2008/12/4 日本経済新聞夕刊 発表
石油激震 新日石・新日鉱統合
新日石・新日鉱 事業別に完全統合 10年春に
来年10月持ち株会社 効果1000億円超
国内石油元売り最大手の新日本石油と同6位の新日鉱ホールディングス(HD)は4日、経営統合すると正式に発表した。まず2009年10月に共同持ち株会社を設立して両社を傘下に入れたうえで、10年4月に双方の事業を分野別に完全統合する。国内の石油製品需要が減るなか、合理化によるコスト削減や相乗効果によるる売り上げ増を通じ、年1千億円以上の統合効果を目指す。年間売上高13兆円強、国内ガソリン販売シェア33%を握る世界8位の石油会社が誕生することで、石油業界の再編・淘汰が一気に加速する。
新日石の西尾進路社長と新日鉱の高萩光紀社長が同日正午から都内で記者会見した。新日石の西尾社長は「事業環境の構造的変化に先手を打つため、統合で経営基盤を強固にする。日本のエネルギーの安定調達での中核企業を目指す。統合はそのスタートライン」と述べた。新日鉱の高萩社長は「収益力はまだメジャー(国際石油資本)に及ばないが、将来は伍していきたい」と語った。
両社は来年3月までに統合比率や社名、トップ人事などを詰めて本契約を締結。来年10月に持ち株会社を設立して新日石と新日鉱を傘下に入れる。続いて10年4月に事業を分野別に再編。@新日石とジャパンエナジーの石油精製・販売事業の統合会社A新日石の油田・ガス田開発子会社とジャパンエナジーの開発部門の統合会社B現在の日鉱金属が母体となる金属事業会社ーーの3事業会社を設け、持ち株会社にぶらさげる。事業別の完全統合に踏み込み統合効果を早期に引き出す。
統合後に計10カ所になる製油所や、約1万3千カ所のガソリンスタンド網を統廃合し、余剰設備を解消して収益力拡大を目指す。西尾・新日石社長は「2年内に石油の精製能力を40万バレル(両社の能力の2割に相当)削減する」と発言。合理化によるコスト削減や相乗効果による売り上げ増を通じ、最低でも年600億円、将来は年1千億円以上の統合効果を目指す考えを示した。
統合会社の売上高は約13兆1500億円(09年3月期見通しの単純合計)と世界の石油会社で8位に浮上する。「ENEOS」ブランドの給油所を運営する新日石と、「JOMO」ブランドのジャパンエナジーを合わせた国内ガソリン販売シェアは07年度で33.4%(日経推定)。2位のエクソンモービル(17.7%)の2倍近くに達する。
両社は国内の石油事業の経営基盤を強化すると同時に、石油に代わる新エネルギー事業や海外での資源開発を加速し、総合エネルギー企業を目指す。新日鉱の太陽電池材料事業と、新日石の太陽電池事業を組み合わせて相乗効果を追求。資源開発では、新日石とが東南アジアなどで手掛ける油田・ガス田開発と、日鉱金属が進めるチリの銅鉱山開発などを合わせて事業規模を拡大。海外資源大手に対抗していく。
毎日新聞
国内のガソリン販売量シェア @新日石 25.4% Aエクソンモービル 17.7% B昭和シェル石油 16.7% C出光興産 14.7% Dコスモ石油 11.6% Eジャパンエナジー(新日鉱HD) 10.3% ※07度。新日石は今年10月に合併した九州石油を含む
両社長が会見
新日石「資金力高める」
新日鉱「効率、断トツに」
経営統合で合意した新日本石油の西尾進路社長と新日鉱ホールディングスの高萩光紀社長は4日、都内で記者会見し、規模の拡大で資金調達力を高め成長分野に積極投資する方針などを明らかにした。主なやり取りは以下の通り。
ー 統合効果は。
西尾氏 「資源開発などで能力を結集していく。(現状では)売上高は大きいが、利益率はまことに小さい。収益率の高い骨太の会社に持って行きたい」
高萩氏 「製油所の効率を断トツにしたい。設備能力の大幅な削減を実施し、真の意味でコスト競争力を持つことが第一だ。石油事業は国内需要減少でどうしても先細りになる。非石油分野で収益力を拡大し、世界のメジャーに伍していきたい」
ー 経営統合の検討を始めた時期は。
高萩氏 「具体的な話を始めたのは8月末ごろから。3カ月で具体的な骨格はできた。両社とも百年以上の歴史があり、個人的には葛藤もあった。これからを考えるとある程度の規模を持たなければならない」
ー 金融危機の影響は。
西尾氏 「資金の確保は頭にある。成長性のある分野には相当な投資が必要だ。大きなグループになって資金調達力を高める
狙いもある」
ー 能力削減に向けた具体策は。
高萩氏 「両社が原案をつくってこれから決める。競争力の弱いところから減らすことは両社で合意している。ぐずぐずするつもりはない」
ー 価格への影響は。
西屋氏 「統合により市場連動型の価格体系を浸透させる。両社でガソリンスタンドの数が1万4千になる。この数は多すぎると思う」
ー 国内外でさらなる合従連衡の可能性は。
西尾氏 「具体的に検討している事実はない」
経営統合に関する基本覚書の締結について
新日本石油株式会社(以下「新日石」という。本社:東京都港区西新橋一丁目、社長:西尾進路)と新日鉱ホールディング ス株式会社(以下「新日鉱」という。本社:東京都港区虎ノ門二丁目、社長:高萩光紀)は、経営統合を行うことについて基本的合意に達し、本日、覚書を締結 いたしました。
なお、今後、両社で協議の上、本経営統合に向けた実行計画を立案し、2009年3月を目処に「経営統合に関する本契約」を締結する予定であります。
1.経営統合の背景・目的
エネルギー・資源・素材分野を事業領域とする両社グループにおいては、今後、事業環境が従来にも増して大きく変化すると予想される中、現下の課題に対処しつつ、持続的な成長と発展を追求していくことが、企業経営における至上命題となっております。
特に、新エネルギーや省エネルギーの分野においては、地球環境に対する意識の高まりを背景に、企業としての重点的な取組みが求められており、一方、資源獲得をめぐる世界的な動きへの対処も喫緊の課題であります。
このような事業環境の構造的変化に先手を打ち、激化する競争に勝ち抜くためには、新日石グループと新日鉱グループが経営資源を統合し、経営基盤を強固なものとするとともに、新たな経営理念の下で飛躍していくことが最善であるとの判断に至りました。
統合による経営基盤の強化を通じ、わが国におけるエネルギー・資 源・素材を安定的かつ効率的に確保・供給する体制を確立していくことは、安全保障の観点からも重要な意義を有するものであり、ひいては、日本のエネル ギー・資源・素材の未来の創造に貢献するものと考えております。
以上の共通認識に立ち、新日石および新日鉱は、次の3点を基本コンセプトとして経営統合を行うことについて合意いたしました。
(1)両社グループは、対等の立場において、各事業にわたる全面的な 統合を実現し、両社グループの経営資源を結集してこれを最大限活用することにより、石油精製販売、石油開発および金属の各事業を併せ持つ世界有数の「総合 エネルギー・資源・素材企業グループ」へと発展することを目指します。
(2)経営統合後のグループは、積極的かつグローバルに成長戦略を展開することとし、「ベストプラクティス」をキーワードとして、収益性の高い部門に経営資源を優先配分することにより企業価値の最大化を図ります。
(3)石油精製販売事業については、経営統合により初めて可能となる劇的な事業変革を早期に実現します。
2.経営統合後のグループの基本的な理念
(1)「エネルギー・資源・素材」の事業領域において、将来にわたり、地球環境との調和および社会との共生を図り、健全で透明なコーポレートガバナンスと適正かつ機動的な業務執行体制を確立し、もって、持続可能な経済・社会の構築・発展に貢献します。
(2)「エネルギー・資源・素材」の上流から下流までの一貫操業体制のもと、安定的かつ効率的な供給と事業全般にわたる創造性・革新性を追求します。
3.経営統合の方法および経営統合後の体制
(1)新日石と新日鉱は、共同して株式移転を行うことにより「統合持株会社」を設立し、その後、両社グループの全事業を「統合持株会社」の傘下に統合・再編・整理します。
(2)「統合持株会社」の直接子会社として、次の「中核事業会社」を置きます。
1)石油精製販売事業会社
新日石の石油精製販売事業と株式会社ジャパンエナジー(現在、新日鉱の100%子会社)の石油精製販売事業とを統合して設立します。
2)石油開発事業会社
新日本石油開発株式会社(現在、新日石の100%子会社)と株式会社ジャパンエナジーの石油開発事業とを統合して設立します。
3)金属事業会社
日鉱金属株式会社(現在、新日鉱の100%子会社)を当該中核事業会社と位置付けます。
(3)「その他のグループ会社」については、原則として、次の方針により配置します。
1)「石油精製販売」、「石油開発」または「金属」の各中核事業に属するグループ会社は、それぞれ当該中核事業会社の子会社とします。
2)上場会社、グループの共通機能会社および独立事業会社は、「統合持株会社」の直接子会社とします。
4.経営統合比率
統合持株会社設立に当たっての経営統合比率(株式移転比率)については、新日石および新日鉱がそれぞれ起用するファイナンシャル・アドバイザーの評価を参考にしつつ、今後、両社で協議の上、決定いたします。
5.経営統合の効果
石油精製販売事業を中心として、全ての事業部門において公平かつ客 観的な観点からあらゆるコストを点検し、聖域なき合理化・効率化を推進するとともに、経営統合によるシナジーを発揮して、少なくとも年600億円以上の統 合効果を実現します。また、継続的にその上積みを図って年1,000億円以上を目指します。
6.スケジュール
2008年12月4日(本日) 経営統合に関する基本覚書締結
2008年12月(予定) デューデリジェンス開始
2009年 3月(予定) 「経営統合に関する本契約」(株式移転計画含む。)締結
2009年 6月(予定) 両社定時株主総会(株式移転計画の承認の決議)
2009年10月(予定) 統合持株会社の設立
2010年 4月(予定)
中核事業会社の設立
上記は現時点での予定であり、具体的なスケジュールについては、株主総会における承認および関係当局の審査など、経営統合に向けた諸手続きの進捗に応じて、新日石および新日鉱で協議の上、決定いたします。
7.その他
(1)統合持株会社および中核事業会社の社名・本店所在地・ガバナンス・ブランド(商標)・シンボルマークその他の本経営統合に関する事項につきましては、今後、決定し次第、公表いたします。
(2)新日石および新日鉱は、円滑な経営統合に向けて、速やかに統合準備委員会を設置し、協議を行ってまいります。
ーーー
新日本石油株式会社および新日鉱ホールディングス株式会社の概要
商 号 | 新日本石油 | 新日鉱ホールディングス | |
上流 | 生産量 | 4.5万BD (2007年平均) | 1.6万BD (2007年平均) |
埋蔵量 | 708百万Bbl (2007年12月末現在) | 110百万Bbl (2007年12月末現在) | |
原油輸送 | タンカー隻数 | VLCC 22隻(2008年12月1日現在) | VLCC 9隻(2008年12月1日現在) |
精製供給 | グループ製油所 原油処理能力 (2008年12月1日現在) |
(千BD) 室蘭製油所 180 仙台製油所 145 根岸製油所 340 大阪製油所 115 水島製油所 250 麻里布製油所 127 大分製油所 160 富山製油所(日本海石油) 60 合計 1,377 |
(千BD) 水島製油所 205 鹿島製油所(鹿島石油梶j 270 合計 475 |
製品輸出数量 (外貨ジェット、ボンド重油を除く) |
425万KL(2008年3月期)※ | 51万KL(2008年3月期) | |
物流 | 油槽所数 | 49ヶ所 (2008年12月1日現在) | 15ヶ所 (2008年12月1日現在) |
販売 | 燃料油国内販売量 販売シェア |
5,613万KL(2008年3月期)※ 25.7%※ |
2,276万KL(2008年3月期) 10.8% |
特約店数 SS数 |
635社 (2008年9月末現在)※ 10,242ヶ所 (2008年9月末現在)※ |
320社 (2008年9月末現在) 3,441ヶ所 (2008年9月末現在) |
|
石油化学 | パラキシレン生産能力 ベンゼン生産能力 プロピレン生産能力 |
160万d/年(2008年12月1日現在) 80万d/年(2008年12月1日現在) 90万d/年(2008年12月1日現在) |
102万d/年(2008年12月1日現在) 52万d/年(2008年12月1日現在) 9万d/年(2008年12月1日現在) |
※2008年10月に統合した九州石油分との単純合算ベース
(金属)
新日鉱ホールディングス | |
上流 | (万d/年) エスコンディーダ銅鉱山(チリ) 2.0% 2.1 コジャワシ銅鉱山(チリ) 3.6% 1.8 ロス・ペランブレス銅鉱山(チリ)15.0% 5.1 ーーー グループ権益生産量(銅量) 9.0 ※%は日鉱金属出資比率 |
中流(銅製錬) | (万d/年) パンパシフィック・カッパー 佐賀関製錬所および日立精銅工場 45 玉野製錬所 ※ 16 LS−ニッコー・カッパー(韓国) 温山工場 51 ーーー グループ製錬諸能力 112 ※パンパシフィック・カッパー出資分 |
下流 | 電材加工事業 磯原工場(半導体用・FPD用ターゲットなど) 白銀工場(圧延銅箔、電解銅箔など) 倉見工場(コルソン合金など) 環境リサイクル事業 日立工場 |
日本経済新聞 2008/12/5
石油激震 新日石・新日鉱統合
幻の「コスモ合併」が起点 新日石、規模拡大で先手
新日本石油と新日鉱ホールディングスが経営統合を決めた。ガソリンシェア33%を握る圧倒的なトップ企業の誕生により、他社もM&A(合併・買収)など規模拡大に向けた対抗策を迫られる。日本の石油産業史で最大規模の再編は何が起点になり、崩れた大手6社体制はどこに向かうのか。業界首位企業が仕掛けた再編劇の内幕を追った。
「二人で初めて会談した今年8月末からとんとん拍子で進んだ」。4日都内で開かれた記者会見。新日石社長の西尾進路と新日鉱社長の高萩光紀は合意までの経緯についてこう語った。
春ごろから接触
新日石が統合相手として新日鉱に照準を合わせたのは昨年9月18日。コスモ石油がアラブ首長国連邦(UAE)・アブダビ首長国の政府系投資機関からの出資受け入れを発表した日のことだ
それまで新日石は、ガソリン5位のコスモ石油に合併の秋波を送り続けていた。新日鉱より製油所や給油所が多く、統合による合理化効果が大きいからだ。しかし独立路線を堅持したいコスモは新日石との合併は選ばず、会長の岡部敬一郎が人脈を駆使して中東マネー注入に成功。新日石を悔しがらせた。
新日石が仮に2位のエクソンモービルを吸収するとシェアが4割を超え、独占禁止法のクリアが難しい。3位の昭和シェル石油は欧州メジャーの傘下。4位の出光興産の独立志向の強さは有名だ。残る大手は6位の新日鉱しかない。新日石の役員は今年春ごろから新日鉱の役員と水面下で接触を始めた。
そんな新日石を焦らせる事態が夏ごろ起きた。「エクソンモービルが日本事業を手放したがっている」との情報が業界を駆け巡ったのだ。
公正取引委員会は2007年春に合併審査の新指針を施行。審査で重視する指標を従来の「シェア」から、市場全体の寡占度を示す「寡占度指数」に変えた。この仕組みだと、他社が先に再編を仕掛けて市場の寡占度が上がると、残る企業はM&Aのハードルが高くなる。もし昭シェルや出光がエクソンの事業を吸収して業界首位に躍り出ると、新日石は新日鉱と統合する際、一部事業を切り離すなどの措置が必要になる可能性がある。新日石は合意に向けた作業を加速した。
新日鉱の迷い
一方、高萩ら新日鉱側は国内市場の急速な縮小を前に、単独での生き残りが難しいとの認識は強めていた。しかし「百年以上の伝統がある『日本鉱業』の名前を消していいのか」との思いもぬぐい去れずにいた。そんな新日鉱に対し、新日石会長の渡文明、社長の西尾らが切り札を出す。「(合理化で)新日石の主力製油所をつぶしても構わない」ーー。自ら血を流す姿勢を見せる新日石を前に、新日鉱の迷いは払拭されていった。
「これで先手は取った」。新日石関係者は漏らす。統合会社のガソリンシェアは33%に上昇。従来より寡占度が高まる結果、次に再編を仕掛けるライバル会社は制約を受ける。新日石への対抗意識の強い昭シェルなどはエクソンの日本事業を丸ごと買収できるか不透明になった。
「欧米メジャーに伍していける利益力を持ちたい」。会見で宣言した西尾や高萩の視線は過当競争の国内市場を超え、世界のエネルギー市場に向かう。両社の統合発表を受け、経済産業相の二階俊博は4日、「統合は事業環境の構造変化に対する意欲的な取り組みで意義深い」などとする歓迎コメントを発表した。
「巨人」誕生 再編連鎖へ 元売り提携
枠組み崩れる
「とうとう統合に踏み切ったか。これで再編が動き出す」。新日鉱ホールディングスが新日本石油との経営統合を発表した4日、ある石油元売り大手幹部は統合会社への警戒感を抱きながらつぶやいた。
新日鉱傘下のジャパンエナジーは石油元売り大手のガソリン販売シェアで最下位。誰の目にも厳しい状況だが、「社名が消える合併までは踏み切らないだろう」との見方が多かった。しかし石油製品需要の急落が新日鉱の背中を押した。
「縮む日本市場では全社が弱者のようなもの。弱い同士でくっついて生産能力を増やしてどうするのか」と長らく大型再編から距離を置いてきた石油元売り大手。だが新日石社長の西尾進路が4日の記者会見で示した数字はそんな常識を覆した。原油精製能力の「40万バレル削減計画」だ。
日本全体の精製能力は日量約480万バレル。需要は約400万バレルだから約2割が余っている計算だ。西尾が言及した40万バレルは統合会社の能力の2割に相当し、いち早く設備過剰を解消することを宣言したとも言える。残る製油所に集中投資て設備を大型・効率化すれば、「二重の意味で競争力が高まる」(石油元売り大手幹部)。
統合会社はガソリンスタンド数も15-20%削減する計画。「統合会社の系列では強いスタンドだけが生き残り、価格競争は激しくなる」(給油所会社社長)。他社系列の販売店は先行する"巨人"の動きに神経をとがらせる。
「まずどこが切られるのか」。新日石・新日鉱に関するもう一つの"再編"にも他社の関心が集まる。
元売り各社は精製・物流面で提携している。現在の組み合わせは、新日石ー出光興産、新日石ーコスモ石油、ジャパンエナジーー昭和シェル石油となっている。各社は自社の製油所や物流インフラがない地域では、他社にスタンドヘのガソリン供給などを委託しコストを抑制している。複雑な提携を組むのも、業界全体の利害が一致していたからだ。
だが新日石・新日鉱の統合会社では全国をほぼ網羅する体制ができ、「他社との提携を維持する意味はなくなる」(UBS証券の伊藤敏憲シニアアナリスト)。切られた側は経費増を避けるため「別の会社と提携せざるを得ない」(伊藤氏)。
新日石が新日鉱を選んだ点について、ある石油開発会社は「新日鉱の金属事業を取り込んで収益源を増やし、油田開発や新エネルギー事業に回す資金を潤沢にする狙いがある」と指摘する。売上高13兆円超の巨大企業は「石油」に固執するつもりは毛頭ない。
太陽電池を強化する昭シェルや有機EL事業を拡大する出光興産も、非石油事業で収益を確保しながら、M&Aの機会を探ろうとしている。新日石・新日鉱が仕掛けた約10年ぶりの大型再編は、石油業界の再編の連鎖を呼ぼうとしている。