ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp


2023/7/17    米、学生ローンの一部免除対象を80万人に見直し

米教育省は7月14日、所得連動返済(Income-Driven Repayment、IDR)プランを見直した結果、およそ80万人がローンの一部を免除されると発表した。計390億ドル(約5兆4000億円)分の学生ローンを免除する。所得に応じた返済制度の運用に不備があったと説明した。

米連邦最高裁は2023年6月30日、バイデン政権による学生ローン返済の一部免除措置を無効とする判断を示した。
バイデン大統領は判決後の声明で「裁判所の決定は間違っている。全ての米国人に高等教育の約束を果たすために努力する」と訴えた。

ーーー

バイデン米大統領は2022年8月24日、学生ローンを抱える数百万人の借り手に対し1人当たり1万ドルの返済を免除すると述べた。

パンデミック下で特に大きな打撃を受けた労働者や中流階級の人々のための措置だとし、高所得世帯(所得上位5%)は対象外とする。

延長を繰り返し、8月末としていた学生ローンの返済猶予措置を年末まで延長するほか、年収125千ドル以下、夫婦の場合は合計25万ドル以下の世帯に対し1万ドルの学生ローンの返済を免除する。

低所得者層の学生を対象とするPell Grantsと呼ばれる連邦補助金の受給者に対しては最大2万ドルの免除を行う。

学生ローンの対象は約43百万人で、うち20百万人が債務全額免除となる。

2022/8/27 米大統領、学生ローン返済免除表明 

米連邦最高裁は2023年6月30日、最高裁はバイデン大統領が掲げる連邦政府に対する学生ローン債務の減免プログラムについて、権限を逸脱しているとして却下した。6対3の判断だった。

ロバーツ最高裁長官は、戦争や国家非常事態を想定している学生高等教育救済法のコロナへの運用は「行き過ぎ」と断じ、大規模な債務帳消しプログラムには議会の承認が必要であるとした。

2023/7/5 米最高裁、「学生ローン返済の一部免除措置は無効」など保守的判決が相次ぐ

ーーー

教育省は7月14日、約804千人の債務者に対して、総額390億ドルの連邦学生ローンが数週間以内に自動的に免除されることを通知すると発表した。

教育長官は、「長い間、債務者は免除への進捗状況を正確に追跡できない壊れたシステムの網の目から逃れられなかった。バイデン・ハリス政権は再び歴史的な一歩を踏み出し、804,000人の債務者に対して390億ドルの債務救済を発表した。過去の行政上の失敗を修正することで、公務員、大学に騙された学生、退役軍人を含む永久的な障害を持つ債務者と同様に、誰もが自分に相応しい免除を受けることを保証している 」と述べた。

今回の免除は、所得連動返済(Income-Driven Repayment、IDR)プランのもとで免除に適格な月々の支払いの正確なカウントをすべての債務者が持つことを保証するために行われる。

IDRプランは、政府の連邦学生ローン返済プログラムの一つで、借り手が所得と家族の人数に基づいてローン返済を管理できるように設計されており、標準的な一定返済プランに代わる選択肢となる。

借り手の月々の返済額は調整総所得から特定の貧困ライン額を差し引いた所得剰余に基づいて計算される。Income-Based Repayment(IBR)、Pay As You Earn等々、複数のタイプがあり、各プランには若干異なる適格基準、返済額計算、返済条件がある。

IDRプランでは、一定期間の継続した返済後にローンの免除が可能となる場合もあり、免除期間は通常、20〜25年程度であり、具体的なプランによって異なる。

民間学生ローンはこれらのプログラムの対象外。

 

ヘ育長官によると、免除基準を満たしているかを算出するに当たって長年にわたりミスがあった。

「この政権の開始時点で、数百万人の債務者がローンの免除を受けられたにもかかわらず、それを受け取っていない。それは許されないことだ」と述べた。

特定の期間において所定の免除条件を満たしたローン債務者が対象となる。

該当する免除条件を満たす債務者は、省庁によって免除の対象とされることが通知され、30日間で免除が開始される。

ーーー

バイデン米政権が学生ローンの減免を追求する背景の一つに、米大学の学費高騰がある。NPO「カレッジ・ボード」によると、米国の私立大学の2022会計年度の平均学費は年間39,400ドル(約570万円)で、各州の公立大は同10,940ドル(約158万円)だった。

大学の学費は約30年で2倍前後に高騰。部屋代や教科書代、移転費などを加えると、学生1人当たりの年間支出は私立大が57,570ドル(約830万円)、州公立大は27,940ドル(約400万円)にそれぞれ膨れ上がる。

米国の学生ローンは1兆7500億ドルで、大半が連邦政府のローンである。

連邦学生ローンは民間の学生ローンに比べて低金利で借りられ、返済プランが柔軟であるなど、民間の学生ローンよりも有利な点が多いが、全期間にわたって金利は定率であり、低利子のローンに借り換えすることが困難である上に、破産免責されないことが通常であるといった不利な点がある。

自己破産の場合、連邦政府の資金が返済されないことから、これを防ぐため、1998年10月8日以降、連邦学生ローンは自己破産した後も免責とならない厳しい措置がとられている

破産しても、取り立て業者から返済を迫られる。

 


2023/7/18  日本とサウジ、ブルーアンモニアで協力

岸田文雄首相は7月16日、中東3カ国歴訪の最初の訪問国、サウジアラビアの西部ジッダに政府専用機で到着、サウジのムハンマド皇太子と会談し、先端分野や医療・ヘルスケアなどの分野での協力を一層拡大させていくと同時に、中東地域を次世代燃料や鉱物資源供給のグローバルなハブにしていくためにサウジアラビアと協力していきたい考えを表明。重要鉱物の探査や精製、太陽光発電の整備、水素・アンモニアの製造・利用、e−fuelの活用といった分野での連携を多面的に進めることで賛同を得た。

両国は、クリーンエネルギー協力のための日本-サウジアラビア王国間のライトハウス・イニシアティブを設立することを決定した。水素とアンモニア、e-fuel(合成燃料)、循環型炭素経済/カーボンリサイクル、直接空気回収(DAC)、エネルギー部門とサプライチェーンの強靱化に必要な重要鉱物、持続可能な先端材料、研究と知見の交換などの分野に焦点を当て、クリーンエネルギーへの移行を導くライトハウス・プロジェクトを開発する。

その後の会見で、サウジアラビアと水素やアンモニアといった新エネルギーの分野で連携を強める方針を示した。「産油国と消費国という関係から脱皮し、脱炭素の時代での新たなグローバルパートナーシップへと進化させる」と表明した。

日本とサウジアラビアが脱炭素を実現するためアンモニアの共同生産に向けた官民の枠組みをつくる。

なお、岸田首相はこれに先立ち、ペルシャ湾岸6カ国が加盟する「湾岸協力理事会(GCC)」の事務総長と会談し、2009年以降、中断していた自由貿易協定(FTA)の交渉を2024年中に再開することに向けて事前協議を始めることで合意した。

ーーー

Aramco はエネルギー源としての水素の利用の先駆者であるとうたっている。

2019年Aramco Air Products Dhahran Techno Valley Science ParkにあるAir Productsの新しいテクノロジーセンターにサウジアラビア初の水素燃料ステーションを開設した。

 このパイロット ステーションでは、6 台のトヨタ のMirai 燃料電池電気自動車に高純度圧縮水素を燃料として供給する。
Aramco
blue ammonia の使用の先駆者でもあり、これは、信頼性が高く、手頃な価格で持続可能な方法で、世界の増大するエネルギー需要を満たすことに貢献できる。

化石燃料由来のアンモニアをグレーアンモニアと呼ぶ。

 

グリーンアンモニアは再生可能エネルギーでつくった水素で生産するもの。

 

ブルーアンモニアは、化石燃料由来であるが、CO₂のオフセットされているカーボンニュートラルな燃料


2020年9月、Aramcoと日本エネルギー経済研究所はSABICと提携し、日本の経済産業省の支援を受けて、サウジアラビアから日本への blue ammoniaの生産と輸送の実証に成功した。 40トンの高品位 blue ammoniaが日本に送られた。

回収されたCO2  30トンはSABICのIbn-Sina工場でメタノール製造用の原料として用いられ、別の20トンはAramcoのウスマニア油田で石油増進回収(EOR)のため利用された。

2022年4月には、Aramco とSABIC Agri-Nutrientsが、ドイツに本部を置く独立の試験・検査・認証機関TÜV Rheinlandから、世界で初めてブルー水素とアンモニア製造の第三者認証を取得し、同年11月に韓国へ向けて第三者認証取得済みブルーアンモニアの世界初となる商業輸送を行った。

Aramco と産業ガス大手Linde Engineeringは2023年3月15日、アンモニアの新たなクラッキング技術を共同開発するための契約を締結した。Aramco と同国のKing Abdullah University of Science and Technology(KAUST)が共同開発したアンモニア分解触媒を使用し、その他の触媒との比較評価を行う予定。両社は、アンモニアから水素を取り出すためのクラッキング技術を紹介する実証プラントをドイツ北部に建設する。リンデはこのクラッキング技術を顧客に提供し、低炭素エネルギーサプライチェーンにおける新たなビジネス創出を狙う。

2023年4月には、2020年の実証実験に基づき、SABIC Agri-NutrientsがAramcoの原料ガスから製造した第三者認証取得済みの低炭素アンモニア(ブルーアンモニア)が、サウジアラビアから日本に初めて輸送された。

AramcoとSABIC Agri-Nutrients、富士石油、商船三井によると、今回輸送された低炭素アンモニアは発電用燃料を目的としており、Aramcoから富士石油に販売され、同社の袖ヶ浦製油所で発電の混燃用として利用される。また、サウジアラビアから日本までの輸送は商船三井が手掛け、富士石油の子会社の日本オイルエンジニアリングが技術支援を行っている。

ーーー

日本とサウジアラビアが脱炭素を実現するためのアンモニアの共同生産に向けた官民の枠組みは次の通り。

2022年6月のAramco sustainability report によると、Saudi Aramco は2030年までにプラント新設で年間最大1100万トンのブルーアンモニア生産目標を掲げる。建設には数兆円を要する見込みだが、開発中の技術を使用するため、リスクもある。これに日本の官民が協力する。

日本エネルギー経済研究所は製造・運搬コストを分析、製品の適正価格や需要についても助言する。

三菱商事と三井物産が将来の出資可能性を視野に評価に加わる。
JOGMECは事業への債務保証の機能を提供する。
日本政府は日本側の取り組みへの財政支援を検討する。


2023/7/19  三菱ケミカルグループ、アブダビでCO2とグリーン水素由来のPPの商業生産を検討 

UAEのアブダビ首長国のMasdarと三菱ケミカルグループ、INPEXは7月17日、UAE訪問中の岸田首相の同席の下、世界初となる商業規模の CO2 およびグリーン水素由来のポリプロピレン製造を含むカーボンリサイクルケミカル製造事業の実現に向けた共同調査に関する契約締結を発表した。

アブダビ首長国は17年以上にわたり、太陽光、風力など再生可能エネルギーを中心に据えたMasdar Initiativeに注力している。Masdar(Abu Dhabi Future Energy Company) により実施され、太陽光・風力・水力発電、カーボン削減・管理、持続可能な開発、教育、製造、研究開発を行うもの。(Masdar はアラビア語で "the source" の意味)

Masdarは、世界各地で太陽光発電や風力発電プロジェクトに投資しているほか、2008 年からグリーン水素の研究にも取り組んでいる。2030 年までに年間 100 万トンのグリーン水素の生産を目標とし、複数の戦略的パートナーとグローバル協定を締結し、目標達成に向けた事業化検討を推進している。

Masdar の再生可能エネルギーに係るポートフォリオは世界40 カ国以上にわたり、投資額は 300 億米ドル以上となっている。また、保有する再生可能エネルギーの累計発電容量は 200 万kW を超えている。

2009/3/18 アブダビのMasdar Initiative

本共同調査は、e-メタノール(グリーン水素を原料とする合成メタノール)を原料とし、プロピレンを経由してポリプロピレンを製造するカーボンリサイクルケミカル製造事業の商業規模での実現可能性を検証するもの。

e の語源は Electric とされており、再生可能エネルギーで発電した電気を意味する。

原料となる水素の製造、CO2 の調達から e-メタノール、プロピレン、ポリプロピレン製造までのプロセス検証を行うと共に、本事業全体の経済性や CO2 削減効果を含めた事業化検討に取り組む。

メタノールは基礎化学品としての幅広い用途に加え、本事業から製造されるような e-メタノールのようにクリーンな船舶燃料用途としての需要も高まっている。本事業で製造されるPPは、従来の化石資源由来の製品に比べ、ライフサイクルベースでの CO2 排出量を大幅に減らすことが可能となる。

三菱ケミカルグループは日揮グローバルと共同開発したメタノールを原料にしてプロピレンを直接製造する技術を保有している。

石油を原料としないメタノール/ジメチルエーテル(DME)及び未有効利用オレフィン類を原料として選択的にプロ ピレンを製造する新技術DTP®(Dominant Technology for Propylene Production)プロセスを2007年度から共同開発


INPEX は、2022 年2月に発表した「長期戦略と中期経営計画」において、「水素事業の展開」および「カーボンリサイクルの推進」を含むネットゼロ 5 分野の拡大を掲げている。原料となる水素の製造と、CO2 の回収を行う本事業の実現可能性の追求は、か
かる目標に沿うものである。

 


2023/7/20   米レアアース生産企業 MP Materials の現状 ー レアアース磁石の供給網構築 

MP Materialsはネバダ州ラスベガスを拠点とし、レアアース(希土類)採掘と処理施設の所有・運営を手がける。

北米最大のレアアース鉱山のカリフォルニア州Mountain Pass鉱山を所有・運営するほか、その周辺地域の鉱業権、希土類鉱物処理・開発に伴う知的財産権を保有。セリウムやランタン、ネオジム、プラセオジム、サマリウムなどを提供する。

最終的にはレアアースメタル、アロイ、磁石を製造するプラントを建設中で、Mountain Passで採掘した原料をここで加工し、完全に国産の垂直統合の磁石のサプライチェーンを2024年に完成させる。

ーーー

Mountain Pass鉱山は1949年に発見され、Molybdenum Corporation of Americaが1952年に小規模の生産を開始した。

1962年にカラーTVに使うユウロピウムの需要拡大に対応し、生産を拡大した。
1965年から1995年まで、大規模生産を続け、世界のレアアースの需要の大部分を賄った。

1977年にUnocal が同社を買収、2005年にChevron子会社となったが、1998年に排水問題で分離工程を停止、2002年に環境規制と中国品の低価格攻勢により採鉱を停止した。

2008年にこの鉱山の再開のためMolycorp Minerals LLCが設立され、Chevronから鉱山を買収した。2011年から生産を再開した。

住友商事は2010年末、Mountain Pass鉱山の再開を準備中のMolycorp, Inc に投融資することを決めた。しかし、Molycorpは2011年9月16日、住友商事との間で上記の交渉を打ち切ることで合意したと発表した。

Mountain Pass鉱山の拡張・近代化のための781百万ドルの資金が増資や売上収入で完全に確保でき、住友商事の出資融資が必要ではなくなったとし、当初交渉した時と状況が著しく変わり、両社の株主にとり価値のある取引ではなくなったため、交渉打ち切りを決めたとしている。

2011/9/22  住友商事の米国レアアース企業への出資取り止め

2014年にWTOが中国のレアアース輸出規制を規定違反と認定し、中国は2015年からレアアース輸出枠を撤廃、2015年4月には輸出関税を撤廃した。これを受け、ネオジムやジスプロシウムの5月下旬の価格は4月比で20〜30%下がり、2010年以前の水準に戻った。Molycorpは苦境に陥った。

Molycorpは2015年6月25日、連邦破産法11条の適用を申請した。破産法の適用下で、米・カナダ事業の債務17億ドルを再編する。

2015/6/5 米レアアース最大手 Molycorp、社債利払い見送り  →Chapter 11 申請

2017年にMP Materials がMountain Pass鉱山と他のMolycorp の資産を買収した。

MP Materials は2020年7月31日、国防総省との間で米国でのHeavy Rare Earths 生産再開で契約を結んだと発表した。

国防総省は2020年12月にMountain Pass鉱山で軽希土類元素の処理を復活させるため960万ドルを出している。

2020/7/31 米国防総省、レアアース事業へ資金支援 

バイデン米大統領は2022年2月22日、レアアースなど重要鉱物の国内生産を後押しするための投資計画を発表した。

北米唯一のレアアース鉱山を米西部カリフォルニア州で運営するMP Materialsに対し、国防総省の支援プログラムから3500万ドルを投資し、Mountain Pass鉱山で重希土類元素(HREE) 採掘から分離・精製まで自前でできるようにする。

軽希土類に加え、重希土類の処理が出来ることで、MP Materials は高機能永久磁石を製造するのに必要な全てのレアアースを抽出・精製できるようになる。

Mountain Pass全景

Mountain Passでの採掘、処理に加え、MP Materialsは7億ドルを投じ、テキサス州Fort Worthでレアアースメタル、アロイ、磁石を製造するプラントを建設中である。Mountain Passで生産した原料をここで加工し、完全に国産の垂直統合の磁石のサプライチェーンを2024年に完成させる。

ネオジム磁石合金はおおよその重量比で、ネオジム(Nd) 23〜30%、ディスプロシウム(Dy) 2〜10%、鉄(Fe) 60〜65%、ホウ素(B) 1%、コバルト(Co) 3%、および微量の銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの成分から構成されている。

Nd、Dyなどの希土類元素は酸化物やフッ化物の形で希土鉱石の中に複数種含有されている。Montain Passの鉱石はNd2O2を多く含む。

  https://www.neomag.jp/mailmagazines/topics/letter200906.html

2022/2/25 米、レアアース国内生産 

米General Mortorsは2021年12月9日、米国内でレアアース材料の供給網を形成するため、MP Materialsと戦略的な提携を行うと発表した。これにより、ネオジム磁石の原材料を国内の鉱山から安定的に調達し、電気自動車(EV)の駆動モーターに使う高性能磁石に加工する体制を確立する。

またGMは同日、ドイツVacuumschmelzeとも協力し、「アルティウムモジュラーEVプラットフォーム」を使用する12以上のモデルで使用される電気モーター用永久磁石を製造する工場をアメリカに建設する計画を発表した。

ネオジム焼結磁石(NdFeB)は、モーターの重要部品だが、現在米国内にネオジム磁石を製造する能力は事実上ないという。

ーーー

住友商事とMP Materialsは2023年2月、MP Materialsが製造するレアアースの日本向けの独占販売代理店契約を締結した。

ネオジム・プラセオジム (NdPr) などのレアアース材料は、世界で最も強力なネオジム鉄ボロン磁石と呼ばれる永久磁石の原料で、この永久磁石は、脱炭素化に向けて需要拡大が見込まれる電気自動車や風力発電用モーター、各種電子機器などの先端産業に欠かせない部品である。

日本は中国からの輸入を主な供給源としているが、MP Materials製米国産レアアースの供給を通じて日本における調達の多様化、安定化に貢献する。

 


2023/7/24 先端半導体の中国向け輸出規制を強化 

経済産業省は7月23日、先端半導体分野の23品目を輸出規制の対象に加えた外為法の改正省令を施行する。5月23日に改正を公布、2カ月の周知期間を経て施行するもの。

ーーー

バイデン米政権は2022年10月7日、中国への半導体先端技術(14〜16ナノメートル以下のロジック半導体の製造などに必要な装置や技術)の新しい輸出規制を実施すると発表した。軍事開発に欠かせないAIやスーパーコンピューターに使われる先端半導体の輸出を制限、さらに特定の先端半導体を扱う中国企業の工場に対し、米国製の製造装置を販売することも原則禁止する。

2022/10/10   米国、半導体の対中輸出制限を拡大

米国は日本とオランダにも協力を求めていたが、 オランダ政府は6月30日、追加の輸出管理規制を9月1日から施行すると発表した。国の外交方針および安全保障政策次第で輸出許可ライセンスを停止することが可能という文言が含まれている。

オランダの大手半導体製造装置メーカーのASMLは、既に輸出制限の対象となっている極端紫外線(EUV)露光装置に加え、深紫外線(DUV)露光装置の出荷に関してもオランダ政府の輸出管理規制の対象となったと述べた。

2018年10月に中国の新興半導体メモリーメーカー、合肥長鑫(イノトロン)がASMLから最先端のEUV露光装置導入に乗り出した。安徽省の合肥市政府が出資する企業で中国政府の意向を反映した動きとみられた。軍事用途の半導体製造に使用される恐れがあるとする米国の圧力を受け、2019年に中国の顧客に対する最新鋭のEUV装置の販売を制限された。
旧式の深紫外線(DUV)露光装置の対中輸出は続けていた。(DUVは波長200nm程度、EUVは13.5nm)

日本は「国際的な安全保障環境が厳しさを増すなか、軍事転用防止目的としてWassenaar Arrangementを補完すもに半導体製造装置関する関係国の最新の輸出管理動向なども総合的に勘案し、特定の貨物及び技術輸出管理の対象に追加する 」こととした。

「高性能な先端半導体、これは軍事的な用途に使用された場合、国際的な平和および安全の維持を妨げる恐れがある」 西村大臣はこのように話し、高性能な半導体の製造装置について輸出管理を強化すると発表した。

2023/4/4   最先端の半導体製造設備の輸出規制強化

 

米国が成膜設備、日本がコータデベロッパ、オランダが露光装置を規制すれば、ほぼ生産不可能となる。

    

ーーー

半導体のサプライチェーンからの中国の締め出しを進める米国に足並みをそろえるもので、23品目を、米国や韓国など友好42カ国・地域向けを除く中国などに輸出するには、輸出時に経産省の審査を受け、経産相の許可が毎回必要となる。これまでは原則として許可は不要だった。先端半導体関連品の中国への輸出は難しくなる。軍事転用の防止が目的だとしている。

審査が簡略化されるのは、Wassenaar Arrangement加盟の米国や韓国、台湾など42カ国・地域(国際輸出管理レジーム参加国一覧表 参照)に限られ、中国は含まれていない。(ロシアは含まれている)

改正概要

国際的な平和及び安全の維持の観点から、高性能な半導体製造装置に関して、輸出管理の対象とするため、当該貨物の仕様等を追加。また、追加する貨物を使用するために設計したプログラムを輸出管理の対象とするため追加する。

【新たに輸出管理の対象となる品目(23品目)】

品目 具体例 メーカー
洗浄(3品目) 真空状態で不純物を除去する洗浄装置 SCREENホールディングス、東京エレクトロンなど
デポジション(成膜)(11品目) 極端紫外線(EUV)フォトマスク向けの成膜装置 東京エレクトロン、KOKUSAI ELECTRIC、アルバックなど
EUVフォトマスク向けの防護カバー ニコン、三井化学など
アニーリング(熱処理)(1品目)    
リソグラフィ(露光)(4品目) フッ化アルゴン(ArF)を使う液浸露光装置   ニコンなど
エッチング(化学的除去)(3品目) 記憶素子を立体的に積み上げるエッチング装置 東京エレクトロン、日立ハイテクなど
検査(1品目)    

 

中国はこれらの動きに猛反発しており、対抗措置が心配される。

中国のインターネット規制当局は5月21日、米半導体大手マイクロン・テクノロジーの製品について、ネットワークセキュリティー審査で不合格になったとし、重要インフラ事業者による同社からの調達を禁止すると発表した。

「マイクロンの製品にネットワークセキュリティー上の深刻なリスクがあることが審査で判明した。これは中国の重要情報インフラの供給網に大きな安全上のリスクをもたらし、国家安全保障に影響を及ぼす」としている。

 

2023/7/6   中国が半導体材料ガリウムなど輸出規制 



2023/7/25 シェブロン、東地中海で洋上LNGを検討 

日本経済新聞は7月24日の夕刊でシェブロンの天然ガス営業部門のトップとのインタビュー内容を報じている。

それによると、シェブロンは東地中海で洋上LNGプラントの設置を検討する。イスラエル沖の天然ガスをLNGにして欧州やアジアに輸出する。

年産能力は数百万トンで、事業費は少なくとも数千億円に上るとみられる。

2020年にNoble Energy の買収でシェブロンが取得したLeviathan大型ガス田などで生産したガスはパイプラインでイスラエルに出荷しており、同国はガス火力を増やして2025年までに石炭火力を廃止する計画であるが、Leviathan ガス田の回収可能な埋蔵量は6050億立方メートル(LNG換算で4億4000万トン:日本の需要の約6年分に相当)で、イスラエルだけでは消費しきれないため、余剰分のガスの行方に注目が集まっていた。

2022年9月の S&P とのインタビューで、シェブロンの担当副社長は米国と地中海のLNG事業を拡大する方針を明らかにしていた。

Chevron eyes US, East Mediterranean as key to LNG business growth

ーーー

米石油大手 Chevronは2020年に独立系石油ガス開発企業のNoble Energy, Inc.を買収した。

買収は、Chevronが Nobleの全株式取引額の50億ドル相当を買い取る株式交換方式で行う。Nobleの企業価値は130億ドルとされているが、同社の負債額は87.4億ドルに及ぶため、Chevronは50億ドルで買収し、債務を引き次ぐ。

Chevronはこの買収で、コロラド州のデンバー/ジュレスバーグ盆地、テキサス州とニューメキシコ州にまたがるパーミアン盆地の油田・ガス田を獲得した。シェブロンはこれらのシェールガス由来のLNGの取り扱いも強化する。

2020/10/2 米シェール各社、業績悪化に悩む Oasis PetroleumがChapter 11 申請 

Nobleはこのほか、イスラエル沖のLeviathan ガス田(2019/12 生産開始)、Tamarガス田(2013/3 生産開始)を持つほか、キプロス沖のBlock 12 ガス田を持っており、Chevronが引き継いだ。

イスラエル沖のTamarガス田からの天然ガスパイプラインがYam Tatisガス田で既存のパイプラインに接続され、2013年3月30日にAshdod天然ガス基地への天然ガス輸送が始まった。

これらの外側にはキプロスの鉱区がある。

同地区でのガス田探査は当初 British Gasが行ったが、ギブアップした。

2007年に米国のNoble Energyが36%出資し、イスラエルの Delek Drilling (31%)、Isramco (29%)、Dor Alon (4%)の3社が加わるコンソーシアムが引き継ぎ、2年間の努力の末に2009年にTamarガス田を発見した。

Tamarガス田のほか、Nobleは下記に参加している。

Leviathanガス田:
   Noble Energy 39.66%、Avner Oil & Gas 22.67%、Delek Drilling 22.67%、Ratio Oil Exploration 15%

キプロス Block 12:
   Noble Energy 100%(DelekとAvner が15%ずつ取得するオプション)

Leviathanガス田についてはキプロス(Cyprus) のBlock 12の分と合わせて海底パイプラインでキプロスに送り、キプロスで液化してLNGにして海外に輸出する構想があった。

なお、キプロスについては問題を含んでいる。

キプロス島は1974年以来、南北に分断されており、島の北部約37%をトルコ系住民による北キプロス・トルコ共和国(トルコのみが承認)が占めている。
南側のギリシャ系住民が住むのがキプロス共和国で、EUに加盟している。

トルコ政府はこれに参加する企業はトルコのエネルギー事業から締め出すと警告している。

2013/4/4 イスラエルで新ガス田からの天然ガス輸送開始  (出資比率等はこの時点のもの)


2023/7/26  中村修二氏ら、レーザー核融合の起業化

2014年に青色発光ダイオードの開発でノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏らが、2022年11月にレーザー核融合のスタートアップ企業を米国に設立した。2030年をめどに日本か米国で原発1基分相当の1ギガワットの商用炉を建設する。

設立したのはBlue Laser Fusion Inc.で、独自のレーザー、核融合炉の発明をもとに、レーザー核融合の商用化を目指すスタートアップとして、 中村修二・カリフォリニア大学サンタバーバラ校教授をCEO、早稲田大学ベンチャーズの太田裕朗共同代表をCTOとして、2022年11月に米国で創業登記された。

早稲田大学ベンチャーズは、早稲田大学の建学の精神「早稲田大学教旨」の1つである「学問の活用」を図るスタートアップ企業を創設し育成することで、学問の知見や研究成果を社会に実装し、人類社会の進化と幸福、ならびに持続可能性に貢献する事業と産業を創出することを本旨として2022年4月5日に設立されたディープテップ分野の創業投資に特化したベンチャーキャピタルである。

早稲田大学ベンチャーズは創業株主としてBlue Laser Fusion Inc.の株式を取得している。

Blue Laser Fusionは、独自のハイパワーレーザー発生方式、中性子を発生しないHB11燃料の組み合わせに基づくレーザー核融合方式を採用する方針を掲げている。 同社は創業半年で十数件の特許を米国などで出願した。強力なレーザーを繰り返し照射できる目処を理論上つけたという。燃料には重水素の代わりにホウ素を使い、中性子が出ない。
 

Blue Laser Fusion Inc.は、2023年7月にSPARX(未来創生3号ファンド)、JAFCOをリードインベスターとする総額25百万米ドルの初回資金調達を実施した。

ーーー

核融合は、重水素と三重水素の原子核をクーロン力を超えて融合させることでヘリウムと中性子を作り出すもの。このとき、ごくわずかな質量が失われ るが、失われた質量はすべてエネルギーとして放出される。
放出されるエネルギーは失われたエネルギーと光速の2乗の積に比例することから、莫大なエネルギーとなる。

今回はホウ素を使うため、中性子を発生しない。

核融合エネルギーには慣性閉じ込め核融合エネルギー(IFE) と磁場閉じ込め核融合エネルギー(MFE) があ る。

慣性核融合は核融合燃料を瞬間的に高温高密度に圧縮し、燃料自身の重さ(慣性力)で燃焼を維持させる方式で、レーザー核融合がその代表 。

これに対し、磁場核融合は低密度の燃料を磁場容器に長時間閉じ込めて核融合反応を起こさせる方式で、トカマク型がその代表。

世界中で様々な核融合技術の研究・開発が進められる中、レーザー核融合は、2022年12月に米国ローレンス・リバモア国立研究所が入力レーザーエネルギーを上回るエネルギーの出力を人類として初めて達成した 。

12月5日に行った制御核融合実験で、核融合を起こすために使うレーザーエネルギーよりも多いエネルギーの生成(核融合点火)に初めて成功した。この実験では、研究所に設置された施設の192個の巨大なレーザーでダイヤモンドで包んだ凍結水素を含む小さなシリンダーを爆破した。

1秒の100兆分の1未満の間に2.05メガジュールのエネルギーが水素シリンダーに衝突することで、核融合の生成分である中性粒子が流出し、約3メガジュールのエネルギーを生成した。レーザーパルス生成のためにエネルギーを消費したため、使ったエネルギーの約1.5倍のエネルギーを生成できたことになるとしている。

 

レーザー核融合発電では、まず炉の中心に直径5mmの球状燃料ペレットを打ち込み、これを数百万ジュールの高出力レーザーパルスで一様に照射 する。

レーザー照射を受けた燃料の外側は高温となり数千万気圧もの圧力が発生するので、球状の燃料はその中心に向かって圧縮され る(爆縮)。

こうして瞬間的に核融合反応を起こさせ、これを1秒間に数回の割合で繰り返すことにより、連続的にエネルギーが発生するので、これを外部へ導くことにより数百万キロワットの発電を行うことができ る。

   レーザー核融合技術振興会 
 


2023/7/27 FDA、がん治療薬の不足緩和のため、未承認の中国製の一時的輸入を許可

FDAは、アメリカ国内のがん治療薬の深刻な不足を緩和するため、未承認の中国製の抗がん剤を一時的に輸入することを許可した。

FDAのカリフ長官は6月2日に 「外国製の抗がん剤『シスプラチン』の一時的な輸入許可の措置を講じる」とツイッターで発表した。未承認薬の緊急仕入れ先は中国企業の斉魯製薬(Qilu Pharmaceutical)である。


シスプラチン(Cisplatin ; 化学名 (SP-4-2)-Diamminedichloroplatinum ; 分子式  Cl2H6N2Pt)はDNAなどの生体成分と結合して抗がん効果を発揮する抗がん剤で 、白金原子を持っていることから、抗がん剤の中では「白金製剤」に分類されている。

1845年に合成されたが、電場の細菌に対する影響を調べている時に、プラチナ電極の分解産物が大腸菌の増殖を抑制したことから、がん細胞に対する研究が行われ、製剤化され 、1978年に世界で承認された。日本では1983年に承認され、今では多くのがんに対して使われている。

副作用としては、吐き気、腎臓への障害、骨髄の機能の障害、神経への障害などがあるが、現在ではそれらの対策もしっかり行いながら治療ができるようにな っている。

以下の治療に単剤または他剤との併用で承認されている。

 ・膀胱がん。手術あるいは放射線療法などの他の治療法でで治療できない進行がんを有する患者に単剤で使用され る。

 ・転移した卵巣がん。手術または放射線療法による治療歴がある患者には、他剤との併用で用いられ る。標準化学療法で改善がみられず以前にシスプラチンの投与を受けたことがない患者に単剤で使用される。

 ・転移した精巣がん。手術または放射線療法を受けたことがある患者に他の薬剤との併用で使用され る。

ーーー

インドの工場でのトラブルが米国の抗がん剤不足につながった。グジャラート州Ahmedabad近くにあるIntas Pharmaceuticalsは、Gujarat 州のMatoda村の工場を含む複数の工場を運営している。

 この工場は、一般的に使用される抗がん治療薬シスプラチンのアメリカの供給の約50%を占めていたが、その事実はほとんど知られていなかった。

FDAの検査官は品質保証の「連鎖的な失敗」を含む広範な問題を発見した。Intas Pharmaceuticalsは問題を解決するために生産を一時中止したが、これによりシスプラチンの不足が発生し、これにより数十万人の患者に影響が及ぶ可能性がある。同社は現在、FDAと協力してアメリカ向けの製造を再開する予定だが、具体的な日程はまだ決まっていない。

過去1年間、子供用のアセトアミノフェンから抗生物質、注意欠陥多動性障害の治療薬まで、米国人は様々な薬剤の入手に苦労してきた。

ジェネリック薬品は、医療費を抑制し、アメリカでは処方箋の90%以上を占めるが、処方薬の支出の20%未満である。業界の競争が激化する中で、メーカーの利益が減少し、古くなった工場のアップグレードへの動機が少なくなっており、定常運転が近い状態の工場が故障に対して脆弱になっているとされる。この場合、単一の工場での混乱が、他のメーカーが差を埋めることができない広範な不足を引き起こす可能性がある。

米国の不足医薬品:不足が解決しても、新しい問題で不足が発生する。

 

Intas Pharmaceuticalsに加えて、シスプラチンを製造する他の4社がFDAに不足を報告し、「需要の増加」を挙げている。その不足は、さらにシスプラチンと同じIntasの工場で製造されていたカルボプラチンの不足にも寄与している。

カルボプラチンは、同じくプラチナを含む金属化合物で、がん細胞内の遺伝子本体であるDNAと結合することにより、がん細胞の分裂を止め、やがて死滅させる。

癌研究センターの連合体であるNational Comprehensive Cancer Networkは、5月に27のメンバーを対象に調査を実施し、70%から93%のメンバーがシスプラチンまたはカルボプラチンの不足に直面していると報告している。

 

ーーー

日本でも医薬品が不足となっている。

日本製薬団体連合会の調査では、5月末時点で薬価収載されている医薬品1万7062品目のうち、3847品目(22.5%)が薬局などで入手困難な「限定出荷」や「供給停止」の状態となっている。そのうち後発薬が約8割を占めている。

沢井製薬は2023年7月24日時点で限定出荷中の製品を262品目と発表した。

 

発端は「小林化工」の医薬品医療機器等法(薬機法)違反による2021年2月の行政処分(業務停止、業務改善)で、2021年3月には、後発薬大手「日医工」も業務停止命令を受けた。

2022年末までに、データ改ざんなどの悪質性の高い法令違反をした13企業が行政処分を受けた。行政処分にはならないものの、手順書通りに製造していない製品や、製造に問題があり規格不適合となった製品は出荷停止となった。

2021/2/12 小林化工に116日間の業務停止命令 

ジェネリック品以外でも、薬局に入荷せず、入手のため数軒の薬局を回るケースも多い。

20225月武田薬品発表

現在、製造および販売を武田薬品が行い、情報提供活動を大塚製薬と共同で実施しております「キャブピリン®配合錠(アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合錠)」について、他社製品の出荷調整の影響もあり、想定を上回るご注文をいただいております。
そのため、当該製品を継続的、 安定的にご使用患者様へお届けするためにも医療用医薬品卸様に対して割当出荷を実施させていただくことになりました。

ーーー

血液を固まりにくくする薬で、現在も 割当出荷が続いており、今回、5 軒目の薬局で購入できた。
 


2023/7/28 日産自動車、ルノーと対等出資で最終契約

日産自動車とルノーグループは7月26日、2023年2月6日に締結・公表された拘束力のある枠組み合意を踏まえた最終契約の締結を完了した。

日産とルノーは2月に、ルノーが保有する日産の株式を43.4%から日産側と同じ15%に引き下げ、対等に見直すことで合意している。最終契約締結を受け、ルノーは年内をめどに、保有する日産の株式のうち28.4%分をフランスの信託会社に移し、両社の資本関係は対等となる。

両社の抜本的な資本関係の見直しは、経営危機に陥った日産にルノーが約6000億円を出資した1999年以来となる。

付記 

ルノーは9月26日、日産、三菱自動車との共同購買契約を解消すると発表した。共同で取り組んできた取引や契約の見直しを進めており、個社での意思決定を迅速化する。自動車の電動化が進む中、国や地域で異なる規制に柔軟な対応をする狙いもある。

付記

日産自動車は12月12日、1200億円規模の自社株買いを実施すると発表した。

ルノー保有分のうち、フランスの信託会社に移していた28.4%の一部(5%に当たる2億1100万株)を取得する。取得した自己株式は株主還元や資本効率向上のためとして15日に全株消却する。

 

1.両社の出資関係

2023年2月6日に発表された通り、ルノーグループと日産は15%の株式を相互に保有することになる。

ルノーグループは現在所有する日産の株式のうち、今後も所有する15%以外の28.4%をフランスの信託会社に信託する。
ルノーグループは当該株式が売却されるまでの間、信託した日産の株式の全てに付随する経済面での権利(配当金と株式売却収入)を有する。

日産の株式28.4%が信託会社に信託されることに伴い、日産が保有するルノーグループの株式に付随する議決権が行使可能となる。ルノーグループおよび日産双方の議決権行使の上限は、行使可能な議決権の15%と定め、両社はこの範囲内で自由に議決権の行使が可能となる。

ルノーは現在、日産株の約43.4%を保有して議決権を持っているため、日産が保有する15%のルノー株には議決権がない。(フランス会社法では、40%以上の出資を受ける企業は出資元の議決権を持てない)

2018/11/22 日産自動車とルノーの資本関係 

ルノーグループは、同社にとって商慣習上合理的な場合、信託会社に信託した日産株式の売却を指示するが、特定の期間内に売却する義務は負わない。ルノーグループは日産と協調的で秩序あるプロセスにおいて自由に信託内の日産株式を売却できるが、日産は筆頭の売却候補として優先的な地位を有する。

2. 三菱自動車を含めた3社の協力

1) インド、ラテンアメリカ及び欧州において、事業面で高い価値を創造するプロジェクト

各社は新たにラテンアメリカ、インドおよび欧州においてウィン・ウィンで大規模かつ実行可能な主要なプロジェクトについて検討していく。その一つとして、ルノーグループと日産はインド事業への新規投資や新型車の投入を含む新たなコミットメントを発表した。

2) 各社の新しい取り組みにパートナーが参加可能となる、戦略的な機敏性の向上

電動化や低排出技術に関する既存の戦略に沿って、事業に付加価値が期待できるパートナー各社のプロジェクトに投資・協業することで合意した。

その一環として、日産はルノーグループが欧州に設立するEV&ソフトウエア新会社アンペアの戦略的投資家になることを決定した。

具体的には、アンペアの戦略的な投資家として同社へ取締役を派遣する為、最大6億ユーロの出資を決定した。

この投資は日産の電動化戦略に沿ったものであり、日産が欧州市場、そして潜在的には他市場において定めている目標や取り組みを補完すべく、様々なベネフィットやシナジーが生まれると期待される。


付記

三菱自動車は10月24日、仏ルノーが設ける電気自動車(EV)の新会社「アンペア」に出資すると発表した。出資額は最大で2億ユーロ(約320億円)。アンペアが開発・生産するEVを調達して自社ブランドで販売する。

 

ルノーは2022年11月、進行中の5カ年計画「Renaulution」のフェーズ1「復興(Resurrection)」、フェーズ2「刷新(Renovation)」を終了し、フェーズ3「革命(Revolution)」の段階に入ると発表した。

ルノーは以下の5つの事業分野に焦点を合わせた次世代の自動車会社を目指す。このうちスポーツカーのアルピーヌ(Alpine)はルノーグループの子会社であり、他の4分野は新会社を設立する。

アンペア(Ampere) 世界初のEV & ソフトウェア会社、2030年までに6車種のEVを投入
クアルコム、グーグルと提携しSDV(Software-defined vehicle)を開発
日産は最大6億ドルの出資を決定、取締役を派遣
Horse Project パワートレイン新会社 低排出ガス内燃機関(ICE)とハイブリッド技術を開発
アルピーヌ(Alpine) 本格的な高級スポーツカーブランドを目指す
モビライズ(Mobilize) ファイナンスを中心に、新たなモビリティ、エネルギー分野に参入
The Future Is NEUTRAL 自動車産業における循環型経済実現を目指す


米GoogleとRenault Groupは2022年11月8日、「Software Defined Vehicle」(SDV、ソフトウェア定義型自動車)のデジタルアーキテクチャの設計と提供を目的としたパートナーシップの拡大を発表した。

ルノーグループと米クアルコムは2022年11月、両社の戦略的提携を拡大することで合意した。 クアルコムグループは、ルノーが新たに設立する「Ampere(アンペア)」へ出資するほか、ソフトウェア定義型電気自動車向けのアーキテクチャの共同開発を目指す。

ルノーと中国自動車大手の浙江吉利控股集団は本年7月11日、ハイブリッド(HV)パワートレインエンジンを製造・供給する50/50 合弁会社 Horse Project を立ち上げる契約に調印した。投資額は最大70億ユーロ(約77億1000万ドル)。

Saudi Aramcoは2023年3月2日、ルノーグループと中国の浙江吉利控股集団(吉利グループ)が設立する新会社の少数株主になる基本合意書に署名したと発表した。アラムコは合弁会社に戦略的投資を行うかどうか検討中だという。


2023/7/31   日清紡、日立国際電気を連結子会社に

日清紡ホールディングスは 2023年5月31日開催の取締役会において、100%子会社である Nisshinbo Singapore Pte. Ltd.(日清紡シンガポール)と共同でのHVJ ホールディングスの株式の取得を決議し、株式譲渡契約を締結した。

本件株式取得に伴い、HVJ ホールディングスの子会社である日立国際電気の80%を取得(うち日清紡が 95%、日清紡シンガポールが 5%)、連結子会社にする。日立製作所が引き続き 20%を保有する。

日清紡グループは、戦略的事業領域を「モビリティ」「インフラストラクチャー&セーフティー」「ライフ&ヘルスケア」の 3 つに定め、無線・通信事業、マイクロデバイス事業ならびにブレーキ摩擦材・化学品・成形品・繊維などで構成されるケミカル事業を柱として企業活動を展開しており、無線・通信事業においては、日本無線が中核となって、防災システムや監視制御システムなどの社会インフラから船舶や自動車などの移動体通信機器に至るまで、幅広い無線・通信技術で世界に貢献している。

日立国際電気は高度な無線・通信技術によって官公庁向けをメインとしたソリューション事業などを展開しており、両社は技術面、販売面において補完関係にあり、中でも高速大容量通信技術や映像技術は親和性が高く、産業向けソリューション分野を中心に市場領域と技術領域の拡大が期待できる。

株式を取得するHVJ ホールディングスは、日立国際電気の買収のために設立した会社で、出資者は下記の通り。

日本産業第四号投資事業有限責任組合(日本産業パートナーズ所属) 28.52%
Manaslu Fund U, L.P.  23.83%
Shepherds Hill Fund U, L.P.  23.90%
Sonora Fund U, L.P.  23.75%

なお、当初は7月31日までに株式を取得するとしていたが、公取委による企業結合審査に時間がかかっており、条件が整い次第、速やかに実施する。

ーーー

日立製作所は、中核事業に経営資源を集中する一方、非中核事業は売却し、収益率を高める選択と集中を徹底するため、黒字の連結子会社 日立国際電気の売却を決めた。

日立製作所は2017年4月26日、KKR (Kohlberg Kravis Roberts) の所有するHKEホールディングス合同会社及び日本産業パートナーズが出資するHVJホールディングスとの間で、下記の契約を締結した。

第一段階  KKRの子会社HKEが日立国際電気を買収

第二段階  日立国際電気の成膜プロセス部門をHKEが取り込む。 

      HKEはKokusai Electric に改称 、映像・通信部門のみが残った日立国際電気株式の20%ずつを日立とHVJに売却

2017/5/3    日立、子会社の日立国際電気を売却


その後、2020年にKokusai Electric が日立国際電気持ち株をHVJに売却した。持ち株比率はHVJが80%、日立製作所が20%となった。

今後は次のとおりとなる。

 


 目次  次へ