YRPユビキタスネットワーキング研究所(YRP UNL)

 

2004/09/15

坂村教授率いるYRP-UNL、ユビキタス端末の量産開始         
発表資料


YRPユビキタス・ネットワーキング研究所(YRP-YNL)が、携帯端末「ユビキタスコミュニケータ」新モデルの量産を開始。10月から神戸でのユビキタス実証実験に大量導入される。“いつでも、どこでも”の世界が、実現に向けて新たな一歩を踏み出した。

 YRPユビキタス・ネットワーク研究所(YRP-UNL)は9月15日、T-Engineベースの携帯端末「ユビキタスコミュニケータ(UC)」の新モデル(量産型)を開発し、実証実験用に生産を開始すると発表した。

 UCは昨年10月にYRP-UNLが開発した手のひらサイズのユビキタス情報端末。昨年12月に開催された「TRONSHOW 2004」では、ユビキタスコンピューティングが普及した近未来の生活で活躍するUCが紹介されたほか、今年1月に行われたユビキタスID技術による食品トレーサビリティ店舗実証実験では野菜のRFIDタグを読み取ってその“素性”を知るための重要な役割を担っていた。

 だがこれまでのUCは、実験用として1台ずつ手作りに近い状態で作られてきたカスタム品だった。YRP-UNL所長の坂村健・東京大学教授は「今まで5モデルほど試作してきて(今回の)6モデル目でようやくスペックなどが確定し、大量生産ができるようにあった。今回のUCは非常に高性能。機能的にはPC以上のスペックを搭載している。ただしそのために、新型の専用ASICを作らなければいけなかった。約3年かけて、量産可能なLSIの開発を行ってきた」と語る。

 ではなぜ、UCの量産が必要だっただろうか。

 その理由について坂村氏は、“いつでも、どこでも”のユビキタス世界を現実に近づけるためには、もっと多くのユビキタス端末を使って大規模な実証実験を行う必要があったと説明する。

 「10月〜12月にかけて、神戸で国土交通省と協力してUCを使った大規模な実証実験(自律的移動支援プロジェクト)を実施する予定。そのために数千台規模でUCが必要だった。神戸では街中にucodeタグ(RFID)を設置し、ユーザーにさまざまなサービスを提供する。新型UCは、従来モデルより高機能化され動作も安定している」(坂村氏)


新型UCは高性能モバイルマシン
 新型UCのサイズは、76(幅、アンテナ部込みで82)×144(高さ)×15(厚さ)ミリで重さは約196グラム。マルチバンド対応の ucode(RFID)タグリーダーを内蔵し、RFIDの通信方式で普及している2.45GHz帯と13.56MHz帯をサポート。試作レベルでは 900MHz帯の全世界仕様モデルもできているという。

 また、背面に200万画素CCDカメラを装備し、一次元/二次元バーコードにも対応。前面にはテレビ電話などに使える30万画素カメラも備える。

 ワイヤレス通信機能としてBluetooth/無線LAN/赤外線I/Fを装備。Bluetoothを使って、外部RFIDリーダーライターなど周辺機器とワイヤレス接続が行える。また、無線LANを使ったVoIP電話機能も装備した。

 VGA(480×640ピクセル)液晶ディスプレイを装備し、MPEGデコーダ/エンコーダを搭載した専用ASICによってVGAフルサイズ・ 30fpsの高画質な動画再生や、内蔵カメラによるMPEGムービー撮影が行える。高速画像処理が可能な専用チップによって、JPEG画像の拡大/縮小/回転も高速かつスムーズに行える。

 そのほか、SDメモリーカードスロットとmini SDスロットを装備。生体認証に活用できる指紋認証センサーも搭載しているほか、強固な暗号の生成/解読が行える暗号コプロセッサもオプションで用意するなどセキュリティシステムも万全だ。

 「“誰でもできるユビキタス”が今年のテーマ。今年12月7〜9日に開催するTRONSHOW 2005では、数百台規模の新型UCを紹介し、来年には外販も開始する予定。ユビキタスは一時のブームではなく、本当に役に立つもの。世の中ではRFID タグのコストダウンが普及の鍵と言われているが、むしろリーダー/ライターなど小型のユビキタス情報端末が現実的な大きさや価格で量産できるかが普及の重要なキーポイントとなる。量産第一号機の価格は30万円台ぐらい。高いと思うかもしれないが、業務用RFID端末とほとんど変わらない。性能を考えればコストパフォーマンスは非常に高い。量産2代目になったら、デジカメ高級機と同じぐらいの普及価格になるだろう」(坂村氏)


2004/01/08 16:34:00 更新

野菜が自らの“素性”を消費者に語る――T-Engineフォーラムが実証実験

 T-Engineフォーラムが、ユビキタスID技術を用いた食品トレーサビリティの店舗実証実験を開始した。野菜約3万個にRFIDを貼り付けるという大規模な取り組みで、生産/流通/小売のトータルなシステムによる実証実験は世界初。野菜自身が専用端末を介して「生まれ」や「育ち」を消費者に語りかける。

 RFIDタグを活用したユビキタスID技術の大規模な実証実験がスタートする。

 T-Engineフォーラム(代表:坂村健・東京大学教授)は1月8日、食品のトレーサビリティ(追跡可能性、生産・流通履歴)システムの店舗での実証実験を開始すると発表。本日1月8日から2月6日までの約1カ月間、東京都と神奈川県にある京急ストア計3店舗(けいきゅう能見台店/京急ストア平和島店/同久里浜店)でユビキタスID技術を用いたトレーサビリティシステム構築の実証実験を行う。

 実験では野菜(キャベツと大根)約3万個にRFID(無線ICタグ)「ucodeタグ」を貼り付け、実験店舗内にucode読み取り装置やハンディタイプのucodeリーダー「ユビキタスコミュニケータ」を設置。消費者が読み取り装置に商品を近づけることで、生産履歴や流通情報などを端末の画面で確認できるという流れになっている。ユビキタスコミュニケータは任意に選出した消費者代表にも貸与され、購入した野菜の情報を自宅などで閲覧することができる。

 この取り組みは、ユビキタスコンピューティングが「食品の安全」にどれだけ貢献できるかを検証するためにT-Engineフォーラムが昨年から実施している実験の一環で、農林水産省の「平成15年度食品トレーサビリティシステム開発・実証試験」プロジェクトにも選ばれている。ユビキタスID技術を使った生産支援システム上での実証実験は昨年9月から開始されており、そこで生産された大根やキャベツが今回の実験で使われいてる。

 食料品流通分野でのRFID実証実験では、昨年9月にNTTデータ、丸紅、マルエツの3社で行われた例などがあるが、「農作物に対して、生産段階から流通を経て一般小売店まで一貫した情報網を構築し、しかも約3万個の野菜にICタグを貼り付けて一般小売店で販売するという大規模な実証実験は世界でも初めての試み」(坂村氏)という。

野菜自身が「生まれ」や「育ち」を消費者に語りかける
 流通段階でのRFIDの活用事例は増えているが、今回の実験のポイントは単に食品にRFIDを貼り付けるだけでなく、生産者が使う農薬や肥料などにもRFIDを貼り付け、生産/流通/小売のトータルな食品環境をユビキタスコンピューティング化しようという点だ。これにより、消費者に提示するトレース(追跡)情報取得の自動化だけでなく、農薬/肥料散布の管理徹底/簡略化など農家の生産活動も支援するといった狙いがある。


 このように、食品のトレーサビリティを生産から小売まで一貫してしかも大規模にシステム構築できた背景には、RFID技術の発達やユビキタス端末の進化が欠かせない。今回使われたucodeタグにはミューチップをはじめとする極小RFIDチップが使われているほか、TRON技術をベースにしたT-Engine応用製品「ユビキタスコミュニケータ」は生産者による情報入力の簡易化に大きく貢献している。

 生産者は野菜を作る際に農薬を使ったり肥料を土壌の改良をしたりするが、今回のシステムではどの段階でどういった農薬を使ったかといった情報が、ユビキタスコミュニケータを経由してすべてユビキタスIDセンターのサーバに蓄積されている。消費者はその野菜を買う際に、貼り付けられたucodeタグを介して生産履歴などを知ることができるのだ。

 生産者は野菜を作る際に農薬を使ったり肥料を土壌の改良をしたりするが、今回のシステムではどの段階でどういった農薬を使ったかといった情報が、ユビキタスコミュニケータを経由してすべてユビキタスIDセンターのサーバに蓄積されている。消費者はその野菜を買う際に、貼り付けられたucodeタグを介して生産履歴などを知ることができるのだ。


 「固有のユニークIDを割り振ることができるucodeによって、野菜1品1品に固有の情報を付加できる。これによって、どこの誰が作り、どんな農薬や肥料を使ったかを全部見ることができるのだ。自信を持って生産していないとこういう試みはできない。BSE(牛海綿状脳症/狂牛病)問題などで食品のトレーサビリティが注目されているが、このシステムを構築すれば、すべての生産・流通情報が“ガラス張り”になる」(坂村氏)

 今回の試みに対して、販売店や生産者はどのように考えているのだろうか。

 実証実験の場を提供するけいきゅう能見台店の河野章店長は「昨年末の狂牛病騒動以来、消費者も不安の中で買い物をしている状況。今回のシステムによる情報開示などによって、ユーザーが安心して買い物ができるようになると確信している」と期待を寄せる。

 また昨年9月から実験に協力し、今回のシステムを用いて大根を作った生産者の嘉山敬夫氏は「PCなどは苦手だったが(ユビキタスコミュニケータは)TVのリモコンのように簡単に使えた。なるべく農薬は少なくして有機肥料を使うなどこだわりの野菜を作っているので、そういった情報が消費者に届くことは大歓迎。農薬使用の管理なども自動で行ってくれるため、農作業負担の軽減とともに、誤って農薬をやり過ぎるといったことも解消される」と、今回の食品トレーサビリティシステムを高く評価する。

 「今回の実証実験は、今後のユビキタス社会にとってたいへん重要なものとなる。店舗内すべての商品にICタグを付けた場合にどれだけのコストや手間がかかるや技術面の課題など、実際の現場で発生する問題などを実験を通じて検証していく。また、提供される情報は何月何日にどんな農薬を使ったといった細かなものまで用意されているのだが、消費者がどこまでの情報を知りたがっているかも調べてみたい」(坂村氏)