岸田首相演説、日本に「化石賞」 実用化のメド立たず

 国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、日本は環境NGOから不名誉な「化石賞」をもらってしまった。授賞理由は、首脳級会合「世界リーダーズサミット」での岸田文雄首相の演説だ。アジアでの「既存の火力発電のゼロエミッション(二酸化炭素排出ゼロ、ゼロエミ)化」を高らかに掲げた岸田氏だが、このフレーズに批判が続出。既存火力のゼロエミ化は、気候変動対策の切り札にはならないのだろうか。

 「日本は、アジアを中心に再生エネを最大限導入しながら、クリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を作り上げます」。岸田氏は2日の首脳級会合で日本がアジアをけん引する姿勢をアピール。「アジアにおける再生エネ導入は、太陽光が主体となることが多く、周波数の安定管理のため、既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要です」と力説した。

 ところが、世界の環境NGOでつくる「気候行動ネットワーク(CAN)」はこの演説を受け、気候変動対策に後ろ向きな国に贈る「化石賞」に日本を選出した。

 この発言の何が問題視されたのか。

 注目されたのは「既存の火力発電のゼロエミ化」という部分だ。二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力を含めた既存の火力発電設備を使い続け、それでもCO2を全く出さないようにすることを意味する。具体的な方法として、岸田氏は「化石火力を、アンモニア、水素などのゼロエミ火力に転換する」と説明した。確かにアンモニアや水素はそれだけなら燃焼時にCO2は出ない。

30年度でも「混焼」

 日本の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「第6次エネルギー基本計画」(10月閣議決定)では、2050年には水素・アンモニア発電を主要な電源とすると明記。実現に向け、30年度までに石炭火力で20%アンモニア混焼、ガス火力で30%混焼を導入・普及させることを掲げ、技術開発を進めるとしている。ただ、それでも30年度の電源構成に占める水素・アンモニア発電の割合は1%程度にすぎない。また、エネルギー基本計画では、水素やアンモニアだけを燃料として使うこと(専焼化)について、現時点では「検討されている」との表現にとどまっている。

 国際シンクタンク「E3G」のオールデン・メイヤー上級参与は「日本が30年になっても石炭火力に依存しすぎているのではないかという懸念がある。もう一つの問題は水素やアンモニアを強く支持していること。(1次エネルギーではない)水素は他のエネルギーを使って作らなければならないものだ」と指摘する。

 しかも、計画では30年度時点で「混焼」とあるので、化石燃料も使い続けることを意味する。環境NGO「気候ネットワーク」が10月に公表した報告書によると、石炭火力1基にアンモニアを20%混ぜて燃やしたとしても、アンモニアの製造過程で排出されるCO2を考慮すると、年間のCO2排出削減量は4%に過ぎないという。

「東南アジアは水力」

 さらに日本の場合、水素とアンモニアは海外の化石燃料から製造されることが前提となっており、報告書は「国内の見かけ上の排出は減ることはあっても、実質的なCO2排出削減はほとんどもたらさない」と結論付けている。また報告書ではゼロエミ実用化のめどは立っておらず、「実態は石炭・LNG(液化天然ガス)火力発電の延命策」と断じる。

 アジア各国は本当に水素やアンモニアを使って火力発電を使い続けることを必要としているのだろうか。

 岸田氏の演説に関し、「事実誤認があるのではないか」と指摘するのは、民間シンクタンク「自然エネルギー財団」の大野輝之常務理事だ。

 岸田氏は、ゼロエミ火力が必要な理由を「アジアで太陽光発電が主体となることが多く、周波数の安定管理のため」と説明した。一方、国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、東南アジアにおける40年の電源構成は再生可能エネルギーが73%を占めると予測。内訳は、水力24%▽太陽光19%▽風力15%▽地熱9%――など。太陽光や風力の比率も高いが、安定的に発電できる水力が最も多い。

 東南アジアは現在、石炭火力の依存度が高く、日本が特にゼロエミ火力で貢献をもくろむ地域だ。大野氏は「水資源の豊富な東南アジアでは再生エネの中で水力発電が最も今後伸びることが見込まれる。岸田首相が言うような『太陽光発電が主体』となる状況にはない。アジアの脱炭素に向けた将来のエネルギー事情を正しく理解しておらず、説得力に欠ける」と話す。

 そもそも、議長国・英国はCOP26の最重要課題に「石炭火力の廃止」を明確に掲げていた。COP26に参加していた世界自然保護基金(WWF)ジャパンの小西雅子・専門ディレクターは岸田氏の演説について、「石炭火力に依存しているベトナムやタイも50年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)を目指すと宣言するなど、アジアの国々も脱炭素に向かい始める中で、『日本は30年を超えて火力発電を進めたいんだ』と悪いイメージが付いてしまった」と残念がる。