日本経済新聞 2008/3/7

ボーキサイト 国内精製 全社が撤退
 昭和電工など海外拠点新設も 環境問題に配慮

 昭和電工、日本軽金属、住友化学の3社はセラミックス材料である「アルミナ」などの原料、鉱石ボーキサイトの国内精製から撤退する。精製で生じる不純物を海洋投棄してきたが、環境問題から2015年までに中止。合計1千億円弱を投じ、海外拠点の新設や中間素材の外部調達で事業を継続する。3社はコスト負担の一部を価格転嫁する方針で、資源高に加え環境規制も素材価格の押し上げ要因になる。

 3社はオーストラリアやインドネシアから輸入したボーキサイトを国内事業所で精製し、樹脂難燃剤や水の濁りを取る凝集剤に使う「水酸化アルミニウム」とセラミックスやガラスの原料の「アルミナ」を製造している。年間生産量は合計70万ー80万トン(アルミナ換算)。金額換算すると年間500億円程度とみられる。
 国内精製を手がけるのは3社だけ。1930年代以降に事業を始め、現在は精製過程で生じる「残渣」と呼ばれる不純物を太平洋に投棄している。
 廃棄物の海洋投棄を原則禁止するロンドン条約の96年議定書が06年に発効した。日本政府は「ボーキサイト残渣は厳格な条件下での海洋投棄は可能」との立場だが、3社は海洋汚染の影響などを考慮、自主的に撤退の方針を決めた。
 昭電と日軽金は海外の資源大手と同様にボーキサイトを採掘場近くで精製し、残渣を採掘場に埋め戻す体制に改める。
 両社とも12年をめどに海外に生産拠点を稼働させる。
昭電は丸紅などとインドネシア・カリマンタン島に300億ー400億円を投じてアルミナ工場を新設。日軽金は双日などとベトナムに水酸化アルミ工場(年産能力55万トン)を約400億円で建設する。水酸化アルミを清水工場(静岡市)に送ってアルミナに加工する体制にする。
 住友化学はボーキサイト精製から完全撤退し水酸化アルミを海外メーカーから購入する。愛媛県新居浜市の工場でアルミナに加工するなどして販売する。このほど試験生産に着手。100億円超を投じ倉庫などを整備する。
 ボーキサイトも他の資源と同様、需給が引き締まり、08年通年の輸入価格は07年に比べ2割程度上昇し、日軽金などはアルミナなどの販売価格を1−2割上げている。今回の環境対策コスト増分も「同品質の製品を安定供給するには値上げせざるをえない」(住友化学)。樹脂、ガラス、電子部品などの価格に波及する可能性がある。

ボーキサイト精製
 赤褐色の鉱石であるボーキサイトを加圧・加熱する精製工程を経て水酸化アルミニウムを抽出する。これを焼成してアルミナをつくる。これらは自動車、陶磁器、ガラス、耐火れんが、コンデンサーといった電子部品など幅広い分野に使う。アルミナを電気分解すると、建築・自動車素材のアルミニウムができる。アルミ製錬は主に海外資源大手が手掛けており、日本企業はアルミを輸入して加工している。

赤泥は、アルミナ工場という産業施設から生じているものなので、もちろん産業廃棄物です。そして産業廃棄物の海洋投棄は、1972年にできた産業廃棄物の海洋投棄を禁止するロンドン条約(日本も締約済み)で原則禁止されているため、日本国内法でも原則禁止されています。

   廃棄物その他の物の海洋における焼却の規制に関する規則 昭和55・10・25・条約 35号

第1条 締約国は、海洋環境を汚染するすべての原因を効果的に規制することを単独で及び共同して促進するものとし、また、特に、人の健康に危険をもたらし、生物資源及び海洋生物に害を与え、海洋の快適性を損ない又は他の適法な海洋の利用を妨げるおそれがある廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染を防止するために実行可能なあらゆる措置をとることを誓約する。

しかし、ロンドン条約の付属書Tの中に例外として産業廃棄物に当たらないという項目があり、その条件の一つに「uncontaminated inert geological materials the chemical constituents of which are unlikely to be released into the marine environment」、日本語では「汚染されていない不活性な地質学的物質であって、その化学的構成物質が海洋環境に放出されるおそれのないもの」という文章があります。簡単に言えば、「石ころのようなものは産業廃棄物とはしませんよ」ということです。

なぜか、日本国内法では、赤泥がこの条件に当てはまるとし、例外項目として赤泥の海洋投棄を「特別」に認めています。

そこで、日本の下記3社は“合法である”としロンドン条約締約国(78カ国)の中で唯一、赤泥を公海に投棄しています。

(グリーンピースジャパンが行った公開質問状回答より)

企業名

年間投棄量 投棄頻度 年間投棄回数 一回の投棄量 投棄海域
日本軽金属株式会社 67万2千トン 5日ごと 計67回 1万トン 八丈島南東沖
住友化学工業株式会社 48万4千トン 4日ごと 約90回 5300トン 高知沖
昭和電工株式会社 45万3千トン 4日ごと 計99回 4600トン 八丈島沖

合計

160万9千トン     1万9900トン  

合計年間160万9千トン、4日ごとに2万トンの産業廃棄物が日本で太平洋に捨てられています。

(この数字は、海洋に投棄するために中和された、汚泥状の重量です。すべてを乾燥させるとおよそ3分の1の重量になります。)

ジャマイカ  Grass & Sheep Law

 

 

2006年4月5日 昭和電工 

インドネシアでのアルミナ生産の事業性評価を開始することで合意

 昭和電工株式会社(社長 高橋恭平)は、アンタム社(インドネシア)、スター社(シンガポール)、丸紅株式会社と共同で、インドネシア国西カリマンタン州タヤン地区にアルミナ工場を建設することに関する事業性評価を開始することで、今般、合意いたしました。

 当社は、ケミカル用途の水酸化アルミニウムおよびアルミナを、横浜事業所で生産し国内を中心に販売しております。これらのアルミナ製品は、アルミナ成分を約50%含むボーキサイト鉱石を原料に生産されます。その生産工程で発生する酸化鉄、酸化ケイ素等を主成分とするボーキサイト残渣(BR)は、現在、国内法に基づき海洋投入にて処分しております。当社は、BRの海洋投入を2015年度までに全面的に終了する計画です。

 タヤン地区には良質なボーキサイトが埋蔵されており、ボーキサイトの採掘から年産30万トンのケミカル用途の水酸化アルミニウム・アルミナまでの一貫生産の可能性について検討を行います。

2007年3月14日 昭電

インドネシア・アルミナ計画の事業性評価を行う合弁会社設立

  昭和電工株式会社(社長:高橋 恭平)は、今般、インドネシア共和国内でのアルミナ工場建設(以下、インドネシア・アルミナ計画)に関して、事業性評価を行うための合弁会社インドネシア・ケミカル・アルミナ社を、アンタム社(インドネシア共和国)、スター社(シンガポール共和国)および丸紅株式会社と共同で設立することで、正式に合意いたしました。

  当社ならびにアンタム社、スター社、丸紅株式会社の4社は、これまで共同でインドネシア共和国西カリマンタン州タヤン地区での原料ボーキサイト鉱石の採掘からケミカル用アルミナ製品(*)までの一貫生産について検討を行ってまいりました。4月中旬をめどに設立する本合弁会社において、さらに詳細な投資額、環境アセスメント、資金調達方法等の検討を行い、インドネシア・アルミナ計画の実施可否を最終的に判断いたします。また、実施の際には、本合弁会社を本計画の推進母体とする予定です。

  当社は、現在、当社横浜事業所にてボーキサイト鉱石を輸入してケミカル用アルミナ製品を生産し、国内外に販売しております。本製品の生産工程で酸化鉄、酸化ケイ素等を主成分とするボーキサイト残渣が発生しますが、当社を含む国内メーカーは、現在、国内法に基づきこの残渣の海洋投入を行っております。当社はこのボーキサイト残渣の海洋投入を2015年度までに全面的に終了することにしております。

  アルミナ工場の立地予定地のインドネシア共和国西カリマンタン州タヤン地区には良質なボーキサイトが埋蔵されていることが既に確認されています。ケミカル用アルミナ製品の生産能力は年産30万トンを予定しており、原料ボーキサイト鉱石の採掘から製品製造までの一貫工場としては世界最大規模となります。

* ケミカル用アルミナ製品:アルミニウム精錬用以外の用途に使用される水酸化アルミニウムとアルミナの総称。主に、水質の浄化剤や機能性材料、エレクトロニクス製品などに使用される。

【ご参考】

1. 今回、設立に合意した合弁会社
社名:              P.T. INDONESIA CHEMICAL ALUMINA
日本語社名:    インドネシア・ケミカル・アルミナ社
設立予定:        2007年4月中旬
代表者:           ドロック ロバート シラバン社長(Dolok Robert Silaban)
資本金:           273億ルピア(約300万米ドル)
株主:              昭和電工株式会社、アンタム社、スター社、丸紅株式会社

2. アンタム社 概要

社名 :           PT. Antam Tbk
日本語社名:   アンタム社
本社所在地:   インドネシア共和国 ジャカルタ
設立:               1968年7月
代表者:          デディ アディティア スマナガラ社長(Deddy Aditya Sumanagara)
資本金:          4兆3,000億ルピア
株主:              インドネシア政府 65% 他
事業内容:       金、ニッケル、ボーキサイト等鉱産物の採掘・加工・輸出

3. スター社 概要

社名:        Straits Trading Amalgamated Resources Private Limited
日本語社名:    スター社
本社所在地:    シンガポール共和国
設立:               2004年12月
代表者:          ノーマン イプ カ チェン社長 (Norman Ip Ka Cheung)
株主:               Straits Trading Company Ltd. (STC) 100%
事業内容:       投資事業

 


2006年11月20日 日本軽金属/双日

日本軽金属と双日、ベトナム化学公団、サウスベーシックケミカル社とケミカル用途水酸化アルミニウム工場建設に向け 事業性調査の基本合意契約を締結
〜アジア最大規模のケミカル用途水酸化アルミニウムプロジェクト〜

 日本軽金属株式会社、双日株式会社は、ベトナム化学公団(VINACHEM、本社:ハノイ)、同公団の100%子会社であるサウスベーシックケミカル社(SBCC、本社:ホーチミン)と、アジア最大規模となるケミカル用途水酸化アルミニウム工場の建設について、事業性調査開始の基本合意契約を11月20日に締結いたしました。今年7月には、ベトナム首相府からプロジェクト推進の承認を取得しており、今後は、ベトナム南部のラムドン省にて、原料となるボーキサイトの埋蔵量確定作業に着手するとともに、工場建設に伴う環境アセスメント調査を開始いたします。

  日本軽金属、双日、ベトナム化学公団、サウスベーシックケミカル社では、2008年末までに、ボーキサイト鉱区の探査により最終的な工場建設地を選定し、合弁会社を設立して、工場建設を開始することを計画しています。新工場の水酸化アルミニウムの生産能力は年間約55万dを予定しています。プロジェクトの総事業費は約400億円の見込みで、資金調達は、ベトナムのカントリー・リスクも踏まえ、国際協力銀行の資源金融を中心とする予定です。

 日本軽金属は、水処理材、無リン洗剤用ビルダーや人工大理石、難燃剤などの原料向けの水酸化アルミニウム生産でアジア最大の生産能力を誇っており、高い技術力を基に、高品質の水酸化アルミニウムの供給を行っています。現在、日本の清水工場で水酸化アルミニウムおよびアルミナを生産していますが、ベトナムの新工場に水酸化アルミニウムの生産拠点を移転する計画です。サウスベーシックケミカル社は、傘下にボーキサイト鉱区を持つ鉱山会社を保有して、水酸化アルミニウムの生産を行っており、共同プロジェクトを通じて、両社のシナジーを発揮していきます。

  双日は、ベトナムを注力地域と位置付けており、化学品関連では、肥料の製造・販売やケミカルタンクの運営などを手がけています。今回のプロジェクトでは、ベトナムでのビジネス実績を生かし、プロジェクトファイナンスのアレンジや、エンジニアリングのサポートを行います。また、生産された水酸化アルミニウムの販売について、東南アジア向けだけでなく、全世界でのマーケティングに取り組んでいきます。

  ベトナムはボーキサイトの埋蔵量が世界第3位で、労働力も豊富なことから、ボーキサイトの産地として注目を集めています。ベトナム政府も国内のボーキサイト開発、活用に支援を表明しています。日本軽金属と双日は、水酸化アルミニウム生産で実績のあるベトナム化学公団、サウスベーシックケミカル社と共同で工場を建設することにより、良質な水酸化アルミニウムの継続的な安定供給を実現していきます。

日本軽金属 

蒲原製造所は、日本軽金属の各事業部門の複合組織です。
この組織には、
各工場に電力を供給する水力発電所
日本唯一のアルミニウム製錬をおこなう蒲原電解・鋳造工場(電解部門)
純度99.99%のアルミニウムを生産する蒲原電解・鋳造工場(偏析部門)
あらゆるアルミニウム製品素材の供給基地である蒲原電解・鋳造工場(鋳造部門)
各種押出製品を生産する日軽蒲原(株)押出工場
コンデンサー用電極箔を化成加工する蒲原電極箔工場
平行流方式のカーエアコンコンデンサーを生産する蒲原熱交製品工場
苛性ソーダをはじめ各種化学製品を生産する蒲原ケミカル工場
・・・および新規事業・開発製品等の生産をおこなう工場があります。また、この地区には、日軽グループの技術開発を担うグループ技術センターを始め、日軽グループの関係会社が活動しています。
テクノロジーカンパニーをめざす日本軽金属グループの、アルミニウム地金から各種加工製品にいたる、複合事業を担う蒲原製造所は、長期にわたって蓄積された技術力を最大に発揮し、自家用水力発電設備を擁するアルミニウムの総合工場として、お客様のさまざまなニーズにお応えしていきます。

日本経済新聞 2008/7/17

ベトナムのアルミ原料工場 日軽金、計画から撤退
 新日軽の再建優先

 日本軽金属はべトナムで双日や現地化学メーカーと進めていたアルミニウム原料工場の建設計画から撤退する。約400億円を投じ2011年にも年55万トン規模で生産を始める計画だったが、資材高などで工場建設資金が膨らむ可能性が出てきたことや世界景気の不透明感から採算確保は難しいと判断した。日軽金は子会社の新日軽の再建を優先させる方針で、浮いた資金を活用してリストラを加速させる。
 新工場で生産を予定していたのはアルミの中間原料になる水酸化アルミニウム。原料となるボーキサイトを精製して製造し、建材に混入する難燃剤や浄水施設で水のにごりを取り除く水処理剤などに用いる。
 ベトナムのボーキサイト埋蔵量は世界有数の規模で、労働賃金も安いことなどから日軽金の主導で06年から事業化調査に着手。08年にも合弁会社を設立し、同国ランドン省に新工場を建設する予定だった。
 日軽金が撤退した後も双日などは同規模で事業化に向けた準備を進める方針だ。
 日軽金は精製で生じる不純物の海洋投棄の問題に配慮して15年までに水酸化アルミの原料となる鉱石ボーキサイトの国内精製から撤退する方針。そのためべトナムの工場で生産した水酸化アルミを国内工場に輸送しアルミナなどに加工する体制に移行する計画だった。
 新工場建設計画からの撤退以降も日軽金は水酸化アルミ・アルミナ事業は継続する方針。海外メーカーから水酸化アルミを購入するか、ベトナム以外の国で新工場を建設するかを選択することになるとみられる。