東京新聞 2006/2/25

タミフル化学合成成功  東大教授ら

 インフルエンザの抗ウイルス薬で、新型発生時の切り札として各国が備蓄を進めるタミフルの成分を、植物原料を用いずに石油から化学合成する方法を東京大の柴崎正勝教授(薬品合成化学)らの研究グループが、25日までに開発した。

 現在タミフルは、トウシキミという木の実で中華料理に使われる「八角」の成分「
シキミ酸」を原料に、10回の化学反応を経て生産されているが、柴崎教授らの方法ではシキミ酸を経由せずに作れるという。

 植物原料は気候によって収穫量が左右されやすいため、大量備蓄が必要なタミフルの化学合成による生産が可能になれば、安定供給につながる成果として期待される。

 柴崎教授らはベンゼンに似た構造を持つ「
1,4-シクロヘキサジエン」と呼ばれる石油化学製品を原料に「不斉触媒」と呼ばれる特殊な触媒を用いて合成に成功した。

 今回の製造法は既に東大から特許出願された。柴崎教授は「今後は(タミフル製造元の製薬大手)ロシュ社と話し合い、実用化に向けて共同研究ができれば」と話している。シキミ酸を大量製造する方法としては、バイオ技術で大腸菌の中の糖から作る方法も研究されている。

 不斉触媒は、2001年にノーベル化学賞を受賞した
野依良治理化学研究所理事長の研究でも知られている。


2006年01月06日 東大

「柴崎東大教授 世界第1位 不斉触媒分野引用回数」
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_180105_j.html

 研究者の業績評価、大学の研究評価、国別の研究評価等で世界的に知られるISI Essential Science Indicators, Thomson Scientific(トムソンISI社、米国、フィラデルフィア)が左手分子と右手分子を作り分ける不斉触媒研究に関する論文の引用回数を3日発表した。
 この分野では野依良治理研理事長等が分子に水素を付加する還元触媒等でノーベル化学賞を受賞しているが、化学反応の根源である炭素-炭素結合反応でさらなる飛躍的発展が成されている。
 このため、トムソンISI社がトピックスとして選択したものと思われる。

 引用回数は1995年1月1日から2005年8月31日に発表された論文について調べられた。
 その結果、東大薬学系研究科の柴崎正勝教授らの論文110本が総引用回数3,985回で世界第1位となった。第1位の理由としては柴崎教授らが1990年頃より提唱している多点認識型不斉触媒の独創性が世界的に注目されているためと思われる。
 なお、柴崎触媒はこれまで以上に今後創薬研究等に多大な影響を与える事が予想されている。

 機関別ランキングでも東大は第1位、国別ランキングでは日本は第2位となった。日本発の科学が世界を完全にリードしている確固たる証拠であり、科学創造立国を目指す日本にとっても朗報である。

 


タミフル増産の問題点 http://www.botanical.jp/librarys/archives/200512/05-0118/

 ロシュ社は世界的な需要の急増に対応するために、生産拠点を拡大すると共にライセンス供与先を広く募集しています。80社以上の申し込みがあるそうですが、適格な製薬会社は10社ほどだそうです。ロシュ社によれば技術指導によって生産を予定している各社も、満足すべき製品を生産するには2年はかかるそうです。天然資源確保の問題と生産工程が難しいことが原因です。タミフルはウィルスに犯された細胞の増殖を制御する医薬品として新しいコンセプトを持ちますが、より大きな特徴は、経口で服用されたものが、標的にたどり着くための技術です。これは分子工学、細胞工学に先んじているギリアード社(Gilead Sciences)の得意とする分野です。リレンザとの大きな相違がこの点です。
 また生産過程には化学的合成の難しいシキミ酸を使用しています。
シキミ酸は数多くの天然の植物に含まれるポリフェノールですが、抽出量の確保が難しいことでも知られます。
 特に製造元のロシュ社は、シキミ酸確保を中国の南西部に隣接している
広西チワン族自治区(Guanxi)、貴州省(Guizhou)、雲南省(Yunnan)、四川省(sichuan) で生育するトウシキミ(スター・アニス、ダイウイキョウ)に限定しています。
 ライセンシーの生産では天然資源の限界から、上記
4省以外のトウシキミや、それ以外の植物のシキミ酸を使用することが検討されていますが、ポリフェノールの微妙な相違もあり、同等の製品が出来るかは疑問です。

シキミ酸(Shikimic acid)
 1885
年、ヨハン・エイクマン(Johann Frederik Eijkmann)によってシキミ(Illicium anisatum)の果実からシキミ酸が発見されました。 シキミは猛毒を持つ植物として知られています。
 エイクマンは日本政府により長崎に派遣され、日本の薬学発展に大きな貢献をしたオランダ人です。エイクマンは長崎駐在の後、東京大学医学部に所属していたときに日本産有毒植物の研究をしていたといわれます。エイクマンに発見されたことにより、この物質は日本名が付けられ、シキミ酸の名が世界に広まりました。
 シキミ酸は、芳香族アミノ酸の前駆物質であり、タンニンの主要成分である没食子酸の前駆体ともなります。
 またシキミ酸は植物の
2次代謝経路の一つである芳香族化合物合成経路(シキミ酸経路)の重要な中間体であることでも有名です。

シキミ酸  shikimic acid