Kyoto Fusioneering は核融合発電に必要な中核装置「ジャイロトロン」の開発・販売を手掛ける。世界の核融合スタートアップの多くが早期の発電実証をめざす中、炉の周辺装置を開発することでサプライチェーン(供給網)に欠かせない存在になりつつある。
日本経済新聞社が実施した24年のNEXTユニコーン調査では、京都フュージョの9月末時点の推計企業価値は721億円。23年の調査から企業価値を32%伸ばした。130人超の従業員のうち2割が海外人材で、多様な人材活用を進めている。
最高経営責任者(CEO)を務める小西哲之氏は核融合工学の専門家だ。東京大学や京都大学などで核融合の研究を約45年間続けてきたが、実用化には至っていない原因を「ハードウエアが足りないのではなく、人とお金と技術と組織が足りないのだと気づいた」ことから、19年に京都フュージョニアリングを設立した。
核融合反応を活用した核融合発電は、化石燃料を燃やさず二酸化炭素(CO2)が発生しない「夢のエネルギー」として注目される。米欧を中心にスタートアップなどが相次ぎ参入している。
京都フュージョが開発・販売するジャイロトロンは、核融合反応を促すのに必要な高出力のマイクロ波を発生させる。すでに英国の原子力公社などをはじめ、世界で販売実績がある。炉から熱エネルギーを取り出すブランケットや熱交換器なども開発している。
京都フュージョの製品は主にトカマク型やヘリカル型といった磁力で制御する「磁場閉じ込め方式」の装置での活用が見込まれる。同社は量子科学技術研究開発機構(QST)が日本や米国など多国間で進める国際熱核融合実験炉(ITER)向けに納品しているジャイロトロンの技術をベースにしながら、日本発のジャイロトロンが世界で利用されるよう取り組んでいる。
民間企業の旗振り役として、核融合発電の商業炉の開発にも乗り出す。24年11月に核融合発電の実証に向けた産学連携の組織「FAST」(ファスト)を立ち上げた。早ければ30年代中ごろから発電実証に取り組むとの目標を掲げる。核融合炉の主要部品を手がけるフジクラや、鹿島などと協力して商業炉の設計作業や立地準備を進めるとしている。
設立の背景には、実証への取り組みをいち早く進めなければ世界各国で進む開発競争に後れを取ることへの危機感がある。小西氏は「現在世界のどこにもない、プラズマが燃えてエネルギーが出ている装置を早くつくって動かさなければならない」と語る。
核融合発電をめぐっては、ITERの運転開始が当初の2025年から34年まで遅れる計画が発表されるなど実現のハードルが高い。京都フュージョは推計企業価値が10億ドル(約1500億円)以上のユニコーン企業に脱皮するためにも、研究開発の成果を市場に明確に示していくことが求められる。
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フュージョンエネルギーとは、軽い原子核(重水素や三重水素)が融合して別の原子核(ヘリウム)に変わる際に放出されるエネルギーです。太陽や星を輝かせるのと同じ原理で、「地上の太陽」とも呼ばれます。フュージョンエネルギーは、次世代のエネルギー源として期待されており、次のような特徴があります。カーボンニュートラルである、燃料が豊富である、安全性が高い、 環境保全性が高い。また、燃料1グラムで石油8トンに相当する膨大なエネルギーを得ることができます。フュージョンエネルギーの早期実現に向けて、文部科学省は「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定し、研究開発や人材育成などの取り組みを進めています。ーーー
Fusion エネルギーは、太陽や星を輝かせるエネルギー源です。
原子力(核分裂)とは根本的に異なるもので、大きな圧力と高い温度において軽い原子核同士が結合することにより、膨大なエネルギーが放出されます。
海水から燃料を取り出せるため、事実上無尽蔵の燃料が地上に存在し、発電の過程において温室効果ガスを排出しません。
また、原理的な危険性が少なく、高レベル放射性廃棄物も生成しないことから、エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決する次世代のエネルギーとして、今後数百万年にわたり人類にエネルギーを供給することが期待されています。