日本経済新聞 2004/1/23

最高益企業の研究 日東電工
 液晶材料、先行投資実る 成長市場で高シェア維持

 シャープが年初から鳴り物入りで生産を始めた三重県亀山市の液晶パネル・テレビ一体工場。そこから車で5分ほどの日東電工の亀山事業所で昨年末、液晶用光学フィルムの専用工場が稼働した。最大顧客の近くで機動的に部品を供給する。日東電の業績拡大を支える新たな戦略拠点だ。
 日東電の2004年3月期の連結営業利益は前期比47%増の500億円強の見通し。過去最高益を更新し、2006年3月期までの達成が目標だった550億円も視野に入った。
 業績をけん引する液晶用光学フィルムの今期の売上高は約1400億円と前期比48%増える。映像や文字を認識するために不可欠な液晶部品で、市場が急拡大するなか6割弱のシェアを維持。特に高画質が要求されるテレビ向けでは圧倒的なシェアを占める。「懸念された液晶市況も崩れず、ベストのシナリオで進んだ」(竹本正道社長)。
 テープや半導体封止剤を手掛けてきた同社が、液晶フノルムの専門工場を設立したのは1996年の尾道第一工場が最初。今やその事業が連結売上高の約3割、営業利益の5割以上を占める。
 90年代は液晶フィルムの市場規模は小さく、なかでもテレビ向けはまだ日東電が得意とするニッチ(すき間)市場だった。そこに経営資源を集中投下する戦略が、液晶需要の拡大の波に乗って大きく実を結んだ。
 今年4月には尾道の第4工場が稼働。生産能力は年間4300万平方メートルと昨年から約5割増える。高いシェアを背景にシャープなど主要顧客の情報をいち早くつかみ、投資につなげる。好循環が最高益を支えている。
 液晶関連以外の事業の収益も改善している。回路材料が黒字に転換したほか、テーブ材料もデジタル家電向けが好調。先行投資が負担となる医療関連などの機能材料部門を除げば、足を引っ張る事業は見当たらない。
 竹本社長は2001年4月の就任後「マッスルプラン」と名付けた合理化策を打ち出し、工場の集約や希望退職者募集などを進めた。これで固定費を100億円削減。業績改善の土台を作った。

 
日東電は昨年7月、創業以来の大きな節目を迎えた。約21%を保有し長く筆頭株主だった日立製作所系列の中央商事が17.6%分を売却。その大部分を外国人投資家が購入したのだ。
 3月末に26.6%だった外国人の持ち株比率は9月末に41.1%に上昇。
「外国人株主をつなぎとめるには好業績を上げるしかない」(財務担当の藤原達之助取締役)という緊張感が出てきた。今期の年間配当を12円増の36円としたのも株主構成の変化と無縁ではなさそうだ。
 好業績に外国人買いも加わり、株価は堅調に推移。1月13日には上場来高値の5990円をつけた。時価総額も一時1兆円に乗せた。
 死角がないわけではない。市況の影響を受けやすい液晶関連への依存度が高まり、「経営のリスクはむしろ高まっている」(モルガン・スタンレー証券の村田朋博アナリスト)。数十億−数百億円の市場を狙ってきた同社にとって、市場規模が数千億円に及ぶ大型商品を扱うのは初の経験だ。
 日東電は商標登録までした「グローバルニッチトップ」という経営戦略を掲げる。今もぜん息治療薬や高分子膜など12の世界シェア1位の製品を持つ。竹本社長は「あくまでニッチ戦略を維持する」と話すが、1事業が業績を大きく左右するようになると、ニッチ市場を開拓する努力を積み重ねても報われなくなる。
 5年後に売上高営業利益率17%(今期見通しは11%)が目標。その実現に向け、ニッチ市場に立脚した強みをあくまでも追求するのか、それとも事業によってはニッチ戦略を軌道修正していくのか。あらためて戦略が問われる。