日本経済新聞 2002/11/2

燃料電池で熱電併給 中部電・三菱重工が新会社
 リース方式で実用化 2004年メド コンビニや病院向け

 中部電力と三菱重工業は燃料電池を使った分散型電源事業を手掛ける共同出資会社を2004年をめどに設立する。発電効率が高い固体酸化物型燃料電池(SOFC)によるコージェネレーション(熱電併給)システムを製品化、全国の商業施設などに売り込む。燃料電池は家庭や自動車向けの実用化が進みだしたが、業務用の事業展開では中電などが先行する。
 分散型電源は家庭や事業所に発電設備を置き、必要な電力などをまかなうもので、両杜の共同出資会社はリース方式で機器の設置から、天然ガスなど燃料の供給、保守まで請け負う。第一弾として2004年末までに事業化する固体酸化物型システムは出力50−200キロワット。運転費用(ランニングコスト)は電力を購入する場合よりも1割以上安くなる見込み。
 一般的な家庭では最大電力3キロワット前後ですむが、コンビニエンスストアなどでは50キロワット程度必要。両社は比較的小規模な商業施設、ファミリーレストラン、ホテル、病院などの需要を見込んでいる。すでに流通関連企業から引き合いがきているという。
 続いて2007年を目標に、出力300キロワット以上を確保できる溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)を使ったシステムも製品化する。工場や廃棄物処理施設向け。
 両社はこれまで燃料電池の共同開発に取り組んできた。
天然ガスから水素を取り出して発電、廃熱を回収して温水として再利用する固体酸化物型のコージェネシステムについては、すでに試作機のめどがついている。メタンガスや排ガスから水素を取り出して発電する溶融炭酸塩型についても共同研究を進めている。
 いずれのタイプも開発費がかさみ、当初は割高となるため、リース方式により顧客の初期投資負担を軽減する事業形態を検討している。
 利用者がシステムを導入することによって得る運転費用削減分や省エネ効果の一部を料金として回収する手法なども取り入れ、普及を促す。
 中電は天然ガスなどを燃料にするコージェネシステムによる分散型電源事業の子会杜を2001年に設立している。三菱重工と協力して燃料電池システムも手がけることで分散型電源事業の拡大に弾みをつける。将来は分散電源事業で、原子力発電所1基分に相当する出力約100万キロワットの需要を見込んでいる。


「固体酸化物型」を採用 廃熱利用し効率高める


 燃料電池は利用分野や発電規模に応じて
4方式に分かれる。経済産業省を中心に燃料電池開発の国家プロジェクトが進むなか、それぞれ実用化に向けた取り組みが活発になっている。
 実用化が早そうなのが、
固体高分子型燃料電池(PEFC)。小型・軽量化に向くため、家庭用分散電源や燃料電池自動車への利用が期待されている。燃料電池自動車はトヨタ自動車、ホンダが年内に商用販売を始める。家庭用電源については2003年から2004年の事業化に向け、三洋電機や東芝など家電メーカー、荏原など多くの企業が先陣争いを繰り広げている。
 
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は発電に必要な作動温度がセ氏800−1000度。固体高分子型より700度以上高く、廃熱を利用すれば高いエネルギー効率が望める。工場や病院、郊外型の商用施設などの熱利用しやすい事業者が対象になり、燃料電池を使った業務用の分散電源の本命となる。
 固体酸化物型は中部電力、三菱重工業のほか、電源開発やNKKなども関連技術を研究している。 NKKは米加の燃料電池メーカー2社と提携し、それぞれの製品の国内での販売権を取得、2004年度の発売を目指す。中電ー三菱重工連合が事業参入を決めたことで、業務用分野での実用化競争が一段と激しくなる。


Nikkei Net IT Information Technology 2002/10/31

エネルギー新時代  燃料電池、日立が参入

 地球温暖化、資源問題、そして米同時テロで緊迫する中東情勢――。国際社会に突き付けられた難問は、化石燃料に代わるクリーン燃料の開発やエネルギー供給の安定・効率化技術の確立を迫っている。同時に、燃料電池のように新たな産業を生み出す原動力にもなる。21世紀に入り、資源小国・日本が蓄積してきた新技術は至る所で芽を吹き始めている。

 茨城県日立市にある日立製作所の日立研究所。地下二階の研究室でひそかに進められていた小型燃料電池の開発が、実用化に向け大きな一歩を踏み出した。試作品は開発済み、近く特許を申請する。日立マクセルなどグループ会社の社員もプロジェクトチームに加わり、日立が小型燃料電池事業に本格参入する体制を整えつつある。

 カートリッジ
 同社が事業化を目指すのはダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)だ。メタノールを改質して動力源の水素を取り出すのではなく、メタノールを直接燃料にするのが特徴。高分子フィルムの電解質膜に張り付けた白金系の触媒がメタノールを水素イオンと電子に分解、酸素と反応させて電気を起こす。

 8月に試作した燃料電池は携帯電話程度の大きさ。狙う市場はノート型パソコンや携帯情報端末(PDA)などモバイル機器だ。メタノール水溶液と燃料電池を組み合わせたカートリッジを差し込んで使う用途を計画している。海外出張など長期の外出でもカートリッジを取り換えるだけで長時間使用が可能になる。

 日立は発電施設や分散電源向けにより大型の燃料電池も開発中だが、DMFCは車載用として1980年代から開発を進めていた。しかし、思うような成果が得られず一時中断。情報技術(IT)時代の核となりそうなモバイル用に的を絞って再参入に踏み切る。

 特許を申請する基本構造は、メタノールタンクの壁面に燃料電池を複数張り付けたもの。どの角度で置いても、電池にメタノールを供給できる。

 連続10時間使用
 試作品の出力は数十ミリワットで、まだ携帯機器を十分に作動させることはできないが、「複数の化学品メーカーと共同でエネルギー変換率が高い新材料を開発中。1-2年後には商用化のメドが付きそう」(村中廉・電池システム研究部長)。ノート型パソコンの場合、連続使用でバッテリーは3時間ほどしかもたないが、DMFCを実用化すれば10時間以上もつという。

 DMFCの利点は、発電プロセスがいたって簡単なこと。改質器が必要ないため小型軽量化、低コスト化が見込める。93年に米国のロスアラモス国立研究所が高分子膜を使ったDMFCを開発したのを手始めに、カナダのバラードや独シーメンスが相次ぎ研究を開始。携帯電話向けでは、米国のモトローラやベンチャーのマンハッタン・サイエンティフィックスが開発を進めている。

 日本勢では、YUASAが7月に最大出力200ワットの高出力スタック(発電セル)を開発、10月から実証実験に入る。ティッシュペーパーの箱より一回り大きいサイズで、これほどの高出力は業界最大級だ。野村栄一・開発研究所第二部長は「海外の電気が引かれていない地域でのポータブル電源や家庭用電源として、2003年度にも商用化する」と意気込む。

 DMFCは携帯機器用が先行しているが、メリットを最大限享受できると見られるのが自動車用だ。燃料電池自動車は水素をそのまま積むのが理想的だが、貯蔵技術や水素供給の社会インフラ問題にメドが付かない。一方、研究が活発化しているメタノールやガソリンなどの液体燃料を改質する手法も改質器、脱硫器のスペース確保や、高温に熱しないと反応が進まないため始動性が悪いことが実用化の壁になっている。

 その点、DMFCは改質反応なしで水素を取り出す簡素な構造だ。昨年11月、独ダイムラークライスラーとバラードがDMFCを搭載したゴーカートの試作車を公開、注目を浴びた。日本でも財団法人、日本自動車研究所(茨城県つくば市)が研究を進めている。

 出力低下が課題
 しかし、DMFCも大きな課題を抱えている。第一は、メタノールが電解質膜を透過してしまい出力を低下させる「クロスオーバー」という問題。第二は、反応過程で発生する一酸化炭素が触媒の白金を劣化させる「CO被毒」という問題だ。

 二つの問題を解決しようと、東京工業大、東京都立大、群馬大など8大学は10月から、DMFC向け材料の共同開発に乗り出す。高分子膜とセラミックスを複合したクロスオーバーがない電解質膜の開発などを進める計画。研究を取りまとめる東工大の山崎陽太郎教授は「良い電解質膜と触媒を開発できるかどうかが、DMFCの実用化のカギを握る」と話す。

 各種方式が乱立する燃料電池分野で、伏兵として登場したDMFC。目の前のハードルは高いが、それを乗り越えさえすれば、他方式の間隙(かんげき)を縫って、燃料電池の主流に躍り出る可能性を秘めている。

 


日本経済新聞 2003/2/1

燃料電池車向け 水素供給システム競う
 新日鉄 余剰ガスを転用、荏原 太陽光発電活用

 機械、エネルギー各社が燃料電池自動車向けの水素供給ステーションの実用化に向け技術開発に乗り出す。水素を取り出す際の環境への負荷が小さくコスト面でもガソリンに対抗できる供給方式の実現を目指す。燃料電池車には米国も国を挙げて開発に取り組む計画。普及には水素供給ステーションの拡充がカギを握っており、次世代のインフラ整備をにらんだ開発競争が内外で激しくなる。
 燃料電池車は車内に蓄積した水素と空気中の酸素が化学反応してできる電気で動く車。水しか排出しないため究極の無公害車とされる。政府は2010年度に5万台、2020年度に500万台の導入を目標にしている。業界の試算では実現には2010年度で180カ所、2020年度で2400カ所程度の水素ステーションが必要になる。
 設置拡大に向け政府は2005年度に規制緩和を実施する方針。しかし普及には、燃料となる水素自体を作り出すときのエネルギーの軽減や、現在はガソリンスタンドの3−4倍かかる設備費用の削減が必要になる。
 新日本製鉄は製鉄所でコークスを作る際に発生する余剰水素ガスを燃料に転用する研究を始める。2003年度に日産200キログラムの液体水素製造設備を君津製鉄所(千葉県君津市)に設置、岩谷産業と昭和シェル石油が東京都内に開設する水素ステーションに供給する。
 荏原はノルウェーの機械メーカー、ノルスク・ヒドロ・エレクトロライザー(ノトデン市)製水素製造装置を核に、太陽光発電を組み合わせ二酸化炭素(CO
)を発生させない水素供給方式の開発に着手した。住友商事は出資先の米ベンチャー企業が開発した水素発生装置を輸入。年内に割安な夜間電力を使って水を電気分解し、水素を高圧で貯蔵する仕組みの実証実験を始める。
 岩谷産業は設備のコスト削減に取り組む。トヨタ自動車と燃料電池車1台のリース契約を結び6月から社内運用を開始。機械各社の圧縮機、流量計などから最適な組み合わせを探り、現状の3億円程度に対して1億円以下で建設できる水素ステーションを提案する。
 米ブッシュ大統領は28日の一般教書演説で燃料電池車の開発に総額12億ドルを投じるとともに社会インフラの整備にも取り組むことを表明。小泉純一郎首相も31日の施政方針演説で規制を総点検して燃料電池車の普及拡大を後押しすると述べた。

 

水素供給ステーション関連の技術開発

社名 技術内容
新日本石油 ナフサから水素供給
コスモ石油 脱硫ガソリンから水素供給
東京ガス・日本酸素 液化石油ガスから水素供給
日本エア・リキード メタノールから水素供給
岩谷産業・昭和シェル石油 液化水素による水素供給
新日本製鉄 製鉄所の余剰水素を液化燃料に
日東工器 高圧充てんに耐える燃料供給弁
日立インダストリイズ 燃料供給用の高圧圧縮機
日本製鋼所 燃料供給用の高圧圧縮機
荏原 太陽光発電で水を電気分解
住友商事 夜間電力で水素生成

 


2004/7/13 日本経済新聞

「東邦ガス・日本触媒、燃料電池基幹部品を生産――コージェネ、割安に。」

 東邦ガスは日本触媒と組み、年内にコージェネレーション(熱電併給)システムに使う燃料電池の基幹部品の生産を始める。材料に独自開発した発電性能の高いセラミックスを用い、白金などを使った場合に比べ大幅にコストを抑える。東邦ガスは電力の自由化拡大をにらんで、ガスを燃料とするコージェネシステムの普及に力を入れている。新たな基幹部品を活用した割安なシステムを提供し、顧客を取り込んでいく。
 東邦ガスと日本触媒は、コージェネや火力代替発電などに使う燃料電池である固体酸化物形燃料電池(SOFC)の共同研究に3年前に着手。この心臓部にあたる「単セル」と呼ばれる基幹部品の開発にこのほど成功した。
 SOFCを使ったコージェネシステムは200年をメドに商品化される予定。通年稼働する中小規模の工場や病院などに適した低コストのコージェネになるとみられている。現在のコージェネより高温の排熱を発生するため、発電効率を大幅に改善することができるという。
 東邦ガスの電解質材料に関する独自技術と、日本触媒の燃料電池用材料の量産技術を結集し、単セルの生産技術を開発した。具体的には、電解質の材料に、高い強度と導電率を併せ持つ特殊なセラミックスを採用し、割れやすいというセラミックスの難点を解消した。白金など高価な材料を使わずに量産できる利点も大きいという。
 両社が共同開発した単セルは、SOFCのシステム開発を計画している金属材料メーカーや空調機メーカー向けに、日本触媒が生産、販売する。
 固体酸化物形燃料電池(SOFC) 心臓部である固定電解質材料にセラミックスなどを使い800―1000度の高温で作動させるのが特徴で、燃料電池の中では最も発電効率が高いといわれる。高温の排熱が得られるためガスタービンの駆動など排熱の有効利用もできる。高純度の水素燃料だけでなく一酸化炭素なども燃料として使える特徴もあり、燃料電池に使用する水素を都市ガスから作る改質工程が単純になる。


2007/11/15 日本経済新聞夕刊

三洋の家庭用燃料電池事業 新日石が買収
 新会社を核に製販一貫体制

 新日本石油は三洋電機の家庭用燃料電池事業を事実上買収することで合意した。来年4月に三洋が同事業部門を分社化、新日石が8割出資し経営の主導権を握る。経営再建中の三洋は携帯電話端末など不採算事業からの撤退や縮小を進めている。今後、開発・生産投資がかさむ燃料電池事業を単独展開するのは難しいと判断、燃料電池の主要供給先である新日石との事業統合に踏み切る。
 分社化して設立する新会社の資本金は5億円程度で出資比率は新日石が81%、三洋が19%。社長は新日石側が派遣する。新会社を核に両社の燃料電池関連部門を集約し、開発から生産、販売までの一貫体制を整える。
 家庭用燃料電池は水素と酸素を反応させ発電、排熱を利用して温水を供給する。新日石は水素を取り出す燃料に液化石油ガズ(LPG)を使う製品を三洋電機と、灯油を使う製品を荏原子会社と共同開発。経済産業省の助成金を活用して2005年度から、新日石ブランドで一般家庭ヘリース販売している。07年度末の累計販売見込み台数は831台と最大手。
 新日石は主要調達先の三洋の技術や人材を囲い込むことで製品の安定調達を確保。三洋は量産投資などが重荷になるとみて単独展開は断念する。