日本経済新聞 2003/7/2               東亜日報

「魔の1万ドル」の壁挑む韓国

 「○○通りで大規模デモがあります」「○○公園で夕方大規模集会があり通行止めです」
 韓国のラジオの交通情報はこのところ連日、デモや集会による渋滞予想を伝えるのに忙しい。労組ストのニュースも途切れることがない。
 「パルリ、パルリ(早く、早く)」。朝鮮戦争から50年間、韓国人は全力で駆け抜けた。「昨日を振り返らず」は、急成長の秘けつだったが、今回ばかりは裏目に出た。

 1997年末の通貨経済危機を韓国人は、持ち前の集中力とスピードで乗り切った。「国がつぶれる」との危機感をバネに、改革の痛みに耐えた。外貨確保のために国民が家庭の貴金属を拠出する団結力も見せた。
 これが同じ韓国なのか。危機感はすっかり忘れ去られた。ここへきての成長率低下にもかかわらず、労組は10%以上の賃上げ要求を掲げてストを打つ。消費者はクレジットカードを乱用し、債務延滞者は300万人を突破してしまった。
 「魔の1万ドルの壁を克服しよう」。最近、盧武xx(ノ・ムヒョン)大統領とサムスングループの李健煕(イ・ゴンヒ)会長が相次いで同じような発言をした。
 韓国の1人当たりGDP(国内総生産)は2002年で1万67ドル。だが、初めて1万ドルを超えたのは95年にさかのぼる。当時、年間5%成長を続ければ2001年には2万ドルを超えるとの楽観論が韓国を覆っていた。現実には、通貨経済危機も起き成長は止まってしまった。
 「失われた8年」。先日、大手紙、毎日経済新聞が主催した経済フォーラムでは、95年以降の「1万ドルでの足踏み」をこう表現した。フォーラムでは、世界各国の「1万ドルの壁克服状況」がスライドに大きく映し出された。
 日本は6年間で1万ドルから2万ドルになった。韓国より少し前に1万ドルを超えたアイルランドも8年後には2万ドルを達成した。これに対して、アルゼンチン、ギリシャ、ポルトガルなどに加えて韓国が90年代に1万ドルの壁に当たってしまった。
 にもかかわらず、韓国の優良企業は急成長した。94年から2002年の間にサムスン電子の純利益は7.4倍、現代自動車は10.5倍になった。LG電子、ポスコ、現代重工業・・・世界市場でメジャーリーグ入りした企業は多い。
 「失われた8年」と、その一方で急成長した優良企業群。この乖離こそ、今の韓国の混乱の要因だ。

 優良企業はどんどん賃上げし、優秀な社員にはストックオプション(自社株購入権)などで法外ともいえる報酬を与える。こうした「勝ち組」が引っ張る形で不動産価格は急騰、消費も好調に伸びた。
 だが、「勝ち組」はほんの一握りだ。パイはそのままだから、経済格差は広がっていた。優良企業は社員の選別を強め、「好業績期のリストラ」も日常化、社内競争はし烈になっていた。景気低迷で賃上げ抑制や雇用不安が高まると、これまでの不満に一気に火がついた。その結果、労組ストが頻発、経済に打撃となり、さらに景気の足を引っ張る悪循環に陥ってしまった。
 まさに「魔の1万ドル」の壁だ。
 盧大統領は近く「1人当たりGPDを2万ドルに引き上げる」ための長期経済政策を打ち出すという。「分配重視」「親労組」を掲げた盧政権も、最近の労組ストに対しては以前よりも強硬に対応、経済拡大策の重要性も認識し始めたようだ。昨年のサッカーワールドカップ大会で見せた熱狂的な集中力で「魔の1万ドル」も突破できるか。構造改革を成功させた韓国経済は正念場だ。


東亜日報 2003/6/30

「1万ドル」で停滞の韓国号に相次ぐ警報

 韓国社会が「1万ドルのわな」に引っかかって、身動きがとれずにいる。このまま行けば、1人当たりの国民所得2万ドル時代への跳躍どころか、今よりさらに墜落しかねないという危機感が高まっている。

 「韓国号」の行き先に赤信号が灯されたことを受け、経済専門家はもちろん、これまで言葉を控えてきた各分野の長老も韓国社会を懸念する警告の声を出し始めた。厳しい韓国経済の実態は、このほど矢継ぎ早に底を打っている経済関連指標でも明確に分かる。5月には生産、消費、投資の3つの経済指標が、1998年10月以後4年7ヵ月ぶりに初めてともにマイナスへ転じた。

 韓国経済が進むべき道は遠くて険しいのに、共同体がどうなろうがとりあえず「自分の分け前」だけにこだわる集団利己主義がまかり通っている。過度に力の入った労組の声は、韓国でビジネスをやっている内外企業をい縮させている。

 こうした中で、社会全般には勤労意欲が著しく落ち込んでおり、人の足を引っ張る間違った風土は、「下向き平準化」をあおっている。社会のかっとうを調整し、コントロールする政治的リーダーシップも低レベルの域を出ていない。

 対外経済政策研究院(KIEP)の王允鍾(ワン・ユンジョン)研究委員は、「韓国は今からどういうふうにやるかによって、今後10年以内に1人当たりの国民所得が2万ドルをの大台に乗れるかも知れないが、再び通貨危機に見舞われることもありえる。しかし、このまま行けば、再び通貨危機に陥る可能性の方が高そうだ」と警告した。

 鄭雲燦(チョン・ウンチャン)ソウル大学総長は、最近「韓国経済は、『中進国のわな』にかかって、産業競争力と経済システムの効率が低下している。1万ドルの前で『失われた10年』を迎える可能性もある」と述べた。

 各界の専門家は、「1万ドルのわな」から抜け出して「2万ドル」へジャンプするためには、経済主体の企業と従業員が仕事に打ち込めるようなムードを作り上げるのが何よりも重要だと強調している。

 米ハーバード大学のロバート・ベロ教授は、「成長より社会福祉に重きを置いて失敗した80年代の欧州のモデルを韓国が追従するのは望ましくなく、むしろ韓国経済を危うくする」とアドバイスした。

 韓国開発研究院(KDI)の韓震煕(ハン・ジンヒ)研究委員は、「労動、資本などあらゆる資源を総動員しても、せいぜい毎年4〜5%成長が見込める状況で、10年以内に2万ドル時代に突入するのはきわめて難しい。しかし、企業と労働者がみんな一生懸命働いて、新しいアイデアを集める社会風土を作り、資本と技術を誘致ですれば、不可能なわけではない」と述べた。