これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は http://blog.knak.jp
ウクライナは穀物輸出で2つの種類の問題を抱えている。 黒海経由のアフリカ、中近東その他向けの輸出と、 近隣のEU各国向けの輸出である。
EU各国には陸路で運び、アフリカや中近東には黒海経由で運んでいる。
ロシア外務省は7月17日、黒海を通じたウクライナ産穀物輸出に関する合意「黒海穀物イニシアチブ」に関し、同日に期限を迎えたイニシアチブの延長に反対するとし、合意当事国のトルコ、ウクライナと国連事務局に通知した。これにより7月18日にイニシアチブの効力が停止し、黒海経由の輸出が出来なくなった。
2023/8/14 「黒海穀物イニシアチブ」 破綻の一因
対策として、ウクライナはドナウ川沿いの港を代替ルートにしようとしている。
ドナウ川はルーマニアとブルガリアの国境を西から東に流れ、黒海の近くで北上し、ウクライナとの国境で東に折れ、黒海に注いでいる。
オデーサからドナウ川沿いの港のレニやイズマイールまで穀物を陸路で運び、ここから船に乗せかえて、黒海の端などを通して輸出するもの。
但しロシアは、ドナウ川沿いの港までも標的にし始めた。7月24日、レニの港が攻撃されたのに続き、8月2日にはイズマイールの港が無人機で攻撃され、港の施設が損壊した。
ウクライナ政府はドナウ川河口付近に停泊地をつくり、そこで別の船に積み替えて輸出する計画に着手した。
ウクライナは現在、黒海経由に代わり、陸路でのEU各国経由の代替ルートに依存している。ウクライナ産穀物輸出の3分の1は黒海に面したルーマニアのコンスタンタ港から出荷されている。 最近はドナウ川を経由でコンスタンタ港に送られる量が増加している。
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ウクライナは現在、穀物の輸出を近隣各国を経由して行っているが、これら各国との間で問題が発生している。
戦争が始まった2022年から2023年初頭にかけて、近隣5カ国:ブルガリア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア向けのウクライナ産穀物の輸出は過去に例のない増加を見せた。これらの国でウクライナ産穀物はEUによる関税を免除されており、国内産穀物よりも割安になっている。
このため、ウクライナ産の穀物が大量に流入し、価格が下落し、5カ国で生産される穀物が国内市場および一部の輸出市場から締め出され、各国農家の抗議を招いた。
2023年4月にポーランドとハンガリーが一方的にウクライナ産穀物その他の食料の輸入を禁止した。ルーマニアはルーマニア経由の他国向け輸出のみ認め、国内での輸送は封印した状態で行うものとした。
EUは2023年5月、ポーランド、ルーマニア、ハンガリー、スロバキア、ブルガリアに対し、これら諸国を経由した輸出は継続する条件で、ウクライナ産小麦、トウモロコシ、油糧種子の国内販売を6月5日まで禁止することを認めた
。(その後9月15日まで延長)
7月19日、5カ国は輸入禁止措置について、少なくとも今年末までの延長を要請した。10月15日に総選挙のあるポーランドは強硬である。
付記欧州委員会は9月15日、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの東欧5カ国に認めていたウクライナ産穀物の輸入規制を、期限の15日以降、延長しないことを決めた。
欧州委員会は、こうした措置の効果で「5カ国での市場のゆがみはすでに解消した」と結論付け、今後、穀物の過剰供給を避けるため、ウクライナが輸出許可制度などの措置を30日以内に導入することで合意したと発表した。ウクライナは18日までに行動計画を提出する。
ポーランド政府は9月12日、自国農業への打撃を防ぐために実施しているウクライナ産穀物の輸入規制を15日の期限後も継続する方針を発表した。ポーランド政府に続き、ハンガリー政府も9月15日、ウクライナの農産物24品目について独自の輸入禁止措置を発表。スロバキア政府もウクライナ産穀物の輸入禁止措置を発表した。
ルーマニア政府はウクライナの行動計画の発表を待ち、対応を決める。
4カ国とも、ウクライナ産穀物の国内通過は引き続き、認める方針。
ブルガリア議会は9月14日、輸入規制の撤廃を議決している。
付記
ウクライナは9月18日、ウクライナ産農産物の禁輸措置を巡りポーランド、ハンガリー、スロバキアの3カ国を世界貿易機関(WTO)に提訴した。
ウクライナのゼレンシキー大統領は10月10日、まもなくウクライナの穀物をモルドバとルーマニアを経由して輸出する新しい「穀物回廊」が運用されると発表した。
付記
これに対し、ポーランドはウクライナへの武器供給の停止を宣言した。
9月30日のスロバキアの選挙ではウクライナへの軍事支援停止を主張する左派政党が第1党を確保した。
このため、ウクライナのカチカ通商代表は10月5日、3カ国に対するWTOでの訴訟手続きを中断すると述べた。穀物輸出を巡る緊張を緩和し、支援継続を図りたい考え。
2023/8/17 ベトナムのEVメーカーのVinFast、米市場上場
ベトナムの複合企業ビングループ(Vingroup)傘下のEVメーカー ビンファスト(VinFast LLC)が8月15日、特別買収目的会社(SPAC)のBlack Spade Acquisition Co. との合併を通じて米ナスダック市場に上場した。
評価額は1株当たり10ドルで230億ドルだったが、初値は22ドルで倍以上、その後さらに上昇し37.06ドルで取引を終了した。時価総額は850億ドルとなり、米自動車大手 Ford Motorの480億ドル、GMの460億ドルを上回ったが、比亜迪(BYD)の時価総額は下回った。
同社の2022年の損益は21億ドルの赤字。時価総額は上場初日の時価によるものであり、これが維持できるかどうかは不明。他社の時価総額とは区別する必要がある。
Vingroup創業者のPham Nhat Vuong が自身の旗艦会社と関連会社を通じて合併後のVinFast の99%を実質的に保有し、市場に出回る株数が極端に少ないことも影響する。
VinFast は米ノースカロライナ州で40億ドル規模の工場建設に着手している。
同社は今後1年半の間に戦略的投資家や機関投資家から資金を調達する見通しを示したほか、海外市場では直販ではなく、ディーラーと提携する方針を明らかにした。
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VinFast LLC は、ベトナムの電気自動車およびバイクメーカーで、ベトナム最大の財閥のVingroupの自動車部門。2017年に参入を発表して2019年6月には年産25万台のEV、50万台の電動スクーターを生産する工場を立ち上げた。一時はガソリンエンジン自動車を製造したが、2022年にはガソリン車から撤退し、以降の製品はEVと電動バイクである。目標は東南アジア最大のの自動車メーカーになることで、2025年までに年間50万台を製造する計画である。
2022年11月25日、北部ハイフォンの工場で製造した自社ブランドのEV 999台を米国向けに初めて輸出した。式典にはファム・ミン・チン首相ら政府要人も出席、首相は「歴史上初めて、ベトナムで製造されたEVがベトナムのブランドとして世界の自動車市場に参入する重要な節目だ」と、VinFast の事業をたたえた。
輸出されたのは、5人乗りスポーツ用多目的車(SUV)タイプのバッテリー電気自動車「VF8」で、最高出力は260kW、フル充電で約420キロ走行できるという。米国ではバッテリー込みで5万7千ドルから販売される。
同社は海外市場で、VF8と7人乗りのBEV「VF9」を合わせて6万5,000台の予約を確保しているという。今回の米国向け輸出に続き、カナダと欧州向けにも輸出し、2023年頭に納車を開始する。
個人顧客に加え、法人顧客への販売にも力を入れており、11月には米国最大級の自動車サブスクリプションサービス会社のAutonomyから2,500台を受注した。
工場は許可が下り次第、建設され、2024年7月の稼働を目指すとした。
インセンティブパッケージには、32年間にわたって支払われる3億1,600万ドルの雇用開発投資補助金(JDIG)のほか、工場建設予定地の用地、道路、上下水道インフラ整備費用(4億5,000万ドル相当)やコミュニティーカレッジでの人材トレーニング費用(3,800万ドル相当)も含まれている。また、工場が立地するチャタム郡から提供される4億ドルのインセンティブも盛り込まれている。
VinFast は2023年7月19日、米国ノースカロライナ州Chatham CountyのTriangle Innovation Pointに設立するEV組み立て工場の起工式を7月28日に行うと発表した。当初、2024年7月稼働としていたが、今回の発表によると、工場は第1段階で年間15万台の生産能力を持つように設計されており、2025年に稼働する予定。
VinFastは2023年5月12日、マカオカジノ界の大物ローレンス・ホーの持つ特別買収目的会社(SPAC)Black Spade Acquisition Coとの合併を通じて米国で上場すると発表した。2023年後半の手続き完了をめざし、合併後の企業価値は270億ドルと評価された。
同社は2年ほど前から、世界での事業拡大に向けた資金を調達するため、米国での新規株式公開(IPO)を模索してきた。
Vingroupと、グループの総帥Pham Nhat Vuongは最近、VinFastの世界展開を加速させるため、同社に新たに25億ドルを注入する方針も示した。
商船三井が出資する米エネルギー会社 Delfin Midstream, Incが事業費約52億ドルの洋上LNG生産プラント2基について年内にも事業化を目指す方針を明らかにした。2027年にも生産を開始する。陸上型に比べて環境への負担が軽く、低コストな海上型でLNGの生産を増やす。
商船三井は6月9日、米国のシェールガスを原料とした浮体式LNG生産設備(Floating LNG)の開発を行う Delfin Midstream, Incへの出資を決定し、同社と戦略的出資契約を締結した。これまでに培ってきたLNG船の建造や運航ノウハウを活かして、Delfin Midstreamのプロジェクト推進を支援するとしている。まずは最初のFLNGの最終投資判断(FID)に向けて共同で取り組む。
Delfinでは、「Delfinには長年、LNG輸送船を 浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU:Floating Storage and Regasification Unit)や浮体式LNG生産設備(FLNG:Floating LNG)へ改造してきた実績がある。それらのスキルを商船三井のノウハウと組み合わせることで、Delfinは北米からのクリーンで低コストなLNG輸出を促進することができる」と述べている。洋上プラントの場合、アジアの造船所で建造し、現場まで曳航すれば建設コストを10〜15%削減できるという。
ルイジアナ州 Grand Chenier 付近に天然ガスパイプラインのStation44 とGrand Chenier Station があり、そこから沖合にUTOS PipelineとGrand Chenier Pipelineがつくられている。
Delfin Midstreamの100%子会社のDelfin LNG LLCは、2014年にUTOS pipelineを購入した。その先の HIOS pipelineの長期access契約を結んでいる。
更にDelfin Midstreamの子会社Avocet LNGは Grand Chenier pipelineを所有している。
Delfin LNG はDepartment of Energy から米国とFTAを締結していない国々への年間1330万トンのLNGの長期契約での輸出の承認を得ている。
Delfin LNGはまずHIOS pipelineに2基の洋上LNG生産プラントを建設する。1基当たり能力は350万トン。
2022年から各社とLNG供給契約を結んでおり、1基分はほとんど確保した。
2022/7 Vitol Inc. 年間 50万トン
2022/8 Centrica plc 100万トン 2022/9 Devon Energy 100万トン 2023/4 Hartree Partners Power & Gas (UK) 60万トン
既に約4基分1330万トンの輸出承認を得ており、3-4基目も計画している。
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Delfin Midstreamは他にカナダ西岸のCedar LNG計画に参加している。(FEED phase段階)
Cedar LNG は カナダ西岸のBritish Columbia 州 Kitimat の先住民族 Haisla Nation の領土内に浮体式 LNG 施設(液化能力 年間 300 万トン)を建造、設置する計画である。天然ガスは Montney から調達することとなっており、Coastal GasLink パイプラインと送ガスに関し長期契約を締結済みである。また、Coastal GasLink パイプラインから Kitimat までは約 8km の新規パイプラインを敷設する。2027 年の稼働開始を予定している。
先住民族 Haisla Nation と Pembina Pipeline は 2021 年6 月8 日、Pembina が Haisla Nation のパートナーとなり、Cedar LNG プロジェクトの開発を共に行うというパートナーシップ契約を締結した。Pembina はそれまでPTE Cedar LP と Delfin Midstream Inc.が保有していたCedarLNG の持分を取得し、その結果、Haisla Nation と Pembina の所有権はそれぞれ 50%となった。
Delfin Midstreamはその後もテクニカルアドバイザーとして引き続き関与している。
近くでLNG Canadaが建設中 2018/10/5 三菱商事、LNGカナダプロジェクトに最終投資決定
完成予想図
韓国電池大手のSK Onは8月17日、米Ford、韓国のカソード(正極材)メーカーのEcoProBMと合弁でカナダにEV向けの電池材料工場を建設すると発表した。投資金額は12億カナダドル(約1300億円)。
カナダのケベック州Bécancourの27万平方メートルの敷地にリチウムイオン電池部材の正極材工場を建設する。2026年前半稼働で、量産時には年産4万5000トン(EV22万5000台に相当)を生産する。
新会社の名称はEcoPro CAM Canada LPで、EcoProBMのcore shell gradient (CSG) technologyを使い、NCM(ニッケル・コバルト・マンガン)正極材を生産する。
EcoPro CAM Canada LPはEcoProBMが本年2月に設立した。これにFordとSK on が出資する。日常業務はEcoProBMが担当する。EcoProにとってはハンガリーに続く海外進出となる。
EcoProBMは韓国で主に二次電池材料を生産するEcopro Co Ltd から正極材に特化した部門として分社化された。
2021年12月にEcoProBMがハンガリー東部のデブレツェン市にEV搭載用リチウムイオンバッテリーの正極材工場を建設することが発表された。同社にとって国外初の製造拠点となる。投資額が7億2,800万ユーロで、EV約135万台分に相当する年間10万8,000トンの正極材を生産する。
2022年10月、サムスンの電池部門のサムスンSDIとEcoPro BMの合弁会社は、韓国南東部の港町ポハンに生産能力で世界最大となるカソード材工場を完成させた。
新工場の建設プロジェクトにはカナダ連邦政府とケベック州政府が6億4400万カナダドルを財政支援して電池産業の誘致につなげる。
SK On は現在、EcoProBMの韓国の既存工場から正極材を調達して車載電池を生産しているが、Fordと組んで現地化を進める。
「この工場により、3社は素材(カソード)-部品(バッテリー)-最終製品(EV)のバリューチェーンを強化するとともに、核となるバッテリー素材の安定供給と価格競争力を確保することができる。北米での主要なバッテリー素材の安定供給を確保する取り組みの一環です」としている。
SK On は2022年7月に Ford とのEV用バッテリーのJV Blue Oval SK を発足させた。
テネシー州Stantonに1工場、ケンタッキー州Glendale に2工場を持つ。
電池工場の年間能力はテネシー工場が43GWh、ケンタッキー工場が86GWhで、合計129GWhとなる。フル稼働時にEV約220万台のバッテリーを供給できる。
2022/7/16 SKとFordのバッテリーJV 発足
SK Onはこのほか、北米に自社で2工場(合計21.5GWh)と現代自動車とのJV(35GWh )を持ち、北米での年間能力は180GWhを超える。(EVで約170万台)
2023/5/31 現代自動車、SK On とのJV 及び LG Energy SolutionとのJVで米国にバッテリー工場建設
2023/8/22 幻に終わった常温・常圧超電導物質 LK-99
「常温常圧で超電導性を示す物質を合成した」とする論文が韓国の高麗大学の付属研究機関「Quantum Energy Research Centre (Q-Centre)」に所属する研究チームによって7月22日に公開された。
The First Room-Temperature Ambient-Pressure Superconductor by Sukbae Lee、Ji-Hoon Kim、Young-Wan Kwon
同論文は査読前だが、科学雑誌「Science」も「事実なら即ノーベル賞モノの大発見」と期待感を示した。
超電導は特定の物質を冷却すると、一定の温度以下で電気抵抗がゼロになる現象のこと。これまでは、比較的高い温度で超電導性を示す「高温超電導体」でもマイナス170度以下まで冷却する必要があった。
超伝導状態下では、マイスナー効果(完全反磁性)により外部からの磁力線が遮断され(磁石と超伝導体との間には反発力が生ずる)、電気抵抗の測定によらなくとも、超伝導状態であることが判別できる。
研究チームは、銅を添加した鉛ベースの合成物質「LK-99」を開発した。
論文では、ラナルカイト:Pb2(SO4)O とリン化銅:Cu3P をモル比1:1の割合で粉砕して混合物を真空排気した石英管に密封した上で925℃まで加熱すると化学式Pb10-xCux(PO4)6OのLK-99が形成されるとしている。
LK-99は常温かつ常圧であれば超電導性を維持でき、水が沸騰する温度以上(127度まで)でも超電導性を示すという。
また、LK-99は、磁場を打ち消すマイスナー効果を発現し、近くの磁石と反発して浮遊することができた。但し、完全な浮遊ではなく、部分的な浮遊である。
LK-99の臨界温度は127℃(261°F)で、これが確認されれば、LK-99は唯一の常温超伝導体となる。
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しかし、世界中の研究者たちによる追試により、常温・常圧超電導物質ではないこと、および、常温・常圧超電導物質と思わせるような振る舞いをした理由が、わずか2週間強で判明した。
決定打となったのは、以下の中国の2つの論文。
1.First order transition in Pb10−xCux(PO4)6O (0.9<x<1.1) containing Cu2S
by Shilin Zhu, Wei Wu, Zheng Li, Jianlin Luo (Beijing National Laboratory for Condensed Matter Physics and Institute of Physics )
2.Ferromagnetic half levitation of LK-99-like synthetic samples
by Kaizhen Guo, Yuan Li, Shuang Jia(Peking University)
論文1 では純粋なPb10−xCux(PO4)6Oで追試したところ、転移温度以下でのゼロ抵抗は観測されなかったとしている。
報告のLK-99は純粋なPb10−xCux(PO4)6O に不純物のCu2Sが混じっており、CU2S(硫化銅)は、385K付近で相転移を起こし、それ以下の温度で電気抵抗が大きく下がるが(ただし、ゼロではない)、論文の研究者たちはそれを超電導と勘違いしたと結論付けている。
論文2でも、粉末X線回折により不純物のCu2Sが含まれていることを確認している。
そして、一部の小さな薄片状の断片では、Nd2Fe14B磁石(ネオジム磁石)の上で「ハーフ浮上」と呼ばれる現象を成功裏に観察した。この小さな断片と浮上しなかった大きな断片における磁化測定を使用して、サンプルが弱いながらも明確な軟強磁性成分を普遍的に含んでいることが分かった。
小さな断片の顕著な形状異方性と共に、軟強磁性が強力な垂直磁場中で観察されるハーフ浮上を説明するのに十分であると考える。
論文2の研究者のサンプルにはメイスナー効果や零抵抗の存在は示されておらず、超伝導を示していないと考える。
ちなみに、LK-99が超電導物質であれば、完全に浮いて、空中にピン留めされるはずだが、その現象は、元の論文でも観測されていない。磁石の上を浮遊する本物の超伝導体は、空中でクルクル回転させることが可能で、逆さまに保持することさえできる。
また、アメリカとヨーロッパの研究者による別の研究では、実験的証拠と理論的証拠を組み合わせて、LK-99が超伝導体として実現不可能なものであることが実証された。さらに、別の研究グループはLK-99のサンプルを合成し、この物質が超伝導体ではなく絶縁体であることを証明した。
なお、これら2つの論文を含め、追試論文の大半が中国の研究者によるものであるという。中国全体がこの手の基礎研究に大きな力を注いでいることが分かる。
2023/8/23 厚労省の専門部会、エーザイのアルツハイマー治療薬「レカネマブ」の国内での製造販売承認を了承、近く承認へ
厚労省の専門部会は8月21日、エーザイと米 Biogenが共同開発したアルツハイマー治療薬「レカネマブ(商品名レケンビ)」について、国内での製造販売承認を了承した。今後、厚労相が正式承認する。正式に承認されれば、認知症の原因物質を除去する初めての治療薬となる。
付記
武見厚生労働相は9月25日、アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を正式に承認した。進行を遅らせる効果を証明した国内初の薬となる。薬価の決定を経て、年内にも医療現場で使えるようになる見込み。
付記
中央社会保険医療協議会は12月13日、「レカネマブ」を保険適用する薬価を承認した。
1瓶200ミリグラムは4万5777円、500ミリグラムは11万4443円で、12月20日から保険適用される。
体重1`あたり10ミリグラムを2週間に1回、1時間程かけて点滴する。使用期間は原則1年半となる。体重が50キロの人の場合、年間費用は298万円になる見込み。
実際の患者の負担額は「高額療養費制度」が適用され、数万円程度に抑えられる。
付記
2023/1/9 エーザイのアルツハイマー治療薬、FDAから迅速承認を取得
2024/1/11 アルツハイマー治療薬「レカネマブ」、中国で承認
2024/11/15 EC欧州医薬品委員会、エーザイのアルツハイマー治療薬レカネマブの承認勧告
アルツハイマー型認知症は脳内にベータ・アミロイド(Aβ)が凝集し、中間体(Aβプロトフィブリル)が神経変性過程を誘発・促進すると示唆されている。
アルツハイマー病免疫療法には、Aβを投与して生体内でAβに対する免疫反応を惹起させるワクチン療法や、Aβをターゲットとしたモノクローナル抗体を投与する抗体療法がある。
LECANEMABは、アルツハイマー病に対する免疫療法剤創製を目的としたヒト化モノクローナル抗体で、ベータ・アミロイド(Aβ)を分解除去する。
既存の認知症薬は神経の働きを活発にして症状の緩和を図るが、レカネマブは病気の原因となるAβを除去し、進行を抑えることを狙う。
対象は、軽度認知症と、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の人。壊れた神経細胞の再生は難しいため、症状が進んだ人は対象となっていない。
投与前に脳内にAβがたまっていることを検査で確認。2週間に1回、静脈内に点滴で投与する。
ベータ・アミロイド(Aβ)蓄積の検査方法
(現状)PET検査 (高価)
・体にPET診療用放射性薬剤を注射する。
・投与後約90分で検査薬が異常蛋白と結合する。
・その後、PET装置にて頭部を撮影し、脳内の異常蛋白の蓄積をカラー画像で診断する。
シスメックスは微量の血液からAβの蓄積状態を調べる検査試薬について製造販売承認を取得
約1800人が参加した国際的な臨床試験(治験)では、18カ月の投与で、偽薬と比べて記憶力や判断力などの程度を評価するスコアの悪化が27%抑えられた。一方で、薬を使った人の12.6%に脳内の浮腫、17.33%に微小出血が報告されるなど副作用も確認された。
エーザイとBiogen, Inc.は2022年11月30日、LECANEMABについて、大規模なグローバル臨床第V相Clarity AD検証試験の結果を第15回アルツハイマー病臨床試験会議において発表した。
プラセボとの比較で認知機能の低下を27%抑制したことを報告した。
2022/9/29 エーザイ、アルツハイマー病の新薬で “症状悪化抑える効果確認”
米国では、レカネマブを使う前に、検査で副作用が出やすいとされる遺伝子型かどうかを調べることが推奨された。
この日の部会では、国内では遺伝子検査は求めないが、投与後に脳内の出血を調べることや、血栓を溶かす薬を飲んでいる人への注意喚起を確認した。
8月中に厚労相が承認した場合、実際に日本の医療現場で使えるようになるのは早くて10月、遅くとも11月になる見通し 。
承認後に実際の医療現場で使用するには、 健康保険などの公的医療保険の適用対象とするため薬価を決める必要がある。算定議論は製造販売承認より原則60日から90日ほどかかる。
米国での発売価格 は年間 26,500 ドルで、高齢者向け公的医療保険 Medicare の適用対象になれば、自己負担額は1日あたり14.5ドルになると推定している。
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エーザイとBiogenは2014年3月に提携を開始した。
現状は次の通りで、アリセプトを除き、開発で提携している。
エーザイ |
アリセプト 〈提携対象外〉 (donepezil) |
エーザイの杉本八郎博士らが開発 |
アルツハイマーでは、神経伝達物質のアセチルコリンが脳内で減少している。
アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害することで、アセチルコリンの濃度を高める。 |
新規ヒト化モノクローナル抗体 「BAN2401」LECANEMAB 今回厚労省が承認へ |
2007/12 スウェーデンのBioArctic Neuroscience ABから全世界の研究・開発、製造、販売の独占ライセンスを受ける。 | アルツハイマー病の原因と考えられるベータ・アミロイド成分を除去 | |
βサイト切断酵素(BACE)阻害剤 elenbecestat「E2609」 x試験中止 |
エーザイが創製
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アミロイド前駆体タンパク質のβサイト切断酵素であるBACEを阻害することでβアミロイドの総量を低下させる。 | |
Biogen |
抗アミロイドβ(Aβ)抗体 aducanumab(ADUHELM)
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Neurimmune社より共同開発およびライセンス契約締結のもとに導入 |
アミロイド斑(プラーク)は、アミロイドβ蛋白が蓄積したもので、アルツハイマー病患者の脳にみられる。
aducanumab 投与でアミロイドプラークのレベルを下げる |
抗アミロイドβ(Aβ)抗体 aducanumab(ADUHELM)
米国
x→ 申請→FDA優先審査2021/6/7 FDA 迅速承認
2021/6/8 エーザイとバイオジェンのアルツハイマー新薬、米で承認 (迅速承認)→監査部門に調査を要請
2022/4/11 バイオジェンのアルツハイマー薬、米 Medicareが給付対象を大幅制限日本
厚労省 継続審議
2021/12/24 エーザイのアルツハイマー新薬、再審議
2023/8/24 DuPont、ポリアセタール樹脂 Delrin事業を売却
DuPontは8月21日、ポリアセタール樹脂 Delrin事業の80.1%をプライベート エクイティ会社のTJC(旧Jordan Company)に18億ドルで売却する契約を締結したと発表した。年末には取引が完了する見込み。
ホルムアルデヒドを原料としたポリアセタール樹脂 (POM) Delrin®は1952年頃にDuPontにより初めて合成され、1956年に特許取得、1960年にWest Virginia州のParkersburg工場が完成した。
TJC(旧Jordan Company)は 1982 年に設立された中間市場のプライベート エクイティ会社で、41 年にわたる投資と成長への貢献の実績を持 つ。テクノロジー、通信、電力、物流とサプライ チェーン、消費者製品、ヘルスケアなど、幅広い業界にわたる多くのビジネスを行っている。
DuPontは税引前で12.5億ドルの利益を計上する見込みで、引き続き事業の19.9%を保有する。
DuPontのCEOは「当社が計画していた旧M&M部門からの撤退がほぼ完了する」と述べた。
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1)Rogers Corporation 買収
DuPontはエンジニアリング素材メーカーの米Rogers Corporation を約52億ドルで買収することで合意した。
Rogersは電気自動車(EV)や高速通信規格「5G」関連機器向けの高周波用プリント基板材料など、高機能・高付加価値の先端電子部材に特化し、北米、欧州、アジアに計14カ所の生産拠点を持つ。2021年通期の売上高見通しは約9億5000万ドル。
DuPontはEV向け部材など高付加価値製品を成長分野と見なし、事業シフトを進めている。
2) Mobility & Materials segmentの大半の事業の売却
3) これらにより、electronics, water, protection, industrial technologies and next generation automotiveに焦点を当てた高成長、高収益市場での位置を高め、収益向上を図る。
DuPontは2022年2月18日、Celanese Corporationとの間でMobility & Materials (M&M) segment の大半を売却する契約を締結したと発表した。
売却対象は、Engineering Polymers 事業と、Performance Resins and Advanced Solutions business lines のなかの特定の製品ラインで、売却額は現金で110億ドルとしている。
これらの事業の2021年の売上高は約35億ドルで、EBITDA(税引前利益+支払利息、減価償却費)は8億ドルであった。
Mobility & Materials segmentのなかの Auto Adhesives, Multibase and Tedlar® product lines は対象に含まれていない。
この時点で、DuPont は、別途某社とアセタールホモポリマーのDelrin® businesss の売却を進めているとしていた。これが今回発表の取引である。
Mobility & Materials segment の製品で売却対象と対象外は下図のとおり。
2022/2/22 DuPont、Mobility & Materials Segment の大半をCelaneseに売却
なお、上図ではDuPont Teijin Films JV も売却対象に挙がっている。
帝人は2017年10月10日、DuPontと共同で、米国、英国、ルクセンブルグ及び中国のポリエステルフイルム事業の合弁会社4社の所有持分全てをIndorama Netherlands B.V.に売却することを決定したと発表した。
実際には、この売却が頓挫した。この結果、Indoramaに売却する予定であった4か国のJVだけが、いまだに帝人とDuPontの事業として残った形となっている。
2020/2/1 デュポンと帝人、フィルム合弁を再び売却へ
東京電力は福島第一原発にたまる処理水について、海への放出に向けて大量の海水を加えてトリチウムの濃度を測定した結果、想定どおり薄められていることや気象条件に問題がないことが確認できたとして、政府の方針に基づき、8月24日午後1時ごろに放出を始めた。
政府は8月22日の関係閣僚会議で、基準を下回る濃度に薄めた上で、24日にも海への放出を開始することを決めた。
東京電力は放出に向けた準備作業を始め、大量の海水と混ぜ合わせた処理水を「立て坑」と呼ばれる設備にためた上で、トリチウムの濃度を確認した。分析の結果、トリチウムの濃度は1リットルあたり43から63ベクレルと、国の基準の6万ベクレルを大きく下回り、放出の基準として自主的に設けた1500ベクレルも下回っていて想定どおり薄められていることが確認できたと発表した。
放出の完了には30年程度という長期間が見込まれ、安全性の確保と風評被害への対策が課題となる。
福島第一原発では、事故の直後から発生している汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む処理水が1073基のタンクに保管され、容量の98%にあたる134万トンに上っている。
原子炉建屋への地下水・雨水の流入量を減らすため、地下水のくみ上げや凍土壁(陸側遮水壁)等、重層的な取組みを実施してきた結果、汚染水発生量は、対策前の約540m3/日(2014年5月)から、約140m3/日(2020年平均)まで低減している。
実際には、敷地内のタンクに保管されている処理水のうち、およそ7割は、トリチウム以外の放射性物質を除去しきれておらず、放出するための基準を満たしていない。
原子力規制委員会が認可した福島第1原発の実施計画では、ALPSの設置目的はトリチウム以外の放射性物質の濃度を基準値未満に下げることと明記している。
2018年8月に河北新報が、2017年度にヨウ素129が法律で定められた放出のための濃度限度(告示濃度限度)を60回、超えていたと報じた。
それまで東京電力はこれを明らかにしていなかったが、2018年9月28日、汚染水を浄化した後にタンクで保管している水の約8割に当たる75万トンで、トリチウム以外の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を超過しているとの調査結果を明らかにした。今後、海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化するとした。
政府は2021年4月13日、関係閣僚会議を開き、福島第1原発の汚染処理水の放射性物質の濃度を国の放出基準より下げた後、海に流す方針を決めた。
タンクの水の7割は、放射性物質の濃度が国の放出墓準を超えているため、放出前に、濃度が基準未満になるまでALPSに通す。その後、技術的に取り除けないトリチウムについて、福島第1原発の地下水の放出基準(1リットルあたり1500ベクレル)を下回るよう、海水で100〜1700倍に薄める。2020/10/28 福島原発、汚染処理水の処分問題
このため、放出する前にはトリチウム以外の放射性物質の濃度が国の基準を下回る濃度になるまで処理を続ける(二次処理)。
二次処理した水はタンクに入れてかき混ぜ、均質にした上で、基準を満たしているか実際に測定して確認する。
この作業には1回あたり2か月程度かかることから、作業は3つのタンク群に分けて行われ、連続して放出できるようにする。
放出作業は、原発内の免震重要棟にある集中監視室から遠隔で行われ、作業員が画面を操作してポンプを動かし、処理水を海水と混ぜたうえで「立て坑」に流し込む。
「立て坑」からあふれ出ると、沖合1キロの放出口につながる海底トンネルに流れ込んで海に放出される。
今回の放出は、7800トンの処理水を海水で薄めた上で17日間の予定で連続して行うとしており、今年度全体の放出量はタンクおよそ30基分の3万1200トンを予定している。放出期間は30年程度に及ぶ見込みで、長期にわたって安全性を確保していくことが重要な課題になる。
東電は、放出後の風評対策については、「政府とともに風評影響を最大限抑制すべく取り組んでいきたい。特に安全と品質を確保した上で海洋放出し、科学的根拠に基づき迅速で的確な情報発信を行っていきたい。そして、こうした対策を取っても風評被害が発生した場合は適切に賠償していきたい」と述べた。
漁業関係者は放出決定に、2015年の約束を破ったとして不満を表している。処理水の安全性については理解したということで、海洋放出を理解して受け入れたわけではないというのが全漁連・県漁連の考えである。
2015年にサブドレン計画が出された。第一原発の山側からは地下水が建屋側へ流れ込み、これが内部の溶融燃料に触れて汚染水が増える要因となっている。「サブドレン計画」は、建屋内に流れ込む地下水を減らし高濃度汚染水の増加を抑えることなどが目的で、原子炉建屋を囲む41本の井戸から地下水をくみ上げ、浄化装置で処理し、放射性物質の濃度を基準以下にして海に放出する。地下水を150トンに半減できると試算した。
これについていろいろあったが、最終的に福島県漁連は2015年8月11日、条件付きで計画を容認する文書を国と東電に提出した。
東電は2015年8月25日付で廣瀬直己社長名で回答している。
東京電力(株)福島第一原子力発電所のサブドレン水等の排水に対する要望書に対する回答について
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香港政府は8月22日、処理水の放出が始まる24日から、福島など10都県の水産物を禁輸にすると発表した。禁輸対象は福島のほか、東京、千葉、栃木、茨城、群馬、宮城、新潟、長野、埼玉の10都県で、中国本土がすでに実施している規制にあわせた。
中国政府は福島原発事故の発生にともない、日本から輸出される食品などについて、福島県など10都県産のものは輸入停止、それ以外については日本の政府機関による証明書を求めている。
さらに、7月のALPS処理水放出に関する国際原子力機関(IAEA)の報告書公表を受け、水産品を中心とする日本からの輸入食品に対する税関での検査を強化している。7月の日本からの生鮮の魚の輸入額(ドルベース)は前年同月比
56.8%減となった。
今回の放出を受け、中国政府はこれまでの10都県の水産物の輸入禁止を、24日から全面的禁輸とする。
税関総署告示2023年第103号(日本産水産物の輸入全面停止)
福島原発からの放射性物質を含む廃水の海洋放出による食品の放射性汚染リスクを防ぐため、中国の消費者の健康を守り、輸入食品の安全を確保するために、『中華人民共和国食品安全法』およびその施行規則、『中華人民共和国輸入・輸出食品安全管理規定』の関連規定、および世界貿易機関の『衛生および植物防疫措置に関する協定』の関連規定に基づき、2023年8月24日以降、中国税関総署は日本産の水産物(食用水生動物を含む)の輸入を全面的に一時停止することを決定した。
付記
中国の国家市場監督管理総局は8月25日、食品生産事業者に対して日本産の水産物を使った加工食品の製造や調理や販売を禁止すると発表した。さらに、食品の安全に関する検査を強化し、違反があれば厳重に対処するとしている。
また、中国各地で塩の買占めが発生していることを受け、関係各所と連携して異常な価格変動や違法行為に関する監視を強化すると発表した。
2023年8月25日 水産物の食品安全監視および食塩価格監視の取り組みを強化
8月24日、日本政府は国際社会の強い疑念と反対を無視し、一方的に福島の核汚染水の海洋放出を強行した。これは極めて自己中心的で責任を持たない行動である。
市場監督総局は、日本産の水産物(食用水生動物を含む)を原料とした加工食品や調理済み食品の販売(オンライン販売を含む)を厳しく禁止し、市場で販売される輸入水産物の食品安全抽出検査を強化し、関連する違法行為が発見された場合には法律に基づき厳正に対処する。
韓国の韓悳洙首相は「基準に合わない放流をした場合、中断および説明を要求して二国間協議違反と判断されれば国際的提訴を行う」と明らかにした。
南アフリカで首脳会議を開催中のBRICS 5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は8月24日、新たに6カ国がメンバーとして加入すると発表した。2024年1月付で正式なメンバーとなる。
加入を申請している国のうち、アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国を正式に招待することが決まった。
付記
アルゼンチンの次期政権の首脳は11月30日、「BRICSに参加しない」と明言した。左派のフェルナンデス政権の方針を転換する。
アルゼンチンの極右のミレイ大統領は12月22日付けの書簡でBRICSに参加しない意向を通達した。新政権の外交方針が多くの点で前任の左派のフェルナンデス前政権と異なるとした上で、今はBRICSに加わることが「適切ではない」と表明した。
しかし、現加盟国との関係は維持したい考え。付記
パキスタン政府は11月23日、BRICSへの加盟を正式に申請したと発表した。(パキスタンは下記の正式加盟打診国には含まれていない。)
パキスタン外務省報道官は、「BRICSが包括的な多国間主義への寛容性を宣言していることに注目し、我々はこの決定を下した。 同グループに参加することで、パキスタンは国際協力の促進と包括的な多国間主義の活性化において重要な役割を果たすことができる」と述べ、「パキスタンはBRICSのほとんどの加盟国および新たに招待された国々と友好関係を築いている」と付け加えた。
パキスタンはインドとは領土問題などで争っており、インドが認めるかどうかが問題となる。
付記
2024年1月1日にエジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の5カ国が新たに加盟し、既存のBRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)と合わせて加盟国は計10カ国になった。
新規加盟が承認されていたアルゼンチンは、2023年12月に就任したハビエル・ミレイ大統領が加盟を見送っている。
BRICSは「Global South」と呼ばれる新興国・途上国を結集し、欧米主導の国際秩序に挑む狙い。
産油国のサウジとUAEには豊富な資金力があり、BRICSが独自に進める途上国向けの開発融資を強化できる。
エジプトとエチオピアは人口が1億人を超える地域大国であり、
アルゼンチンは隣国のブラジルが加盟を強く後押ししていた。
核開発を巡り欧米と対立が続くイランの加盟もあえて認めた。
2009年にブラジル、ロシア、インド、中国のBRICs 4か国の第一回の首脳会議がロシアで開催された。第二回首脳会議は2010年4月にブラジルの首都ブラジリアで開催された。
2011年の第三回会議に先立ち、2010年12月に南アフリカをグループに正式加入させることで合意した。BRICsがBRICSになった。
2011/4/23 BRICsからBRICSへ
本年のBRICSの首脳会議は南アフリカの最大都市ヨハネスブルクで8月22日に開かれ、2日目は首脳らによる全体会議が開かれた。
今回の会議では加盟国の拡大が大きな焦点となっており、中国の習近平国家主席は「BRICSの拡大のプロセスを加速し、より多くの国を参加させて知恵を集め、国際秩序をより公正な方向に発展させていかなければならない」と述べた。オンラインで出席したプーチン大統領も、「BRICSの戦略的な方向性は将来を見据えたもので、世界の多数派の期待に応えている」と述べ、BRICS各国との連携と枠組みの強化を進めていきたい考えを示した。
南ア政府当局者によると、BRICS参加に関心を示している国は40カ国を超え、うちイラン、ベネズエラ、アルジェリアなど23カ国は正式に加盟を打診したという。(下図:南ア情報)
これは世界経済の4分の1、人口にして計30億人以上に相当する。
加盟申請23カ国・地域全てを受け入れれば統率が取れない「バベルの塔」(ブラジルのルラ大統領)になる恐れもあり、首脳会議で議論していた。
ブラジルのルラ大統領は、新加盟国はイデオロギーに関係なしに地政学的な重要性で選ばれるとの認識を示した。「(新加盟国の資格として)大事なのは誰が統治しているかではなく、その国の重要性だ。BRICSに合流するイランやその他の国の地政学的な重要性は否定できない」と強調した。
またルラ氏は、今後ブラジルはナイジェリアやアンゴラ、モザンビーク、コンゴ民主共和国の参加も後押ししていくと述べた。
南アは24日の拡大会合にアフリカや中南米などの首脳 67人を招待していた。会合では、新興国や発展途上国の立場にたった貿易や投資、それに開発の促進などで連携を図っていくことを確認した。
拡大BRICSは世界人口の46%(G7は9.7%)、GDPで世界の28%(G7は43%)を占める。
東京電力は福島第一原発にたまる処理水について、大量の海水を加えてトリチウムの濃度を測定した結果、想定どおり薄められていることや気象条件に問題がないことが確認できたとして、8月24日午後1時ごろに海への放出を始めた。
中国政府はこれまで、日本から輸出される食品などについて、福島県など10都県産のものは輸入停止、それ以外については日本の政府機関による証明書を求めていたが、放出を受け、24日から全面的禁輸とした。さらに、8月25日には、食品生産事業者に対して日本産の水産物を使った加工食品の製造や調理や販売を禁止すると発表した。さらに、食品の安全に関する検査を強化し、違反があれば厳重に対処するとしている。
福島原発からの放射性物質を含む廃水の海洋放出による食品の放射性汚染リスクを防ぐためとしている。
トリチウムを含む水は薄めて海に流すことが国際的に認められている。中国も韓国も大量のトリチウムを液体及び気体で放出している。
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/007_09_00.pdf
今回の中国の措置について、自国では大量のトリチウムを放出しながら、福島での放出を理由に日本品の輸入禁止をすることに対する批判が強い。
しかし、今回の放出と中国での放出は異なる。
中国や各国が放出しているのは核燃料に汚染された水ではない。福島では核燃料に接触した汚染水であり、トリチウムだけでなく、ヨウ素129、セシウム135、セシウム137をはじめとする12核種が含まれる。濃度は低いが、総量としては大量の放射線物質を海に流し込むことになる。トリチウムとは異なり、これは国際的に認められたことではない。
中国が問題にするのは、世界中の原発が放出しているトリチウム水の放出でなく、放射性物質を含む廃水の海洋放出である。
政府や東電は、隠している訳では無いが、取り切れない放射性物質を薄めて放出することを説明せず、無害のトリチウムを薄めて放出するだけとの印象を与え、他方でマスコミは中国が大量のトリチウムを放出していると説明している。その結果、中国は自国の原発は大量のトリチウムを放出しながら云々との中国批判を引き起こしている。国民に実情を十分説明すべきである。
中国に対しては、説明、説得を繰り返すしかないだろう。
ーーー
水素や炭素などのさまざまな原子は、陽子や中性子でできた「原子核」と「電子」で構成されている。普通の水素原子を構成しているのは、陽子1個でできた原子核と、電子1個だが、ごくたまに、原子核が陽子1個+中性子2個でできた水素原子があり、これがトリチウム(tritium:三重水素)である。
水素原子の同位体は、陽子1個でできた原子核を持つ普通の水素原子と、ほとんど同じ化学的性質を持っている。「三重水素」の原子核は不安定な状態にあり、原子核は、その不安定さを解消するため、陽子と中性子の個数を変えてバランスを取り、異なる原子核へと変化しようとし、放射線を出す。
トリチウムが放出する放射線の種類はβ線のみで、薄い金属板などでさえぎることができる。さらに、トリチウムが放出するβ線はエネルギーが弱いため、空気中を約5mmしか進むことができず、紙1枚あればさえぎることが可能。
皮膚も通過できないため、外部被ばくによる人体への影響はない。また、体内に入っても水と一緒に最終的に排出されるため、体内で蓄積・濃縮されることはない。
他の水素と同じように酸素と結びつき、「水」の形で存在しており、雨水、水道水にも含まれている。
トリチウムは、宇宙空間から地球へ常に降りそそいでいる「宇宙線」と呼ばれる放射線と、地球上の大気がまじわることで、自然に発生する。
天然のトリチウムは年に約7京(7万兆)ベクレル発生し、地球上には100京〜130京(100万兆〜130万兆)ベクレルが存在している。
トリチウムは、原子力発電所の原子炉の中でもつくられる。主として、下図のように、原子炉の冷却に用いている水にわずかに含まれる重水素(存在比:0.015%)が中性子を吸収してつくられる。
PWR(加圧水型原発)の場合は主に、原子炉の冷却に用いている水に添加しているほう素(B)やリチウム(Li)が中性子を吸収することで生成される。
世界中の原発(中国や韓国も含む)が大量のトリチウムを液体及び気体で放出しているのはこれであり、原子炉そのものとは隔離されている。中性子を吸収したというだけのものである。
日本の原発も同様である。日本全国の原発等で、事故前5年平均で合計約380兆ベクレル/年を放出していた。BWRは0.02〜2兆ベクレル/年と少ないが、PWRは18〜87兆ベクレル/年と多い。(JNES「原子力施設運転管理年報」)
今回の放出はこの種のトリチウムではなく、核燃料に接触した汚染水に含まれていたトリチウムであり、他に若干だがヨウ素129、セシウム135、セシウム137をはじめとする12核種が含まれる。
今回、トリチウム以外の放射性物質が規制基準を超えているものは再度ALPSで浄化し、安全に関する規制基準を確実に下回る(ゼロではない)ようにした上で、海水で大幅(100倍以上)に希釈するため、トリチウム以外の告示濃度比総和は、0.01未満となる。しかし、濃度は低いが、総量としては大量の放射線物質を海に流し込むことになる。
トリチウムとは異なり、これは国際的に認められたことではない。これが海の生物に長期的にどのような影響を与えるか不明である。
福島原発の汚染水は多核種除去設備(ALPS)で前処理設備、吸着塔の順に汚染水を通し、62種類の放射性物質を除去する。 しかし、トリチウムは一般の水と同じ水(H2O)を構成しており、ろ過したり吸着して取り除くことができず、巨大タンクに貯水されている。
なお、ALPSではトリチウム以外は除去することとなっていたが、2018年に2017年度にヨウ素129が法律で定められた放出のための濃度限度(告示濃度限度)を60回、超えていたと報じられた。
東京電力はこれを明らかにしていなかったが、2018年9月28日に汚染水を浄化した後にタンクで保管している水の約8割に当たる75万トンで、トリチウム以外の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を超過しているとの調査結果を明らかにした。
原子力規制委員会から「タンクから出る放射線が『敷地境界』に与える影響をなるべく早く低減するように」と求められ、2015年度まではALPSの吸着材の交換にかかる時間を節約するため、取り除く能力が落ちるのに目をつぶり、交換頻度を下げた。 さらに2013年には、ALPS本体の部品の腐食による水漏れが起きたという。
しかも、原子力規制委員会の更田豊志委員長はALPSの運用開始当初から残留を認識していたとし、トリチウム以外についても希釈して法令基準濃度を下回れば海洋放出を容認する考えまで示した。
さすがにこんな話は通るはずがなく、今後、海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化することとなった。
2018/8/29 福島原発のトリチウムを含む低濃度汚染水を巡る問題
今回、放出する前にはトリチウム以外の放射性物質の濃度が国の基準を下回る濃度になるまで処理を続ける(二次処理)。
除去対象核種(62種)+炭素14の告示濃度比総和:J1−C群;処理前 2,406 → 処理後 0.35
https://fukushima-updates.reconstruction.go.jp/faq/fk_270.html
付記 『きっこのメルマガ』
ずっと「汚染水」と呼ばれていたものが、突然「処理水」という呼び名に変更されたのは、菅義偉政権下の2021年4月でした。海洋放出を強行決定した菅義偉首相は、「汚染水」という呼び名のままでは海洋放出の実現への足かせになると判断し、今後は「処理水」という呼び名に統一するようにと、記者クラブを使ってメディアに指示したのです。
これを受けたNHKは、国内報道はそれまでの「放射能汚染水」を「処理水」に、国際報道はそれまでの「radioactive water(放射能汚染水)」を「treated water(処理水)」に、それぞれ変更しました。民放各局、新聞各紙も同様でした。
2023/8/30 福島原発「処理水」についての中国政府の主張
人民網日本語版によると、中国の呉駐日大使は8月28日、岡野外務事務次官と会談し、日本側に対して、福島原発汚染水の海洋放出問題についての厳正な立場をさらに明らかにした。
日本側の申し入れに対して以下の通り述べた。
日本は国内外の強い疑問と反対の声を顧みず、頑なに福島原発汚染水の海洋放出を開始して、全世界の海洋環境と全人類の健康及び安全に多大なリスクと予測不可能な危害をもたらし、中国を含む国際社会の憤りを招いた。これが現在の事態の根本的原因だ。
日本は以下の質問に真剣に答えるべきだ。
第1に、なぜ日本はトリチウムを希釈処理したことを意図的に強調しながら、他の放射性核種については常に言葉を濁すのか?
第2に、なぜ日本は全面的かつ体系的な海洋環境モニタリングを行わないのか?
日本の現行のモニタリング計画は体系的でも全面的でもなく、放出した全ての核種をモニタリングしているわけではなく、またモニタリングの対象となる海洋生物の種類も少なく、海洋生態系への長期的影響評価のニーズを満たしていない。第3に、なぜ日本は国際的なモニタリング・メカニズムの構築に他の利害関係者が参加することを拒否するのか?
もし日本が安全性に十分な自信を持っているのであれば、他国が独自に実施する第三者モニタリングを含め、各利害関係者が十分かつ効果的に参加する長期的モニタリングのための国際的な取り決めの確立を積極的に支持するはずだ。
前回(8/28)のブログのとおり、放射性物質を含む廃水の海洋放出を問題視しているようだ。トリチウム以外の放射線核種についてのモニタリングが十分でなく、かつモニタリングに第三者を入れないことへの不満を表明している。
環境省では、ALPS処理水に係る海域モニタリングを実施している。ALPS処理水の放出開始後、8月25日朝に採取した海水試料を分析した結果、トリチウムの濃度は11か所全てで検出下限値未満(7〜8Bq/L未満)であり、人や環境への影響がないことを確認した。γ線核種についても念のため測定を行ったが、全て検出下限値未満であった。
なお、海洋生物については東京電力が福島県沖の近海に生息しているヒラメ、アワビ、海藻を飼育対象として選定しているが、トリチウム濃度を測定しているだけである。
- 魚類 ヒラメ(幼魚)800尾程度
貝類 アワビ(稚貝)800個程度
海藻 アオサ、ホンダワラ 数kg程度
今回の放出開始後の結果は出ていないが、これまでの測定では、ヒラメ体内において、トリチウムが蓄積・濃縮されないと考えているとしている。
2023/8/31 米国、メディケア対象医薬品の薬価交渉対象の第一弾10品目を発表
米保健福祉省は8月29日、高齢者向け公的医療保険「メディケア」の対象となる医療用医薬品(処方薬)の価格を交渉で決める制度を最初に適用する10品目を発表した。
米国の法律は従来、約20年前に始まった処方薬制度の一環としてメディケアの対象となる処方薬の価格交渉は禁止していた。メディケアが決める医薬品価格は民間保険会社の多くが参考にしており、米国では事実上の標準薬価になっている。
一部製薬企業による薬価の吊り上げが米国で社会問題となった。2015年には、チューリング・ファーマシューティカルズが感染症治療薬「ダラプリム」の価格を突如55倍に引き上げたことに批判が噴出。2016年夏には、マイランがアナフラキシーショックの応急処置に使われる「エピペン」の価格を5倍に引き上げ、非難を浴びた。
トランプ大統領も薬価引き下げに努力した。
2018/7/16 Pfizer、トランプ大統領の批判受け、医薬品値上げを先送り
2020/7/28 トランプ大統領、処方箋薬の価格引き下げへ大統領令
バイデン大統領が昨年署名して成立したインフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)では、65歳以上の米国人を対象とし、約6600万人に適用されているメディケアに関し、最も高額な医薬品の一部の薬価引き下げ交渉を認めた。
製品が対象に選定された製薬企業は、10月1日までに交渉に同意しなければならない。もし拒否すれば重い罰金が科せられる。企業は10月2日までに、価格決定に必要な広範なデータを提出する。
交渉は2023〜2024年に行われ、新たな価格は2024年9月に公表し、2026年1月から導入する。
この仕組みにより、2031年までに年間250億ドルの薬価削減を目指している。
今回の医薬品10品はメディケアにとって最も負担が大きい50製品のなかから選んだ。保健福祉省によると、過去1年間に10品だけで505億ドルの負担となっていたという。
バイデン大統領は声明で「製薬大手の懐を潤すためだけに、米国人が救命処方薬に先進国のどの国よりも高い支出を強いられる理由はない」とし、価格交渉によって現在は最大で年間6497ドル(約94万円)もの自己負担を強いられている最大900万人の高齢者の薬価が下がることになると訴えた。
価格交渉の第2弾は2025年2月に開始され、メディケアは15の高額な医薬品を対象に選定する。第2弾の新価格は2027年に適用される予定。翌年には、さらに15の処方薬や医師が管理する医薬品(薬局で調剤されない医薬品)が追加される。その後、メディケアは毎年20品目ずつ価格交渉を行うことになる。
今回の10品目は下記の通り。
製品名 | 一般名 | 用途 | メーカー |
Eliquis | アポキサバン | 血栓塞栓症の治療・予防に用いられる経口投与が可能な抗凝固剤の1つ。 |
Bristol Myers Squibb Pfizer |
Jardiance | エンパグリフロジン | ナトリウム・グルコース共輸送体-2 阻害作用を有する糖尿病治療薬 |
Boehringer Ingelheim Eli Lilly |
Xarelto | リバロキサバン | 経口抗凝固薬の一つ |
Bayer Janssen Pharmaceuticals |
Januvia | シタグリプチン | 経口血糖降下薬、2型糖尿病の治療薬 | Merck & Co. |
Farxiga | ダパグリフロジン | 2型糖尿病治療薬の内、SGLT-2阻害薬に分類される医薬品 | AstraZeneca |
Entresto | サクバトリル/ バルサルタン |
心不全・高血圧症治療のための合剤 | Novartis |
Enbrel | エタネルセプト | 分子標的治療薬の一つで関節リウマチなどの膠原病・自己免疫疾患の治療薬 | Amgen |
Imbruvica | イブルチニブ | B細胞性腫瘍の治療に用いられる抗がん剤 |
Pharmacyclics Janssen Biotech |
Stelara | ウステキヌマブ |
ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤 日本では乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎に対して適応 |
Janssen Biotech |
Fiasp; NovoLog 等 | インスリンアスパル | 1型および2型糖尿病の治療に使用される超速効型インスリン | Novo Nordisk |
MerckやJohndon &
Johnsonなどの製薬大手は収益減への懸念から、メディケアの薬価交渉をめぐって米国政府を提訴している。インフレ抑制法の薬価交渉に関連する部分が米憲法違反だと主張している。
Merckは、「正当な補償なしに私有財産を公共のために徴収しない」と定める米国憲法修正第5条の違反だと主張している。交渉後に設定された価格が「公平である」とする文書に署名する必要があるのは言論の自由を保障する米国憲法修正第1条にも違反しているという。
米国商工会議所は、10月1日までに価格交渉の差し止め命令を裁判所から得たいと考えている。
商工会議所は政権による最初の提案時に、「価格統制は、新型コロナウイルスワクチンのような画期的な製品開発を可能にした研究投資に対する課税であることにほかならない」と指摘するとともに、「価格統制は、研究開発投資の減少と米国内の雇用の減少を招く。米国は次の公衆衛生上の危機への備えができなくなり、がんやアルツハイマー病など、その他多くの疾患の治療法開発を遅らせることになる」と批判の声を挙げた。
これに対し政府は、メディケアが価格交渉を行うことができないという憲法上の規定はないと反論している。