2008年6月2日

信越化学工業株式会社
取締役広報部長 中村 健

◆「日経ビジネス」6月2日号記事に抗議します◆

日経BP社発行の「日経ビジネス」6月2日号にて、「深層スペシャル 原油200ドルに備えよ―このままでは信越化学が8割減益に―」との特集記事(以下、当該記事)において、見出しならびに本文中に架空試算数値を掲げ、あたかも弊社に大幅減益の危険があるかのような著しく誤った印象を読者に与え、投資家の皆様、お取引先にも少なからぬ不利益をもたらしかねない不当な表現がありました。弊社はこれをきわめて遺憾なことと考え、日経BP社ならびに同誌編集部に強く抗議するとともに、相応の措置を講じてまいる所存です。
つきましては、ここに弊社が当該記事に関して問題と考える点について概略をご説明いたします。
 
【原油価格高騰の弊社への影響について】

原油価格の高騰は、製造業を始め多くの日本企業に大きな影響を与えていることは事実ですが、弊社事業においては原油を原料とする製品より、地球上に無尽蔵にあると言われるケイ石を出発原料とする製品が大きな割合を占めています。このため、原油が1バレル200ドルとなった場合でも、他の会社より影響が大きいとは考えられません。この点で、当該記事の記述ならびに試算数値はまったく現実からかい離したものであると言えます。既に原油の値段は上がっていますが、弊社ではこれを克服するあらゆる経営努力を継続しており、当期も業績伸長に向け全事業部門とも精励しております。

【日経ビジネス誌当該記事の問題点】

 当該記事は国内研究機関所属のエコノミストの「試算(原油200ドルの営業利益への影響度)」と称する数値を一覧表の形で引用し、今後の原油価格の続騰がもたらす国内企業への影響の甚大さを「警告」するという体裁の記事内容となっています。
その中で、弊社は以下の点がきわめて不適切であると考えます。

(1)試算数値
 当該記事では、そもそも引用している「試算」の算出意図も計算根拠も明示していません。同「試算」は弊社への取材に基づくものではなく、弊社の事業全体に占める原油価格の正確な影響度や原油価格高騰への対応策が織り込まれたものでありません。この点で、同試算数値は当然のことながら、弊社の業績見通しとは一切の関わりのない架空の条件下での数値です。
 もとより、試算者が何の目的でこの数値を算出したのかが明確でないために、読者は数値自体の適否を判断できません。たとえば、我が国産業界全体に対する原油価格高騰の影響をマクロな視点で分析するうえでの参考数値であれば、個別企業に関する数値はそれほど高い精度が求められないと想像されます。しかし、そうであれば、当該記事のように同試算の数値を個別企業の業績とことさらに結びつけた形でクローズアップする意味はまったくありません。

(2)弊社名を見出しに使用した点
当該記事は大見出しの上に赤文字で「このままでは」弊社が大幅減益に陥るかのような表現が使われています。第一の問題は弊社が特に見出しで言及される必要性や必然性をまったく見出しえない点です。当該記事が引用している試算表中でも50社に上る企業の「影響度」が公表されており、しかも弊社よりも大きな影響度が算出された企業があるにもかかわらず、なぜ弊社名だけが特に見出しに掲げられたのでしょうか。
第二に、「このままでは」という表現が、具体的に何を指しているのか不明なため、あたかも弊社が「いまのような」事業運営を進めていくと大幅な減益に陥るかのような印象を与えています。しかし、(1)で触れた通り試算は弊社の通期業績見通しとは一切関わりのない、実務上は架空の数値です。また、現在のような原油高騰状況に対して、手をこまねいて事業を運営する企業経営者がいるはずはありません。それにもかかわらず、試算数値をあたかも弊社の業績に直接関わる数値であるかのように表現することは、いたずらに投資家、お取引先等に誤解を与えるものです。

(3)弊社の業務実態に対する誤った記事内容
当該記事中では、弊社を「石油を大量に使う化学メーカー」としています。しかし、弊社の事業領域は「有機・無機化学品(塩化ビニル系、シリコーン系、その他)」「電子材料(半導体シリコン、その他)」「機能材料その他(合成石英、希土類磁石、その他)」であり、直接石油系原料を使用しているのは、ほぼ「有機・無機化学品」中の塩化ビニル(以下塩ビ)系事業に限られます。しかも、塩ビの原料構成比は6割が塩であり、石油化学系樹脂の中ではきわめて石油使用量が少ない素材です。また、塩ビ事業を大規模に展開している米国シンテック社では、原料は石油ではなく天然ガス由来です。上記の記述はこのような事業実態に反して、「石油を大量に使う」という抽象的な言い回しで、弊社があたかも石油化学メーカーの代表であるかのように言及している点は、読者に大きな誤解を与えるものと言えます。

(4)なんら取材を行わず当該記事を作成した点
本来、業績(見通し)に関する数値は、企業経営の根幹にかかわるものだけに、慎重な取り扱いが求められることは当然です。それにもかかわらず、同誌編集部は、なんら弊社の直近の経営計画や事業実態に関する取材も行わず、試算数値を業績見通しと誤認させるような見出しを掲げただけでなく、別の機会に別の目的で行われた弊社社長の発言までもコメントとして引用し、あたかも本件において弊社に対する取材が行われたかのような印象を読者に与えています。この点は、きわめて遺憾なことであり、ジャーナリズムの倫理にさえ反するのではないかと思われます。

これらの諸点につき、弊社は日経BP社および日経ビジネス誌に猛省を促すとともに、「風評被害」の発生を抑えるために実効性ある対応を、早急に実施されることを強く要望します。