日本経済新聞 2007/9/19

アブダビ政府系機関 コスモ石油の筆頭株主に 900億円、20%出資 対日輸出を拡大
  湾岸での精製・石化協力

 コスモ石油は18日、
アラブ首長国連邦(UAE)・アブダビ首長国の政府系投資機関、国際石油投資会社(IPIC)約900億円を投じコスモに20%出資、筆頭株主になると発表した。UAEは日本にとってサウジアラビアに次ぐ第二位の原油輸入相手国。コスモヘの出資を機に対日輸出を拡大、日本市場への影響力を強める。また協力の第一弾として、アブダビ政府がUAEで進める石油精製・石油化学複合事業にコスモが参加する方向で検討に入ったことも明らかになった。

 石油輸出国機構(OPEC)有力加盟国であるUAEのコスモヘの出資で、サウジアラビア国営石油会社が15%出資する昭和シェル石油とあわせ、産油国系元売りが国内ガソリン販売シェアの4分の1超を押さえる。新日本石油や出光興産など民族系元売りや米エクソンモービル傘下の東燃ゼネラル石油に対抗する新勢力となる。
 産油国が日本の石油会社に直接出資、利害関係者となることで日本への原油の安定的な供給が期待できる。甘利明経済産業相も同日、「出資は日本・アラブ首長国連邦両国のきずなを深め、日本のエネルギー安全保障に貢献する」と歓迎するコメントを発表した。
 コスモが10月、IPICが設立した特別目的会社を対象に第三者割当増資を実施し1億7600万株を発行。IPICはコスモの発行済み株式の20%を握る筆頭株主となる。
 コスモはアブダビで40年近くにわたり石油開発事業に参加するなど関係が深い。IPICは非常勤取締役2人を派遣、コスモが増資で調達する約892億円の資金の使途など具体的な業務提携内容を両社で詰める。
 具体的な案件としてアブダビ政府が同国で計画する
石油精製と石油化学の複合事業にコスモが出資する検討に入った。コスモは増資で確保した資金の大部分を投じる見込みで、住友化学がサウジ西岸で進める大型石化合弁に次ぐ大型事業になる可能性がある。
 コスモの出資受け入れには2012年に期限を迎えるアブダビ沖の油田権益の更新を円滑に実現する狙いがある。また木村弥一社長は「提携は海外市場での新展開が主眼」と強調。米国やオセアニア、東南アジア向け輸出の拡大などにくわえ、コスモがオーストラリアで取り組む油田開発へのアブダビ政府の参加を視野に入れていることを明らかにした。
 IPICはアブダビ首長国政府が全額出資する投資機関で石油・天然ガスが主な投資対象。日本への投資は初めて。同社のカデム・クバイシ社長は日本経済新聞記者に対し、販売など石油事業の下流部門を手掛けるコスモヘの出資で「日本に原油や天然ガス市場を確保する」と強調、原油などの対日輸出を増やしていく考えを明らかにした。

両トップに聞く

 コスモ石油の木村弥一社長と同社に出資を決めたアラブ首長国連邦(UAE)・アブダビ首長国の国際石油投資会社(IPIC)のカデム.・クバイシ社長は18日それぞれ、日本経済新聞の単独取材に応じた。
 木村社長はオーストラリアで油田の共同開発を検討するなど世界戦略を共同で展開していく意向を表明。クバイシ社長は対日原油輸出の拡大に向け日本での販路を確保する狙いを明らかにした。

コスモ石油木村社長 豪州で油田共同開発
 コスモが子会社などを通じ権益を持つ3油田は、いずれもアブダビやカタールの中東に集中。多様化を狙い、35%の権益を持つ豪州北部の海上鉱区の探鉱を昨年始め、10年までの商業生産開始を目指している。
 木村社長はIPICとの上流での協力について「アブダビ以外のアジアなどの油田開発が広く対象」としたうえで、豪州の油田について「開発段階に進めば(IPICと)一緒にやる候補になる」と述べた。
 子会社のアブダビ石油が30年以上操業を続けているムバラス油田は、権益が2012年に切れる。木村社長は「今回の提携は権益更新に直接関係はない」としつつも「アブダビ政府との関係強化が(権益更新の)後押しになるかもしれない」との期待を示した。
 IPICはオーストリアのOMV、韓国・現代精油など石油・石油化学関連の海外8社に投資しており、コスモヘの出資は9社目。木村社長は「(日本から)遠い市場も開拓できる」とIPICの出資先同士の連携強化も積極的に進めていく考えを示した。
 日本勢では昭和シェル石油もサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコから15%の出資を仰いでいる。木村社長は「サウジにとって昭シェルとの関係強化の狙いは原油販売(の拡大)そのもの。当社とアブダビは海外での新たな展開が主眼」と違いを強調した。

IPCIクバイシ社長 開発・精製・販売 統合へ
 国際石油投資会社(IPIC)のカデム・クバイシ社長はコスモ石油を「アブダビ政府の大事なパートナー」と評価。出資を決めた主な理由を「経営が良好で石油化学や液化石油ガス(LPG)など様々な下流部門を持っており、資本参加で(油田開発などの)上流部門と(精製や販売など)下流とのインテグレーション(統合)を進めたかった」と説明した。
 石油業界は原油価格が上がると上流部門の利益が増え、下がると下流部門がもうかる仕組みになっている。上流と下流の統合で利益のぶれを小さくできる。
 さらに「コスモ石油は(日本国内に)販路を確保している」と述べ、アブダビ産の原油や天然ガスの安定供給先の確保も出資の狙いと説明。「アブダビは石油やガスの生産能力を拡張する」と述べ、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が石油やガスの対日輸出を増やすための受け皿になるとの見通しを示した。
 コスモ石油子会社のアブダビ石油はアブダビ首長国で日量2万5千バレルの原油を生産しているが、この油田権益は2012年が期限で、権益更新に向けた交渉を両者は長年にわたって続けている。コスモ出資を受けた権益更新の可能性についてクバイシ社長は「この件では話せる立場にないが、アブダビ政府の利益は一つなので、そんなに心配はしなくていいのではないか」と楽観的な見解を披露。権益延長の是非を巡り、アブダビの政府機関、企業と意見を交換していく姿勢をみせた。
 コスモ石油への出資に関しては04年のサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコと昭和シェル石油の提携を参考にしたとの見方もあるが、クバイシ社長は「アラムコと昭シェルのケースを研究しなかったわけではないが直接の関係はない」と説明。「IPICはスペインや韓国などの石油産業にも投資しており、日本企業への出資もその一環だ」と主張した。


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 製油所など海外の石油・天然ガス事業に投資するため、アラブ首長国連邦のアブダビ首長国政府が全額出資し、1984年に設立した。韓国の現代グループから現代精油を買収したほか、オーストリアや台湾の石油会社、デンマークのプラスチックメーカーなど8社に資本参加。投資総額は100億ドルを超えると推定されている。