いよいよか、中国金融危機 「爆弾」シャドーバンキング 地方の巨額投資、不良債権化

毎日新聞 2013年07月01日 東京夕刊

 ◇日米にも痛手、人民銀行綱渡り

 領土問題や歴史認識で鋭く対立しながらも、経済の一点に限っては日本の重要なパートナーである中国。その隣国に今、「金融危機」が迫っている。開発ラッシュを支えてきた「シャドーバンキング(影の銀行)」という独特のシステムが壊れかかっているというのだ。

別情報

Shadow Banking

シャドーバンキングは、「影の銀行」とも呼ばれ、通常の銀行ではなく、投資銀行(証券会社)やヘッジファンド、証券化のための特殊な運用会社などの金融業態の総称をいう。また、シャドーバンキングを活用した仕組みを「シャドーバンキングシステム」といい、本用語は、PIMCOのマネージング・ディレクターだったPaul. McCulleyの造語で、最初に彼がジャクソンホールでの講演で使用し、後に彼のレポートである「Global Central Bank Focus」の中でも紹介され、2007年頃から広まるようになった。

一般にシャドーバンキングは、免許制などで金融当局から厳しく監督される通常の銀行と比べて規制が緩く、金融当局も実態をよく把握しきれていない。また、その仕組みとして、多額の資金を集めてレバレッジをかけられること、情報開示が不足していること、金融当局などが規制・介入できないことなどが問題点として挙げられる。実際にサブプライム問題が表面化する前に、欧米の大手金融機関が連結決算の対象から外せるペーパーカンパニーを相次ぎ設立し、シャドーバンキングを活用して多額の資金を調達・運用し、これが世界的な金融危機の一因になったとされる。

なお、世界的な金融危機直後のG20首脳会議で、金融危機再発防止策としてシャドーバンキング規制の考えが打ち出され(一部は実施)、またその後も欧州債務危機など深刻な事態が起る度に議題に上がったが、過度な規制に対しては米金融業界やヘッジファンド業界などからの抵抗が強く、今後も紆余曲折が予想される。

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シャドーバンキングは、@住宅関連のモーゲージブローカー、Aファイナンス会社、B資産担保証券の発行者、C資産担保コマーシャルペーパーの発行者、D銀行の連結対象の投資子会社、Eマネー・マーケット・ファンド、Fノンバンク、Gヘッジファンド、Hデリバティブ商品会社、I銀行持株会社等で構成される。

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例えば、国営企業などは、幾らでも銀行からお金を借りることができるが、現在は経済状況からしてそれほど資金需要もないために、多額の余裕資金を抱えているので、できるだけその資金を有利に運用したいと考え、銀行をダミーとして利用し、高い利回りでお金を運用することを考える。そしてまた、規制金利のために極めて安い預金金利しか受け取ることのできない個人が、高金利を謳い文句にする理財商品を購入し、そうして調達された資金が地方政府に回るのです。

 

 「私の資産は大丈夫だろうか……」。6月中旬、上海に出張した公益財団法人・国際通貨研究所の植田賢司上席研究員は、中国の知人らがそろって不安を口にするのを聞き「中国危機」がいよいよ近づいているのを感じた。

 「中国の富裕層の多くは財テクの一環として、投資顧問会社や信託会社などが発行する高利回りの証券を保有しています。これらは『理財商品』と呼ばれ、金利が10%を超えるものもある。ところが、その一部は資金繰りの悪化で満期を迎えても償還が難しいと懸念されているのです」

 中国政府は銀行に厳しい規制を課しているが、信託会社や投資顧問会社などには緩やかだ。理財商品のように銀行を経由しない金融取引は「シャドーバンキング」と呼ばれる。ある外資系銀行の調べによると、その経済規模は2012年で22.8兆元(約360兆円)、国内総生産(GDP)比で44%に達している。それだけにシャドーバンキングの破綻は中国経済に甚大な影響を及ぼしかねないのだ。

 事実、植田さんが帰国して間もない24日の上海総合株価指数は4年ぶりの大幅下落、年初来安値を更新した。銀行が資金を融通し合う金融市場で短期金利が急騰し、資金繰りへの不安が金融株を中心に反映されたためだが、「その背景にはシャドーバンキングが抱える不良債権と、その原因となった地方政府の財政悪化への不安があります」と植田さんは解説する。

 シャドーバンキングを窮地に追い込んだという「地方政府の財政悪化」とは、どういうことなのか。

 ことは08年のリーマン・ショックにさかのぼる。前年に経済成長率14.2%とピークを記録した中国も、さすがにこのときは減速を余儀なくされた。危機感を抱いた政府は4兆元(約64兆円)の大規模な経済対策を打つ。うち8割はインフラ関連投資に振り向けられ、中央の「お墨付き」を得た地方政府は競い合うようにマンション建設などを伴う大規模再開発や道路整備に力を入れ始めた。

 「その資金調達の方法が問題だったのです」。そう指摘するのは丸紅経済研究所シニア・エコノミストの鈴木貴元さんだ。「4兆元といっても地方に回ってくる資金はわずかなもの。あとは自前で調達するしかない。そこで、資金調達とデベロッパーの機能を兼ね備えた『融資平台』と呼ばれる開発会社を相次いで設立した。融資平台は『城投債(じょうとうさい)』という債券を発行し、運用先を探していたシャドーバンキングの巨額マネーがそこに流れ込んでいったのです」。10年末には融資平台の数は6576社を数え、それとともにシャドーバンキングの規模も急速に膨れ上がっていった。

 ところが、である。

 「確かに4兆元の経済対策で一時的には経済成長率2桁まで持ち直しましたが、長続きはしなかった。地方政府が整備した巨大なマンション群は供給過剰で大量に売れ残ってしまった。もはや投資の回収どころではなくなった。そんな現象が全国各地で起きているのです」(鈴木さん)。当局の公表数字によると2010年末の地方政府の総債務は10.7兆元(約170兆円)、うち46.4%が融資平台の分だ。融資平台が行き詰まれば、そこに多額の貸し付けをしている地方商業銀行(日本の地銀)の経営が揺らぐ。巨額のマネーをつぎ込んでいるシャドーバンキングも連鎖的に行き詰まる。高利回りの理財商品は紙くずと化しかねない。

                          Shadow Banking               (地方政府→融資平台)
        富裕層 →        理財商品   ーーーー →      城投債 ---- → 不動産投資(バブル)

    理財商品残高は中国当局公表で2013/3/末で8兆2000億元(130兆円、GDP16%)
       企業が又貸しするケースなどを加え、36兆元(7割)(JP Morgan)

 「理財商品の不良債権化は中国版のサブプライムローン問題。というのも、理財商品の運用方法が複雑で全体の規模やリスクをつかみきれないからです。だから怖い」。植田さんはこう危惧する。

 今、中国では「7月危機」説がささやかれている。欧州系の格付け会社フィッチ・レーティングスは「6月下旬に1兆5000億元(約25兆円)の理財商品が償還満期を迎える」と試算しており、もし償還が滞れば、それをきっかけに金融危機に突入しかねない。そのフィッチは4月、人民元建て長期国債(中国国債)の格付けを「AAマイナス」から「Aプラス」に1段階下げている。中国の国債格下げは実に14年ぶりだ。

 危機が現実になれば何が起こるのか。中国を最大貿易相手国とする日本の景気は急速に悪化。進出企業は痛手を負う。中国が大量購入している米国債を売ることも考えられる。そのときドルは暴落し、アメリカ経済は破綻する。

 金利の急騰を冷やすため、いつもなら市場に資金を大量供給する中国人民銀行(中央銀行)が、上海株下落の際はわずかな供給にとどめたことも関係者の不安を増幅した。なぜ“静観”したのか。「今回の不良債権問題はシャドーバンキングを通じたマネーゲームの結果。人民銀行の姿勢は『安易に救済はしない』との警告であり、この際、ウミを出し切って金融システムを健全化させたいとの決意の表れだろう」と植田さん。鈴木さんも同様の見方で、「危機を防ぎながら金融システムの改革を進めるという綱渡りの状態が続く」と見る。

 中国の成長が鈍化したのは構造的な問題や中央政府の姿勢変化が影響しているとの指摘がある。「そもそもGDPの規模が大きくなると率で算出する成長率は落ちてくるうえ、一人っ子政策の弊害で少子高齢化が進み、人口増の恩恵で経済が拡大する『人口ボーナス』の時期が終わりつつある。政府もいたずらに高成長を求めず、環境や省エネを考えた安定成長の方向へとかじを切ったのです」。そう解説するのはジェトロ中国北アジア課長の真家陽一さんだ。

 だが思い通りにはならないのが金融という世界の恐ろしさ。「安定成長への移行に失敗し、成長率が5%を切る展開になったら、不良債権も膨れ上がり問題を封じ込められなくなる」と話す専門家もいる。

 世界経済は大きな爆弾を抱えている。

 

中国 人民銀行の金利規制
     1年物定期預金 上限 3.3%    2012/上まではCPIを下回るマイナス金利
     貸出金利 下限 4.2%     

江蘇省常州市のマンション天誉都市花園に投資する理財商品は年11%の予想利回り

 

 

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2013/06/28

 中国経済がきな臭くなってきているようです。

 ただ、今までも中国のバブルが弾けると何度も言われてきたことであり‥しかし、今回は、短期金利が急上昇するなど、従来とは若干違う雰囲気を醸し出しているのです。

 麻生財務相が本日、次のように述べています。

 「オーバーナイトコールが7%だとか、一時期15%まで上がった。そういったのは不安材料として、えらいことになっているんだと思う」「どういう影響が出てくるかは今何とも言えないが、結構しんどい状況というのが、我々の見えないところで起きているということは十分に考えられる」

 財務大臣兼金融担当大臣がそこまで言うのですから、ただ事でない可能性があるのです。

 

そして、そのシャドーバンキングが短期金利の上昇とどのような関係があるのか?

 急上昇している短期金利というのは、SHIBOR(上海銀行間取引金利)のことであるのです。つまり、銀行同士が互いに資金を融通しあう短期金融市場において金利が上昇しているのです。

 では、何故金利が上がるのか? 余裕資金が少なくなったためか?

 そうではないのです。資金を貸して欲しいと希望する銀行の信用度に疑問符がつくようになったからなのです。あの銀行にお金を貸して大丈夫なのか、という不安が大きくなっている、と。銀行が互いに疑心暗鬼になっているのです。