改革委員会価格調査局 価格独占行為の調査・処分
商務部反独占局 事業者結合行為
国家工商行政管理総局
(工商総局)
独占協定、市場支配的地位の濫用、行政権力を濫用した競争の排除・制限(価格独占を除く)

2018年3月、中国の「構造改革」の一環として、独禁法関連の 各機能と、品質検験権益総局(輸出入品質検査検疫を除く)、食品薬品監督管理総局の機能が新設の国家市場監督管理総局に移管された。国務院直属機構である。

長安フォードはFord と長安汽車(Changan Auto)の50/50JV。

罰金額はJVの昨年の重慶市での売上の4%に相当する。

長安フォードは当局の決定を尊重し、ディーラーとともに対策を講じたとしている。「今後も自由でフェアな競争環境に貢献すべく努める」としている。

業界関係者は、中国では各社は自社製品の最終価格を守るため努力しており、最低価格設定は珍しくはないとしている。


今回の摘発について、米国と中国の貿易紛争に絡める筋が多い。

昨年5月にはFord とLincoln車が税関で異常に時間がかかったことがあった。

既報の通り、

中国商務部は5月31日、中国企業の利益を損ねる「信頼できない外国企業等」(不可靠實體のリストを作成する方針を明らかにした。

中国当局は、米物流大手 Fedex が華為技術(Huawei)の小包を無断で米国へ転送したことについて「顧客の合法的な権利と利益を著しく損ね、中国の法律と規制に違反した」とする声明を出し、捜査に乗り出した。Fedexは誤配だったと説明し、謝罪している。


2019/6/8 英国の下院補欠選挙 

6月6日に下院補欠選挙が行われ た。

多数の候補が乱立し、欧州議会選挙で躍進したNigel FarageのBrexit党の候補が初の下院議員になるか(Brexit党は上院・下院に議席無し)と見られたが、結果は僅差で労働党候補が当選した。保守党候補は3位になった。

補欠選挙が終わるのを見届け、メイ首相は6月7日、与党・保守党の党首から退いた。(後任党首が決まるまで、首相の地位に留まる。)

 

2月17日にウェールズを選挙区とするベテラン労働党議員が死去したが、この後任については4月5日の補欠選挙で労働党候補が当選し、議席を維持している。

今回は議員の死亡によるものではなく、リコール制度で免職となった議員の補欠選挙である。

英国では2015年3月にリコール法が発効した。

議員が懲役刑に科せられたか、または最低10日間に渡って議会から停職処分を受けた際に、有権者はリコール請求を行なうことができる。

これらの場合、リコール請求のための署名が集められ、10%を越える有権者が署名すれば、議員の欠員が正式に公示され、次に補欠選挙がおこなわれる。

リコール対象となったのはイングランド東部のPeterborough 選挙区の労働党女性下院議員Fiona Onasanya である。

2017年7月に制限速度が30マイルのところで41マイルで運転をしていて捕まった。運転しながらスマホを操作していたことも分かった。

しかし、警察に対し、スピード違反をしていないと主張した。

2018年の裁判で、警察に嘘をついてスピード違反を免れようとした司法妨害の罪で有罪とされた。
控訴したが却下され、2019年1月29日に懲役3か月となった。

労働党は2019年1月に、前年12月に遡り、党から除名した。

選挙区でリコール請求が行われ、必要な10%を超える27.6%が署名し、成立した。下院は5月1日に議席が空席になったことを発表、6月6日の補欠選挙が公示された。


2019/6/10 米国、対メキシコの追加関税見送り、メキシコ政府と対策で合意 

トランプ大統領は6月7日、メキシコからの全輸入品に対する5%の関税発動を「無期限」で見送るとツイッターで発表した。メキシコが米国への不法移民流入を防ぐための対策を取ることで合意した。

詳細は国務省が発表するとしている。

I am pleased to inform you that The United States of America has reached a signed agreement with Mexico.

The Tariffs scheduled to be implemented by the U.S. on Monday, against Mexico, are hereby indefinitely suspended.
Mexico, in turn, has agreed to take strong measures to stem the tide of Migration through Mexico, and to our Southern Border.

This is being done to greatly reduce, or eliminate, Illegal Immigration coming from Mexico and into the United States.

Details of the agreement will be released shortly by the State Department. Thank you!

ーーー

トランプ米大統領は5月30日、メキシコが米国への不法移民流入を止めるまで同国からの輸入品に関税を課すと表明した。

米国を脅かす非常事態に対応するため、大統領に商業活動を規制する権限を与える「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づき、関税を課するもので、メキシコが対策を取るまで、下記の通り、順次税率を引き上げる。

6月10日から 5%、7月1日に10%、8月1日に15%、9月1日に20%、10月1日に25%とし、問題解決までこれを維持する。

米政権、メキシコからの全輸入品に関税、移民問題解決まで毎月税率引き上げ

これについては、与党の共和党の議員も適用阻止を求め、メキシコ政府との交渉で解決策を見いだすようここ数日間、トランプ米政権に要請してきた。

共和党上院議員の大半は国境対策強化を強いる手段として関税を使うことに反対しており、大統領としての法的権限の選択を疑問視し、関税発動の阻止へ議会で行動することを検討している。

しかしトランプ大統領は6月4日夜のツイッターで、6月10日にメキシコからの輸入品すべてに5%の関税賦課を始めるとの警告は「はったりではない」と言明。面目を保つために安易に合意をまとめることには一切関心がないと明確にした。

Can you imagine Cryin’ Chuck Schumer (民主党上院総務)saying out loud, for all to hear, that I am bluffing with respect to putting Tariffs on Mexico.

What a Creep. He would rather have our Country fail with drugs & Immigration than give Republicans a win. But he gave Mexico bad advice, no bluff!

ーーー

メキシコのエブラルド外相は6月5日〜6日に関税措置の撤回に向けてペンス米副大統領、ポンペオ国務長官らと会談した。

この結果、今回の合意に達した。

国務省の発表(U.S.-Mexico Joint Declaration は次の通り。

中米からメキシコを経由して米国に入る移住者の急増で、両国は、人道的な緊急事態と安全保障の問題を早期に解決する必要性を認識する。両国は直ちに共同で永続的な解決を目指し協力する。

1) メキシコ側

移住者を抑えるため前例のない手段を取る。国家警備隊を国境を中心に全国に配置する。移住を斡旋、アレンジする組織や違法な資金・輸送ネットワークを潰すべく決定的手段を取る。
メキシコと米国は情報交換や共同行動など、相互協力を強化する。

2)  Migrant Protection Protocols(トランプ政権が2019年1月より開始した移民政策 )

「メキシコから米国に到着した外国人で、明らかに許可されない者と退去手続き中の者」は、裁判所による手続きの間、メキシコに送還し、待機させるというもの。
トランプ大統領は2018年12月の発表時「メキシコ残留」政策と呼んでいた。

2019年1月にカリフォルニア州サン・イーサイドロの難民申請者から適用を開始し、その後、カレクシコやエルパソにエリアを拡大していた。

米国は直ちにMigrant Protection Protocolsを国境全体で実施する。
メキシコとの国境を越えて難民申請をするものは直ちにメキシコに戻され、そこで申請結果を待つ。

メキシコは、それらのものが申請を待つ間、メキシコに入るのを人道的見地から認める。職やヘルスケア、教育の面倒を見る。

米国は出来る限り早く申請の結論を出す。

3) これらの対策が効果が出ない場合、再度協議し、90日以内に結論を出す。

4) 地域戦略

メキシコのロペスオブラドール大統領は、移民の北上を抑えるため、貧困に悩むメキシコ南部やホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの開発支援でメキシコと協力するようトランプ米大統領に働き掛けてきた。

2018年12月18日に両国はこの必要性を認める声明を出し、米国は同地域の開発に数十億ドル規模の投資を行うこととした。

今回、両国はこの声明を確認し、メキシコがこの目的達成のためにエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスとともに行うなうComprehensive Development Plan を歓迎する。

ーーー

トランプ大統領の追加関税を使った脅迫外交がひとまず成功した。

しかし、米国が密入国の流入を阻止できないのをメキシコが阻止できるとは考えにくい。実際に流入が減らなかった場合に再び問題が再燃する恐れがある。

 

付記

メキシコのエブラルド外相は6月10日、米と合意した不法移民対策が45日間で中間評価されることを明らかにした。米側に不十分と判断されれば追加措置を取り、最終的に90日間で追加関税発動の是非を含めた結論が出される。


2019/6/11 金融庁報告書 『高齢社会における資産形成・管理』

金融庁は6月3日、金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理を発表した。

高齢夫婦無職世帯(夫が65歳以上、妻が60歳以上の夫婦)が30年間、ほぼ年金に頼る生活を送った場合、毎月の不足額の平均は約5万円で、まだ20〜30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円〜2,000万円になる」と指摘し ている。

公的年金を老後の収入の柱とする一方、年金が減る可能性にも触れ(「公的の水準については、今後調整されていくことが見込まれている」)、若いうちから投資などをして自ら資産形成するよう促している。

( )部分は原案では「今後実質的に低下」となっていたとのこと。他部門からのクレームで「官庁的表現」に変更した。

 

自公政権は2004年の年金制度改革関連法成立時に「100年安心の年金」をアピールした経緯があり、 非難の声がおこった。

付記 年金「100年安心」は、与党が2004年の年金法改正時において喧伝してきたことで、その意味は、100年後であっても現役の平均手取り収入の50%の年金給付水準を確保するというもの。

野党は6日、金融庁の担当者らから意見を聴取した。金融審議会は投資信託などの運用による資産形成が重要だと指摘したが、野党議員は「政府が自己責任の投資を促すのはおかしい」と批判した。

麻生金融担当相は7日の閣議後会見で、一部の表現が「不適切だ」と述べた。 「公的年金は老後の生活設計の柱。持続可能な制度を作っている」と指摘。今回の金融庁の報告書は、「さらに豊かな老後を送るために資産運用の重要性」を説いたものだと説明した。

麻生氏は6月10日の国会の質疑で、「冒頭部分は読んだが、全体は読んでいない」と答えた。

ーーー

付記

麻生太郎金融担当相は6月11日の閣議後の記者会見で、金融庁の報告書について、「正式な報告書としては受け取らない」と述べ、受理しない考えを明らかにした。

報告書は金融審議会(首相の諮問機関)がまとめたもので、金融審議会の総会を経て麻生金融担当相に提出される予定だったが、事実上の撤回に追い込まれた。審議会の報告書が受理されないのは異例の事態。

「公的年金制度が崩壊するかのように受け止められたが、高齢者の生活は多様で、年金で足りる人もいればそうでない人もいる。公的年金は老後の生活をある程度賄うことができるという政治スタンスは変わらない」と強調し、試算について「誤解を招く」と指摘した。

ーーー


報告書の目次は下記の通り。

1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化
(1) 人口動態等:長寿化、単身世帯等の増加、認知症の人の増加
(2) 収入・支出の状況
(3) 金融資産の保有状況
(4) 金融環境に対する意識

2.基本的な視点及び考え方
(1) 長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要
(2) ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々
(3) 公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動
(4) 認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる

3.考えられる対応
(1) 個々人にとっての資産の形成・管理での心構え
(2) 金融サービスのあり方
(3) 環境整備:
    資産形成・資産承継制度の充実、金融リテラシーの向上、アドバイザーの充実、高齢顧客保護の在り方

問題となっている「毎月の不足額の平均は約5万円」は総務省家計調査(2017年)をそのまま使っている。

今回報告の図が見にくいため、元資料(内容は全く同じ)の図を使うと下記の通り。


 高齢夫婦無職世帯(
夫65歳以上,妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の家計収支 −2017年−
  

この部分の結論

老後の生活においては年金などの収入で足らざる部分は、当然保有する金融資産から取り崩していくこととなる。65歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯で2,252万円となっている。 」

「 収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合>には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる。」

支出については、特別な支出(例えば老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用など)を含んでいないことに留意が必要である。 」

早い時期から生涯の老後のライフ・マネープランを検討し、老後の資産取崩しなどの具体的なシミュレーションを行っていくことが重要であるといえる。 」

「 なお、米国では75以上の高齢世帯の金融資産はここ20年ほどで3倍ほどに伸びている。米国では、市況が好調だったことに加え、401(k)プラン等の制度的な後押しもあり、現役期から資産形成を実行し且つ継続するとともに、そのような世代が歳を重ねるに従い、高齢世帯の資産が増加していったと推察される。この点、わが国でも後述するつみたてNISAiDeCo等が整備され、個人が長期の資産形成を行うに際して、制度的な環境が整いつつある。 」

ーーー

上の数字は総務省家計調査(2017年)のものであり、「夫65歳以上,妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯」の平均実績である。
不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万>円が不足することとなるが、金融資産の平均保有状況は2,252万円のため、これの取り崩しで賄えることとなる。

実際には、年金が月に19万円以下の夫婦も多い。赤字はもっと多い。

金融資産については65〜69歳の世帯で、ごく少数の富裕層ははるかに多額を保有する(1億円以上は0.66%)一方、1200万円未満が49%、うち150万円未満が全体の15%という財務省の資料もある。財務省財務総合政策研究所「高齢者の貯蓄の実態」)

従って、大多数にとっては、通常の場合でも「100年安心の年金」ではない。老人ホームなどの介護費用などがかかると一層苦しくなる。

やはり、この報告は「100年安心の年金」ではないので、自分で若いうちから投資をしておけと言っているのは確かであろう。

麻生金融担当相の発言の「さらに豊かな老後を送るための資産運用」ではなく、「普通の生活をしたうえでの赤字の穴埋めのための資産運用」が必要ということになる。

ーーー

年金に関係のない金融庁が年金を取り上げたのは、個人資産を預金から株式投資に切り替えさせ、株式投資を活発化させようとの意図によるとされる。

ゼロ金利のため預金利子収入は家計に寄与しないので株式で、ということで、資料では「国内外の株式・債券に積立・分散投資」した場合の収益率を実績で2〜8%とし、100万円が20年後に185〜321万円になったとしている。

但し、当然リスクがあるため、完全に自己責任ということになる。投資先企業が倒産すれば、なけなしの資産がゼロになる。

世界経済の変動は大きく、考えてもいない企業が大きな損失を計上する可能性がある。ほとんどの人が東京電力の福島原発事故、シャープの液晶事業の破綻、東芝の米国原発事業の破綻を事前には予想していなかった。経済の分からない人に自分の責任で株を選べというのはひどい。

リスク覚悟で投資をする人は別だが、国民全体に今後の生活費の年金の不足分を株に頼れというのは無責任である。

 

 

 


2019/6/12 DowDupont 分離完了 

DowDuPont Inc.は6月1日、農業部門をCorteva, Inc.として分離し、社名をDuPont de Nemours, Inc. に改称した。Specialty Productsの会社となる。

DowDuPont Inc.は4月1日にMaterial Science事業をDowとして分離している。

これにより、2017年9月1日にDowとDuPontが合併してできたDowDupontの再編成が完成した。

2018/3/15 DowDupont の新体制とLiveris 会長兼CEOの引退

 

新しい3社は、以前のDow及びDuPontの事業を 下記の通り引き継いだ。色塗り部分は当初案を見直したもの。

社名 Corteva Dow DuPont
事業 Agriculture Material Science Specialty Products
本社 Wilmington, Delaware Midland,
Michigan
Wilmington, Delaware

Dow
Agricultural Sciences    
Performance Plastics    
Performance Materials & Chemicals    
Infrastrucrure Solutions    
  Building Solutions    
Water and Process Solutions    
Consumer Solutions  
  Consumer Care    
Pharma and Food Solutions    
Microbial Control    
Automotive Systems    
  adhesives and fluids platforms    
Silicones    
  Several silicones-based businesses    
Electronic Materials    
 
旧DuPont Agriculture    
Performance Materials    
  Performance Polymers    
Elec & Communications    
Nutrition & Health    
Industrial  Biosciences    
Safety & Protection    

2017/9/16 DowDuPont、新組織の見直し完了


 

2019/6/12 米司法省、東芝メディカルの売却の独禁法違反でキヤノンと東芝に罰金 

キヤノンは2016年3月に東芝から医療機器子会社東芝メディカルを買収したが、両社は米国司法省から Hart-Scott-Rodino Act が規定する事前の通知義務に違反したとして訴えられ、罪を認めて罰金を払うことで解決した。

両社はそれぞれ罰金として250万ドルを支払う。加えて同法に基づくコンプライアンスプログラムを実施し、監査を受け、報告を行う。

付記

欧州委員会は6月27日、キヤノンに28百万ユーロの罰金を課した。通知義務違反と承認前の買収を問題にした。

ーーー

キヤノンは2016年3月17日、東芝の医療機器子会社、東芝メディカルシステムズを買収する契約を結んだと発表した。
3月9日に東芝から独占交渉権を得て協議を続け、合意したもの。買収額は6655億円で3月17日に決済した。

日本の
独禁法第10条では、(株式取得で)一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、取得してはならないとしており、第10条2項で、会社が他の会社の株式取得する際、一定の基準に当たる場合には、公正取引委員会に事前に届出しなければならないとされている。

しかし、東芝は、債務超過を避けるためには、2016年3月期に売却益 5900億円を計上する必要があり、各国の審査を待っていては間に合わない。

このため、下記の手続きをとった。

A種類株(議決権あり)20株を特別目的会社(株主は東芝とキヤノンのいずれからも独立した第三者の3人)のMSホールディングに譲渡(対価 98,600円)

B種類株(議決権なし)1株と新株予約権をキヤノンに譲渡(対価 6,655億円)
B種類株には議決権はないが、組織再編などの重要事項について拒否権を行使できる条項あり)

独禁法第10条2項の規定は、具体的には、取得後の議決権の数の割合が新たに20%又は50%を超えることとなる場合となっている。
議決権は第三者のMSホールディングが保有するため、条文の上からは公取委の承認前の株式取得は認められることになる。

2016/3/18 キヤノン、東芝メディカル買収を発表、独禁法対策で奇手

東芝メディカルの議決権の対価がたった10万円で、キヤノンは議決権無しの株と新株予約権に6,655億円も払うというのは通常は考えられず、わざわざこういう手続きを取る他の理由も考えられない。また、議決権無しの株には重要事項に対する拒否権があ る。各国の承認を得れば直ちにキヤノンが議決権を100%取得する。

事前に承認を得るという規定を避けるための便法であることは明白である。

公取委は2016年6月30日、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得について、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められたので、排除措置命令を行わない旨の通知を行い、審査を終了したと発表した。

しかし、株式取得のスキームが、事前届出制度の趣旨を逸脱し、独占禁止法第10条第2項の規定に違反する行為につながるおそれがあることから、両者に対し異例の注意を行った。

また、今後、企業結合を計画する者が仮にこのようなスキームを採る必要があるのであれば、当該スキームの一部を実行する前に届出を行うことが求められるとした。

日本の独禁法の規定の文言上は「株式取得」にはならないが、制度の趣旨を逸脱するものであると明言しており、今後は認めないとしている。

2016/7/4   公取委、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得を承認

中国商務省は2017年1月4日、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの買収に関連し、キヤノン (佳能)に30万元(約500万円)の 罰金を科す「行政処罰決定書」をウェブサイトで公表した。

独占禁止法に基づく買収の事前届け出義務違反を問題とするもので、競争制限はないとして買収自体は認めている。

2017/1/6    中国、東芝メディカル買収でキヤノンに罰金の行政処分

今回は、米司法省がこれを問題視したもの。

 


2019/6/12     「年金100年安心プラン」

自公政権は2004年の年金制度改革関連法成立時に「100年安心の年金」をアピールした。

この制度では、@「保険料は 、国民年金で1万6900円(2004年度水準の価格)以上には引き上げません」、A「モデル世帯の受け取る厚生年金は、現役世代の給料の50%以上を確保します」 、これを100年先まで維持するというもので、年金だけで生活できることを保障するものではない。

「100年安心」という言葉が誤解を生んだ。

「100年安心」は公明党と坂口力厚労相(公明党)が主張した用語である。

当時の「公明党についてのQ&A」では以下の通り述べている。

公明党と坂口厚生労働大臣はこのような観点にたって、100年先までを展望した「年金100年安心プラン」を提案致しました。

坂口大臣がこれまで役所が絶対手をつけなかった「年金積立金」(147兆円)を取り崩し、将来の世代が受け取る年金額の底上げに使うことを認めさせたからです。取り崩す最大の理由は、「団塊の世代とその子どもたちの年金受給が終わる2060年ごろまでの年金財政が最も苦しいので、その時に積立金を給付費に使いたい」からです。同プランではこの積立金を2100年時点で1年分約25兆円が残るようにします。

これは大変な抜本改革です。坂口大臣と役所との激しい対立もありました。しかし、これによって年金の給付水準を「現役世代の平均収入の50%以上、できれば55%程度」を確保できるわけです。現在の水準は59%です。積立金を維持する従来の方式だと、少子化が現状程度 (1.39) なら現役平均収入の52.8%、少子化が進行した場合 (1.10) は47.8%と給付が5割を割り込んでしまいます。一方、積立金を使う同プランでは、少子化が進行しても51.2%、少子化が現状程度であれば54.5%を確保できます。なお同プランでは政府は5年ごとに向こう95年間の年金財政を見直して計画を作り直し、2100年以降も積立金が底をつかないようにします。

さらに同プランでは、厚生年金は保険料を将来も「年収の20%以内(労使折半)」に抑えること、国民年金は国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げ、将来も納めた保険料の1.7倍以上の年金が受けられる「月1万8千円台までにとどめる」ことにします。このような「保険料固定方式」によって負担が過度にならないようにします。

http://www.takeuchi-yuzuru.com/koumei.htm

 

厚労省は次のように説明している。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei01/dl/zu08.pdf

 

しかし、2004年の国会審議でこれが正しくないことが明らかにされた。

@ 「保険料は国民年金で1万6900円(2004年度水準の価格)以上には引き上げません」

これは賃金上昇がないとした場合のことで、名目賃金が上がれば保険料も上がるのに、政府はそのデータをふせていた。

法案が前提にしている賃金上昇率(2009年度以降、毎年2.1%)で計算すると、2017年度は月額20,860円、27年度には25,680円にもなる 。

A 「モデル世帯の受け取る厚生年金は、現役世代の給料の50%以上を確保します」

これは国民のなかでは一握りのモデル世帯(夫がサラリーマンで40年厚生年金に加入、妻が専業主婦)のみ。
そのモデル世帯も「給付50%」が確保されるのは年金受給から短期間に限ってのことで、名目賃金の上昇にともなって比率は下がり、やがて50%割れになる。

公明新聞も2004年5月20日にはこれを認めている。

 


2019/6/13 東レ、血液による癌検査キットを承認申請へ

 
東レは血液1滴から様々な癌を発見する検査キットについて、2019年中に厚生労働省に製造販売の承認を申請する。日本経済新聞が報じた。

国立がん研究センターなどと2014年に始めた研究プロジェクト「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」がこのほど終了し、その成果を事業化する。

癌ができると血液中に増える「マイクロRNA」を検出する手法で、東レはこれを検出する遺伝子解析チップを開発した。独自の素材や加工技術を生かし、従来に比べ100倍の感度で検出できるため、血液1滴分、50マイクロリットル程度あれば検査できる。癌の有無の判定精度も95%以上という。

本年4月8日に厚生労働省が第四回の先駆け審査指定制度の指定品目として発表しており、早期の承認が期待できる。

DNAチップによる膵臓・胆道癌検査キットMI-004(仮称)(東レ株式会社)

予定効能:血清から抽出したRNA中のマイクロRNAの発現パターン解析(膵臓癌・胆道癌の診断の補助)
指定理由:
@血清中のマイクロRNAの発現量の組み合わせを数値化し、膵臓癌・胆道癌の診断フローに用いる検査システムは、世界的にも実用化された事例がなく、画期性が高い。
A膵臓癌は最新がん統計(2017年)において年間死亡数3.4人、3年生存率15%と極めて予後が悪い癌であり、胆道癌もまた年間死亡数1.8万人に及ぶ難治性の癌である。
B開発の過程において健康成人と膵臓癌・胆道癌患者を感度80%、特異度80%で鑑別するアルゴリズム及び閾値が得られている。また、初期の膵臓癌患者において、既存の腫瘍マーカーであるCA19-9 と比較して感度が高いことが示唆されている。これらに加え、従前の腫瘍マーカー検査とは異なるプロファイルに基づくことも勘案すると、膵臓癌・胆道癌が疑われ精密検査が必要とされる患者の選択に寄与し、治療成績の向上に資することが期待できる。
C国内で臨床性能試験を実施し、世界に先駆けて本邦において承認申請予定。

承認されれば、数万円で複数のがんを一度に調べられる見通し。

ーーー

マイクロRNAは生体高分子であるリボ核酸(RNA)の一種で、人間ではこれまでに2655種類が見つかっている。 分子のサイズの塩基数は18から25で、極めて小さい。

マイクロRNAは、エクソソームと呼ばれる粒子に入って血液中に放出される。その数は1mLあたり約5000億個とされる。

最近の研究で、マイクロRNAは癌等の疾患にともなって患者の血液中でその種類や量が変動することが明らかになってる。さらに、こうした血液中のマイクロRNA量は、抗癌剤の感受性の変化や転移、癌の消失等の病態の変化に相関するため、全く新しい疾患マーカーとして期待されている。

NEDOは2014年に、国立がん研究センター(研究部門と臨床部門)や東レなどと共に、マイクロRNAを使って健康診断などで簡便に癌や認知症を検査できる世界最先端の診断機器・検査システムの開発(体液中マイクロRNA測定技術基盤開発)プロジェクトに着手した。

概要は次の通り。

 

国立がん研究センター及び国立長寿医療研究センターのバイオバンクに保存されている数十万検体の血清から、13種類の癌及びアルツハイマー病等の認知症について、疾患の早期発見マーカーや、医療現場で必要とされる様々な疾患マーカーの探索を網羅的に行い、確度の高い疾患マーカーを得る。

13種類の癌は、胃癌、食道癌、肺癌、肝臓癌、胆道癌、膵臓癌、大腸癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、乳癌、肉腫、神経膠腫。

研究に不可欠な対照群として、長寿医療研究センターのバイオバンクに登録されている認知症などで癌ではない検体を調べる。

さらに、日本発のバイオツール技術によって高感度・高精度なマイクロRNA疾患マーカー検出ツールを開発することにより、一部欧米に先んじられている検査・診断分野の開発における日本の地位を引き上げる。

ーーー

2019年2月までに5万3000検体を解析した。その結果、下記のように高い精度でがん患者と健常者を識別でき、1次スクリーニングの検査方法として有用であることが示された。

  感度 特異度
女性の乳癌 97% 92%
卵巣がん 99% 100%
膵臓がん 98% 94%
大腸がん 99% 89%
 
「感度」とは、病気の人を正しく病気だと識別できる割合
「特異度」とは病気でない人を正しく病気でないと識別できる割合

卵巣癌など、癌の種類によっては、良性疾患を癌と判定してしまう場合がある。この場合も癌の可能性があることを患者に伝え、検査を勧めることができるので価値はある。

1次スクリーニングだけでなく、前立腺癌や乳癌などで、他の標準的な検査によって癌の疑いが強まった患者に対し、マイクロRNA検査を行うことで、苦痛が大きい検査を受ける頻度を下げることができるといった成果も示されている。

13種類の癌を一気に判別する手法も検討されている。
これまでに集積した患者のマイクロRNAプロファイルをDeep Learning に投入したところ、13種類のがんと健常の計14グループを高い精度で識別することができた。

認知症におけるマイクロRNAの有用性も検討された。認知症患者約5000人の血液中マイクロRNAを調べ、その結果を機械学習にかけた結果、3大認知症と呼ばれるアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体認知症を十分な精度で判別することに成功した。

 

血液中のマイクロRNAにより、脳卒中の発症者を高精度で識別できることも分かったとしている。

ーーー

現在、既に、血液検査による腫瘍マーカー検査が行われている。

癌細胞から微量な蛋白質が分泌されることがあり、これが腫瘍マーカーとよばれる。これを検出することで癌の存在する可能性や種類を知ることができる。

腫瘍マーカーの値は良性の疾患や加齢、感染症、薬物の喫煙などの影響で高くなることもあり、逆に癌であっても腫瘍マーカーの値が高くならない場合もある。
検査の数値が高いからといって癌が確実に存在するわけではなく、反対に検査の数値が低いからといって完全に癌を否定できるものではない。ひとつの判断材料であるとされている。

次のようなものがある。

https://www.kureha-hosp.jp/health_care/shuyomarker/

 

今回の東レのマイクロRNAによる検査は、「感度」、「特異度」 から、これらとはかなり信頼度が異なるようだ。

 


2019/6/14  Sinopec、ロシアのSiburのシベリアの石化計画に参加 

中国のSinopecは6月9日、ロシアの石化大手SiburのAmur Gas Chemicals Complex 計画に40%出資する契約を締結した。

SinopecはSiburに10%出資している。

Sinopecは2015年12月17日、Siburに10% 出資した。

2015/9/9 Sinopecのロシア進出    

Amur Gas Chemicals Complex (AGCC) はロシアのAmur RegionのSvobodny市の近くに建設を計画している石化計画である。

Svobodny市は、西シベリアのガス田からウラジオストックまでをつなぐパイプライン Eastern Pipeline から中国へガスを送るパイプラインの分岐点にある。

ロシアと中国は2014年11月9日、プーチン大統領と中国の習近平国家主席の立ち会いのもと、ロシアのシベリア産天然ガスを西シベリアの国境経由で中国に送るパイプライン計画の覚書など17の合意文書に署名した。

2014/11/15  ロシア、中国向けに二本目の天然ガスパイプライン 

Gazpromは2014年5月にChina National Petroleum Corporation (CNPC) との間で年間380億m3の天然ガスを30年間供給する契約を締結しており、2019年12月にガスの供給が始まる。

西シベリアからの天然ガス輸送が始まり、Amur Gas Chemicals Complex 計画も実現する。

この計画はGazprom単独のAmur Gas Processing Plant (GPP) と一体となるものである。

    原料 製品  
Amur Gas Processing
Plant(GPP)
Gazprom 天然ガス  420億m3/年
(Power of Siberiaで西シベリアから輸送)
メタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘリウム :外販

エタン :GCCへ

最終6系列
2系列は2021年稼働
Amur Gas Chemicals Complex (GCC) Sibur

Sinopec
 40%出資
エタン(Amur GPPから)
     200万トン/年
 
エチレン    150万トン/年
HDPE/LLDPE  50万トン/年
HDPE/LLDPE  50万トン/年
HDPE       50万トン/年
ブテン-1
PE販売先は、中国、東南アジア

2018年3月時点での報告によると、Amur GCC は2020年に建設を開始し、2024年に運転を開始するとなっている。

 

 

 


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