日本経済新聞 2002/11/7  

成長へのシナリオ  変化伴わぬ買収 無意味

 グラクソ・スミスクラインCEO ジヤンーピエール・ガーニエ氏
 
 ー 英GSK(グラクソ・スミスクライン)は組織が大きすぎ舵取りが難しくないか。
 「グラクソ・ウエルカムとスミスクライン・ビーチャムが合併してGSKになった当初はそうした指摘もあったが、2年近く経過し、社員は一つにまとまった。新薬候補物質も合併前は約十種類だったが、いまでは2倍近い。すべてを新薬として製品化できるかは分からないが、合併の結果、研究開発の効率は上がった」

 − 研究開発費は膨らむ一方だ。
 「年間研究開発費は約40億ドルだが、上限というものはなく株主の了解を得てもっと増やしたい。神経系、呼吸器系、循環器・泌尿器系など7分野を重視しており、センター・オブ・エクセレンスと呼ばれる組織で集中的に取り組んでいる」
 「ゲノム(全遺伝情報)のデータを応用すれば、候補物質のうち失敗に終わるものの確率も下がるだろう。錠剤を溶けやすくする技術を使い薬効成分の濃度を下げても効き目を発揮できるようにすれば、以前に製品化を断念した薬でも使える可能性がある。臨床試験の件数も予算は上積みせずに35%増やす。研究開発に失敗する企業は競争に勝てない。効率向上は最優先課題だ」

 − 日本の研究開発拠点をどう生かすか。
 「日本やアジア地域での研究開発投資は増やすつもりだ。日本には優秀な科学者が大勢おり、これを活用しない手はない。筑波研究所の人員を1割は増やしたい。インドでは化合物研究、中国でもゲノム関連の研究などを強化している」

 − 日本の医薬品市場ではシェアが低い。
 「米市場で9%、欧州で7%のシェアを持つのに比べ日本では2.5%しかない。しかし革新的な技術・製品、マネジメント、販売力のいずれもそろっており、シェアは上がるはずだ。日本企業と研究開発面での提携も増やしたい。製品の開発販売権を供与してくれる企業を探しており、常に交渉している。日本には面白い製品が多数ある」

 − 買収先として日本企業は魅力的か。
 「製品は欲しいが、GSKには研究開発や営業の人材が十分いるので、買収するつもりはない。日本の製薬企業の株価収益率(PER)は買収対象とするにはまだ高い。それに日本企業の経営は日本人に任せるべきだ。日本以外でも、大型買収しなくても必要なものはすべてそろっている。規模を追求するだけで企業の質的な変化を伴わない買収には意味がない」

 − 大衆薬や健康関連事業は続けるのか。
 「感冒薬コンタック、禁煙補助剤ニコレット、解熱鎮痛剤パナドールなどの大衆薬、健康関連商品は世界でナンバーワンの地位にある。入れ歯洗浄剤ポリデントなども順調に伸びている。医療用医薬品を(処方せんなしに薬局で売れるよう成分調整した)大衆薬に転用できる場合もある。これらの事業が日本で振るわないのは残念だが、大切な分野なのでやめるつもりはない」