2021年6月25日  化学工業日報

商機広がるmRNA医薬 原料・部材や製造、欧米を追う日本 AGC、カネカ、ヤマサなど参入

mRNAの製造はまず、製薬会社などが治療ターゲットとなるたんぱく質の遺伝子情報を設計し、その「設計図」を組み込んだプラスミドDNAを作る。mRNAに遺伝子情報を転写するため『鋳型DNA』とも呼ぶ。これを出発原料「セルバンク」とし、大腸菌などの微生物に導入して培養、数を増やす。培養した微生物を溶菌、精製し、鋳型DNAを分離する。

 製薬会社はプラスミドDNA培養以降の大規模な製造工程を自社だけでなく、外部委託するケースも多い。こうしたプラスミドDNAの製造技術はAGCやカネカなどが保有し、コロナワクチン用の製造受託でも実績をあげる。培養や精製に用いる各種部材は現状、欧米勢のシェアが高い。

 次に分離・精製された鋳型DNAから遺伝子情報を転写するmRNAを合成する。合成酵素は東洋紡やタカラバイオなどが技術を持つ。RNAを構成する核酸物質は米サーモフィッシャーサイエンティフィックなどが強い。

 コロナワクチンでは、mRNAが体内で異物として排除されないようにするための修飾核酸も重要原料になっている。その一つのシュウドウリジンは、ヤマサ醤油が世界に数社しかない供給企業の1社だ。

 mRNAはそのまま体内に投与すると生体内の酵素で分解されてしまうため、LNPに封入して細胞まで届くようにする技術も応用されている。LNPはドイツ勢に加え、富士フイルムや日油などが素材や技術を開発している。

 これらの原材料を使って原薬や製剤を受託製造する医薬品製造支援(CMO)や医薬品開発・製造受託(CDMO)サービスも大きな商機になる。コロナワクチンでmRNA原薬の受託製造を公表しているのは、スイス・ロンザ、オーストリアのビオメイなど限られた企業しかない。だがカネカや独メルク、韓国サムスンなども、設備投資や企業買収などによりCMO事業への本格進出を明らかにした。

 日本でも、創薬ベンチャーのmRNAコロナワクチン製造を支援する形でアクセリードの合弁会社や、mRNAを使ったiPS細胞(人工多能性幹細胞)の分化技術を持つエリクサジェン・サイエンティフィックなどがCDMO事業開始の準備を始めた。

 mRNAの新薬開発は、欧米では盛んだが、日本では第一三共や創薬ベンチャーのナノキャリアなど一部にとどまる。一方で日本政府はmRNA創薬への支援を強化する方針で、アカデミア研究は今後活発になりそうだ。

 現在の医薬品市場の主流である抗体医薬は欧米勢に席巻され、日本勢は限られた商機しか得られていない。次世代医薬のmRNAで勝ち筋を描くためには、創薬研究から、原材料を含めた製造までの一貫体制をオールジャパンで構築することがカギだ。