塩ビ共販設立経緯                            

1981/10/17日本経済新聞

塩ビ、グループ化を 産構審小委が構改案
 原料輸入や販売で 60年の設備稼働率67%に

 通産省は16日、産業構造審議会化学工業部会の塩化ビニル・ソーダ小委員会を開き、塩ビ、カセイソーダの長期需給見通しと塩ビ業界の構造改善の基本的方向を打ち出した。これは11月下旬に予定されている産構審化学工業部会の中間答申と、塩ビ業界が現在作成中の構造改善策の骨格となるもの。それによると@60年の設備稼働率は塩ビ67%、カセイソーダ66%となるA塩ビ・ソーダ需給に大きな影響を及ぼす塩ビ中間原料の内需に占める輸入比率は、60年で25%、65年で26%に達するB塩ビ業界は国際競争力をつけるため、構造改善策として共同販売、中間原料の共同輸入など、企業のグループ化を進めるーーが骨子となっている。
(中略)
 需給見通しを踏まえ、現在、不況カルテル後の構造改善作りを進めている塩ビ業界の基本方向を「国際競争力の強化」と「集約化」としている。その具体案として@
メーカー17社が数社ずつまとまり共同販売会社を設立し、価格の安定化、流通合理化、生産の受委託を進めるA塩ビ中間原料の輸入を数社ずつによる共同輸入とし、価格交渉力を高めるとともに、輸入施設の合理化を実現するB塩ビ樹脂の設備能力の増加は避け、競争力強化と集約化促進のためにスクラップ・アンド・ビルド(設備更新)を積極的に進めるーーなどを挙げ、集約化をテコにした国際競争力の強化を強く打ち出している。


1981/10/22 日本経済新聞

塩ビ17社、4グループに 共同販売をめざす              
裏話
 三菱・三井・興銀系・その他に

 塩化ビニール樹脂業界主要9社首脳は、全17社を4グループに再編成、共同販売化をめざすことで合意した。これは11月以降の不況カルテル切れをにらんで構造改善策を協議してきた塩化ビニール工業協会の高橋博会長(呉羽化学工業社長)が21日、主要9社社長会の場で会長案として提示、了承を得たもの。4グループは「三菱系」「三井系」「興銀系」「その他」とし、主要各社は直ちにグループ結成に向けて個別企業間の折衝に入り、11月中にメドをつける予定。塩ビの構造改善策については産業構造審議会が審議を急いでいるが、業界自身が一足先に再編・集約化に踏み出すことになった。

 会長案による4グループの構成企業は、三菱系が信越化学工業、旭硝子、菱日(三菱化成工業系)、三菱モンサント化成(同)の4社。三井系が鐘淵化学工業、三井東圧化学、電気化学工業、東亞合成化学工業の4社。日本興行銀行系は東洋曹達工業、セントラル化学(セントラル硝子系)、日産塩化ビニール(日産化学工業系)、チッソ、徳山積水工業(東洋曹達、積水化学工業系)の5社。その他が日本ゼオン、呉羽化学工業、住友化学工業、サン・アロー化学(徳山曹達系)の4社となっている。

 各グループごとに、グループ化について企業間で協議し、その結果を11月24日までをメドに高橋塩ビ協会長に報告することになっている。同会長は構造改善策の作成に当たって「答案が50点にしかならなくてもよい。何年か後に80点か100点になればいい」と語っていることから、グループに参加しない企業が出ても、合意した企業同士でグループを発足させることになる見通しである。
 塩ビは石油化学製品の中でも典型的な「原料高の製品安」の状態に陥り、全メーカーが過去1年間余りを赤字操業を強いられている。最大の生産能力を持つ信越化学で月間4億円程度の赤字を出し続けている。しかも設備が過剰で、輸出が減り輸入が増えるという形で国際競争力を失っているだけに、メーカー各社にとって塩ビ事業を今後どうするかが、経営上の最大課題となっており、4グループ化案を大筋として実現させなくてはならない局面に追い込まれている。

 グループ化するに当たってまず共同販売をめざすのは、販売の過当競争体質が同業界の最大の問題の1つであるため。17社がシェア争いのために、コスト割れ価格で販売合戦に走り、不況カルテル結成を繰り返してきている。こうしたことから産構審化学工業部会の塩化ビニル・ソーダ小委員会で、塩ビ構造改善の具体策として、4−5社の共同出資による共同販売会社の設立を打ち出している。
 各種ある塩ビ樹脂のうち汎用製品を共販化できれば@販売価格を安定させられるA製品グレード、商品名の統一化による生産合理化が可能になるBグループ内の交錯輸送の廃止など流通合理化を実現できるC共販化を機に近い将来生産の受・委託など生産集約化への発展も期待できるーーといった利点が見込める。共販が完全に実施できるまでの過渡的な措置として、需要家と交渉する幹事社を決めるという方法が考えられており、今後こうした道を進む公算が大きい。
 ただ販売シェア(市場占有率)を推定すると、4グループのうち興銀系は20%前後で問題はないものの、三菱系が25%前後で公正取引委員会のチェックラインすれすれで、三井系とその他はそれぞれ28%前後、27%前後と25%を超えている。このため、今後、塩ビ構造改善を後押しする通産省と公取委の間で論議を呼ぶものとみられる。


1981/12/14 日本経済新聞

塩ビ共販 2月にも実現 まず「ゼオン」「呉羽」「住化」「サン・アロー」
 均等出資で新会社 あす社長会で決定 公取と協議へ

 日本ゼオン、呉羽化学工業、住友化学工業、サン・アロー化学(徳山曹達系)の塩化ビニール樹脂メーカー4社は、15日に社長会を開き、塩ビ共同販売会社の骨格を最終的に決定、直ちに公正取引委員会との協議に入る。共販会社の内容は@資本金は4社均等出資の1億ー2億円、従業員は各社からの出向で20人程度の規模とするA共販対象は汎用塩ビ樹脂とし、各社の自家消費用を含む全量を買い上げて販売するB共販量の4社間の比率は現行生産シェア(占有率)を目安にするーーなど。塩ビ業界は4グループに分かれ、共販会社設立をめざしているが、具体化するのはこれが初めて。

 塩ビ業界は過剰設備、原料高の製品安、国際競争力の喪失の三重苦にあえぐ構造不況に陥り、全メーカーが赤字操業を続けている。このため業界17社は三菱系、三井系、日本興行銀行系、「その他」の4グループに分かれ、それぞれが共販会社を設立、販売価格を安定させたうえで生産合理化につなげていこうとしている。現在、各グループで共販化に向けて協議を進めているが、中でも共販化の提唱者である高橋博塩化ビニール工業協会会長(呉羽化学工業社長)が属する「その他」グループの動きが先行していた。
 同グループはこれまでの協議で、共販会社の概要を固めた。共販会社は4社の発言権を対等にするため、25%ずつの均等出資とする。各社からの出向で営業担当のほか、経理などの管理担当も置く。共販品目はペースト樹脂やレコード用樹脂などの特殊品を除き、重合度が600から1500までの汎用樹脂とする。共販会社は価格決定権をもつ営業主体とし、共販の取扱い比率は時期により変動するが、現在の生産シェアを目安にする。
 共販会社の社長は未定だが、日本ゼオンか呉羽化学から出す見通し。共販化に当たっては、東日本と西日本の地域間の交錯輸送の廃止を皮切りに、流通、生産面の合理化にも着手する。
 こうした共販の骨格と運営法を15日に開く4社社長会で最終決定し、作業を公取委との本格協議に移す。同グループの現行生産シェアは25%強。公取委が「重要審査案件」とみなすチェックラインを25%としていることから、協議の行方は微妙。4社及び共販化を後押しする通産省と、公取委の綱引きになりそう。公取委との協議が年内に終わったとしても、法的手続きの関係で実際の共販設立は2月以降になる見通し。
 同グループを除く他の3グループは「その他」グループの共販の骨格を1つのモデルに、具体的に詰めることになろう。


1981/12/24  日本経済新聞

三井系も5月に設立 塩ビ共販会社 グループ化に弾み

 塩化ビニール樹脂業界は23日、主要9社社長会を開き、共同販売化を含む今後の構造改善策を協議した。席上、日本ゼオン、呉羽化学工業など4社グループが来年4月に共販会社を発足させ、生産・販売の合理化に着手する計画を表明したのに続き、三井東圧化学、鐘淵化学工業など「三井系」4社グループも5月に共販会社を発足させる方針を明らかにした。三井系4社グループが共販発足の時期を明示したのはこれが初めて。共販設立も最も先行していた日本ゼオングループに続く“第二グループ”の計画が明確になったことは、残る「三菱系」4社、「興銀系」5社の2グループによる共販計画の具体化を促進することになろう。


1982/2/9 日本経済新聞

公取、塩ビ共販に難色 「4グループ化は競争制限」

 公正取引委員会(樋口収委員長)は8日、塩ビ業界が構造改善策として検討中のグループ化による共同販売計画について「1グループだけなら認めるが、4グループ化による市場分割は競争制限につながるので独禁政策上、認めがたい」との見解を明らかにした。通産省もこの計画をあと押ししているが、近く樋口委員長が真野基礎産業局長と会ってその旨伝える。公取委が「塩ビ共販」に難色を示したことは塩ビ業界のみならず業界ぐるみの協調体制で苦境を乗り切ろうとする石油化学、紙パなどの構造不況業界にも大きな影響を与えそうだ。
 
 公取委首脳は「その他」グループの共販計画については「販売シェアが24%と規制基準(25%)を下回っているし、競争制限につながることはない」と述べ、1グループだけなら共販を認めるとの姿勢を示している。
 しかし公取委は4グループ化による共販については@販売市場を4分割するので価格競争がほとんど行なわれなくなる可能性が強いAグループによっては販売シェアが市場支配力の目安である25%を超えるところもあるB共販により構造改善効果が不明確ーーなどをあげ、「4グループ化がほぼ同時期に共販体制をスタートさせることは独禁政策上問題点が多い」(首脳)としている。
 このため公取委は現在業界内部で検討が進んでいる残り3グループについては「今すぐ認めるわけにはいかない」(首脳)としており、「その他」グループの共販を実施した後の市場動向や構造改善情況などをみながら改めて対応をとる方針。


1982/4/14 日本経済新聞

塩ビ共販、後続遅れる 公取委が慎重な姿勢に

 塩化ビニール樹脂業界は構造改善策の“突破口”として共同販売化に動いているが、日本ゼオン、呉羽化学工業などの4社が4月1日に先頭を切って共販会社を開業したものの、後続グループの共販会社設立は大きく遅れる見通しとなってきた。これは公正取引委員会が後続グループの計画に対し、「先頭グループの共販活動の様子を見守ったうえで判断したい」としているため。この結果、当初、5月1日の開業を目指していた第二グループ、三井系4社の共販会社の開業は7月以降にズレ込む公算が大きくなっており、三菱、興銀系の両グループの具体化に至っては秋になりそうな雲行きだ。

 


石化協 年表

1982/6  通産省と公取委、塩化ビニル共販会社設立に合意


1982/6/11 日本経済新聞

公取委審査終わり来月新会社発足へ  三井系、三菱系の塩ビ共販

 公正取引委員会は10日、三井系4社と三菱系4社の塩ビ共販事業の事前審査を終えた。両グループは今後、早急に公取委に対して共販事業計画を届け出るが、事前審査で問題点がなかったため、公取委は同計画が提出されしだい即刻受理する見通し。これで三井系、三菱系とも7月に共同出資会社を発足させることが確実となった。


第一塩ビ販売 (その他系) 1982/3/12設立 1982/4/1営業開始

日本塩ビ販売(三井系)   1982/7/15設立 1982/8/1営業開始

中央塩ビ販売(三菱系)   1982/7/15設立 1982/8/1営業開始

共同塩ビ販売(興銀系)   1982/8/11設立 1982/9/1営業開始


1982/10/26 日本経済新聞夕刊

塩ビ管業界向け出荷を停止 樹脂共販4社

 第一塩ビ販売など塩ビ樹脂の共同販売会社4社は26日、積水化学工業、久保田鉄工など大手塩ビ管メーカー向けの出荷を停止した。こう着状態に陥った1キログラム当たり20円の塩ビ樹脂値上げ交渉の早期収拾をねらった措置で、共販4社は「満足できる回答があるまで出荷停止を続ける」としている。

 


塩ビ協 塩化ビニル工業30年の歩み(昭和60年) 

構造改善の推進に携わって
 呉羽化学工業社長 高橋博

 塩化ビニル業界の構造改善問題を私が最初に手懸けたのは、昭和47年の常務時代で、この時は白水業務委員長のもとで設備処理の素案作りを担当しました。この時は塩化ビニル業界全体で年産48万tという大規模な設備処理を実施したわけですが、その後の推移をみると技術の向上による生産能力の増加、さらにはニューカマーの参入などもあって、十分な成果を上げることはできませんでした。
 私が塩化ビニール工業協会の会長に就任したのは54年ですが、当時の日本の塩化ビニル工業は、原燃料価格の高騰により国際競争力を失うという重大な局面に直面していました。そこで私は、業界体制の整備による過当競争の回避と合理化によるコスト引き下げ、原料EDCの秩序ある輸入が重要であると考え、これに取り組むことにしたわけです。
 まず、業界体制では17社がそれぞれの立場で販売競争を行う結果、加工業界を含む塩化ビニル産業全体が価格競争で混乱するという状況を改善するためには、生産、販売の集約化が必要であると考えました。一方、原料EDCでは当時カナダ、サウジアラビア、イランなど大規模な計画が相次いで計画されており、秩序ある輸入が不可欠であると思いました。
 そこで、54年8月に塩化ビニール工業協会に長期ビジョン研究会を設置して総合的な検討を始め、さらに56年8月には構造改善委員会を設置し、構造改善のための具体的な意見の調整を開始したわけです。この過程で生産の合理化を進めることを前提に、販売の集約化を推進するという方向が固まってきました。
 ところが、各論になると各社とも商社やユーザーとの関係などいろいろな社内事情から、できない理由ばかりが先行して語し合いは一向に前へ進みませんでした。そこで常務クラスで検討していてもだめだということになり、社を代表して決断できる社長会で基本線を決め、大手数社で素案を作り、通産省や公正取引委員会と調整しながら段階的に固めていくことにしたわけです。
 その結果、17社を4グループに集約することになったわけですが、最大の問題はどの企業とどの企業がグループを組むかということと.各グループの量的バランスをどうするかということでした。
 「A社と組みたい」、「B社とは絶対組みたくない」といったようなことで、具体案は容易にまとまりそうにありませんでしたので、やむなく私は各社の社長に「組みたくない会社」のリストを提出していただき、私案をまとめたのが56年の10月でした。この私案は、極秘とし.4グループの中核となる会社にだけ示してグループごとに話をすることになっていました。ところが、ある新聞がこれをスクープしたため.「そんな話は聞いていない」、「あんな会社と組むのはごめんだ」などということで大混乱に陥り、結果的には4グループの話し合いが遅れる原因となりました。
 ちょうどスクープされた日、私は大阪に出張のため新幹線に乗っていましたが、次々と電話が入るため座るひまがないほどで、しかも東京から逃げ出したなどといわれて大変な目に会いました。
 こうして4共販会社が発足することになったわけですが、この間、通産省の眞野局長、鈴木課長、公正取引委員会の橋口委員長以下の各委員および事務局の皆様方、さらには関係ユーザー団体の方々には大変お世語になり、深く感謝いたしております。
 その後塩化ビニル業界は、共販会杜の発足を中心とする構造改善と世界的な景気回復に支えられて市況が回復していることは大変喜ばしいことです。しかし、私がやり残した苛性ソーダ工業のあり方を含めた輸入EDC対策、および構造改善の柱である各種合理化による国際競争カ強化の重要性は今も変わっておりません。もう一度初心に立ち返り、各社一致協力して地道な努力をかけむけることが、わが国塩化ビニル工業の発展のために重要であると考え、引き続き微力を尽くしたいと思っております。