日本経済新聞 2002/1/29

ゲノム創薬 特許獲得へ競争し烈

 「ゲノム創薬」による医薬品の本格的な製品化は2010年前後との見方が多い。製薬各社が開発を急ぐのは「ここ1−2年の研究で後れをとれば有力な新薬を開発できなくなる」(竹中登一・山之内製薬社長)との危機感が強いからだ。
 ゲノム創薬では3万数千あるとされるヒトの遺伝子のなかから病気に関連する遺伝子を探索。その遺伝子からできるたんぱく質に作用する物質を突き止め、医薬品を効率的に作り出す。
 
 医薬品の開発にはいち早く遺伝子を見つけて特許権を抑える必要がある。このため製薬各社は「生物、物理、化学、情報工学などを総動員した開発競争を繰り広げている」(藤野政彦武田薬品工業会長)。山之内は2001年度からの5年間で500億円、三共は3年間で260億円をそれぞれゲノム研究に投じる計画だ。
 自前の研究だけでは限界があるため、他社との提携も相次いでいる。バイオと情報技術を融合したバイオインフォマティクス(生命情報工学)では山之内が日立製作所と提携。住友化学工業と山之内がそれぞれトランスジェニックと手を組んだのもその一例だ。
 
 すでに一部では研究成果が上がっている。武田薬品はがんの転移に関連する物質やぜんそくなどの呼吸器疾患の遺伝子を発見し、医薬品への応用を検討中。三共は高脂血症の関連遺伝子を見つけるなど、準備中を含め約80の遺伝子の特許を出願している。
 
 ただ、「発見した遺伝子が必ずしも大型新薬につながるわけではない」(平岡哲夫三共副社長)。多額の投資を続けるリスクも大きく、製品化の確率が各社の業績を左右する。


ゲノム創薬に関する取り組み

武田薬品工業 ・米セレーラ・ジェノミクスの遺伝データベース導入  
・ぜんそくに関連する遺伝子など発見
三共 ・ゲノム研究に3年間で260億円投資  
・米インサイト・ジェノミクスなどの遺伝データベース導入
 
・高脂血症に関連する遺伝子を発見
山之内製薬 ・ゲノム研究に5年間で500億円投資  
・米セレーラの遺伝データベース導入
 
・日立製作所とバイオインフォマティクスで包括契約
トランスジェニックと提携
エーザイ ・ゲノム研究に2年間で100億円投資  
・遺伝情報を使った臨床試験を来年度中に国内で開始
第一製薬 ・ゲノムの共同研究などに5年間で180億円投資
小野薬品工業 ・10個前後の遺伝子で病気との関係を特定  
・来年春に茨城県つくば市にゲノム創薬の研究所新設
日立 ・たんぱく質関連のデータベースを事業化
住友化学 トランスジェニックと提携

 


日本経済新聞 2002/1/29                      住化発表  山之内発表

住友化学と山之内製薬 マウス使いゲノム創薬
 バイオVBと組む 開発期間の短縮狙う

 住友化学工業と山之内製薬は28日、バイオベンチヤーのトランスジェニック(熊本市、井出剛社長)と提携し、遺伝情報を活用した医薬品開発に乗り出すと発表した。特殊なマウスを使った遺伝子の機能解析法をトランス社から導入、人体に有効な医薬品の開発期間を短縮する。製薬各社が「ゲノム(全遺伝情報)創薬」にしのぎを削るなか、大手企業が様々な手法を外部から導入する動きが加速してきた。
 トランス社は特定の遺伝子の働きを止めた「
ノックアウトマウス」と呼ばれる研究用マウスと、その遺伝子のデオキシリボ核酸(DNA)の構造を住友化学と山之内に提供。両社はマウスを育成した後、血糖値の上昇や免疫力の低下など疾病につながる異常がないかどうか分析し、機能を停止した遺伝子と疾病の関係を探る。  
 マウスは3万数千の遺伝子を持ち、その95%以上は人間と同じとされる。マウス遺伝子の機能が分かれば同じ機能を持つ人間の遺伝子も特定でき、その働きを抑えたり、促進したりする医薬品の開発が容易になる。山之内は疾患関連の遺伝子特定を1−3年短縮できるとみている。
 住友化学は子会社の住友製薬を通じて、循環器系やアレルギーなど免疫系、痴ほう症など精神・神経系や糖尿病の医薬品を開発。山之内は泌尿器系や精神・神経系、糖尿病に重点を置いており、ゲノム創薬でもこれらの領域を中心に個別に研究していく。
 トランス社との提携の期間は3年間。住友化学と山之内は契約金などを支払うほか、遺伝子の機能が解明できれば、それぞれトランスジェニックと共同で特許を出願する。
 トランスジェニックは熊本大学医学部の研究成栗を事業化するため発足した産学協同のベンチャー企業。政府系投資機関や東京海上火災保険、日本生命保険などが出資している。従業員数は48人。2001年3月期の売上高が3億5千万円。

  ノックアウトマウス

 病気などに関係する特定の遺伝子を人為的に欠落させたマウス。遺伝子の研究に広く活用されている。トランスジェニックはベクターという物質をマウスの遺伝子を構成するデオキシリボ核酸(DNA)の特定部分にはめ込み、その遺伝子を働かなくする技術を持つ。
 バイオベンチャーのジェンコム(東京都町田市)なども、効率的にノックアウトマウスを生産する方法を開発している。遺伝子を欠落させる「ノックアウト技術」は微生物の一種である線虫やイネなどでも利用されている。

 


日本経済新聞 2002/10/18

NECが腎臓病研究 生命情報工学を駆使
 遺伝子解析、原因探る 新潟大などと共同

 NECはバイオインフォマティクス(生命情報工学)を利用した腎臓病の診断・治療法の研究に着手した。バイオベンチャー企業や新潟大学と組み、病気の原因となる遺伝子やたんばく質を特定し、発症や進行の仕組みを解明して新薬開発につなげる。日立製作所なども製薬会社などと提携、情報各社による生命情報工学の事業化の動きが広がってきた。

 研究対象は重度の慢性腎不全に陥りやすい慢性糸球体腎炎のうち、日本人に多いIgA 腎症。新潟大で蓄積した臨床データと、ベンチヤー企業の
ジェー・ジー・エス(JGS、東京都八王子市)の遺伝子解析ノウハウを組み合わせることで、早期の研究開発を目指す。NECは新設のたんぱく質解析施設などを活用し、病気組織に現れるたんばく質の種類や量の計算などを担当する。
 ゲノム(全遺伝情報)解析やたんぱく質の種類、構造、機能の分析では多様なデータの素早い処理が必要。NECは米マサチューセッツ州にも担当者を置き、日本の共同研究で得たノウハウなどをもとに米製薬大手との提携も狙う。
 NECの生命情報工学への今年度の投資は前年度比約2億円多い14億円の見通し。新薬開発に必要な病気関連のたんぱく質解析の受託などを中心に、2005年ごろに同事業で150億円の売り上げを目指す。
 日立製作所もゲノムデ−タやたんぱく質解析を製薬会社など約40社から受託。生命情報工学を担当するライフサイエンス推進事業部の今年度の売上高は、前年度約2倍の50億円を見込む。
 富士通は病気と遺伝子の個人差に関するデータベースや新薬化合物の解析システムの構築を旭化成、東京都老人医療センター、明治製菓など約60社・機関から受託した。
 日本IBMも現在は10人の担当者を2004年に20人以上に増やす。

バイオインフォマティクス(生命情報工学)

 惰報技術(IT)を活用してバイオの実験結果を処理する研究領域。米セレーラ・ジェノミクスや日米欧政府の国際プロジェクトで、ヒトゲノム(人問の全遺伝情報)の解読作業をスーパーコンピューターを駆使して進めたことなどをきっかけに広がった。
 ゲノムデータが手軽に入手できるようになったことで、創薬や診断法開発に研究の焦点が移っている。米調査会社IDCによると世界市場規模は2002年に約150億ドル(約1兆9千億円)。2006年には約380億ドル(約4兆7千億円)に達し、日本を含む東南アジア市場は36億ドル(約4500億円)。NECは2005年の日本市場の規模を1千億円強と予測する。


情報企業などが力を入れる分野、顧客の例

NEC 遺伝子解析、たんぱく質立体構造予測 日本化薬、JGS、新潟大、東海大、京都大
富士通 遺伝子解析、デ一タベース構築 明治製菓、栄研化学、旭化成、東洋紡、東京都老人医療センター
日立製作所 遺伝子解析、たんぱく質間の相互作用解析 武田薬品工業、山之内製薬、小野薬品工業、味の素
日本IBM 遺伝子、化合物データ管理・検索ソフト開発 エ一ザイ、セレスター・レキシコ・サイエンシズ、ワールドフユージョン
日本オラクル 遺伝子、臨床デ一タなどの総合データベース構築 京都大