日本経済新聞 2008/7/10

大型有機EL ソニー・東芝など共同開発
 材料各社も参加 韓国勢に対抗 2015年メド量産化めざす

 ソニーやシャープ、東芝、松下電器産業などは大画面の有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルの量産に必要な基礎技術を共同開発する。40型以上の大画面化や省電力、耐久性の向上などを進める。材料・製造装置メーカーも参加し、経済産業省が支援する。次世代型テレビのパネルとして最有力とされる有機ELに日本の官民が連携して取り組み、競合する韓国勢に対抗する。

 年内に開発作業を始め、期間は2012年まで。量産に必要な技術を共同で開発し、各社の開発費負担を軽減、早期の実用化を目指す。いち早く技術を確立すれば、事実上の国際標準技術として、海外のパネルメーカーや材料・装置メーカーも採用する可能性が高い。有機ELの商品化競争で日本企業が優位に立つことになる。
 ソニー、シャープ、東芝、松下ディスプレイテクノロジーのパネル3社のほか、材料では出光興産と住友化学、装置メーカーでは大日本スクリーン製造や島津製作所、日立造船などが参加する。産業技術総合研究所を含む10社・1団体で取り組む。
 経産省は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じ、合計35億円の資金を支援する。
 現在、携帯電話に搭載する中小型の有機ELでは韓国企業が先行し、テレビはソニーが世界で初めて11型を商品化している。さらにサムスングループが31型を開発するなど日韓企業の競争が激しくなっている。
 韓国ではサムスン電子やLGグループが素材、装置メーカーなどと共同開発を始め、特許の相互利用や部品の共同調達を進めている。
 次世代パネルの開発、実用化には巨額投資が必要。日本は材料や製造装置を含め、世界でも有数のすそ野の広い関連産業を持つため、これらの企業の総力を結集して国際競争を優位に進める考えだ。
 今回の共同事業の主要テーマは、パネルの消費電力低減と長寿命化、大画面化に直結する部材と製法の開発。実現すれば、製造コストを液晶などと対抗できる水準に下げられる見通し。
 開発費の分担や特許の出願方法などについては参加企業が協議する。各社は技術を持ち帰り、独自に有機ELテレビを商品化。15年までに40型で消費電力が40ワットと現在の液晶テレビの4分の1に低減した製品の量産技術の確立を目指す。
 有機ELは高画質に加え、薄く軽量という特長を持つが、現状では発光効率が悪く消費電力も大きい。また液晶やプラズマに比べ大画面化、長寿命化などの課題も残されている。米調査会社、アイサプライは13年の高画質有機ELパネルの市場を約3千億円と試算している。

有機EL量産技術の共同開発に参加する企業
メーカー 主な製品・技術
ソニー、シャープ、
東芝松下ディスプレイテクノロジー
有機ELパネル
出光興産、住友化学 有機発光材料など
JSR パネル保護材料・装置
大日本スクリーン製造 材料塗布装置
島津製作所、日立造船、長州産業 成膜装置
(注)以ト10社に加え産業技術総合研究所が参加

 

開発で連携 不可欠に コスト削減、実用化早める

 ソニーや装置メーカーが有機ELの技術開発に共同で取り組む背景には、大画面テレビ用パネルの開発費用が膨れあがっていることがある。今回のプロジェクトでは、有機ELの課題とされる大画面化や耐久性向上に的を絞り、産業の川上から川下まで協力して早期の技術開発を目指す。

 これまでのパネルの官民共同開発では、シャープや日立製作所、装置メーカーなどが液晶関連の開発会社を設立。低コスト型のカラーフィルター製造装置を開発するなどの実績を上げた。
 有機ELは有機膜を均一に作る必要があるなど液晶より開発が困難な点が多い。ソニーやシャープ、東芝、松下電器産業は有機ELテレビを次世代の有望分野と位置づけ独自に開発を進めてきた。
 しかし1社あたりの開発費が数百億円規模に膨らむうえ、大画面化や量産に向けて共通の課題に直面するようになった。このため技術的な問題点を解決するにはパネルメーカーに加え材料や装置まで幅広く連携した方が有利だと判断した。今回は低消費電力化のほかパネル封止材料技術や、面積の大きいガラス基板の上に有機材料を均一に成膜する技術を開発する。
 ただ、国の資金を投じるような共同プロジェクトでは、参加企業の独自戦略を縛る懸念もある。かつて、ソニーはサムスン電子と液晶パネルの合弁生産を決め、液晶関連技術の官民共同プロジェクトから脱退している。
 エレクトロニクス分野では世界で事業の連携・再編が急増しており、今後、官民共同の開発プロジェクトのあり方を変える必要も出てきそうだ。


平成20年7月10日 NEDO

「次世代大型有機ELディスプレイ基盤技術の開発(グリーンITプロジェクト)」に係る委託先を決定

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)は、平成20年度「次世代大型有機ELディスプレイ基盤技術の開発(グリーンITプロジェクト)」事業について4月11日〜5月20日の間に公募を行い、厳正な審査の結果、下記の共同提案に委託することを決定しました。本プロジェクトによって、2010年代後半に40インチ以上かつ低消費電力の有機ELディスプレイが量産実用化されることを目指します。

1.委託先(共同提案)

2.事業の概要

地球温暖化問題は、世界全体で早急に取り組むべき最重要課題であり、経済・社会活動と地球環境の調和を実現するためには、画期的な技術革新が求められています。NEDO技術開発機構では、IT機器の省エネ対策としてグリーンITプロジェクトを平成20年度から開始します。そのプロジェクトの一環として、ディスプレイの大型化が進展している状況を踏まえ、ディスプレイの消費電力低減につながる技術開発を行います。
有機ELディスプレイは、低消費電力、高効率発光表示、広い視野角特性、高速応答性、超薄型軽量化などを同時に実現する次世代ディスプレイ技術として期待されています。しかしながら、現状では大型化の製造技術は開発されていないため、大型ディスプレイの実現に向けた製造プロセス技術を含む新たな基盤技術の開発が不可欠です。したがって、本プロジェクトでは、
2010年代後半における大型有機ELディスプレイの量産実用化を高い生産効率条件にて製造するための基盤技術の開発に取り組みます。具体的には、以下の技術開発を行います。

[1]   低損傷大面積電極形成技術の開発
有機膜に損傷を与えずに、可視光損失率が低く、かつ、シート抵抗値の低い電極を、大面積にわたって均質に形成するための材料技術・製造プロセス技術を開発します。
[2]   大面積透明封止技術の開発
有機膜や電極に損傷を与えずに、可視光損失率が低く、かつ、有機膜の発光特性の経時安定性を保つために、高いバリア性を有する封止膜の材料・構造、製造プロセス技術を開発します。
[3]   大面積有機製膜技術の開発
高い発光効率を示す有機EL素子用材料に対して、大面積であっても高精細なパターニングの可能性を有し、さらに、画素内および画素間にわたる高度な均質性が得られる有機膜製造プロセス技術を開発します。
[4]   大型ディスプレイ製造に向けた検証
上記、研究開発項目[1]、[2]、[3]の個別要素技術の統合を通じて、フルHD40インチ以上の有機ELディスプレイに対して想定される消費電力が40W以下となること、および、開発した各基盤技術がG6 サイズ(1500mm×1850mm)以上の基板に対して適用可能で高生産性を実現できること、を客観的な技術データをもって示します

3.事業期間
平成20年度から平成24年度までの5年間とします。

4.プロジェクトの規模
○事業費と研究開発期間(目安として)
[1]事業費年間約7億円(未定)
[2]研究開発期間5年間