日本経済新聞 2008/9/27
国際石油帝石
豪の「日の丸ガス田」 事業費2兆円に膨張
当初の3倍 資材高騰など響く
国際石油開発帝石ホールディングスが豪州で計画する天然ガスプロジェクトの総投資額が2兆1千億円強となり、当初見通しの3倍に増えることが26日、、明らかになった。液化天然ガス(LNG)基地の建設地変更に加え、資材費の上昇や環境対策の費用増が要因。同様の理由でエネルギー開発や石化プロジェクトで投資額などの計画見直しが相次いでいる。資源価格はなお高水準にあるが、今後、開発案件で採算確保が課題に浮上しそうだ。
同社は仏トタルと共同で豪州のダーウィンにLNG基地を建設する計画を発表。ガス田開発とあわせた総投資額を200億ドル強とした。当初は60億ドルを計画していた。投資額は出資比率に合わせて、国際石油開発帝石側が76%を負担する。
今回の開発案件は日本の年間輸入量の1割強に相当する年間800万トンのLNGを生産する大プロジェクト。日本企業が主導する初めての「日の丸ガス田」と位置付けられている。
同社が開発を主導するイクシスガス田で産出する天然ガスを基地に運び、2014年にも生産を始める。全量を日本向けに供給する計画。LNGのほか、同160万トンの液化石油ガス(LPG)、日量10万バレルのコンデンセート(天然ガスに随伴する超軽質原油)を生産する。09年末をめどに最終決定し、着工する。
当初はイクシスガス田から200キロメートル離れたマレット島を基地の建設候補地としたが、豪政府が環境問題を理由にLNG基地の集約を要請したことなどから、すでにLNG基地があるダーウィンに建設地を移した。
パイプラインの敷設距離が当初の4倍の850キロメートルに伸びたことや、資材費や生産井を掘るリグのレンタル費の上昇、二酸化炭素(CO2)削減など環境対策費用がかさみ、総投資額が膨らんだ。
中国など新興国の需要増を受け、LNGの輸入価格は4年前に比べて2倍以上に上昇。ただ、10年以降は豪州やカタールでガス田の新規プロジェクトが相次ぎ立ち上がり、業界では「ガス田どうしの競合が激しくなり売値の設定が難しくなる」との指摘がある。
一方で、「投資の回収は困難ではない」(URS証券の伊藤敏憲シニアアナリスト)との見方もある。同社は「来年末の正式決定までに経済性の評価を進める」としている。
今後は巨額投資を分散するため、電力、都市ガス、商社などがプロジェクトに参画する可能性もありそうだ。
日本企業か参画する資源事業の主な計画変更例
事業名・国 | 事業内容 | 参加する日本企業 | 操業時期 | 総事業費 | 変更理由 |
サハリン2 (ロシア) |
ガス田開発・液化 | 三井物産、三菱商事 | 07年→09年初頭 | 1兆円→2兆円 | 環境問題などを巡る政府圧力 |
ラービク (サウジアラビア) |
石油精製・石油化学プラント | 住友化学 | 08年中→09年初頭 | 85億ドル→101億ドル | 資機材の調達遅れ |
ロングビーチ(米) | LNG受け入れ基地 | 三菱商事 | 07年→中止 | 500億円→中止 | 地元住民の反対 |
イクシス(豪州) | ガス田開発・.液化 | 国際石油開発帝石HD | 12年→14年にも | 60億ドル→200億ドル | 液化基地の建設地変更など |
資源開発 遅れ相次ぐ 政治もリスク、採算課題
空前の原油高を追い風に、資源開発は世界申で活発化している。ただ資源開発ラッシュはそれに必要な資機材や人件費の高騰を招くうえ、環境破壌への懸念や「持つ国」の資源ナショナリズムも呼び起こす。結果として稼働時期が遅れたり、総事業費が膨れ上がる事例も相次いでいる。
計画遅れの最大の原因はコス卜急上昇だ。米ケンブリッジ・エネルギー研究所(CERA)によると、今年1−3月期の油田、ガス田の開発コストは3年前に比べ倍増。石油精製や液化基地などの生産設備もこの8年間で1.7倍になった。
油田、ガス田の掘削機の使用料や建設資材費だけでなく人件費の上昇も大きい。「熟練労働者が足りないうえ、一人当たりの作業能力が落ち、人件費が雪だるま式に膨れあがる」(東洋エンジニアリング)。現地に訓練施設を設け、技術を教えながら自転車操業で建設を進める現場もある。
資源高は資源国と開発企業の緊張関係も高める。代表例が三井物産、三菱商事が参画するロシア「サハリン2」。当初1兆円とした総事業費が2兆円に急増。開発費増で自国が受け取る利益が目減りする可能性が出たロシア政府は、環境問題への対応不備などを理由に開発に待ったをかけ、結果として開発権益の過半をロシア側に引き渡さざるを得なかった。
国際石油開発帝石が開発するイクシスガス田のある西豪州は、ほかにも大型ガス田開発や液化基地建設計画が目白押し。資源埋蔵量が豊富で政情が安定、外資参入に制限がないなど、新興国に比べ海外石油大手などにとっての投資ハードルが低いためだ。
ただ昨年12月の労働党政権誕生を契機に、液化基地乱立による環境破壊を懸念する声が強まり、今回の液化基地の建設地変更につながった。西豪州政府はガス埋蔵量の15%を輸出ではなく内需向けに確保するよう義務付ける構想を打ち出すなど、開発企業の投資採算に影響を与える政策も表面化している。
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