2017/8/21 日経
上がらぬ物価 「家賃」で変わる?
持ち家分の算出、経年劣化を考慮
日銀・総務省でズレ調整へ
景気が回復しているというのに、日銀が掲げる2%の物価上昇は遠い。
足を引っ張る要因のひとつに消費者物価指数(CPI)の住居費の算出方法があるのではないかー。2015年から活発になった議論を受け、総務省がこのほど試算を出した。年度内にも出す研究結果次第では、物価の姿が変わる可能性もある。
日銀は昨年7月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、日本の物価が欧米に比べて低い要因の1つとして家賃の低さに言及した。
実質的値上がり
米国では家賃の品質の変化を物価指数に織り込む品質調整をしている。
例えば家が古びるのに家賃が新築のときと同じであれば、実質的な値上がりだとみなす。日本でもこの品質調整をすれば、家賃は現在に比べて高くなると主張した。
家賃がなぜ物価目標に大きく影響するのか。家賃はCPIの2割を占める「帰属家賃」にも適用されるからだ。帰属家賃とは、持ち家に対して家賃を支払っていることにしようという統計上の考え方のこと。賃貸住宅の家賃はCPIの構成要素に入っているが、家を購入するための頭金や住宅ローンの支出などは含まない。そこで「帰属家賃」を算出し、CPIに含めている。
米国では、同じ借家を継続的に調べるため、家の経年劣化の影響が大きくあらわれる。家賃は品質調整がなされることでCPIを押し上げる要因となっている。しかし日本では米国とは家賃の調査方法が異なり、品質調整をしていない。日本の帰属家賃のインフレ率はこれまで景気に関係なく、前年同月を下回り、物価の下押し要因になってきた。
日銀はここに注目。2015年の政府の統計委員会で日銀は日本の住宅の老朽化を示し「住宅の品質の変化を考慮できていないために物価に下押し圧力がかかっている」と指摘した。実態に近づけるために劣化を考慮し、家賃に品質調整をすれば、物価全体を0.1−0.2%
押し上げる。日銀はそんな風にいう。
精度向上めざす
議論を受け、総務省は過去30年間(5年おき7時点)の住宅・土地統計調査の約480万の借家世帯のデータを使い、家の経年劣化が家賃にどう影響するかを今年、まとめた。1983年から2013年にかけて新築の家賃が平均で年率
1.1%上昇したのに対し、既存物件は同0.7% にとどまった。試算ではこの差0.4%が経年劣化分となる。
日本の現在の家賃のCPIはこの新築と既存物件の指数の間に位置している。青山学院大学の美添泰人教授は新築の借家の品質が向上していることも考慮すると「劣化率は0.4%よりも小さくなる可能性がある」と指摘する。ただ、これはあくまでも試算段階。総務省は、今後は日銀の方法でも改めて試算するほか専門家の意見を取り入れ、実態を映す統計を探るとしている。
日銀は2013年に、2年で物価を2%にする目標を掲げた。2015年に向けて大規模緩和を進めたが目標達成できなくなった時期と、家賃が焦点に浮上したころは重なる。
ただ、日銀が言うように、家賃が実態とずれているなら、金融政策も判断を誤りかねない。統計の精度を向上させたいという点は日銀も総務省も一致している。政府の統計委員会はこの問題について「今年度の可能な限り早期に研究結果を公表し、結論を出す」としている。