朝日新聞 1979/9/16

スモン和解の確認書調印 
 全患者に月3万円 健康管理手当を新設 各裁判所で手続き

 スモン訴訟の金面和解をめさして、中央交渉による統一な和解書づくりを続けてきた判決派の患者団体「スモンの会全国連絡協議会」(略称ス全協=相馬公平議長、約4千人)と国(厚生省)、田辺製薬、日本チバガイギー、武田薬品工業の交渉は、和解調書のモデルとなる「確認書」の表現をめぐって大詰めまで難航したが、15日未明になって晟終合意にこぎつけ、同日午前4時50分、厚生省講堂にスモン患者代表200人のほか、橋本厚相、製薬3社役員が出席して、調印式が行われた。
 キノホルムとスモンの因果関係、国、製薬会社の責任、金銭賠償などの各項目は、東京地裁の「可部方式和解」を下敷きにしつつ、この2年間に行われた9つのスモン裁判の結果も反映した内容となっており、とくに、全患者に対し終身支払われる、健康管理手当などが「可部部方式」の実質的な上積みとなっている。この調印により、現在、全国27地裁、6高裁で争われているスモン訴訟(原告の合計5175人)は今月中ともみられる高知地裁の和解調印などを皮切りに、各裁判所でこの確認書に基づいた和解手続が次々と行われる見通しで、スモン訴訟は46年5月の初提訴以来8年ぶりに、全面和解へ向かうことになった。大詰めで交渉が難航したのは田辺製薬が確認書の表現などをめぐり、強硬な姿勢をギりギリまで崩さなかったためである。

可部方式和解
東京地裁民事34部の可部垣雄裁判長(当時)が示し、52年10月29日に、原告団の第1、第2グループ中の35人と、国、日本チパガイギー、武田薬品工業の間で調印された和解方式。
和解内容の骨子は、国、製薬会社は
@スモンとキノホルムの因果関係を認める
Aスモン問顧を解決する責任があることを認める
B患番、家族に陳謝する、の3点(いわゆる「可部3条件」)で、この前提条件のもとに、
重症者に2500万円、中症者に1700万円、軽症者に1000万円の一時金(ただし、発病時の年令による加算、一家の支柱加算、主婦加算、超重症加算がある)を支払う。
また、
介護費用として、超々重症者には月額10万円、超重症者には同6万円(いすれも物価スライド方式)を継続的に支私う、となっている。

 調印された確認書の内容は、キノホルム剤の発売と、ス毛ン患者の多発、スモン訴訟の経緯、和解をめさす直接交渉の歩みなどを記したうえ、国、製薬3社について@キノホルムとスモンの因果関係A責任B患者への謝罪C薬害防止、などの時項を示している。
 また、金銭賠償面では@可部方式に従って算定される一時金(重症2500万円などが基準の額)A超々重症者、超重症者に対する介護費(それぞれ月額10、6万円)のほか、
可部方式にはなかった患者全員に対する健康管理手当(月額3万円、物価スライド付き)、遺族弔慰金(死者一人当たり100万円)が新しく加えられた。
 金銭賠償のうち、健康管理手当などは、すでに和解を終えている原告たちに対しても、恒久対策時項の一つとして適用されることになる。支払い開始時期や、支払い方法をどうするか、など細部に詰めの問題を残し(おり、この点については、既和解の原告(15日現在で1581人)たちも含めて、別途協議することになっている。
 また、すでに判決を受けている原告への一時金の支払いは各地裁判決によるのか、可部方式によるのかについては「個別に処理する」とされ、個々の裁判所における和解手続きの場での解決にゆだねられた。
 .「確認書」の調印で、スモン訴訟を継続してきた原告の大半は、それぞれ和解手続きを進めることになるが、一部原告がなお、法的な決着を求めて争う可能性は残されている。これらのほか、確認書の内答とはなっていないが、@投薬証明書のない患者についても、公平な取り扱いをし、各被告間での合理的な賠償負担のルールを作るA訴訟を超こしていない患者の救済については、当面は訴訟ー和解という手順を踏んでもらうB治療研究、恒久対策などについて今後ス全協と協議する、の各点について、橋本厚相がス全協側に約束した。
 15日末明の調印式という事態になったのは、武田、チバ両社は14日夜の早い段階で「大筋合意」の線を打ち出したのに対し、田辺製薬が確認書の表現についてギリギリまで強硬な姿勢を崩さなかったことだった。
 田辺製薬側は@スモンとキノホルムの因果関係について「和解による全面解決を前提に認める」とするA調印について「国の指示による」と明記する、などの主張をし、このうち@についてはス全協側が「絶対に認められない」としたものの、Aについては、田辺側の主張が通り、確認書の前文は、田辺の調印について「国の指示により、右に同調する」の一項が加えられ、ようやく調印となった。

田辺の負担額400億円突破
 今回の確認書調印で、世界最大の薬害といわれるスモン被害は、金銭賠償面に関する限り、最終的な「構図」が描かれたことになった。
 一時金については、可部和解の基準をもとにし、加算要素や弁護士費用を加えると、患者一人当たりへの平均支払い額は、ざっと2千400万円と見積もられ、一時金の賠償総額はそのざっと5千人分、1200億円となる。
 このうち、国の負担は3分の1で、400億円、製薬3社の負担を大ざっぱに分ければ、チバ・武田関係の負担が半分強、田辺負担が半分弱で、チバ・武田が合わせて400億円強、田辺が400億円弱を支払うことになる。
 このほか、チパ・武田と田辺は、超々重症者、超重症者に対し月額それぞれ10万円、6万円の介護料を、また、全患者に対し3万円の健康管理手当をそれぞれ終身まで払い続けなければならない。これらはいずれも物価にスライドするようになっている。他に遺族一時金などの支払いもあり、1社としては最大の負担を負うことになる田辺の場合これらを加えると、負担総額は軽く400億円を突破するとみられる。

ス毛ン和解「確認書」のポイント

  直接交渉による今回の確認書 東京地裁の「可部和解」の調書・確認書
スモンとキノホルムの因果関係 国は9つの判決を厳粛に受け止め、判決を含む一連の経過を前提として、スモン調査研究協議会の研究成果に従って、キノホルムとスモンの因果関係を認める。
被告会社は9つの判決を厳粛に受け止め、判決を含む一連の経過を前提として、わが国で悲惨なスモンが多発したこと、キノホルムとスモンの因果関係を認める。
国は、スモン調査研究協議会の研究成果に従って、キノホルムがわが国において多発したスモンと因果関係のあることを認める。
被告会社は、キノホルムがわが国において多発したスモンと因果関係のあることを認める。
国、製薬3社の責任 国は9つの判決を厳粛に受け止め、判決を含む一連の経過を前提として、スモン問題についての責任を認める。
会社は9つの判決を厳粛に受け止め、判決を含む一連の経過を前提として、スモンについての責任を認める。
国は、スモンによってひき起こされた諸問題を被告製薬会社とともに解決すぺき責任があることを認める。
会社は、スモンによって起こされた諸問題の解決を達成する責任があることを認める。
謝罪 国は、空前のスモン禍が発生するにいたったこと、その対応について迅速を欠いたことに遺憾の意を表明する。
会社は、スモンによって引き起され、多年の争いによって本和解まで継続、深刻化した筆舌に尽くしがたい悲惨な被害について衷心より遺憾の意を表明するとともに深く陳謝する。
国は、空前のスモン禍が発生するに至ったことを薬務行政の立場から深く反省する。
会社は、スモンによって起された深刻かつ悲惨な被害に対し、原告患者およぴその家族に心から陳謝する。
薬害防止への決意 国は、藥害防止のため、新薬の安全確認、副作用情報の収集、副作用の恐れのある医薬品の許可取り消しなど薬害防止手段を徹底し、行政上最善の努力を確約する。
会社は薬品の大量販売の風潮が薬害発生の基盤となることを反省し、薬害を発生させないための最高最善の努力を払う決意を国民全体に表明する。
国は、国民の健康を維持増進すぺき使命を再認識して、今後の藥害を防止するために行政上最善の努力を重ねることを確約する。
会社は、被告らの拡張宣伝が大量販売、大量消費の風潮を助長したことを反省し、(中略) 製造販売に万全を期し、…薬害防止に全カを尽くすことを確約する。
賠償金など (右の)一時金、介護費のほか
◆健康管理手当月額3万円(物価スライド付き〕。開始時期、支払い方法については別途協議する。
◆死亡患者の遺族弔慰金、一人当たり100万円を支払う。
◆一時金 重症2500万円、中症1700万円、軽症1000万円が基準で、発病時の年齢、超重症者、一家の支柱、主婦について加算がある。
◆介護費 超々重症者(失明者であると同時に歩行不能者)月額10万円、超重症者6万円(いずれも物価スライド付き)