日本経済新聞 2007/12/19

有機EL・液晶パネル 松下・キャノン・日立が連合 共同会社で生産 3000億円で液晶新工場

 松下電器産業、キャノン・日立製作所はテレビなどに使う薄型パネルで包括提携する方向で最終調整に入った。まず日立のパネル子会社に松下とキャノンが出資し、次世代パネルの有機EL(エレクトロ.ルミネッセンス)を共同で事業化。さらに松下が日立の液晶パネル製造子会社を傘下に収め、3千億円規模を投じ工場を新設する。日本のパネルメーカーは同連合、シャープ、ソニーの3陣営にほぼ集約され、韓国や台湾勢を含めた世界的再編の引き金になりそうだ。
 日立は全額出資子会社の日立ディスプレイズで中小型液晶パネルを製造し、有機ELを開発している。松下とキャノンは日立から保有株を買い取って日立ディスプレイズに出資する。株式の50%強を日立が握り、残りを松下とキャノンで各半分保有する案が有力。出資額は検討中だが、それぞれ1千億円を超える見通しだ。
 出資後、日立とキャノンが主導し、液晶より高画質の有機ELパネルを共同で開発・生産する。キャノンはデジタルカメラなどの小型モニターとして利用。松下は次世代テレビ向けに活用する可能性を探るとみられる。
 一方、日立ディスプレイズ、松下、東芝の3社は現在、大型液晶パネルを製造するIPSアルファテクノロジ(千葉県茂原市)を共同運営、パネルを自社のテレビに搭載している。出資比率は日立ディスプレイズ50%、松下32%、東芝16%だが、松下は日立ディスプレイズヘの出資を通じIPSへの影響力を拡大、さらに増資引き受けなどで出資比率を50%超に高める方針だ。取得額は今後詰める。
 IPSは茂原市にパネル工場を持つが生産量は年500万台にとどまる。松下はIPSを子会社化した後に工場を新設して液晶パネルに本格参入する。世界的に需要が拡大する40型台パネルを効率生産できる「第八世代」(現在は六世代)という工場になる見通し。松下は薄型テレビではプラズマを主軸に据えてきたが、今後は液晶にも力を入れ、40型後半以上はプラズマ、それ未満は液晶というすみ分けを進める。
 キャノンは有機EL技術を持つ日立ディスプレイズヘの出資で、小型ELを事業化して自社製品に組み込む。将来は大型ELを搭載したテレビを商品化する道も開ける。
 日立はIPSの経営主導権を松下に譲り、価格競争が激化している液晶パネルの製造から段階的に縮小する。東芝もテレビ事業を続けるがIPSには追加出資せずパネル投資を絞る。
 電機業界ではシャープと、ソニー=韓国サムスン電子の合弁がそれぞれ液晶パネルを生産している。松下がプラズマに続き液晶に本格参入、独自路線のキャノンも松下・日立と組むことでパネルメーカーがほぼ3陣営になり、今後は生き残り競争が一段と加速する。

松下、液晶にも本格参入 キャノン、有機EL事業化

 松下電器産業とキャノン、日立製作所の包括提携に伴い、日本の薄型テレビ市場の競争が新たな段階に入る。日立製作所と東芝は液晶パネルの製造事業を縮小するが、これまでプラズマを軸としてきた松下の液晶本格参入で競争が一段と激化するのは必至。有機EL事業化を狙ったキャノンも巻き込み、資金力のある勝ち組同士の体力勝負が本格化することになる。

日立・東芝は製造縮小
 日立は巨額の投資を必要とするパネル事業でプラズマと液晶の工場をともに抱える唯一の日本の電機メーカー。だが、懸案のハードディスク駆動装置(HDD)事業が赤字続きの上、薄型テレビでも上期500億円の営業赤字を計上した今の日立に「液晶に追加投資する余力はない」(同社幹部)。
 日立主導で運営してきたIPSアルファテクノロジの液晶パネル工場はガラス基板サイズが32型と37型を効率生産できる「第六世代」。シャープが堺市に建設を始めた「第十世代」やソニーと韓国サムスン電子が合弁生産している「第八世代」と比べ、40型以上の大画面ではコスト競争力で太刀打ちできない。
 40型後半以上の大画面テレビはプラズマで勝負できる松下にとって、選択と集中を進める日立、東芝の液晶パネル製造からの撤退・縮小は渡りに船。特許や製造ノウハウを手に入れ、市場拡大を続ける液晶テレビに本格参入できるからだ。
 松下は、今年11月に2800億円を投じて国内5カ所目のプラズマパネル生産工場を着工したばかりだが、今期の薄型テレビ販売目標はプラズマ500万台に対し、液晶も400万台とその比率は小さくない。
 世界的に液晶の品薄感が強まった07年度上期は「液晶パネルの調達が厳しい状況」(大坪文雄社長)となり、販売目標は未達に終わった。液晶パネル事業への関与を深めることで、調達面での不安を解消、新規投資なども主導できるメリットは大きい。
 一方、キャノンが日立ディスプレイズヘの出資で狙うのは、デジタルカメラなど自社製品に搭載していく有機ELパネルの内製化だ。
 キャノンのデジタルカメラとビデオカメラの生産台数は合計で年2700万台に達する。だが、現在搭載している小型液晶パネルは全量外部からの調達に頼っており、コスト削減が思うように進まない。より高精細な画像を表示できる有機ELを日立との協業でいち早く内製できれば、カメラなど主力製品の競争力をさらに向上させることができると見ている。
 キャノンは今年11月、有機ELの製造装置を手掛けるトッキの買収を決めたが、同社には肝心のディスプレー開発のノウハウはない。日立は実用化に欠かせないガラス基板技術などに関する特許を所有している。ディスプレイズヘの出資を通じて日立の特許を一定の範囲で使える権利を取得し、2010年をメドに有機ELパネルを実用化。新型パネル「SED(表面電界ディスプレー)」を搭載した薄型テレビの商品化を目指しているが、有機ELテレビヘの道も開ける。

国内、3グループに集約

 日本の電機業界再編は巨額の投資競争が続くパネル事業を軸に進み始めた。プラズマで世界首位の松下は将来、液晶パネルの新工場を建設する方針で、シャープやソニーと真正面から激突する構図となる。
 プラズマ事業で赤字に陥ったパイオニアは液晶テレビで国内シェアトップのシャープの出資(出資比率14.28%)受け入れを決定。ソニーは韓国サムスン電子と合弁会社をつくり、液晶パネルを調達している。国内の液晶パネル製造事業は松下を含めて3グループに集約されることになる。
 ただ、世界に目を向けると、液晶パネルの生産規模は国内最大手のシャープでさえ韓国や台湾勢に後れを取っている。体力のある松下といえどもプラズマと液晶の両方を抱え、巨額投資を進めるのはリスクも大きい。


日本経済新聞 2007/12/21

東芝、シャープと提携 液晶パネル、堺新工場から調達
 松下・日立連合を離脱

 東芝とシャープはテレビ用の液晶パネルで提携する。シャープが堺市に建設中の新工場から、東芝がパネルを調達してテレビに組み込む。東芝は松下電器産業、日立製作所の2社とパネル生産で提携しているが、これを解消して新たにシャープと組む。競争が激化するパネル市場は「東芝/シャープ/パイオニア」「松下/日立/キャノン」「ソニー/韓国サムスン電子」の3グループが競う構図に一気に塗り替わり、電機再編が一段と加速する。
 21日に両社の社長が記者会見して発表する。シャープは3800億円を投じて堺市で液晶パネルの新工揚を建設中で、2009年度に稼働させる計画。東芝は長期契約を結んでシャープから40-60型台の大型パネルを大量調達し、東芝ブランドのテレビに搭載して国内外で販売する。
 東芝は現在シャープのテレビ向けに画像処理用半導体を供給しており、同分野で協力を深めることも検討するとみられる。東芝は日立、松下との共同出資会社であるIPSアルファテクノロジ(千葉県茂原市)でテレビ用の液晶パネルを共同生産している。これまで主にIPSと韓国LGフィリッブスLCDからパネルを調達してきたが、新たにシャープの最新鋭工場から購入し、調達コストを下げる。当面は現在の調達体制を維持するが、09年度以降はIPSなどからの購入を縮小、シャープ製を主軸にしていく見込みだ。
 IPSの工場は「第六世代」と呼ばれ、32-37型パネルの生産には適しているが、今後市場拡大が予想きれる40型以上ではコスト競争力で劣る。シャープが建設する「第十世代」工場から調達すれば、テレビ事業の競争方強化につながると判断したもようだ。
 IPSには現在、日立が50%、松下が30%、東芝が15%出資している。東芝はシャープとの提携に伴い、日立ー松下連合から離脱する考えで、保有するIPS株を松下に売却する方向で検討に入った。投資のかさむパネル製造から手を引き、外部からの調達に切り替えていく。松下は株式取得などを通じ、日立に代わってIPSの経営権を握る方針だ。
 薄型パネル分野では松下、キャノン、日立の3社が包括提携に向け最終調整に入り、年内の合意を目指している。日立の全額出資パネル子会社、日立ディスプレイズに松下とキャノンが出資して、液晶パネルや、次世代パネルの有機ELを共同で開発・生産する方針だ。
 松下-日立聯合にキャノンが加わる代わりに東芝が離脱することで競争の構図は一変。液晶パネルを合弁生産しているソニー一サムスン電子を含めた3陣営が生き残り競争を展開していく。
 電機業界では製品価格が急落する中で、投資競争が激化。日本ビクターとケンウッドが経営統合で合意したほか、シャープとパイオニアが資本・業務提携するなど再編の動きが広がっている。日本の電機各社が主力分野と位置付けている薄型パネルで大型提携が相次ぐことで、今後再編が加速するのは必至だ。


2007/12/25 日立/キャノン/松下

液晶ディスプレイ事業における日立、キヤノン、松下の基本合意について

 株式会社日立製作所(以下、日立)、キヤノン株式会社(以下、キヤノン)、松下電器産業株式会社(以下、松下)は、本日、液晶ディスプレイの事業、技術のさらなる強化、発展を目的に、包括的な提携を行うことで基本合意しました。今回の合意により、視野角や色再現性をはじめ優れた性能を持ち、世界的に高く評価されているIPS 技術をはじめ、高度な液晶関連技術を持つ日立と、カメラ・プリンター・医療機器分野で強みを発揮するキヤノン、テレビ分野のグローバルリーダーである松下が緊密な連携による相乗効果で、最先端のディスプレイ技術の開発やその応用製品の拡大を加速していきます。
 また、今回、日立の100%子会社として中小型液晶パネル事業を行っている株式会社日立ディスプレイズ(取締役社長:井本義之/以下、日立ディスプレイズ)について、日立からの株式譲渡により、キヤノンと松下がそれぞれ株式の24.9%を、規制当局からの許認可の取得を条件に、2008年3月31日までに取得することを3社間で基本的に合意しました。これにより、日立の日立ディスプレイズへの出資比率は50.2%となります。今後は、3社で詳細の協議を進めてまいります。

 現在、液晶パネルは、携帯電話やテレビ、PCをはじめ、デジタルカメラ、ゲーム機、プリンター、車載端末など、多分野に用途が拡大しており、世界的に需要が高まっています。一方で、パネルメーカーにとっては、事業競争の激化により、高品質な液晶パネルを安定的に低価格で提供することが求められており、継続的な先端技術の開発と先行投資が必要となっています。

 こうした状況下、日立は、液晶パネル事業について、その技術をさらに進化させるべく、キヤノン、松下との事業提携を強化し、各社との協創によって最先端の液晶パネル技術の開発を促進することとしました。日立は、高画質・広視野角といったパネル特性が世界的に高く評価されているIPS 技術をはじめ、高度な液晶関連技術を保有しており、キヤノン、松下と連携することにより、先端的な技術開発を加速します。また、セットメーカーとして、最先端の液晶パネルを活用した世界最薄の液晶テレビの開発や超薄型液晶テレビ「Wooo UT シリーズ」をはじめ液晶テレビの競争力強化を図ります。さらに、日立グループとして安定的な高収益構造を確立するため、経営リソースの最適配分を図ることにより、経営方針に掲げる「協創と収益の経営」を推進していきます。

 キヤノンは、日立ディスプレイズへの資本参加によって、液晶パネルの安定的な調達の道筋を作ることにより、開発期間短縮や性能強化を含めた製品開発力を高め、デジタル一眼レフカメラをはじめ、高品質の中小型液晶パネルを使用する民生分野・事務機分野・医療分野等の各種製品事業を一層強化していきます。また、これまで続けてきた有機EL ディスプレイの開発を、高度なディスプレイ技術を保有する日立グループと共同で行うことにより、大きく加速させていきます。
 キヤノンでは、生活や産業のあらゆるシーンにおいて、入力から出力まで、また、静止画から動画まで、キヤノンの機器が高度に連携して、映像や情報を意のままに活用できる「クロスメディアイメージング」の実現を見据え、各種ディスプレイの開発をさらに推進していきます。

 松下は、主力とするPDP事業の一層の拡大・強化を図ってまいります。さらに、テレビ用大型IPS液晶パネルの設計・製造・販売会社である、日立ディスプレイズや松下、キヤノンなどが出資する株式会社IPSアルファテクノロジ(取締役社長:米内史明/以下、IPSアルファ)の事業運営への関与を深めると共に、日立グループと連携しながら松下が中核となってIPSアルファの次期工場の建設を進めることで、液晶パネルの安定調達を図ります。これにより、「IPSαパネル」の優れた性能とコスト力を活かし、PDPと併せて「VIErAシリーズ」として薄型テレビ全体の商品競争力を高めていきます。将来的にはIPSアルファの次期工場で有機ELディスプレイへの展開を視野にいれ、薄型テレビ事業における垂直統合型ビジネスをより積極的に推進していきます。

 松下は、薄型テレビ事業の開発力・生産力を一層強化して、ますます多様化するお客様のニーズにきめ細かくお応えし、世界の薄型テレビ市場を牽引していきます。

 さらに、次の段階として、3社は、今後、日立ディスプレイズについては、中小型液晶パネルユーザーとして多くのノウハウを持つキヤノンが過半数の株式を、IPSアルファについては、テレビ分野で世界トップクラスの松下が過半数の株式を、それぞれ取得することも含めた資本構成の変更を予定しています。

■IPS技術について
 IPS技術は、日立が1995年に発表し、1996年に実用化した横電界(In−Plane−Switching)方式のTFT液晶技術です。液晶分子が横電界によって、TFT基板に平行な面で回転するため、視野角や色再現性、中間調での応答速度などに優れた性能をもちます。IPS技術の内容は、次のホームページをご参照ください。
 
http://www.hitachi-displays.com/

■日立ディスプレイズの概要
1.会社名:株式会社日立ディスプレイズ
2.代表者:取締役社 長井本義之(いもとよしゆき)
3.設立:2002年10月1日
4.資本金:352億7,450万円
5.出資比率:[現在]日立製作所100%
         [2008年3月末(予定)]日立製作所50.2%、キヤノン24.9%、松下電器産業24.9%
6.所在地:東京都千代田区神田練塀町3番地
7.事業内容:中小型液晶パネル及び関連製品の設計、製造、販売、保守・サービス等

■IPSアルファテクノロジの概要
1.会社名:株式会社IPS アルファテクノロジ
2.代表者:取締役社長 米内史明(よないふみあき)
3.設立:2005年1月1日
4.資本金(資本準備金含み):1,000億円
5.出資比率:日立ディスプレイズ50%、松下電器産業30%、東芝15%、
         DBJ新産業創造投資事業組合2%、キヤノン2%、その他1%
6.所在地:千葉県茂原市早野3732 番地
7.事業内容:IPS液晶パネルの設計、製造、販売、保守・サービス等