http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200601/001/002/0201.htm

 

 
日本の全要素生産性上昇率     https://www.jpc-net.jp/jamp/  
 Total Factor Productivity (TFP)                

 

 

 

 

 

 

 

 

http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2013/2013honbun/i1100000.html

平成25年版通商白書世界経済のダイナミズムを取り込んで実現する生産性向上と経済成長

 

第1章 世界各国と比較した我が国の生産性の状況

 我が国経済は、この20年間、年率0.8%(実質ベース)という極めて低い成長を経験してきた。少子高齢化及び人口減少を迎える中で、今後、我が国が中長期的な経済成長を実現していくためには、様々な施策の展開を通じた生産性の向上が不可欠である。

 このような観点から、本章では、代表的な生産性指標である労働生産性1及び全要素生産性2(Total Factor Productivity、以下TFP)に着目し、米国及び欧州(ドイツ、英国、フランス)との比較を中心とした国際比較を行い、世界の中での我が国の生産性の現状を把握・分析する。

 まず第1節では、我が国経済の長期停滞がどのような要素によってもたらされたのかを分析するため、成長会計3と呼ばれる手法を用いて実質GDP成長率を要因分解する。続く第2節では、平均的な国民一人当たりの豊かさの尺度として用いられる一人当たり実質GDP成長率の要因分解も試みる。これら分析により、TFP及び労働生産性上昇の停滞が我が国経済の成長押し下げの要因となったことを示す。第3節では、産業を構成する各部門の労働生産性及びTFPを算出し、日米欧との比較を中心とした国際比較を行う。第4節では、我が国の生産性を各産業の付加価値シェアと合わせて横断的に分析する。最後に、本章の分析で得られた結果を要約する。

労働生産性は、

労働生産性=生産量÷労働投入

として定義され、労働投入一単位当たりどれだけの生産物が産出されるかを表す。この指標が改善されれば、生産活動がより効率的に行われていると解釈できる(参考:RIETIホームページ、http://www.rieti.go.jp/jp/database/JIP2012/ans.html?page=Q1外部リンク(新しいウィンドウが開きます))。

全要素生産性(Total Factor Productivity: TFP)とは、労働だけでなく原材料や資本といった全ての生産要素を考慮した生産性指標であり、

全要素生産性(TFP)=生産量÷全生産要素投入量

として定義される。労働生産性は、生産に投入された生産要素のうち、労働のみに注目した指標となっているが、TFPは労働のみならず、原材料や資本も考慮した生産性指標なので、TFPの改善は物量投入に依存しない生産効率の改善、つまり業務効率の改善や技術革新を示す指標であると考えられる(参考:RIETIホームページ、http://www.rieti.go.jp/jp/database/JIP2012/ans.html?page=Q3外部リンク(新しいウィンドウが開きます))。

成長会計の方法については付注1を参照。なお、以下の成長会計の文脈においてはTFPの上昇率とTFPの(GDP成長率への)寄与は同じ意味で用いる。


http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200601/001/002/0201.htm

 

第1節 実質GDP成長率の要因分解ー成長会計による分析ー

 まず、生産性上昇の停滞が我が国経済の成長にどのような影響をもたらしたのかを確認するため、実質GDP成長率を成長会計の手法を用いて要因分解し、日米欧の主要国との比較を行う。この分析によって、1990年代以降、我が国はTFP上昇率の低下が著しいことが明らかとなる。

 第T-1-1-1図は、成長会計によって日本の実質GDP成長率を、@TFPの寄与、A労働時間の寄与、B労働構成(質)の寄与、C資本の寄与に要因分解している。日本の実質GDP成長率は、第一次石油危機の影響により成長率が低下した1974年を除けば、1980年代後半までは4%前後の安定成長を達成してきた。しかし、いわゆるバブル崩壊によりGDP成長率は大きく下落し、1990年代以降、平均すると1%に満たない低成長が続いている。

第T-1-1-1図 日本の実質GDP成長率の成長会計

 成長率の内訳を見てみると、我が国では1990年以降、2000年代前半を除いて、TFPの上昇による寄与が大きく低下している。また、1990年以降、労働時間の寄与が一貫してマイナスとなっている。このように、TFP上昇率の低下と労働時間の低下が1990年以降の我が国のGDP成長率の主たる下押し要因だったことがわかる。

 他方、労働構成(質)の寄与は労働時間のマイナス寄与を部分的に相殺する規模でプラスの寄与を維持している。資本の寄与については、近年低下傾向にあるものの、一貫してプラスの値となっており、総じて見ればこれらの要因が日本のGDP成長率を下支えしていたことがわかる。

 同様の方法で米国及び欧州主要国の実質GDP成長率を要因分解する(第T-1-1-2図)。まず、米国の実質GDP成長率は、1990年代前半まで我が国を下回っていたが、1990年代の後半以降は一転、我が国を上回るGDP成長率を実現している。特に、1990年以降、米国のTFP上昇率は我が国のそれを一貫して上回っている。労働構成(質)の寄与及び資本の寄与は、我が国と同じく、一貫してプラスの貢献をしている一方、労働時間の寄与は2000年以降、僅かにマイナス寄与に転じている。

第T-1-1-2図 実質GDP成長率の成長会計

 ドイツでは、実質GDP成長率自体はそれほど高くないものの、TFPの上昇による寄与が分析期間中、一貫してプラスで推移している。特に、リーマン・ショック及び欧州債務危機を含む2005年-2009年においても、TFPの上昇がプラスに寄与している点は他国と異なる。労働時間の寄与は1985-89年を除いてマイナスであり、労働構成(質)の寄与は他国と比して相対的に小さい中、資本の増加と共にTFPの上昇によるGDP成長率への貢献度合いが大きい。

 英国については、ドイツと同様に、TFP上昇率が安定的に推移しているほか、労働構成(質)及び労働時間も1995年以降はプラス成長に寄与している。

 最後に、フランスについては、実質GDP成長率がやや低いものの、その要因分解による内訳は英国と似通った構成になっている。

 第T-1-1-3図は、以上で取り上げた主要先進国におけるTFP上昇率の年代別推移を示したものである。90年代の前半以降、我が国のTFP上昇率は2000年-2004年を除いて5か国中、最も低い水準にあり、米国との関係では一貫して低かったことがわかる。

第T-1-1-3図 主要先進国のマクロ経済全体におけるTFP上昇率の年代別推移

第2節 一人当たり実質GDP成長率の要因分解

 前節では、TFP上昇率の低下と労働時間の低下が1990年以降の我が国のGDP成長率の下押し要因であることが示された。以下では、一人当たり実質GDP成長率の要因分解を行う。これにより、労働生産性上昇率の鈍化が1990年代以降、我が国の一人当たり実質GDP成長率を継続的に押し下げた要因であったことを示す。

 日本の一人当たり実質GDP成長率を、@労働生産性(マンアワーベース4)、A一人当たり労働時間、B就業率、C生産年齢人口比率の4つの要因に分解5してみると、まず、労働生産性の寄与は1985-1989年をピークに、総じて減少傾向にあることがわかる。(第T-1-2-1図)一人当たり労働時間については、分析期間中、マイナスに寄与しているが、方向感が定まらない上に、後に見るように他国も同様の傾向にある。一方、生産年齢人口比率は、1990年以降、一貫してマイナス方向に働いており、そのマイナス幅は年代を追うごとに拡大している。この生産年齢人口比率の低下幅は、以下で見る他国と比較しても、類例のない規模である。これらの要因が相まって、1990年以降、日本の一人当たり実質GDP成長率は2%に満たない水準で推移している。

第T-1-2-1図 日本の一人当たり実質GDP成長率の要因分解

 同様の方法で米国及び欧州主要国の一人当たり実質GDP成長率を要因分解する(第T-1-2-2図)。米国について見ると、労働生産性の寄与が1%後半を軸に上昇下降を繰り返して推移している。リーマン・ショックの影響を含む2005-09年では、深刻な景気後退による雇用調整を反映して就業率の変化が-0.9%と大きく落ち込んでおり、一人当たり実質GDP成長率を押し下げる要因として働いている。

第T-1-2-2図 一人当たり実質GDP成長率の要因分解

 ドイツ6(1991年以前は西ドイツ)では、東西ドイツ統一及びリーマン・ショックによる影響を含む1990-94年及び2005-09年を除いて、2%以上の労働生産性上昇による寄与を維持している。一人当たり労働時間は我が国同様、マイナス寄与が継続している。他方、近年(2005-09年)では、就業率の上昇が他の要因によるマイナス寄与を補い、一人当たり実質GDP成長率の押し上げに貢献している。

 英国では、1985-89年及び2005-09年を除いて、2〜3%の労働生産性上昇による寄与を維持している。一方、我が国と同様に一人当たり労働時間が、1990年以降、継続的にマイナス寄与している。

 最後に、フランスでは、1971年以降、労働生産性上昇による寄与が総じて低下傾向を示しているほか、一人当たり労働時間も全期間で大きなマイナス寄与となっている。

 主要先進国と比較しても、労働生産性上昇による寄与の低下傾向が一人当たり実質GDP成長率の下押し要因になったのは日本とフランスのみであることが確認された。

4 マンアワーとは、労働者数×労働時間で計算される総労働投入量である(RIETIホームページ、http://www.rieti.go.jp/jp/database/JIP2012/ans.html?page=Q5外部リンク(新しいウィンドウが開きます))。

5 一人当たり実質GDP成長率の分解方法については付注2を参照。なお、以下本節の文脈では、各要因の上昇率と各要因の寄与を同じ意味で用いる。

6 ドイツについては、1976年以前の一人当たり労働時間データが存在しないため、1971-74年の期間については一人当たり労働時間の変化の寄与を考慮していない。

第3節 労働生産性及びTFPの国際比較

 これまでのマクロ経済全体における分析で見てきたように、1990年代以降の我が国の長期経済停滞の背景には労働生産性及びTFPの上昇率における大きな低下があった。

 本節では、労働生産性及びTFPを産業別に国際比較することにより、より詳細に我が国の生産性上昇の停滞の実態を明らかにする。産業別労働生産性及びTFPの国際比較に当たってはEU KLEMS databaseを利用する7。比較対象国としては米国、ドイツ、英国及びフランスとするが、全産業、製造業、非製造業、金属産業、一般機械産業、電気機器産業及び輸送用機器産業では8、世界市場における近年の韓国企業の台頭を考慮して、韓国を含めている9

 以下ではまず、全産業及び製造業全体の労働生産性とTFP並びに非製造業全体の労働生産性の動向を振り返り、続いて個別産業について順次見ていくこととする。

7 EU KLEMS databaseに関しては、付注3で詳述する。

8 金属、一般機械産業、電気機器及び輸送用機器については巻末補論に掲載。

9 米国については、2008-09年における総労働時間のデータがEU KLEMS2012年版では公表されていないため、2009年版の2007年の総労働時間のデータに、2008-09年における総労働時間指数(2005年=100)の変化率を掛けることで延伸した。また、以下の各国の労働生産性の算出には2012年版を使用しているが、韓国についてはデータが更新されていないため、韓国のみ2009年版を使用している。なお、韓国はデータの制約からTFP水準の対米比は掲載していない。

1.全産業の生産性比較

 第T-1-3-1図は、日本、米国、ドイツ、英国、フランスに韓国を加えた6か国について、@労働生産性水準の対米比、A労働生産性水準、BTFP上昇率、CTFP水準の対米比を、それぞれ全産業ベースで示したものである。

第T-1-3-1図 全産業の労働生産性とTFP

 まず、労働生産性水準の対米比(米国=100)を見ると、我が国は2009年で米国の57.2%の水準と、欧州各国よりも低い水準となっている。我が国は1970年代後半から1990年代半ばにかけて徐々に米国を追い上げていたが、それ以降、米国に対する格差縮小が停滞した。ただし、これは我が国に限った現象ではなく、ドイツやフランスでも格差縮小が停滞している。韓国については、全期間中、最も水準は低いが、徐々に我が国との生産性格差は縮まってきている。

 TFP水準の対米比(米国=100)を見ても、1992年の対米比61.9%をピークに格差縮小が停滞している。欧州各国が対米比80〜90%程度で推移している中、我が国のTFP水準の対米比は2009年で59.8%にとどまっている。

 最後に、各国の年代別のTFP上昇率を見ると、前節でも見たように、我が国のTFP上昇率は1990年以降、2000年代前半を除き、他国に劣後しており、米国との関係では2000年代前半を含め1990年以降一貫して劣後している。韓国のTFP上昇率は、1980年以降、一貫して他の比較国を上回る高い水準を維持している。

2.製造業の生産性比較

(1)全体の生産性

 次に、製造業全体について前項同様に各国の生産性を比較する(第T-1-3-2図)。

第T-1-3-2図 製造業の労働生産性とTFP

 我が国製造業の労働生産性水準の対米比は、2009年で米国の69.9%の水準と、全産業の場合と比べて格差は小さいが、それでもなお3割程度の開きがある。推移を見ると、1970年代後半から1980年代前半にかけて英国の水準を追い越すなど米国製造業との生産性格差が縮まったものの、1990年代後半から、再び格差は拡大している。これは、特に2000年代に入ってから米国製造業の労働生産性水準が急上昇したことが要因である。

 ドイツ製造業の労働生産性は、1990年代後半までは米国とほぼ同水準であったが、その後、趨勢的に格差が拡大する方向で推移しており、2009年の対米比は77.0%となっている。英国、フランスの労働生産性も水準はドイツより低いものの、1990年代後半から対米格差が拡大するなど同様の推移となっている。韓国については、全産業の場合と同様に、全期間中、最も水準は低いが、徐々に我が国や英国との生産性格差は縮まってきている。

 TFP水準の対米比を見ると、我が国は2009年で84.4%と、やはり全産業の場合よりも対米格差は小さいものの、比較国の中で最も低い水準(2005年時点)となっている(韓国についてはデータの制約上、TFP水準の対米比は算出できない)。1990年代初頭以降は欧州各国との差も拡大している10

 製造業に限って見ると全産業に比べて対米格差が縮小するということは、我が国においては非製造業の生産性が低く、全産業の労働生産性及びTFPを下押ししているということを示している。

 TFP上昇率については、全産業の場合と同様に、1990年代以降、一貫して我が国製造業のTFP上昇率は米国製造業のそれを下回っている。

10 EU KLEMSデータベースでは、製造業全体というカテゴリーでの付加価値ベースのTFP水準の対米比のベンチマークの数値は提供されていない。ここでは製造業に含まれる個別産業のグロスアウトプットベースのTFP水準の対米比を加重平均することにより、製造業全体のTFP水準の対米比を計算している。ドイツ、英国、フランスについては、2005年以降、グロスアウトプットベースのTFP上昇率のデータが更新されていない。日本と米国については、それぞれJIPデータベース2012、Bureau of Economic Analysisのデータを用いて延伸した。

(2)主要産業の生産性

 ここでは、製造業の主要産業について分析する。第T-1-3-3図と第T-1-3-4図は、製造業の主要産業の労働生産性水準及びTFP水準について、データが得られる直近の2009年時点の対米比と、ピーク時の対米比との差を一覧にしてまとめたものである。

第T-1-3-3図 製造業の主要産業の労働生産性水準の対米比

第T-1-3-4図 製造業の主要産業のTFP水準の対米比

 一般機械、輸送用機器、化学、金属は、米国を上回るか同程度の生産性を示している。ただし、詳しくは巻末の補論で示すが、我が国が単独で他国を引き離している産業はなく、多くは欧州を含む他国と抜きつ抜かれつの関係にあり、輸送用機器及び金属においては、依然水準としては日本の半分以下ではあるものの、韓国が継続的に追い上げてきている。

 他方、電気機器については、労働生産性で見てもTFPで見てもピーク時には米国を大きく上回る生産性水準を示していたが、その後の対米比の低下は著しく、ピーク時から大幅に下落している。ただし、これも巻末の補論で示しているが、我が国の生産性水準が他国に比して突出して低くなったわけではなく、我が国の生産性水準の対米比の低下は、米国の電気機器における急速な成長による影響が大きい。

3.非製造業全体の生産性比較

(1)全体の生産性

 非製造業全体11について前項同様に各国の労働生産性を対米比で比較してみると、1990年代後半以降、対米格差が拡大傾向にあった製造業とは異なり、非製造業については同期間中も格差を縮小させている。ただし、非製造業はそもそもの欧米との生産性格差が大きく、2009年における対米比水準は53.9%であり、欧州各国にも劣後している(第T-1-3-5図)12

第T-1-3-5図 非製造業の労働生産性

 米国との生産性格差は徐々に縮まる一方、欧州各国との生産性格差はほぼ一定で推移している。

11 非製造業全体の労働生産性は、購買力平価換算した全産業の付加価値から同じく購買力平価換算した製造業全体の付加価値を差し引き、その差を非製造業全体における総労働時間で割って算出した。また、非製造業全体については、データの制約のため、TFP水準の対米比及びTFP上昇率の比較は行っていない。

12 EU KLEMSデータベースでは、非製造業全体のTFP水準の対米比及びTFP上昇率が算出されていないため労働生産性のみ掲載している。

(2)主要産業の生産性

 続いて、非製造業の主要産業について分析する。第T-1-3-6図と第T-1-3-7図は、前述の分析と同様、非製造業の主要産業の労働生産性水準及びTFP水準について、データが得られる直近の2009年時点の対米比と、ピーク時の対米比との差を一覧にしてまとめたものである。

第T-1-3-6図 非製造業の主要産業の労働生産性水準の対米比

第T-1-3-7図 非製造業の主要産業のTFP水準の対米比

 労働生産性水準で見ると建設が対米比8割半ば、TFP水準で見ると金融・保険13が米国と同程度、建設が対米比9割と、米国に拮抗する生産性水準を示す産業も存在するが、卸売・小売、飲食・宿泊等、多くの非製造業はTFPで見て対米比5割程度の水準にある。

 ただし、非製造業においては、サービスの質の差異が十分には反映されていないおそれもあるため、ここでの結果はやや幅を持って見る必要がある。

13 2007年時点では対米比8割を保っており、次節で見るように、2003年から2007年の平均では対米比9割近い水準にある。2009年の水準はリーマン・ショック後の低下の影響を強く受けていると考えられる。

 

http://www.res.otemon.ac.jp/~murakami/lecture-note15.htm

 

経済成長政策

・経済成長を促す基本的要因は、資本、労働、技術進歩の3つです。さらにそれらの要因に影響を及ぼす制度的な基盤や背景についても考察することが必要です。
 まず、慶応義塾大学の島田晴雄教授が『日本再浮上の構想』(東洋経済新報社、1997年、251ページ)のなかで行った経済成長の要因分析を見ることにしましょう。

           実質GDP成長率の寄与度(成長会計)          ()

 

196070

197080

198090

199095

実質GDP成長率

10.2(100)

4.5(100)

4.1(100)

1.7(100)

(寄与度)

労働投入

資本ストック

全要素生産性

1

0.3(2.9)

6.9(67.6)

3.0(29.4)

1

0.2(4.4)

4.0(88.9)

0.3(6.7)

1

0.6(14.6)

2.8(68.3)

0.7(17.1)

1

0.5(-27.8)

1.6(88.9)

0.7(38.9)

            ( )内は構成比。

 

日本の経済成長要因

 日本の実現された実質GDP成長率は、60年代には年平均10.2%であったのに、70年代に4.5%、80年代は4.1%と低下し、90年代前半ではさらに1.7%に低下しています。

 このような低下を生産要素の寄与によってみると、労働投入は60年代には0.3%のプラスであったのが90年代前半には0.5%のマイナスの寄与になっています。また、資本ストックと全要素生産性も、寄与度は4分の1程度に縮小していることがわかります。

 このように成長率の長期的な低下の背景には、資本蓄積が飽和してきたこと、労働力人口の伸びの低下、キャッチアップ過程の終焉による技術進歩のスローダウンというように、3要素のすべてに成長率低下の原因があるといえます。そして、今後も長期的にこの趨勢が強まっていくことが予想され、現状のままではその趨勢が反転することは難しそうです。

 各期間の寄与度を見ると、いずれの期間でも資本ストックの寄与度は7割から9割近くを占めており、経済成長の最も重要な要因であることがわかります。次いで全要素生産性、つまり技術進歩が重要な役割を果たしています。とくに60年代の高度成長期には全体の3割を説明しています。70年代以降は労働の貢献度もやや大きくなっています。90年代には、大分様相が変わってきました。減少する労働力を資本と技術進歩がどうにかカバーする形です。

 以上のように、最近まで労働成長もなくはなかったのですが、資本成長が第1の成長要因であり、技術進歩がそれに次ぐことがわかりました。ところで、資本は企業が投資しなければ増えません。また最新の技術は最新の機械を備え付けてはじめて実用化されるものです。つまり技術進歩の高さも投資があってはじめて実現されるのです。このように考えると、結局のところ日本経済の成長の原動力は投資にあったことがわかります。

 しかし、投資には資金が必要ですから、高投資を可能にしたのは日本の高貯蓄にあるともいえます。一般に日本の貯蓄率は高いといわれていますが、1950年代には家計だけでは13%前後、企業を含む国民全体でも20%程度の水準でした。それが急上昇したのは高度成長期の1960年代       で、70年代に国民貯蓄率31%、家計だけでは21%というピークを記録してからは、その後徐々に低下し、80年代後半には、ヨーロッパ諸国に近い13%前後で家計貯蓄率が推移しています。アメリカの約7%、イギリスの約2.4%と比べれば高水準ですが、韓国や台湾のように家計貯蓄率20%以上の国々もありますから、日本を高貯蓄国ということはもはやできなくなっています。

 

労働要因の変化

 労働要因の貢献には、3つの内容が含まれます。1つは、単純に労働者の数が増えること、2つめは、労働者の数が同じでも労働日数や労働時間が増えること、3つめは労働者の質が上がることです。

 日本の場合、高度成長期には、成長を支える若年労働者の部分が厚い構成になっていたこと、地方から大都市圏に1960年代から70年代まで毎年100万人以上の人が移動していったことが重要です。

 しかし、1970年代に入って、地方から大都市に移動する人口は80万人台に激減しました。逆に大都市から地方に移動する人が増え、1970年代後半は一時的に地方から大都市に移動する数を超えています。「Uターン現象」と呼ばれるものです。安定成長期の80年代には、女性労働力の増加や労働時間の増加によって、高度成長期以上に、経済成長に貢献したものと思われます。

 日本の人口構成は、今後さらに高齢化が進みます。90年代に経済成長のマイナス要因となった日本の労働成長は、将来もっと大きなマイナス要因になるに違いありません。女性労働力の活用や高齢労働者の雇用促進が求められるとともに、投資を維持し、高い技術進歩を保つことが望まれます。

 

内生的技術進歩

 成長会計分析における技術進歩は、資本や労働で説明できない残差の部分であり、経済外で決定される要因(外生的要因)として扱われてきましたし、貯蓄率や人口成長率もまた外生的要因とみなされてきました。その意味で、経済内部に対して政策的な働きかけを行う余地はほとんどないことになります。

しかし、技術進歩は天から降ってくるものではありません。多くの技術進歩は、研究開発(research and development:R&D)投資の成果です。R&D投資は、税制はじめ経済環境を考慮して企業が合理的に決定しているはずですから、経済内で決まる成長要因であり、政策からの影響を受けることになります。たとえば、新しい研究開発投資に対する税制や控除の仕組み、優遇措置の有無などは、投資水準に重要な影響を及ぼすことになります。

また貯蓄率は各国で違いますが、それぞれの国民の合理的な意思決定で決まるものですから、経済外の要因とみることはできません。国民が、自らの生涯所得やその不安定性を考えて、また消費する財の値段や貯蓄したときに得られる利子の大きさを考えて貯蓄額を決めるはずですから、将来の所得水準を左右する所得税や消費税、相続税等の税制やその変化の方向性、金融・資本市場の状況、社会保障制度のあり方なども貯蓄率の動向を左右することになります。したがって、税制や金融システム、社会保障を中心とした政策のあり方によって貯蓄率あるいは投資水準が変化するという意味で、やはり内生的な要因とみることができます。

 人口要因についても、労働者の数だけでなく、労働の質に注目すれば、国民の教育投資が人口成長と同様に経済成長率を引き上げることも明らかです。また、人々が健康であること、労働環境が整っていることなどもまた、教育投資と同じように人間の質、労働者の質を高め、生産性を向上させるはずです。研究開発に必要な投入要素には、コンピューターや実験装置などの物的資本も重要ですが、とりわけ重要な投入要素は人的資本(human capital)でしょう。この人的資本を蓄積する活動は、「教育」にほかなりません。教師もまた、教育に対する重要な投入要素の1つといえるでしょう。

 望ましい教育制度を確立するためには、おそらく長い年月を要するでしょう。だからこそ長期的な経済成長の行方を考える場合に、教育のもつ意味が重要になるのです。

 

経済成長を決定する究極的な要因とは何でしょうか。最近の理論では、技術進歩を生み出すR&Dや人的資本に注目が集まっていますが、そのR&Dを促進する手段や方法、人的資本に対する考え方やそれを蓄積する方法などについては、現在も研究が進められている状況にあり、いまだ解決されてはいません。人々が明るく前向きな態度でいられるのはどのような状況なのか、教育とは何か、そして成長とは何か、私たちが成長の果実である豊かさをある程度獲得した今、あらためて根本的な問い直しを迫られているとはいえないでしょうか。

インフラ政策

経済成長を促進する直接的な手段や方法を見出すことは、簡単ではありません。そこで以下では、成長に結びつくような環境、条件を整えるための政策について説明することにしましょう。すなわち、経済成長にプラスの影響をもたらすような社会的基盤を考えます。これは整える政策をここではインフラ政策と呼びます。インフラとは、英語のinfra-structureの略で、社会的共通資本と訳されます。それは、人々の生活環境に関わる生活基盤と、道路や港、通信や水道、電力など、経済活動を支える産業基盤に大別することができますが、両者は密接な関係にあります。

 

@健康

経済成長の要因である人的資本は、通常は労働者、あるいは労働力・経営者の能力や生産性の問題として捉えられますが、その前提としてそうした人々が健康であることが重要になります。つまり、社会的な観点から健康を維持促進するための体制を整えることが、経済成長政策におけるインフラ政策のひとつといえます。具体的には医療技術の改良・進歩を促進することや、医療保険などの社会保障制度の整備です。労働者の数が多くても、優秀な労働者がいても、病気がちな人ばかりでは困るわけです。このような要因は、発展途上国など、病院や医薬品など医療設備が不十分な国・地域では特に重要です。

A教育・研究

 人的資本の質の問題とは、教育の問題です。優れた人材を育てるための教育システムの問題です。それがどのようなシステムであるかは難しい問題ですが、今の日本の教育システムに多くの問題があることは明らかでしょう。

BIT革命

どのような産業基盤を構築するかは、当然、時代によって異なります。現代の最も重要な産業基盤は、いうまでもなくインターネットを中心とした情報通信技術の整備・充実化にあるといえるでしょう。情報通信に関わる技術進歩は、私たちの生活や経済活動に革命的な変化をもたらすといわれ、IT革命とも呼ばれています。しかし日本の現状は、アメリカなどのIT先進国から1520年遅れているといわれます。その遅れと取り戻すことが、わが国の成長発展にとっても重要な意味を持つことになるでしょう。

C技術政策

 技術進歩を生み出す活動は、具体的には研究開発( R&D : research & development)活動です。R&D活動は、大学、政府研究機関、民間企業、民間研究機関などで行われますが、こうした活動を促進するための政策的な措置として、研究開発費の税額控除、外国技術導入に対する税率の軽減、輸入関税免除、企業研究のための政府の補助金、低利の貸付などがあります。

ルール形成政策

 経済成長は、主として技術進歩を体化した設備投資によってもたらされますが、そのような投資は、多くの場合多額の資金を必要としますし、長期にわたる試行錯誤を経て実現されるようなものも多く、この意味で非常にリスクの大きい投資といえます。このようなリスキーな投資は、巨額の投資多大な努力の成果が、その主体に還元される保障がなければ、一般には実現されにくいでしょう。そのために、研究開発に関わる法的な環境や制度を整備することが、技術進歩の促進、したがって経済成長の促進のために必要不可欠になります。

@所有権

 私的所有権には、使用権、収益権、処分権の3つが含まれます。私的所有権制度の確立は、市場で行われる取引を安全で信頼できるものにすることを含めて、歴史的には市場経済の発展にとってきわめて重要な役割を果たしてきました。

A知的財産権

 知的財産権とは、発明、実用新案(小発明)、意匠(商品のデザイン)、商標、芸術品の著作権、プログラム等に、排他的な独占権を認め、他者がそれを使用する場合には金銭等の代償を支払うことを認める法律です。

B特許法

知的財産権の代表的な例が、特許法です。特許は発明に対して与えられます。

C知的創造促進政策

 発明の内容やその開発主体、権利の帰属問題など、知的創造物に関する問題には、未解決の問題が山積しています。特に最先端の分野は国際的な競争が展開されていますので、国際的な調整も含めて、今後の経済成長にとっても重要な問題といえます。

成長の限界

@経済成長の促進は、物価安定や国際収支均衡などの他の政策目的とトレード・オフの関係になる場合があります。

A急激な成長は、生活環境や自然環境あるいは地球環境にも悪影響を及ぼす場合があります。現代における経済成長の問題は、これらの問題を視野に入れることが不可欠です。

B望ましい経済成長政策が策定されても、政治的な環境変化によって長期的に実現が困難な場合もあります。長期的な政策を首尾一貫して実行していくことは、現代の政治状況では難しいのが現実です。

成長の意味

 経済成長は、端的には1人当りGDPの量的拡大ですが、そのなかで生活や労働、文化や政治など多方面にさまざまな影響を及ぼすことになります。また自然資源の枯渇や地球環境の汚染など、地球規模の問題にも関わってきます。このような多方面への影響やグローバルな視点を考慮したうえで、あらためて成長とは何かを考えてみる必要があります。

 成長は絶対に必要なのでしょうか。もし必要なら、どの程度の成長がいいのでしょうか。成長はマクロ的な現象ですが、なんでも増えればいいのでしょうか。今日の経済社会において、成長の中身を考えずに成長政策を考えることはできないでしょう。中身を考えることは、どのような社会を作るかを考えることです。つまり、成長は、私たちの望む社会を作るための手段の一つと考えるのが、より健全ではないでしょうか。

 そもそも永遠に成長を続けることなど、所詮、不可能ことなのですから。宇宙はいまだに膨張を続けているようですが、それがいつまで続くかはわかっていません。さて、この世に、永遠に成長するものなどあるのでしょうか。誰か、教えてください。