日本経済新聞 2003/10/10

りそな最終赤字1.7兆円 9月中間 含み損受け皿会社処理
 負の遺産一掃 自己資本6.5%

 りそなグループの経営改革の全容が明らかになった。貸し倒れに備えた引当金を大手銀行で最高水準まで積み増し、多額の不動産含み損を抱える実質的なグループ企業もすべて清算・売却、不良債権処理を加速する。納付した税が戻ることを前提に自已資本とみなす「繰り延べ税金資産」も3年分から1年分に圧縮する。この結果、今年9月中間期の最終赤字は1兆7千億円に拡大、自己資本比率は6.5%に低下する。約2兆円の公的資金を活用して問題資産を一気に処理し健全化へ道筋をつける。
 経営改革の内容は10日に発表する。資本不足に陥る傘下の近畿大阪銀行は3千億円、奈良銀行は40億円をそれぞれ増資し、持ち株会社のりそなホールディングスが全額を引き受ける。
 りそなグループは8月から監査法人トーマツを通じ、傘下銀行すべてを対象に貸出資産を厳しく再査定してきた。この結果を踏まえ、細谷英二会長(元東日本旅客鉄道副社長)ら経営陣は不良債権に対する引当金を大幅に強化する。
 貸出残高に対する引当金の割合は、りそな銀行の場合、破たん懸念先企業向けで今の65%から90%、返済条件の緩和などで支援している要管理先企業向けは現在の30%から50%に引き上げる。他の大手銀はそれぞれ70%と30%程度。りそなは水準が高まるため、債権の価値が目減りしても新たな損失は生じにくくなる。
 借り手の将来の収益力を見極めて引当金の必要額をはじく割引現在価値(DCF)方式の対象も現在の100億円以上の貸出先から30億円以上に拡大する。これも他の大手銀行を大きく上回る水準。
 実質的なグループ企業は「緊密不動産会社」と呼ばれ、子会社ではないが、銀行本体との不動産売買などを通じて含み損の受け皿となってきた企業群で、融資のある34社が整理の対象。あさひ銀リースなど関連ノンバンクも売却し、合わせて4千億円超の損失を9月中間決算に計上する。
 繰り延べ税金資産について銀行は通常、将来5年分の予想収益に基づく納税見込み額まで自己資本に計上しているが、新経営陣はりそな銀行の将来の収益計画を厳しく見直し、現在の3年分をさらに1年分に圧縮する。今年3月期と比べ約3500億円を取り崩し、その分を損失として計上する。
 こうした損失に年金の積み立て不足の処理損失が重なり、9月中間期の最終赤字は1兆7千億円まで拡大する。1兆9600億円の公的資金が注入され、12%まで上昇したりそなグループの自己資本比率は約半分まで低下する。
 傘下銀行の最終赤字はりそな銀行が1兆4千億円、近畿大阪銀行が3千億円。埼玉りそな銀行も50億円の最終赤字に転じる。

りそな改革の骨子

経営改革
 ▽不良債権処理加速
   不良債権への貸倒引当金を大幅に積み増し。
     破たん懸念先65%→90%、要管理先30%→50%
 ▽負の遺産一掃
   含み損の受け皿となった「緊密会社」をすべて清算・売却。
     4000億円超の損失
 ▽資本の質向上
   繰り延べ税金資産の算入額を3年分から1年分に圧縮
 ▽傘下銀行の健全化
   近畿大阪銀行に3000億円、奈良銀行に40億円を増資

中間決算
 ▽最終損益
   最終赤字1兆7000億円計上
 ▽自己資本比率
   12%から6.5%に大幅低下

 

健全化モデールケースに

 りそなグループが2003年9月中間期で1兆7千億円に上る連結最終赤字を計上するのは、公的資金の大半を活用し負の遺産を一掃する狙いがある。厳格な資産査定をテコに銀行の健全化を目指すモデルケースとなる。他の大手銀行も、りそな並みの処理を追られる可能性もある。
 りそなグループの3月末の不良債権残高は約3兆円。与信残高に占める比率は9%強と高い。この大半を優良資産から遮断した「旧勘定」に移し、バランスシート(貸借対照表)から落とす最終処埋を進める。
 具体的には今期末に残高を1兆5千億円に半減。不良債権比率を7%前後まで下げる。翌2004年度には健全化を宣言できる3%程度にする最終目標を掲げる。一気に不良債権の膿を出し、優良資産(新勘定)で安定収益を生み出す体質へ転換するシナリオだ。
 これに備え今中間期では2兆円の公的資金をテコにこれまで以上に厳しい資産査定に踏み切る。欧米流の厳格な資産査定手法であるディスカウント・キャッシュ・フロー(割引現在価値)の適用対象を、他の大手銀行で一般的な「与信100億円以上」から、その約3分の1の「30億円以上」に引き下げる。
 不動産など担保評価も通常は何年分かの賃料収入などを基に計算しているが、この算定根拠を「原則1年分」にして評価を厳しく見積もる。納付した税の戻りを前提に自己資本とみなす「繰り延べ税金資産」も3年分から1年分に圧縮する。
 これらはいずれも竹中平蔵経済財政・金融担当相が昨秋打ち出した金融再生プログラムの考え方を踏まえた措置。三菱東京フィナンシャル・グループに続き、りそなグループが健全化を先取りすることで、業界全体への影響は避けられない。
 ある四大銀幹部は「いずれ、りそなが我々の対応の基準になる」と警戒する。財務内容に応じた市場の選別が一段と厳しくなる。
 りそなホールディングスは近畿大阪銀向けに約3千億円、奈良銀行向けにもおよそ40億円の増資を引き受ける方針。
 具体的には、まずりそな銀行が上期中に約4千億円の持ち合い株売却で得た潤沢な現金を、持ち株会社であるりそなホールディングスに貸し付ける。りそなホールディングスはそれを原資に増資を引き受ける。
株売却でひねり出した資金を子銀行の資本増強に回す。
 りそなホールディングスが傘下子銀行の増資を引き受けることには
「公的資金の流用」との批判が出る可能性があり、これを回避するための苦肉の策といえる。