2003/8/31 朝日新聞          経緯    WTO発表

安いエイズ治療コピー薬、輸入承認で決着 WTO

 世界貿易機関(WTO)の決定機関である一般理事会は30日、途上国にエイズ治療薬などの安いコピー薬の輸入を認める制度づくりで合意した。29日未明、一部の国から異論が出て、正式合意が持ち越されていた。

 9月にメキシコで開かれる全体閣僚会議までに決着させたいWTOは、スパチャイ事務局長が「人道上からも、WTOの信頼性を保つためにも合意が必要」と加盟国を説得し、採択にこぎつけた。受益者となるアフリカ諸国も交渉をまとめるよう訴えた。

 制度は、特許権の保護をうたった
貿易関連知的財産権(TRIPS)協定の例外となるもので、エイズ、マラリア、結核などの感染症治療薬が中心となる。感染症以外でも、途上国が公衆衛生上、必要とする薬については特許料免除のコピー薬供給に道が開かれた。

 エイズ治療薬の場合、正規価格の1割程度で同じ内容のコピー薬を輸入できるとみられており、成人のエイズウイルス(HIV)感染率が最高で4割近くに達する南部アフリカ諸国などは、大きな恩恵を受ける。

 また、05年までに途上国で300万人のHIV感染者が投薬治療を受ける体制をつくる、との世界保健機関(WHO)の計画実施にも弾みがつくことになりそうだ。

 途上国はすでにエイズ治療薬などの
コピー薬を自国内で製造することが認められており、今回の合意は、コピー薬の製造能力がないアフリカなどの後発開発途上国(LDC)が主要対象となる。メキシコやシンガポールなど開発度の高い途上国11カ国は、緊急事態の場合に限り、制度を利用することを宣言した。先進国は対象外。

 


読売新聞 2002年8月29日

エイズ治療コピー薬  途上国:必要不可欠 VS 先進国:特許で慎重

【ヨハネスブルク 28日=大内佐紀】 当地で開会中の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(環境開発サミット)」では、貧しい国でのエイズ対策が改めて大きな焦点となっている。中でも、発展途上国でエイズなど感染症の治療薬をいかに安く購入できるようにするかをめぐる先進国と発展途上国のアプローチには、以前、隔たりがある。

 26日の開幕直後の公開討論会のテーマに選ばれたのは「健康」。発展途上国側からは、「エイズなど感染症の治療薬が高すぎる」(セネガル代表)などと、治療薬を安価に入手できるよう訴える声が上がった。

 エイズの治療薬には、新薬の製法を模倣した、いわゆる"コピー薬"がある。正式な特許を持つ治療薬は、1年分が1万-1万5千ドルするのに対し、インドで作られる"コピー薬"ならば1年分が数百ドルで買える。

 "コピー薬"の扱いについては昨年、目立った動きがあった。薬の特許を国際的に保護する世界貿易機関(WTO)の協定は、新薬には20年間の特許を認めている。しかし、発展途上国や民間活動団体(NGO)の声におされる形で、WTO加盟国は昨年11月のドーハ閣僚会議で、
最貧国については、医薬品の特許を2016年まで除外することで合意した。これにより、アフリカ諸国の大半は、"コピー薬"をWTO協定に違反しない形で製造できるお墨付きを得た。

 ただ、最貧国には、"コピー薬"を製造する技術力はない。このため、ザンビアなどは、国際的な基金からお金を得て"コピー薬"を大量に輸入し、国民に無料配布することも検討している。

 一方、先進国側は、"コピー薬"を巡る現状に対しては、最貧国に配慮し事実上黙認する一方、ドーハでの合意を超えた形で、治療薬がこれ以上出回るシステムを容認することには慎重だ。

 とくに米国やスイスなど、製薬業界の影響力が強い諸国は、「特許権がこれ以上、弱まったり、"コピー薬"が大っぴらに無料配布されたりすると、製薬会社の新薬を開発する意欲が衰え、ひいては世界のためにならない」と主張する。

 これまでの交渉の中で、今回のサミットでの採択を目指す「実施文書」の中には、「WTO協定は、加盟国の公衆衛生を守る権利を阻害するものであってはならない」との文言が盛り込まれることになった。"コピー薬"が改めて、国際的な認知を得る形となる。

 しかし、発展途上国側には、「これだけでは、治療薬が必要な人に届くという保証にはならず、エイズ禍の抜本的な解決にならない」との不満が残る。

 世界全体でエイズウイルス(HIV)に感染している人は400万人。このうち、92%が発展途上国に集中する。「エイズにかかりながら治療薬を手できないのは悲劇だ」(世界保健機関当局者)という厳しい状況が続いている。