2007/12/21 毎日新聞

薬害肝炎 和解交渉決裂 首相縛った官の論理
  一律救済「際限ない」 政権痛手 与党からも批判

 大阪高裁で進められていた薬害C型肝炎訴訟の和解協議は、国が政治決断を経て示した修正案を原告側が拒否する異例の展開を経て事実上決裂した。福田康夫首相は被害者に対する基金を増額することで決着を目指したが、「一律救済」には踏み込まず、被害者全員への国の責任を認めるよう求める原告との溝は埋まらなかった。今後、大阪高裁が再び和解提案を行うかが焦点。政府と原告の主張の隔たりは大きいだけに、収拾できなかった福田政権がこうむったダメージは大きい。

【大阪高裁の和解骨子案の要点】
国と製薬会社が和解金を支払う対象は、フィブリノゲン製剤投与で85年8月〜88年6月、第9因子製剤投与で84年1月以降に感染した被害者
和解金とは別に、和解成立までに提訴した約200人への活動支援金として8億円を支払う
国と製薬会社の負担割合は1対2
   
【国側が追加した和解修正案】
活動支援金を30億円に増額し、和解成立後の提訴者も対象とする

原告側1人あたりの和解金は、死亡患者と肝がん・肝硬変にまで症状が進行した患者については4400万円とした。該当する原告が唯一含まれていた7月の名古屋地裁判決が命じた賠償額通りとした。
慢性肝炎の原告側への2200万円と、無症状の感染者への1320万円は東京地裁判決の認定額。東京地裁の認定基準にあてはまる今後の提訴者にもこれらを適用するとしている。

 首相は20日夜、官邸で記者団に「原告のご意向とマッチしなかった。これで終わったとは思っていない」と述べ、今後も打開を目指す姿勢を強調した。しかし、ギリギリまで決着を目指したうえでの決裂は打撃だ。
 首相は19日夜、町村信孝官房長官、舛添要一厚生労働相、二橋正弘官房副長官と協議し、東京地裁判決の基準から外れた被害者を救済する基金を8億円から30億円に積み増す政府修正案にゴーサインを出した。これは、原告の数が現在の200人から、最大1000人まで増えると想定。東京地裁判決の認定外の原告が3割、300人いるとさらに計算し、1人あたり約1000万円を分配することを念頭に置いた案だ。舛添厚労相は20日、「事実上全員を救済する案」と強調した。
 しかし、この基金案は、あくまで認定外の被害者を血液製剤の「副作用」被害者と位置付けたもので、薬害被害者と認定したものではない。その意味では、原告側が求める「一律救済」と相いれないものだ。
 首相が最後まで「一律救済」に踏み込まなかったことについて、政府は大阪高裁の和解勧告の枠組みを超えることは不可能、と説明する。町村長官は20日、町村派の総会で「『内閣支持率のために(一律救済を)』という温かいアドバイスもいただいたが、支持率のために司法の判断はどうでもいいということにはならない」と説明した。ただ、実際には「被害者の一律救済を認めれぱ際限がなくなる」との厚労省の主張を前に身動きが取れなくなっていた。同省は仮に一律救済に踏み込めば対象は1万2000人に達し、1800億円が必要、との試算を明らかにしていた。政府、とりわけ厚労、法務省などには原告側が主張する一律救済論」に「情緒的」との不信感もあった。
 小泉政権時代、国がハンセン病訴訟の敗訴を受けて控訴断念に踏み切った時は、当時官房長官だった福田氏が主導したとされる。原告側にはこれを手本に首相が政治決断に踏み切ってほしいとの思いが強かった。首相自身もこれまで決着への意欲を強調してきただけに、与党には政府の対応への反発も出始めている。公明党の漆原良夫国対委員長は「これではどんどん政権のイメージが悪くなる。どうして原告に喜ばれるように解決しないのか」と強い不満を漏らした。

「線引き」許せぬ原告側

 一方、原告側にとって「被害者全員の一律救済」は、訴訟を起こした当初から譲れない一線だった。全国のウイルス性肝炎感染者約350万人のうち、血液製剤による薬害被害者は1万人以上といわれる。このうち投薬証明などがあり、被害を証明できるのはほんの一握りで、しかも、東京地裁判決では救済対象とする被害者の範囲が限定された。「自分たちだけ救われても意味はない」との思いがある。
 9月の仙台地裁判決で初めて国に敗訴し、原告側には「解決が遠のいた」とのムードが広がった。そうした状況で、今回、全員一律救済の和解決着を狙った最大の理由は、厚労省が放置していた418人の感染者リストの発見だ。原告団の思惑.通りに国への批判は強まり、解決の期待感は一気に高まった。
 ところが大阪高裁は所見で国に全面解決を強く促したエイズ訴訟の東京、大阪地裁とは異なり、通常の民事裁判のように双方の妥協点を探る方法を取った。国側は早々に、法的責任を認めた期間が最も短い東京地裁判決を基準としない限り和解に応じないと提示。弁護団は反発したが、高裁が協議内容の口外を禁じたため原告にも詳細を伝えられず、交渉では最後まで主導権を握れなかった。
 結局、原告側は「和解案にこだわらない政治決断」を世論に訴えるしか道はなくなった。20日の修正案に望みをつないだのは、東京地裁判決の認定から外れる85年以前の感染者ほど、病状が深刻なケースが多い事情がある。「感染時期による線引き」を認める余地はなかった。弁護団幹部は「あの和解案で窮地に追い込まれた。密室の協議に持ち込まれた時点で席を立つべきだった」と悔やんだ。

協議進展 なお困難 野党「政府の失点だ」

 原告側は21日、大阪高裁に対し、これ以上の和解協議に応じない意向を伝える。高裁が協議続行を求める可能性はあるが、東京地裁判決をべースにした和解骨子案を白紙に戻さない限り、進展は望めそうにない。既に福岡高裁にも原告側は和解協議を申し立て、同高裁も和解を勧告している。しかし、交渉の舞台だけを移す手法には弁護団内部にも根強い慎重論がある。
 一方、舛添厚労相は20日、記者団に「早期に解決する努力を続ける」と述べ、第二次和解提示など大阪高裁の次の動きを見守る考えを強調した。ただ政府としても、司法が「国に法的責任はない」と判断した患者まで基金で救済を図るという、行政の枠組みから外れた提案に踏み切ったのも事実。それを即座に拒否された以上、簡単には打つ手が見つからないのが現状だ。
 一方、野党は政府の失点として批判を強めている。民主党の小沢一郎代表は20日、大阪市での記者会見で「すべての人の責任を負担するのが当たり前だ」と述べ、「一律救済」を支持する考えを示した。救済を「拒否」する政府側との差を際だたせる狙いもうかがえる。


2007/12/23 日本経済新聞

薬害肝炎患者「一律救済」へ議員立法、首相が表明

 福田康夫首相は23日午前、首相官邸で記者団に対し「薬害肝炎患者を全員一律で救済する」と述べ、薬害肝炎患者を一律救済するための法案を議員立法で今の臨時国会に提出する方針を表明した。

 首相によると、薬害肝炎訴訟の原告団による和解拒否を受けて、21日に与党に検討を指示。22日に幹事長・政調会長との間で方針を確認したという。

 首相は「公明党の了解も取っている。早く立法作業を進めてほしい」と語り、与党による法案具体化に期待を表明。「民主党とも当然話し合わなければならない。法案作成に加わってもらってもいいのではないか」と述べ、法案の早期成立に向けて与野党政策協議を実施することにも前向きの考えを示した。

2008/1/9 日本経済新聞夕刊

薬害肝炎救済で議員立法 首相の決断支えた政官

 薬害C型肝炎問題は被害者の「全員一律救済」を目指す議員立法が週内に成立し、政治決着する見通しだ。和解交渉決裂に直面し、当初の慎重姿勢から転換した福田康夫首相。政権最大の危機を脱した決断の舞台裏は、立場を超えた政治家と官僚の連携が支えていた。

 原告団が被害者「線引き」の政府案を拒絶した翌日の昨年12月21日。与謝野馨前官房長官が首相に議員立法による解決を進言していた。
 与謝野氏「このまま放置すれば内閣も自民党も支持率が下がる一方だ」
 首相「そうだよな」
 この時までに自民党の大島理森国会対策委員長、中川秀直元幹事長、野田毅元自治相や公明党が次々と首相に政治決断を働きかけていた。なかなか動かなかった首相が与謝野案には敏感に反応した。理由は二つある。
 第一に与謝野氏は具体案を手にしていた。司法も行政も行き詰まった「国の責任」の壁を越え、人道的観点で全員一律救済を急ぐには、三権のうち残る立法府が乗り出すしかない、と議員立法の論理を説いた一枚紙。そして「特別救済立法」の骨子案そのものを手書きしたもう一枚だった。
 第二に骨子案を一人で起草した与謝野氏は法務省の知人に届け、内々の評価を求めていた。ファクスは一カ所だけ修正されて戻ってきた。「憲法違反にも当たらない」と自信を深めた与謝野氏は首相にこう決断を促した。「法務省の専門家にも相談してあります」
 二枚を熟読し手応えを感じた首相は応じた。「私もハンセン病の控訴断念の際は官房長官で、法務省と連携した」。首相が決断した瞬間だった。
 政府は首相官邸以下、法務省も厚生労働省も国の責任を狭くとらえた司法判断に縛られていた。そこへ与謝野氏が、官僚が表向き口に出しづらい本音と知恵を探り当ててきた。首相はかつての自分をダブらせていた。
 首相はその場で谷垣禎一政調会長官に電話で議員立法を指示した。「首相の朝令暮改」などの声を危ぶんだ官邸スタッフたちはいさめにかかった。「うるさい、黙ってろ」。首相はすさまじいけんまくで一喝したが、決断の公表は2日後の23日まで遅れた。

 曲折は続く。踏ん切った官邸からは一転、原告団要求の丸のみ論も流れ始めた。川崎二郎元厚労相ら与党チームと弁護団が大詰め協議に入っていた27日。終始、カヤの外だった厚労省を緊迫した空気が覆っていた。
 給付金などの支払いはどこまで広がるのか。薬害の「発生責任」まで問われれば、効能と副作用を併せ持つ医薬品の承認自体が立ち往生しかねない。ある幹部は「抵抗勢力」扱いを覚悟して与謝野氏に直訴に及んだ。
 「君らは行政として間違っていない。言うべきことを言えばいい。その先は政治がやることだ」
 与謝野氏は諭した。厚労省は法務省とともに議員立法を補佐する衆院法制局への意見表明に合流した。与党と原告団が法案骨子で最終合意したのは翌28日だった。


毎日新聞 2007/12/26

薬害肝炎 首相が謝罪 
 救済「投与証明で」

 薬害書C型肝炎訴訟の和解交渉決裂から5日後の25日、自民、公明両党が議員立法の早期成立を確認する一方、福田康夫首相と原告側との面会が実現した。国の責任をどう表現するかなど、詰めなければならない課題も残るが、決着に向けた歯車が大きく回った。

原告団「法案明記を」
 原告側の弁護団は、被害者一律救済の議員立法案が浮上した直後から、補償の手続きが司法から行政に移ることへの警戒を強めてきた。法案作りを担当する与党が被害の認定を司法に委ねる方針を決めたことで、一応の安心感が広がっている。
 全員一律救済について、弁護団はこれまで、既に提訴している約200人の和解成立後に追加提訴を重ねて全員が和解金を受け取る方法を想定していた。しかし、新たな法律ができると、裁判を起こさなくても、新法に基づく行政手続きで給付を受けることが可能になる。ハンセン病訴訟や中国残留孤児訴訟は、大筋この方法で決着が図られた。
 ただし、この方法だと、給付を受ける「有資格者」の認定を、裁判所以外の機関が行わねばならない。ハンセン病療養所の入所経験や、残留孤児であることの証明は比較的容易だが、薬害肝炎の場合は、感染原因の認定で新たな紛争が起きかねない。医師の投与証明だけでカルテのない原告や、血液製剤投与時に輸血も受けた原告に対しては、国は裁判で因果関係を争っている。
 もし被害の認定を行政機関が担い、これまでの国側の主張に沿うような厳しい審査をすれば、最大約1000人と推定される原告は、一部が切り捨てられる恐れがある。さらに認定を却下された被害者が処分取り消し訴訟を起こし、裁判所が別の判断をすれば、水俣病や原爆症のような「二重基準」が広がって泥沼化しかねない。このため原告側は「新法を給付の法的根拠として、あくまで裁判上の和解をすべきだ」と主張してきた。
 裁判上の和解による解決は、判決と同じ効力を持つ和解調書が作られることから、輸血などによる肝炎感染に問題が広がるのを懸念する法務省や厚生労働省の官僚には、依然低抗感もある。
 今後の提訴者に対し、投与事実や因果関係について国側が争う可能性もあり、原告側は引き続き「投与証明があれば救済」という明快な基準を、法律に盛り込むよう求める構えだ。

「長年の苦痛」盛り込みへ
 焦点の一つである「国の責任」を法案にどう盛り込むかについて、与党は薬害患者らに長年苦痛や苦労を与えたことに対する責任がある点を指摘する方向だ。政策の誤りを認め、被害者の一括救済を明記したハンセン病補償法などを念頭に置いているとみられる。
 薬害肝炎訴訟で、首相が表明した「一律救済」を実現する以上、国はすべての薬害患者に何らかの責任を認めることが前提となる。根拠なしに税の支出はできないからだ。
 ただ、原告の主張通りフィブリノゲンが使われた全期間に国の責任を認めるなら、過去には「問題なし」とされながら、新たな知見で問題が発覚した薬害にも責任を認めることになる。「全期間国に責任なし」との判決(仙台地裁)もあり、国の抵抗は強い。
 一方で、患者の線引きをすれば、同じ薬が原因なのに特定投与期間の患者を特別扱いすることになる矛盾が生じる。双方を満たす一律救済とするには、賠償色を薄めた「法的責任でない責任」を国が受け入れるしかないと与党は判断した。
 原告側は「薬害を発生させた責任」を追及しているが、その趣旨は「薬害を防げなかった責任」であり、国と原告が折り合う余地は十分ある。

意思決定ドタバタ
 首相裁定 立法化
 与党内から異論
 国の責任 法案に

 与党は何とか「落としどころ」に行き着いた。ただ、ここに至る経緯は意思決定の不安定ぶりを露呈するドタバタ劇にも映った。
 「原告と役所の主張を踏まえると、議員立法しかないのではないか」。与謝野馨前官房長官が21日、首相官邸に首相を訪ね、論点メモを示しながら裁定を促した。与謝野氏は法務省との太いパイプで知られる。「政府としての対応の限界」を感じる官僚の意向も働いていたとみられる。
 同じ日の官邸。与党国対委員長が町村信孝官房長官に対し、首相あての「大阪高裁の第2次和解骨子案の前に政治判断を」との文書を提出。和解決裂が政権のダメージとなりかねないとの危機感が背景にあった。、町村氏は「裁判所の判断をべースにするのが原点」と語るなど、霞が関寄りの発言を続けたが、首相は与謝野氏の訪問の後、自民党の谷垣禎一政調会長に、「議員立法の研究を」と指示した。
 党側のゴーサインを受け、首相は23日に議員立法提出を表明。これで決着するはずが、原告との窓口の与党肝炎対策プロジェクトチームから「民主党との調整がつくのか」との声が上がったため、谷垣氏と与謝野氏が24日に「道義的責任」を何らかの形で法案に盛り込む方向を確認した。公明党の漆原良夫国対委員長も独自に原告弁護団と接触。「細かくやりすぎると障害になりかねない」と柔軟な対応を要請した。司令塔不在の与党の迷走。「首相を支える官邸から知恵が出てこなかった」との指摘も出ている。
 一方、参院の与野党逆転の中、早期成立を図るには民主党の協力も欠かせない。展主党の鳩山由紀夫幹事長は25日夜、谷垣氏に「ちゃんとした法案なら賛成する」と伝えたが、26日以降も限られだ時間の中で与野党の駆け引きは続きそうだ。


2007年12月28日 asahi

グロブリンからも肝炎ウイルス 70年代製2本検出

 はしか治療などに使われた70年代の血液製剤「免疫グロブリン製剤」から、C型肝炎ウイルスが検出されたことが分かった。薬害C型肝炎訴訟では、フィブリノゲン製剤と血液凝固第9因子製剤を投与された人を対象に救済法案がつくられることが確実になったが、肝炎感染はさらに数種類の製剤で起きた恐れが出てきた。

 長井辰男・北里大学名誉教授(法科学)が、約30年前から冷蔵保管している旧ミドリ十字(現・田辺三菱製薬)の製剤を調べた。外部の検査機関でも再確認した。

 その結果、77年製造の「人免疫グロブリン」(ガンマグロブリン)製剤2本から、いずれもC型肝炎ウイルスが検出された。また、臨床試験用の76年製の製剤「プラスミン」から、B型肝炎ウイルスが出た。

 長井さんはすでに、70〜80年代製造の抗貧血薬「ハプトグロビン」と70年代の「コリンエステラーゼ」からもB型、C型ウイルスの検出を確認している。

 旧ミドリ十字は遅くとも75年にはグロブリン製剤を発売。適応は広く、当時の使用説明書では、はしかや重症感染症、小児の気管支ぜんそく、水痘、ポリオ、帯状疱疹の治療、輸血後黄疸の予防に使うと記載。

 また80年代半ばからは川崎病の子どもに対し、冠動脈瘤の予防に使用。A型肝炎治療などにも使われる。現在も同成分の製剤が複数販売され、今年度の供給量見通しは約3800キログラム。70年代半ばは1000キログラム、最も多かった80年代前半は約5000キログラム。

 C型肝炎ウイルスが見つかり、検査が導入されたのは89年以降。92年にはより精度の高い検査法となり、感染危険性はほとんどなくなった。

 グロブリン製剤などは、血液から「血球成分」(赤血球96%、白血球3%、血小板1%)を除いた「血漿成分」(血液の55%)にエタノールなどを加え、遠心分離などを繰り返し、徐々に成分を取りだしてつくる「血漿分画製剤」。
凝固第8因子、第9因子、フィブリノゲン、グロブリン、ハプトグロビン、アルプミンの順番で抽出され、製造工程を重ねるごとに肝炎ウイルスなどは死滅するとされてきた。

 田辺三菱製薬広報室は「当社の知る限り、グロブリンによる肝炎感染の事例は過去にない。当時最新の安全対策はとっているはず。現在、厚生労働省の指示ですべての血液製剤について調査中なので、詳しいコメントは控える」としている。


血漿分画製剤とは
 赤血球、白血球と血小板など血液の細胞成分は、血漿中を浮遊して、全身を流れています。血漿は、水分の中に塩類、たんぱく質、脂肪などが溶け込んでいる液体です。
 血漿中のたんぱく質(血漿の約90%が水で残りの約10%が固形成分ですが、そのうちの約70%がたんぱく質です)には、アルブミン、免疫グロブリン、凝固因子など、多くの種類があります。
 
凝固因子は12種類ありますが、そのうち第[因子、第\因子は血友病の患者さんには欠かすことのできないものです。
 アルブミンは肝臓でつくられ、血管内に水分や塩類を保持して、血液が流れるために必要な機能(浸透圧)を維持する重要な働きをします。また、ビタミンやホルモンなどを運ぶ働きもします。
 免疫グロブリンは白血球の一種であるBリンパ球でつくられ、細菌やウイルスなどの感染症から体を守るといった働きをしています。
 このように血漿中のたんぱく質には、人間が生きていくうえで欠かせない重要な働きがあります。この血漿の中にある、特定のたんぱく質を物理化学的に分離して取り出すことを分画といい、このようにしてつくられた医薬品を血漿分画製剤といいます。

個々の凝固因子には通常の自然科学の慣例(発見者が名を付ける)ではなく発見順のローマ数字が使われている。これは、次々に新しい因子が発見され、しかも後になってそれは同じ因子の別の形態だと言うことが判明したためである。後者の理由により、いくつかの欠番がある。但し、最初の4つはローマ数字による呼び方は余り使われない。

アメリカでは、「アメリカ食品医薬品局」(FDA)が、プール血漿(一定数の供血者の血漿を混合)由来のフィブリノゲン製剤が肝炎ウイルスに汚染される可能性が高いことと効果が疑わしいこと及びフィブリノゲン製剤の代わりとなる製剤として、濃縮凝固因子(クリオプレシピテート)が利用可能であることを理由に、1977年12月、フィブリノゲンと同成分の製剤の製造承認を取り消した。

当時米国で販売されていたフィブリノゲン製剤は、B型肝炎ウイルスについて不活化(BPL)処理がなされていなかったため、米国内で肝炎発生事例が多数報告されていたが、日本国内で販売されていた製剤では不活化処理がなされており、後の検証実験から、BPL処理がHCV(C型肝炎ウイルス)を不活化していたということが報告された。その後1985年に不活化処理方法が変更(HBsグロブリン付加)されたため、結果HBV(B型肝炎ウイルス)のみの不活化となり、非A非B肝炎(A型肝炎・B型肝炎以外の肝炎)発生報告例が増加した。

フィブリノゲンとは、止血に関与する血液凝固因子のうちの12種類の蛋白質のひとつであり、健康人の血漿100ml中に200mgから400mg含まれている。フィブリノゲン製剤とは、このフィブリノゲンをヒト血漿中から分離精製して製造される血液製剤の一種(血漿分画製剤)である。

★効能・効果(適応症)
1964年承認当時から1998年3月まで、フィブリノゲン製剤の効能・効果は、「低フィブリノゲン血症の治療」などとされ、先天性のみならず、「後天性低フィブリノゲン血症」なる病態に対しても適応があるとされた。そのため、同製剤は先天性低フィブリノゲン血症のほか、産科出血や重傷外傷、外科的治療などに伴う出血に対し、止血剤として幅広く投与されていた。
しかし、国による再評価手続により、1998年3月からは、フィブリノゲン製剤の効能・効果は、「先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向」に限定されている。


毎日新聞 2008/1/8

薬害肝炎 救済法案 週内成立へ 
 衆院提出 基本法案、継続に

 自民・公明両党は1日、薬害C型肝炎訴訟で被害者を全員一律救済するための「感染被害者救済給付金支給法案」を衆院に提出した。民主党など野党も被害者救済は緊急を要するとして賛成する方針。同法案は8日に衆院を通過し、早ければ9日の参院本会議で可決ざれる運びで、週内に成立する見通し。一方、薬害被害者に限らず B・C型肝炎患者への治療費助成を盛り込んだ与党の肝炎対策基本法案は、インターフェロン治療の自己負担額などで民主党案との溝が理まらず、次期国会に結論を先送りした。
 裁判での被害者救済はこれでめどがたち、今後は一般的な肝炎患者の救済がどこまで進むかが焦点となる。

薬害C型肝炎救済法案の骨子 2008/1/11補正
・政府は甚大な被害が生じ、被害拡大を防止できなかった責任を認める
・救済対象はフィブリノゲン製剤と第9因子製剤を投与され、感染した人と遺族
・投与の事実、因果関係の有無、症状は裁判所が認定
・症状に応じて1200万〜4000万円の給付金を支給
・請求期限は5年以内、10年以内に症状が進行すれば追加給付金を支給
・給付金支給のため、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に基金を設置

 救済法案は、薬害C型肝炎に対する政府の責任について、「甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止しえなかった責任を認める」と明記し、謝罪も盛り込んだ。救済対象は、フィブリノゲン製剤と第9因子製剤の投与を受けて感染した被害者で、投与の事実や感染との因果関係は、裁判所が認定する。被害者には、大阪高裁が示した和解骨子案に沿い肝硬変・肝がんを発症したか既に死亡した患者は4000万円▽慢性C型肝炎患者は200O万円▽未発症の感染者は1200万円ーーを支払う。給付金の請求期限は法案成立後5年以内。さらに10年以内に症状が進行すれば、差額を追加給付金として支払う。
 民主党は賛成する方針だが、@救済対象の将来的な拡大A申請期限を5年から10年に延長ーーなどを盛り込む修正もなお求めている。肝炎対策基本法案は、民主党の対案とともに継続審議となる。
 基本法案の先送りに伴い、同法案に盛り込む予定だった薬害肝炎の再発防止策は、今月中旬にも国と原告団が結ぶ和解の基本合意に盛り込まれる。政府・与党は、薬害肝炎が発生した経緯の究明を行う第三者機関の設置などを検討している。
 給付金受給に充てる費用を積み立てる「感染者救済基金」への拠出金についても基本合意に明記する。与党は企業負担分も含め200億円程度を見込んでいる。

2008/1/8 asahi

肝炎救済法案、衆院を通過

 薬害C型肝炎被害者を一律救済する特別措置法案が8日午後、衆院本会議で全会一致で可決された。同日午前の衆院厚生労働委員会の審議では、薬害訴訟の原告や肝炎患者団体代表らが参考人として意見を述べた。

 救済対象となる薬害C型肝炎訴訟全国原告団の山口美智子代表は「国の責任を認め、投与時期を問わず一律救済することは評価する」と述べたうえで、「肝炎患者が安心して治療を受けられる体制づくり、薬害の真相究明などが実現するまで監視する」と話した。

 一方、血友病など先天性疾患の患者の多くは、原告団と同じ血液製剤で肝炎に感染したが、「治療として有用だった」として法案の救済対象から外れた。そうした患者を代表し、京都ヘモフィリア友の会の佐野竜介会長は「同じように感染し、苦しんできた私たちにとって法案は受け入れがたい」と不満を表明した。

 また、集団予防接種でB型肝炎に感染し、最高裁で国に勝訴した訴訟の原告だった木村伸一さん(43)は「国からはいまだに原告への謝罪もない。薬害以外の肝炎患者全体を救済してほしい」と述べた。日本肝臓病患者団体協議会の高畠譲二事務局長も肝炎患者全体の支援策拡充を求め、「B型肝炎の治療薬も医療費助成の対象にしてほしい」と話した。

 こうした意見を踏まえ、委員会では「先天性傷病の感染者への必要な措置を早急に検討する」などとした付帯決議も採択された。

2008/1/11 薬害肝炎救済法が成立

1/11 参院本会議で採決され、全会一致で可決、成立した。
原告・弁護団と政府は15日、和解基本合意書を締結する。

同法に関し、野党は「救済から漏れる患者が残る」との懸念を抱いており、衆院厚生労働委員会では、救済対象を血友病患者らに拡大することの検討を盛り込んだ、5項目の委員会決議を全会一致で採決した。
参院厚労委でも同様の10項目の決議が採決された。

 

毎日新聞 2008/1/8

肝炎一般対策法制化先送り
 与野党案隔たり 次期国会で議論再燃必至

 薬害肝炎被害者の救済問題で与野党は7日、「感染被害者救済給付金支給法案」を9日にも成立させる方針で合意する一方、薬害に限らず、肝炎患者を広く救済する一般対策の法制化は、与党の「肝炎対策基本法案」、民主党の対案「特定肝炎対策緊急措置法案」とも継続審議とすることで折り合った。民主党が自らの独自案にこだわったうえ、08年度政府予算案にインターフェロン(IFN)治療を受ける患者への助成費が盛り込まれたために与党も「基本法案の早期成立は不要」したことが背景にある。両案の隔たりは大きく、次期通常国会での議論再燃は必至だ。
 IFNは月ごとの自己負担額が8万円程度と高額で、治療を要するB、C型肝炎を発症した患者は約60万人いるのに、IFN治療を受けている人は約5万人に過ぎない。政府・与党は自己負担額を1万〜5万円に抑える助成策を打ち出し、08年度予算案に129億円を計上した。その代わり基本法案では治療費助成の理念を記すだけにとどめ、具体的な助成額には触れなかった。
 これに対し、民主党の緊急措置法案は、自己負担を月O〜2万円にすると明記し、肝炎が悪化して起きる肝硬変、肝がんなどへの医療費助成も早急に検討する、としている。民主党の厚労委理事らは「肝硬変や肝がんが含まれない与党案では救済範囲が限定され、09年度の保証もない」と主張。被害者救済法案を民主党の緊急措置法案とセットで成立させるよう求めた。
 だが、同党の山岡賢次国対委員長らは、セットでの成立にこだわって被害者救済法案の成立がずれ込めば、「国民の批判が民主党に向き、与党の思うつぼ」と判断し、両法案を切り離す方針を取った。被害者救済法案を成立させる一方で一般対策は妥協せず、独自法案を掲げて「幅広い患者の救済」をアピールするのが狙いだ。
 与党も、主導した被害者救済法案さえ成立させれば、国民の理解を得られると踏んだ。自民党は7日、基本法案にも「国の責任において、一律救済のみちを開いた」との一文を加える修正案を了承したが、IFN治療への助成費が08年度予算案に計上されている以上、基本法案を現在、無理して成立させる必要はないというのが本音だ。与野党の利害が一致した。

毎日新聞 2008/1/8

薬害肝炎 企業訴訟は継続
 原告団 「3社、謝罪ない」

 薬害C型肝炎訴訟の原告・弁護団は7日、被害者救済法案の国会提出を受けて会見し、今月中旬にも国側と基本合意を結んで裁判上の和解を進める一方、製薬企業に対しては加害責任を認めた謝罪などがない限り、形式的に訴訟を続ける方針を明らかにした。
 救済法案は、被害者に対する1人1200万〜4000万円の給付金は国と製薬会社が拠出する基金から支払われ、拠出割合を国と製薬会社間で今後定めるとしている。原告側は、国側と和解さえすれば給付金の全額を受け取れるが、田辺三菱製薬など被告企業3社の謝罪などがないことから、責任の明確化が必要と判断した。謝罪のほか▽被害実態の調査▽第三者機関による真相究明▽被害者との定期協議の場の設置ーーを求めている。
 製薬会社は大阪高裁の和解協議の席には着いたものの、その後は対応を明らかにしていない。原告側の要求を拒んだり、給付金の負担割合を巡り国側と対立すると、解決が長引く可能性もある。
 法案の内容については「原告の要求が全面的に取り入れられた」と評価の声が相次いだ。ただし救済されるのは患者の一部に過ぎないことから、救済法を土台として今後も治療体制の拡充などを求めていくとしている。
 一方、血友病など先天性の病気で血液製剤が必要な患者らで作る23団体は同日、法案の対象が「後天性の傷病」に限定しているのは問題だとして、衆参両院に慎重な審議や国会決議を求める意見書を提出した。


2008年02月24日 asahi

B型肝炎訴訟、全国へ 500人超、国に賠償請求

 最高裁が国の責任を認めたB型肝炎訴訟の弁護団は23日、今年3月から全国各地で新たな集団訴訟を起こすことを決めた。現時点で札幌、福岡、広島、東京など11地裁への提訴を検討している。原告は500人を超える見込みだ。

 この日、札幌市で開かれた全国B型肝炎訴訟弁護団連絡会議で方針を確認した。

 国内のB型肝炎の患者・持続感染者は110万〜140万人と推定されている。同訴訟では、最高裁が06年6月、集団予防接種で注射器の使い回しを放置した国の責任を認める判決を出し、同市の患者ら原告5人の勝訴が確定した。

 しかし、B型肝炎患者全体への支援や救済が進まないことから、新たに提訴に踏み切ることになった。集団提訴はまず、3月28日に札幌地裁に起こす。原告は20人以上になるとみられ、1人当たり1500万〜6000万円の損害賠償を国に求める予定だ。

 原告は、母子感染や輸血による感染の可能性がなく、予防接種によってB型肝炎に感染したとみられる患者。損害賠償請求権が消滅する20年の除斥期間にこだわらず、広く訴訟に参加する患者の掘り起こしを進める。

 C型肝炎患者には、全国の集団訴訟を受けて今年1月、被害者救済法が成立した。国は新年度からインターフェロン治療への医療費助成を実施するが、B型肝炎患者の場合、インターフェロン治療だけではウイルスを抑え込めず、「いつ肝がんになるか」とおびえている患者も多い。

 札幌B型肝炎訴訟弁護団の奥泉尚洋弁護士は「B型肝炎の問題は、訴訟を起こした原告だけの問題ではないことを、新たな集団訴訟で国に突きつけていきたい」と話している。


2008/6/23 asahi.com

「薬害肝炎放置、和解案に明記を」 原告団、23日提示

 薬害C型肝炎集団訴訟の全国原告団は23日、被告企業のうち「田辺三菱製薬」(大阪市)に対して和解の基本合意書案を提示し、被害を放置した事実を明記するよう求める。22日に大阪市で開いた総会で合意書案の内容を最終決定した。原告弁護団メンバーは「法的責任が及ぶ範囲は限定しており、製薬側は受け入れやすいはずだ」と話している。

 これまでの協議では、被害を放置した「責任」をめぐって、交渉が難航。製薬側は薬害肝炎救済法に基づく給付金の負担割合が増すことを懸念しているとされる。

 原告側によると、今回まとめた基本合意書案は「責任と謝罪および再発防止」と「恒久対策」の2項目が大きな柱。

 最初の項目には、青森県で産婦の集団感染が発覚した87年以降も被害実態を調査せず、その間に多くの被害者のカルテが廃棄されたこと▽感染の疑いがある患者418人のリストを02年、厚生労働省に提出するなどしただけで対策をとらなかったこと――を明記。薬害を引き起こし、被害の拡大を防げなかった責任を認めて謝罪・反省し、再発防止に最大限の努力を尽くすという趣旨の文言が盛り込まれた。

 一連の集団訴訟では大阪高裁が昨年11月、原告と国・製薬会社に初の和解勧告をし、福田首相が国として和解に応じる方針を示した。今年1月、救済法が議員立法で成立し、原告と国が和解の基本合意書を締結。2月に大阪、福岡両高裁で原告と国が初めて和解し、焦点は製薬会社3社との和解交渉に移った。