雑感174 -2002.4.15「農薬中ダイオキシン(農水省二度目の発表):三井化学の釈明を求む!」


4月12日、農水省は、CNPやPCP(いずれも水田除草剤)にダイオキシンが高濃度で検出されたことを発表した。「農薬に含まれるダイオキシン類の調査結果について」というタイトルだが、農水省のHPにはどういうわけか見あたらないのだが。

それを受けて、13日朝刊(朝日、日経、毎日:読売にはなし)には、小さな記事だが、「PCP、CNP、PCNBの回収へ」という記事が掲載されている。

CNP中ダイオキシン 最高値13000ppb

すでに、1999年7月(約2年前)に、農水省はCNPについて毒性のあるダイオキシン類(2378体)が検出されたと発表し、同日、三井化学がそれらの検査結果を発表した。その結果は、雑感1999.7.19「農水省の英断」(ここをクリック)で報告した。

しかし、今回の発表の結果は、前回と全く違う。
99年の結果では、CNP中のダイオキシン類のTEQ(2378TCDD毒性換算量)は、62〜0.2ng/g(原体)(ng/gはppb)で、我々の発表の7000〜2.0 ppb(I-TEQ)と大いに違う値であった。しかし、今回の農水省の値は、我々の結果とほぼ同じ、いや、全く同じである。

我々の分析で最高値を示したのは、1975年製造のCNPでは12000ppb(WHO-TEQ)であったが、農水省の発表では13000ppbである。1980年製造のCNPでは、我々2100ppbに対し、農水省2200ppbである。1983年の55に対し32、1984年の3.8に対し、1985年3.3である。

試料が違うにも拘わらず、驚くほどの一致である。

CNP中ダイオキシン類含有率

推定製造年

ダイオキシン類含有率 ng/g(原体)

WHO-TEQ(1997)  I-TEQ
今回農水省(02) 我々(99) 我々(99) 三井化学(99)
1972 1,100(粒)     43(粒)
1973 2,300(粒)      
1974 3,500(乳)      
1975 13,000(粒)  12,000(粒)  7000(粒)  
1976 11,000(粒)      
1977 860(粒)     62(粒)
1978 2,000(粒)       
1979 3,800(粒)      
1980 2,200(乳)  2,100(乳)  1200(乳)  
1981 3,600(乳)      
1982 34(乳)      27(乳)
1983 32(乳)  59(乳)  54(乳) 33(乳)
8.8(原)      7.2(原)
1984   3.8(乳)  2.2(乳)   
1985 3.3(乳)     3.0(乳)
0.27(乳)      0.6(乳)
1986   2.6(乳)  2.0(乳)  
1988 11(乳)     9.2(乳)
1990 0(粒)     0.2(粒)
1991 0.14(乳)      
45(乳)      45(乳)
0(乳)      
1992 0.12(粒)      0.4(粒)
1.8(粒)      
1993 0(粒)      
1994 0.24(乳)      

TEQ:農水省はWHO-TEQ、三井化学はI-TEQ、我々のデータは両者で計算した。
粒:粒剤、乳:乳剤、原:原体


三井化学のデータは一体なんだろう?

それに引き替え、三井化学が99年7月に発表した値は全く違う。最高値は62ppb。よく見ると、低い値は我々の結果とも、農水省の結果とも一致している。

1982年、83年、84年、85年、86年、88年、90年、91年、92年については見事に一致している。しかし、三井化学の発表データには高い値が全くない。一体これは何だ?
 
低い値は検出しにくい。しかし、高い値は検出しやすい。これだけ低い値が検出できて、高い値が検出できないのはおかしい。
 
三井化学が1999年7月に発表したデータは何だったのか。きちんとした釈明を求めたい。三井化学は、これまで我々の分析値との違いについて、lotによるばらつきが大きいと言ってきた。

しかし、今回の農水省の発表データを見ると、全くちがうlotを分析していると思われるのに、分析結果はぴたりと一致している。ということは、年度による違いはあるが、lotによる違いは大きくないことを示している。
 
再度言いたい。1999年7月記者会見までして、三井化学が発表したデータはどういう性質のものか?また、もしそれが間違いがあったとして、訂正値を今に至るまで、発表しなかったのは、何故か?(厳密には、今も発表していない。)それを、三井化学は説明する義務がある。そうでないと、嘘のデータを出しているということと同じことになる。
 
農水省は、「検出されたダイオキシン類の濃度は、概ねこれまで公表されているものと同程度であった」としているが、1999年7月農水省がダイオキシン含有を認めた根拠となっている三井化学の発表値と全く違うのは、どう説明するのだろうか?

影響はなかったか?

今回、農水省は農薬中のダイオキシン類の濃度を発表したが、「ダイオキシンが作物に付着することはなかった」、「土壌中に残留したダイオキシンが作物に吸収されることはない」としている。

確かに、コメについてはダイオキシン濃度は非常に低い。しかし、作物に付着しないとか、作物に吸収されることはないというのは、本当だろうか?我々は、1960年代、70年代の米や稲藁について分析を行った。できるだけ早く、その結果を発表し、その上で、この問題を再度議論したい。

PCPについてのデータも書いておこう。

PCP(ペンタクロロフェノール)

推定製造年 ダイオキシン類 TEQ ng/g  
農水省(02) 我々(99)    
1964   3500(粒)    
1966 440(粒)      
1967 320(粒)  200(粒)    
1968   550(粒)    
1969 37(粒)      
1970 7500(粒)      
1972 19(水)       
1975 810(水)      
1977 1400(水)      
1979 3300(水)      
1982 630(粒)      
1985 4.5(水)      

TEQはWHO-TEQ(1997)による。水:水溶剤

 


雑感174(2) -2002.4.17「三井化学続報!」

三井化学は、独自に分析したCNP中ダイオキシン類濃度についての分析結果を、農水省が発表したと同じ日に記者に公表したとのご連絡を受けた。

と同時に、その日の夜三井化学のHPに公表したとのことである。農水省からは、記者会見の前に連絡を受けたが、三井化学からは何の連絡もなかった。

結果は、99年の時の発表と比べてかなり高い値になっている。追って三井化学の発表結果について報告します。

 


雑感175 -2002.4.22「三井化学のデータをどう読むか?(CNP中のダイオキシン)」

すでに、4月17日の雑感でお伝えしたように、4月12日、農水省の記者会見が行われた際、資料を配付するという形で、且O井化学が独自に分析したCNP(クロロニトロフェン、水田除草剤)中に含まれたダイオキシン類(有害性が認められている、言い換えれば2378体のダイオキシン類とコプラナPCBs)の量についての調査結果を発表したとのことだった。その結果は且O井化学のHPでも見ることができる。

高いダイオキシン含有量
 
今回の結果は、1999年7月の発表結果とは大いにちがっていて、非常に高い値が並んでいる。CNP検体33試料についての結果である。粒剤と乳剤とがあるが、本質的な違いはないようで、TEQ量(WHO1998)で、最高値7400ng/g(原体)である。すでに報告した通り横浜国立大学発表は、最高値12000ng/g(単位は上と同じ)、農水省13000ng/gである。
 
1999年7月の且O井化学の発表では最高値が62ng/g(但し、I-TEQ)であったのだが、なぜこのように今回違う値が出されたのか、99年に発表された数値はどういうものであったのか、についてはいまのところ説明がない。
 
かなり膨大な表になるが、これまでの発表値を一覧にして示した(表1)。

表1 CNP中ダイオキシン類の濃度(総濃度、TEQ ng/g)

推定製造年

形状

三井1999

三井2002

農水2002

横浜1999

1968   1100    
1969   430    
1970   520    
1971     1900    
1972 43 3300 1100  
1972   1400    
1973   330 2300  
1974   1200 3500  
1974   4600    
1974   1000    
1974   6600    
1975   5800 13000

10000*

1975   3900    
1975   5400    
1976   1700 11000  
1976   3100    
1976   4300    
1977 62 6500 860  
1978   3000 2000  
1979   1600 3800  
1979   6000    
1980   580    
1980   1100 2200 2100
1980   3600    
1980   5000    
1981   4600    
1981   7400 3600  
1982 27   34  
1983 33   32 59
1984       3.8
1985   0    
1985 3 150 3.3  
1985 0.62 8.3 0.27  
1986       2.6
1988 9.2 28 11  
1990 0.17   0  
1991 45 120 0.14  
1991   0.02 45  
1992 0.4   0.12  
1992     1.8  
1993     0  
1993     0.24  

*発表当時12000だったが、後に修正された。 TEQは、WHO(1998)

ともかく、今回のことで、三井化学もCNPに高濃度数千ppbのTEQ量のダイオキシンが含まれていたことを認めたのである。ただ、二つの点で、三井化学のデータは、横国と農水省のデータと違う。
 
ひとつは、経年変化。もう一つは、2378TCDDの量である。

経年変化について(いつ、何故、ダイオキシン類の濃度は下がったか?)
 
我々が、最初にCNP中ダイオキシン含量の分析データを得たとき、最も驚いたのは、その経年変化であった。今回発表された農水省のデータと横国データを併せて、推定製造年との関係を示すと、図1のようになる。また、三井化学のデータを同様なグラフにすると図2である。


図1からは、二つの特徴がはっきりと読みとれる。
第1:1977年から極端に下がる。数分の1になる。
第2:1982年に激減する。百分の1程度に小さくなる。

ところが、三井化学のデータからは、それが読みとれない。一番高い値は1981年で、それまでの期間は、一定の値であるという印象をもつような経年変化になっている。1982年からは激減する。しかし、どういう訳か、極く最近の1992年や、1993年の値がない。これも不思議だ。
 
米国のベトナム戦争での枯れ葉剤使用によるダイオキシン問題で、1970年代はそのはじめから騒然としていた。ラブカナルの問題が明るみに出るのが、1976年。そして、Sevesoの事故が同じく1976年。
 
そして、1981年、東京都衛生研究所の山岸さんが、専門誌にCNPにダイオキシン不純物(この時点では、無害性の1368TCDDと1379TCDD)ありの報告を出し、CNPとダイオキシンの関係が俄に大きな問題になった。

経年変化の意味
 
この経年変化から、三井東圧(当時)は、自社の製品にダイオキシンが入っていることを知っていて減らした、という推察が成り立つと私は言ってきた。

1970年代後半における急激な減少が、農水省と横国のデータには見られるが、三井化学のデータにからは読めない。1975〜6年頃に、知っていたか否かは、企業責任問題の最重要ポイントである。
 
1981年の山岸論文に対する対応は、農水省+横国、および三井化学のデータの双方から読みとることができる。

2378TCDDの0の行列
 
2378TCDD(2378四塩化ダイオキシン)は、ダイオキシン異性体、同族体の中で、際だって重要な物質である。何故なら、そもそもダイオキシン問題は、2378TCDDから始まり、毒性が証明されているのは2378TCDDだけという場合が多い。

あとは、酵素反応などにより、同じ種類の毒性があると推定されている。だから、毒性は2378TCDD毒性換算量(TEQ)というかたちで表現されている。
 
2378TCDDそのものが存在するか否かは、TEQの大きさとは独立の、もう一つの問題である。今回の三井化学のデータを見て、驚く第2の点は、2378TCDDが0だということである。表2参照。

表2 CNP中の2378TCDDの量

推定製造年

2378TCDD ng/g 

三井2002 農水2002 横国1999
1968 0    
1969 0    
1970 0    
1971 0    
1972 0 170  
1972 133    
1973 0 110  
1974 0 180  
1974 0    
1974 0    
1974 0    
1975 0 220 57*
1975 0    
1975 0    
1976 0 130  
1976 0    
1976 0    
1977 0 52  
1978 0 89  
1979 0 120  
1979 0    
1980 0    
1980 0 35 <70
1980 0    
1980 0    
1981 0    
1981 0 11  
1982   0.13  
1983   0.11 <8.5
1984     <1.9
1985 0    
1985 0 0  
1985 0 0  
1986     <3
1988 0 0  
1990      
1991 0 0  
1991 0 0.55  
1992   0  
1992   0  
1993   0  
1994   0  

*最初の発表ではND(17)と発表された。 TEQは、WHO(1998)

発表資料の備考欄に、検出限界以下(ND)をゼロとしたという記述があるが、検出限界がいくつかは書かれていない。ただ、農水省は0.1ng/gを検査基準にしているから、検出限界は、この値以下であるべきだが。

2378TCDDの検出の難しさ
 
実は、2378TCDDの検出はとても難しい。何故なら、塩素の位置だけが違う1368TCDDと1379TCDDが、大量に含まれていて、先にピークが出る。そのピークに2378TCDDは隠れてしまうからである。

例えば、1975年CNPについての、我々の分析結果では、1368と1379が4,000,000ng/gに対し、2378TCDDは57ng/gである。4百kgの体重の大男のズボンの後ポケットに、たった1gの体重のこびとが入っているのを見付けるような作業である。

分子量は全く同じだから、ほとんど同じ速度で、すこしだけ遅くやってくる。少しだけ早くやってくるなら、見付けやすいが、後ろから来るから見付けにくい。CNP中の2378TCDDの検出は、かくも、気の遠くなるような綿密な作業を要するのである。
 
だから、この0の行列は、この分析技術が、2378TCDDを見付けることができないレベルだということを示している。しかし、すでに2378TCDDの存在が言われているのだから、そのデータを貰ったら、その点をもう一度やり直すように指示すべきである。
 
TEQに与える影響はさほど大きくはないが、2378TCDDがあるか、ないかは、企業責任の面ではかなり違う。2378TCDDこそがダイオキシンだからである。

我々の2378TCDD
 
我々のデータはどうか?

1999年1月に最初に発表した際、2378TCDDについてのデータを、我々は公表しなかった。ついで、同年7月環境化学会で発表した際、ND(1.5)、ND(14)、ND(1.7)、ND(0.38)として発表した。

最初、分析担当者から出された数値を私は採用しなかった。できるだけ小さくなるように(故意に)、もう一度ピークを書き直し、数字を出した。それが、()内に書いた数値である。その上、NDをつけた。

何故か?2378TCDDがあるかどうか、その値は、もし企業が訴えられるような場合には、一番大きな争点になるだろう。だから、その数値を間違ってはいけない。最初に発表する者として、十分な注意はしたつもりだが、見落としがあるかもしれない。

だから、ぎりぎり小さめの数値にすべきだ。学術的にこの分析法でいいというお墨付きもないのだから、大きなピークの後の虫ピンのようなピークだから、用心に用心を重ね、NDとした。しかし、ゼロではない。ゼロにするのは、卑怯だ。保身のために、一番問題になる数値を発表しないなんて許されない。それを考慮して、ぎりぎり残る数値を()内に載せた。

しかし、三井化学が同じことをやることは許されない。企業の責任としては、もし判断が難しいとおもったのであれば、ぎりぎり高く見積もることのできる値を示すべきなのである。

ダイオキシン問題は、もし毒性が争われることになれば、やはり2378TCDDが問題になる。2378TCDDの毒性は証明されている。TEQは推定毒性にすぎない。だからこそ、2378TCDDが検出できないようなレベルの分析機関では駄目だ。

実は
 
1999年1月に、ワークショップで我々は最初の発表をした。その年の3月末に開かれた日本農薬学会で、三井化学のT氏が、告訴するといい、さらによく事情が呑み込めないのだが、農水省までが国会内で、市民団体に対し、告訴も考えると発言した。

また、不思議なことに、(およそ名のある)すべてのダイオキシン研究者が、我々の分析がおかしいという立場に立って動き出した。愛媛大学の脇本教授は、「あれは科学ではない。でたらめだ。科学以前の人間性の問題だ」などと言い出す始末だった。(雑感40 A教授の憂鬱1999.4.13へのリンク

ところが、7月に開かれた環境化学会で、益永がこの発表をした日、農水省と三井化学が記者会見し、実はCNPに有害性のダイオキシン類が含まれていたと発表した。(雑感54 農水省の英断1999.7.19へのリンク

さらに、9月には三井化学のK氏が私に対して謝罪にきた。今までのご迷惑を社として、深くお詫びしますとのことで以下のことを言った。

今までの三井東圧のdirtyな部分は全部洗い直し、きれいになります。新しい社長の中西宏幸は、ともかくクリーンで、何が何でもクリーンでなければならないと言っております。現在、営為分析に努力をしているのですが、7月に発表した値より高い値も検出されており、それも含めて、データが出次第、データの説明をふくめて中西社長が謝罪に伺いますので、なにとぞ今までのことは御容赦いただきたい。中西(こちらは準子)先生が、疑問を出しておられる経年変化についても、きちんとご説明させていただきます。

それで、私は待っていたのだが、何の説明もなく、4月12日の発表になった。

●我々の結果は、以下のjournalに掲載されている。
Shigeki Masunaga, Takumi Takasuga and Junko Nakanishi, Dioxin and dioxin-like PCB impurities in some Japanese agrochemical formulations, Chemosphere, Vol.44, pp.873-885(2001)