日本経済新聞 2007/4/24

インド企業 新たな挑戦
 脱皮図る大財閥 海外展開と脱「同族」模索

 インド企業が変革を迫られている。外資規制緩和など経済改革の進展で、国内市場を寡占していた多くの有力財閥は一転して厳しい競争に直面し、海外展開や業務の再構築を急ぐ。一方、規制緩和を追い風に電気通信や航空などの分野では新規参入組の躍進も目立つ。インド経済を支える有力企業の新たな挑戦を追った。

タタ
 「インド企業がグローバル・プレーヤーになれることを世界に示した」1月末、総額70億ポンド(約1兆6700億円)に達する英蘭鉄鋼大手コーラスの買収を成功させた印大手財閥タタ・グループのラタン・タタ会長(69)は、記者団を前に胸を張った。
 130年以上の歴史があるタタ・グループは紅茶から自動車、製鉄、ソフトウエアまでの7部門96社。グループの2006年3月期総売り上げは約220億ドルと、インドの国内総生産の2.9%に達した。
 とはいえインド人の生活に密着したタタ・ブランドも海外では無名。世界に通用する企業グループヘと飛躍するため、タタが選択したのは海外での積極的なM&Aだった。00年以降、英有名紅茶ブランドのテトリーや韓国の大宇商用車、タイのミレニアム・スチールなどを相次ぎ買収。20件以上のM&Aに約32億ドルを投じた。
 「今後百年、インドを越えて翼を広げる」(タタ会長)との言葉通り、タタは08年中にもグループ売上高の半分を海外で稼ぐ目標を掲げる。

 タタ・グループの部門別売上高比率

素材  23%  タタ製鉄など
製造業・エンジニアリング  32%  タタ自動車
 ボルタス(家電)など
エネルギー  7%  タタ電力など
消費財  5%  タタ紅茶など
化学  4%  タタ化学など
情報・通信  20%  タタ・コンサルタンシー・サービス(IT)
 タタ・スカイ(衛星放送など)
サービス  9%  インディアン・ホテルズ
 タタ・フィナンシャル・サービス(金融など)

リライアンス
 老舗のタタとは対照的に、創業者の故ディルバイ・アンバニ氏がほぼ一代で築いたのがリライアンス・グループだ。石油化学から携帯電話、金融などに及ぶ大財閥は、それぞれ米スタンフオード大、ペンシルベニア大で経営学修士(MBA)を取得した息子のムケシュ(50)、アニル(47)兄弟が引き継いだ。
 兄弟はグループをさらに成長軌道に乗せたが、父の死後、相続問題という試練に直面した。堅実で実直な兄と、芸能人との交遊で知られるなど派手好きの弟の主導権争いが04年に表面化し、最終的にグループは2つに分かれ別々の道を歩むことになった。
 主力の石油化学事業などを引き継いだムケシュ氏は創業者の出身地グジャラート州で世界最大の製油所を着工。一方、新分野の携帯電話や金融事業などを手に入れたアニル氏も競い合うように事業を拡大。それぞれ傘下企業の株式時価総額を大きく伸ばした。
 だがこれは「インドで企業分割が成功した初のケース」(ムケシュ氏)。かつてタタのライバルだったビルラや中堅のモディなどの財閥は分割で相乗効果を失い、存在感が薄れている。最近では二輪車大手のバジャジ・オートでもオーナー一族の内紛が表面化した。
 一方、タタ・グループでは五代目総帥のラタン・タタ氏が独身で後継者は未定。同氏はやむなく自らの「定年」を75歳へと延長した。
 有力企業の多くがいまだに同族経営を続ける印産業界ではかねて「オーナー一族は日々の経営よりも企業統治(の体制整備)に軸足を置くべきだ」(経営コンサルタントのM.アトレヤ博士)との声が高まっている。伝統的なファミリー・ビジネスから脱却し、組織の近代化をどう進めるか、快進撃の陰でインド企業は大きな難問に直面している。