2004年7月5日 昭和シェル石油 日経解説
主要株主の異動に関するお知らせ
http://www.showa-shell.co.jp/press_release/pr2004/0705-1.pdf
当社主要株主の異動に関しまして、下記の通りお知らせ致します。
1.異動が生じた理由
当社発行済株式の50%を保有するロイヤル・ダッチ/シェルグループが、保有株式の一部(対象株式数:37,540,000株/当社発行済株式の9.96%)をサウジアラビア国営石油会社であるサウジ・アラムコ社に譲渡することについて合意いたしました。具体的には、サウジ・アラムコ社が全額出資するオランダ法人(アラムコ・オーバー・シーズ・カンパニーBV)が、当社株主であるロイヤル・ダッチ/シェルグループのオランダ法人(シェル・ジャパン・ホールディングスBV)を買い受ける形をとり、欧州監督官庁の承認手続きを経て、本年8月中に決済が行われる予定です。
また一定条件の下、サウジ・アラムコ社が当社株式18,840,000株(発行済株式の約4.99%)を追加的に買い受けることについても基本的に合意いたしました。
2.今回の経緯と目的
当社は、企業変革活動により実現した強固な財務基盤と販売力を通じ、日本国内の石油精製販売業において、優位な地位を確保しつつありますが、将来へ向けた更なる持続的成長の実現に向け、世界最大の原油供給者であるサウジ・アラムコ社の資本参加を受け入れることは、原油調達面での長期的な競争力強化に繋がるものと判断いたしました。
新たに当社主要株主となるサウジ・アラムコ社とロイヤル・ダッチ/シェルグループは、米国およびサウジアラビア国内において共同事業を展開するなど、グローバルな戦略的提携を実施中であり、このような信頼関係から、重要な市場と認識している日本における今回の株式譲渡・譲受に至ったものとの報告を受けております。
今回の資本参加に基づく新たな関係は、3社の事業目的に合致するにとどまらず、長期且つ安定的なエネルギー供給を通じて、日本国内の経済および消費者の利益に貢献するものと確信しております。
3.当社経営上への影響
当社は従来より、取締役会と執行部門の機能分離を中心とした企業統治体制の整備・強化を実施してきており、今回の株式譲渡による当社経営の独立性への影響はありません。
今後とも、当社ステークホルダーである一般株主の皆様やお客様、特約店、従業員等との親密な関係を維持・強化しつつ、企業価値の最大化を追求してまいります。
またロイヤル・ダッチシェルグループが、株式譲渡後も当社の単独筆頭株主であり続ける方針に変わりなく、商標の使用や研究開発、経営ノウハウの共有等を通じた緊密な関係は、今後とも変わることなく保持されます。
付表−1
<株式異動後の大株主順位>
株式異動前(2003年12月末実績) | 株式異動後 | |||||
名称 | 所有株式数 (所有議決権) |
発行済株式 総数に対する 所有割合 |
大株主 順位 : |
所有株式数 (所有議決権) |
発行済株式 総数に対する 所有割合 |
大株主 順位 : |
ザ・シェル・ペトロリウム・ |
162,934.2千株 |
43.24% |
第一位 |
144,101.2千株 |
38.24% |
第一位 |
シェル・ジャパン・ ホールディングス・BV |
18,700.0千株 |
4.96% |
第三位 |
0.0千株 |
0.00% |
ーーー |
ザ・アングロ・サクソン・ ペトロリウム・カンパニーLtd. |
6,784.0千株 |
1.80% |
第八位 |
6,784.0千株 |
1.80% |
ーーー |
ザ・メキシカン・イーグル・ |
6.9千株 |
0.00% |
ーーー |
0.0千株 |
0.00% |
ーーー |
ロイヤル・ダッチ/シェル |
188,425.2千株 |
50.00% |
第一位 |
150,885.2千株 |
40.04% |
第一位 |
+ |
||||||
アラムコ・ジャパン・ホール |
ーーー |
ーーー |
ーーー |
37,540.0千株 |
9.96% |
第二位 |
(注) | ) | シェル・ジャパン・ホールディングスBVは、アラムコ・オ−バーシーズ・カンパニーBVの全額出資会社となった後、アラムコ・ジャパン・ホールディングス・カンパニーBVに名称変更します。 |
* | 株式異動後の議決権総数に対する割合は、ロイヤル・ダッチ/シェルグループ合計40.34%、アラムコ・ジャパン・ホールディングス・カンパニーBV
10.04%となります。 シェル・ペトロリウム社が他のロイヤル・ダッチ/シェルグループ会社と併せて保有する議決権の割合が50%を下回ることとなりましたので、同社は、商法上の当社親会社には該当しないこととなります。 発行済株式総数: 376,850,400株 議決権総数 : 3,740,465個(2003年12月末現在) |
付表−2
サウジ・アラムコ社(Saudi Arabian Oil Company)の概要
本社所在地:ダーラン(サウジアラビア王国)
代表者会長:ナイミ石油鉱物資源相
社長兼CEO:アブドゥラ・S・ジュマー
事業内容:
石油・天然ガスの開発、生産、精製、
販売、輸送を行う国営企業
株主: サウジアラビア王国政府100%
従業員数: 約54,000人
保有原油埋蔵量: 2,594億バレル/2003年末(世界最大/全世界の25%)
原油生産量: 30億バレル/2003年実績(世界最大)
原油輸出量: 24億バレル/2003年実績(世界最大)
ロイヤル・ダッチ/シェルグループの概要
本社所在地:ハーグ(オランダ)/ロンドン(イギリス)
代表者グループ最高幹部役員会会長:イェルーン・ヴァン・デル・ヴェール
事業内容: 世界145を超える国・地域において探鉱・掘削、石油製品、天然ガス・電力、石油化学、
再生可能エネルギー等の事業を操業する石油スーパーメジャー
株主: 欧州8カ国(イギリス・オランダ・オーストリア・ベルギー・フランス・ドイツ・ルクセンブルグ)、
米国証券市場にて、上場および取引
従業員数: 約119,000人
売上高: 269,096百万USドル/2003年実績
当期純利益: 12,699百万USドル/2003年実績
保有原油天然ガス埋蔵量: 143.5億バレル/2003年末
日本経済新聞 2004/7/6
サウジ・アラムコ 昭和シェルに15%出資
日本に初の直接投資 原油を優先供給
昭和シェル石油は5日、世界最大の産油国サウジアラビアの国営石油会社、サウジ・アラムコから約15%の出資を受け入れると発表した。親会社のロイヤル・ダッチ・シェルが保有する昭和シェルの50%の株式のうち約15%分をアラムコが取得、第2位株主となる。昭和シェルは今後、アラムコから日本の需要に合わせた原油供給を受けるほか、有事の際に優先的に供給を受けられる契約を結んで調達力を強化。競争の激化する国内石油市場で新日本石油などへの競争力を高める。
発表によると、シェルはまず8月中に9.96%分をアラムコ側に譲渡。さらに2005年中に4.99%分を追加売却する。売却額は明らかにしていないが、総額500億円程度とみられる。アラムコが日本に直接投資するのは初めて。シェルは昭和シェルの筆頭株主にとどまる。
シェルが持ち株の一部をアラムコに譲渡するのは、昭和シェルとアラムコの関係を深めて昭和シェルの原油調達能力を高め、競争力を抜本的に強化するため。昭和シェルは従来、シェルから原油の過半を調達しており、アラムコからはスポット取引で少量を購入しているにすぎなかった。
今後昭和シェルはシェル、アラムコと有力な調達先を2つ確保できる。特にアラムコは軽質、重質など原油の種類が豊富。例えば国内でガソリン需要が増えた場合はガソリンに適した軽質原油を迅速に調達することが可能になる。重質原油を精製するのに比ベコストを抑制でき、他の元売りより安価に販売できる。
アラムコによると、今回の契約には中東で戦争が起きるなど有事の際にアラムコが昭和シェルに原油を他の元売りに優先して供給することも盛り込む。この緊急時の供給量は日量30万バレルで、昭和シェルが国内に持つ製油所の原油処理能力の6割にあたるという。
一方、アラムコは1990年代初めから、原油の輸出相手国での精製・販売事業を展開。日本でも91年、当時の日本石油(現新日本石油)、日本鉱業(現新日鉱ホールディングス)などと合弁で日本も製油所を建設する大型プロジェクトを計画したが、採算性などで折り合わず、頓挫した経緯がある。
サウジにとって日本は原油の最大級の輸出国。今回の提携でアラムコは原油の安定供給先を確保する。石油業界にはアラムコの昭和シェルへの出資を機に、停滞していた業界再編が再び動き出すとの見方がある。
昭和シェル、調達に機動性
昭和シェル石油がサウジアラビアの国営石油会社サウジ・アラムコからの出資受け入れで合意した。昭シェルは原油調達の機動性を高め、アラムコは悲願の日本市場進出を果たす。サウジの日本市場への関与は格段に深まり、日本の石油業界の再編やエネルギー政策にも中期的に影響が及びそうだ。
経営の独立性は維持
新美会長に聞く
昭シェルの新美春之会長は5日、日本経済新聞社記者と会い、アラムコからの出資受け入れの狙いなどについて語った。
− 昭シェルにとってのメリツトは。
「必要な種類の原油を必要な時期に調達できることだ。元売りは冬場には灯油を取りやすい原油を、夏場にはガソリンを作りやすい原油をそれぞれ多めに購入するのが一般的。アラムコと組めば石油製品の生産計画に合わせた原油調達が容易になる」
− 交渉の経緯は。
「昨年秋ごろから、株主になる両社のトップと何回か話をしてきた。我々は、昭シェルの経営の独立性を維持することが出資受け入れの条件だと言い続けてきた。経営陣を何人送り込むといった話は今のところしていない。現在の経営体制は変わらないと思う」
ー アラムコの狙いをどう見る。
「アラムコは以前から世界で二番目に大きな日本市場に大きな関心を持ってきた。今回はあくまでも日本市場を狙ったものだと思う。(昭シェルの製油所で精製した製品を中国に送る)対中間接進出を狙ったわけではないだろう。アラムコもシェルも世界を代表する超大企業で、中国に進出しようと思えば自社だけで十分にできる」
ー シェルは日本市場の将来性は低いと見ているのか。
「シェルは日本には、収益力の低い販売部門しか置いていない。ただ、中国の販売市場はまだ未成熟。日本で事業を展開する昭シェルが不採算部門というのなら、シェルがその株をアラムコに押しつけたことになる。両社の関係上、それはあり得ないし、そんな不合理なことをアラムコも認めるわけがない」
アラムコ
悲願の足場確保
原油シェア拡大へ攻勢/業界再編波及も
サウジ・アラムコのアジアヘの進出意欲は1980年代から一貫して続いてきた。成長市場で石油会社を傘下におけば、自国原油の販売先を確保し、石油収入を安定させられるからだ。90年代前半には韓国石油大手の双龍精油、フィリピン国営石油販売会社のぺトロンに相次ぎ資本参加。日本でも日本石油(当時)、日鉱共石(同)などと合弁で石油精製事業を計画したが、製油所の買収価格で折り合えず頓挫した。米欧で大規模な精製・販売事業を手がけるサウジにとって日本への進出は悲願だったといっていい。
それが、ここにきて実現した背景にはシェル側の事情がある。親会社のロイヤル・ダッチ・シェルは昨年来、保有する原油埋蔵量を四度も下方修正し、株価が大幅に下落。ワッツ会長は辞任に追い込まれ、メジャーの優等生といわれたシェルの栄光は地に落ちた。
シェルにとって安定した配当を見込める昭和シェル株は優良資産だが、実は欧米の株主が日本の石油市場に向ける視線は厳しい。米系のカルテックスが90年代に日本石油精製と興亜石油の株を相次ぎ手放して日本から撤退。エクソンモービルはグループ会社の東燃、ゼネラル石油を合併させ、大リストラに取り組んでいるからだ。
原油価格が中長期的に上昇するとの見方が強まるなか、シェルは昭シェル株の一部を売り、その資金で原油資産を増やさなければ、株主を納得させられない状況だった。売却先がアラムコであれば、今後のサウジ国内での油田・ガス田開発で有利な取り扱いも期待できる。サウジの意欲とシェルの事情が一致した結果がこのタイミングでの合意だった。昭シェルにはアラムコが大株主に加わることで、シェル本体の影響力を下げ、自主性を強める狙いもあろう。
アラムコとシェルで日本市場への熱意に差が出るのは、原油取引形態の変化が底流にある。70年代半ばまで日本は原油の7割をシェルなどメジャー経由で買っていたが、今は7割がアラムコなど産油国の国営石油会社からの購入。アラムコには原油販売先の確保だけで日本に進出する意味があるが、シェルは現在の日本の精製・販売事業の収益率には満足していないからだ。
問題は今後だ。1990年代以降、日本の原油輸入先のトップはアラブ首長国連邦(UAE)で、サウジは二番手。サウジは昭シェルヘの優先供給をはじめとする日本市場への原油販売攻勢で、日本での原油シェア拡大を目指すとみられる。
他の日本の石油会社の買収を模索するシナリオも考えられる。サウジの石油収入は1978−79年の第二次石油危機前後以来の高水準になっており、買収資金は潤沢だ。停滞している石油業界再編の引き金をサウジが引く可能性もある。
日本ではアラビア石油の権益失効以来、経済産業省を中心にサウジヘの反発が根強く残る。だが、世界最大の原油埋蔵量を持つサウジを抜きにエネルギー戦略を考えられないのも事実。今回のアラムコの昭シェルヘの資本参加を対サウジ政策の転換点にすべきだ。
日本とサウジ 石化、相次ぎ大型事業 治安リスク指摘も
日本ーサウジ間では最近、石油化学関連の大型プロジェクトが相次ぎ動き出している。背景にあるとみられるのはサウジの「脱・米国」戦略だ。住友化学工業は5月にサウジ・アラムコと折半出資で、総投資額約5千億円の石油精製・化学プラントをサウジ国内に建設することで基本合意。三菱グループなどが出資する日サ共同プロジェクト「イースタン・ペトロケミカル」も先月、約2500億円をかけ、サウジの汎用樹脂設備を増強する計画を打ち出した。
サウジと米国は長年蜜月関係だったが、2001年の米同時テロで実行犯の大半がサウジ人だったことなどから、米国はサウジヘのエネルギー依存度の引き下げに動いた。サウジは米以外の石油消費国との関係強化を追られた。
サウジが日本企業との関係強化に動くのもこの流れの延長線上とみられる。しかしサウジでは外国人を狙ったテロが続いており、同国への大型投資にはリスクを指摘する声もある。