ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp


2023/10/2 米議会、土壇場で政府機関閉鎖を回避 

米政府は9月28日、新年度となる10月1日以降の連邦政府予算が確保できないことに伴う政府閉鎖を見据え、閉鎖時の対応などについて職員に通知を始めた。

議会下院では多数派を占める共和党の内部対立で、予算案の成立が見通せて おらず、政府閉鎖となれば、トランプ前政権だった2018年12月〜2019年1月以来となる。

2023/9/29 米政府機関閉鎖の可能性 強まる 

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 198   198  
反対 21 211 232  
棄権 2 1 3  

合計

221 212 433 2

 

しかし、翌9月30日に下院は11月半ばごろまでの45日分の予算を確保する「つなぎ予算案」を賛成多数で可決し、与党・民主党が多数派の議会上院に送られた。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 126 209 335  
反対 90 1 91  
棄権 5 2 7  

合計

221 212 433 2

 

米上院は同日、10月1日午前0時の期限を数時間後に控え、下院が通した11月17日までのつなぎ予算案を可決した。政府機関閉鎖を土壇場で回避した。

  共和党 民主党 民主系
無所属
無所属 合計 欠員
賛成 39 46 88  
反対 9       9  
棄権 1 1     2  
合計 49 47 2 1 99 1

 無所属は元民主党員
民主党 Dianne Feinstein(90歳)が9月29日逝去、
後任は今後、カリフォルニア州知事が指名する。


バイデン大統領は同日、つなぎ予算案に署名した。大統領は声明で、「今夜、上下両院の超党派の多数決によって政府機能を維持し、何百万人もの勤勉な米国民に無用な苦痛を与えることになる不必要な危機を防ぐことができた」と評価した。  

つなぎ予算案にはウクライナへの新たな支援は含まれていないが、民主・共和両党は、より長期的な連邦政府予算について交渉する時間を確保した。

 

9月29日に下院が共和党マッカシー議長が支持した案を共和党の強硬派の反対で否決した時点で政府機関の閉鎖は必至と見られたが、一気に逆転した。

起点は下院の野党・共和党を率いるマッカーシー議長の「変心」だった。

9月30日にマッカシー議長は民主党に歩み寄った。ウクライナ支援は除外されたが、ホワイトハウスが求めた緊急災害援助160億ドルが認められ、バイデン政権が求めていたものと同程度の予算額となったことなどから民主党の賛成をとりつけた。

裏切られた形の強硬派が議長罷免を求める可能性があるが、罷免実現には民主を含めた下院議員の過半数の同意が必要となる。仮に民主の一部が投票で欠席すれば罷免は失敗する。

但し、マッカシー議長の下院運営は更に難しくなると思われる。

 

付記

 米下院共和党保守強硬派のMatt Gaetz議員は10月2日、マッカーシー下院議長の解任動議を今週中に提出した。マッカーシー議長が、政府機関閉鎖の回避に向けたつなぎ予算成立を図るため、民主党の支持を得たことを問題視している。

解任に民主党議員全員が賛成した場合、共和党から5人の造反者が出れば、動議が可決される可能性があるが、民主党全員が解任に賛成するとは思えない。

マッカーシー氏は記者団に「これは国家に混乱をもたらすと思う。私は自分の仕事をこなすことに専念するだけだ」と述べた。


今年1月にマッカーシー氏を下院議長に選出するための採決でもゲーツ氏は何度も反対票を投じ、マッカーシー氏が反対派の説得のため、多くの妥協をした。その一つとして、議長解任動議の提出条件は会派の半数の賛成であるが、
McCarthy 議員は最終的に1人で動議を出せることを認めた。これが今回のゲーツ氏の動きにつながっている。


米国の議会史上、これまでに下院議長が解任された例はない。


付記

議会下院は10月3日、共和党のマッカーシー下院議長の解任動議を可決した。下院議長の解任動議の可決は歴史上初めて。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 8 208 216  
反対 210   210  
棄権 3 4 7  

合計

221 212 433 2

共和党での賛成者は以下の8人

民主党にとって議長は共和党ではあるが、共和党強硬派の反対を押し切って「つなぎ予算」を通してくれた恩人でもある。解任に全員が賛成するとは、どういうことだろうか。

今後、本予算を通す必要があるが、強硬派を勢いづかせるだけであり、今後の運営が非常にむつかしくなるだろう。

当面、次期議長の選任が必要だが、難航必至で、予算編成や対ウクライナ支援の遅滞といった悪影響が懸念される。


2023/10/3   ノーベル生理学・医学賞に新型コロナワクチンのカリコ氏ら 

スウェーデンのカロリンスカ研究所は10月2日、2023年のノーベル生理学・医学賞を、生化学者のKatalin Kariko さん(68)と、米ペンシルベニア大のDrew Weissman教授(64)に授与すると発表した。

RNA(リボ核酸)の一種で遺伝子の一部にあたる「メッセンジャー(m)RNA」を、生物が体内に取り込んでも、異物として拒絶する免疫反応を引き起こさないようにする手法を解明した。mRNAの利用により、新型コロナウイルスワクチンの迅速な開発につながった。

授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。


本ブログは2021年のノーベル賞に選ばれると見ていた。2年遅れとなった。

下記にブログを再掲する。

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2021/2/3   今年のノーベル医学・生理学賞は確定? mRNAワクチンの開発

今年のノーベル医学・生理学賞受賞者はmRNAワクチンの開発者のKatalin Kariko とDrew Weissmanではないかと言われている。

当初、COVID−19ワクチンの開発は1年では無理と言われていた。

しかし、米国では2020年12月に2つのワクチンが緊急使用許可を得て、接種されている。
BioNTech/Pfizerの「BNT162b2」と、Modernaの「mRNA-1273」である。

いずれもmRNAワクチンで、Katalin KarikoDrew Weissmanの研究が基になっている

Developer/manufacturer Platform Type doses Timing Route 承認
BioNTech(独)/ Pfizer       RNA 3 LNP-mRNAs 2 0, 28days IM

UK 2020/12/2
FDA 2020/12/11
EU 2020/12/21
WHO 2020/12/31

Moderna / NIAID RNA LNP-encapsulated mRNA 2 0, 28 days IM

FDA 2020/12/17
EU 2021/1/6

一般のワクチンは、ウイルスの蛋白質を体内に送り、抗体をつくる。このため、新しいウイルスの場合、手間と時間がかかる。

ウイルスベクターワクチン:ウイルスベクターに抗原たんぱく質の遺伝子を組み込む。
DNAワクチン:抗原たんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったプラスミド(環状)DNAのワクチン
組み換えたんぱく質ワクチン:ウイルスの構成成分である抗原たんぱく質を昆虫細胞や植物、哺乳動物細胞などで作り、単離・精製
組み換えVLPワクチン:ウイルスのゲノムを含まない外殻たんぱく質のみを微生物や昆虫細胞、植物で作り、単離、精製
不活化ワクチン:ウイルス自体を培養し、ウイルスの感染性や病原性を消失させたもの

これに対し、mRNAワクチンは、抗原タンパク質を直接導入するのではなく、ウイルスのタンパク質分子の情報を運ぶ。BNT162b2やmRNA-1273はSARS-CoV-2の特徴であるスパイク部分の設計図をコピーしている。

ウイルスの細胞内では核のDNAの情報を転写し、mRNAが合成される。mRNAはタンパク質の合成場所であるリボソームに移動、そこで情報を翻訳して元のタンパク質が合成される。

mRNAワクチンでは、ウイルスのスパイク部分の設計図をもつmRNAを人体に投与し、人体のタンパク質合成機構がこの情報を使ってウイルスのスパイクタンパク質を作成、これが抗体となって、T細胞、B細胞を活性化する。ワクチンの mRNA そのものはタンパク合成を指令したあと分解されてしまい、ワクチン由来の人工的な遺伝子は体に残らない。

このため、SARS-CoV-2の遺伝子配列さえ分かれば、その設計図である mRNAワクチンは簡単に作成できる。

実際にBNT162b2はその構造が公表されており、世界のどこの研究室や工場でも、このワクチンを再現できるという。

AGAAΨAAAC ΨAGΨAΨΨCΨΨ ・・・

mRNAは、「アデニンA」「ウラシルU」「シトシンC」「グアニンG」という4種類の塩基からなる。この場合、ウラシルUがシュードウリジン(Ψ)に置き換えられている。(後記)

ウイルスが変異すれば、それに合わせてワクチンを簡単に改良できる。

BioNTech(独)/ Pfizer とModernaは、これまでに特定された最も懸念される変異株に対応するため、ワクチンのバージョンアップを検討している。

 

2019年12月31日、中国武漢で肺炎患者が44人発生したことが報告され、2020年1月5日にはWHOが未知の感染症について警告を発した。

2020年1月11日、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の遺伝子配列が読み取られて発表された。

ModernaがmRNAワクチンの候補数種類を設計したのはそのたった2日後の1月13日とされる(異論もある)。その中には承認されたmRNA-1273が含まれている。

コロナウイルスの拡大を懸念したBioNTechのUğur Şahin CEOは、2020年1月に「倫理的な責任」としてワクチン開発に着手すべきと判断、自らいくつかのワクチン候補を設計したという。

 

ーーー

Katalin Karikoはハンガリー出身で、 セゲド大学在学中からRNA研究に取り組んだ。主要研究はRNAの免疫原性を抑制するヌクレオシド修飾プロセスの発見で、mRNA研究の臨床応用への道を開いた。
 

1985年に夫と娘と共に渡米し、ペンシルベニア州のテンプル大学でポスドク研究員として働き始めた。しかし、テンプル大学の上司が国外退去させようとしたため、4年間務めた同学を辞職してペンシルベニア大学に籍を移した。

mRNAの抗ウイルス応答が癌ワクチンの腫瘍予防に有効であることが分かったが、応募を重ねても研究助成金がまったく得られず、大学では降格された。

“Every night I was working: grant, grant, grant,”Karikó remembered, referring to her efforts to obtain funding. “And it came back always no, no, no.”

そのなかで学内で免疫学者のDrew Weissmanと知り合い、共同研究から生まれたのが上記の論文である。

Dr. Weissman は現在、University of PennsylvaniaのPerelman School of Medicine の教授。

mRNAはDNAの遺伝情報をたんぱく質に翻訳する橋渡しの分子である。DNAの情報は転写プロセスでmRNAに写し取られ、mRNAは細胞核から細胞質に移動し、リボソームがmRNAをタンパク質に翻訳する。このタンパク質が細胞や組織で各種の役割を担う。

Katalin KarikoはmRNAを直接、体に投与し、治療やワクチンに必要なたんぱく質を細胞に作らせることを狙った。

問題は注射すると身体の免疫系が異物と認識し、炎症反応を引き起こす。

mRNAは、「アデニンA」「ウラシルU」「シトシンC」「グアニンG」という4種類の塩基からなる。その一つ が問題であることが分かり、それをわずかに細工すること(RNA修飾)で免疫系をすり抜け、炎症を回避し、細胞にたんぱく質を作らせる手法 を考えた。

The stumbling block, as Karikó’s many grant rejections pointed out, was that injecting synthetic mRNA typically led to that vexing immune response; the body sensed a chemical intruder, and went to war. The solution, Karikó and Weissman discovered, was the biological equivalent of swapping out a tire.

Every strand of mRNA is made up of four molecular building blocks called nucleosides. But in its altered, synthetic form, one of those building blocks, like a misaligned wheel on a car, was throwing everything off by signaling the immune system. So Karikó and Weissman simply subbed it out for a slightly tweaked version, creating a hybrid mRNA that could sneak its way into cells without alerting the body’s defenses.

ウラシルから誘導されるヌクレオシドはウリジンであるが、ウリジンをシュードウリジン(Ψ)などに置き換えると、mRNAの二次構造が変化し、効果的な翻訳を可能にしながら、自然免疫系による認識を低下させる 。

 

mRNAワクチンはこの発明により可能となった。 

2005年、ハーバード大学の幹細胞生物学者のDerrick Rossiは、彼らの論文は「根底をくつがえす」ものだとしてノーベル化学賞に匹敵すると述べた。彼は2010年にワクチン開発の可能性を見出してmRNAに焦点を当てたバイオテクノロジー企業Modernaを設立した。

付記 Karikoは次のように述べている。(2021/3/14 毎日新聞オンライン)

幹細胞生物学者のDerrick Rossi当時、山中伸弥教授が発見したiPS細胞を作ろうとする過程で、mRNAを活用しようと考えていた。ところがmRNAを入れた細胞は死に、うまくいかなかった。
さまざまな方法を探る中で私たちの論文に行き着き、実際に私たちが発表した方法に基づいて修飾したmRNAを使えばiPS細胞が樹立できたのです。

(彼は2010年にワクチン開発の可能性を見出してmRNAに焦点を当てたバイオテクノロジー企業Modernaを設立した。)

もし山中教授がいなければ、もしiPS細胞の発見がなければ、私たちの論文が「発見」されることはなかったかもしれません。

付記  2021/3/26 Moderna, Inc.のDerrick Rossi 

 

KarikoとWeissman の研究技術のライセンスを受けたBioNTech はmRNAワクチンなどの開発に焦点を絞り取り組んだ。

BioNTechは2008年に、トルコ系ドイツ人の科学者であるUğur Şahinと彼の妻である Özlem Türeci、オーストリアの腫瘍学者のChristoph Huberによってドイツで設立された。

2013年にKarikoがBioNTechのSenior Vice President に就任した。

個別化されたがん免疫療法、感染症に対するワクチン、希少疾患のタンパク質補充療法に使われるメッセンジャーRNAをベースとした医薬品候補を開発しているほか、癌の治療オプションとしての細胞療法、新規の抗体、低分子免疫調節剤を開発している。mRNAをベースとした静脈内へ投与するためのヒト向け治療法を開発した。

BioNTechはmRNA技術を使ってがん治療薬を開発していたが、2020年1月に「倫理的な責任」としてワクチン開発に着手すべきと判断した。

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2021年1月30日の毎日新聞で青野由利 専門編集委員が「カタリンの物語」を書いている。

カリコさんはなぜ、mRNA医薬に興味と確信を持ち続けてきたのか。メールでたずねてみた。

「80年代の終わりから焦点があてられた遺伝子治療の目的はDNAを細胞に送り込み永続的に働かせること。でも、多くの病気は遺伝性ではなく、治療は一時的であるべきで、mRNAを使う方が合理的だと思ったのです」。

mRNAは迅速に作ることができ、改良を重ねられたことも利点らしい。

ワクチンの mRNA そのものはタンパク合成を指令したあと分解されてしまい、ワクチン由来の人工的な遺伝子は体に残らない。


2023/10/4 ジャパンディスプレイ、中国パネル大手とのライセンス交渉打ち切り 安徽省で工場建設へ

ジャパンディスプレイ(JDI)は9月29日、世界3位のディスプレーメーカー、中国HKC(惠科股份有限公司)との間で進めていた次世代有機ELパネルに関する提携交渉を打ち切ったと発表した。JDI技術をライセンスし、惠科が工場を建設する計画だったが、 技術料の支払い条件などが折り合わなかった。

中国市場ではデジタル製品の消費回復が遅れて液晶パネルの価格が低迷。工場の建設には数千億円規模が必要となり、HKCも調達が難しくなっていた。

代替案として、JDIは中国安徽省の蕪湖経済技術開発区に次世代有機ELパネルの工場を立ち上げる方針で、同開発区と覚書を結ぶことも発表した。年内の最終契約締結を目指す。2025年11月から順次量産を開始する予定で、生産能力は50倍以上に拡大するとしている。

付記

ジャパンディスプレイは2024年10月23日、中国安徽省の蕪湖経済技術開発区との間で協議を進めていた次世代有機ELの工場建設について、いったん白紙にすることを明らかにした。中国での工場建設は引き続き検討するとしている。

計画では、蕪湖市の支援のもとで地元企業などが協力する形で工場の建設を目指してきたが、これまで2回にわたって契約の期限を延長してきた。しかし、今月末に迎える期限を延長せず、いったん白紙にする。

一方で、蕪湖市での工場建設は引き続き検討するとしている。

同社は昨年度までの決算で10年連続の最終赤字となっており、経営の立て直しに向けて年末にも千葉県茂原市の工場で生産を始める予定で、あわせて目指していた中国での生産計画を見直す形となった。

ーーー

JDI20225月に、世界で初めてマスクレス蒸着とフォトリソを組み合わせた方式で画素を形成し、輝度・寿命を大幅に高める次世代OLEDeLEAP」の量産技術を確立した。

また20223月には、世界で初めて第6世代量産ラインにおいて、従来の酸化物半導体薄膜トランジスタと比較して電界効果移動度 24 倍以上となるバックプレーン技術「HMOの開発に成功しており、早期の量産化を目指している。

そのほかを加え、6つの「世界初、世界一」独自技術を持つ。

eLEAP
(次世代OLED)
environment positive(環境ポジティブ)
Lithography with maskless deposition
マスクレス蒸着+フォトリソ方式

Extreme long life, low power, and high luminance
(超長寿命・省電力・高輝度)

Any shape Patterning
(フリーシェイプ・パターニング)

広発光領域でピーク輝度2倍または寿命3倍、フリーシェイプで明るく鮮明な画像を実現
OLED蒸着用マスクを使用せず、洗浄不要

HMO
(High Mobility Oxide)
電界効果移動度従来 OS-TFT 技術と比較し 2倍以上となる高移動度酸化物半導HMOHigh Mobility Oxide技術
及び 4倍以上となる超高移動度酸化物半導体UHMOUltra High Mobility Oxide技術
メタバース
(超高精細ディスプレイ)
圧倒的なリアリティと没入感
高い歩留りと安定した品質
AutoTech EVに対応した統合コックピットの実現
HUDの進化による安全性の向上
Rælclear
(透明ディスプレイ)
高い技術開発力により実現したバックライト無しで表示が可能な液晶ディスプレイで、電源や駆動回路、HDMIと組み合わせて作られた透過率84%を誇るモニターセット。
映し出された映像は、表と裏の両面からクリアに見ることが可能。
新技術・新商品・新事業 独自技術の用途拡大
 課題解決型の新規事業

ジャパンディスプレイ(JDI)は2023年4月10日、世界第3位の生産出荷規模を誇る広東省深圳市ディスプレイメーカーのHKC:惠科股份有限公司との間で、グローバル戦略パートナーとして次世代OLED ディスプレイ技術の推進と工場建設などに関する戦略提携覚書を47日付で締結したと発表した。

有機ELは韓中勢が席巻する。JDIは上記の多くの技術を持つが、赤字経営が続き、資金力で劣る。

他方、HKC は、近年、大型ディスプレイ分野において急速な成長を遂げているエレクトロニクスメーカーで、2017年以降、中国の重慶、滁州、綿陽、長沙にて次々と第8.6世代ディスプレイ工場での量産を開始して売上を急拡大しており、強力なコスト競争力、販売力、機動力、更には資金力も有している。

JDIとHKC は、JDIの「世界初、世界一」独自技術及び生産技術力、HKC のコスト競争力及び販売力、並びに両社の人材力の融合が、両社の企業価値の飛躍的向上に資するとの考えで一致した。

JDIが虎の子の技術を供与してHKCが中国国内で工場を建設、2025年の量産を目指す。新工場の投資額は数千億円規模になる。JDI側は工場建設への直接的な投資は行わなず、技術者を送るなどして対価を得る。

2023/4/13 ジャパンディスプレイ、世界第3位のディスプレイメーカー惠科股份(HKC)との戦略提携覚書締結 

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JDIは9月29日、中国パネル大手の恵科電子(HKC)との有機ELパネルの量産に関する提携交渉を打ち切ったと発表した が、 同日、中国安徽省蕪湖経済技術開発区で25年以降の稼働を目指して有機ELパネルの工場建設を計画することも発表した。

HKCとは別案件で、現地に新会社を設立する方針だが、総投資額や出資比率は未定。中国企業や投資家からの資金を募る。地方政府などと協議して23年12月末までに最終合意を目指す としている。

同社は、2022年に、マスクレス蒸着とフォトリソを組み合わせた方式で画素を形成し、輝度・寿命を大幅に高める次世代 OLED「eLEAP」の開発に成功した。2024年からの千葉県茂原市の G6 工場で量産開始(月産 1.3K シート)を予定している。

蕪湖開発区内で G6 工場(月産 10K シート)と G8.7 工場(月産 30K シート、G8.7 のガラス基板面積は G6 の倍以上)を建設する予定で、これにより同社の生産能力を 50倍以上拡大する。G6 工場の量産開始は 2025年11月、G8.7工場の量産開始は 2026年12月を予定している。

 

JDI の技術が6つの「世界初、世界一」独自技術を持つ ものであれば、ライセンスではなく、当初から自社でやるべきであった。自社でやる資本力がないため、ライセンスでやることにしたと思われるが、今回、資金をどうするのだろうか。


2023/10/6    トヨタ、LG Energy Solution と米国でバッテリーEV用電池の長期購入契約を締結

Toyota Motor North America, Inc.とLG Energy Solutionは10月5日、米国で生産するトヨタのバッテリーEVに搭載するリチウムイオン電池の 購入契約を締結したと発表した。

この契約により、LG Energy Solutionは同社のミシガン工場に約4兆ウォン(約30億ドル)を新規投資し、専用ラインを構築し、2025年から年間20ギガワット時(GWh)相当の「NCMA」(正極活物質にニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウムを使用)と呼ばれるリチウムイオン電池セルとモジュールをトヨタのケンタッキー州の工場に供給する。年間でEV 25万台以上分の供給量となる。

同電池は当面、Toyota Motor Manufacturing Kentucky(TMMK)で2025年より生産予定のBEVの新型車となる3列シートSUVに電池パックとして搭載される他、今後、北米で拡大が見込まれるBEVラインナップにも、搭載される予定。

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トヨタは2023年6月1日、米国でのバッテリーEV(BEV)生産と電池工場への追加投資で電動化への取り組みを強化すると発表した。

・Toyota Motor Manufacturing Kentucky, Inc.(TMMK)で2025年からバッテリーEVのSport Utility Vehicle(3列シートSUV)を生産開始する。
  
  トヨタが米国でBEVを生産するのは初めてで、この発表時には下記のToyota Battery Manufacturing, North Carolinaで生産する電池を搭載するとしていた。

・Toyota Battery Manufacturing, North Carolina

Toyota Motor North Americaは2021年11月、TMNA90%、豊田通商10%の出資で、Toyota Battery Manufacturing, North Carolina (TBMNC)を設立した。

車載用電池の製造会社で、2025年からの稼働を目指す。

  2021/11、ノースカロライナ州のGreensboro-Randolph Megasiteでの建設決定、投資額 12.9億ドル

  2022/8に25億ドルの追加投資発表

  2023/6に更に21億ドルを追加投資し、インフラ整備 (総投資額は59億ドル) 
  
  拡大する電動車の需要に必要なリチウムイオン電池を生産・供給
    2025年稼働予定、ハイブリッド車(HEV)、バッテリーEV(BEV)用電池を生産

 2023/6/5    トヨタ、米国でバッテリーEV生産、電池工場に追加投資

今回、LG Energy SolutionはToyota Motor Manufacturing Kentucky(TMMK) で2025年より生産予定のBEVの新型車となる3列シートSUVの電池パック用に供給するとしており、Toyota Battery Manufacturing, North Carolinaとの関係について触れていない。

トヨタでは、2030年までにトヨタ・レクサスの両ブランドで30車種のバッテリーEVをグローバルに展開することを発表しており、今回の契約は、年間350万台のBEVを生産するトヨタの電動化への取り組みの推進にも貢献する としている。Toyota Motor Manufacturing Kentucky向けは実績のあるLG Energy Solutionのバッテリーでスタートすることに変更したと思われる。

LGESは「世界で最も売れている自動車メーカーであるトヨタを新たな顧客として迎えることができ、大変うれしく思う。リチウムイオン電池における30年の経験を生かし、弊社のNCMA電池を供給し、トヨタのBEV展開をサポートする。また、今回の合意は、弊社の北米における生産能力をさらに強化するための新たな大きな機会でもあり、それによって、北米における電動化に向けた現実的で大規模な進展をもたらすことになる」と している。

 

付記

LG化学は10月10日、トヨタの北米生産・技術担当法人と2兆8000億ウォン(約3000億円)規模の正極材供給契約を10月6日に結んだと発表した。

契約期間は2030年までで、年間に電気自動車60万〜70万台に供給できる量と推定される。トヨタの電気自動車にLG化学の正極材が搭載されるのは今回が初めて。

LG化学は米国のインフレ抑制法の要件をクリアする正極材を作って供給し、今後トヨタと長期的な協力関係を構築していく方針。
 

LGESは北米で生産する車載電池を、GM、Stellantis、現代自動車、ホンダに供給しており、トヨタとの提携で供給先が大手5社となった。

 

LG単独ではミシガン州Hollandに5GWhの工場を持ち、GM、Ford Motor、Chrysler などに供給している。ミシガン工場はオバマ米大統領が2010年7月の起工式に参列するなど注目されたが、 当初はいろいろな問題が発生した。

2013/9/10 LG化学のミシガン州のリチウムイオン電池工場、生産開始2か月で停止 

LG Energy Solution は2021年3月12日、2025年までの5年間で米国に45億ドル以上を投資すると発表した。少なくとも2工場を建設、米国での電気自動車の成長に対応し、能力を70GWh増やす。

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LGはGMとのJVのUltium Cells LLCで、オハイオ州 Lordstown の近辺に23億ドルを投資して生産能力30GWhの次世代グローバルEVバッテリーシステムの生産工場の建設中。

2020/1/3   GMとLG Chem、世界最大級のEV用電池工場建設計画を発表

GMとLGは2021年4月16日、第二工場のテネシー州Spring Hillでの建設を発表した。能力は35GWh。

GMは2022年1月25日、EVの生産能力の強化に向けて、米国で3つ目となる新たな電池工場の建設を発表した。LG Energy Solution との50/50 JVのUltium Cells LLCが26億ドルを投じ、ミシガン州 Lansing に第3工場を建設する。

2022/1/28 GM、米国で3つ目の電池工場を建設、電気自動車生産投資も

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Stellantis N.V.(Fiat Chrysler Automobiles とPeugeot の統合会社)は2021年10月18日、LG Energy Solutionと合弁会社を設立し、北米で電動車用の電池を生産すると発表した。

StellantisとLG Energy Solutionは2022年3月23日、本契約を締結した。立地はカナダのオンタリオ州 Windsor (デトロイト市に隣接)で、能力は45 GWh。

同社はSamsung SDIとの間でもIndiana州にJVを設立した。

2022/5/27  Stellantis、米国での2つのEV向け電池合弁会社の内容が確定

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本田技研工業と韓国のLG Energy Solution は8月29日、北米で生産販売されるHondaおよびAcura(プレミアム・ブランド)のEV用リチウムイオンバッテリーを米国で生産する合弁会社の設立に合意したと発表した。

2022/9/2 ホンダとLG Energy Solution、米国にEV用バッテリー生産合弁会社設立に合意 

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Hyundai Motor Group とLG Energy Solutionは2023年5月26日、米国に5兆7000億ウォン(約43億ドル)を投じて自動車用バッテリーのJV工場を建設すると発表した。同日、ソウルのLG Energy Solution本社で契約を締結した。

現代自動車は2022年5月21日、米ジョージア州に電気自動車(EV)の専用工場と電池工場を新設すると発表したが、「バッテリーセル工場は合弁形態で設立するだろう。合弁対象は確定しておらず検討中」と説明した。SK On、LG Energy Solution、Samsung SDIの韓国企業3社のうち1社が有力とされた。

現代自動車は最終的にLG Energy Solutionを選んだ

現代自動車のEV新工場(Hyundai Motor Group Metaplant America )が建設される米ジョージア州ブライアン郡に建設する。JVは折半出資で、総投資額は5兆7000億ウォン(約43億ドル)。年間約30ギガワット時(GWh)のバッテリーセル(EV 約30万台) を生産する。

両工場を完成すれば、米国内にも合計約60万台以上のEVのバッテリー生産能力を備えることになる。

2023/5/31 現代自動車、SK On とのJV 及び LG Energy SolutionとのJVで米国にバッテリー工場建設 


2023/10/10  半導体装置大手ASML、北海道に新拠点、ラピダスの最先端半導体生産を支援

オランダの半導体製造装置大手ASMLは9月28日、北海道に技術支援拠点を新設する方針を明らかにした。

ラピダスが2025年に予定する千歳市の「千歳美々ワールド」の工場の試作ラインの稼働前に新工場周辺に拠点を設ける。

2024年中に40〜50人の技術者を配置する計画で、EUV露光装置の設置のほか、生産支援や保守・点検業務などを担う。

ASMLは、半導体基板に電子回路を焼き付ける露光装置の世界シェア首位で、回路線幅が微細な先端半導体の生産に不可欠な「極端紫外線(EUV)露光装置」を製造できる世界唯一の企業 。ラピダスは、まだ技術が確立されていない回路線幅 2ナノの最先端半導体を2027年に量産する計画を掲げている。実現にはASMLのEUV露光装置が不可欠となる。

ASMLは世界各国で主要な半導体工場の周辺に技術支援拠点を設けており、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設中の工場周辺にも設置している。(TSMCは熊本では2ナノは生産せず、EUVは使用しない。)

「極端紫外線(EUV)露光装置」の導入には高圧ガス保安法の改正が必要である。

EUV露光装置は、PPL(Plasma-Produced Laser)方式の光源を採用
真空内を時速320km前後で移動する100万分の30mの大きさのスズの小滴を射出、レーザーを2回照射、1回目で高温にし、2回目で小滴を破壊、50万度のプラズマを発生させる。
スズを破壊させるプロセスを1秒当たり5万回繰り返すことで、半導体製造に必要な量のEUVが得られる。強力な炭酸ガスレーザーが必要。
炭酸ガスレーザーの生み出すエネルギーの8割は熱で、この除去が必要。 磁石でファンを浮上させ、熱を吸い出す。

この高圧状態のスズとその容器(タンク)が高圧ガス保安法の適用対象である。

高圧装置は、完成時の検査のほか、高圧ガス保安法に基づく年1回の保安検査が義務付けられている。このため、24時間365日稼働し続ける半導体製造装置を何日か停止させねばならず、超高額装置の稼働率の低下をきたすことになる。

ーーー

ラピダスは新千歳空港のすぐ東部にある「千歳美々ワールド」の一画で 工場を建設している。約 65ヘクタールの敷地を確保し、敷地内に工場と研究施設を併設する。今後増築となった場合も、周辺の土地を約35ヘクタール取得可能で、最終的な敷地面積は100ヘクタールを想定しており、国内最大規模の半導体生産工場となる

付記

ラピダスの事業に欠かせない最先端の装置「EUV露光装置」が北海道千歳市の工場に導入される。

2024年12月から「EUV露光装置」設置作業が始まり、12月18日は新千歳空港で記念の式典が開かれた。

同社では2025年
4月に予定している試作ラインの稼働を軌道に乗せる考え。

 

ラピダスは千歳美々ワールドの第2期A、Bブロックを確保した。

第1期Dブロックでは、セイコーエプソンが高温ポリシリコンのTFT液晶パネルを生産している。

現在はIIM-1の建設準備中。

同社はプラント(ファブ)をIIM (Innovation Integration for Manufacturing)と呼んでおり、ここには2ナノを手掛ける「IIM-1」と、Beyond 2ナノを目指す「IIM-2」を設ける。

なお、2027年の本格稼働後に洗浄用の水として1日数万立方メートル必要で課題となっていたが、北海道は9月28日、道企業局の苫小牧地区工業用水道を活用し、安平川から取水する方針を固めた。 豊富な供給量に加え、水利権の調整が必要ないことが決め手となった。

 



2023/10/11 SamsungとStellantis、米国で自動車用電池の第2工場建設を決定

Samsung SDIは9月27日、Stellantisと設立した合弁法人StarPlus Energyの米国第2工場に2兆6556億ウォン(20億米ドル)を投資することを取締役会で決議したと公示した。

これは、第2工場の総予想投資金額のうち、Samsung SDIの持分51%に当たる。

投資期間は2024年4月から2027年11月までで、具体的な敷地の位置などは検討中。

第2工場は2027年の量産を目標に、年産34GWh規模の生産能力を確保する予定 。第1工場と合わせると、能力は67GWhに増える。

ーーー

Stellantis N.V.は2021年10月、LG Energy Solution及びSamsung SDIとの間でそれぞれ、北米で電動車用の電池生産の合弁会社を設立すると発表した。Stellantis N.V.は、2021年1月16日付でFiat Chrysler Automobiles N.V.とPeugeot S.A.の統合により創設された。

Stellantis N.V.は2021年10月18日、LG Energy Solutionと合弁会社を設立し、北米で電動車用の電池を生産すると発表した。

LGとのJVはNextStar Energy

2021/10/21 Stellantis N.V.、米国でLGと合弁で電池生産

StellantisとLG Energy Solutionは2022年3月23日、本契約を締結した。立地はカナダのオンタリオ州 Windsor (デトロイト市に隣接)で、能力は45 GWh。


Stellantis N.V.と
Samsung SDI2022年5月24日、本契約を締結した。

SDIとのJV名はStarPlus Energyとなった。

立地:Kokoma, Indiana
能力:当初 23GWh、2〜3年で33GWhに増強。Stellantis車需要に合わせ更に増強も
投資額:25億ドル以上、最終31億ドル
雇用:1400人
予定:2023年末に建設開始、2025年第1四半期に稼働

Samsung SDI はここで、2021年12月28日に発表した新バッテリー「PRiMX」を採用する。

2023年7月に第2工場設立のMOUを交わした。Samsung SDIが51%出資で、2027年から34GWhの生産をするというもの。今回、概要を発表した。

 


2023/10/12 2024年問題 

トラックやバスの運転手、建設作業員の「2024年問題」が話題になっている。このほかに医師についても「2024年問題」がある。

これらの業務に従事する人の時間外労働の規制が2024年4月1日から始まり、その結果、これまで残業で処理していた仕事ができなくなる。

総務省の調査では、トラックドライバーの拘束時間が3300時間を超える会社の割合は21.7%となっている。今後は上限が3040時間(法定時間 2080 + 残業 960) となり、追加雇用が必要だが、簡単ではない。

建設業界も、少子高齢化による若手労働者不足、長時間労働による労働者の定着率悪化などにより、深刻な人手不足に悩む。当面、建設の遅れ、建設費アップは必至である。

医師については、日本全体での医師の数は少なくないが、医師免許があれば好きな場所に開業でき、診療科も原則自由なため、これが偏りを生む主因になっている。地域医療の縮小を懸念する声が上がっており、非常勤医師の応援で成り立つ産科有床診療所の中には、分娩の取り扱い中止を検討する所も出ているという。

これらの業界は時間外労働の規制の施行を5年間延長したが、その間、ほとんど対策が取られていない。

政府も規制施行を延長した時点で、5年後には実施できるよう対策を講じ、業界を指導し、その後は毎年チェックして進展がなければ対策を取るべきであったが、何もしていない。

政府は10月6日、物流業界の人手不足が懸念される「2024年問題」に関する関係閣僚会議を開き、緊急対策をまとめた。

通販の配送時に置き配や、ゆとりをもった配送日時を指定した消費者にポイントを付与する実証事業に取り組み、運送業者の負担となる再配達を減らす。

鉄道や船舶の輸送量を今後10年で倍増する。輸送手段を鉄道やフェリーなどに転換、トレーラーなどを運べるフェリーやRORO船(貨物を積んだトラックやシャーシごと輸送する船舶)を活用する。

荷役作業や輸送の効率化につながる機器やシステムの導入を促す。高速道路で自動運転トラックが走行できるよう環境を整える。

一定以上の物流量を扱う荷主企業には新設する「物流経営責任者」を選任するよう義務づける。

いくつもの下請け企業が物流を担う構造を改善するため、書面で契約することなどを求める。

このほか、次の対策をドロナワ式に打ち出した。

個人タクシーのドライバーの上限年齢について、開業は「65歳未満」、更新は「75歳未満」とされているが、地方でのタクシー不足解消のために、過疎地等に限って80歳まで引き上げる。高齢者の免許自主返納の動きに反する。

外国人労働者の在留資格である「特定技能」の対象に、2023年度中にトラック、タクシー、バスの運転手といった自動車運送業を対象に追加することを目指している。

2025年大阪・関西万博を運営する日本国際博覧会協会が、2024年4月に建設業界に適用される時間外労働の上限規制を万博関連の工事には適用しないよう政府に打診していたと報道された。建設は遅れており、間に合わない可能性もある が、規制は5年前からわかっていたことであり、それに合わせた対策を取るべきであった。 想定外の災害への対応ではなく、例外措置はとるべきでない。これを認めれば、自動車運転や医師にもということになってしまう。

ーーー

「働き方改革関連法」(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)が2019年4月1日に施行された。

内容は、

@
時間外労働の上限規制 (2019/4/1施行、中小企業は2020/4/1施行)

建設事業/自動車運転業務/医師については、長時間労働の背景に業務の特殊性や取引慣行の課題があることから、時間外労働の上限について適用が5年間猶予され(2024/4/1施行)、また、一部特例つきで適用される。

A年次有給休暇の取得義務化(2019/4/1施行)

B雇用形態に関わらない公正な待遇の確保 (2020/4/1施行、中小企業は2021/4/1施行)

 

時間外労働の上限規制は下記の通り。

従来は行政指導のみで、法律上は規制なし。「働き方改革関連法」で残業時間の上限を規制する。

 (法定労働時間は1日8時間、週40時間)

従来の行政指導

「働き方改革関連法」 (医師は下記)

一般 (2019/4/1  中小企業は 2020/4/1) 建設事業 (2024/4/1) 自動車運転業務 (2024/4/1)
月45時間、
年360時間
原則:月45時間、年360時間

臨時的な特別の事情があり、労使が合意する場合
 1) 年720時間以内
 2) 複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
 3) 月100時間未満(休日労働を含む)
 4) 月45時間を超えることができるのは年間6か月まで

下記以外:一般の上限規制

災害時の復旧・復興事業の場合
 1) 年720時間以内 
 2) 適用なし
 3) 適用なし
 4) 月45時間を超えることができるのは、年間6か月まで

 


1) 年960時間
 2) 適用なし
 3) 適用なし
 4) 適用なし


医師のケース

A水準:診療に従事するすべての医師対象(他の水準に当てはまらない医療機関が全て該当)

B水準:地域医療暫定特例水準(救急医療機関や救急車の受け入れが年間1,000台以上の医療機関などが該当)

C水準:集中的技能向上水準(研修などを行う医療機関)

  

 *36協定とは、労働基準法第36条により、会社が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働及び休日勤務などを命じる場合、労働組合や労働者の過半数代表者などと書面による協定を結び、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられた「時間外・休日労働に関する協定届」のこと。 


 

2023/10/13 米国、韓国のサムスン、SKの中国半導体工場への製造装置輸出を認める

韓国の大統領室は10月9日、米政府がサムスン電子とSKハイニックスの中国工場を「検証済みエンドユーザー」に指定したと発表した。
 
「検証済みエンドユーザー」は、事前に承認された企業の指定された品目の輸出について個別の手続きを不要とするもので、米国による2022年の中国への輸出規制の適用が無期限で猶予される形となる。

但し、米国は米政府から補助金を受け取った半導体企業の中国工場での生産能力拡大を10年間にわたり先端プロセスで5%、旧式プロセスでは10%に制限する措置をとっており、韓国はこれの緩和を求めたが、受け入れられなかった。

ーーー

バイデン米政権は2022年10月7日、中国への半導体先端技術の新しい輸出規制を実施すると発表した。

米国は日本とオランダにも協力を求めた。

オランダ政府は2023年6月30日、追加の輸出管理規制を9月1日から施行すると発表した。

経済産業省は2023年7月23日、先端半導体分野の23品目を輸出規制の対象に加えた外為法の改正省令を施行した。

2023/7/24 先端半導体の中国向け輸出規制を強化


中国企業に輸出するライセンス付与は厳格に抑制される一方、中国で半導体を生産する韓国などの外国企業への輸出の場合は、「ケースバイケース」でライセンスが審査されることになる。

サムスン電子は、NAND型フラッシュメモリーの40%を中国の西安工場で、SKハイニックスは、DRAMの40%を無錫工場、 NAND型フラッシュメモリーの20%を大連工場で、それぞれ生産している。新しい半導体装置が中国の工場に導入できなくなった場合、サムスン電子とSKハイニックスの中国工場への被害は避けられないとの懸念が出ていた。

米政府は、中国に大規模工場を持つ韓国のサムスン電子や台湾のTSMC(台湾積体電路製造)など一部企業には1年間、適用を免除した。(1年後にどうなるかが問題であった。)

2022/10/10   米国、半導体の対中輸出制限を拡大

米紙は2023年6月12日、米政権が、中国に対する最先端半導体の輸出規制に関し、韓国と台湾の企業への適用免除措置を延長すると報じた。

今回の「検証済みエンドユーザー」指定で米国による中国への輸出規制の適用が無期限で猶予される形となる。

報道にはないが、米国の要請を受け米国に進出している台湾のTSMC(上海と南京に工場)に対しても同様の措置が取られると思われる。

ーーー

米上院は2022年7月27日、国内半導体産業向けの527億ドルの補助金を含む「The CHIPS and Science Act of 2022」(CHIPSプラス法)を64対33の賛成多数で可決した。

下院は翌28日、これを可決した。バイデン大統領は8月9日、国内半導体産業支援法「CHIPSプラス法」案に署名し、同法が成立した。

2022/7/29 米議会、「CHIPS法」を可決 

米国商務省は2023年2月28日、CHIPSプラス法に基づく、半導体産業に対する第1弾の資金援助申請の受け付けを開始すると発表したが、補助金支給の条件を明らかにした。

特に問題なのは、懸念国での半導体製造能力の拡張を伴う重要な取引を10年間行わないという条件である。

サムスン電子はNAND型フラッシュメモリーの40%、SKハイニックスはDRAMの40%とNAND型フラッシュメモリーの20%を中国で生産している。サムスン電子とSKハイニックスはこれまでに中国に合計で68兆ウォン(約7兆800億円)を投資した。 (サムスンが33兆ウォン、SKが35兆ウォン)

現在、サムスンは西安で128層NAND型フラッシュメモリー、SKハイニックスは無錫と大連でそれぞれ10ナノメートル台後半のDRAMと96・144層のNAND型フラッシュメモリーを生産しているが、「先端製造プロセスへの転換が不可能になれば、サムスン電子とSKハイニックスが中国で生産する半導体は来年から20%程度減る」とされる。

特にSKハイニックスはインテルから買収したNAND型フラッシュメモリーの大連工場が問題となる。インテルに昨年、買収代金の第1期分として70億ドルを支払い、2025年に残る20億ドルを支払うことになっているが、工場をアップグレードできない場合、相当な被害を受けることになる。

米商務省は3月21日、懸念国での半導体製造能力の拡張を伴う重要な取引を10年間行わないという条件の詳細を発表した。(この時点では仮案で、2023年9月23日、最終条件を発表した。)

     懸念国=中国、ロシア、イラン、北朝鮮

2023/3/13   米商務省、CHIPSプラス法による第1弾の資金援助申請の受け付け開始


韓国はこれの緩和を求めたが、今回、受け入れられなかった。

先端プロセスで5%、旧式プロセスでは10%という設備拡張制限条項さえ守れば、中国 子会社への輸出規制の適用が無期限で猶予される形とな った。

 


2023/10/13 米国、下院議長不在の混迷が続く

マッカーシー下院議長の解任を受け、共和党は10月11日、Steve Scalise 院内総務を議長候補に選んだ。

秘密投票を行い、強硬派のJim Jordan司法委員長を破った。情報によると、221名の議員のうち、111:39であった。

民主党は満場一致で Hakeem Jeffries 院内総務を候補に選んだ。


最終的には、下院本会議で過半数の217票が必要。

民主党(212議席)は党下院トップのJeffries 院内総務に投票する。

共和党のScalise 院内総務は、過半数獲得には共和党221議席のうち 217票を確保する必要があり、4人の造反しか許されない状況だった。だがCNNによると、スカリス氏の議長選出には20人あまりの共和党議員が反対している。

本会議で必要な過半数(217票)を確保できる見通しが立たず、Scalise 院内総務が10月12日、一転して辞退を表明した。

議長不在の混迷が続く。

  共和党 民主党 合計 欠員

合計

221 212 433 2

 

付記

米下院共和党は10月13日、次期下院議長候補を選出する投票を実施し、保守強硬派のJim Jordan司法委員長を選出した。この日の投票では、Jordan氏が124票を獲得し、ジョージア州選出のAustin Scott議員(81票)に勝利した。

しかし、本選挙の下院採決でJordan氏を支持するかどうかの信任投票では、賛成は152票で、反対が55票に達した。

下院議長選では過半数217票の賛成が必要で、投票を繰り返す。

ジョーダン氏は、トランプ前大統領が推薦する右派議員で、保守強硬派でつくる「フリーダム・コーカス(自由議連)」の創設メンバー。下院議長解任の原因となった強硬派議員と近く、党内穏健派の一部が反発している。

前回1月の下院議長選でマッカーシー氏が選出された際は、党強硬派の造反で決着までに15回の投票を要した。

2023/1/7   米下院の議長選挙、ようやく決着

 


付記

10/17 米下院議長選出投票で、必要な(棄権を除く投票議員の)過半数217票を得た候補がおらず、選出できず。18日再投票、過半数を得る候補がでるまで続ける。

        投票結果 共和党 民主党 合計 欠員
共和党 Jordan司法委員長:候補に選出 200   200  
Scalise院内総務:選出されるが辞退 7   20  
McCarty 前議長:解任動議可決 6    
その他(1名3票、4名各1票)    
民主党 Jeffries院内総務    212 212  
棄権   1  

合計

221 212 433 2

 

10/18    米下院議長選出投票で、2回目も必要な過半数217票を得た候補がおらず、選出できず。

        投票結果 共和党 民主党 合計 欠員
共和党 Jordan司法委員長:候補に選出 199   199  
Scalise院内総務:選出されるが辞退 7   22  
McCarty 前議長:解任動議可決 5    
その他(1名3票、7名各1票) 10    
民主党 Jeffries院内総務    212 212  
棄権        

合計 (過半数 217)

221 212 433 2


 

ジョーダン下院司法委員長は10月19日、共和党議員らとの数時間におよぶ非公開会合後、次期下院議長を選出する3回目の投票に臨むと表明した。

ジョーダン氏は当初、Patrick McHenry 下院議長代行の権限を拡大する案での投票を提案し、下院議長選への出馬を事実上辞退した。下院民主党やホワイトハウスは同案を受け入れたが、共和党議員の大半が拒否したという。

       10/20   投票結果 共和党 民主党 合計 欠員
共和党 Jordan司法委員長:候補に選出 194   194  
Scalise院内総務:選出されるが辞退 8   25  
McCarthy 前議長:解任動議可決 2    
その他(6票、4票、2票、1票x3人) 15    
民主党 Jeffries院内総務    210 210  
棄権 2 2 4  

合計

221 212 433 2

6 4  2、 1 1  1

投票後の秘密投票で共和党はJordan氏を112 対86で候補から外す。日曜までに立候補を募る。

10月22日(日)までの立候補は下記の9人、このなかから共和党としての候補を選ぶ手続きに入る。
  Tom Emmer、Mike Johnson、Kevin Hern、Byron Donalds、Austin Scott、Jack Bergman、Pete Sessions、Gary Palmer、Dan Meuser

10月24日午前の非公開会合
    投票前にDan Meuser、Gary Palmer が撤退
   次の順で落選 @Pete Sessions、A Jack Bergman、B Austin Scott、C Byron Donalds and Kevin Hern

 残ったのがTom Emmer、Mike Johnsonの2人で、下院共和ナンバー3のTom Emmer院内幹事 (117票)を議長候補に選んだ。Mike Johnson が次点。
 しかし、Donald Trump がEmmer指名に反対を表明。党内の反対にあって、
Tom Emmerは同日午後に就任を断念し、Mike Johnsonを支持した。

10月24日夜、Mike Johnsonを候補に選んだ。

  但し、Johnson は128票で、候補でないMcCarthyが43票を得た。 共和党議員221人、下院の当選には過半数の217票が必要


 

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