3-42.雑感(その42 -1999.4.27)「農薬中のダイオキシンの意味するところ」
 

1.最近の情勢

 すでに、何回かにわたって書いている通り、我が国の環境中に存在するダイオキシン類(DXN)の大部分が、かつて使われた水田除草剤に起因していることは間違いないだろう。これに対して、製造していたA(株)は、強い反論を展開している(私の知る限り最初の公式の発言は、3月27日農薬学会シンポジウムでとのことだが、私は出席していない)。A(株)の主張は、「益永氏の分析は完全な間違い。製造工程から考えて、有害成分が存在する筈がない。試料が信用できない」というものだそうだ(伝聞)が、それは、また、いつか議論してみたい。

 さらに、A(株)の首脳は、その学会で出会ったB大学のB教授に「益永教授を告訴するつもりだ」と言ったという。つまらぬ争いは避けた方がいいと考えた私は、B教授を通して、A(株)に「お互いのデータを持ち寄って話し合いをしませんか」と申し入れた。それに対して、A(株)は、先週の木曜日に「NO」と返事をしてきた。

 

 A(株)は、製造年代毎にCNP原体を厳封して保存していて、分析した結果TEQ(有害成分の量)は低いと、別のところで主張している(分析機関名を明らかにしているが、何年製造のCNPを測定したか、不明)。B教授は、「中西さんは、農薬試料を提供する用意があると言っているので、お宅で分析してみたら」という提案をしたが、それも「NO」だったという。お互いにサンプルと交換して、分析するのがいいと、私は思っていたのであるが、駄目なようだ。

 私は、私のもっている試料(1975年のCNPを含むMOという農薬)を、もし、希望があれば農水省に提出してもいいと考えている。さらに、我々のもっている試料が、おかしいと考えるなら、一緒に農家を回って別の試料を探してもいい。古い農薬は簡単に見つけることができる筈だ。それを、お互いに分析する用意もある。そういう方法で、決着をつけることができる。これは、議論してもしかたがない。現実に分析するのがいい。それで、すべてが分かる。

2.Implication

 ところで、我が国のDXNの主たる発生源が、農薬だったとしたとき、その意味するところ(implication)が何かを考えてみたい。

 まず、水田に散布されたDXNがどういうルートで他の環境媒体に移行し、人に伝わるかということを考えなくてはいけない。

@一番問題のルートは、水田から米のルート:少なくとも現在は、米がDXNに汚染されているという情報はない。しかし、農薬が使われた当時は、或いは米が汚染されたということもあったのではないかと考えて、その調査を準備中だが、今の時点では分からない。

A糠(ぬか)から、人へのルート。玄米には一定程度のDXNが含まれていたのではないかという疑問と、その経年変化。

B藁とか籾の中のDXNが、つぎの環境媒体に移るルート:燃焼により大気へ、堆肥などから他の農作物へ、飼料として牧畜へ。

C水田から河川や海へ:海から魚介類へ。

D散布者の体内へ:
私がいま、仮に考えている重要度を、過去と現在に分けて考ると、以下のようになる。もちろん、これは作業仮説にすぎない。
 
 

 

 

過去

現在

米のルート

大または小(?)

水系から魚介類へ

散布者へ

なし


 この中で、まず議論がないと思われるのが、水系から魚介類へという移行である。魚介類中のDXNのうち、何割くらいが農薬起因かというのは、興味ある課題で、我々の研究グループでもその問題に取り組んでいる。

 詳細は、結果待ちだが、近海魚の場合、6割程度が、農薬起源と考えていいように思う。平均的な日本人(清掃工場労働者など除く)では、現在体内に蓄積しているDXNの5割は農薬、3割がバックグラウンド、2割が焼却を含むその他、現在摂取しつつあるDXNでは、4割がバックグラウンド、3割が農薬、3割が焼却などと、いうのが私の今の感触である。

 バックグラウンドとは、第二次世界大戦終了時からすでにあった汚染、および、現在途上国である汚染である。もちろん、今の段階ではいい加減な当て推量であるが、1年以内に確かめることができるだろう。

3.対策は?

 では、対策はあるか?

 実は、どういうルートで水田にあるDXNが他の環境媒体に移り、人のリスクに関係するかが分からないと対策は立てようがない。

 しかし、水田からの流出と魚介類への移行は、議論がないだろうし、それについては今でも考えることができる。水田からのDXNの流出を防ぐ方法はあるかと言えば、それはないだろうし、それをする必要もないだろう。問題は、その結果おきるかもしれないことを、どのように防ぐかである。そのためには、魚介類の調査と魚介類多食者、農業従事者の調査が、どうしても必要である。その結果をふまえて、何ができるかが議論されなければならない。ただ、歴史的に見れば、濃度も減少しているので、減る方向にあるということで、考えていいと思う。

 農薬散布者への影響は、血液中DXN濃度を測定すれば、過去にさかのぼって概ねの影響が評価できる。現在の血液中濃度(同じ集団の平均で)が50pg/gだったとすると、多分、当時はその10倍くらいの値であったろう。調査は必要だが、このレベルなら、健康被害はないと思う。今のレベルが500だと、当時のレベルは5000を超えることになる。この点は、推定の手がかりが全くない。

4.ダイオキシン対策全般への意味

 この農薬問題は、我が国のダイオキシン対策の根本的な変更を迫るものである。

 まず、ダイオキシン汚染源は、焼却炉だけではないということをよく認識して対策をたてるべきである。汚染源が焼却炉だけと仮定して、そこだけ締め上げても、資金と資源の無駄使いで、大してリスクは減少しない。煙突のあるところだけ調査するというような態度では、全体像はつかめない。

 急がなくてはいけないという認識が、厚生省のメニュー(RDF+大規模化)でいこうという雰囲気を作っているが、ダイオキシン汚染は基本的に過去の遺産だと考えれば、それほど急ぐ必要もないことが分かる。もう少し、立ち止まって、ゆっくり対策を考えていい筈だ。日本のDXN汚染は、欧州のような公害型ではない。

 ひどい焼却炉が放置されているのは、事実で改善すべきだが、それは必ずしもダイオキシンの問題ではない。通常の公害対策、廃棄物対策として考えるべきことである。


3-43.雑感(その43 -1999.5.10)

    AERA:5月17日号(5月10日発売)に、農薬中ダイオキシンについての我々の結果が掲載されている。見出しは、「除草剤CNPは第二薬害エイズか」となっている。エイズとどう関係するか知らないが、記事は事実を伝えていると思う。これを読むと、CNP製造企業は三井化学であることが分かる。つまり、2週間前に出した雑感42のA(株)は三井化学であったということである。
 私の言いたいことは二つ、ダイオキシンの主たる発生源は、ごみ焼却炉ではないので、わが国のダイオキシン対策は、根本から見直せということが第一。第二は、このような重大な新しい発見があったにも拘わらず、学者はもちろん、朝日新聞を除くあらゆるマスメディアが、これをシカトしている、如何にも日本的だが、こういうことでいいのかということである。市民団体も、常に情報公開を求める。しかし、自分に都合が悪い情報は、出ても見向きもしない。何が、都合が悪いのか?一つは、焼却炉が敵、塩ビが敵という運動にとって都合が悪い、もう一つは、外国からの輸入品は薬漬けで危ないというキャンペーンにマイナスということらしい。

 


3-44.雑感(その44 -1999.5.14)「例えば、農薬は」
 

 例えば、農薬は農家の物置にこのような形で残っています。(撮影:八十田英市)

1.MO粒剤−9(CNP 9%の粒剤)

2.1の最終有効年月(昭和53年10月)