日本経済新聞 2005/9/28-29

号砲 医薬再編

統合に賭ける突破口 新薬開発、世界に照準

 三共と第一製薬が28日、持ち株会社「第一三共」を設立し、国内2位グループの医薬品会社になる。10月1日には大日本製薬と住友製薬など準大手や中堅、医薬卸の間でも統合が相次ぐ。国内医薬市場が伸び悩む中、再編で突破口を探る動きが一気に加速する。
 三共と第一製薬は完全統合する2007年4月に先立ち、10月から三共の新高血圧治療薬「オルメテック」の共同販売を進める。両社の医薬情報担当者(MR)は計2500人規模になり、病院や診療所への訪問を拡大する。三共と取引が乏しかった卸にも第一製薬のルートを使い商品を販売。オルメテックは05年3月期に90億円だった国内売上高を09年度に千億円規模に引き上げる。
 だが、第一三共にとって最大の課題は海外で競争力の高い有力新薬を生むこと。第一三共の庄田隆社長も「世界で戦うには開発候補品がまだ不十分」と認める。世界市場の半分を占める北米で存在感を示せなければ成長は難しい。
 三共の海外売上高比率は37%、第一が21%。武田薬品工業などに比べて国内依存度が高い。10月からは両社で開発候補品の管理を一本化し、年間1500億円規模に増える研究開発費を、世界で通用するような新薬開発に振り向ける。

 4月に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生したアステラス製薬の狙いも世界で通用する医薬品の開発。まず泌尿器や移植分野から有力な候補品を選び、最優先プロジェクトに指定した。竹中登一社長は「世界10位に食い込む。早く有力製品を見せろ」と研究開発部門にゲキを飛ばす。

 国内再編の動きから一歩距離を置く武田も、開発候補品の拡充に迫られる事情は同じ。今年3月には糖尿病治療薬ベンチャーの米シリックス(カリフォルニア州)を、280億円を投じて有力候補品ごと買収。「パイプラインの拡充につながる提携ならどんどんやる」(長谷川閑史社長)
 第一三共の誕生で世界14−17位に国内大手3社がランク入りする。ただ米ファイザーや仏サノフィ・アベンティスなど海外大手との差は10年前に比べ大きく開き、国内大手3社の売上高を合計しても世界上位3社に対抗することは難しい。国内勢は「単純な規模拡大への合併・買収は考えていない」(武田の長谷川社長)が、成長戦略を打ち出せなければ世界競争から振り落とされかねない。

 国内医療用医薬品市場は年間約6兆円で、ここ10年ほぼ横ばい。新薬の承認審査のスぴードは遅く、医療費抑制策の影響で市場の大きな伸びは見込めない。海外事業拡大を狙う大手と違って、準大手や中堅、医薬品卸は国内体制の強化が焦眉の急だ。10月1日に誕生する大日本住友製薬はMR 1500人体制で大手と並ぶ規模の人員を確保。手薄だった地域の営業網強化で「全国をカバーできる体制になる」(宮武健次郎・大日本製薬社長)。

 医薬卸のメディセオホールディングスは「ドラッグストアの急成長など取引先の形態が急速に変化してきた」(熊倉貞武社長)と日用雑貨卸のパルタックと組み持ち株会社を設立する。

 医薬品に関しては「安定供給」との立場を重視してきた厚生労働省も業界を守ってはくれない。医薬品産業ビジョンでは「世界に通用する総合新薬会社2−3社と、得意分野に特化したり、安価な薬を造る会社に分かれる」との見方を示した。次の組み合わせを探る動きが水面下で加速する。

製薬関連企業の今秋の主な経営統合
新社名
(発足日)
経営統合の形態 連結売上高 特徴
第一三共
(9月28日)

三共と第一製薬が持ち株会社を設立

9,164

国内製薬会社の2位規模、
2007年4月に医薬事業を完全統合

大日本住友製薬
(10月1日)

大日本製薬と住友製薬が合併

3,162

国内5位の規 模、
医薬情報担当者(MR)人数でも上位

あすか製薬
(10月1日)

帝国臓器製薬とグレラン製薬(東京都羽村市)が合併

307

泌尿器や消化器、産婦人科の領域に強み

メディセオ・パルタック
ホールティングス
(10月1日)

医薬品卸最大手のメディセオホ一ルディングスが
日用雑貨卸2位のパルタックを完全子会社化

20,520

医療用医薬品から大衆薬、日用品まで
幅広く取り扱い、医薬品卸で初の2兆円企業に

(注)単位億円、連結売上高は統合前の2005年3月期の単純合計だが、パルタックのみ04年9月通期

踊り場の成長産業 難病治療薬 開発カギ

 「今年から2007年までは厳しい時期。困難に立ち向かう準備はできている」(米ファイザーのヘンリー・マッキンネル会長)。医薬の巨人、
ファイザーが逆風にもがいている。
 4月、米食品医薬品局(FDA)が主力薬「ベクストラ」に「まれに副作用がある」と指摘。ファイザーは年間売上高13億ドル(約1430億円)のベクストラの販売を中止。類似の働きを持つ同33億ドルの「セレブレックスLの販売も急減している。
 ファイザーの05年1−6月期の純利益は前年同期比28%減した。ワーナー・ランバートなど有力薬を持つ大手を相次いで統合し、04年までの5年間で最終利益は2.3倍に成長した勢いは衰え、工場の閉鎖や人員削減などリストラ計画を打ち出した。

 ファイザーだけではない。米
メルクは副作用問題で一時25億ドルを販売した消炎鎮痛剤の販売を中止。英グラクソスミスクラインは主力薬の特許切れで、04年の売上高が横ばい(為替調整べース)だった。

 欧米製薬大手の成長をけん引してきたのが、一つの薬で10億ドル以上売れる「ブロックバスター」と呼ばれる大型ヒット薬だ。1990年代半ばから高脂血症などの有力薬が相次ぎ登場。世界の医薬品市場は04年までの10年間で、ほぼ2倍に拡大した。欧米大手はブロックバスターの開発に巨額の研究開発費をつぎ込むとともに、他社の持つ薬を取り込もうと合併・買収を繰り返した。
 ところが、このブロックバスターが変調をきたしている。各国の規制当局の安全性に対する基準は厳しさを増し、薬剤費抑制の圧力も強まっている。新薬の発売ぺースは鈍り、研究開発費は膨れあがる。
 04年の米医薬品市場の成長率は8%と、8年続いた2ケタ成長がとぎれた。日本の大手が再編で攻め込む海外市場は、巨大製薬会社ですら伸び悩むほど厳しさを増している。

 「低い枝にある果実は採り尽くしてしまった」。アステラス製薬の青木初夫会長が指摘する。高血圧や高脂血症など市場が大きく、病気のメカニズムが比較的分かっている分野では、いい薬が相当出回ってきた。まだいい薬が開発されていないのは、がんや認知症(痴呆症)など、複数の遺伝子や環境要因が絡み合う難しい病気だ。患者数も多くない。未収穫の果実は数が多くても「高い枝」にあり、一つひとつが小さい。
 アステラスや第一三共などの誕生は、欧米大手の再編に比べれば「一周遅れ」で、これから研究開発費を増やし、自社ブロックバスター育成を巨指す。たとえぱ第一三共は三共の高血圧治療薬「オルメテック」を第一製薬との共同販促で売り上げを伸ばす考え。「今は米市場でもほとんどシェアがない状態。踊り場の欧米大手とは事情が違う」(第一三共の森田清会長)と勝負に出る。
 だが、こうした「高い枝」の果実を狙って成長するのは、米アムジェンなどバイオ医薬品企業だ。1980年に発足したアムジェンは、高価なたんぱく質医薬品に強みを持ち、今や武田薬品工業を抜き去る規模に成長した。
 国内勢が再編で大きくなったとはいえ、欧米大手の「小型版」で世界を勝ち抜けるほど市場は甘くない。「研究資源を得意領域に絞り、世界に通用する薬を出す」(エーザイの内藤晴夫社長)など、特徴ある製品で存在感を示せるかどうかが問われている。

世界大手の2004年の医薬品売上高
順位 メーカー名 売上高
(億ドル)
研究
開発費
(億ドル)

1

フアイザー(米)

461.3

76.8

2

サノフィ・アベンティス(仏)

346.8

54.0

3

グラクソスミスクライン(英)

330.3

54.7

4

メルク(米)

229.3

40.1

5

ジョンソン・エンド・ジョンソン(米)

221.2

36.4

6

ノバルティス(スイス)

215.4

42.1

7

アストラゼネカ(英)

208.6

38.0

8

ロシュ(スイス)

191.7

38.9

9

ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(米)

154.8

25.0

10

ワイス(米)

139.6

24.6

11

イーライ・リリー(米)

130.5

26.9

12

アボット・ラボラトリ一ズ(米)

115.8

17.0

13

アムジェン(米)

105.5

20.3

14

武田薬品工業

88.7

13.7

15

べ一リンガー・インゲルハイム(独)

84.3

16.4

16

アステラス製薬

81.1

12.4

17

第一三共

73.2

14.1

(注)デンドライトジャパン調べ。第一三共など統合会社は単純合計で計算。
   日本企業は05年3月期