ストックオプション

 

isologue
http://www.tez.com/blog/index.html

September 19, 2004

ストックオプションとは何か

インボイスが17日に発表したオプション買取制度を検討しましたが、本日はその続きということで、そもそもストックオプションというのはどういう風に処理されていて、今後、その処理がどう変わりそうなのかというあたりのお話を。

ストックオプションとは
そもそもストックオプション(新株予約権)とは何でしょうか。
新株予約権は、会社がこの権利を持っている人に対して「新株を発行し又は代わりに持っている自己株式を渡す義務を負う」権利(商法280条ノ19)のことをいいます。
経済的に言うと、会社に対するその株式のコール・オプション、ということになります。

(コール)オプションで、一定の価格で株式を買うかどうかの損得を考えてみると、以下の図のようになります。

行使価格が22,300円の株が30,000円になれば(図の「C」)、新株予約権を行使して株を手に入れ、それを売却すれば差額の7,700円が儲かります。(図のCの赤い矢印。)
逆に、株価が行使価格より下がって株価が10,000円になれば、もし新株予約権を行使してしまうと22,300円かかったものが10,000円でしか売れないので差し引き12,300円損してしまいます(図のAの赤い破線)ので、誰も行使しないはずです。

オプションの価値
以上より単純に考えると、オプションの価値は以下のような途中で屈折した線(青色)になるはずです。例えば、行使価格と株価が同じ(点「B」)以下なら、オプションを行使してもしょうがないので、オプションの価値はゼロのはずです。

しかし、よく考えてみると、もし株価が行使価格と同じBのところであっても、オプションが「タダ」なら誰でも欲しがりますよね?オプションは行使してもしなくてもいいわけですから、行使期間がまだあれば、「将来へのお楽しみ」が残っています。
このため、オプションの「本当の価値」は、下図のように図の青い線よりちょっとだけ上の紫の線のようになるはずです。

オプション理論では、この紫の線と青い線の差額の部分を「時間的価値(time value)」、青い線の価値を「本質(本源)的価値(intrinsic value)」と呼んでいます。
「時間的価値」+「本質的価値」=オプションの価値、になります。

オプション・プライシング・モデル
では、この紫色の線(つまり、オプションの「時価」)はどうやって計算するのでしょうか?
オプション理論をご存じの方は、まず有名なブラック・ショールズ式が思い浮かぶかも知れません。
ブラック・ショールズ式は、以下のような式です。



ここで
S0 は、原資産(例えば普通株式)の現在価格
N(d) は、d の累積正規確率
X は、行使価格
T は、満期までの期間
r は、リスクフリーの金利
e は、自然対数の底(ネピア数)



ブラック・ショールズ式は、行使期間の最後にだけオプションが行使できるという「ヨーロピアン・オプション」の価値の計算式ですが、通常のストックオプションでは、「2年間は行使できない」等の行使制限期間(cliff)や、「その後4年間で1/4ずつ行使可能に」等のベスティング(vesting)など、いろいろ複雑な条件が付きますので、厳密に言うとブラック・ショールズ式では完全に理論的というわけではなくなります。国際会計基準の案では、より複雑なケース分けに基づく「lattice model」などが提案されてます。

 


中央青山監査法人 Web-Can

連載 「ストック・オプション」

'02.12.13 .
第1回 ストック・オプションの世界の流れと日本の現状
http://www.chuoaoyama.or.jp/webcan/shihon/021213_0201.html


<POINT>

アメリカにおけるストック・オプション会計は、APB No.25とFAS123の選択適用を認めています。
国際会計基準におけるストック・オプション会計は、株式報酬の会計上の取扱いとして2002年11月7日に公開草案が提出されています。
日本においては、2002年12月に「基本論点整理表」が財務会計基準機構より公表される予定です。その後1年程度で基準等が公表されます。
最大の論点はストック・オプションを費用認識するか否かにあります。


<解説>

1. アメリカにおけるストック・オプション会計

 アメリカにおいては、FAS123にストック・オプションに関する会計基準が規定されています。ただしFAS123は、旧法であるAPB No.25とFAS123の選択適用を認めていることに注目したいと思います。FAS123によると多額の費用計上を行うことになる場合、企業は、費用の認識を行わなくて済むAPB No.25を適用して注記で済ませているのが実態です。
 これは、
APB No.25において、ストック・オプションの価値を算定日時点の株価と権利行使価格の差で認識(本源的価値法)するため、差がない場合は費用の計上を行わなくて済むのに対して、FAS123においては、ストック・オプションの保有によって、将来得られる利益を現在価値に割り引いた額で測定(公正価値法)するため、値上がり期待の部分を含めて費用計上されるという背景があります。

.※ なお、FASB(米国財務会計基準審議会)は2002年10月にFAS123号の修正を提案しており、留意が必要です。
詳細は、「米国・国際会計フラッシュレポート2002年第41号」をご覧下さい。
http://www.chuoaoyama.or.jp/webcan/int/021023_0101.html


2. 国際会計基準におけるストック・オプション会計

 国際会計基準審議会(IASB)は、2002年11月7日に、株式報酬(Share-based Payment)の会計上の取扱い(以下、公開草案第2号という。)を提案しました。公開草案のコメントは2003年3月7日までの4ヶ月間となっています。
 公開草案第2号は、全ての株式報酬取引は、公正価値を測定の基礎として財務諸表に認識し、費用は受け取った財貨またはサービスが費消された段階で認識するというものです。規定に例外は設けていません。また、ストック・オプションの公正価値の見積もりに観察可能な市場価格が存在しない場合は、オプション価格モデルを使用するとしています。


3.日本の会計基準

 日本では、現在、ストック・オプションに係る会計基準は整備されていません。しかし、米国の不正会計事件を契機として、日本でもストック・オプション会計基準の早急な整備が求められています。
 そこで、2002年6月に財務会計基準機構において、「ストック・オプション等専門委員会」が設置され審議が始められました。今後のスケジュール案によると、2002年12月に「基本論点整理表」が公表され、その後1年程度で会計基準等が公表される予定です。


4.最大の論点はストック・オプションを費用認識するか否か

 専門委員会ではストック・オプション会計基準を検討する上で想定される論点は次のとおりとしています。

1. ストック・オプションの会計基準の前提となる論点(費用認識すべきか否か)
2. 基本論点(基本報酬としてのストック・オプションに係る基本的制度に関する論点)
3. 周辺論点(基本的制度の拡張型あるいは日本で一般的でない可能性のある制度に関連する等その他の論点)

 1.について、審議の当初は、「ストック・オプションを費用認識することを暫定的に合意した上で基本論点について議論を行う」とされていましたが、一部委員より異論があったため、「費用認識を前提に基本論点の検討を進め、最終的に費用認識の要否を結論付ける」というプランに変更されました。しかし、世界の会計基準が費用認識する方向にあることも、今後の日本の審議に影響を与えるものと思われます。

 2.については、次の9つの論点が挙げられています。今後の同専門委員会での審議はこれら論点の審議、検討が中心に行われる予定です。

 (1) 費用認識の時期
 (2) 費用認識の相手勘定(負債か資本か?)
 (3) 測定の基礎
 (4) 測定基準日
 (5) 測定方法
 (6) 勤務条件(及び業績条件)を権利確定条件とする場合の失効の取扱い
 (7) 開示情報の内容
 (8) 適用範囲
 (9) その他

 3.については、次の7つの論点が挙げられています。
 (1) 価格変更等の条件変更の取扱い
 (2) 最低価値法の適用
 (3) 現金選択権付オプションの取扱い
 (4) 株式増価受益権(SAR)の取扱い
 (5) ストック・オプションの行使に伴い発行された株式の買取に係る取扱い
 (6) 閉鎖的企業の株式再購入契約
 (7) その他

'02.12.16 .
第2回 基本論点(1) 「費用認識の時期」、「測定の基準日」

<POINT>

「費用認識の時期」は、測定された費用総額を、関連する複数の会計期間にどのように配分するかが問題となります。
配分する期間の特定と配分の基準が問題となります。
費用の認識時点によりストック・オプションの算定の基礎となる株価が異なり、ストック・オプションの費用認識額が異なります(「測定の基準日」の問題)。
IASBでは、費用の測定基準日として「権利付与日」を採用することが暫定合意されました。

<解説>

1.費用認識の時期

 費用認識の時期の問題は、測定された費用の総額を関連する複数の会計期間にどのように配分するかという問題です。一般的には、費用総額を勤務期間にわたって配分し、勤務期間を構成する各会計期間には、時間又は数量に関連させて配分する方法が考えられます。
 この費用認識の時期の問題は、勤務条件や業績条件などの権利確定条件との関連が重要となります。勤務条件とは、ストック・オプションに対する権利が確定し、権利行使期間が開始するまでに数年間の勤務を必要とするなどの条件をいいます。また、この勤務条件に業績条件が加わっている場合は、勤務条件と業績条件の2つを同時に充足することが求められるため、勤務条件だけの場合に比べて費用認識の時期に影響があるかどうかの検討が必要となります。

時間又は数量に関連させた配分

時間による配分
X1年目からX3年までの勤務を権利確定条件とすると、この期間で費用の総額を配分することになります。
数量による配分
権利を付与した従業員等の増加や退職を見込んだ減少を勘案したのべ人数で配分することになります。


2.測定の基準日

 ストック・オプションは、費用認識後に「価格」や「数量」の変動が生じるため、現金による報酬支払いでは問題とならない「測定の基準日」が問題となります。これは、認識時点によりストック・オプションの算定の基礎となる株価が異なり、ストック・オプションの費用認識額が異なるためです。

選択可能な費用の測定基準日として、次の4つが検討されています。

(1) 権利付与日
(従業員等にストック・オプションを受け取る権利を与える契約を当事者間で締結した日)
(2) サービス提供日
(従業員等がストック・オプションに対する権利を獲得するために必要な勤務(サービス)を提供する日)
(3) 権利確定日
(従業員等が全ての条件を充足してストック・オプションに対する権利が獲得された日)
(4) 権利行使日
(ストック・オプションの権利が行使された日)

 これら4つの「測定の基準日」のうち、どの基準日を選択すべきかについて、一つの方向性として、権利付与日が「経営者が報酬として付与すべき金額として想定した金額を反映している」とする考え方が示されていますが、結論は出ていません。
 なお、IASBでは、費用の測定基準日として、「権利付与日」を採用した公開草案が示されました。海外の動向も今後の審議に影響を与えるものと思われます。

 

'03.01.16 .
第3回 基本論点(2) 「測定の基礎」、「測定方法」、「失効の取扱い」

<POINT>

「測定の基礎」として考えられる選択肢は4つありますが、そのうち公正価値(本源的価値+時間的価値)による測定が最も合理的と考えられます。
オプション価格算定モデルの代表例として、「ブラック=ショールズ・モデル」と「二項モデル」が取り上げられています(測定方法)。
費用算定の計算結果に最も影響を与えるのが「ボラティリティ(価格の変動幅の大きさ)」です。
失効の取扱いで問題となるのは次の2点です。すなわち、
1)当初認識の基礎とするストック・オプションの数量をどのように決定すべきか? 
2)どの時点までのストック・オプションの数量変動(失効)を反映すべきか?(遡及的修正を行うかどうか)

2002年12月19日に企業会計基準委員会より「ストック・オプション会計に係る論点の整理」が公表されました。
詳細は、企業会計基準委員会のウェブサイトへ
http://www.asb.or.jp/summary_issue/soption/soption.html

<解説>

1.測定の基礎

 ストック・オプションに係る報酬費用の測定基礎として、次の4つが提案されています。各々、利点および問題点がありますが、そのうち、公正価値による測定が最も合理的と考えられています。その理由は、測定に際してオプション価値の本質的要素である時間的価値を考慮するため、「オプション価値の測定」という目的に最も適合するからです。

(1) 公正価値 : オプションを「本源的価値+時間的価値」で評価
(2) 本源的価値 : 測定時の(株式の市場価格−権利行使価格)を費用計上
(3) 取得原価 : 売却額との差額を損益計上
(4) 最小価値 : 行使価格の支払いを延期できるという便益のみで評価


2.測定方法

 公正価値を測定するにはストック・オプションが譲渡できないという特性から市場価格がほとんど存在しないため、オプション価格算定モデル等の方法によって測定することになります。価格算定モデルの代表例として次の2つが示されています。

(1) ブラック=ショールズ・モデル
(2) 二項モデル

 価格算定モデルには、いくつかのパラメーターを使用しますが、そのうち価格算定結果に最も影響を与えるのは「ボラティリティ」です。ボラティリティとは、価格の変動幅の大きさを示す指標であり、予想される価格変動幅が大きいほど、オプション価値は高くなります。


3.失効の取扱い

 ストック・オプションを付与された従業員等は、全てがその権利を行使する訳ではなく、ストック・オプションの権利確定条件が未達成(例えば退職)の場合、または、株価が行使価格を下回っている場合等権利行使されないことがあり、この場合はストック・オプションの権利が消滅します(オプションの失効)。ここで、ストック・オプションの費用計上額を見積もる場合、その計算は失効の有無が判明する前に行われる(「当初認識」という)ので、実際にオプションが失効した場合その取扱いが問題となります。

【問題点1】 当初認識における見積りの基礎となるオプション数

(1)  数量に反映させる
(2)  数量に反映させない
    (価格に反映させる。すなわち、オプション価格算定モデルに失効可能性を加味する。)

【問題点2】 数量に反映させるとした場合、当初認識における基礎とするオプション数に生じた変動をどの時点まで遡って費用計上額に反映すべきか

(1)  付与日以降に生じた変動は反映しない
(2)  勤務提供日までに生じた変動は反映するが、その後の変動は反映しない
(3)  権利確定日までに生じた変動は反映するが、その後の変動は反映しない
(4)  権利行使日までに生じた変動は反映する

'03.01.23 .
第4回 基本論点(3) 「費用認識の相手勘定」、「費用認識の要否」

<POINT>

ストック・オプションを費用計上した場合の相手勘定は、負債か資本か。
ストック・オプションの費用認識不要説では、「会社の財産の流失がない」ことを主な論拠としています。
ストック・オプションの費用認識必要説では、「経済的に労働サービスを費消している」ことを主な論拠としています。

 2002年12月19日に企業会計基準委員会より「ストック・オプション会計に係る論点の整理」が公表されました。
詳細は、企業会計基準委員会のウェブサイトへ
http://www.asb.or.jp/summary_issue/soption/soption.html


<解説>

1.費用認識の相手勘定

 ストック・オプションが行使され株式が発行された場合は会計的には株主持分(資本勘定に計上)ですが、ストック・オプションを費用認識する場合は株式の発行前であるため、費用計上時の相手勘定が資本か否かが問題となります。いいかえれば、ストック・オプションの権利行使がされない可能性(失効可能性)があるにも関わらず、確定持分(資本)として処理してよいかという問題です。これはストック・オプションがどの時点で資本としての性格が会計上確定すると考えられるかということであり、次のような見解があります。

(1)認識当初から確定的に持分(資本)と見る見解
(2)認識当初は確定的には持分とは見ない見解(暫定説)
  a. 暫定的に負債と見る見解
  b. 暫定的に資本と見る見解

 相手勘定の問題は、いつの時点で資本としての性格が確定するかによって、既に議論されている「測定基準日」や「失効の取扱い」に影響を与えることになります。


2. 費用認識の要否

 ストック・オプションは、そもそも現金等の会社財産が流出しない取引であるため、そもそも費用認識することが必要かどうかということが大きな問題です。このストック・オプション会計処理を検討する際の最大の論点である「費用認識の要否」ですが、各々の主な論拠は次のとおりです。

(1) 費用認識不要説
a. 会社財産の流出がないから費用認識は不要
b. 新旧株主間の取引に過ぎないから費用認識は不要
(すなわち、旧株主が新株主に対して将来の持分の値上がりを分け合うことに同意するに過ぎない。)

(2) 費用認識必要説
a. 経済的に価値ある労働サービスを費消しているから費用認識は必要
b. ストック・オプション取引は会社が介在しているから費用認識は必要

 なお、米国及び国際会計基準では費用認識することとされたため、日本の会計基準設定に当たって、影響を受けることが考えられます。