日本経済新聞 2006/10/21 確定
印タタ(Tata Steel)、英蘭コーラス(Corus Group plc
)買収 鉄鋼6位に
インド鉄鋼大手のタタ製鉄と欧州鉄鋼大手の英蘭コーラスは20日、タタ製鉄がコーラスを買収することで合意したと発表した。負債の引き継ぎ分を含め買収額は約51億ポンド(1兆1千億円超)。小が大をのむ格好で、新興国企業が世界市場で存在感を高めている。鉄鋼業界は最大手のミタル・スチール(オランダ)によるアルセロール(ルクセンブルク)買収を機に、世界規模での再編が加速してきた。
コーラスとタタ製鉄を合わせた粗鋼生産量は2200万トンを超し、世界6位になる。コーラスのジム・レング会長は「高成長する市場への浸透を狙う戦略に合致する」と意義を強調した。
タタ製鉄もコーラスの製鉄技術を導入して国際化に弾みをつけたい考え。ラタン・タタ会長は「技術、効率、品ぞろえ、地域的な広がりのいずれでも(コーラスと)補完的な関係にある」と強調した。
買収価格は1株当たり4.55ポンド。コーラスの過去1年の株価の平均値に約26%上乗せした水準に設定した。ただ直近の株価を下回っており、株式市場ではタタ製鉄に対抗して買収を仕掛ける企業が出てくるとの観測が強い。コーラス自身、過去にロシアやブラジルの企業と接触したことを認めており、ロシアのセベルスターリやブラジルのCSNの名前が取りざたされている。
タタ製鉄はインドのタタ財閥グループの中核企業。今回はインド企業による外国企業買収としては最大規模になる。
コーラスは住友金属工業と自動車用鋼材の技術で提携している。住金は「事態の推移を注目している」(広報グループ)としている。
タタ・グループ
多くの有力商人を輩出したペルシャ系ゾロアスター教徒出身のジャムセトジー・タタ氏が、英植民地支配下の1868年にムンバイで創業した貿易会社が前身。ホテルや紅茶プランテーションから鉄鋼、自動車、IT(情報技術)まで進出し、インドを代表する財閥に成長した。持ち株会社タタ・サンズのラタン・タタ会長の下、96社で構成する。2006年3月期のグループ総売上高は約220億ドルと、インドの国内総生産(GDP)の2.9%を占める。
コーラス
1999年に英ブリティッシュ・スチールと蘭ホーゴーバンが合併して誕生。建設や自動車用途に強く、アルミ事業も持つ。生産拠点は欧州が中心で、05年の売上高は92億ポンド(2兆円)。従業員数は4万7千人。
新旧入り乱れ世界再編 ミタルが号砲
新日鉄とポスコ互いに筆頭株主に 次の"舞台"はアジア
世界の鉄鋼市場は新旧勢力が入り乱れ陣取り合戦が本格化してきた。2位の新日本製鉄と3位の韓国ポスコは20日、提携の拡大を正式発表し、互いに筆頭株主に躍り出る。新興勢力ミタルの台頭によって、国境・地域を超えたM&A(企業の合併・買収)時代に突入。今後の焦点は成長が期待されるアジアを舞台にした再編となりそうだ。
新日鉄とポスコは事業でも関係を深める。2007年度からの5年間で合計120万トンの半製品を融通し合い、高炉改修時でも生産量を落とさない体制を整える。新日鉄は生産工程で生じる不純物から鉄分などを回収する設備と技術をポスコに供与する。「これらの果実を早急に得る」(藤原信義副社長)とし、年間100億円以上の経常利益押し上げ効果を見込む。
「ミタルの登場、中国メーカーの成長など世界の鉄鋼業界の環境変化に対応するため」。ポスコは20日、今回の狙いをこうコメントした。日本は新日鉄、韓国ではポスコ。各地の「リーダー」はもともと政府が殖産興業策として育成し、国・
地域ごとにすみ分ける構図が出来上がっていた。
これを一変させたのがミタル・スチールだ。創業者のラクシュミ・ミタル氏はインドの行商人の一家の出身。資金力にモ
ノをいわせて買収を繰り返し、トップに上り詰めた。日本鉄鋼連盟の馬田一会長(JFEスチール社長)は20日の記者会見で「鉄のM&Aはブーム化している」と指摘。業界では「ミタルが次に狙うのは日本・アジアの企業」との見方が多い。
新日鉄、住友金属工業、神戸製鋼所の3社は足元を固めようと株式持ち合い拡大に動いた。ポスコを含めて各社は主戦場のアジアでは競合関係にある。攻防が激しさを増す中、必要ならぱライバルとも組む。新日鉄にとってミタルも北米では鋼板を共同生産するパートナー。当初の合弁相手をミタルが買収した結果だが、両社は新工場建設に向けて協議を始めた。
鉄鋼の有カユーザーである自動車は再編とグローバル展開で先行し、鉄鉱石など資源会社も寡占化で価格交渉力を高め攻勢を強める。「ミタル・ショック」以前に地殻変動の下地はできていた。「世界中の鉄鋼の経営陣があらゆる選択肢を検討している」。これが新日鉄の三村明夫社長の口癖となっている。
日本経済新聞 2007/2/1 事前
タタ製鉄がコーラス買収 鉄鋼再編に資源大手の影 交渉力確保へ規模追求
鉄鋼大手の英蘭コーラスCorusを巡る買収合戦でインドのタタ製鉄 Tata SteelがブラジルのCSN(Companhia Siderúrgica Nacional )に競り勝った。先進国の名門企業を新興諸国「BRICs」の企業同士が奪い合う買収劇として注目されたが、隠れた「主役」がいる。原料の鉄鉱石を支配する資源メジャーだ。タタ・コーラス連合の5倍の生産量を持つ鉄鋼首位のアルセロール・ミタルでも世界シュアは約10%で資源メジャーに対する交渉力は弱い。鉄鋼各社は規模拡大を狙ってM&A(合併・買収)を加速させる公算が大きい。
「鉄鉱石の石油輸出国機構(OPEC)が誕生する」。タタ製鉄の親会社タタ・グループのラタン・タタ会長は最近、米誌で危機感をあらわにした。鉄鉱石の価格形成で資源大手のブラジルのリォドセ、豪英系のBHPビリトン、同リオ・ティントの3社が影響力を強めているためだ。
一方の鉄鋼メーカーは各国政府が殖産興業策として育成した結果、国や地域ごとに乱立し、事業規模は比較的小さい。タタ会長が危惧するのは、資源メジャーが、かつてのOPECのような絶対的な価格決定権を握ることだ。
兆候は出ている。昨年末に決着した2007年の鉄鉱石価格交渉で大手鉄鋼メーカーは9.5%の値上げをのんだ。値上げは5年連続だ。
昨年12月には新日本製鉄と韓国のポスコが鉄鉱石の調達で提携すると発表。すでに資本・業務提携をする両社だが、高騰する調達価格を抑制するために協力を拡大し、資源メジャーに対抗する姿勢を明確にした。ただ両社の世界シェアは13%にすぎない。交渉力は限定される。アルセロール・ミタルも「まだ(規模の拡大は)十分ではない」(ラクシュミ・ミタル会長)と公言する。
国境を超えたM&Aは世界の鉄鋼メーカーに共通する課題。「コーラス買収はインド企業が世界に打って出る最初のステップになる」とラタン・タタ会長は位置づける。買収合戦に敗れたCSNや、ロシアのセベルスターリなどの鉄鋼大手はM&Aの相手探しに躍起になりそう。ライバルの鉄鋼メーカーに加え、巨大な資源メジャーの存在が再編へと突き動かす。
世界の主要鉄鋼メー力ーの粗鋼生産量(2005年) | |||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||
(注)各社の資料などを基に作成 |