日本経済新聞 2007/7/19−

環境力 塗り替わる産業地図 太陽も風も 新勢力が台頭

「ホンダをエネルギー会社に」 
 熊本県大津町。ホンダの二輪車工場の一角で、まもなく"場違い"な太陽電池の量産が始まる。シャープ、京セラといった既存の大手は戦々恐々とするが、ホンダの本当の狙いは住宅向けパネル販売の先にある。クルマ社会のあり方を変える壮大な構想を描き、脱・二酸化炭素(C02)に「第二の創業」をかける。
 太陽電池で得た電気で水を分解し、発生した水素で燃料電池車を走らせる。家庭が超小型の水素ステーションになり、ガソリンスタンドも送電線もない交通システムが生まれる。
 C02をはき出す商品を売ることで成長してきたホンダ。自然エネルギーへの転換を福井威夫社長は「ホンダが生きていくための使命」と表現する。ポストモータリゼーション社会を先導し、そこに長期的な利益も見据える。

旧東独から世界へ
 6月、日米欧は2050年までに温暖化ガス排出量を半分以下にする検討に入った。経済社会に変革を迫る「半減の衝撃」を商機に変えようと狙うのはホンダだけではない。世界のあちらこちらで若い起業家がグローバル競争に挑む。
 旧東独ライプチヒ市近郊の小さな町、タールハイム。01年、経済復興が遅れる化学工業地帯で太陽電池の生産を始めたQセルズは瞬く間に京セラを抜き、世界首位のシャープに迫る。
 アントン・ミルナー社長(46)は太陽光推進政策の追い風を逃さず、人件費が安い旧東独で生産を増強。「次は世界への供給拡大だ」と意気込む。今年6月には東京に事務所を開いた。
 かわって中国・無錫市。太陽電池研究者の施正栄会一長(44)が創業した尚徳太陽能電力(サンテック・パワー)も世界4位に躍進した。10年もの長期契約で原料のシリコンを安価調達し圧倒的なコスト競争力を手中に。創業からわずか5年で米株式市場に上場、米フォーブス誌によると施氏は中国7番目の富豪だ。3億ドルの新工場建設も上海で始まった。
 株式市妻で資金調達力を高めた新興企業は買収にもためらいがない。
 インドの学術都市プネー。そこに本拠を置く風力発電機の世界5位、スズロンエナジーのトゥルシ・タンティ会長(49)は「エネルギー業界のミタル」と呼ばれる。相次ぐ買収でのし上がる姿が世界最大の鉄鋼メーカーを築いた同国出身のラクシュミ・ミタル氏をほうふつとさせる。

アレバに競り勝つ
 5月には仏原子力大手アレバに競り勝ち風方発電機8位の独REパワーを12億ユーロで買収した。タンティ会長は「市場平均の2倍、年50%ずつ成長する」と言い切る。
 新興企業の台頭で日本勢の存在感は薄れつつある。かつては世界の太陽電池生産の5割強を握ったが、市場が年に4割も伸びるスピードに追いつけず、シェアは3割台に落ちた。
 いったんは世界市場の過半数を握った日本の半導体や、携帯電話。だが実際は国内市場への依存度が高く、事業モデル転換の遅れでずるずるとシェアが低下した。環境分野で二の舞いを演じる懸念はないのか。
 京セラは300億円を投じて太陽電池の増産を急ぐ。国内外で工場を増強したシャープの片山幹雄社長は「徹底したコスト削減と技術革新で海外勢に対抗する」と強調する。技術の目配りや投資判断を誤れば、異業種や新興企業にたちまち足元をすくわれる。21世紀を貫くであろう環境革命。日本企業にIT(情報技術)革命で経験したような停滞は許されない。

 地球温暖化が企業の競争ルールを大きく変え始めた。温暖化対策が新たな市場を生み、世界の産業地図を塗り替える。「環境力」が企業の浮沈を左右する時代。勝ち残りの条件を探る。


太陽電池生産のシェアは大きく変動(米PVニュース調ぺ)

  04年の世界シェア
生産量1194メガワット
06年には・・・
生産量 2500メガワット
シャープ     27.1     17.4
京セラ      8.8      7.2
BPソーラー       7.1  
三菱電機       6.3  
Qセルズ      6.3     10.1
サンテック・パワー        6.3
三洋電機        6.2