日本経済新聞 2003/1/4

再生医療 近づく実用化 臨床試験が続々始動
 VB・テルモなど 皮膚や角膜・心筋・・・

 皮膚や角膜、心筋などを患者の細胞などから再生し、体の組織の修復や病気治療に使う再生医療で臨床試験が相次ぎ始まる。専門のバイオベンチャー企業のほか、テルモなど大手も計画しており、基礎研究から実用段階に近づく。再生組織の生産、販売、移植などの市場規模は10年後に1兆円近いとの予測もあり、参入企業はさらに増えそうだ。

 臨床試験は実用化のため薬事法に基づいて人間を対象に治療などに使う試験。企業は病院や大学の医師に依頼して実施。有効性・安全性が確認され国の承認が得られれば、一般の治療向けに製品を製造・販売できるようになる。
 バイオベンチャー企業のジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(JーTEC、愛知県蒲郡市)は今年中にも、再生皮膚の臨床試験を始める。患者の健康な皮膚から採取した細胞をもとに手のひら大の表皮を作り患部に移植する。
 ビーシーエス(東京・文京)も表皮とその下の真皮部分を合わせて再生した皮膚を使って今年始める計画だ。
 両社は既に厚生労働省に臨床試験計画を届け出た。J−TECは協力病院の倫理委員会の承認が得られ次第、都内と愛知県内で始める。試験が順調に進めば、人間の体から採取した細胞などをもとにした医療用具として再生皮膚の承認を取得する初のケースとなる見通し。
 角膜の再生も実用化間近。セルシード(東京・新宿)は大阪大学と組み、他人の細胞から再生した角膜上皮細胞を患者に移植し始めた。昨年12月に2例を実施。今年夏までに10−15例を実施し、臨床試験届け出の準備を進める。再生角膜を量産できる装置の開発も日立製作所などと共同で着手した。
 カルディオ(大阪市)などのベンチャー企業のほか、テルモ、オリンパス光学工業といった大手も心筋、血管、骨などの再生医療で臨床試験を計画。厚労省への届け出を経て今年以降、相次ぎ始める予定だ。
 政府は昨年決めたバイオテクノロジー戦略大綱で再生医療を重点分野にあげた。2010年にはバイオ関連市場が25兆円に達すると予測。うち8.4兆円がバイオを使った医薬、医療サービスによるとして再生医療をその中核に位置づけている。

各社の再生医療の臨床試験計画

企業 主な事業対象 開始時期 実用化めど
J−TEC 皮膚、軟骨 2003年(皮膚) 2004年
ビーシーエス 皮膚 2003年 2004年
メニコン 皮膚、角膜 2003年度(皮膚) 2004年
オリンパス光学工業 2003年 2006年
セルシード 角膜 2003年以降 2006年
テルモ 心筋、血管 2004年 2008年
日立メディコ 2005年度 2007年
カルディオ 心筋 2005年 ごろ 未定
ジービーエス研究所 神経 2007年ごろ 未定

日本経済新聞 2003/2/15

再生医療に参入加速
 テルモ 米社と組む、日立 グループ一体で

 病気やケガで傷んだ体を修復する再生医療ビジネスに有力企業が相次いで参入している。日立製作所は再生角膜など移植用材料の開発・製造・販売を一貫して手がける体制を目指し、グループ各社の横断組織を4月に発足する。オリンパス光学工業は骨、テルモは心臓組織再生の事業化をそれぞれ計画。従来、大学を中心に進んできた再生医療の普及や関連市場の拡大に弾みがつきそうだ。

 再生医療は患者の細胞などをもとに健康な組織を人為的に作り出して患部に移植・治療したりする最先端医療。
日立グループが新設する再生医療戦略会議(仮称)は日立製作所のほか日立化成工業、日立メディコ、日立ハイテクノロジーズなどが参加。研究開発や製造プラント建設などの事業をグループ内で調整しながら再生医療の有望分野を手がける。
 まず角膜移植が必要な患者向けに本人の目の細胞から角膜を再生する事業に乗り出す。東京女子医科大学などが開発した技術をもとに専用施設で移植用材料を生産する体制を2年以内に整える。
 角膜に続き日立メディコが研究中の歯の再生などの事業化を計画。医療用材料の生産・供給のほか培養設備や検査技術の外販などを手がけ、再生医療の専門病院の経営も検討する。再生医療の本格的な普及時期とされる2010年に数百億円の売り上げを目指す。
 オリンバス光学工業は3月末にも神戸市の先端医療センターで骨の再生医療の実用化研究に乗り出す。骨折の治療剤などで培った技術を活用する。2006年末に骨に育つ培養細胞の発売、2021年度に100億円の売り上げをめざす。
 テルモは米再生医療ベンチャーのダイアクリン(マサチューセッツ州)と組んで心筋の再生医療技術の共同開発を始めた。2004年に大阪大学医学部付属病院などで臨床試験を開始し、承認を取得後、2008年に医療機関向けに細胞の供給事業を始める。事業開始から5年後に年間売上高100億円を目標にする。
 コンタクトレンズ大手のメニコン(名古屋市)は再生皮膚をやけど患者などに使う臨床試験を2003年度に開始する。2004年度には量産にも着手する。2010年度をめどに年間30億ー50億円の売り上げをめざす。

再生医療への各社の取り組み(研究段階を含む)

企業・グループ 再生を目指す主な組織
日立グループ 角膜、歯
オリンパス光学工業
テルモ 心筋
メニコン 皮膚
武田薬品工業
田辺製薬 血管
第一製薬 血管
J−TEC 皮膚、軟骨

 


日本工業新聞 2003/12/17 

ウシの骨使い再生医療、道工試などが新材料
   
http://www.jij.co.jp/news/bio/art-20031216212630-NPWAMTPZPC.nwc

 ウシの骨からつくった複合材料を使い、2カ月でほ乳動物の骨を再生できることを、北海道立工業試験場と北海道医療大学歯学部の村田勝講師らの研究グループが明らかにした。先天的な障害や複雑骨折などで骨のまったくない部分での骨形成や再生治療に役立つ。1000度C以上の高温で焼くため動物の感染症などが移る心配もない。研究グループはラットで効果を確かめており、将来は人間の治療で威力を発揮できるとみている。

 骨のまったくない部分に人工物の土台を埋め込む再生医療では、天然に近い水酸アパタイト(HAp)などの材料が使われてきた。しかし強靱(きょうじん)な骨を作るには埋め込んだHApが、自然の骨と最終的に完全に置き換わることが望ましい。市販品のHApは、骨をつくるタンパク質を吸収しにくく、骨周辺に細胞が定着しにくいため、完全な置き換えは困難だった。

 道工試は、畜産業で大量に発生するウシの骨で、スポンジ状部分の孔の大きさや空間の割合、微量に含まれる金属イオンの組成などが人工骨に適していることに着目。スポンジ状部分と骨がち密に詰まった部分を焼いた後に硝酸で溶かし、スポンジの孔の周囲にさらに微細な孔を作り、溶かした骨の成分を微細な結晶として析出させると、生体とのなじみが非常に良くなることを発見した。

 人工骨の表面に直径100〜600マイクロ(1マイクロは100万分の1)メートルの孔があり、その孔のなかにも直径1マイクロ以下の微細な孔がある。その表面に骨形成タンパク質と数ナノ(1ナノは10億分の1)メートルから10ナノメートルのHAp粒子ができる。これが生体となじむという。

 村田講師らが行ったラットに埋め込んだ実験では、人工骨表面に「多核巨細胞」という異物を処理する細胞が表面のナノ粒子を食べ、骨をつくる「骨芽細胞」がその部分に自然の骨をつくるサイクルができあがり、しかも2カ月程度で骨が置き換わった。

 従来の材料は、半年から1年以上かかっているが、新素材は生体への定着が非常に早く、短期間の治療が実現するとみている。道工試はすでに特許を出願した。