化学工業日報 2003/2/16 

クミアイ化学、微生物農薬分野に進出

 クミアイ化学工業は、イネ種子伝染性病防除剤「エコホープ」(商品名、トリコデルマ・アトロビリデSKT−1水和剤)を開発、今月17日から販売開始する。糸状菌、細菌の両方に起因する病害に既存の化学合成農薬と同等以上の防除効果を発揮する微生物農薬(胞子製剤、生菌)で、使用後の廃液を含め環境負荷が小さいのが特徴。トータルコストも廃液処理も含め既存の化学農薬と同等という。同社が微生物農薬を扱うのは今回が初めて。3年後にはイネ種子消毒剤分野でシェア25%(30万ヘクタール)を狙う。


2003/02/05 クミアイ化学工業

クミアイ化学、環境保全型農業に配慮した微生物農薬「エコホープ」など発売
イネ種子伝染性病害防除剤「エコホープ」の販売開始
   環境保全型農業に配慮した微生物農薬を開発

 クミアイ化学工業株式会社(社長:望月信彦)は、環境保全型農業に配慮した微生物農薬「トリコデルマ・アトロビリデSKT−1水和剤(商品名:エコホープ)」の農薬登録を平成15年1月28日取得しました(農林水産省登録 第21009号)。平成15年2月中旬より本剤の販売を開始致します。また「エコホープ」の販売にあわせて、専用廃液処理剤「イレート」も販売致します。

 当社では安全で環境負荷の少ない農薬の開発を進めておりますが、その一つとして約10年ほど前から静岡県農業試験場と共同で微生物を用いた病害防除剤の開発を目指し研究を行って参りました。今回の「エコホープ」はイネの種子伝染性病害防除に的をしぼり、静岡県内の植物の根や土壌から分離しました微生物について探索を行い、その結果開発された商品です。

 「エコホープ」の有効成分であるトリコデルマ・アトロビリデSKT−1株は静岡県にあります安倍川河川敷のシバの根より分離された糸状菌(カビ)の一種です。この「トリコデルマ・アトロビリデ」は、自然界の土壌、植物残渣等に普遍的に存在する微生物の一種で、「エコホープ」はこのSKT−1株の胞子を水に懸濁した微生物農薬です。

 「エコホープ」は通常の化学農薬とは違って、本剤一剤でばか苗病などの糸状菌に起因する種子伝染性病害と、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病などの細菌に起因する種子伝染性病害の両方に化学農薬と同等の優れた防除活性を示します。

 「エコホープ」の安全性につきましては、有効成分であるSKT−1とその製剤について数々の試験が行われ、ラットを用いた経口急性毒性、気道内投与、静脈内投与等多くの試験では毒性、病原性、感染性などは認められておりません。また他の作物につきましては、コムギ、ホウレンソウ、トマトなど多種の作物を対象に検討を行った結果、感染性や病原性などは認められておりません。更に多くのイネ品種についても検討を行った結果、いずれの品種に対しても発芽阻害などの障害は認められていません。

 一方環境中でのSKT−1株は、土壌中では速やかに自然界に存在する菌量まで減衰し、水系では速やかに死滅します。また、魚類などの水棲生物、更には有用昆虫、土壌微生物に対する影響も殆ど認められていません。これらのことより、毒性面、環境面、他の農作物への影響など多面に渡る検討の結果、本菌株を用いた「エコホープ」は環境に対する影響が少ない農業資材と言うことができます。
「エコホープ」の開発にあたりましては、農林水産業・食品産業等先端産業開発技術研究事業の支援を得ております。

[廃液処理剤]
 「エコホープ」の商品化にあわせ処理廃液を安全に処理して頂くため、新しくエコホープ専用廃液処理剤「イレート」も同時に販売致します。「イレート」は処理液中に残存するSKT−1株を凝集沈殿させる能力を有しており、有効成分に天然物を使用しております。この「イレート」につきましては大日精化工業株式会社との共同開発品です。

[エコホープの病害防除機構]
 通常は直接的な薬剤による殺菌作用で病害防除効果を発現しますが、「エコホープ」は抗生物質等の生産による殺菌効果ではなく、エコホープの有効成分であるSKT−1株がイネ籾上で増殖し、病原菌との拮抗・増殖抑制等で防除活性を示します。すなわち、イネの催芽から出芽までの過程でSKT−1株がイネ種子表面上で大量に増殖し、病原菌と競合することにより病害の発病を抑制しているものと考えられています。従いましてこれまでの農薬とは作用が異なるため、耐性菌の発生もありません。また、各種薬剤耐性菌に対しても高い防除効果を示します。

[今後の展開]
 「エコホープ」の病害防除効果につきましては、ばか苗病のみならずイネの種子伝染性病害として重要ないもち病、ごま葉枯病及びイネ苗立枯病においても実用性が高いことを確認しています。本剤は新JAS法における有機農産物生産資材として使用可能であり、環境保全型農業に適用可能な農業資材のひとつとして、今後適用拡大を行って行く予定です。
 さらに当社では「エコホープ」に続き、バシルス属細菌を用いた園芸作物用微生物農薬の開発を進めており、今後も環境に優しい農業用資材の提供を目指してまいります。

補足説明

[イネ種子病害と防除剤]
 水稲の種子伝染性病害には、糸状菌によるばか苗病、いもち病、細菌によるもみ枯細菌病、苗立枯細菌病、褐条病などがあります。何れも出穂期から収穫期にかけて病原菌が感染し保菌籾となります。播種後育苗中に苗の徒長、腐敗、枯死などの被害が現れ、更に発病苗を本田に移植した場合、ばか苗病では枯死、稔実障害が現れ、もみ枯細菌病では出穂期に病原菌が籾まで到達し籾枯れ症状を現します。

 ばか苗病に対してはベノミル剤やイプコナゾール等のEBI剤が、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、褐条病などの細菌性病害に対しては水酸化第二銅、オキソリニック酸等が使用されており、通常は糸状菌用と細菌用の混合剤として使用されています。また本分野でも微生物農薬が開発されていますが、最も重要なばか苗病の防除効果が期待出来ないため化学農薬と併用して使用しているのが現状です。しかし「エコホープ」は糸状菌による病害と細菌による病害の両方に防除効果を示し、種子の病害防除に関しては補完的な化学農薬を必要としません。

[水稲種子消毒廃液処理]
 種子消毒は、種子に付着している病原菌や害虫を防除するために欠くことの出来ない作業ですが、この種子消毒廃液は環境対策のため、廃液は適切に処理する必要があります。通常は廃液処理装置を導入して処理したり、あるいは直接産業廃棄物業者に委託して処理を行っています。「エコホープ」の廃液はこれまでの廃液処理装置等の方法もそのまま使用することも出来ますが、今回販売致しますエコホープ専用廃液処理剤「イレート」は凝集剤として天然物を使用しており、これまでの方法に比べ安価に、短時間に、更に安全に処理することが可能です。