毎日新聞夕刊 2003/7/2
イラン油田 米、公式に開発中止要請
国務副長官と大統領補佐官 加藤大使呼び
日本の企業連合によるイラン最大級のアザデガン油田の開発計画について、米政府が「安全保障上の重大な懸念」を理由に、在米日本大使館を通じた公式の外交ルートで中止を要請していたことが1日、分かった。米政府に近い筋が明らかにした。先月、ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やアーミテージ国務副長官が加藤良三駐米大使を呼び、イランの核開発疑惑が米政府の安全保障政策の重大な懸念であることを強調した上で「同盟国の日本がイランに誤ったメッセージを伝えることを憂慮する」などと指摘し、事実上開発計画からの撤退を迫ったという。米政府の公式の中止要請で、日本の石油開発戦略は抜本的な見直しを迫られる可能性が出てきた。
同油田開発問題をめぐっては、バウチャー米国務省報道官が30日、「この時期にイランの石油・ガス開発を進めるのは不適切」との見解を示したが、「特定国との外交交渉についてはコメントできない」としていた。同筋によると、米政府の開発中止要請は、小泉純一郎首相周辺や日本の関係省庁にも伝達された。6月末か7月初めにも予定されていたイラン政府との契約調印が急きょ延期されたのは、小泉政権が日米関係への悪影響を懸念したためという。
日本政府は当面、米政府が求める核開発計画の開示や国際原子カ機関(IAEA)による全面的な核査察にイランがどう対応するか見守る一方、同油田の開発計画は撤回せず、イラン側との交渉を続けたい意向だ。しかし、核開発問題は早期解決が見込めない上、国際石油業界筋によると、同油田開発には欧州石油資本も関心を寄せており、日本が日米同盟の足かせでもたつけば「イラン側が見切りをつける可能性もある」という。
同油田は確認埋蔵量260億バレルで中東地域でも有数の規模。日本とイランの協カによる開発計画は、01年7月に平沼赴夫経済産業相が中東地域を歴訪した際、テヘランでのハタミ大統領との会談で決定した事実上の国家プロジェクトだ。日本のアラビア石油が持っていたカフジ油田の採掘権が00年に失効したのを受け、新たな石油の安定供給源となる「日の丸油田」として開発を目指したのがアザデガン油田で、今夏に契約、04年中には商業生産を開始する予定だった。
毎日新聞 2003/7/3
中止要請 強硬策鮮明に 米“市場排除法”の発動も
米政府が日本企業連合によるイランのアザデガン油田開発計画の中止を公式に要請したことで、イラク戦争後のブッシュ政権の対イラン強硬姿勢が一段と鮮明になった。同油田開発を官民で推進してきた日本政府は契約を当面棚上げする一方で、米側の理解を得るよう努カする考えだ。だが、イランの核開発疑惑を「重大な懸念」と非難する米政府は、イランの資源開発に投資した企業を大統領権限で米市場から締め出す「イラン・リビア制裁強化法」(ILSA)の発動もちらつかせている。
「(イランの)核開発疑惑が高まる今は、実に投資に不適切だ」。米国務省のバウチャー報道官は1日、アザデガン油田開発計画に強い懸念を表明した。日本政府への計画中止要請にライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が直接乗り出したのも、そんなブッシュ政権の強い意向が背景にあったからだ。
イラク戦争が一段落した後、ブッシュ政権は「秘密裏に核兵器開発計画を進めている」とイランヘの批判を強め、原子炉設置を支援しているロシアに圧カをかける一方、ライス補佐官はイランの現政権を「邪悪な政権」ときめつけた。
制裁強化法はクリントン前政権時代の96年8月に成立。イラン、リビアヘの年間4000万ドル(約48億円)以上の投資に関して、両国の「石油資源開発に著しく貢献した」と大統領が認定した場合は、投資した外国企業に対し、対米輸入制限のほか、米国内金融機関(邦銀現地支店も含む)の融資制限など、事実上、米市場から締め出す罰則を科している。
ただ、米政府はこれまで、欧州連合(EU)各国企業によるイランの油田・ガス田開発投資に対して同法違反を認定する一方、通商問題化を避けるため、制裁は免除する対応を取ってきた。日本や中国がイランとの交渉を進めてきたのは、米政府による、いわば「お目こぼし」が前提だった。
だが、イラクのフセイン政権崩壊後、ブッシュ政権は「実際の制裁発動も辞さない」(関係筋)という態度に傾いている。
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/150630.htm
イラン南西部にあるアザデガン油田は、イラン最大級の油田であり、確認埋蔵量は約260億バレルとされる。2000年のハタミ大統領訪日時に両国間で交渉開始に合意し、2001年7月、平沼赳夫経済産業相がテヘランでハタミ大統領と会談し、開発の早期契約に向けて努力することで合意した。
参加する企業連合は、国際石油開発(旧インドネシア石油)、石油資源開発、トーメンの3社。
実は、このアザデガン油田には採算を疑問視する声があるのも事実である。地表が石灰岩質で覆われているため、効率的な採掘は困難とする見方や、油質への疑問もある。
しかし、2000年に失効したアラビア石油のサウジアラビア・カフジ油田をめぐる交渉失敗のばん回を狙う経済産業省、2005年3月に廃止される石油公団の天下り先確保、再建中のトーメンの生き残り作戦などの思惑が絡む複雑な背景を持つ事業となっている。
企業連合の国際石油開発(旧インドネシア石油)は、石油公団が50%出資しており、石油資源開発の石油公団の出資比率は66%である。この2社には、すでに多くの石油公団退職者が役員として天下っている。
そして、残る1社であるトーメンも豊田通商との経営統合を念頭に経営再建中である。しかも、トーメンは、5月30日に約100億円の第三者割当増資の詳細を発表し、増資引き受けで、豊田通商は出資比率が現在の約11%から19.71%に高まり、新たにトヨタ自動車は10.64%を出資する2位株主となる。つまり、実質トーメンはトヨタグループ企業となる。
トヨタ自動車現会長の奥田碩氏は、昨年、日本経営者団体連盟(日経連)と経済団体連合会(経団連)が統合して発足した日本経済団体連合会(日本経団連)の初代会長であり、政府の経済財政諮問会議のメンバーでもある。
日本経済新聞 2004/2/19
イランのアザデガン油田 日本開発で合意 事業総額2000億円超
日本の企業連合とイラン政府はアザデガン油田の開発交渉で基本合意し、18日に覚書に調印、発表する。事業総額は2千億円を超え、2010年ごろの本格生産をめざす。埋蔵量は、イラン政府推定で中東最大級の260億バレル程度。生産量は日本の原油輸入量の1割弱に相当する日量30万−40万バレルと期待されている。
同油田は2000年のハタミ・イラン大統領訪日時に日本が優先交渉権を獲得。石油公団傘下の国際石油開発、石油資源開発、トーメンの3社が交渉してきた。
契約では、日本側は投資した開発資金に一定の利益を上乗せした金額に相当する原油を、契約期間内に引き取ることになっている。詳細な内容は明らかになっていないが「日本勢に利益が出る条件に近づいた」(企業連合側幹部)という。
交渉はイランが求める契約条件が日本側に不利だったため難航し、昨年6月に日本の優先交渉権は失効した。イランの核開発疑惑を懸念する米国政府が日本政府に計画撤回を迫ったことも影響している。しかし昨年12月にイランが核査察強化に向けた国際原子力機関(IAEA)の追加議定書に調印するなど姿勢が軟化してきたことで同油田の交渉も進展し始めた。
具体的な条件 詰めこれから
官民一体で進めていたアザデガン油田の開発交渉は基本合意に達したが、詳細な条件決定はこれからだ。投資コストや利益率の計算、海外の協力企業のとりまとめなど、原油生産開始までに乗り越えるべきハードルは数多い。
今回目指している基本合意は二国間で油田開発を確実に推進するという約束を取り交わすという内容。コストの負担方法や投資規模などの具体的な条件は今後詰めることになる。
日本側は当初計画の2千億円に加え、さらに2千億−3千億円の投資を求められる可能性がある。
また、実際に現地を掘削し原油を生産する技術は日本企業にはなく、最終的にはメジヤー(国際石油資本)のプロジェクト参加が必要。日本側は英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルに協力を要請しているが、交渉は難航しているもようだ。
日本経済新聞 2004/2/20
日本の得失 不透明に イラン核疑惑 開発のリスクに
日本とイランのアザデガン油田開発交渉がようやく合意に達した。交渉を事実上先導してきた経済産業省はアラビア石油の権益失効以来4年ぶりの大規模な自主開発油田獲得と自賛するが、石油業界には採算に疑問を唱える声は少なくない。本格生産にこぎ着けるには残された課題も多い。
事業総額は20億ドル。原油生産量を2008年6月までに日量15万バレルとし、2021年2月までに日量26万バレルに引き上げる。日本側が原油を受け取る形で投資資金を回収できる契約期間は第一段階が6年半、第二段階が6年、合計12年半に限られる。
想定外負担も
問題は原油生産がこの計画通りに進むかどうかだ。石油開発事業に計画遅れや追加的な投資負担はつきもの。事業総額に含まれていない原油搬出設備の整備などによっては、「日本側が想定した収益を確保できなくなることもあり得る」(商社)という。
同油田の埋蔵原油はガソリン精製に適さず輸送も難しい重質原油が中心。実際の掘削作業も日本企業には技術がない。メジャー(国際石油資本)の参加が不可欠だが、第一候補の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの協力を取り付けられるかどうかも今後の課題だ。
細かい契約内容は「イラン側との守秘義務」(国際石油開発)で公開されないが、もしイランの核開発が明らかになった場合は開発を中止する「停止条項」が盛り込まれているもようだ。イランに投資した外国企業に制裁する「イラン・リビア制裁強化法」の発動をちらつかせる米国には配慮せざるをえない。
ファミリー温存
経産省の村田成二事務次官はアザデガン油田の採算性について「(国際石油開発が)民間企業として経済性を厳しく判断したうえで契約した」という。同社は民間とはいっても石油公団が出資する半官半民会社。公団傘下の有力石油開発会社の有カポストは旧通産省OBが占めてきた。
不採算事業を放置する放漫経営で巨額の財政負担を招いた石油公団は来年3月に廃止される。国際石油開発を早期に上場させ、公団の後継となる和製メジャーに育てる経産省の構想を実現に近づけるには日本の原油輸入量の6%生産をめざすアザデガン油田開発への参加が不可欠だった。
今月末には公団の出資機能などを引き継ぐ独立行政法人、石油天然ガス・金属鉱物資源機構が発足する。公団が廃止されても、「経産省ファミリー」を温存する布石は着々と進んでいる。
イラン、大きな外交成果 米政府内には不快感も
「両国関係の新たなぺージを開く」(ザンガネ・イラン石油相)。アザデガン油田開発の正式合意は、国際社会での孤立回避が切実な課題となっているイランにとって大きな外交上の成果。イランは資源を武器に欧州やアジアとの経済交流を活発にし、米国の制裁を骨抜きにしたい考えだ。
20日に国会選挙の投票を控えるイラン国内では民衆の多くが厳格なイスラム支配体制に不満を強めている。経済停滞は長引き、雇用創出の観点からも外国企業の誘致は経済改革の最重要の柱、イランに投資した外国企業を対象とする米国のイラン・リビア制裁強化法(ILSA)は経済に大きな影を落とす。
イランは欧州アジア企業の誘致で、制裁をなし崩しにする一方、米国の政策の不当性を国際社会にアピールする狙いがある。
一方、イランを「悪の枢軸」の一員とみなす米政府の関係者は18日、不快感をあらわにした。ただ、米政府内には温度差があり、直ちに制裁発動など強硬措置にはつながりそうにない。
「ILSAはまだ生きていますよ」。米側は日本にクギをさしたものの、日本外交筋は「米側は賛成はしていないし、黙認もしていない。だが体を張って止めたわけでもない」と語り、契約調印が許容範囲内だとの認識を示した。米側にはフランスや中国の企業が開発に乗り出していれば、コントロールが効かなくなるとの懸念もあったようだ。
国際石油、イラン油田の本格開発に来年着手
国際石油開発は、日本の自主開発油田として最大級となるイランのアザデガン油田の本格生産に向けた開発を06年中に始める方針を固めた。イランの核開発疑惑を批判する米国政府が、同社の大株主である日本政府にイラン向け投資を再考するよう求めていた。このため、政府も開発着手に慎重だったが、同社は「着手が遅れると権益を失いかねない」と判断し計画を進めることにした。
同油田の推定埋蔵量は約260億バレルで、「日の丸原油」としてはアラビア石油が権益を失ったペルシャ湾沖のカフジ油田以来の大規模権益となる。同社によると、イラン側による地雷除去作業は来春ごろに終わる見通しで、その後、年内に開発に着手する。生産開始は当初計画より1年遅れて08年になる見通し。開発費は1000億〜2000億円。
すでに昨年10月から掘削や陸上施設の建設手続きを始めており、環境影響調査も今年7月に承認された。試掘・探鉱データを解析し、有望な地層も判明している。
09年に日量15万バレル、13年には26万バレルの生産を計画している。04年度の日本の原油輸入量は日量417万バレルで、このうち自主開発原油は45万バレル。仮に26万バレル増えると、自主開発原油の比率は10%から17%に増える計算だ。
同油田の権益は国際石油が75%、イラン側が25%。国際石油は保有権益の20%前後を外国企業に売却する方針だ。油田開発のリスクを分散するためで、親密な関係にある国際石油資本(メジャー)のフランス・トタール社が有力となっている。
アザデガン油田については、開発期間や出資条件を巡るイラン側との厳しい交渉を経て、国際石油が04年2月に評価・開発契約を結んだ。有力メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルが参加を見送るなど採算性は厳しいと言われる。
さらに、イランの核開発疑惑を強く批判する米国が日本側に契約延期を要請し、契約後もイランへの石油投資に反対の姿勢を崩していない。
日本はイラン側に核問題の解決を訴えることなどで契約まではこぎ着けたが、国際石油の大株主である政府内にも「米国があれだけ問題にしており、核問題が解決しない状況で開発はできない」(経済産業省幹部)との声がある。日米政府の対応によっては、同社が計画通りに進められない可能性もある。
ただイランでの石油開発をめぐっては、欧州企業に加えて中国企業も参入して競争が激しくなっている。米国の顔色をうかがって開発に着工できないと、イランの信頼を失って権益を奪われる恐れが浮上していた。国際石油首脳は「核開発疑惑と石油開発は切り離して考えるべきだ」と主張し、政府や米国の理解を得たい考えだ。
日本経済新聞 2006/9/14
アザデガン油田着工、日本との交渉を継続・イラン石油相
イランのバジリハマネ石油相は13日、同国南西部のアザデガン油田開発の早期着工に向けた日本の石油開発最大手、国際石油開発との協議を15日以降も続けると明言した。イラン側は国際石油開発に対し、15日までに着工で合意しなければ開発権を取り消すことを示唆していた。
石油相は訪問先のウィーンで記者団に「われわれは交渉を続けるつもりだ」と指摘。15日が最終期限かと問われると「違う」と言い切った。
日本政府が出資する国際石油開発はイラン最大級の埋蔵量を誇るアザデガン油田の開発費の75%を負担することで合意。イラン側はこの契約の発効日から2年半にあたる「2006年9月15日」までの着工を国際石油開発に求めてきた。
一方、国際石油開発の関係者は日本経済新聞に「そのような内容の契約ではない」と述べ、イラン側の主張を否定。予備調査の段階で開発予算が大きく膨らみ、核開発問題を巡りイランに国連安全保障理事会が制裁を発動する可能性があることなども考慮し、着工に踏み切れないでいる。
2006/10/6 日本経済新聞夕刊
アザデガン油田 日本、開発権10%に下げ イランと合意 公的支援見送り
イラン南西部のアザデガン油田の開発問題で、開発権を持つ国際石油開発とイラン政府は、日本側の開発権の保有割合(出資比率)を大幅に引き下げることで大筋合意した。国際石油開発が保有する75%の開発権のうち65%分をイランの国営石油会社に譲渡し日本の開発権は10%とする方向だ。同油田はイランの核開発問題で着工が遅れていたが、懸念されていた全面撤退は当面避けられる見通しとなった。
開発権の比率の引き下げとともに、日本政府は国際協力銀行の融資や石油天然ガス・金属鉱物資源機構による出資など、油田開発への公的支援を見送る。同油田の開発に懸念を示していた米国に配慮する一方、開発権の一部を維持することで、同油田からの原油輸入に道を残す。
今回の合意で主要事業者はイラン国営石油会社に移る。同油田の開発コストは2500億ー3000億円だが、イラン側は開発技術や資金力に乏しく、開発権の大半を第三者に移譲する見通しだ。国際石油資本(メジャー)の仏トタルなどが候補に挙がっているが、対イラン制裁が発動される可能性があるため新たな参画企業が決まるかは不透明だ。
国際石油開発はすでに事業着手の準備金として数百億円をイラン側に支払っており、契約見直しにともなって開発権の譲渡分の返還を求めている。
日本側の原油引き取り量などについても引き続き交渉している。最終的な参画企業や資金分担など事業の枠組みが固まるまで数ヶ月かかる可能性がある。
同油田の予定生産量は日量26万バレルと日本の輸入量の6%に相当し、日本企業が参画する自主開発油田としては最大規模。