日本経済新聞 2004/3/29

電気製品、有害6物質排除 電機・化学業界が連携 06年夏までに
 部品・素材1万社参加

 ソニー、キヤノンなど電機・精密機器メーカー約50社は2006年7月までに国内外で販売する製品から鉛、水銀など有害な金属・化学物質6種類を排除する。このための仕組み作りで化学業界と合意した。鉄鋼・非鉄メーカーも加わる見込みで、それぞれの取引先を含め、1万社を超える規模で有害物質削減に取り組む。欧州連合が電気製品を対象に実施する使用禁止規制に合わせ、世界規模で製品を環境対応に切り替える。
 約50社で構成する「グリーン調達調査共通化協議会」が有害物質を取り除くための統一ガイドラインを提案し、化学業界の約270社・団体が加盟する日本化学工業協会(中西宏幸会長)が受け入れた。
 具体的には製造工程での有害物質の混入防止、外部調達した部品・素材への含有量の把握、管理責任者の明確化、社員教育の徹底など24項目を設定した。部品・素材メーカーはすべての項目で判定基準を満たしたと判断した場合、納入先に対して対応が完了したと宣言できる。1社の納入先に宣言すれば、他の納入先も対応完了を認める。宣言しない場合、取引を打ち切られる可能性があるため、部品・素材メーカーの有害物質管理を促す効果もある。
 完成品、部品、素材の各メーカーが共同で、有害物質の使用状況を把握して削減に結び付けるのは世界的にもこれが初めての試みだ。
 電気・電子製品は部品点数が多く、完成品メーカー1社で百万点に達する場合もある。使用する素材も多様で、「完成品メーカーが単独で有害物質の有無を分析することはほぼ不可能」(経済産業省環境リサイクル室)とされていた。
 ガイドラインの導入によって完成品メーカーは自前で調べる必要が減り、管理コストの削減も可能になる。一方、部品・素材メーカーは取引先の完成品メーカーごとに対応方法が分かれる事態を回避でき、部品や素材の生産で規模のメリットが働く。これらを加味すると、環境対応の素材に切り替えることで発生する費用は最小限に抑えられる見込みだ。
 今回の仕組みは電気製品と並んで多種多様な部品・素材を使う自動車業界の環境対策にも役立つと期待される。

欧州有害化学物質規制
 RoHS指令:Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment

▽…使用済みの電気製品を埋め立て処理しても土壌や地下水が汚染されないようにするため欧州連合(EU)が実施する規制。2006年7月以降、メーカー側は指定された6種類の物質の使用を全廃しなければ、域内で製品を販売できなくなる。例えば、回路の溶接に鉛を含んだはんだ材料は使えない。
▽…日本にはこれらの物質の使用禁止規制はないが、中国が同様の規制導入を検討するなど欧州をモデルにする国が増える見通し。電機・精密各社は全世界で販売する商品で部品や素材の代替を進めていく。

  使用禁止となる物質と主な用途
       
    はんだ材料、プラスチック安定剤
  水銀   スイッチ、センサ一
  カドミウム   リレー接点、プラスチック安定剤
  六価クロム   ネジ、鋼板などのさび防止
  ポリ臭化ピフェニール   プリント基板、外装部品などプラスチックの難燃剤
  ポリ臭化ジフェニルエーテル  

日本経済新聞 2006/7/1

欧州で化学物質新規制 始動 電機業界など運用注視
 製品管理は徹底 行政裁量に不安残る

 電気・電子製品に使われる鉛など化学物質の使用を規制する欧州連合(EU)の「RoHS(ローズ)指令」が1日スタートする。規制物質が一定濃度を超えていると判明した場合は出荷停止などの措置がとられる可能性がある。ただ検査方法などはあいまいで各国の裁量に委ねられており、日本の電機・精密各社は管理を強化する一方で不安も募らせている。
 6月27日午前、松下電器産業の環境本部に安堵の雰囲気が漂った。プラズマパネルの接着剤に含まれる鉛がRoHS指令の適用除外になることが決まったとの情報が欧州から伝えられたからだ。プラズマパネルの鉛を代替する技術は「非常に困難」(同社)。適用除外が認められなければ欧州市場で薄型テレビなどを販売できなくなる可能性があるだけに、最悪の事態は免れたと胸をなで下ろす。
 RoHS指令は家電、パソコン、携帯電話などの製品への鉛、水銀など6つの化学物質の使用を原則禁止した。ただ罰則など実際の運用は加盟各国がそれぞれ定めた国内法に従うため国ごとに様々。さらに将来の技術革新に備え、対象製品の表示などはあえてあいまいにしたままだ。
 「日欧の規制文化の違い」(経済産業省情報通信機器課)に日本メーカーは戸惑いを隠せない。各国に行政裁量の余地が残るため「欧州製品と競合する分野で日本製などに不利に働くのではないか」との不安も募る。
 日本の電機・精密大手は調達先と連携して部材に含まれる化学物質の管理システムの構築を強化している、ソニーはRoHS指令が発効した2003年に化学物質管理の基準を定め国内外の調達先約4千社を監査。これに先立ち工場ごとに約700人の監査員を養成し、監査に合格し「グリーンパートナー」と認定した調達先だけに取引を絞り込んだ。
 部材の調達先は世界各国に広がっている。キャノンは調査方式の共通化を業界各社に呼びかけ、すでに約90社が共通方式の推進組織に参加するなど、国際標準化を目指している。松下は19億円をかけて化学物質の分析装置を360台導入。調達先が多い中国には部材試験センターを設置した。
 化学物質管理の体制を整えた大手はRoHS指令の対応「完了」を宣言している。しかし製品すべてを検査するのは困難で、例えば調達先で自動車など向けに使用している規制対象物質が混入しないとも限らない。欧州販売の売上高全体に占める比率はキャノンが30%超、ソニーが20%超など。違反した場合は厳しい罰則とブランドイメージの悪化が避けられず、不安は完全に払拭できていないのが現状だ。

▼RoHS(ローズ)指令
 欧州連合(EU)が7月1日から実施する化学物質の規制。家電やパソコン、複写機、デジタルカメラ、携帯電話などを対象に、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニール(PBB)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)の計6物質の使用を原則禁止する。
 対象物質の含有濃度が規制値を超えていることが判明した場合、罰金や販売停止などの措置がとられる見通し。代替が困難な製品については適用が除外される。ブラウン管の蛍光ランプのガラスに含まれる鉛、液晶パネルのバックライトに含まれる水銀、電子セラミック部品に含まれる鉛などの除外が決まっている。