(1994/8/5 日経) 
住化・日本ゼオン・トクヤマ 塩ビ、新会社に統合     
   製造・販売を一体化 生産能力、最大に


 住友化学工業、日本ゼオン、トクヤマの大手化学3社は塩化ビニール樹脂事業を統合することで合意した。3社は年内にも新会社を設立し、生産設備などを移管する。新会社の塩ビ生産能力は首位の信越化学工業を上回り国内最大の規模となる。8月中にも出資比率など詳細を詰める。事業統合で生産規模の拡大による収益改善をめざす塩ビ業界の新しい形の提携の第一弾となる。需要低迷の続く石油化学・塩ビ業界の再編成の引き金となろう。
 塩化ビニール樹脂は建材、自動車の内装材、各種日用雑貨に使われる代表的な合成樹脂。
新会社に移管するのは3社の塩ビ事業に関する研究開発、生産設備と販売部門。売り上げ規模で500億円程度の塩ビ専業会社ができる。
 この3社と呉羽化学工業は塩ビの共同販売会社を設立していたが、呉羽は新会社設立に参加せず、独自で生き残りを追求する。塩ビ業界では81年に構造不況を乗り切るため業界ぐるみで4つの共販グループを発足させ、これまで共販体制を維持してきた。
 3社が塩ビ事業の統合を決めたのはいずれも同事業が赤字であるのに加え、個々の事業規模でほ収益改善が見込めないと判断したため。93年度の塩ビ事業の赤字は業界全体で約200億円に違している。3社は事業規模を拡大し、各設備を効率運営することでコスト面で国際競争力を強化する。8月中にも出資比率や新会社の経営陣などの詳細が固まる見込み。 
 住友化学は千葉地区(千葉県市原市)と新居浜地区(愛媛県)に、日本ゼオンは水島地区(岡山県)と高岡地区(富山県)に、トクヤマは全額出資の塩ビ事業会社であるサン・アロー化学を通じ徳山地区(山口県)にそれぞれ生産設備をもっている。
 塩ビ樹脂の国内生産は年間約200万トン。3社合わせた生産能力は年産約40万トンになる見込みで、現在37万トンの信越化学を抜き国内最大となる。
 国内では塩ビ樹脂のほかポリエチレンなどポリオレフィン樹脂、セメントの3分野で共販体制がとられたが、すでにセメント分野ではすべての共販グループが解散している。今回セメントに続き塩ビ樹脂の分野でも共販体制が崩れるほか、ポリオレフィン樹脂分野でも10月に三菱化成と三菱油化が合併することで3共販グループと1社の体制に移行することになる。
 塩ビを含め化学業界は過剰設備を抱えるうえに、円高による自動車、電機などのユーザー企業の海外生産の加速、東南アジアなど海外からの化学品の輸入増という苦境に直面している。今後、共販体制の枠組みを超えた業界の再編成がさらに進みそうだ。


 解説 住化など塩ビ統合 業界再編 一気に加速 呉羽離脱、共販の限界露呈

 住友化学工業、日本ゼオン、トクヤマの3社による塩化ビニール樹脂事業の統合と呉羽化学工業の共同販売体制からの離脱は、表向き無風状態だった塩ビ業界の合従連衡を一気に表面化させる起爆剤となる。
 今回の塩ビ事業会社の計画は13年前の構造不況時に通産省の指導で作られた共販体制の一角が崩れることを意味する。
 もともと共販体制はグループを構成する会社が事業を一本化することを将来像としていた。販売面の効率化に加え、研究開発や生産などの部門で重複投資を抑え、経費を削減する利点があるからだ。
 なかでも4社で構成する第一塩ビ販売グループは、販売に加え生産分野でも共同出資で製造会社を設立、運営するなど共販グループの中では最も実質的に進んでいた。
 それにもかかわらず、呉羽化学が同計画に乗れなかったのは統合によるメリットが塩ビ事業を分離することのデメリットを補いきれなかったためだ。同社は大規模な石化コンビナート内で塩ビ製造を手掛けている他の3社と異なり、いわき市(福島県)に独立の工場を持ち、同社の他の事業と一体運営している。このため塩ビ事業だけを分離することが難しかっただけでなく、統合による効果も出にくい環境にあった。
 共販が4社あるいは5社で構成されている以上、全社が等しく利益を享受できる仕組み作りには限界があることが、呉羽の離脱によってはっきりした。他の塩ビ樹脂共販グループのほかポリオレフィン分野の共販体制も今回の第一塩ビのケースと同様の課題を抱えており、今回の事例が引き金となって共販体制が今後急速に流動化する可能性も出てきた。